⚡ 30秒でわかる答え

  • 魚には外から見えない内耳があり、耳石が遅れて動くことで水中の音を感じ取っている。
  • 鰾は音圧を拾う太鼓、側線は近距離の水の動きを感じるセンサーとして聴覚を補う。
  • ウェーバー器官をもつ魚は広い範囲の音を聞け、ニシンの仲間には超音波を感じる種もいる。
  • 船舶騒音は魚の得意な低周波と重なり、マスキングやストレスの原因になりうるが、影響は魚種や音で異なる。
3組
1つの内耳にある耳石(扁平石・礫石・星状石)
約3kHz
キンギョが聞ける上限の目安
1〜2倍
側線が感じる距離(体長比)

魚には耳たぶも耳の穴もありません。それでも彼らは、水中の音を聞き分けて暮らしています。魚は音をどう聞いているのでしょうか。

答えは頭の内側にあります。内耳の耳石、体内の鰾、体側を走る側線が、それぞれ別の方法で水の揺れと音を感じ取っています。

この記事では、魚の聴覚の仕組みと、音を使った行動、そして船舶騒音の影響を、研究報告をもとにやさしく解説します。

この記事で学べること

  • 魚の耳が頭の内側の内耳にある理由
  • 耳石が音を感覚毛の動きに変える原理
  • 鰾・側線・ウェーバー器官の役割
  • 魚が音で行う仲間の識別と天敵の察知
  • 船舶騒音が魚に与える影響と対策

魚には「耳」があるのか:外から見えない聴覚器官

頭の中にある内耳が基本

魚の頭を横から見ても、人のような耳たぶや耳の穴は見当たりません。しかし魚には確かに「耳」があります。それは頭蓋骨の内側、脳のすぐ近くにある内耳です。内耳は左右一対あり、水中の音を感じ取る器官として働いています。陸上の動物と違って鼓膜や外耳道が要らないのは、水中では音が魚の体をほぼそのまま通り抜けるからです。魚の体の大部分は水でできており、水の密度と近いため、音の波は体内へ素通りしやすいのです。

この構造の違いは、水と空気で音の伝わり方が根本的に異なることに由来します。空気中の音は主に「圧力の変化」として伝わりますが、水中では圧力の変化に加えて、水の粒子そのものが前後に揺れる粒子運動が重要な役割を持ちます。多くの魚は、この粒子運動を内耳で直接感じ取ることができます。

人の耳との違いを整理する

比べる点人(陸上哺乳類)魚
外から見える耳耳介・外耳道があるなし(体表に開口しない種が多い)
音を受ける仕組み鼓膜が空気の圧力変化を受ける体が音に揺れ、内耳の耳石が遅れて動く
感じ取る主な物理量音圧粒子運動(種により音圧も)
平衡感覚三半規管と耳石器三半規管と耳石器(聴覚と同じ内耳)
人と魚の聴覚の主な違い

さらに、魚の内耳は聴覚だけでなく平衡感覚も担っています。体が傾いたか、加速したかを知る器官と、音を知る器官が一体になっているのが特徴です。つまり魚にとって、音は「体の揺れ」の一種として感じられていると考えると分かりやすいでしょう。

この章のポイント

  • 魚の耳は頭の内側にある内耳で、外からは見えない
  • 水中では音の粒子運動が重要で、魚はそれを直接感じ取れる
  • 内耳は聴覚と平衡感覚を兼ねている

耳石のしくみ:石が遅れて動くことで音を感じる

3組の耳石と感覚毛

魚の内耳には、炭酸カルシウムを主成分とする硬い塊、耳石が入っています。耳石は1つの内耳に3個あり、扁平石(へんぺいせき)、礫石(れきせき)、星状石(せいじょうせき)と呼ばれます。それぞれが袋状の部屋に収まり、その下には感覚毛をもつ有毛細胞が並んだ感覚上皮が広がっています。

音を感じる原理は慣性にあります。音の振動で魚の体が揺れると、体と一緒に感覚上皮も揺れます。ところが密度の高い耳石は慣性のために遅れて動くため、耳石と感覚上皮の間に「ずれ」が生じ、感覚毛が曲がります。この曲がりが電気信号に変換され、脳へ送られて「音」として認識されます。

