⚡ 30秒でわかる答え
- Green Planetは植物油を原料に微生物が細胞内に作るバイオポリマーで、海水中でも30℃・6か月で90%以上が二酸化炭素と水に生分解される。
- 1990年代からカネカが研究を続け、世界で初めて工業生産に成功した素材。
- スターバックスのストローや空港・コンビニのカトラリーなど、すでに実用化が進んでいる。
- 海洋プラスチック問題そのものを止める素材ではなく、ごみを減らす選択肢の一つとして位置づけられている。
レジ袋やストローが波にさらわれ、海の生き物を傷つける——そんな海洋プラスチック問題に、「海の中で溶けてなくなるプラスチック」という発想で挑む素材がある。カネカが開発した生分解性バイオポリマー「Green Planet」(化学名PHBH)だ。
石油ではなく植物油を原料に、微生物の力でつくられるこの素材は、土の中だけでなく海水の中でも分解が進むことが第三者機関の認証で確認されている。すでにスターバックスのストローやコンビニのカトラリーなど、身近な製品に採用が広がっている。
この記事では、Green Planetがどのような仕組みでできているのか、どこまで実用化が進んでいるのか、そして海洋プラスチック問題の解決にどこまで貢献できるのかを、公開情報の数値とともに整理する。
この記事で学べること
- Green Planet(PHBH)とは何で、なぜ「海で溶けるプラスチック」と呼ばれるのか
- 植物油から微生物が体内にポリマーを蓄える製造の仕組み
- OK Biodegradable MARINE認証など、海水生分解性が証明される手順
- PLAなど他の生分解性プラスチックとの違い
- スターバックスやセブン-イレブンなど実用化されている製品事例
- 石油由来プラスチックとの違いと、海洋プラ問題解決への期待と限界
海洋プラスチック問題とバイオプラスチックへの期待
世界の海には毎年800万トン以上のプラスチックごみが流れ込んでいるとされ、波や紫外線によって砕けた破片はマイクロプラスチックとして海洋生物の体内に取り込まれ、生態系全体に影響を及ぼす懸念が指摘されている。ウミガメがレジ袋をクラゲと間違えて飲み込んだり、海鳥の体内から大量のプラスチック片が見つかったりする事例は、こうした海洋プラスチックごみが実際の生態系に与える影響を象徴する出来事として繰り返し報告されてきた。この問題を受け、日本政府は2019年のG20大阪サミットで「2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにする」という大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを提唱し、環境省・経済産業省・農林水産省・文部科学省の4省庁が「バイオプラスチック導入ロードマップ」を策定した。
このロードマップでは、2030年までにバイオマスプラスチックを最大限(約200万トン)導入することが目標として掲げられ、紙や海洋生分解性プラスチックなど「海で分解される素材」の開発・利用を進める方針が示されている。カネカのGreen Planetは、まさにこの「海で分解される素材」を工業規模で実用化した数少ない事例の一つだ。
施策は「利用促進」「消費者への訴求など」「研究開発など」「フォローアップなど」の4つの柱に整理されており、国としても新素材の開発だけでなく、消費者がその価値を理解し選択できるようにする普及啓発にも力を入れている。Green Planetのような素材がニュースやメディアで取り上げられる背景には、こうした国の政策的な後押しもある。
日本では2022年4月に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラ新法)」が施行され、事業者にプラスチック使用製品の設計から廃棄までを見据えた資源循環への取り組みが求められるようになった。バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックの活用は、この法律が想定する対応策の一つとしても位置づけられており、Green Planetのような素材の開発は法制度の後押しとも足並みをそろえて進んできた。
生分解性プラスチックとバイオマスプラスチックの違い
混同されやすいが、「バイオマスプラスチック」は植物などの再生可能資源を原料とすることを指し、必ずしも自然界で分解されるとは限らない。一方「生分解性プラスチック」は、微生物の働きによって最終的に二酸化炭素と水に分解される性質を指す。Green Planetは植物油を原料としながら海水中でも生分解するため、この両方の性質を兼ね備えた素材といえる。
たとえば同じ「バイオマス由来」と表示されていても、原料の一部だけを植物由来に置き換えた素材や、燃やしてもカーボンニュートラルとみなされるだけで自然分解はしない素材も市場には存在する。ラベルだけを見て「環境に良い」と判断せず、原料と分解性のどちらの性質を指しているのかを区別して理解することが、消費者にとっても重要になる。
実際、日本国内で流通するバイオマスプラスチックの多くは、植物由来原料を数パーセント〜数十パーセント配合した混合素材であり、必ずしも100%バイオマス由来とは限らない。その点でGreen Planetが「100%バイオマス由来」であることを明示している点は、素材としての立ち位置を分かりやすくする特徴の一つになっている。
大阪ブルー・オーシャン・ビジョン
2019年のG20大阪サミットで日本が提唱した国際的な枠組み。2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指し、参加国・地域で共有されている。
なぜ企業がこの分野に力を入れるのか
プラスチック資源循環戦略や大阪ブルー・オーシャン・ビジョンといった政策的な枠組みが整うことで、企業にとっても代替素材の開発・採用は単なる社会貢献活動ではなく、事業の持続可能性そのものに関わる経営課題として位置づけられるようになった。国際的な取引先やブランドイメージを重視する消費者から、使い捨てプラスチックの使用状況について説明を求められる場面が増えていることも、化学メーカーによる新素材開発を後押しする要因の一つになっている。
Green Planet(PHBH)とはどんな素材か
Green Planetは、カネカが開発した生分解性バイオポリマーの製品名で、化学名はPHBH(3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体)という。植物油を原料に、微生物が自らの細胞内にエネルギー源として蓄えるポリマーを取り出してつくられる、100%バイオマス由来の素材だ。
PHBHはPHAという素材ファミリーの一種
PHBHは、微生物が体内につくる「微生物産生ポリエステル」の総称であるPHA(ポリヒドロキシアルカン酸)というグループに属する。PHAにはPHB(ポリ3-ヒドロキシ酪酸)やPHV(ポリヒドロキシ吉草酸)など複数の種類があり、PHBHはその中でも柔軟性と加工性のバランスに優れた共重合体として位置づけられている。
PHAの中でも単一成分のPHB(ポリ3-ヒドロキシ酪酸)は硬く脆いという弱点があり、そのままでは食品容器やストローのような日用品への加工に向かない。カネカは3-ヒドロキシヘキサン酸というもう一つの成分を組み合わせた共重合体(PHBH)にすることで、柔軟性を持たせて実用的な強度と加工性を両立させた点に技術的な独自性がある。
石油由来プラスチック・PLAとの違い
レジ袋やペットボトルに使われる従来の石油由来プラスチックは、自然界で分解されるまでに数百年かかるとされ、細かく砕けてマイクロプラスチックとなり海洋生態系に長期間残留する。同じ植物由来のバイオプラスチックとして知られるPLA(ポリ乳酸)は、堆肥化施設のような高温・高湿度のコンポスト環境では分解が進みやすい一方、自然の土壌や海水中では分解が進みにくいという課題を持つ。これに対しGreen Planet(PHBH)は、土壌中だけでなく海水中でも微生物によって分解される点が大きな違いだ。
これは「コンポスト施設に持ち込めば分解する素材」と「自然環境に流出しても分解が進む素材」という、生分解性プラスチックの中でも大きく性質の異なる2つのタイプがあることを意味する。ストローやカトラリーのように屋外や海辺で使われ、意図せず自然環境に流出するリスクが高い製品には、後者の海洋生分解性を備えた素材の方が実効性の高い対策になると考えられている。
| 素材 | 主な原料 | 分解しやすい環境 |
|---|---|---|
