アイスコーヒーのカップから紙製のストローを取り出すとき、少し飲み口の感触が変わったと感じたことはないだろうか。スターバックスは2018年、世界でプラスチック製ストローを段階的に廃止すると発表し、日本では2020年に紙ストローへ、そして2025年にはさらに新しいバイオマス素材へと切り替えている。
この5年余りの変化は、単なる「エコっぽい演出」ではなく、素材工学・消費者の使用感・環境負荷計算のあいだで試行錯誤を重ねてきた記録でもある。一方で、ストローが海洋プラスチックごみ全体に占める割合はごくわずかだという研究結果もあり、「なぜここまでストローにこだわるのか」という疑問も根強い。
この記事では、スターバックスの公式発表と報道をもとに、ストロー廃止の経緯・素材の進化・そして海洋プラスチック問題における本当の位置づけを、一次情報にもとづいて整理する。
この記事で学べること
- スターバックスが2018年に世界でプラスチックストロー廃止を発表した背景と、日本での2020年の紙ストロー導入までの経緯
- FSC認証紙ストローと、2025年から導入が始まったバイオマス素材「Green Planet」のそれぞれの環境面での特徴の違い
- 紙ストローに寄せられた「ふやける」といった消費者の声が、次の素材転換にどうつながったか
- ストロー削減が海洋プラスチック問題全体に占める割合はごくわずかという実態と、それでも意味がある理由
- EUの使い捨てプラスチック指令など、企業の自主的な取り組みを後押しする世界の規制の動き
スターバックスがプラスチックストローをやめた理由
使い捨てプラスチック製品は軽く安価で扱いやすい一方、リサイクル率が低く、河川や沿岸から海へ流出しやすいという弱点を抱えている。なかでもストローは細く軽量なため風で飛ばされやすく、屋外の飲食店のテラス席やイベント会場、公園のゴミ箱からこぼれ落ちて環境中に漏れ出しやすい製品のひとつとされてきた。1本1本は小さくても、世界中のカフェ・ファストフード店で毎日大量に消費される製品だからこそ、削減の対象として注目されやすかったともいえる。
使い捨てプラスチックが注目された2018年前後の空気
2015年に、鼻にストローが刺さったウミガメの動画がSNSで拡散したことをきっかけに、プラスチックストローは「使い捨てプラスチック問題」を象徴する存在として世界的に注目されるようになった。この動画は数千万回再生され、多くの人にとって「海洋プラスチック問題」を初めて身近に感じさせるきっかけになったとも言われている。以降、各国の自治体や環境団体がプラスチックストロー禁止条例を検討し始め、企業や自治体による使い捨てプラスチック削減の機運が高まるなかで、大手飲食チェーンの対応にも消費者・投資家双方から関心が集まっていった。
2018年7月、世界規模での廃止方針を発表
スターバックスは2018年7月、直営店・ライセンス店を合わせて世界28,000店舗以上を対象に、使い捨てプラスチックストローを段階的に廃止する方針を発表した。同社はこの取り組みにより、年間10億本以上のプラスチックストローの削減を見込むとしていた。廃止の柱となったのは、氷入りのコールドドリンクにストローなしで飲める「ストローレスリッド(strawless lid)」の導入である。当時、世界最大級のコーヒーチェーンによる方針転換は業界内外に大きなインパクトを与え、他の外食・小売企業が使い捨てプラスチック戦略を見直す契機のひとつにもなった。
同社はこの発表を、単発のキャンペーンではなく「グローバルな環境戦略の一部」と位置づけていた点も重要だ。ストローの廃止は、使い捨てカップの素材見直しや、店舗での資源循環(コーヒーかすのリサイクルなど)と合わせて進められる、より広い取り組みの入口として設計されていた。
各国の自治体・政府でも相次いだ規制
スターバックスの発表と前後して、各国の自治体や政府でもプラスチックストローに関する規制が相次いだ。アメリカのシアトル市は2018年7月から、飲食店での使い捨てプラスチック製ストローの使用を市の条例で禁止した。イギリス政府も2018年にプラスチック製ストロー・マドラー・綿棒の販売禁止方針を発表し、2020年10月に実際の販売禁止が施行されている。企業の自主的な取り組みと、自治体・国による規制がほぼ同時期に動き出したことで、ストロー削減はこの時期、世界的な潮流として一気に広がっていった。
- アメリカ・シアトル市:2018年7月から飲食店でのプラスチック製ストロー使用を条例で禁止
- イギリス:2018年に禁止方針を発表し、2020年10月に販売禁止を施行