魚の内耳にある耳石と感覚毛の断面を示した図解
耳石が遅れて動くことで感覚毛が曲がり、音が信号になる(概念図)

耳石は成長記録でもある

耳石には、もう一つ重要な顔があります。日ごとに薄い層が付け足されるため、木の年輪のように日齢や年齢の記録として使えるのです。水産資源の調査では、耳石の輪紋を数えて魚の年齢を推定し、資源量の評価に役立てています。聴覚の器官であると同時に、魚の人生を刻む記録装置でもあるわけです。

鰾(うきぶくろ)が「集音器」になる

耳石だけでは、粒子運動しか感じられません。ところが多くの魚は、体内の鰾(うきぶくろ)を使うことで、音圧にも反応できます。鰾の中の気体は水より圧縮されやすいため、音圧の変化を受けて大きく膨らんだり縮んだりします。この振動が内耳へ伝わり、耳石を動かすのです。鰾はいわば体内の太鼓の役割を果たし、感度を高めています。

実際、鰾が内耳に近いほど、あるいは内耳と結びつく仕組みがあるほど、聞こえる音の範囲は広く、感度も高くなる傾向があります。逆に、鰾をもたないサメやカレイの仲間は、主に粒子運動に頼って音を感じていると考えられています。

豆知識

  • 耳石は炭酸カルシウムでできた小さな石で、1つの内耳に3個ずつある
  • 鰾は音圧を拾う太鼓のような役目をもち、聴覚を高める

側線と「ウェーバー器官」:聴覚を補う2つの仕掛け

側線は「遠隔触覚」

魚の体の側面には、頭から尾へ伸びる一本の線が見えることがあります。これが側線です。側線には感丘と呼ばれる小さな感覚器が並び、水の流れや微細な振動を感じ取ります。側線が感じ取れるのは、魚の体長の1〜2倍ほどの近距離にある、低周波の水の動きだとされています(DOSITSの解説)。遠くの音を聞く耳に対し、側線は近くの水の動きを肌で感じるような感覚だといえます。

イワシやサバのような魚が群れで一斉に向きを変えられるのは、視覚に加えて、この側線で隣の魚の動きによる水の揺れを感じ取っているためでもあります(詳しくは魚はなぜ群れるのか)。耳と側線は構造も神経も近縁で、両者を合わせて「聴側線系」と呼ぶことがあります。

ウェーバー器官で高性能に

コイ、キンギョ、ナマズ、ドジョウなどを含む「骨鰾類(こつひょうるい)」の魚には、ウェーバー器官という特別な構造があります。これは鰾と内耳を、小さな骨のつながりで結ぶものです。鰾が拾った音圧の振動が、骨を伝って効率よく内耳へ届くため、広い周波数を高感度で聞くことができます。

魚の例特徴聞こえる範囲の目安
キンギョ(ウェーバー器官あり)鰾と内耳が骨でつながる約3kHzまで。500〜800Hzで最も敏感(DOSITS)
ニシン科の魚鰾から内耳へ気体の管が伸びる多くは3〜4kHzまで検知(DOSITS)
アメリカンシャッド(ニシン科)特殊な内耳構造をもつ超音波(180kHz超)も検知(DOSITS)
ボラなど(ウェーバー器官なし)鰾と内耳の結びつきが弱い約1.5kHzまで(古い報告)
魚種ごとの聴覚の違い(目安。種や実験条件で変わる)

研究者は、聴覚の鋭さによって魚を大まかにジェネラリスト(おおむね1〜1.5kHzまでを感知)とスペシャリスト(それ以上の高い音も感知)に分けることがあります。ただしこれは目安であり、厳密な分類ではありません。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

この章のポイント

  • 側線は近距離の水の動き、耳は音を担当し、互いに補い合う
  • ウェーバー器官をもつ魚は、広い範囲の音を高感度で聞ける
  • ニシンの仲間には超音波を感じる種もいる