| 石油由来プラスチック(PE・PPなど) | 石油 | 分解に数百年規模。自然環境ではほぼ分解しない |
| PLA(ポリ乳酸) | トウモロコシ等のでんぷん | 高温・高湿度のコンポスト施設が中心 |
| Green Planet(PHBH) | 植物油 | 土壌・淡水に加え海水中でも分解 |
PHBHという名前の由来
- P=ポリ(Poly)
- HB=3-ヒドロキシ酪酸(3-Hydroxybutyrate)
- H=3-ヒドロキシヘキサン酸(3-Hydroxyhexanoate)の共重合体
世界の化学メーカーが注目する分野
PHA系の海洋生分解性素材は、カネカだけでなく世界各地の化学メーカーが研究開発に取り組む分野でもある。米国やタイ、中国などでもPHA系素材の量産化に向けた投資が進められており、海洋生分解性という付加価値をどのメーカーが早く・安く実用化できるかが、今後のバイオプラスチック市場における競争軸の一つになりつつある。カネカが1990年代から研究を続け世界に先駆けて工業生産を実現したことは、この分野における技術的な優位性を示す事例といえる。
植物油と微生物からプラスチックができる仕組み
Green Planetの製造は、大きく分けて「発酵」「抽出」「加工」の3段階で進む。まず植物油を栄養源として微生物を培養タンクで大量に培養すると、微生物は自らの細胞内にポリマー(PHBH)を蓄積していく。これは微生物がエネルギーを貯蔵する自然な仕組みを利用したもので、石油から化学合成する従来のプラスチックとは製造原理そのものが異なる。

世界初の工業生産に至るまで
カネカは1990年代からPHBHの研究を開始し、高砂工業所(兵庫県高砂市)の土壌から採取した微生物をもとに開発を進めた。当初は生産効率が低く実用化には長い年月を要したが、独自の「ポリマー技術」と「バイオテクノロジー」を組み合わせることで、世界で初めてPHBHの工業生産に成功した。この過程では、微生物の生産性を高める品種改良や、大量培養に適した発酵条件の最適化など、化学メーカーとバイオテクノロジー双方の知見を融合させる地道な研究開発が積み重ねられている。
当時、海洋マイクロプラスチックが世界的な社会問題として広く認知されるようになるのは2010年代後半のことであり、カネカがPHBHの研究に着手した1990年代の時点では、まだ海洋プラスチック問題は今日ほど注目されていなかった。「石油資源に依存しない素材」という長期的な視点から始まった基礎研究が、結果として数十年後の海洋環境問題への解決策の一つにつながった点は、この素材の開発史における特徴的な部分といえる。
微生物の育種と発酵技術
PHBHを効率よく生産するには、ポリマーを多く体内に蓄積する性質を持つ微生物株を選び出し、さらに培養条件を最適化する必要がある。カネカは自社で発見した微生物を長期にわたり改良し、原料である植物油を効率的に取り込んでポリマーに変換する能力を高めてきた。この微生物の育種と、大型タンクでの安定した発酵プロセスの確立が、研究室レベルの成果を工業生産に結びつける鍵となった。
発酵後の工程では、微生物の細胞を壊してポリマーだけを取り出す「抽出」と、取り出したポリマーを溶融・成形しやすい形に加工する「コンパウンド化」という工程が続く。抽出の段階では、できるだけ純度の高いポリマーを、環境負荷の小さい方法で取り出すことが求められ、この抽出技術のノウハウもカネカが長年培ってきた強みの一つとされる。
食品接触材料としての承認と生産拡大
2019年にはEU(欧州連合)で食品と接触する容器包装材料としての使用が認められ、安全性の面でも国際的な評価を得た。この時点での年産能力は5,000トンだった。食品包装や飲食用カトラリーへの応用を進めるうえで、こうした安全性に関する国際的な承認は不可欠な要件であり、これをクリアしたことでスターバックスやコンビニエンスストアといった食品関連企業での採用が現実的な選択肢となった。
生産能力の増強
需要拡大を受け、カネカは高砂工業所内に新たな生産設備を建設し、2024年1月から稼働を開始した。これにより年産能力は従来の5,000トンから既存設備分と合わせて20,000トンへと拡大し、投資額は約150億円とされる。生産規模を段階的に拡大することで製造コストの低減にもつなげ、より幅広い製品への採用を後押しする狙いがある。
一般的にバイオテクノロジーを用いた素材は、実験室規模での成功から工業スケールでの量産に移行する際に、発酵タンクの大型化に伴う品質のばらつきや、コストの急増といった壁に直面しやすいとされる。カネカが5,000トンから20,000トンへと4倍規模の増強を実現できたことは、既存設備での量産ノウハウが十分に蓄積されていたことを示しており、今後さらに需要が拡大した場合の追加増強の可能性も見込まれる。

海水の中でどのように分解されるのか
Green Planetが「海で溶けるプラスチック」と呼ばれる根拠は、第三者認証機関による生分解性の実証試験にある。ベルギーの認証機関Vincotte(現TÜV Austria Belgium)は、2017年にGreen Planet(当時の呼称PHBH)に対して「OK Biodegradable MARINE」認証を発行した。この認証は、海水環境下で一定期間内に一定割合以上が生分解することを条件としており、Green Planetは30℃の海水中で6か月以内に90%以上が二酸化炭素と水にまで生分解することが確認されている。
分解の仕組み
海水中には自然に存在する多種多様な微生物がいる。Green Planetが海に流出すると、これらの微生物が素材表面に付着し、酵素の働きによってポリマーの分子鎖を少しずつ分解していく。最終的には二酸化炭素と水にまで分解され、石油由来プラスチックのように微細な破片が半永久的に残ることはないとされる。
この分解プロセスは、堆肥中の微生物が枯れ葉や生ごみを分解して土に還すのと基本的には同じ原理であり、Green Planetを構成する高分子鎖を、海水中の微生物が持つ酵素が切断していくことで進む。分解の過程で有害な化学物質が残留しないことも、認証取得の際に確認される重要な項目の一つとされている。
分解速度は水温に左右される
生分解の進み方は水温によって差があり、水温が低い海域では分解速度が遅くなることも報告されている。海に流出したごみがすぐに消えるわけではなく、あくまで自然界の微生物が働ける環境が整って初めて分解が進む、という条件付きの特性である点には注意が必要だ。実際の試験では88日間にわたる観察で分解の進行具合が段階的に確認されており、環境条件次第で数か月単位の時間を要することがうかがえる。
暖かい熱帯・亜熱帯の海域では微生物の活動が活発なため分解が比較的早く進む一方、冷たい深海や寒冷な海域では分解速度が大きく低下すると考えられている。つまりGreen Planetは「どんな海でも一律に速く消える魔法の素材」ではなく、条件が整えば石油由来プラスチックよりもはるかに早く自然に還る、という理解が実態に近い。
日本近海でいえば、黒潮が流れる暖かい海域と、親潮の影響を受ける冷たい海域とでは、同じ製品が流出したとしても分解の進み具合に差が出ることが想定される。こうした地域差があること自体は、生分解性プラスチック全般に共通する性質であり、Green Planet固有の弱点というわけではない。
認証取得までの試験の流れ
OK Biodegradable MARINEのような認証を取得するには、素材メーカーが第三者の認証機関に試験用サンプルを提出し、実際の海水を用いた閉鎖系の試験環境で一定期間の生分解率を測定してもらう必要がある。試験は国際的に定められた規格に沿って実施され、決められた期間内に基準となる分解率を上回って初めて認証が発行される。これにより、企業が独自に「海で分解する」と主張するだけでなく、客観的なデータに基づいて性能が保証される仕組みになっている。
こうした認証制度は「グリーンウォッシュ」、つまり実態を伴わない環境配慮のアピールを防ぐ役割も果たしている。消費者やバイヤー企業が製品を選ぶ際に、認証マークの有無を確認することで、根拠の薄い「環境に優しい」という表示と、第三者機関の試験で裏付けられた性能とを区別できるようになる。
淡水・土壌での生分解性
Green Planetは海水中だけでなく、淡水や土壌中でも生分解が進むことが確認されている。河川や湖沼に流出した場合にも、海と同様に自然界の微生物によって分解が進むため、内陸部で使用される製品への展開も視野に入れられている。
OK Biodegradable MARINEとは
ベルギーの認証機関が発行する、海水環境での生分解性を証明する国際的な認証制度。プラスチックが海洋環境で実際に分解されることを試験データに基づいて確認する。
すでに実用化されている製品事例
Green Planetは、海洋プラスチックごみの主要な発生源の一つとされる使い捨てプラスチック製品を中心に、実用化が進んでいる。スターバックスによるプラスチック製ストロー廃止と紙製品への切り替えなど、飲食業界全体で使い捨てプラスチックを見直す動きが広がる中で、Green Planetのような生分解性素材への需要も高まっている。
| 採用企業・団体 | 製品 | 時期 |
|---|---|---|
| スターバックス コーヒー ジャパン | 店舗のストロー(沖縄県内32店舗で先行導入後、全国展開) | 2025年1月に先行導入、3月に全国展開 |
| セブン-イレブン・ジャパン | セブンカフェ用ストロー | 導入済み |
| 日本航空(JAL) | 機内食容器・買い物袋 | 導入済み |
| 東急ホテルズ | 客室アメニティ(歯ブラシ・ヘアブラシ) | 導入済み |
| 伊藤園 | 「充実野菜」の伸縮ストロー(乳酸菌配合) | 2021年 |

なぜストロー・カトラリーへの採用が先行するのか
ストローやカトラリーは使用後すぐに廃棄される「一度きり」の製品であり、かつ形状が単純で加工しやすいため、新素材の実用化第一号として選ばれやすい。また外食・小売各社にとっても、レジ袋有料化やプラスチック製ストロー廃止の流れの中で、代替素材への切り替えを示しやすい象徴的な製品でもある。
詳しい素材情報や採用事例は公式サイトで公開されている。公式サイトを見るカネカ Green Planet(PHBH)公式サイト素材の仕組みや導入企業事例を紹介🔗 kaneka.co.jp
化粧品容器や繊維への応用
資生堂との共同開発による化粧品容器への採用など、硬質の容器や繊維分野への応用も進められており、用途はストロー・カトラリーにとどまらず広がりつつある。硬質な容器では強度や透明感が求められる一方、繊維分野ではしなやかさや染色のしやすさが重視されるなど、用途によって求められる物性が異なるため、加工技術の蓋然性を高める研究開発が並行して進められている。
海外での採用の広がり
Green Planet(PHBH)は国内だけでなく海外ブランドでも採用が進んでおり、アウトドアブランドの店舗で提供されるストローなどにも使われている。ヨーロッパでの食品接触材料としての承認を得たことも、海外市場での採用拡大を後押しする要因になっている。
海外では特に、自治体レベルで使い捨てプラスチックの規制を強化する動きが進んでいる地域があり、そうした規制環境の中で「海水中でも分解する」という性質を持つ素材への引き合いは今後も増えていくとみられる。日本国内で培われた実績が、海外の規制対応を検討する企業への提案材料としても活用されている。
評価と受賞
Green Planetは「2025年日経優秀製品・サービス賞」で最優秀賞を受賞するなど、環境負荷低減に資する新素材として社会的な評価も高まっている。日経優秀製品・サービス賞は、その年に発売・発表された製品やサービスの中から特に優れたものを表彰する制度で、技術力だけでなく市場での実用性や社会的インパクトも評価基準に含まれるとされる。
海洋プラスチック問題の解決にどこまで貢献できるか
Green Planetのような生分解性バイオポリマーは、海洋プラスチックごみの発生を抑える有力な選択肢の一つだが、万能の解決策ではない点も理解しておく必要がある。
過大評価しないための3つの視点
- 生分解性素材は「捨ててよい」ことを意味しない。ごみの削減・回収の取り組みと併用して初めて効果を発揮する
- 分解には一定の環境条件(水温・微生物の存在)が必要で、あらゆる海域で同じ速度で分解するわけではない
- 生産能力は拡大しているが、世界で流通する石油由来プラスチックの量と比べればまだ小さい規模にとどまる
コストと普及の課題
PHA系の素材は、石油由来プラスチックや先行するPLAと比べて製造コストが高い傾向にあることが課題として指摘されている。カネカが生産能力を段階的に拡大しているのも、量産効果によってコストを下げ、より多くの企業が採用しやすい価格帯に近づける狙いがあるとみられる。