- スターバックス:2018年7月に世界28,000店舗以上を対象とした段階的廃止を発表
「ストローが必要な人もいる」という視点
こうした世界的な廃止・規制の動きに対しては、当初から一部の障がい当事者団体や支援者から懸念の声も上がっていた。噛む力や飲み込む力に制限のある人、あるいは手先の動きに制約のある人にとって、曲がる部分があり柔軟性のあるプラスチック製ストローは、飲食を安全に行うための補助具としての役割を果たしている場合がある。紙やバイオマス素材のストローは、耐久性や柔軟性の面でプラスチック製と特性が異なるため、代替素材への一律な切り替えが誰にとっても等しく望ましいわけではない、という指摘である。スターバックスがストローレスリッド導入後も、必要とする人には店頭でストローを提供し続けているのは、こうした声を踏まえた運用上の配慮だと考えられる。

「ストローレスリッド」という発想転換
スターバックスが世界展開の柱に据えたのは、ストローそのものを紙などの代替素材に置き換えるだけでなく、「そもそもストローを使わずに飲める」蓋を新たに設計するという発想だった。この考え方は、単に素材を入れ替える対症療法ではなく、製品設計そのものを見直すアプローチとして評価された。
ポリプロピレン製・リサイクル可能な新しい蓋
新しく開発された蓋は、従来のフラット蓋とストローを組み合わせた場合と比べてプラスチック使用量を9%削減できるとされ、ポリプロピレン製で多くの地域でリサイクルに対応する設計になっている。まずヨーロッパのフランス・オランダ・イギリスの一部店舗で先行導入され、その後アメリカなど各地域に広がっていった。ストローを必要とする人には、引き続き店頭でストロー(代替素材製)を提供する運用が取られている。
この蓋は「大人向けの吸い口付き蓋(アダルト・シッピーカップ・リッド)」と海外メディアで呼ばれることもあり、見た目の親しみやすさと機能性を両立させた工業デザインとしても話題になった。飲み口の形状は、こぼれにくさと飲みやすさを両立させるため、複数の試作を経て決定されたと報じられている。
製品パッケージのデザイン変更は、見た目以上に多くの調整を要する作業でもある。世界28,000店舗という規模で新しい蓋を導入するには、金型の設計変更、既存の製造ラインとの整合、各国の食品衛生規格への適合確認、そして店舗スタッフへのオペレーション周知まで、サプライチェーン全体を巻き込む調整が必要になる。ストローという小さな製品ひとつの転換の裏に、こうした地道な実務が積み重なっていたことも想像しておきたい。
蓋の重量増加という批判もあった
一方で、ストローレスリッドは従来のフラット蓋よりも樹脂の使用量自体は多くなっており、「ストロー1本分の削減以上に蓋の重量が増えているのではないか」という指摘も海外メディアから出た。プラスチック使用量が9%減ったのは、あくまで「フラット蓋+ストロー」の組み合わせと比較した場合の数字であり、単純に「プラスチックが大幅に減った」と捉えるのは早計だという慎重な見方も存在する。実際、蓋単体の重量で比較すると増加しているという分析を紹介する記事もあり、環境施策を評価する際には「本数」だけでなく「総重量」「素材の循環しやすさ」など複数の指標で見る必要があることを示す事例として引用されることがある。
こうした批判は、企業の環境施策を鵜呑みにせず多角的に検証することの大切さを教えてくれる一方で、スターバックス自身もこの蓋を出発点として、その後も素材の見直しを続けてきた点は評価できる部分だろう。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2018年7月 | 世界28,000店舗以上を対象にプラスチックストロー廃止方針を発表 |
| 2019年〜 | ヨーロッパ・北米でストローレスリッドを順次導入 |
| 2020年1〜3月 | 日本国内の紙ストロー導入・全店約1,500店舗に拡大 |
| 2021年7月 | EUで使い捨てプラスチック製ストローなどの流通が指令により禁止 |
| 2025年1月 | 日本でバイオマス素材「Green Planet」ストローを沖縄で先行導入 |
| 2025年3月〜 | Green Planetストローを全国の店舗へ順次拡大 |
日本での紙ストロー導入とFSC認証
日本国内では、コールドドリンクの提供スタイルの違いなどから、世界共通のストローレスリッドではなく紙製ストローへの切り替えという形で対応が進められた。ドリンクのカップ形状やメニュー構成が地域によって異なることから、素材転換のアプローチも一律ではなく、各市場の事情に合わせて選択されてきたことがうかがえる。
2020年1月から段階導入、3月に全店へ
スターバックス コーヒー ジャパンは2020年1月より、FSC®認証紙を使用した紙ストローの提供を段階的に開始し、同年3月には全国約1,500店舗への導入を完了した。同社の発表では、この切り替えにより年間約2億本分のプラスチックストロー削減につながるとされている。一部店舗での試験導入からスタートし、供給体制やオペレーションを確認しながら短期間で全店へ広げたスピード感は、世界的な廃止方針を受けた日本法人としての本気度を示すものだったといえる。
このプレスリリースを見るFSC®認証紙ストロー導入のお知らせ(スターバックス コーヒー ジャパン)2020年1月から全店約1,500店舗への紙ストロー導入を発表した公式プレスリリース🔗 starbucks.co.jpFSC認証紙とはどのような紙か
FSC®(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)認証は、適切に管理された森林から生産された木材・紙製品であることを示す国際的な認証制度である。認証取得のためには、生物多様性の保全、地域社会や労働者の権利への配慮、違法伐採の排除など、複数の基準を満たす必要がある。紙ストローにFSC認証紙を用いることで、原料調達の段階から森林破壊や違法伐採に加担しないという担保になる。海洋プラスチック削減だけでなく、原料の川上にあたる森林保全にも配慮した選択といえる。
この認証マークは紙・木材製品の様々な場面で見かけることができ、ノートやコピー用紙、パッケージなど身近な製品にも使われている。スターバックスのストローに限らず、FSC認証マークを見かけたときは「この紙がどこから来たか」まで配慮された製品であることを意味している。
紙ストロー自体は世界的に見ても目新しい発想ではなく、プラスチック製ストローが普及する以前は紙製が主流だった時代もある。スターバックスの取り組みは、いわば「一度失われた選択肢を、現代の品質基準で作り直す」試みでもあったといえる。認証材の調達から印刷・加工まで一貫した供給体制を短期間で全店規模に整えた点は、サプライチェーンマネジメントの観点でも大きな取り組みだった。
FSC認証紙ストローのポイント
- 適切に管理された森林由来の木材・紙を使用していることを示す国際認証
- 海洋プラスチック削減と森林保全の両方に配慮した素材選択
- 日本では2020年1〜3月にかけて全店約1,500店舗へ導入完了

紙ストローに寄せられた声と、素材選びの難しさ
紙ストローの導入は環境面で評価される一方、実際に使う消費者からは率直な感想も寄せられてきた。企業が環境配慮の取り組みを進めるとき、こうした利用者のフィードバックをどう次の改善につなげるかは重要な論点になる。
「ふやける」「風味が変わる」という指摘
紙ストローは、氷入りの冷たい飲み物を長時間かけて飲む場合などに、紙が水分を吸ってふやけてしまい、飲み口の食感や口当たりが変わると感じる利用者が一定数いた。SNSやメディアでも、こうした使用感への意見がたびたび話題になっている。プラスチックストローへの交換に対応する店舗もあったが、基本的には紙ストローでの提供が続けられてきた。環境配慮と快適な体験のバランスをどう取るかは、飲食業界に共通する悩みでもある。
紙ストロー自体の環境負荷という論点
紙ストローは石油由来プラスチックを使わない一方、製造時のエネルギー消費や、防水加工に使われるコーティング剤の種類によっては、単純に「紙だから環境に優しい」と言い切れない面もあるとメディアでは指摘されてきた。廃棄物の重量が増える、リサイクルの難易度が変わるといった論点も含め、素材の選定は一枚岩の答えがあるわけではない。ある製品を「環境に良い」と評価するときは、原料調達・製造・輸送・使用・廃棄という製品ライフサイクル全体を通して考える必要があり、ストローという小さな製品ひとつをとっても、その検証は簡単ではないことがわかる。
紙ストローをめぐる論点
- 冷たい飲み物で長時間使うと、ふやけて食感が変わりやすい
- 防水コーティングの種類によっては環境負荷の評価が単純ではない
- 廃棄物の重量そのものはプラスチックより増える場合がある
こうした使用感・環境負荷の両面での課題は、単に「我慢してもらう」ことでは解決しない。スターバックスはこの5年間、消費者の声を受け止めながら、より満足度の高い代替素材を探し続けてきたことになる。その結実が、次に紹介する2025年からのバイオマス素材への切り替えである。