魚が聞いている音の範囲と、聞こえる「意味」

多くの魚は低い音が得意

では、魚はどれくらいの音を聞いているのでしょうか。種類によって差はありますが、多くの魚は数十Hzから500〜1,500Hz程度の低い音を聞くのが得意で、一部の種だけが3,000Hzを超える高い音まで感じます。人が聞き取れる音の範囲は約20Hz〜20kHzですから、魚は人よりやや狭い範囲の低音域に集中しているといえます。

この低音への偏りは、水中の環境と関係があります。低い周波数の音は水中で減衰しにくく、遠くまで伝わるため、遠方の情報を得る手段として都合がよいのです。

音で仲間を見分け、天敵を避ける

  • 仲間とのコミュニケーション:ニベ科の魚やトードフィッシュ(ガマアンコウ科)などは、鰾の筋肉を震わせて音を出し、繁殖期に求愛や縄張りの主張に使います。
  • 天敵の察知:近づく捕食者が立てる水の揺れや音を感じて、逃げる行動を取ります。
  • 獲物の探索:小魚や甲殻類が立てる微かな音を頼りに、餌のありかを探る魚もいます。
  • 居場所の選択:サンゴ礁の稚魚は、礁が奏でる音(エビの鳴らす音や魚の声)を目印に帰ってくることが、実験で示されています。
サンゴ礁の音に引き寄せられて泳ぐ稚魚の様子を描いたイラスト
サンゴ礁の音は、稚魚が帰る場所を見つける手がかりになる(概念図)

サンゴ礁の海は、実は意外なほど「にぎやか」です。こうした海の自然音については自然音の科学でも触れています。またサンゴ礁の魚の多様性を支える仕組みとして、稚魚の定着に音が関わる可能性も注目されています。

鳴く魚、聞く魚

魚は鳴かない、と思われがちですが、実際には世界中の多くの魚が音を出します。出し方は、鰾を筋肉で震わせる、骨や歯をこすり合わせる、胸びれの腱をはじくなど様々です。鳴く魚がいるということは、それを聞き分ける魚もいるということです。音は魚の社会の重要な通信手段なのです。

まとめ

  • 多くの魚は低周波の音を得意とし、遠くまで届く情報を使っている
  • 音は求愛・警戒・採餌・帰還の目印など、生活のあらゆる場面で使われる

船舶騒音は魚にどう影響するのか

低周波の騒音が魚の得意な帯域と重なる

魚の聴覚が得意とする低周波の帯域は、実は商船のエンジンやプロペラが出す音の帯域と重なっています。このため船舶騒音は、魚にとって聞こえやすい、すなわち影響を受けやすい音になります。大型船が行き交う海域では、魚の仲間同士の音を、騒音が覆い隠してしまうことがあります。これをマスキングといいます。

クジラへの影響は海洋騒音問題やクジラの歌の解説でも取り上げましたが、魚類についても、騒音の影響を示す研究が積み重なっています。

研究で分かってきたこと

  • マスキング:2007年のトードフィッシュの研究では、船舶騒音が同種の鳴き声を検出する能力を低下させたと報告されています。
  • ストレス反応:ヨーロッパの淡水魚を使った研究では、船舶騒音にさらされるとストレスホルモンのコルチゾールが増加した一方、ガウスノイズ(単純な雑音)では増えなかったと報告されています。
  • 慣れ(馴化):沿岸魚を11日間モーターボート騒音にさらした2016年の研究では、長期曝露後にコルチゾールの上昇が見られなくなり、騒音に慣れた可能性が示されました。
  • 身体への影響:非常に強い音(地震探査のエアガンなど)では、一時的な聴力低下から、組織の損傷、場合によっては死亡に至ることもあると整理されています。

ここで注意したいのは、音の種類(船舶騒音かエアガンか)、魚に届く音の大きさ、その魚がその音をどれだけ聞けるかによって、影響が大きく変わる点です。「船の音はすべての魚に害がある」と決めつけることも、「魚は聞こえないので影響しない」と考えることも、どちらも正確ではありません。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している
大型船の下を泳ぐ魚群と、水中に広がる低周波の音波を描いた図
船舶の低周波騒音は、魚の聴覚の得意な帯域と重なる(概念図)

分からないことも多い

魚の種類は3万種を超えるといわれますが、聴覚が詳しく調べられた種はごく一部です。また実験室の水槽では音の伝わり方が自然の海と異なるため、結果をそのまま野外に当てはめられない難しさもあります。長期的に個体数や繁殖にどう影響するかは、まだ研究の途上にあります。

対策と私たちにできること

国際的な取り組み

国際海事機関(IMO)は、商船の水中放射騒音を減らすためのガイドラインを定め、船体の設計、プロペラの工夫、運航方法の見直しなどを推奨しています。2014年の指針は、のちに見直され、改訂版が示されています。

  • プロペラの改良:気泡(キャビテーション)の発生を抑える形状にして騒音を減らす。
  • 減速航行:速度を落とすと、燃料消費だけでなく水中騒音も下がる傾向がある。
  • 船体・機関の防振:エンジンの振動が船体から水中へ伝わるのを抑える。
  • 航路の工夫:産卵場や稚魚の生息域を避ける航路や期間を設ける。

脱炭素の観点でも、減速や省エネ設計は一致する部分が多く、国際海運の脱炭素と水中騒音対策は、うまく組み合わせられる可能性があります。

私たちの身近な視点

釣りやマリンレジャーで船外機を使う際は、浅い産卵場や稚魚の育つ場所では速度を落とす、不要なアイドリングを避けるといった配慮が、小さいながら意味を持ちます。また、水族館で魚が音に反応する様子を観察すると、魚が確かに「聞いている」ことを実感できます。

今日からできること

  • 魚が「聞いている」ことを意識して、水辺では静かに行動する
  • 浅場や稚魚のいる場所では、船のスピードを落とす
  • 水中の騒音問題について、家族や友人と話してみる

魚の聴覚研究のこれから

計測技術の進歩

近年は、水中マイクを使った受動的音響モニタリングにより、魚の鳴き声から生息や産卵の様子を非接触で調べる取り組みが広がっています。魚の声を録音して種を見分ければ、網を使わずに分布や繁殖期を把握でき、資源管理にも役立ちます。

基準づくりと残された課題

音が魚に与える影響を評価するため、欧米では水中音の曝露基準の整備が進められてきました。魚の聴覚は種によって大きく異なるため、種類をグループ分けして基準を設ける考え方が取られています。日本でも、洋上風力発電など海での開発が進む中で、水中音が水産生物に与える影響の把握が課題として意識されています。

  • 種ごとの聴覚データの不足を埋める
  • 野外で、実験水槽とは異なる音の伝わり方を考慮する
  • 騒音への馴化が長期的に何をもたらすのかを明らかにする
  • 騒音と温暖化・漁獲など、複数の要因の組み合わせを理解する

魚の聴覚の研究は、水中の世界を「静かな世界」と思い込んできた私たちの見方を変えつつあります。海は音に満ちており、魚たちは耳石と側線で、それを聞きながら暮らしています。

まとめ

魚は、耳石・鰾・側線・ウェーバー器官といった仕組みを組み合わせ、水中の音を巧みに感じ取っています。そして船舶騒音は、魚の得意な低周波と重なるため、影響を無視できません。ただし影響の大きさは音や魚種で異なり、慣れの可能性も報告されるなど、分からない点も多く残されています。確かな知見を積み上げながら、静かな海を守る方法を考えていくことが大切です。

この記事のまとめ

  • 魚の耳は頭の内側の内耳。耳石が遅れて動くことで音を感じる
  • 鰾・側線・ウェーバー器官が、聴覚を広げ高めている
  • 船舶騒音は魚の得意な低周波と重なり、マスキングやストレスの原因になりうる
  • 影響は音と魚種で異なる。研究は発展途上である

参考文献・出典

  1. DOSITS(Discovery of Sound in the Sea) – 魚はどのように音を感じるか
  2. DOSITS:人為的な音が魚に与える影響の基準 – Criteria for Effects of Anthropogenic Sound on Fishes
  3. Popper & Hawkins (2019) J. Fish Biology – 魚類生物音響と人為的音の影響の概説
  4. 国際海事機関(IMO) – 商船の水中放射騒音低減ガイドライン
  5. 水産研究・教育機構 – 耳石を用いた魚の年齢査定と資源評価
  6. 環境省 – 海洋環境保全の取り組み

※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア