232万t
国内の水産加工残さ発生量(年間・農林水産省2022)
44%
食用魚介類に対する魚あらの発生割合
9%
世界の水産物のうち魚粉・魚油に回る割合(2020年)

かまぼこや缶詰、刺身用の切り身を作る過程で、魚の身の全部が製品になるわけではない。皮や骨、内臓、頭、エラといった「魚あら」が必ず残る。その量は日本国内だけで年間232万トン(農林水産省「令和4年度食料需給表」)にのぼり、これは私たちが実際に食べる水産物(純食料259万トン)に迫る規模だ。国内消費仕向量654万トンのうち約8割が食用に供される一方、残りの非可食部分がまるごと魚あらとして排出されている計算になる。

かつては廃棄コストと悪臭・衛生問題の種でしかなかったこの魚あらが、いま魚粉・魚油、フィッシュ・サイレージ、バイオガス、コラーゲンやキチンといった高付加価値素材の原料として見直されている。水産加工業にとっては廃棄コストの削減、地球にとっては資源循環という、双方にメリットのある取り組みだ。国連食糧農業機関(FAO)と欧州連合の共通漁業政策(EU-CFP)では「何を優先すべきか」という考え方に興味深い違いもある。

この記事では、魚あらがどこからどれだけ発生し、どのように資源化されているのか、国内外の実例と学術研究に基づいて整理する。スーパーで水産加工品を手に取るとき、その裏側で進む資源循環の取り組みを知るきっかけになれば幸いだ。

この記事で学べること

  • 水産加工残さ(魚あら)とは何か、どこからどれだけ出ているか
  • 魚粉・魚油、フィッシュ・サイレージ、バイオガス化など処理方法の種類と違い
  • コラーゲン・キチンなど高付加価値素材への転換事例
  • 国内の水産加工団地・企業が実際に行っている資源化の工夫
  • FAOとEUで異なる「何を優先するか」という考え方の違い
  • 廃棄ゼロに向けて残っている課題

魚あらとは何か——発生源と量的な大きさ

「魚あら」とは、魚介類を食用に加工した際に残る非可食部分の総称で、頭・骨・皮・内臓・エラなどを指す。学術的には「水産加工残滓」と呼ばれ、水産庁や研究機関の統計・報告でもこの語が使われる。大東文化大学の山下東子氏の研究(『地域漁業研究』第64巻第2号、2024年)によると、日本の国内消費仕向量654万トン(2022年)のうち約8割が食用に供されるが、非可食部分が魚あらとなるため、国内消費仕向量の35%、食用魚介類の44%に相当する232万トンが魚あらとして排出されている。

この量がどれほど大きいかは、最終的に人間の食料として消費される「純食料」259万トン(同年)と比べるとわかりやすい。魚あらの発生量は、私たちが実際に食べる水産物の量にほぼ匹敵するのだ。言い換えれば、魚を1匹「食べる」ごとに、それに近い量の非可食部分が加工の現場で発生していることになる。

発生源は「加工場あら」と「都市あら」の2種類

魚あらは発生する場所によって性質が異なる。静岡県焼津市・清水市や鹿児島県枕崎市など、カツオ・マグロといった単一魚種を集中的に加工する水産加工団地から出る「加工場あら」は、数量と部位が一定で鮮度も高く、良質な餌飼料・原料になりやすい。一方、都市部の卸売市場・量販店・飲食店から出る「都市あら」は回収業者を通じて利用されるものの、鮮度や組成の安定性で加工場あらに劣る傾向がある。

貝殻も広い意味での魚あらに含まれる

魚あらというと魚の部位を思い浮かべがちだが、ホタテ殻やカキ殻といった貝殻も同じ枠組みで扱われる。日本ではこの2種類が主で、ほとんどが生産地に近い加工現場で発生する。ホタテ殻はカキ養殖の種付け資材に、カキ殻は「シェルナース」という製品名で魚礁として使われるほか、どちらもカルシウムサプリや土壌改良材の原料になる。魚あらは日本では何らかの形で二次利用され、廃棄は最小限にとどまっている一方、家庭から出る魚あらだけは、各自がコンポストで利用しない限り廃棄物にならざるを得ない。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

「食品ロス」と「魚あら」はどう違うのか

このメディアでもたびたび取り上げてきた「食品ロス」(本来食べられるのに廃棄される食品)と、この記事のテーマである「魚あら」は、しばしば混同されるが別の概念だ。魚あらは頭や骨、内臓など、そもそも人間が通常は食べない非可食部分を指す。一方、食品ロスは可食部分でありながら廃棄されるものを指す。山下(2024年)によると、日本における食品ロスは食用魚介類の4%と推計されている一方、FAOは世界の食品ロスを食用魚介類の50%以下と推計しており、この差はかなり大きい。

数量として比べると、食品ロスより魚あら(加工副産物)のほうが多い傾向にあると推察される。つまり、水産物の廃棄問題を考えるうえでは、「食べられるのに捨てられる」食品ロスの削減だけでなく、「そもそも食べない部分」である魚あらをどう有効活用するかという視点も欠かせない。この記事が扱うのは、まさに後者の課題だ。

魚粉・魚油——もっとも定着した資源化ルート

魚あらの有効利用としてもっとも歴史が長く、応用範囲が広いのが魚粉(フィッシュミール)・魚油への加工だ。魚あらを乾燥・粉砕して作る魚粉は、養殖魚用の高級飼料から畜産用飼料、農業用肥料まで、品質に応じて幅広い用途に使われる。餌飼肥料は品質と組成によって用途が異なり、もっとも品質の高いものが養殖魚類の餌になる。魚あらから品質の高い餌飼肥料を作るには、鮮度が高いことと組成が一定であることが必要で、これを満たしやすいのが前述の「加工場あら」だ。

水産庁がまとめた全国魚粉製造業者名簿には、全国67社(2010年時点)の魚粉製造業者が登録されている。かまぼこ工場などの水産加工残さを原料に魚粉を製造する企業の例として、三幾飼料工業(宮崎県)は、水産加工場から出る魚あらの回収・運搬から製造・製品化までを一貫して手がけている。天然資源への負荷を抑えた魚粉製造という観点でも、こうした「魚あらを原料とする」魚粉製造は、丸魚をそのまま加工する魚粉製造とは異なる意義を持つ。

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餌飼肥料には品質のランクがある

魚あらから作られる餌飼肥料は、品質と組成によって用途のランクが分かれる。もっとも品質が高いものは養殖魚類の餌となり、それに次ぐものは畜産飼料、もっとも品質を要求されないものは農業用肥料に回される。この序列は、魚あらの鮮度と組成の一定性にどれだけ配慮できるかで決まる。鮮度が高く組成が安定した「加工場あら」は上位のランクに、鮮度や組成が不安定な「都市あら」は下位のランクに向かいやすいという構造がある。

  • 最上位:養殖魚類用飼料(高い鮮度・安定した組成が必須)
  • 中位:畜産飼料(豚・鶏など)
  • 下位:農業用肥料(土壌改良材としての利用も含む)

魚粉製造にもエネルギーコストがかかる

ただし魚粉製造は乾燥・粉砕工程に動力を要する装置産業であり、連続的な燃焼から温室効果ガスも発生する。魚あらをそのまま養殖池に投入して餌にする方法や、後述するフィッシュ・サイレージと比べると、環境負荷の面で必ずしも優位とは言えない場合もある。魚あらをそのまま養殖池に放り込んで魚に食べさせる方法にも、食べ残しが底にたまってヘドロ化したり栄養価の管理ができなかったりする問題があり、どちらの方法が優先されるべきかは一概には決められない。

加工用途は魚粉だけではない

魚あらの加工用途には、魚粉以外にも「フィッシュ・サイレージ」「食用への転換」「加工せずそのまま利用」という選択肢がある。それぞれ必要な設備や手間、生み出される付加価値が異なるため、加工場の規模や立地、対象とする市場によって最適な選択肢は変わってくる。次章以降で、これらの処理方法を順番に見ていく。

フィッシュ・サイレージ——設備を使わない発酵処理

FAOが途上国向けに普及を進めているのが「フィッシュ・サイレージ(魚のサイロ)」と呼ばれる手法だ。魚あらを新鮮なうちに細かく砕き、容器(サイロ)に入れて少量の有機酸を加え、時々かき混ぜるだけで、熱帯域なら数週間、寒帯域でも数か月のうちに、たんぱく質強化サプリとして家畜飼料に添加したり、土壌に撒いて肥料として使ったりできる粘度のある液体になる。サイロには魚あらを発生の都度追加投入することもでき、直射日光の当たらない場所に置いておくだけでよい。

  • 電力・動力インフラが乏しい水産加工場でも導入できる
  • 投入前に細かく砕く手間と、時々の攪拌が必要
  • 温湿度管理のための装置は不要で、初期設備投資がほぼかからない
  • 熱帯域では数週間、寒帯域では数か月で利用可能な液体になる

この技術を普及させるため、FAO(2021年)はバングラデシュ・フィリピン・タイでケーススタディを実施し、フィッシュ・サイレージの利用実態や今後の利用意向を調査した。その結果、「フィッシュ・サイレージは簡便で良い方法なので機会があれば導入したい」という前向きな声がある一方、実際にはすでに他の方法で魚あらが活用されている実態も明らかになった。

各国での活用状況の違い

例えばバングラデシュではエビの頭が食用として有償で流通しており、タイではエビあらを医療・美容素材のキチン生産に向けるだけでなく、エビせんべいとして食用に供し始めている。フィリピンでは魚の骨をスナック菓子に、内臓をソースに利用する事例も報告されている。フィッシュ・サイレージはあくまで選択肢の一つであり、地域の食文化や既存の流通網によって、実際に選ばれる処理方法は多様になる。

魚粉との使い分け

フィッシュ・サイレージと魚粉は、どちらも魚あらを飼肥料に変える方法だが、性格は異なる。魚粉は乾燥固体のため移動や貯蔵がしやすく、品質と組成に応じて養殖飼料から農業用肥料まで幅広い用途に対応できる応用範囲の広さが強みだ。一方フィッシュ・サイレージは、乾燥・粉砕といった大掛かりな設備投資も動力もほとんど必要とせず、電力インフラが整っていない地域でも導入できる手軽さが強みになる。どちらが優れているというより、加工場の規模や立地する地域のインフラ状況によって、適した方法が変わってくると捉えるのが実態に近い。

バイオガス化・堆肥化——エネルギーへの転換

魚あらは有機物であるため、メタン発酵によるバイオガス化の原料にもなる。生ごみや畜産廃棄物と混合してメタン発酵させ、発電や熱利用に使う取り組みは国内外の自治体・企業で進んでいる。環境省の「漁業系廃棄物処理ガイドライン」でも、魚あらを含む漁業系廃棄物の適正処理・再資源化の方針が示されている。バイオガス化は、単に廃棄物を減らすだけでなく、地域のエネルギー自給にも貢献しうる点で、他の処理方法とは異なる価値を持つ。

バイオガス化のメリットと制約

  • 生ごみ・畜産糞尿など他の有機性廃棄物と混合処理できるため、地域の資源循環拠点になりやすい
  • 発生したガスは発電・給湯・都市ガス代替として利用可能
  • 一方で、魚あら特有の高い塩分・脂質濃度が発酵槽の微生物活動を阻害することがあり、前処理や希釈が必要になる場合がある
  • 初期設備投資が大きく、単独の中小加工場では導入のハードルが高い

そのため実際には、複数の水産加工場が共同で処理施設を運営したり、地域の生ごみ処理施設に魚あらを持ち込んだりする形での導入が現実的な選択肢となっている。水産加工団地のように加工場が集積している地域では、共同処理のスケールメリットが働きやすく、バイオガス化の導入も進めやすい。逆に加工場が分散している地域では、収集・運搬のコストが導入のネックになりやすい。

堆肥化という選択肢

バイオガス化と並んで検討されるのが堆肥化だ。魚あらを他の有機物と混合して発酵させ、農業用の堆肥として利用する方法で、バイオガス化ほどの設備投資を必要としない場合が多い。ただし塩分濃度が高い魚あらをそのまま堆肥化すると土壌に悪影響を与える可能性があるため、希釈や脱塩処理などの工夫が必要になる。

国内の実例:牧之原バイオガス発電所

静岡県牧之原市にある牧之原バイオガス発電所は、1日あたり約80トンの食品廃棄物を処理する施設で、野菜くずや魚・肉の残さといった固形物、乳製品加工工場などから出る液状の廃棄物、汚泥状のものと、性状に応じて3種類に分別してメタン発酵槽に投入している(自然エネルギー財団、2018年)。水産加工残さ単独での専用施設は国内でまだ少ないものの、こうした食品廃棄物全般を受け入れる施設に魚あらを混合投入する形での資源化は各地で広がりつつある。