企業のサステナビリティ施策は、発表した瞬間がゴールではなく、実際に使われ続けるなかで得られるフィードバックをもとに改良を重ねていくプロセスだと捉えると理解しやすい。紙ストローへの切り替えは「正解」だったのか「失敗」だったのかという二択で語るのではなく、次の素材転換に向けた重要なステップだったと位置づける方が実態に近いだろう。
2025年、バイオマス素材「Green Planet」への切り替え
スターバックス コーヒー ジャパンは2025年1月23日より、紙ストローに代えて生分解性バイオポリマー「Green Planet®」を使用したストローの導入を沖縄県内の全32店舗で先行して開始し、同年3月上旬から全国の店舗へ順次拡大すると発表した。
植物由来原料が主原料の生分解性素材
Green Planetは植物油などを主原料とする生分解性バイオポリマーで、飲み心地の良さと環境負荷の低減を両立させることを狙った素材とされる。同社の発表では、現行の紙製ストローと比較して、製造・廃棄にともなうCO2排出量を低減でき、店舗から出るストローの廃棄物量(重量比)も半分近く削減できる見込みだとしている。紙ストローで指摘されていた「ふやける」問題についても、素材特性の違いから改善が期待されており、環境負荷と使用感の両方を底上げする狙いがうかがえる。
同社はこの切り替えを、単独の施策としてではなく「リソースポジティブ」という中長期の環境目標の一部として位置づけている。店舗づくりでの環境配慮や、コーヒーかすのリサイクル促進なども合わせて進められており、ストローの素材転換はその一環に過ぎない。ひとつの製品の裏側に、原料調達から店舗運営まで含めた広い戦略があることがわかる。
生分解性バイオポリマーという言葉は聞き慣れないかもしれないが、簡単にいえば「微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素などに分解される、植物由来のプラスチック代替素材」を指す。石油由来のプラスチックが自然環境下でほとんど分解されず、細かく砕けてマイクロプラスチックとして残り続けるのに対し、生分解性素材は一定の条件下で分解が進む点が大きな違いとされる。ただし生分解の速度や条件は素材によって差があり、「生分解性だから海に流れても安心」というわけではない点には注意が必要だ。あくまで、店舗から出る廃棄物としての適切な処理を前提とした素材選定であることを理解しておきたい。

沖縄から全国へ、段階的な拡大というアプローチ
2020年の紙ストロー導入時と同様に、今回も一部エリアでの先行導入からスタートし、店舗オペレーションや在庫供給の状況を確認しながら全国へ広げるという段階的な進め方がとられている。急速な全店一斉切り替えではなく、着実に検証しながら広げる姿勢は、紙ストロー導入時に寄せられた消費者の声を踏まえた学習の結果ともいえるだろう。沖縄という離島を含むエリアを最初の検証地に選んだ点も、物流や供給網の実証という観点で理にかなった判断といえる。
このプレスリリースを見る生分解性バイオポリマー「Green Planet」ストロー導入のお知らせ(スターバックス コーヒー ジャパン)2025年1月に沖縄で先行導入し、全国展開を発表した公式プレスリリース🔗 starbucks.co.jpストロー削減は海洋プラスチック問題にどれだけ効くのか
ここまで見てきたように、スターバックスは5年以上かけてストローの素材を見直し続けてきた。では、この取り組みは海洋プラスチック問題全体のなかでどれほどの意味を持つのだろうか。ここで一度、数字に立ち返って冷静に検証してみたい。
ストローが占める割合はわずか0.025%
報道によれば、海へ流出するプラスチックは年間およそ800万トンと推計されており、そのうちストローが占める割合はわずか0.025%にとどまるとされる。ストローだけを取り除いても、海洋プラスチックごみ問題そのものが大きく解決するわけではないという指摘は、環境専門メディアでもたびたび紹介されてきた事実である。海洋プラスチックごみの多くは、漁網・ロープなどの漁具、レジ袋、食品容器包装、ペットボトルなどが占めるとされ、量的なインパクトの大きさで見れば、これらの対策の方が優先度が高いという見方も根強い。
この「年間800万トン」という数字自体、海に流出するプラスチックごみの総量を正確に測定することの難しさゆえ、調査機関や年度によって推計値に幅がある点にも触れておきたい。日本の環境省が発表している国内からの流出量推計でも、算定手法によって数値に幅が生じている。海洋プラスチック問題の議論では、「厳密な一つの正解の数字」よりも、「おおよそどの発生源が大きな割合を占めるのか」という傾向をつかむことの方が実務的に重要になる。

それでもストロー廃止に意味がある理由
数量としての影響が小さいとしても、ストロー廃止には別の意味がある。ひとつは、消費者にとって「使い捨てプラスチックの問題を自分ごととして意識するきっかけ」になったこと。日々何気なく使っていたストローが環境問題と結びついていると知ることで、レジ袋や容器包装など他の使い捨て製品への関心にもつながりやすい。もうひとつは、大手チェーンが素材転換に取り組むことで、紙・バイオマス素材の生産技術やサプライチェーンが育ち、他の使い捨て製品の代替素材開発にも波及しやすくなることだ。象徴的な一手であることと、実際の削減効果が小さいことは、両立して理解する必要がある。
つまり、ストロー廃止という取り組みを評価するときは、「この施策単体でどれだけごみが減ったか」という狭い視点だけでなく、「社会全体の意識や技術をどれだけ動かしたか」という広い視点も併せて見る必要がある。数字の小ささをもって「意味がない」と切り捨てるのも、逆に「これで問題は解決した」と過大評価するのも、どちらも実態から離れてしまう。
本当に量的インパクトが大きい対策は何か
海洋プラスチックごみの量的な削減を考えるなら、漁網やロープといった漁業由来の廃棄物対策、レジ袋や食品トレーなど容器包装のリデュース、そして陸上で発生したごみが河川を通じて海へ流出する経路そのものを断つ取り組みの方が、量としてのインパクトは大きいと考えられている。ストロー廃止は、こうした本丸の対策への関心を広げる「入口」として機能している面が大きく、ストロー単体の削減効果と、そこから波及する社会的な効果を分けて考えることが大切だ。
数字で見るストロー問題の位置づけ
- 海へ流出するプラスチックは推計で年間約800万トン
- そのうちストローが占める割合は約0.025%
- 海洋プラスチックの多くは漁網・容器包装・レジ袋などが占めるとされる
業界全体への波及と、後押しする規制の動き
スターバックスの取り組みは単独の一企業の動きにとどまらず、飲食業界や規制の側からも後押しを受けながら広がってきた。企業の自主的な取り組みと、行政による規制は、しばしば互いに影響し合いながら社会全体の変化を作り出していく。
EUの使い捨てプラスチック指令
EU(欧州連合)は2019年に使い捨てプラスチック製品に関する指令を採択し、2021年7月3日から加盟国全体で、代替品が容易に入手できる使い捨てプラスチック製のストロー・マドラー・カトラリー・綿棒などの流通を禁止した。この指令では、使い捨てプラスチック製品の使用後の廃棄方法や環境負荷について、明確で標準化されたラベル表示を求める規定も含まれており、消費者が製品を選ぶ際の判断材料を増やすことも狙いのひとつになっている。企業の自主的な取り組みと、行政による規制の両輪が、使い捨てプラスチックの削減を後押ししている構図がうかがえる。
日本国内の規制:プラスチック資源循環促進法
日本国内でも、2022年4月1日に「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律(プラスチック資源循環促進法)」が施行された。この法律では、消費者に無償で提供される使い捨てプラスチック製品のうち、ストロー・スプーン・フォーク・マドラー・ヘアブラシなど12品目を「特定プラスチック使用製品」に指定し、事業者に使用の合理化(削減や有料化、代替素材への転換など)を求めている。対象12品目の年間使用量が5トン以上の事業者には、削減目標の設定と対策の実施が義務付けられており、大手飲食チェーンの多くはこの基準に該当する。スターバックスの取り組みは、法制化に先行する形で自主的に進められてきたことになる。
日用品メーカーなど他業種との共通点
使い捨てプラスチックの削減は飲食チェーンだけの課題ではない。詰め替え容器の普及などでプラスチック使用量の削減を進める日用品メーカーの取り組みとも重なる部分が多く、業種を超えて素材転換のノウハウが共有されつつある。原料調達・製造・流通のいずれの段階でも、「使い捨てを前提とした設計」から「繰り返し使う、あるいは環境負荷の低い素材に置き換える設計」への転換が、業種を問わず共通のテーマになりつつある。
こうした業種横断の動きは、素材メーカーにとっても新たな事業機会になっている。バイオマス素材や生分解性樹脂の需要が飲食・日用品の両業界から高まることで、生産量が増え、量産効果によってコストが下がりやすくなる。ひとつの大手チェーンの決断が、素材産業全体の技術開発ペースを押し上げるという間接的な波及効果も、こうした取り組みを評価するうえで見落とせない視点だろう。
海洋プラスチック問題の入口としては、ウミガメだけでなく海鳥がプラスチックを誤って食べてしまう被害も広く報告されている。関心のある人は、あわせて海鳥のプラスチック誤食問題や、花王のプラスチック削減の取り組みも読んでみてほしい。
消費者にできること、そしてSDGsとのつながり
スターバックスのストロー廃止の歴史から見えてくるのは、「完璧な素材はまだない」という現実と、「それでも改善を続ける」という姿勢の両方だ。ストロー1本の話に見えて、そこには製品設計・サプライチェーン・消費者体験をめぐる試行錯誤が凝縮されている。
マイストロー・マイボトルという選択肢
企業側の素材転換を待つだけでなく、繰り返し使えるマイストローやマイボトルを持ち歩くことも、使い捨て製品そのものを減らす選択肢のひとつになる。ステンレス製やシリコン製のマイストローは洗って繰り返し使えるため、素材が何であれ使い捨て製品自体を減らす効果がある。ストローが不要な人は、店頭で「ストロー不要」と伝えるだけでも、紙・バイオマス素材の使用量削減につながる。
SDGs14「海の豊かさを守ろう」との接点
使い捨てプラスチックの削減は、SDGs(持続可能な開発目標)のうち目標14「海の豊かさを守ろう」に直結するテーマである。ストロー1本分の影響は小さくても、企業の素材選びと消費者の日々の選択が積み重なることで、海洋プラスチック問題への意識は着実に広がりつつある。今後、Green Planetのようなバイオマス素材がどこまでコストや供給の面で実用化を広げられるか、そして次にどの使い捨て製品の見直しが進むか、引き続き注目していきたいテーマである。
ストロー1本を巡るこの5年余りの変遷は、「環境配慮の正解は最初から決まっているわけではなく、消費者の反応や技術の進歩によって更新され続けるものだ」という、サステナビリティ全般に通じる教訓を示している。次にカフェでストローを手に取るとき、その素材がどこから来て、どんな経緯でそこにあるのかに思いを馳せてみるのも、海や環境について考える小さな一歩になるはずだ。

まとめ
- 2018年に世界でのプラスチックストロー廃止を発表、2020年に日本で紙ストローへ
- 2025年からは生分解性バイオポリマー「Green Planet」への切り替えが進行中
- ストローが海洋プラスチックに占める割合はごくわずかだが、意識づけとしての意味は大きい
- EUの規制など行政の後押しと、企業の自主的な取り組みが両輪で進んでいる
参考文献・出典
- FSC®認証紙ストローでの提供を2020年1月より段階的にスタート – スターバックス コーヒー ジャパン プレスリリース
- 生分解性バイオポリマー「Green Planet®」ストローの提供開始 – スターバックス コーヒー ジャパン プレスリリース(2025年)
- Starbucks to Eliminate Plastic Straws Globally by 2020 – Starbucks Stories Asia(2018年)
- Say hello to the lid that will replace a billion straws a year – Starbucks Stories(ストローレスリッド解説)
- 日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計(令和6年度検討結果) – 環境省 海洋環境課 海洋プラスチック汚染対策室
- 2019年のプラごみ発生3億5300万トン OECDが警告する報告書 – サイエンスポータル(JST)
- ストローはこうして世界を席巻した、その短い歴史 – ナショナル ジオグラフィック日本版
- 【EU】使い捨てプラスチック指令、7月3日から全加盟国で適用開始 – Sustainable Japan
- プラスチック資源循環法関連 – 環境省(2022年4月施行・特定プラスチック使用製品12品目)
- 英政府、プラスチック製ストローや綿棒の販売禁止 – サステナブル・ブランド ジャパン
- スタバ、「紙ストロー」廃止へ プラ削減の目的はどうなった? – ITmedia ビジネスオンライン(2024年)
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア