⚡ 30秒でわかる答え

  • 洋上養殖と洋上風力の組み合わせは、海域を重ねて使うマルチユースの一例として研究されている。
  • ドイツEEZの研究では、海藻・貝・魚を組み合わせる養殖が高く評価された。
  • 日本では漁業との共存が議論の中心で、養殖併設の国内実証は公的資料で確認できていない。
  • 安全、権利調整、環境データの蓄積が今後の課題である。
13種
ドイツEEZの研究で養殖適性を評価した生物種数
20円/kWh
NEDOが2030年に目指す浮体式の発電コスト目標
2019年
再エネ海域利用法の施行(一般海域の占用制度)

沖合の海で風車が回り、その足元で貝や海藻が育つ。そんな風景を目指す研究が、いま世界で進んでいます。

この記事では、洋上養殖と洋上風力発電の組み合わせについて、期待される点と課題を、公的機関や論文の情報にもとづいてやさしく整理します。

まだ実証段階の分野のため、確認できた事実と未確認の点を分けて書いています。

この記事で学べること

  • 洋上養殖の特徴
  • 洋上風力の種類と日本の制度
  • 組み合わせのメリットと課題
  • 欧州の研究事例
  • 日本の漁業との共存の議論
  • 私たちにできること

洋上養殖と再生可能エネルギーが注目される理由

日本は四方を海に囲まれ、排他的経済水域(EEZ)は世界有数の広さを持つ国です。その広い海をどう使うかは、食料と脱炭素の両面で大きなテーマになっています。近年は、沖合の海域で魚や貝、海藻を育てる洋上養殖と、風の力で発電する洋上風力発電を同じ海域で組み合わせる発想が、国内外で研究されています。

ただし、この組み合わせは「すでに確立した技術」ではなく、多くが調査・実証の段階にあります。本記事では、確認できた公的資料や論文をもとに、期待される点と課題を分けて整理します。

海の「使い方」を重ねるという考え方

海域の利用は、漁業、航路、発電、保全などで競合しがちです。そこで、同じ場所で複数の目的を両立させるマルチユース(共同利用)が研究されています。欧州では北海の風力発電所と養殖の併設が学術的に検討されてきました。

  • 食料:養殖は世界的に水産物供給の大きな柱になっている
  • エネルギー:洋上風力は脱炭素電源として政策的に拡大が目指されている
  • 空間:海域は有限で、利害調整が不可欠
沖合の風車と養殖いけすが並ぶ海のイメージ図
風車と養殖を同じ海域で組み合わせるイメージ

このセクションのポイント

  • 洋上養殖と洋上風力の組み合わせは「海域のマルチユース」の一例
  • 多くは調査・実証の段階にある
  • 食料・エネルギー・空間の3つの視点で考える

洋上養殖とはどんな養殖か

養殖は、湾の中や岸近くで行うものが主流でした。一方、洋上養殖(沖合養殖)は、波や潮流が強い外洋に近い海域で行います。水の入れ替わりがよく、病気や水質悪化のリスクを抑えやすい利点が語られる一方、荒天に耐える設備や運用が必要になります。

沿岸養殖との違い

項目沿岸(内湾)養殖洋上(沖合)養殖
場所湾・入り江など波が穏やか外洋に近い、波や流れが強い海域
水の入れ替わり限られる場合がある良好な傾向とされる
設備への負荷比較的小さい大きく、耐波性が必要
作業・保守陸から近く容易船での移動が必要でコスト増
沿岸養殖と洋上養殖の比較(一般的な傾向)

養殖できる生きものの例

  • 魚類:ブリ、サーモンなどの給餌養殖
  • 貝類:カキ、ホタテなど(餌を与えない無給餌型)
  • 海藻類:コンブ、ワカメなど(餌が不要で、成長の過程でCO₂を取り込む)

餌を与えない貝類や海藻の養殖は、環境負荷が比較的小さい養殖として研究が進んでいます。

このセクションのポイント

  • 洋上養殖は外洋に近い海域で行う養殖
  • 水質面の利点がある一方、設備・保守のコストが課題
  • 貝や海藻など無給餌型は環境負荷が小さいとされる

洋上風力発電の基礎知識

洋上風力発電には、海底に基礎を固定する着床式と、海に浮かべた構造物を係留する浮体式があります。日本は沿岸から急に深くなる海底地形が多く、浮体式への期待が大きいとされています。

日本での制度と実証

2019年に施行された再エネ海域利用法により、一般海域で最大30年の占用が可能になり、事業者を公募で選ぶ仕組みが整いました。長崎県五島市沖は2019年12月に促進区域に指定され、2022年4月に公募占用計画が認定されています。また、愛知県田原市・豊橋市沖は2023年10月に、国(NEDO)のグリーンイノベーション基金による浮体式洋上風力の実証事業の候補海域の一つに選ばれました。NEDOは2030年に発電コスト20円/kWh以下を目指す技術開発を進めています。

方式特徴向く海域
着床式海底に基礎を固定。技術が成熟比較的浅い海域
浮体式浮体を係留。設置水深の制約が小さい水深の深い海域
着床式と浮体式の違い
この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

このセクションのポイント

  • 洋上風力は着床式と浮体式に大別される
  • 再エネ海域利用法で事業者選定の制度が整った
  • 浮体式は低コスト化に向けた実証が進む

なぜ「組み合わせ」が考えられているのか

洋上風力発電所の周辺では、船舶の航行や漁業操業に制限がかかる場合があります。その区域の内側で養殖を行えれば、海域を無駄なく使え、漁業者にも新たな収入源が生まれる可能性があります。

期待されるメリット

  • 空間の有効活用:同じ海域で発電と食料生産を両立できる可能性
  • インフラの共用:作業船の拠点や送電設備、モニタリング機器の共有が検討される
  • 漁業との共存:地域に新しい仕事をつくる手段として期待される
  • 再エネ電力の活用:給餌機や監視装置の電力を近くでまかなう構想

想定される課題

  • 荒天時の安全確保と設備の耐久性
  • 風車の基礎・係留と養殖施設の干渉や衝突リスク
  • 保守点検の作業スペース確保
  • 法制度上の権利関係(占用許可と漁業権・区画漁業権の調整)
  • 環境影響の長期データがまだ少ないこと
風車の足元で貝や海藻を育てる断面図
発電設備の近くで貝や海藻を育てる構想のイメージ

このセクションのポイント

  • 海域利用の競合を減らす狙いがある
  • インフラ共用など経済面の利点が期待される
  • 安全・権利調整・環境データ不足が課題

海外の研究と事例

欧州では、北海の洋上風力発電所と養殖の併設について、早くから研究が進められてきました。ドイツのアルフレッド・ヴェゲナー研究所(AWI)のBuck氏らは2002年ごろから、北海の風力発電所と外洋養殖の組み合わせの実現可能性を調べています。

ドイツEEZでの評価研究

Gimpelらによる2015年の論文(Marine Policy掲載)は、ドイツのEEZで洋上風力発電所と養殖を併設する場合の適地を、GISと多基準分析で評価しました。水温・塩分・酸素などの条件をもとに、海藻・貝・魚・甲殻類を含む13種の養殖適性を検討しています。報告によれば、いくつかの風力発電所は養殖に適していると評価され、魚・貝・海藻を組み合わせる統合型多栄養養殖(IMTA)で高い評価が得られたとされます。種別では、水深10〜20mでコンブの仲間(Laminaria digitata)が最も高く評価されました。著者らは次の段階としてパイロット事業を提案しています。

ベルギー海域でも、90件を超える科学論文・事業報告をレビューし、洋上風力海域の複数利用に向けた提言をまとめた資料があります。

このセクションのポイント

  • 欧州では20年以上前から併設の可能性が研究されている
  • ドイツEEZの研究では海藻・貝・魚の統合養殖が有望とされた
  • 本格運用の前にパイロット事業が必要という整理

日本での取り組みと漁業との共存

日本では、洋上風力の導入にあたって漁業との共存が大きなテーマです。NEDOは2022〜2023年度に、洋上風力発電設備が漁獲対象の生物種に与える影響を把握する基礎調査を実施しています。実施先は海洋生物環境研究所で、海外の調査事例も踏まえた内容です。

地元協議会で求められること

五島市沖の協議会の意見とりまとめでは、事業者に対し、地域・漁業との共存共栄の理念を踏まえた基金の設立と運用の透明性の確保、漁業影響調査の方法・時期を関係漁業者や学識経験者などの意見を聴いて決めること、操業への影響を十分考慮して関係漁業者と丁寧に協議することなどが求められています。

一方、元水産庁長官の寄稿では、沖合の浮体式では、魚礁効果や保守に伴う雇用といった従来の漁業振興策が沖合漁業者にとって魅力になりにくい点や、複数案件の影響が重なる点が指摘されています。養殖との組み合わせは、こうした課題への一つの答えになり得ますが、日本での併設の実証は、今回の調査で公的な資料を確認できていません。今後の動向を注視する必要があります。

関係者の合意形成を丁寧に進めることが、技術面と同じくらい重要になります。

このセクションのポイント

  • NEDOが洋上風力の水産生物への影響を調査している
  • 地元協議会は基金・調査・協議を事業者に求めている
  • 養殖併設の国内実証は公的資料で確認できていない

環境面の効果とリスク

海藻や貝の養殖は、海水中の栄養塩や炭素を取り込むため、水質浄化やブルーカーボンとの関連が研究されています。ただし、養殖による炭素の長期貯留量の評価は方法が確立途上で、数値は研究や条件によって幅があります。

プラスに働く可能性

  • 海藻・貝による栄養塩の吸収と水質の改善
  • 構造物が魚の隠れ場所(魚礁効果)になる可能性
  • 化石燃料に頼らない電力の利用

注意が必要な点

  • 給餌養殖では残餌や排せつ物による海底環境への負荷
  • 設置工事中の騒音や振動が海洋生物に与える影響
  • 外来種の付着・拡散のリスク
  • 鳥類・海棲哺乳類への影響
環境への効果と注意点を示す海のイメージ
効果とリスクの両面から評価する必要がある

このセクションのポイント

  • 海藻・貝の養殖は水質面で期待される
  • 給餌養殖や工事の影響には注意が必要
  • 長期データが少なく、慎重な評価が求められる

私たちにできること、これからの展望

洋上養殖と再生可能エネルギーの組み合わせは、技術的にも制度的にも発展途上の分野です。それだけに、情報を知り、地域の議論に関心を持つことが大切です。

  • 自分の地域の洋上風力や養殖の計画を、自治体の公表資料で確認する
  • 海藻・貝など環境負荷の小さい水産物を選ぶ
  • 認証(MSC・ASCなど)のある水産物を意識する
  • 説明会やパブリックコメントなど、意見を伝える機会を活用する

これから注目したい点

  1. 国内でのパイロット事業の有無と成果
  2. 漁業権と海域占用の調整ルールの整備
  3. 長期的な環境モニタリングの結果
  4. コスト低下の進み具合

どの取り組みにも利点と課題があります。海を「どう使い、どう守るか」を、科学的なデータと地域の対話で決めていく姿勢が求められます。

まとめ

  • 洋上養殖と洋上風力は、海域を重ねて使う発想として研究されている
  • 欧州では適地評価が進み、日本では漁業との共存が議論の中心
  • 効果は期待されるが、実証と長期データが今後の鍵

参考文献・出典

  1. NEDO 洋上風力発電の低コスト化プロジェクト – 浮体式洋上風力の実証事業
  2. NEDO ニュースリリース – 洋上風力と水産生物の影響調査等
  3. Gimpel et al. (2015) Marine Policy – ドイツEEZにおける洋上風力と養殖の併設評価
  4. Gimpel et al. (2015) 論文PDF – AWI リポジトリ
  5. AWI Buck (2002) – 北海の風力発電所と外洋養殖の実現可能性
  6. 国土交通省 報道発表 – 再エネ海域利用法に基づく促進区域
  7. 笹川平和財団 Ocean Newsletter – 洋上風力と漁業の関係
  8. 愛知県 資料 – 田原市・豊橋市沖の浮体式洋上風力

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