バイオガス化のもう一つの利点は、発酵後に残る消化液を液肥として農地に還元できる点だ。焼却処分に比べてエネルギーを取り出しながら廃棄物量を減らせるため、地域内でエネルギーと肥料の両方を循環させる仕組みを作りやすい。ただし消化液の需要先となる農地の確保や、季節による排出量の変動への対応など、運用面での調整も必要になる。

コラーゲン・キチンなど高付加価値素材への転換

魚の皮や骨、エビ・カニの殻には、コラーゲン、コンドロイチン、キチン・キトサンといった医療・美容分野で需要の高い成分が含まれる。これらを抽出・精製する「高度利用」は、魚粉よりも高い付加価値を生み出せるため、近年注目が集まっている。

欧州連合の共通漁業政策(EU-CFP)は、魚あらの処理について循環型バイオエコノミーとゼロエミッションを最終目標に掲げている。Coppola et al.(2021年、Marine Drugs誌)によると、廃棄量の劇的な削減とその先の廃棄禁止が当面の目標とされ、直接餌料や肥料として投入することや、従来型のミール・肥料・魚油の生産は、付加価値が低すぎるという理由で積極的には奨励されていない。代わりに、不飽和脂肪酸、コラーゲン、ペプチド、キチンといった高付加価値成分を製造するための素材として魚あらを利用すべきだという方針が打ち出されている。

タイのエビ殻加工にみる高度利用の実例

FAO(2021年)の調査によると、タイのエビ加工業では固形物の廃棄がほとんどないとされ、エビ殻の用途として多い順に、天然カロテンタンパク質やキトサンを生産する医療・美容原料向けの用途、飼料用途、そして近年はエビ殻を使ったスナック菓子など食用利用も登場している。エビあらには食用および医療・美容用の両方で高いポテンシャルがあることがわかる。

処理方法必要な設備主な用途
フィッシュ・サイレージ容器のみ(動力不要)家畜飼料添加、肥料
魚粉・魚油乾燥・粉砕装置(動力必要)養殖飼料、畜産飼料、農業肥料
バイオガス化メタン発酵槽(大規模設備)発電、熱利用、都市ガス代替
コラーゲン・キチン抽出精製・分離装置(専門設備)医療・美容素材、健康食品
魚あら処理方法別の設備要件と用途の比較
水産加工残さから抽出されたコラーゲンやキチンの原料イメージ
魚の皮やエビ・カニの殻からは、コラーゲンやキチンといった高付加価値成分が抽出できる

高度利用でも「廃棄ゼロ」にはならない

注意したいのは、コラーゲンやキチンといった高度利用の対象となるのは魚あら全体のごく一部の成分にすぎないという点だ。成分抽出後には二次的な加工残さが再び発生する。これを廃棄せず、魚粉などの形でさらに有効利用できなければ、ゼロエミッションを目指す環境保全の観点からは未完成なフードシステムだと言わざるを得ない。高度利用と従来型の魚粉加工は、置き換えの関係ではなく、組み合わせて使うべき関係にあるといえる。

国内の食品・健康食品メーカーによる魚由来コラーゲン

日本国内でも、水産加工の過程で出る魚の皮やウロコからコラーゲンを抽出し、健康食品やサプリメントの原料として商品化する動きが進んでいる。明治は、魚のウロコと皮からカルシウム分を取り除いて精製した「フィッシュコラーゲン(アミノコラーゲン)」を製品展開しており、豚や牛由来のコラーゲンと並ぶ選択肢として位置づけている。魚由来コラーゲンは分子量が比較的小さく吸収性に優れるとされ、宗教上の理由や食習慣で豚・牛由来を避ける消費者向けの選択肢としても需要がある。

こうした高度利用製品は、単価としては魚粉よりはるかに高い。ただし前述の通り、魚あら全体のうちコラーゲンやキチンとして抽出できる成分はごく一部にすぎず、抽出後に残る残さは改めて魚粉なり他の用途で処理する必要がある。高度利用は魚あら処理の「置き換え」ではなく、魚粉やフィッシュ・サイレージといった従来の処理方法と併用しながら、資源全体の付加価値を底上げしていく手段と捉えるのが実態に近い。

国内の水産加工現場に見る創意工夫

静岡県焼津市の老舗鰹節製造会社・株式会社金虎は、水産加工団地内の廃棄物共同処理場に他社が持ち込んだ新鮮なカツオあらに着目し、自社のカツオ節焙煎装置にかけて調味料添加物として使える「練節」を製造したり、焙煎前段階の練り製品からペットフードを生産したりしている。本業から出る自社の加工残さを処理する必要に迫られてではなく、他社の加工残さを見て有効利用のヒントを見つけ出した点が興味深い(山下、2024年ヒアリングに基づく)。

焼津市には水産加工業者が集積する「焼津水産ブランド」という枠組みもあり、地域を挙げて水産加工の付加価値向上に取り組む土壌がある。金虎のような個社の工夫が地域内で共有され、他の加工業者の取り組みにも波及していく構造は、水産加工団地ならではの強みといえる。

このブランドを見る株式会社金虎(焼津の鰹節メーカー)カツオの加工残さから「練節」やペットフードを生み出す老舗鰹節メーカー🔗 kanetora.jp

このような「もったいない」の発想は日本の水産加工業に根強く、東日本では加工場が集積して民間の魚あら処理会社が成立し、西日本では漁協などの組合がミール工場を自営するケースが多いと分析されている(三木ほか、2002年)。地域によって処理主体の構造が異なるのは、加工場の集積度や漁協の組織力といった地域特性が背景にあるためだ。

水産加工団地で複数の工場が共同で残さを処理する様子
水産加工団地では複数の工場が連携して魚あらを処理する仕組みが機能している

フィリピンのツナ缶大手にみる工夫

海外にも似た発想の事例がある。フィリピンのツナ缶製造大手センチュリー社は、輸出向けツナ缶をOEMで製造するかたわら、自社ブランドの国内向けツナ缶を品質・価格帯の異なる複数ラインで製造している。最も安価なブランドには、輸出向け缶詰生産からリジェクトされた身肉や、本来缶詰には使わない血合肉が使われ、郷土料理の味付けで臭みや身肉の色の悪さを緩和している。品質と価格帯の異なる製品を一社内で並行的に製造・販売することで、本来なら魚あらになるはずだった部位まで、あらかじめ食用用途に組み込んでいる点が特徴的だ。

水産加工団地に見る地域単位の取り組み

水産加工残さの資源化は、単独の工場だけで完結する話ではなく、地域単位での連携がものを言う分野でもある。静岡県焼津市・清水市や鹿児島県枕崎市のように、カツオ・マグロなど単一魚種の加工が集中する水産加工団地では、日々排出される「加工場あら」の数量と部位が一定であるため、新鮮かつ安定した餌飼肥料を作りやすい環境が整っている。

共同処理施設という選択肢

こうした加工団地では、複数の工場が廃棄物共同処理場を利用するケースが多い。前述の株式会社金虎の事例のように、共同処理場に持ち込まれた他社の加工残さから新たな用途を見出す動きも生まれており、地域内で加工残さの情報や処理ノウハウが共有される土壌がある。単独の中小加工場では設備投資のハードルが高いバイオガス化や高度な成分抽出も、団地単位でのスケールメリットがあれば導入しやすくなる。

一方で、都市部の消費地卸売市場・量販店・飲食店から排出される「都市あら」は、発生源が分散しているため、こうした地域連携の恩恵を受けにくい。回収業者が個別に集荷して飼肥料化しているが、鮮度や組成の安定性という点では加工場あらに一歩譲る。魚あらの資源化を全国的に底上げするには、加工場が集積する地域だけでなく、都市部での回収・処理の仕組みをどう効率化するかも課題になる。

世界の状況——食用優先か高度利用優先か

世界に目を向けると、漁業・養殖業生産量1億7,780万トン(2020年、FAO)のうち89%が食用に供され、非食用は11%にとどまる。非食用のうち魚粉・魚油向けが9%、その他の用途が2%というのがおおよその内訳だ(FAO 2022年報告書)。日本の食用比率(国内消費仕向量の約8割)と比べても、世界全体ではさらに高い割合が食用に回されていることがわかる。

処理方針の考え方には国際機関の間でも違いがある。FAOは魚あらをできるだけ人間の食用に回すことを重視する立場で、渡辺(2004年)が整理したFAOの漁業倫理では、持続可能な漁業をすべきこと、漁獲後に利用せず廃棄すべきでないこと、そしてできるだけ人間の食用として利用し、それができない部位もできるだけ有効利用すべきであることが柱になっている。世界にはなお飢餓に苦しむ人々が多数存在することを踏まえると、この食料供給第一主義には一定の妥当性がある。

日本(2022年)世界(2020年)
食用に供される割合約80%(国内消費仕向量ベース)89%(漁業・養殖業生産量ベース)
非食用(魚あら等)の割合約20%11%
魚粉・魚油向けの割合内訳データなし9%
日本と世界の水産物用途比較(出所:農林水産省2022、FAO2022)

一方でEU-CFPは付加価値の最大化を優先し、魚粉や肥料のような低付加価値の用途よりも、コラーゲンやキチンなど高付加価値の素材製造を推奨する立場を取る。この2つの基準は必ずしも一致しない。例えばエビ頭を地元住民が食用として安価に購入していた地域に、キチン生産業者が進出してエビ頭を高値で買い取るようになると、企業側が得る付加価値は増える一方、地元住民は食料の獲得機会を失うことになりかねない。山下(2024年)はこの構図を、大企業の進出によって地元住民が食料の獲得機会を奪われる状況になぞらえ、高度利用から生まれた付加価値を地元に適切に再分配できるかどうかが、優先順位の妥当性を左右すると指摘している。

処理が進んでいない地域の例

  • インドのエビ加工業では、飼料化率がわずか5%にとどまり、残りは廃棄されている(Kandra et al., 2012年)
  • 廃棄されたエビ殻は工場周辺の悪臭や衛生問題の要因になっている
  • 解決策の一つとして、エビ殻を使ったスープなど食用転換のレシピが提案されている

バングラデシュの事例では、エビ頭の取引価格(1kgあたり0.31〜1.75米ドル)がエビ殻価格(同0.25〜1.00米ドル)より高く、部位を分けずに評価してもエビあら全体の価値(同0.31〜0.8米ドル)が魚あら価格(同0.25〜0.75米ドル)より高いことが報告されている(FAO, 2021年)。魚あらが「廃棄物」から「価値ある資源」へと転換した好例といえる。

付加価値はどこへ行くのか——経済学から見た再分配問題

魚あらの高度利用が進むと、社会全体の経済的な豊かさ(経済厚生)は増えるが、その恩恵が誰の手に渡るかという問題が別途生じる。山下(2024年)は、バングラデシュのエビあらを例に、この構造を需要と供給のモデルで説明している。

エビ加工業者が加工の過程で生じるエビ頭を地元住民に食用として販売している状態を考える。ここに、エビ頭を原料にキチンを製造する企業が新たに市場参入すると、キチン企業からの需要が上乗せされる形でエビ頭の取引価格は上昇する。地元住民はそれまでの価格でエビ頭を購入できなくなり、食料の獲得機会を失う一方、エビ加工業者とキチン企業が得る付加価値は増加する。

誰が付加価値を受け取るべきか

このプロセスは、EU-CFPが掲げる「付加価値の最大化」という基準には適う一方、FAOが重視する「できるだけ人間の食用に供する」という基準からは外れてしまう。山下(2024年)は、この対立を解消する道筋として、高度利用によって生み出された追加の付加価値の一部を、地元住民に何らかの形で再分配することを提案している。たとえば、事業拡大した企業が地元住民を雇用して給与という形で還元したり、工場用地の提供者に賃貸収入が入る形にしたりする方法が考えられるという。

ただし、こうした再分配は自動的に発生するものではない。経済厚生が全体として上昇したからといって、その恩恵が公平に行き渡るとは限らない点には注意が必要だ。魚あらの資源化を評価する際は、単に「どれだけ付加価値が生まれたか」だけでなく、「その付加価値が誰にどう分配されているか」という視点も欠かせない。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

廃棄ゼロに向けて残る課題

魚あらの資源化が進んでも、廃棄ゼロを即座に達成できるわけではない。前述の通り、高度利用の対象となるのは魚あら全体のごく一部の成分であり、成分抽出後の二次加工残さをどう処理するかという課題は残り続ける。水産資源を余すことなく有効に利用し、そこから生み出されるトータルの付加価値を最大化するという意味での最適化こそが、最終的な目標とされるべきだろう。

