⚡ 30秒でわかる答え
- 日本のEEZには熱水鉱床・団塊・レアアース泥があるが、現時点は調査・試験の段階で商業採掘は始まっていない。
- 2026年2月、南鳥島沖で水深約5,600mからのレアアース泥採取に成功と発表され、2027年2月に本格試験が計画されている。
- 深海採掘は生息地の破壊・泥の雲・騒音などを招き、団塊は数百万年かけて育つため回復が難しい。
- CCZでは動物約5,578種のうち学名があるのは436種のみで、影響評価の基礎データが不足している。
スマートフォンや電気自動車に欠かせないレアメタル。その新たな供給源として、日本の海の深い底が注目されています。海底に眠る資源は、本当に「国産資源」になるのでしょうか。
2026年には南鳥島沖で水深約5,600mの泥の採取に成功したと発表され、期待が高まりました。一方、深海は地球上でもっとも調べられていない環境で、そこに暮らす生きものの大半は名前すら付いていません。
この記事では、マンガン団塊、海底熱水鉱床、レアアース泥の現状と、深海採掘が生態系に与えるリスクを、公開情報にもとづいて整理します。
この記事で学べること
- 海底資源4タイプの特徴と日本周辺での分布
- 南鳥島沖レアアース泥の現状と課題
- 深海採掘が生態系に与える4つのリスク
- CCZの生物多様性と未記載種の多さ
- ISAや米国など国際ルールの動き
- 代替手段を含めた資源との付き合い方
海底資源とは何か:日本が注目する4つのタイプ
陸の資源に乏しい日本と「海の鉱山」
日本は金属資源の多くを輸入に頼っています。スマートフォン、電気自動車のモーター、風力発電機、半導体といった現代の技術には、レアアース(希土類)やコバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの金属が欠かせません。ところが、これらの供給は特定の国に偏りがちで、国際情勢によって価格や調達のしやすさが大きく揺れます。そこで注目されているのが、日本の広い排他的経済水域(EEZ)の海底に眠る資源です。
日本の国土面積は約38万平方キロメートルですが、領海とEEZを合わせた海域は世界でも有数の広さを持ちます。その海底には、メタンハイドレート、海底熱水鉱床、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、そしてレアアース泥といった多様な資源の存在が確認されています。
海底鉱物資源の4つのタイプ
| タイプ | 主な成分 | できる場所 | 水深の目安 |
|---|---|---|---|
| 海底熱水鉱床 | 銅・鉛・亜鉛・金・銀など | 海底火山や海嶺周辺の熱水噴出域 | 数百〜数千m |
| マンガン団塊 | マンガン・ニッケル・コバルト・銅 | 深海の平坦な堆積物の上 | 約4,000〜6,000m |
| コバルトリッチクラスト | コバルト・ニッケル・白金など | 海山の斜面や頂部の岩盤 | 約800〜2,400m |
| レアアース泥 | イットリウムなど重希土類 | 深海底の堆積物(泥) | 約5,000〜6,000m |
この記事では、とくに注目度の高いマンガン団塊、海底熱水鉱床、レアアース泥を中心に、国産資源としての期待と、深海採掘が生態系に与えるリスクの両面を整理します。
「国産資源」への期待が高まった背景
資源の輸入依存を減らす「資源安全保障」の考え方は、近年さらに重みを増しています。海底資源が国内の海域で見つかれば、調達先の偏りというリスクを和らげられる可能性があります。一方で、深海は地球上でもっとも調べられていない環境の一つで、そこに住む生きものの多くは名前さえ付いていません。資源の「取り出しやすさ」と環境への「取り返しのつかなさ」を同じテーブルに並べて考えることが、この記事のテーマです。
この記事のポイント
- 海底資源には熱水鉱床・団塊・クラスト・レアアース泥の4タイプがある
- 期待される価値と、深海生態系への影響の両方を見る必要がある
- 現時点の日本は「試験・調査の段階」で、商業採掘は始まっていない
マンガン団塊:深海底に転がる「金属の石」
マンガン団塊の正体
マンガン団塊(マンガンノジュール)は、ジャガイモほどの大きさの黒っぽい塊で、深海底の泥の上に点々と転がっています。核になる小さな岩片や貝殻の欠片のまわりに、海水や堆積物の中の金属成分が少しずつ付着し、玉ねぎのように層を重ねて育ちます。その成長は非常にゆっくりで、100万年あたり数ミリメートル〜数十ミリメートル程度とされます。
団塊にはマンガンのほか、ニッケル、コバルト、銅などが含まれます。電気自動車の電池に使われる金属を含むため、国際的に関心が高まってきました。
世界最大の産地、クラリオン・クリッパートン海域
商業的な関心がもっとも集まっているのが、ハワイとメキシコの間に広がる太平洋のクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)です。広さは日本の国土の十数倍にあたる範囲に及び、国際海底機構(ISA)が各国や企業に探査契約を与えています。
日本のEEZにもある団塊
日本でも、南鳥島周辺のEEZ内でマンガン団塊が密集する海域が報告されています。コバルトやマンガン、ニッケルを多く含む団塊が広く分布していることは、レアアース泥を発見した東京大学のグループによっても2016年に確認されたと報じられています。ただし、これらは調査の段階であり、採掘が計画されているわけではありません。

団塊は「生きものの住み処」でもある
団塊は金属の塊であると同時に、深海では数少ない硬い足場です。柔らかい泥だらけの海底では、海綿やサンゴの仲間、ホヤなどが団塊の表面に付着して暮らしています。団塊を集めて持ち上げるということは、この生きものたちの住み処を丸ごと奪うことを意味します。団塊が育つのに数百万年かかることを考えると、一度失われた生息環境は、人間の時間感覚では元に戻りません。
豆知識:団塊が育つ速さ
- 髪の毛が伸びる速さよりずっとゆっくり、年に1ミリの何万分の一というペースで成長する
- 直径10cmの団塊には、数百万年分の時間が詰まっている
海底熱水鉱床:沖縄トラフの「黒い煙突」
熱水鉱床はどうやってできるのか
海底の火山活動が活発な場所では、海水が地下深くにしみ込み、マグマの熱で数百度に温められて、金属成分を溶かし込みながら再び噴き出します。この熱水が冷たい海水に触れると、金属が硫化物の粒子として一気に沈殿し、煙突のような構造(チムニー)や、周囲に積み重なった鉱床をつくります。これが海底熱水鉱床で、銅・鉛・亜鉛のほか、金や銀を含むことがあります。
日本周辺では沖縄トラフと伊豆・小笠原海域
日本では、沖縄トラフの伊是名海穴(いぜなかいけつ)などで有望な鉱床が確認されてきました。水深は約1,000〜1,600mと、他の深海資源に比べると浅めです。経済産業省の資料などによれば、伊是名海穴では当初想定を超える規模の鉱体が見込まれるとされています。
2017年の世界初の揚鉱試験
JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)は、2017年8月から9月にかけて沖縄海域で採鉱・揚鉱のパイロット試験を行いました。水深約1,600mの海底から、鉱石と海水の混ざった流れを連続して引き上げることに世界で初めて成功しました。一方で、揚鉱ポンプの摩耗が大きいなど、機器の耐久性や運転の最適化に多くの課題が残ることも明らかになりました。

熱水域の生きものは独自の世界
熱水噴出域には、太陽光ではなく、熱水に含まれる硫化水素などの化学エネルギーを利用する細菌がいます。この細菌を土台にして、シンカイヒバリガイやユノハナガニ、ハオリムシの仲間などが暮らしており、他の場所にはいない固有の生態系ができています。採掘によって噴出孔や周辺の地形が変わると、直接生息場所が改変されることが、環境影響評価の枠組みでも想定されています。
ただし、すでに活動を終えた「死んだ」熱水鉱床と、いまも熱水が噴き出す活動中の熱水域とでは、生態系の状況がまったく異なります。どの鉱床を対象にするか、活動域をどう避けるかは、環境配慮の大事な論点です。
レアアース泥:南鳥島沖で進む世界初の挑戦
2011年の発見と「泥」という新しい資源
レアアース泥は、東京大学の研究グループが2011年に発表した、太平洋の深海底の泥にレアアースが高濃度で含まれているという研究で一躍注目されました。レアアースは陸上の鉱山では特定の地域に偏って産出されますが、深海の泥は広い範囲に広がっているため、日本の南鳥島周辺のEEZで見つかったことが「国産資源」への期待を大きく高めました。
2026年、水深約5,600mからの泥の採取に成功
内閣府主導のプロジェクトで、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の地球深部探査船「ちきゅう」が、2026年1〜2月に南鳥島沖で泥の採取試験を実施しました。報道によると、2026年2月2日に水深約5,600mの海底から泥の採取に成功したと発表されています。深海底の泥を船上へ吸い上げる試みは、世界でも前例の少ない挑戦です。
次の段階として、2027年2月に1日あたり約350トンの泥を採取する本格的な試験が計画されています。なお、報道では採取水深が「約5,600m」「約6,000m」と表記が分かれているため、正確な数値は一次資料での確認が必要です。
成分分析と商業化への課題
2026年夏には、採取した泥の成分分析に関する報告が公表されました。第一生命経済研究所のレポートによれば、レアアース総量のうち約54%を、イットリウム、ガドリニウム、ジスプロシウムなどの中重希土類が占めるとされています。中重希土類は、高性能磁石や電子部品などに使われる重要な元素群です。
ただし、今回の試験は機器の接続や作動の確認が中心で、産業レベルでの連続稼働を証明するものではありません。濃集帯の分布の把握、採掘や精錬のコスト、そして環境影響の評価といった課題が残っています。国の資料でも、採掘技術・採算性・資源量評価・環境影響の4点が主要な課題として挙げられています。

| 時期 | できごと |
|---|---|
| 2011年 | 東京大学グループが深海のレアアース泥を発表 |
| 2017年 | 沖縄海域で海底熱水鉱床の揚鉱パイロット試験(世界初) |
| 2023年 | CCZの動物種数をまとめたチェックリストが公表 |
| 2025年 | ISAで採掘規則の最終化に至らず/米国が大統領令で推進 |
| 2026年2月 | 南鳥島沖でレアアース泥の採取試験に成功と発表 |
| 2027年2月(予定) | 1日約350トン規模の本格採取試験を計画 |
関連記事として、深海に広がる環境汚染の問題は深海のプラスチック汚染でも取り上げています。
深海採掘が生態系に与える4つのリスク
リスク1:生息場所の直接的な破壊
採掘機が海底を走り、団塊や鉱石を集めれば、そこに住んでいた生きものは巻き込まれるか、住み処を失います。団塊に付着していた動物は、団塊とともに取り除かれます。熱水域でも、固有の生きものの生息地が改変される恐れがあります。
リスク2:堆積物のプルーム(泥の雲)
採掘では海底の泥が巻き上げられ、細かな粒子が雲のように広がります。これはプルームと呼ばれ、海底付近を漂いながら遠くまで運ばれ、やがて降り積もって生きものの呼吸や摂食を妨げる可能性があります。さらに、採掘した鉱石を船上で処理したあとの排水を海へ戻す場合は、中層の生態系に影響が及ぶことも懸念されています。

リスク3:騒音・光・振動
静かで真っ暗な深海に、重機の音と強い照明が持ち込まれます。深海の動物の中には、音や光に敏感なものも多く、移動や繁殖への影響が心配されています。ただし、深海の騒音が生物に与える影響の研究はまだ少なく、よく分かっていない部分が大きいのが現状です。
リスク4:回復に必要な時間
ドイツの研究チームが1989年に南太平洋ペルー沖で行ったDISCOL実験では、団塊採掘を模して海底を耕し、その後の様子を追跡しました。1992年、1996年、2015年と調査が続けられ、2016年に発表された論文「Return to DISCOL」では、実験から26年が経過した時点の姿が報告されています。深海は変化がゆっくりなため、影響の痕跡も長く残る可能性があり、数十年スケールで追跡しなければ回復の有無を判断できません。
深海は「わからないこと」が多い
- 生きものの多くが未記載で、影響を予測するための基礎データが足りない
- いったん失われた団塊や熱水域の生態系は、人間の時間では戻らない可能性がある
- 「影響が小さい」と言い切るためのデータはまだ十分とは言えない
関連して、深海の生きものがどのように極限環境に適応しているかは深海生物の適応のしくみも参考になります。
CCZで見えてきた生物多様性
5,578種、そのほとんどが名前のない動物
2023年、ロンドン自然史博物館のMuriel Rabone氏らの研究チームは、CCZで確認された動物の記録をまとめたチェックリストを学術誌Current Biologyに発表しました。10万件を超える過去の調査記録を集めた結果、約5,578種の動物が記録され、そのうち正式な学名がついているのは436種にとどまりました。つまり、およそ9割が科学的に未記載であり、推定される種のうち約92%は新種の可能性があるとされます。
さらに、記録された種のうち、CCZ以外の海で見つかっているのはわずか6種にすぎません。これは、CCZの生物が非常に固有性が高く、一度失えば他の場所から補えない可能性を示唆します。
| 指標 | 数値(2023年のチェックリスト) |
|---|---|
| 記録された動物種 | 約5,578種 |
| 正式な学名があるもの | 436種 |
| 未記載(新種の可能性)の割合 | 約88〜92% |
| CCZ以外でも確認された種 | 6種 |
調査が追いつかないまま進む開発計画
研究者たちは、採掘の影響を評価する前提として、まず何がいるのかを把握する必要があると指摘します。名前のない生きものが多すぎて、影響が出ても「何が減ったのか」を証明することさえ難しいからです。南鳥島周辺の日本のEEZでも、同様に基礎的な調査の積み重ねが求められます。

国際ルールと各国の動き
公海の海底はだれのものか:国際海底機構(ISA)
国家の管轄権が及ばない公海の海底(「区域」)の鉱物資源は、国連海洋法条約のもとで「人類の共同の財産」と位置づけられています。その開発を管理するのが、ジャマイカに本部を置く国際海底機構(ISA)です。ISAは探査の契約を与えていますが、商業採掘のための規則(採掘規則)は長く議論が続いており、2025年7月の会合でも最終化には至らなかったと報じられています。
米国の動き
2025年4月、米国のトランプ大統領は、重要鉱物へのアクセス強化を目的とした大統領令に署名し、海底鉱物開発を進める方針を示しました。同月、米企業のThe Metals Companyも、ISAでの交渉の遅れを理由に、米国海洋大気庁(NOAA)へ商業採掘の許可申請を出したと報じられています。ISAのカルボーリョ事務局長は、国際水域の資源を一国が単独で許可することへの懸念を示しています。
日本の位置づけ
日本の取り組みは、主に自国のEEZ内での調査・試験です。2026年3月には日米が深海採掘に関する協力覚書に署名したと伝えられていますが、法的拘束力はなく、科学や技術に関する情報共有の枠組みとされています。国内EEZなら日本の法令で環境影響評価を行えますが、公海での開発と同様に、環境保護との両立が求められる点は変わりません。
公海とEEZのちがい
- EEZ:沿岸国が資源の開発と環境保護を管理する
- 公海の海底:ISAが国際的に管理し、利益は人類共通のものとされる
期待とリスクをどう天秤にかけるか
資源として得られるもの
- 輸入依存の軽減:特定国への偏りを緩和できる可能性
- 電池・磁石など成長産業に必要な金属の確保
- 国内での産業・雇用・技術の蓄積
環境・社会が失うもの
- 深海生態系の固有種と、その未発見の可能性
- 漁業資源や海の炭素循環への間接的な影響
- 長期に回復しない環境の不可逆的な変化
代替の選択肢も同時に考える
深海採掘に頼る前に、使用済みの電池や電子機器から金属を取り出す都市鉱山の活用、資源をあまり使わない電池技術の開発、製品の長寿命化といった選択肢も重要です。国産資源の確保と環境保全は、どちらか一方ではなく、複数の手段を組み合わせて検討するものといえます。
私たちにできること
- スマートフォンや家電を長く使い、小型家電をリサイクルに出す
- 深海採掘のニュースを、環境と資源の両面から読む
- 国や研究機関が公開する環境影響評価の情報に関心を持つ
行動のヒント
- 使わなくなった小型家電は自治体の回収やリサイクルボックスへ
- 資源と環境の話題を家族や友人と話題にしてみる
まとめ:「取れる」と「取ってよい」は別の問い
海底資源は、日本にとって魅力的な可能性を秘めています。2026年にはレアアース泥の採取に成功し、2027年には本格的な試験が計画されています。しかし、これは「取れるかどうか」を確かめる段階であり、「環境への影響を許容できるか」「採算が合うか」という問いにはまだ答えが出ていません。
深海の生きものの大半がまだ名前を持たない現状では、慎重な調査と透明な情報公開が欠かせません。技術の挑戦と環境への配慮を両立させるために、私たち一人ひとりが関心を持ち続けることが大切です。
この記事のまとめ
- 海底資源には熱水鉱床・団塊・クラスト・レアアース泥があり、日本は調査・試験段階
- 主なリスクは生息地破壊・プルーム・騒音・長期の回復の遅さ
- CCZでは約5,578種のうち学名があるのは436種のみ
- 国際ルールは未確定で、各国の動きが先行している
- 代替手段(都市鉱山・リサイクル)も合わせて考える
参考文献・出典
- 内閣府 戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)資料 – 海洋安全保障プラットフォーム・レアアース泥
- 資源エネルギー庁 海底熱水鉱床 – 海底熱水鉱床の概要
- 資源エネルギー庁 海底熱水鉱床パンフレット – 開発の仕組みと資源量
- 環境省 環境影響評価情報支援ネットワーク – 海底熱水鉱床の環境影響評価の枠組み
- 国際海底機構(ISA) – 公海の海底の管理・採掘規則の議論
- Rabone et al. (2023) Current Biology – CCZの動物種チェックリスト
- 米国議会調査局(CRS)Seabed Mining in the Clarion-Clipperton Zone – CCZでの海底採掘と米国の動き
- Pew Charitable Trusts – CCZの保護区(APEI)と採掘規則
- Gibson Dunn:日米の深海採掘協力覚書 – 2026年3月の日米覚書の概要
- GEOMAR(DISCOL実験関連) – 深海採掘模擬実験の追跡調査
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア