約8,000万匹
1年間に漁業で死亡するサメの推定数(2019年・Science誌掲載研究)
37%
絶滅の危機にあるサメ・エイ類の割合(IUCN 2021年評価)
-71%
1970年以降の外洋性サメ・エイ類の個体数減少率(Nature誌掲載研究)

中華料理の最高級食材として知られるフカヒレ。その裏側では、捕まえたサメからヒレだけを切り取り、まだ生きている胴体を海に捨てる「シャークフィニング(フカヒレ漁)」が、世界のサメを激減させてきました。最新の研究では、いまも1年間に約8,000万匹のサメが漁業によって命を落とし、サメ・エイ類の3種に1種以上が絶滅の危機にあると推定されています。

サメは4億年以上前から海に生き続けてきた、食物連鎖の頂点に立つ捕食者です。その頂点が急速に姿を消せば、影響はサメだけにとどまりません。獲物となる動物の行動が変わり、海草藻場やサンゴ礁の姿が変わり、めぐりめぐって漁業や気候にまで波及する可能性が、各地の研究で示され始めています。

この記事では、シャークフィニングとは何かという基本から、年間死亡数の科学的推計、頂点捕食者を失う生態系への影響、香港を中心とするフカヒレ取引の実態、ワシントン条約(CITES)による歴史的な規制強化、そして日本・気仙沼に根づく「完全利用」の文化まで、一次情報にもとづいて丁寧に解説します。

この記事で学べること

  • フカヒレ漁(シャークフィニング)とは何か、なぜヒレだけが狙われるのか
  • 世界で年間約8,000万〜1億匹のサメが殺されているという科学的推計の中身
  • 頂点捕食者サメを失うと海の生態系に何が起きるか(栄養カスケード)
  • ワシントン条約CoP19や各国のフィニング禁止など、国際規制の現状と限界
  • フカヒレの一大産地・気仙沼に見る「完全利用」と日本の管理体制
  • 消費者として今日からできる選択と行動

フカヒレ漁(シャークフィニング)とは——ヒレだけを取り、体を海に捨てる漁

フカヒレ漁(シャークフィニング、shark finning)とは、捕獲したサメから背びれ・胸びれ・尾びれなどのヒレだけを切り取り、残りの胴体を海に投棄する漁業行為を指します。乾燥させたフカヒレは中華料理の高級食材として珍重され高値で取引される一方、サメの肉は単価が安く、鮮度が落ちやすいうえにかさばります。そのため一部の漁船は、限られた船倉を高価なヒレだけで満たそうと、胴体を海に捨ててヒレだけを持ち帰ってきました。

なぜヒレだけが切り取られるのか

フィニングの背景には、遠洋漁業の構造的な事情があります。マグロやカジキを狙うはえ縄漁船には、本来の狙いではないサメが大量にかかります(混獲)。冷凍設備や氷のスペースは限られているため、単価の安いサメの胴体を積むよりも、軽くて場所を取らず高価なヒレだけを切り取るほうが「儲かる」——この経済合理性こそが、フィニングを世界中の海に広げた最大の要因です。狙っていない生き物が漁具にかかる問題の全体像は、別記事「混獲問題とは」でも詳しく解説しています。

  • 乾燥フカヒレは軽くて保存がきき、船倉のスペースをほとんど使わない
  • サメ肉は単価が安く傷みやすいため、貴重な冷凍スペースを使う「割に合わない」荷物と扱われてきた
  • フカヒレは高級食材として強い需要があり、重量あたりの価値がサメ肉より桁違いに高い

フィニングはいつから世界の問題になったのか

フカヒレスープそのものは、中国で古くから珍重されてきた伝統料理です。しかし需要が爆発的に拡大したのは、1980年代以降に中国経済が急成長し、かつては一部の富裕層のものだった宴会料理が、急増した中間層の手にも届くようになってからでした。折しも遠洋漁業の漁具や冷凍技術が発達し、世界中の海でサメを獲ってヒレだけを持ち帰る操業が急拡大します。1990年代から2000年代にかけて、洋上に投棄されるサメの実態が研究者や環境団体の調査で次々と明るみに出ると、フィニングは国際的な批判の的となり、各国が規制に乗り出すことになりました。つまりフィニング問題は、豊かになった食卓の需要と、規制の追いつかない遠洋漁業が組み合わさって生まれた、現代的な環境問題なのです。

ヒレを失ったサメはどうなるのか

ヒレを切り取られたサメの多くは、まだ生きたまま海に投げ戻されます。しかし、サメはヒレなしでは泳げません。外洋性のサメの多くは、泳ぎ続けてえらに海水を送り込まないと呼吸そのものができないため、海底に沈んだサメは窒息するか、失血や飢え、ほかの捕食者への捕食によって死んでいきます。動物福祉の観点から国際的に強い批判を浴びてきたのは、このためです。

ここで言葉を整理しておきましょう。「サメを獲ること(サメ漁)」と「フィニング」は同じではありません。フィニングが指すのは、あくまで洋上でヒレだけを切り取り、胴体を投棄する行為です。魚体を丸ごと水揚げしてヒレも肉も利用する漁業は、フィニングには当たりません。この区別は、後で紹介する日本・気仙沼の「完全利用」を理解するうえでも、各国の規制の仕組みを読み解くうえでも重要です。

フィニングの何が問題なのか

  • 動物福祉:生きたままヒレを切られ、泳げない状態で海に捨てられる
  • 資源管理:どの種を何匹獲ったかが記録に残らず、資源状態の把握と管理が不可能になる
  • 生態系:食物連鎖の頂点に立つ捕食者が急減し、影響が海全体に波及する
  • 非効率:体重のわずかな割合にすぎないヒレのために、魚体の大部分が捨てられる
外洋を泳ぐヨシキリザメ
ヨシキリザメ。フカヒレの原料として世界で最も多く漁獲されるサメのひとつ

世界で年間どれだけのサメが殺されているのか

「年間1億匹」——2013年の衝撃的な推計

「世界で年間1億匹のサメが殺されている」という数字を、聞いたことがあるかもしれません。これはカナダ・ダルハウジー大学のボリス・ウォーム博士らが2013年に学術誌Marine Policyに発表した推計が根拠です。国連食糧農業機関(FAO)に報告された漁獲量に、未報告の漁獲、フィニングによる死亡、投棄されて死んだ個体の推計を積み上げたもので、2000年に約1億匹、2010年に約9,700万匹(推計の幅は6,300万〜2億7,300万匹)という結果でした。単純計算すると、1秒に約3匹のペースでサメが命を落としていることになります。

規制が10倍に増えても、死亡数はむしろ増えた

その後の変化を追った同チームの研究が、2024年1月に科学誌Scienceに掲載されました。結果は衝撃的でした。世界の漁業によるサメの死亡数は2012年の約7,600万匹から2019年には約8,000万匹へと、むしろ増加していたのです。うち約2,500万匹は絶滅危惧種でした。同じ期間に、フィニングを規制する法令は世界で約10倍に増えたにもかかわらず、です。死亡数は外洋の漁業では7%減った一方で沿岸の漁業では4%増え、死亡の大半は公海ではなく各国の管轄水域内で起きていました。

推計対象年推定死亡数出典
2000年約1億匹Worm et al.(2013年・Marine Policy)
2010年約9,700万匹同上
2012年約7,600万匹Worm et al.(2024年・Science)
2019年約8,000万匹(うち絶滅危惧種 約2,500万匹)同上
世界の漁業によるサメの年間死亡数の推計。規制強化後も減っていない

深刻なのは、この数がサメの「増える速さ」を超えていることです。2013年の研究では、サメ62種の生活史データの分析から、個体群を維持できる漁獲率は平均で年4.9%が上限なのに対し、実際には年6.4〜7.9%のサメが殺されていると推定されました。収入より支出が多い家計がいずれ破綻するように、回復の速さを上回る漁獲は、続ければ必ず資源の崩壊につながります。

こうした推計に幅があるのは、サメの漁獲統計そのものが不完全だからです。各国からFAOに報告される漁獲量の中では、種名を特定せずに「サメ類」とひとまとめに報告される割合が高く、どの種がどれだけ獲られているのかを正確に追えません。フィニングで胴体が捨てられれば、その分は統計にすら残りません。「正確に数えられないものは、守ることもできない」——研究者たちが種ごとの報告義務やヒレ付き水揚げの徹底を訴え続けるのは、資源管理の出発点となるデータを取り戻すためでもあるのです。

なぜフィニング規制だけでは死亡数が減らないのか

  • 「ヒレは体に付けたまま水揚げする」規制は、ヒレだけを切り取る行為は止めても、サメを獲ること自体は止めない
  • サメ肉・軟骨・肝油などの市場が拡大し、魚体を丸ごと利用することが漁獲の新たな動機になった可能性が指摘されている
  • 研究チームが効果を確認できたのは、特定の種の漁獲・保持を禁止する措置や、科学的根拠にもとづく漁獲枠だった
漁港に並ぶ多数のサメを見下ろした俯瞰イメージ
水揚げされたサメ。世界では年間約8,000万匹が漁業で死亡していると推定される

サメはなぜ乱獲に弱いのか——「増えるのが遅い」生き物

成熟が遅く、産む子が少ない

同じ「魚」でも、サメはマイワシやマダラとはまったく違う戦略で生きています。マイワシは1匹が数万粒の卵を産み、環境が良ければ数年で爆発的に増えられます。一方、軟骨魚類であるサメの多くは、性成熟までに10年前後かかり、妊娠期間は数か月から2年近くと長く、一度に産む子はわずか数匹〜数十匹。少なく産んで確実に育てる、ヒトに近い「ゆっくり型」の生き物なのです。

  • ヨシキリザメ:サメの中では多産(1回に数十匹)で成長も速く、比較的漁獲に耐えやすいとされる
  • アブラツノザメ:妊娠期間が約2年と、脊椎動物の中でも最長クラス
  • ジンベエザメ:性成熟までに約30年かかると推定される
  • ニシオンデンザメ:性成熟に約150年、寿命は約400年に達するという推定もある

サメの繁殖の仕方は驚くほど多様です。卵の入った卵鞘(らんしょう)を海藻などに産みつける卵生の種もいれば、母親の胎内で卵をかえして子を産む胎生の種、さらには胎盤のような器官で母体から栄養をもらって育つ、哺乳類さながらの種までいます。共通しているのは、どの方式でも「一度に産める子の数が少ない」こと。数で勝負する多くの硬骨魚と違い、サメは親が時間をかけて大きな子を産む戦略に進化の資源を注ぎ込んできました。この戦略は、天敵がほとんどいない頂点捕食者としては合理的でしたが、人間という「新しい捕食者」が現れた途端に、致命的な弱点へと変わってしまったのです。

ひとくちにサメといっても、世界には500種を超えるサメが知られており、手のひらサイズの小型種から全長10mを超えるジンベエザメまで、姿も暮らしも実にさまざまです。日本近海はサメの多様性が高い海域で、100種を超えるサメが確認されています。絶滅の危機の度合いも種によって大きく異なるからこそ、「サメ」と十把ひとからげにせず、種ごとに資源状態を評価して管理することが重要になります。

このような生活史の生き物は、いったん個体数が減ると回復に数十年単位の時間がかかります。魚の「増える速さ」を無視した漁獲が資源をどう崩壊させるかは、別記事「乱獲で水産資源はなぜ崩壊するのか」で詳しく解説しています。

レッドリストの警告——3種に1種以上が絶滅危惧

国際自然保護連合(IUCN)の専門家グループが2021年に発表した再評価では、世界のサメ・エイ類(軟骨魚類)1,199種のうち、37%にあたる391種が絶滅危惧(深刻な危機・危機・危急のいずれか)と判定されました。脊椎動物のグループとしては最悪クラスの水準で、最大の要因は乱獲です。

外洋に暮らすサメ・エイに限れば、事態はさらに深刻です。2021年にNature誌に掲載された研究によると、外洋性のサメ・エイ類の個体数は1970年から2018年までの約半世紀で71%減少し、その間に相対的な漁獲圧は18倍に増えました。外洋性の種の4分の3が絶滅危惧に該当します。かつて「外洋で最もありふれた大型捕食者」とまで言われたヨゴレ(メジロザメ属のサメ)は最も高いランクの「深刻な危機(CR)」に、フカヒレとしての価値が高いシュモクザメ類も軒並み高い絶滅リスクに追い込まれています。

外洋を回遊するシュモクザメの大群
シュモクザメの群れ。ヒレの価値が高く、乱獲で絶滅の危機に追い込まれた

頂点捕食者を失うと海はどうなるか——栄養カスケード

食物連鎖の頂点からの連鎖反応

生態系の頂点に立つ捕食者が取り除かれると、その影響は獲物、そのまた獲物へと食物連鎖を伝わって波及します。これを栄養カスケード(トロフィックカスケード)と呼びます。有名な例が、ラッコが減るとウニが爆発的に増え、ウニがケルプ(大型海藻)の森を食べ尽くしてしまう北太平洋の連鎖です(詳しくは別記事「ラッコはなぜ海の要石なのか」)。サメも同じように、海の食物連鎖の頂点で生態系のバランスを支えています。

イタチザメの「気配」が海草の草原を守る——シャーク湾の研究

サメの役割を示す代表的な研究の舞台が、西オーストラリアのシャーク湾です。この海域の長期研究によると、イタチザメが多い季節には、ジュゴンやアオウミガメは襲われたときに逃げやすい藻場の縁で慎重に草を食み、藻場の中心部を食べ尽くすことを避けます。つまり、実際に食べられるかどうか以前に、サメが「そこにいる」という気配そのものが草食動物の行動を制御し、海草藻場の食べ過ぎを防いでいるのです。研究者はこうした働きを「恐怖の生態学」と呼びます。

海草藻場は魚の産卵・保育場であると同時に、大気中の炭素を海底に貯め込む「ブルーカーボン生態系」の主役でもあります。サメの減少が草食圧の暴走を招けば、藻場の衰退を通じて貯め込まれた炭素の放出にまでつながりうる——サメの保全が気候変動対策とも無関係ではない理由が、ここにあります。

漁業への波及を示唆する報告もあります。米国大西洋岸では、大型のサメ類が減少した海域で、サメの獲物だった中型のエイ類が増加し、そのエイが大量に食べるホタテ類など二枚貝の漁業に打撃が及んだ可能性が2007年にScience誌で報告されました。この因果関係については、その後の研究で異論も出されており、科学的な議論が続いています。それでも、頂点捕食者の減少が「サメとは一見関係のない漁業」にまで影響しうるという問題提起として、大きな注目を集めた事例です。

サンゴ礁では影響はより複雑

一方で、科学は誇張なしに伝える必要があります。サンゴ礁のように食物網が複雑で多様な生態系では、サメの減少がもたらす連鎖の証拠は一様ではなく、影響の現れ方は場所や種によって異なることが、2021年のEcology誌のレビュー論文などで指摘されています。ただし「影響がまだよく分からない」ことは「失っても大丈夫」を意味しません。4億年かけて海の生態系に組み込まれてきた頂点捕食者を、役割を解明し終える前に失うことこそ最大のリスクだと、多くの研究者が警告しています。

海草藻場の上を泳ぐイタチザメと遠くで草を食むジュゴン
シャーク湾のイタチザメと草食動物。捕食者の存在が藻場の食べ過ぎを防ぐ
サメを頂点とする海の食物連鎖ピラミッドの図解
海の食物連鎖の模式図。頂点の変化は下の階層すべてに波及する

フカヒレはどこへ行くのか——香港を中心とする国際取引

世界の取引の約半分が香港に集まる

乾燥フカヒレの国際取引の中心地は香港です。世界のフカヒレ取引の約5割が香港を経由するとされ、2000〜2011年には年平均で約1万トン(約10,490トン)ものヒレが香港に輸入されていました。香港の乾物街には今も大小さまざまな乾燥フカヒレが並び、フカヒレスープは結婚披露宴や宴会の格式を示す料理として扱われてきました。

フカヒレが中華圏でこれほど特別視される背景には、長い食文化の歴史があります。フカヒレは明代の文献にすでに登場し、清代には宮廷料理の高級食材「八珍」のひとつに数えられました。ヒレ自体にはほとんど味がなく、珍重されるのはコラーゲン質の独特の食感と、手間のかかる下処理・調理が体現する「もてなしの誠意」です。結婚披露宴や商談の宴席でフカヒレスープを出すことが相手への敬意やステータスの表現とされてきたため、需要は味覚だけでなく文化と体面に深く結びついており、それが規制だけでは需要が消えない理由にもなっています。

日本もこの国際取引と無縁ではありません。気仙沼などで生産される高品質の乾燥フカヒレは、その多くが香港や中国本土へ輸出されており、日本は世界のフカヒレ供給国のひとつです。だからこそ、後述するワシントン条約の輸出許可制度への対応や、由来を明らかにした流通の仕組みづくりは、日本の水産業にとっても他人事ではない課題となっています。

輸入量はこの10年で半分以下に

その香港のフカヒレ輸入量は、2007年の約10,210トンから2017年には約4,979トンへと半減しました。転機のひとつは2013年、中国政府が倹約令の一環として公式宴会でのフカヒレ提供を禁止したことです。加えて、環境意識の高まりから若い世代を中心にフカヒレ離れが進み、世界の多くの航空会社やコンテナ船会社がフカヒレの輸送自体を引き受けない方針を打ち出したことも、取引の縮小を後押ししました。

期間・年香港のフカヒレ輸入量
2000〜2011年(年平均)約10,490トン
2007年約10,210トン
2017年約4,979トン
香港のフカヒレ輸入量の推移(TRAFFIC・WWF等による貿易統計の分析より)

減っても消えない——絶滅危惧種のヒレが今も市場に

ただし、取引が消えたわけではありません。香港の小売市場で売られるフカヒレをDNA鑑定した調査では、絶滅危惧種を含む規制対象種のヒレが繰り返し検出されており、税関による大規模な密輸摘発も相次いでいます。需要が残る限り、規制の網をくぐろうとする取引はなくなりません。だからこそ、後述する貿易規制の執行と、消費者側の選択の両方が重要になります。

乾物店の棚に並ぶ乾燥フカヒレ
乾物店に並ぶフカヒレ。香港は世界の取引の約半分が経由する集散地

国際規制と保全の動き——ワシントン条約が変えた勢力図

CITES CoP19——フカヒレ取引の約9割が規制対象に

2022年11月、パナマで開かれたワシントン条約(CITES)第19回締約国会議(CoP19)で、サメ保全の歴史を変える決定がなされました。フカヒレ取引の主役であるメジロザメ科のサメ54種と、シュモクザメ科の全種が附属書IIに掲載されたのです。附属書IIへの掲載は取引の全面禁止ではなく、「輸出には、取引がその種の存続を脅かさないことを示す輸出国政府の許可証が必要になる」という仕組みです。それでもこの決定によって、フカヒレ取引に含まれる種のうち規制対象の割合は約25%から約90%へと一気に拡大しました。

サメのワシントン条約掲載には、20年におよぶ積み重ねがあります。最初に掲載されたのは、プランクトンを食べる巨大でおとなしいサメたちでした。2002年の締約国会議でジンベエザメとウバザメが、2004年にホホジロザメが附属書IIに掲載されます。その後、2013年の会議でヨゴレやシュモクザメ類など商業価値の高い種へと対象が広がり、2022年のCoP19で一気にメジロザメ科全体へ拡大しました。「商業漁業の対象種は条約になじまない」と長く反対されてきた壁が、サメの危機的な資源状態を前に崩れていった歴史です。

公式サイトを見るCITES(ワシントン条約)事務局 公式サイト絶滅のおそれのある野生動植物の国際取引を規制する条約。附属書に掲載された種の取引には輸出国の許可が必要になる。🔗 cites.org

「ヒレは体に付けたまま」原則の広がり

フィニングそのものを禁じる法律も、この20年あまりで世界に広がりました。多くの国が採用しているのは、切り取ったヒレだけの水揚げを禁じ、ヒレが自然に付いたままの魚体で水揚げさせる「ヒレ自然結合(フィンズ・ナチュラリー・アタッチト)」原則です。ヒレと胴体の対応が一目で確認できるため、監視の抜け穴が生まれにくいとされています。

  • 米国:2000年のフィニング禁止法に続き、2010年サメ保存法(Shark Conservation Act)で原則すべての水揚げにヒレ自然結合を義務化
  • EU:2003年にフィニングを禁止し、2013年の規則(EU)No 605/2013で例外許可を撤廃、全船にヒレ自然結合を徹底
  • 地域漁業管理機関:マグロ類を管理する国際機関などでも、ヒレ重量の比率規制やヒレ付き水揚げといったフィニング規制を導入
  • 売買自体の禁止:米国の多くの州やカナダのように、フカヒレの取引・販売そのものを禁止する動きも広がる

規制の限界と「次の一手」

ここで思い出したいのが、前述した2024年のScience論文の結論です。フィニング規制は世界中に広がったのに、サメの死亡総数は減っていない。つまり「ヒレの切り取り方」の規制だけでは、サメを獲りすぎる構造そのものは変わらないのです。同研究が効果を確認できたのは、特定の種の漁獲・船上保持を禁止する措置、科学的根拠にもとづく漁獲枠、そしてサメ漁を禁じる保護水域(シャーク・サンクチュアリ)でした。ワシントン条約の掲載を絵に描いた餅にしないための、輸出国側の資源評価と許可制度の運用も、今後の大きな鍵になります。

サメを実際に守るために効果が確認されている対策

  • 絶滅危惧種の漁獲・船上保持の禁止(かかったら放す義務)
  • 科学的な資源評価にもとづく漁獲枠の設定
  • サメ漁を禁止する保護水域・サンクチュアリの設置
  • DNA鑑定などを活用した貿易規制の執行と密輸の摘発
  • サメがかかりにくい漁具・漁法への転換による混獲の削減
国際協力による海洋保全を象徴する、海を泳ぐサメの群れの俯瞰イメージ
国際規制の広がりで、フカヒレ取引対象種の約9割が許可制の対象になった

日本とサメ——気仙沼に根づく「完全利用」の文化

サメ水揚げ日本一の街・気仙沼

日本でフカヒレと聞いて多くの人が思い浮かべるのが、宮城県の気仙沼です。気仙沼港はサメの水揚げ量日本一を誇り、水揚げされるサメの約8割はヨシキリザメ、約15%がネズミザメ(地元での呼び名はモウカザメ)です。マグロはえ縄漁の基地として栄えた歴史の中で、はえ縄にかかるサメを無駄なく使う加工技術が発達し、気仙沼産のフカヒレは世界最高級と評されるまでになりました。

ヒレも肉も皮も軟骨も——捨てるところがない

  • ヒレ:乾燥フカヒレとして、フカヒレスープや姿煮の原料に
  • :はんぺんやかまぼこなど練り製品の原料に。フライや煮付けなどの家庭料理にも
  • :独特の風合いを生かしたバッグ・財布などの革製品に
  • 軟骨・中骨:コンドロイチンやコラーゲンなど健康食品の原料に
  • その他の部位:魚粉・肥料などとして利用