また、生分解性プラスチックが普及するほど、リサイクル可能な石油由来プラスチックとの分別回収が複雑になるという指摘もある。生分解性素材とリサイクル素材が混在した場合、どちらのごみ処理ルートに乗せるべきかが分かりにくくなり、結果としてリサイクルの効率を下げてしまう可能性も専門家から懸念されている。素材の普及と併せて、回収・分別の仕組みづくりも重要な課題となる。
このため、生分解性プラスチックを導入する企業には、単に素材を切り替えるだけでなく、店頭での分別表示や従業員への周知など、運用面での工夫も求められる。せっかく海水中でも分解する素材を使っていても、消費者が従来のプラスチックごみと同じ扱いをしてしまえば、その性質を十分に生かせないためだ。
この章のまとめ
- 生分解性素材は「捨ててよい」ことを意味せず、ごみ削減の取り組みと併用して初めて効果を発揮する
- PHA系素材は製造コストが高く、量産によるコスト低減が普及のカギになる
- 生分解性素材とリサイクル素材の分別・運用の仕組みづくりも今後の課題
それでも、植物油という再生可能な原料から、海洋でも分解する素材を工業規模で生産できることを実証した点は、海の環境問題に対する技術的な選択肢を広げる意味を持つ。
原料となる植物油の調達をめぐる論点
植物油を原料とする以上、生産量を大きく拡大すればするほど、原料となる農作物の栽培に必要な土地・水資源との兼ね合いも論点になり得る。食料生産と競合しない油脂原料の選定や、持続可能な調達方針を維持できるかどうかは、この種のバイオマス由来素材が長期的に拡大していく上で避けて通れない課題であり、企業には原料調達の透明性を示すことが今後より一層求められる。

私たちにできる関わり方
消費者としては、Green Planet採用製品を選ぶことも一つの応援の形になるが、それ以上に大切なのは、生分解性・非生分解性を問わずプラスチックごみを適切に分別・処分し、できる限り使い捨て自体を減らす行動を続けることだ。
日常でできること
- 生分解性表示のある製品でも、可能なら再利用可能な容器・カトラリーを優先する
- ビーチクリーンなど海岸清掃活動に参加し、すでに流出したごみの回収に協力する
- 企業のSDGsへの取り組みを知り、購買行動を通じて応援する
生分解性プラスチックはあくまで「流出してしまった場合の被害を減らす」技術であり、ごみそのものを出さない・回収する取り組みと組み合わせて初めて、海洋プラスチック問題の解決に近づくことができる。
企業のSDGsへの取り組みを見る視点
Green Planetのような新素材のニュースに触れたとき、「どんな成分か」「どこまで実証されているか」「どんな企業が採用しているか」を確認する習慣を持つことで、SDGs関連の情報を鵜呑みにせず、実効性のある取り組みかどうかを自分なりに判断できるようになる。この記事で紹介した数値や認証の仕組みも、そうした見極めの手がかりの一つとして役立ててほしい。
海の環境問題は、一つの企業や一つの新素材だけで解決できるものではない。カネカのようなメーカーによる素材開発、それを採用する小売・外食企業の取り組み、そして消費者一人ひとりの行動が積み重なって、はじめて海洋プラスチックごみの削減という大きな目標に近づいていく。Green Planetはその積み重ねの中の、確かな一歩として位置づけられる素材といえるだろう。
参考文献・出典
- カネカ「Green Planet(PHBH)」公式サイト – 素材の特徴・生分解の仕組み
- カネカ「生分解性バイオポリマー」事業紹介 – 事業・製品ページ
- カネカ ニュースリリース「Green Planetの大型能力増強を決定」 – 2022年2月
- カネカ「2025年日経優秀製品・サービス賞 最優秀賞」受賞情報 – 受賞情報
- KANEKA CORPORATION(英語版)Green Planet – OK Biodegradable MARINE認証・海外採用事例
- 伊藤園「充実野菜」伸縮ストローへの採用ニュース – 2021年5月
- 生物工学会誌「カネカ生分解性バイオポリマーGreen Planet 生産微生物の開発と事業化」 – 学術解説記事
- 環境省「バイオプラスチック導入ロードマップ」 – 2021年1月策定
- ハイケム「海洋生分解性プラスチックPHAとは?PLAとの違い」 – 素材解説記事
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア