35カ所
日本の国立公園の数(2024年6月に日高山脈襟裳十勝が加わり過去最多)
約6.5%
国立公園が国土面積に占める割合(環境省)
3億人以上
国立公園の年間利用者数(延べ・環境省)

富士山、知床、屋久島、慶良間の海——。日本を代表する風景の多くは、実は「国立公園」という一つの制度によって守られています。2024年6月に北海道の日高山脈襟裳十勝国立公園が加わり、日本の国立公園は全国35カ所になりました。その面積は合わせて国土の約6.5%。年間3億人以上が訪れる、日本最大の「自然の博物館」です。

ところが日本の国立公園には、アメリカのイエローストーンなどとは大きく違う特徴があります。国が土地を買い上げて丸ごと管理するのではなく、民有地も含めて「区域」として指定し、ルールで守る——「地域制公園」と呼ばれる仕組みです。国立公園の中に温泉街があり、田畑があり、人の暮らしがある。この日本独自のかたちには、狭い国土で自然と人が折り合いをつけてきた知恵が詰まっています。

この記事では、国立公園制度の基本から90年の歴史、土地を買わずに自然を守る地域制の仕組み、海を守る海域公園地区、そして観光ブームと保護の両立まで、一次情報にもとづいて丁寧に解説します。読み終えるころには、次の旅行で国立公園の風景が少し違って見えるはずです。

この記事で学べること

  • 国立公園の定義と、全国35公園・国土の約6.5%という全体像
  • 1934年の最初の3公園から2024年の日高山脈襟裳十勝まで、90年の歴史
  • 土地を買い上げずに指定する「地域制公園」という日本独自の仕組みと、米国型との違い
  • 特別保護地区から海域公園地区まで、ゾーニング(地種区分)による保護の仕組み
  • 訪日客の急増と満喫プロジェクト、観光と保護を両立させる最前線
  • 国立公園を訪ねるときのマナーと、守り手として参加する方法

国立公園とは何か——日本を代表する風景を「守り、楽しむ」仕組み

国立公園とは、日本を代表する傑出した自然の風景地を保護し、同時にその利用を促進するために、国(環境大臣)が自然公園法にもとづいて指定する公園です。単に美しい場所を囲い込むのではなく、「保護」と「利用」の両方を目的に掲げているのが大きな特徴で、誰もが訪れて自然に親しめることが前提になっています。

全国35カ所・国土の約6.5%という規模

2024年6月の日高山脈襟裳十勝国立公園の指定により、日本の国立公園は全国35カ所となりました。総面積は約244万ヘクタールに及び、国土面積の約6.5%を占めます。北は北海道の利尻礼文サロベツから南は沖縄の西表石垣まで、火山、高山、湿原、森林、島しょ、サンゴ礁の海と、日本列島の自然のほぼすべてのタイプが網羅されています。

環境省によれば、国立公園を訪れる利用者は年間延べ3億人以上。日本の人口の2倍を超える人々が毎年国立公園の風景を楽しんでいる計算で、登山やキャンプだけでなく、温泉旅行やドライブで知らないうちに国立公園の中に入っていた、という人も少なくありません。

7,000種の植物、10万種の昆虫——生きものの宝庫

国立公園が守っているのは風景だけではありません。環境省によれば、日本には約7,000種の植物、1,000種以上の動物(哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類など)、7万〜10万種と推定される昆虫類が生息しており、その多くのすみかが国立公園に含まれています。南北3,000kmに弓なりに延び、亜熱帯から亜寒帯までの気候帯と6,800余りの島々を持つ日本列島は、面積のわりに生物多様性が突出して高い「ホットスポット」。国立公園は、その多様な命を風景ごと未来へ引き継ぐための、いわば日本列島の生態系の縮図なのです。

国立公園・国定公園・都道府県立自然公園の3階建て

自然公園法にもとづく「自然公園」には3つのランクがあります。国が指定し国が管理する国立公園、国立公園に準ずる景観地として国が指定し都道府県が管理する国定公園、そして都道府県が条例で指定する都道府県立自然公園です。3つを合わせると国土の1割以上が何らかの自然公園に含まれており、日本は世界的に見ても「公園の密度」が高い国といえます。

  • 国立公園(35カ所):日本を代表する傑出した風景地。国(環境省)が指定・管理
  • 国定公園:国立公園に準ずる風景地。国が指定し、都道府県が管理
  • 都道府県立自然公園:地域を代表する風景地。都道府県が指定・管理
火山・湿原・森林・サンゴ礁の海など日本の国立公園の多様な景観を並べたイメージ
火山・湿原・原生林・サンゴ礁の海——35の国立公園は日本の自然のほぼ全タイプをカバーする

ここがポイント

  • 国立公園は「保護」と「利用」の両立を目的に国が指定する自然公園
  • 2024年に35カ所となり、総面積は国土の約6.5%
  • 年間3億人以上が利用する、日本最大の自然とのふれあいの場

90年の歴史——1934年の最初の3公園から2024年の35番目まで

世界で最初の国立公園は、1872年にアメリカで誕生したイエローストーン国立公園です。日本では明治以降の近代化のなかで景勝地保護の機運が高まり、1931年に国立公園法が制定されました。そして1934年3月、瀬戸内海・雲仙・霧島の3カ所が日本初の国立公園に指定されます。世界初のイエローストーンから約60年後、日本の国立公園の歴史はここから始まりました。

戦後の拡大と自然公園法の誕生

戦後、経済成長とともに観光需要が高まると、公園の指定は各地へ広がっていきます。1957年には国立公園法を発展的に引き継ぐ自然公園法が制定され、国立公園・国定公園・都道府県立自然公園という現在の3階建ての体系が整いました。高度成長期には開発と保護の対立も激しくなり、公園制度は「守るための規制」を強化しながら成長していきます。

公園の歴史は、自然保護運動の歴史でもあります。象徴的なのが尾瀬(現在の尾瀬国立公園)です。戦後、電源開発のためのダム計画で湿原の水没が危ぶまれた際、研究者や登山者たちが反対の声を上げ、日本の自然保護運動の原点と呼ばれる保護活動が展開されました。ごみ持ち帰り運動や木道による植生保護など、いま全国の公園で当たり前になっている利用マナーの多くは、尾瀬から始まったものです。

平成以降は「海」と「森」の新公園が続々

近年の新規指定には、はっきりした特徴があります。2014年の慶良間諸島(沖縄・サンゴ礁の海)、2016年のやんばる(沖縄本島北部の亜熱帯林)、2017年の奄美群島(鹿児島・亜熱帯の島々)と、生物多様性の宝庫である南西諸島の指定が相次ぎました。そして2024年6月25日、北海道の日高山脈襟裳十勝国立公園が35番目として誕生。南北約140kmの脊梁山脈から襟裳岬の海岸までをひとつながりに含む、陸域では日本最大の国立公園です。

国立公園はどうやって選ばれるのか

国立公園は、どこかの自治体が「うちを公園にしてほしい」と手を挙げれば決まるものではありません。自然公園法にもとづき、環境大臣が関係する都道府県や中央環境審議会の意見を聴いたうえで指定します。その際に重視されるのは、風景の傑出性はもちろん、日本の自然を代表する生態系が含まれているか、まとまりのある十分な広さがあるか、そして保護と利用の体制を地域とともに築けるか。指定までには自然環境の調査や地元との調整に長い年月がかかり、日高山脈襟裳十勝国立公園も、前身の国定公園時代から数えれば40年以上の歴史を経ての「昇格」でした。

できごと
1872年米国でイエローストーン国立公園誕生(世界初)
1931年国立公園法が制定される
1934年瀬戸内海・雲仙・霧島が日本初の国立公園に指定
1957年自然公園法が制定され、現在の自然公園体系が確立
2014年慶良間諸島国立公園(31番目)が指定
2016〜17年やんばる(33番目)・奄美群島(34番目)が指定
2024年日高山脈襟裳十勝国立公園(35番目・日本最大)が指定
日本の国立公園のあゆみ(環境省資料をもとに作成)

最初の指定から2024年でちょうど90年。瀬戸内海国立公園は指定90周年を迎えました。90年かけて35公園へと広がった歴史は、そのまま日本人が「どの風景を次世代に残したいか」を選び続けてきた歴史でもあります。

豆知識:富士山はどの国立公園?

日本一の山・富士山は「富士箱根伊豆国立公園」の一部です。1936年に指定された歴史ある公園で、富士山・箱根・伊豆半島・伊豆諸島という広大な範囲をカバーし、訪日外国人の利用者数では全国トップクラスの人気を誇ります。

地域制公園——土地を買わずに自然を守る日本独自の仕組み

日本の国立公園の最大の特徴が「地域制公園」という仕組みです。アメリカやカナダの国立公園は、国が土地を所有(または管理権を確保)し、公園専用の土地として管理する「営造物公園」方式。これに対して日本は、土地の所有権を国が買い上げることなく、民有地も含めた一定の区域を「国立公園」として線引きし、行為規制によって風景を守る方式を採っています。

国立公園の中に人が住んでいる

環境省の資料によれば、日本の国立公園内の土地は国有地が約60%、公有地が約13%、民有地が約26%。つまり4分の1以上は個人や企業の土地です。国立公園の中に温泉街や集落、田畑や牧場があるのはこのためで、住民は一定のルールのもとで普段どおり暮らし、生業を営んでいます。「公園=無人の保護区」ではなく、人の暮らしと自然が重なり合う風景ごと守るのが日本流なのです。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

営造物公園との違いを整理する

項目地域制公園(日本など)営造物公園(米国など)
土地所有権を問わず区域を指定(民有地含む)国が土地を所有・管理
守り方開発などの行為を許可制・届出制で規制公園専用地として一元管理
人の暮らし公園内に集落・温泉街・農地がある原則として居住や産業は限定的
採用国の例日本、イギリス、韓国、イタリアアメリカ、カナダ、オーストラリア
地域制公園と営造物公園の比較(環境省「国立公園・国定公園制度の概要」をもとに作成)

地域制の強みと弱み

地域制の強みは、高密度に土地利用が進んだ国でも広大な区域を指定できること、そして原生自然だけでなく棚田や里山・里海のような「人の営みが作った二次的自然」も守れることです。一方で、土地所有者との調整が常に必要で、営造物公園のような強力な一元管理はできません。私有地の開発をめぐる利害調整は、指定から90年たった今も国立公園行政の最大のテーマであり続けています。

「二次的自然」の代表例が、阿蘇くじゅう国立公園の草原です。阿蘇の雄大な草原景観は放置すれば森林に戻ってしまうもので、千年にわたる野焼きや放牧といった人の営みによって維持されてきました。営造物公園の発想では「人の手が入った自然」は守る対象になりにくいのですが、地域制の日本では、こうした人と自然の共同作品ともいえる風景こそが公園の核になり得ます。棚田や里山、そして海辺の里海——日本人が長い時間をかけて育ててきた風景を制度として受け止められることが、地域制公園の真骨頂です。

人の手が加わることでかえって豊かになる自然、という考え方は、瀬戸内海から生まれた「里海」の思想とも深くつながっています。国立公園第1号の一つが多島海と段々畑の風景を誇る瀬戸内海だったことは、日本の自然観をよく表しているといえるでしょう。

ゾーニングの仕組み——特別保護地区から海域公園地区まで

土地を買わずにどうやって自然を守るのか。答えは「ゾーニング(地種区分)」です。国立公園の中は自然の重要度に応じて段階的に区分けされ、区分ごとに規制の強さが変わります。もっとも厳しい区域では木を1本切るにも許可が必要で、緩やかな区域では届出だけで済む——このグラデーションが、暮らしと保護を両立させる要です。

陸のゾーニング:特別保護地区から普通地域まで

  • 特別保護地区:公園の核心部。景観維持のため最も厳格に保護され、動植物の採取や工作物の設置などは原則許可制
  • 特別地域(第1種〜第3種):重要度に応じて3段階。建築や開墾、木竹の伐採などが許可制
  • 普通地域:特別地域の外側の緩衝帯。一定規模以上の行為は届出制
国立公園のゾーニングを示す同心円状の概念図的な風景。中心の原生自然から外側の里地へ段階的に移り変わる
核心部ほど厳格に、外側ほど緩やかに——地種区分のグラデーションが暮らしと保護を両立させる

海のゾーニング:海域公園地区

国立公園が守るのは陸だけではありません。2010年に施行された改正自然公園法で、従来の「海中公園地区」が「海域公園地区」に拡充され、海中だけでなく干潟や岩礁など海面・海上の景観も含めて保護できるようになりました。サンゴ礁や藻場など特に優れた海域を指定し、熱帯魚やサンゴの採取、埋め立てなどが規制されます。

使いすぎを防ぐ「利用調整地区」という仕組み

ゾーニングには「立ち入りの量」を調整する仕組みもあります。2002年の自然公園法改正で導入された利用調整地区は、優れた自然を持つ区域への立ち入り人数や期間を制限できる制度で、たとえば知床国立公園の知床五湖では、ヒグマの活動期に認定ガイド同行のツアーでのみ地上遊歩道を歩ける運用が行われています。「入らせない」のではなく「入り方を設計する」——自然への負荷を抑えながら質の高い自然体験を提供する、利用マネジメントの先進例です。

海の生態系を守る仕組みとしては、国立公園の海域公園地区のほかにも海洋保護区(MPA)やラムサール条約湿地などがあり、これらが重なり合って日本の海のセーフティネットを形づくっています。

区分対象規制の例
特別保護地区公園の核心部(原生自然)動植物の採取・落葉落枝の採取まで原則許可制
第1〜3種特別地域重要な風景地建築・伐採・土地の形状変更などが許可制
普通地域緩衝帯大規模な工作物などは届出制
海域公園地区サンゴ礁・藻場・干潟など優れた海域サンゴ等の採取、埋め立てなどを規制
国立公園の主な地種区分(自然公園法にもとづく)

また、宿泊施設やキャンプ場、ビジターセンターなどの利用拠点は、公園内に無秩序に広がらないよう「集団施設地区」としてまとまった場所に集約されています。上高地や尾瀬の山ノ鼻のように、利用の拠点を絞り込むことで、その外側の広大な自然への影響を最小限に抑える。ゾーニングは「守る場所」を決める仕組みであると同時に、「楽しむ場所」を上手に設計する仕組みでもあるのです。

ここがポイント

  • 土地を買う代わりに「区分ごとの行為規制」で風景を守るのが地域制の核心
  • 核心部の特別保護地区では動植物の採取まで許可制
  • 2010年からは海域公園地区として海の景観・生態系も本格的に保護対象に

海とつながる国立公園——瀬戸内海から「ケラマブルー」まで

「国立公園=山」のイメージが強いかもしれませんが、日本の国立公園は最初から海とともにありました。1934年の第1号のひとつ瀬戸内海国立公園は、大小の島々が浮かぶ多島海の景観そのものが指定理由。島の暮らしや段々畑を含めた「人と海の風景」が、90年にわたって守られてきました。

慶良間諸島——27年ぶりの新規指定は「海の公園」だった

2014年3月5日に指定された慶良間諸島国立公園(沖縄県)は、1987年の釧路湿原以来27年ぶりの新規国立公園でした。陸域約3,520ヘクタールに対し、海域は約90,475ヘクタールと国内最大。「ケラマブルー」と呼ばれる透明度の高い海には多様なサンゴが高密度で生息し、冬にはザトウクジラが繁殖のためにやってきます。サンゴ礁が広がる水深30m以浅の海域約8,290ヘクタールは海域公園地区として重点的に保護されています。

サンゴ礁の海がどれほど豊かで、いまどんな危機にあるのかは、沖縄・南西諸島のサンゴ礁を守るの記事で詳しく解説しています。

三陸復興国立公園——震災からの再生を支える海の公園

2013年に誕生した三陸復興国立公園(青森・岩手・宮城)は、東日本大震災からの復興に貢献することを目的に、従来の陸中海岸国立公園を再編して生まれた、名前に「復興」を冠する唯一の国立公園です。リアス海岸の絶景と豊かな漁場、津波の記憶を伝える震災遺構をつなぐロングトレイル「みちのく潮風トレイル」は、青森県八戸市から福島県相馬市まで太平洋岸を歩いて縦断できる総延長1,000km超の道として整備され、歩く旅を通じて被災地に人と経済の循環を生み出しています。自然の脅威と恵みの両方に向き合う、日本の国立公園の新しい役割を示す存在です。

山から海へ——日高山脈襟裳十勝が示す新しい公園像

2024年に誕生した日高山脈襟裳十勝国立公園は、氷河地形を残す標高2,000m級の山脈から、森林、そして襟裳岬の海食崖と周辺海域までを「山から海まで」ひとつながりに指定した点が画期的です。山の森が川を通じて海を育てる——近年の生態学が明らかにしてきた「森里海のつながり」を、公園の区域設計そのものが体現しています。襟裳岬周辺は、かつて禿げ山になった土地に漁師たちが木を植えて昆布の海を取り戻した「緑の再生」の舞台としても知られています。

海を持つ国立公園の例

  • 瀬戸内海国立公園:世界有数の多島海景観。1934年指定の第1号のひとつ
  • 慶良間諸島国立公園:海域約9万haは国内最大。サンゴ礁とザトウクジラの海
  • 西表石垣国立公園:日本最大級のサンゴ礁海域「石西礁湖」を含む
  • 日高山脈襟裳十勝国立公園:山脈から襟裳岬の海まで一体で指定

現場を支える人々——レンジャーと地域の協働

広大な国立公園の現場を管理しているのが、環境省の自然保護官(レンジャー)です。日本でレンジャーの配置が始まったのは1953年、わずか12名から。現在は全国の国立公園などに配置され、開発行為の許認可、登山道や利用施設の管理、傷ついた自然の再生事業、外来種対策、自然観察会まで、幅広い仕事を担っています。

少数精鋭を支えるアクティブレンジャーと地域の力

とはいえ、国土の6.5%をカバーするには行政の人員だけでは足りません。現場ではレンジャーを補佐するアクティブレンジャーが巡視や利用者への声かけを行い、さらにパークボランティアとして登録した市民が自然解説や清掃活動、植生保護に参加しています。地域制公園である日本の国立公園は、そもそも地権者・農林漁業者・観光事業者・自治体の協力なしには成り立たない仕組み。「みんなで守る公園」であることが、日本型国立公園の本質です。

国立公園でレンジャーとボランティアが自然観察や巡視をしている様子
レンジャー・アクティブレンジャー・パークボランティア——多くの人の手が公園を支えている

生態系を脅かす外来種への対策も現場の重要な仕事です。世界自然遺産でもある小笠原国立公園では、島の植物を食い荒らすノヤギの排除や、固有の昆虫を捕食するグリーンアノール(外来トカゲ)の防除が長年続けられ、固有の生態系を取り戻す努力が実を結びつつあります。島や湖沼のような閉じた生態系では、たった一種の外来種が固有種を絶滅の淵に追い込むことがあり、地道な防除と持ち込ませない水際対策の両輪が欠かせません。

利用者との接点になるのが、各地のビジターセンターです。公園の成り立ちや生きものを展示や映像で紹介し、レンジャーや解説員が旬の自然情報を教えてくれる「公園の玄関口」で、子ども連れの自然学習の場としても人気があります。登山や観察に出かける前に立ち寄れば、安全情報も含めてその日の公園を何倍も深く楽しめます。

科学と協働で自然を「再生」する

現代の国立公園管理は「現状維持」にとどまりません。釧路湿原では蛇行河川の復元、阿蘇では草原の野焼き支援など、失われつつある自然を積極的に取り戻す自然再生事業が各地で進んでいます。サンゴ礁の海でも、石西礁湖(西表石垣国立公園)でサンゴ群集の修復が続けられてきました。守るだけでなく、科学の力で回復させる——国立公園は日本の自然再生の最前線でもあるのです。

観光と保護の両立——満喫プロジェクトとオーバーツーリズム

いま日本の国立公園は、かつてない観光の波の中にいます。政府が2016年に始めた「国立公園満喫プロジェクト」は、国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」としてブランド化し、訪日外国人を呼び込む取り組み。2016年3月にまとめられた政府の「明日の日本を支える観光ビジョン」で国立公園の訪日外国人利用者を1,000万人に増やす目標が掲げられたことを受けてスタートし、阿寒摩周や日光、慶良間諸島など8公園が先行モデルとなって、多言語案内や上質な滞在環境の整備が進められてきました。廃屋の撤去による景観改善や、自然を活かしたアクティビティの開発など、「保護のための投資を観光収入で支える」欧米型ナショナルパーク経営に学んだ取り組みが各地で続いています。

訪日利用者は過去最多を更新中

その成果もあり、国立公園を訪れる訪日外国人は2024年に約844万人と過去最多を記録。環境省の推計では2025年には約988万人に達し、コロナ禍前の2019年の約1.5倍にまで伸びています。人気トップは富士山を擁する富士箱根伊豆国立公園。日本の山と海の風景は、世界の旅行者を引きつける確かな観光資源になっています。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

混雑・マナー・自然への負荷にどう向き合うか

一方で、人気の集中はオーバーツーリズム(観光公害)の懸念も生んでいます。登山道の渋滞や踏み荒らし、ごみやし尿の処理、野生動物への餌付けなど、利用の増加は自然への負荷に直結します。富士山では2024年から吉田ルートで通行料の徴収と入山者数の上限設定が始まるなど、「入域料・協力金」「予約制」「人数制限」といった利用マネジメントを導入する動きが各地で広がっています。

気候変動への対応も国立公園の新しいテーマです。環境省は2021年から、公園内の観光地や集落ぐるみで脱炭素化に取り組む「ゼロカーボンパーク」の登録を進めており、中部山岳国立公園の乗鞍高原が第1号となりました。電気バスや再生可能エネルギーの導入を通じて、「国立公園を訪れること自体が環境にやさしい旅になる」姿を目指す取り組みです。

利用者から得たお金を自然の保全や施設の維持に還元する仕組みは、「楽しむこと」が「守ること」につながる回路をつくる試みです。保護と利用は対立するものではなく、うまく設計すれば互いを支え合える——90年前に「保護と利用」を同時に掲げた自然公園法の理念が、いま改めて試されています。

増える利用、増える負荷

  • 登山道の混雑・浸食、植生の踏み荒らし
  • ごみの持ち込み・放置、し尿処理のコスト増
  • 野生動物への餌付けや接近による生態系への影響
  • 対策として入域料・予約制・人数制限の導入が各地で進む

世界とつながる日本の国立公園——世界遺産・保護区ネットワーク

日本の国立公園は、国際的な自然保護の枠組みとも深く結びついています。世界自然遺産の屋久島、知床、小笠原諸島、奄美大島・徳之島・沖縄島北部及び西表島は、いずれもその中核部が国立公園(白神山地のみ自然環境保全地域が中核)。国立公園の厳格なゾーニングが、世界遺産の保護担保措置として機能しているのです。

30by30時代の国立公園

2022年に採択された昆明・モントリオール生物多様性枠組では、2030年までに陸と海の30%以上を保全する「30by30」目標が掲げられました。日本でもこの目標の達成に向けて、国立公園をはじめとする保護地域の拡張と質の向上が進められています。国立公園は、海洋保護区(MPA)や国定公園、ラムサール条約湿地などとともに、この国際目標を支える中核的な存在です。

「風景を守る」から「生態系を守る」へ

国立公園制度は、もともと「傑出した風景」を守るために生まれました。しかし現在では、風景の背後にある生態系そのもの、生物多様性そのものを守る役割が急速に大きくなっています。やんばるの森のヤンバルクイナ、慶良間のサンゴとザトウクジラ、日高山脈の氷河期の遺存種——35の公園は、日本の生物多様性を未来へ手渡すための「箱舟」でもあるのです。

国立公園が中核を担う世界自然遺産

  • 屋久島(1993年登録):屋久島国立公園
  • 知床(2005年登録):知床国立公園
  • 小笠原諸島(2011年登録):小笠原国立公園
  • 奄美・沖縄(2021年登録):奄美群島国立公園・やんばる国立公園・西表石垣国立公園

国立公園を楽しみ、守り手になる——私たちにできること

国立公園のいちばんの魅力は、誰でも訪れて楽しめることです。入園料は原則不要で、35の公園はどれも個性がまったく違います。まずは近くの国立公園を地図で探してみてください。実は通勤圏内に公園の境界がある、という人も多いはずです。

35公園、それぞれの楽しみ方

  • 知床(北海道):冬の流氷ウォークと、ガイドと歩く知床五湖の原生林
  • 中部山岳(長野・岐阜ほか):上高地の清流散策から北アルプス縦走まで
  • 富士箱根伊豆(山梨・静岡ほか):富士山の眺望、箱根の温泉、伊豆の海岸美
  • 瀬戸内海(11府県):多島海の夕景と、しまなみ海道の島めぐりサイクリング
  • 慶良間諸島(沖縄):ケラマブルーの海でのダイビングと冬のホエールウォッチング

山歩きが好きな人も、温泉でのんびりしたい人も、海に潜りたい人も、35の公園のどこかに必ず「自分の公園」が見つかります。大切なのは、楽しむことと守ることを切り離さないこと。地域のガイドツアーや宿を利用すれば、旅の支出がそのまま公園を支える地域の力になります。

訪ねるときの基本マナー

  • 動植物を採らない・傷つけない(特別保護地区では落ち葉ひとつも採取規制の対象)
  • ごみはすべて持ち帰る。野生動物に餌を与えない
  • 登山道・木道から外れない(高山植物や湿原は一度傷つくと回復に何十年もかかる)
  • 入域料・協力金の仕組みがある場所では積極的に協力する
  • ドローン撮影や大人数での利用は、各公園のルールを事前に確認する

「守る側」として関わる方法

もう一歩踏み込みたい人には、参加の入り口がたくさん用意されています。各地のパークボランティアや自然観察会、ビーチクリーン、サンゴや植生のモニタリング調査など、市民が公園を支える活動は年々広がっています。地域制公園である日本の国立公園は、行政だけでなく訪れる人・住む人みんなが守り手になれる仕組みです。

今日からできるアクション

  • 環境省「国立公園に、行ってみよう!」で近くの公園と見どころを調べる
  • 旅行の行き先を国立公園に決め、地元の宿・ガイドツアーを利用して地域にお金を落とす
  • ビジターセンターに立ち寄り、その公園の自然と保護の取り組みを知る
  • パークボランティアや自然観察会、清掃活動に参加してみる

この記事のまとめ

  • 日本の国立公園は35カ所・国土の約6.5%を占め、年間3億人以上が利用する
  • 1934年の瀬戸内海・雲仙・霧島から始まり、2024年の日高山脈襟裳十勝で90年・35公園に
  • 土地を買わず民有地ごと区域指定する「地域制公園」が日本の最大の特徴
  • 特別保護地区〜海域公園地区のゾーニングで、暮らしと保護を両立させている
  • 訪日利用者は2024年に約844万人と過去最多。入域料や人数制限など利用の設計が進む
  • 国立公園は世界遺産や30by30を支える基盤であり、誰もが守り手として参加できる

参考文献・出典

  1. 環境省「国立公園に、行ってみよう!」 – 国立公園の数・国土に占める割合・年間利用者数・歴史などの公式解説
  2. 環境省 報道発表資料 – 35か所目となる国立公園「日高山脈襟裳十勝国立公園」が誕生しました!(2024年6月25日)
  3. 環境省「自然公園法の概要」 – 自然公園法の目的・地域制公園の仕組み・地種区分の解説資料
  4. 環境省「国立公園・国定公園制度の概要」 – 地域制と営造物制の比較・土地所有割合など制度の基礎資料
  5. 環境省「慶良間諸島国立公園」 – 慶良間諸島国立公園の公式ページ(指定の概要・海域公園地区)
  6. 環境省「2025年の国立公園の利用動向について」 – 国立公園の訪日外国人利用者数の推計(2026年3月公表資料)
  7. 生物多様性センター「国立公園の区域」 – 国立公園の区域・地種区分に関する基礎データ
  8. 東京都環境局「自然公園とは」 – 自然公園の体系(国立・国定・都道府県立)の解説
  9. nippon.com「国立公園に最多の844万人」 – 2024年の国立公園訪日外国人利用者数に関する報道(環境省発表にもとづく)

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