また、水産加工残さのゼロエミッション化に取り組む研究(山下東子、科研費基盤C 19K06213「水産加工残滓のゼロエミッション化――日本型フードシステムの経済性・先進性の検証」)では、魚あらを食品に利用しようとする意識の強さには国民性・文化的背景が影響していると指摘されている。日本では「もったいない」という食習慣が加工現場にも根付いており、「捨てずに使えないか」「まだ食べられる部分があるのではないか」という視点が、加工残さの食用利用や高度利用を後押ししてきた。

文化的背景をどう広げるか

この「もったいない」精神は、ケニア出身のノーベル平和賞受賞者ワンガリ・マータイ氏が来日時に感銘を受け、国際的なキャンペーンとして広めたことでも知られる。捨てることへの罪悪感が薄い文化的背景を持つ国々でも、こうした潜在的な可能性を顕在化させるきっかけをいかに作り出せるかが、グローバルな課題として残されている。魚あらのゼロエミッション化は環境保護の観点からの義務や強制と捉えられがちだが、新製品開発や新ビジネスのチャンスとして捉え直すことで、各地域が自律的に取り組みを進展させるポテンシャルもある。

技術とビジネスモデルの両輪が必要

魚あらの資源化を進めるには、成分抽出やメタン発酵といった技術面の進歩だけでなく、それを継続的に採算の取れる事業として回すビジネスモデルの構築が欠かせない。フィッシュ・サイレージのように低コストで導入できる技術がある一方、バイオガス化や高度な成分抽出には相応の設備投資が必要になる。地域や加工場の規模に応じて、どの技術をどう組み合わせるかを見極めることが、今後の普及の鍵を握る。

消費者の立場からできることは限られているようにも見えるが、水産加工品を選ぶ際に、資源循環に取り組む企業やブランドを応援する消費行動も、間接的にこうした取り組みを後押しする力になる。魚あらの有効利用は、派手さはないものの、水産業の持続可能性を支える地道な基盤技術のひとつだといえる。

まとめ

水産加工残さ(魚あら)は年間232万トンという、私たちの想像を超える規模で発生している。魚粉・魚油という定着した用途に加え、フィッシュ・サイレージ、バイオガス化、コラーゲン・キチンといった高付加価値素材への転換まで、処理方法は多様化しつつある。

それぞれの処理方法には向き不向きがあり、加工場の規模、立地するインフラ環境、対象とする市場によって最適な組み合わせは変わってくる。単一の「正解」があるわけではなく、複数の処理方法を状況に応じて組み合わせていくことが、魚あらの資源化を持続的に進めるための現実的なアプローチだといえるだろう。

この記事のポイント

  • 国内の水産加工残さは年間232万トン、食用魚介類の44%に相当する規模
  • 魚粉・魚油化がもっとも定着した資源化ルートだが、エネルギーコストの課題もある
  • フィッシュ・サイレージは設備投資なしで導入できる発酵処理法
  • バイオガス化は地域のエネルギー自給に貢献しうるが、塩分・脂質濃度への対策が必要
  • コラーゲン・キチンなど高付加価値素材への転換が国際的に注目されている
  • 国内の水産加工現場では、他社の残さも活用する創意工夫の事例がある

廃棄コストの削減と資源循環という2つの利点を持つ魚あらの有効利用は、地味ながら着実に広がっている分野だ。スーパーで水産加工品を選ぶとき、その裏側にある資源循環の取り組みにも目を向けてみたい。関連して、水産物のフードロス未利用魚の活用についても、あわせて読んでみてほしい。

参考文献・出典

  1. 農林水産省「令和4年度 食料需給表」 – 国内消費仕向量・純食料の統計データ
  2. 山下東子「水産加工残滓処理の方針と取り扱い」地域漁業研究第64巻第2号(2024年) – 水産加工残さの発生量・国際比較に関する報告論文
  3. 環境省「漁業系廃棄物処理ガイドライン」 – 漁業系廃棄物の適正処理・再資源化の方針
  4. FAO「Fish Waste Management」(2021年) – バングラデシュ・フィリピン・タイでのフィッシュ・サイレージ利用実態調査
  5. FAO「The State of World Fisheries and Aquaculture」(2022年) – 世界の漁業・養殖業生産量と用途別内訳の統計
  6. 水産庁「全国魚粉製造業者名簿」 – 国内の魚粉製造業者一覧
  7. Coppola et al.「Fish Waste: From Problem to Valuable Resources」Marine Drugs 19, 116(2021年) – 魚あらからの高付加価値素材製造に関するレビュー論文

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