これが「完全利用」と呼ばれる日本の伝統です。フィニングとの本質的な違いは、魚体を丸ごと港に水揚げして記録し、余すことなく使うこと。どの種が何トン獲れたかというデータが残るため、資源管理の土台が成り立ちます。ヒレのために体を捨てる漁と、一匹をすべて生かす漁は、同じ「フカヒレを作る」営みでも正反対のものなのです。

気仙沼のサメ産業は、2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けました。津波で魚市場や水産加工場の多くが失われ、フカヒレの生産も一時は途絶えます。それでも加工業者たちは工場を再建し、サメの水揚げとともにフカヒレ生産を復活させました。現在の気仙沼では、フカヒレを郷土の誇りとして発信しつつ、サメの資源状態や完全利用の実態を消費者に伝える取り組みも行われています。「サメの街」の復興の歩みは、水産業の復興そのものでもあるのです。

気仙沼の食文化には、完全利用を象徴する郷土食もあります。ネズミザメ(モウカザメ)の心臓は「もうかの星」と呼ばれ、刺身で食べられる地元の名物です。クセが少なく、ごま油と塩やしょうがじょうゆで味わうその一皿は、一匹のサメを余すことなくいただくという、この街の姿勢そのものと言えるでしょう。

日本の管理体制と国際ルールへの対応

日本は、FAO(国連食糧農業機関)の国際行動計画(IPOA-Sharks)を受けて、2001年に「サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画」を策定しました(直近の改正は2023年12月)。この計画は、フィニングを行わないこと、漁獲したサメの完全利用、種ごとの漁獲データの収集・報告などを柱としています。また、マグロ類の地域漁業管理機関が定めるサメの保存管理措置や、ワシントン条約にもとづく輸出入の許可制度にも対応しています。

計画本文を見る(PDF)サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画(水産庁)FAOの国際行動計画(IPOA-Sharks)を受けて2001年に策定された日本の計画。フィニングの禁止や完全利用、漁獲データの収集を定める(2023年12月改正)。🔗 jfa.maff.go.jp

フィニングと完全利用は「別物」

フカヒレという食材そのものが問題なのではなく、ヒレの取り方と資源管理の有無が問題の本質です。胴体を海に捨てるフィニング由来のヒレと、管理された漁業で漁獲され完全利用されたヒレは、同じフカヒレでも背景がまったく異なります。産地や由来を確認して選ぶことが、消費者にできる第一歩です。

港町で天日干しされるフカヒレ
天日干しされるフカヒレ。気仙沼ではヒレだけでなく魚体全体を利用する

私たちにできること——知ることが最初の一歩

消費者としてできる選択

サメの問題は、フカヒレスープを食べる人だけの話ではありません。サメ由来の原料は、軟骨のサプリメント、肝油からつくられる保湿成分スクアラン、革製品など、意外なほど身近な製品に使われています。買い物のたびに完璧を目指す必要はありませんが、「これはどこから来たのか」と一度立ち止まって考えることが、需要のあり方を少しずつ変えていきます。

  • フカヒレ製品は産地や由来を確認する(完全利用・管理された漁業のものかどうか)
  • サメ由来の成分(サメ軟骨・スクアラン等)を含む食品・化粧品は、原材料表示にも目を向ける
  • 持続可能な漁業の認証ラベルが付いた水産物を選ぶ習慣をつける
  • 宴会や式典では、植物性素材などで作る「フカヒレ風」の代替メニューという選択肢もある

「人食いザメ」のイメージを越えて

映画の影響もあって、サメには「人を襲う怪物」というイメージがつきまといます。しかし、サメによる人間の死亡事故は世界で年間おおむね10件前後にとどまります。一方で、人間は年間約8,000万匹のサメを殺しています。どちらがどちらの脅威なのかは、数字がはっきりと物語っています。水族館や博物館でサメの実像に触れ、4億年におよぶ進化の歴史と生態系での役割を知ることは、保全に向けた確かな一歩になります。

「生きているサメ」の価値——観光という選択肢

サメには、獲って売る以外の価値もあります。世界各地のダイビング観光地では、サメと一緒に泳ぐツアーが人気を集め、地域経済を支える存在になっています。太平洋の島国パラオは2009年に世界で初めて自国の水域全体をサメ保護区(シャーク・サンクチュアリ)と宣言しましたが、その背景には、サメ1匹がもたらす生涯の観光収入は、漁獲して一度に売る価格を桁違いに上回るという試算がありました。生きているサメは、地域に何度でも収入をもたらす「泳ぐ観光資源」でもある——保全と経済を対立させない、こうした発想も世界に広がりつつあります。

シャークフィニングの問題は、遠い海の出来事のようでいて、フカヒレスープの一杯、サプリメントの一粒、財布ひとつを通じて私たちの暮らしとつながっています。年間約8,000万匹という数字の先にあるのは、4億年の進化の歴史と、それを頂点として回ってきた海の生態系です。正しく知り、由来を確かめて選び、周りに伝える——その小さな積み重ねが、サメと海の未来を変える力になります。

今日からできるアクション

  • フカヒレやサメ由来の製品を選ぶときは、由来・産地を確認する
  • サメの実像と生態系での役割を学び、家族や友人に伝える
  • サメの調査・保全に取り組む研究機関やNGOの発信をフォローする
  • 水族館・科学館のサメ展示や解説プログラムに足を運んでみる

この記事のまとめ

  • シャークフィニングは、ヒレだけを切り取り胴体を海に捨てる漁。動物福祉と資源管理の両面で国際的に批判されている
  • 世界では年間約8,000万匹のサメが漁業で死亡。フィニング規制が約10倍に増えても死亡数は減っていない(2024年・Science)
  • サメ・エイ類の37%が絶滅危惧。外洋性のサメ・エイは1970年から71%減少した
  • 頂点捕食者の喪失は、栄養カスケードを通じて海草藻場やブルーカーボンにまで波及しうる
  • 2022年のワシントン条約CoP19で、フカヒレ取引対象種の約9割が輸出許可制に。今後は漁獲規制と執行が鍵
  • 日本・気仙沼の「完全利用」はフィニングとは正反対の営み。由来を確認して選ぶことが消費者の第一歩
ダイバーとサメが共に泳ぐ明るい海
サメと共存する海へ。知ることが保全の最初の一歩になる

参考文献・出典

  1. 水産庁 – サメ類の保護・管理のための日本の国内行動計画(2001年策定・2023年12月改正)
  2. CITES(ワシントン条約)事務局 – 第19回締約国会議(CoP19)提案第37号:メジロザメ科の附属書II掲載提案
  3. NOAA(米国海洋大気庁) – Shark Management Laws:2010年サメ保存法によるヒレ自然結合原則
  4. EUR-Lex(EU法令データベース) – 規則(EU)No 605/2013:ヒレ自然結合原則によるフィニング禁止の徹底
  5. Worm, B. et al.(2024)Science – Global shark fishing mortality still rising despite widespread regulatory change:年間約8,000万匹の死亡推計
  6. Pacoureau, N. et al.(2021)Nature – Half a century of global decline in oceanic sharks and rays:外洋性サメ・エイ71%減
  7. Dulvy, N.K. et al.(2021)Current Biology・IUCNレッドリスト – 軟骨魚類1,199種の再評価:37%が絶滅危惧
  8. Worm, B. et al.(2013)Marine Policy – Global catches, exploitation rates, and rebuilding options for sharks:年間約1億匹の死亡推計
  9. TRAFFIC – 香港・中国本土のサメ製品取引レポート:香港のフカヒレ輸入量統計
  10. Burkholder, D.A. et al.(2013)Journal of Animal Ecology – シャーク湾におけるイタチザメと海草生態系の栄養カスケード研究

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