1,100kW
長崎県五島市・奈留瀬戸で実証運転中の、国内初の商用スケール潮流発電機の出力(2025年5月運転開始)
6MW
世界最大の潮流発電アレイMeyGen(英国スコットランド)の設備容量。1.5MW機4基で構成
40〜50%
好条件の海域に設置した潮流発電が見込める設備利用率。洋上風力の30%台を上回る水準

海には、1日に2回ずつ、必ずやってくる「電気の源」があります。潮の満ち引きです。太陽光は夜になれば止まり、風は吹くかどうか前日にならないと分かりません。ところが潮汐は、月と地球と太陽の位置関係という天体力学で決まるため、100年先の何月何日何時に、どの海峡でどれくらいの流れが起きるかを計算で出せます。この「予定表がある」という性質こそ、潮流発電・潮汐発電が他の再生可能エネルギーにはない価値を持つ理由です。

そして日本は、この資源に恵まれた国でもあります。鳴門海峡の潮流は最大10.5ノット(時速約19.4km)に達し、来島海峡、関門海峡と合わせて「日本三大急潮」と呼ばれます。瀬戸内海や九州西岸の複雑な島嶼部には、狭い水路に潮がぎゅっと絞り込まれて加速する場所が無数にあります。長崎県五島市の奈留瀬戸では2025年から、国内初となる商用スケール(1,100kW)の潮流発電機が実際に電気をつくり、島の電力網へ送っています。

一方で、潮流発電は「もうすぐ主力電源になる技術」ではありません。発電コストは洋上風力の数倍で、装置は塩と潮流に叩かれ続ける海底に置かれます。この記事では、期待も限界も含めて、潮の力で発電するとはどういうことなのかを、仕組み・国内外の実例・コスト・環境影響の順に整理します。海の再生可能エネルギー全体の見取り図としては、洋上風力発電が拡大する日本もあわせて読むと理解が立体的になります。

この記事で学べること

  • 潮の満ち引きが月と太陽の引力で生まれる仕組みと、なぜ何十年先まで正確に予測できるのか
  • 「潮流発電」(流れを使う)と「潮汐発電」(潮位差を使う)の違いと、それぞれの得意・不得意
  • 長崎県五島市の奈留瀬戸で進む日本初の商用スケール実証(500kW→1,100kW)の中身と成果
  • 英国MeyGen・フランスのランス・韓国の始華湖など、世界の海洋エネルギーの到達点
  • 波力発電・洋上風力と比べたときの強み(予測可能性・高い設備利用率)と弱み(発電コスト)
  • 魚や海生哺乳類への影響、漁業・航路との調整という、実用化に残された社会的な課題

潮の満ち引きはなぜ起きるのか——月と太陽がつくる「予定表のある流れ」

潮流発電を理解するには、まず「潮汐(ちょうせき)」そのものを押さえる必要があります。海面が1日に2回ほど上がり下がりする現象は、月と太陽が海水を引っぱることで起きています。ポイントは、この動きが気象ではなく天体の運行で決まるという点です。天気予報は1週間先が精一杯ですが、潮汐表は何年も先まで作れます。

月の引力と遠心力が海面を両側に持ち上げる

地球と月は、互いの共通重心のまわりを回っています。月に近い側の海水は月の引力に強く引かれて盛り上がり、月と反対側の海水は共通重心を回る遠心力が勝ってこちらも盛り上がります。つまり地球の海は、月の方向とその正反対の方向に、ラグビーボールのように2か所ふくらむのです。地球はその中を約1日で自転するので、ある地点から見ると、ふくらみが1日に約2回通過する——これが1日2回の満潮・干潮の正体です。

この海面を動かす力を「起潮力(きちょうりょく)」と呼びます。太陽も同じように起潮力を生みますが、距離が遠いため、太陽の起潮力は月の約45%程度にとどまります。それでも無視できる大きさではなく、月と太陽の位置関係によって潮の大きさが変わる原因になります。

月と太陽の起潮力によって地球の海面が両側にふくらむ仕組みを示した模式図
月の引力と公転による遠心力で、海面は月の側と反対側の2か所がふくらむ

大潮と小潮は約15日ごとに入れ替わる

新月と満月のとき、月・地球・太陽がほぼ一直線に並び、月と太陽の起潮力が足し合わさります。このとき潮位差が最も大きくなり、これを大潮(おおしお)と呼びます。逆に上弦・下弦の半月のときは、月と太陽の起潮力が直角方向に働いて打ち消し合い、潮位差が小さい小潮(こしお)になります。月の満ち欠けの周期(約29.5日)の半分、およそ15日ごとに大潮と小潮が交互にやってきます。

潮流発電にとって、この大潮・小潮のサイクルは発電量の大きな波になります。大潮の時期は流れが速く出力が伸び、小潮の時期は落ち込む。ただし重要なのは、その波がいつ来るかを事前に完全に知っているということです。

実際、日本では海上保安庁が全国の主要港について潮汐表(潮見表)を毎年刊行しており、気象庁も潮位の推算値を公開しています。釣りをする人が「今日は大潮だから」と話すのも、船が「潮止まりを待って出る」と判断するのも、この計算に支えられています。潮流発電はそこに、発電事業という新しい使い道を重ねる技術だと言えます。

用語意味潮流発電への影響
起潮力月・太陽が海水を動かす力。太陽の寄与は月の約45%資源量そのものを決める根本の力
大潮新月・満月の前後。潮位差と流速が最大この時期に発電量のピークが来る
小潮半月の前後。潮位差と流速が最小出力が落ち込むが、時期は既知
憩流(けいりゅう)満潮・干潮の前後で流れがほぼ止まる時間帯1日に数回、発電がゼロに近づく
潮位差満潮と干潮の海面の高さの差潮汐発電(堤方式)の出力を決める
潮汐にまつわる基本用語と、発電への効き方

「予測できる再生可能エネルギー」という決定的な強み

太陽光と風力の最大の弱点は、出力が読み切れないことです。予測が外れれば、電力会社は火力発電を待機させたり、蓄電池で埋めたりしなければならず、そのコストは電気料金に乗ってきます。潮流発電は違います。1年後の特定の日の午後3時に何kW出るかを、装置の性能さえ分かっていればほぼ計算できるのです。

潮汐がもたらす3つの計画性

  • 発電時刻が確定している:需給計画・保守計画を先に組める
  • 調整力コストが小さい:予測誤差を埋めるための予備電源が少なくて済む
  • 複数海域の組み合わせで平準化できる:潮の位相がずれた海域を組み合わせれば、途切れを埋め合わせられる

最後の点は特に重要です。ある海峡が憩流で発電ゼロでも、潮の位相が数時間ずれた別の海峡は最大出力を出している——という組み合わせが、地理的に成立し得ます。日本のように入り組んだ海岸線を持つ国では、この「位相のずれ」を設計に使える余地があります。

潮流発電と潮汐発電はどう違うのか——2つのアプローチ

「潮の力で発電する」と一口に言っても、技術的にはまったく違う2つの方式があります。日本語では区別が曖昧に使われがちですが、英語では tidal stream(潮流)と tidal range / barrage(潮汐・堰堤)と明確に呼び分けられます。混同すると、規模もコストも環境影響もまるで違う話をしてしまうことになります。

潮流発電=流れの運動エネルギーを水中の風車で取り出す

潮流発電は、海峡や瀬戸のように潮が速く流れる場所に、風車によく似た水中タービンを沈める方式です。流れがローターを回し、増速機と発電機を経て電気になり、海底ケーブルで陸へ送られます。海面を堰き止めないため、地形を大きく変えずに済むのが特徴です。現在、世界で研究開発の主戦場になっているのはこちらです。

設置形態にはいくつかの流儀があります。海底に重力式基礎や杭で固定する着底式、浮体から吊り下げる浮体式、そして係留索でつなぎ中層に漂わせる水中浮遊式です。五島の実証機は着底式で、後述するIHIの「かいりゅう」は水中浮遊式にあたります。

潮汐発電=湾を堤で仕切り、潮位差の位置エネルギーを使う

潮汐発電は、河口や湾を堤(バラージ)で仕切り、満潮時に水を溜めて干潮時に放流し、その落差で水車を回します。仕組みとしてはダム式の水力発電に近いと考えると分かりやすいでしょう。1966年に運転を始めたフランスのランス潮汐発電所(最大出力24万kW=240MW、年間発電量約6億kWh)が代表例で、この技術は半世紀以上の実績があります。

ただし潮汐発電には決定的な制約があります。大きな潮位差と、堰き止められる地形が同時に必要なのです。ランス周辺の最大潮位差は13.5m、平均でも8.5mという世界有数の環境でした。加えて湾を仕切ることで海水交換が減り、生態系や堆積の変化を招くため、近年の新規建設は世界的にきわめて少なくなっています。

潮流発電と潮汐発電の仕組みを左右に並べて比較した模式図
左:潮流発電(流れの運動エネルギー)/右:潮汐発電(潮位差の位置エネルギー)

海流発電・波力発電との位置づけの違い

海洋エネルギーには他にも系統があります。混同を避けるため、主な4方式を整理しておきましょう。決め手は「何のエネルギーを、どこで取り出すか」です。

方式エネルギー源変動の性質主な適地
潮流発電潮の満ち引きによる水平方向の流れ1日数回の周期変動。完全に予測可能狭い海峡・瀬戸(鳴門・来島・五島など)
潮汐発電満潮と干潮の水位差(位置エネルギー)同上。ただし運転は貯留操作で調整可能潮位差が大きい湾・河口(ランス、始華湖)
海流発電黒潮など常時流れる大規模な海流ほぼ定常。季節・経年で流路が動く黒潮の通り道(トカラ列島沖など)
波力発電風がつくった波の運動・位置エネルギー気象由来のため変動が大きい外洋に面した海岸・港湾防波堤
海洋エネルギー4方式の比較。潮流・潮汐は「予測可能性」で他と一線を画す

覚えておきたい使い分け

「潮流発電」は流れを使い、海を仕切らない。「潮汐発電」は水位差を使い、湾を仕切る。ニュースで「潮力発電」という言葉が出てきたら、どちらの話なのかを確認すると理解がぶれません。

なぜ「水」で発電すると有利なのか——密度800倍と流速3乗の物理

潮流発電の装置を写真で見ると、洋上風力の風車よりずっと小さく感じます。それなのに相応の出力が得られるのは、空気と水という流体の性質の違いによります。ここを理解すると、なぜ技術者が海中のタービンにこだわるのかが腑に落ちます。

海水は空気の約800倍の密度を持つ

流れから取り出せるエネルギーは、流体の密度に比例します。海水の密度は約1,025kg/m³、空気は約1.2kg/m³ですから、その差はおよそ800倍。同じ速さで流れているなら、水は空気の800倍のエネルギーを運んでいる計算になります。だからこそ、直径数十mの水中タービンで、直径100m級の風車に匹敵する出力を狙えるのです。

エネルギーは流速の3乗に比例する

もう一つの鍵が、流れのエネルギーが流速の3乗に比例するという関係です。流速が2倍になればエネルギーは8倍、3倍になれば27倍。これは裏を返せば、流速が少し足りないだけで採算が一気に崩れることを意味します。潮流発電の適地が「潮が速い狭い水路」に限られるのは、この3乗則のためです。

  • 流速1.5m/s:発電はできるが、装置の大型化なしには経済性が厳しい
  • 流速2.5m/s:実用化の目安とされる水準。海外の主要プロジェクトはこの帯域
  • 流速3.0m/s以上:世界有数の好適地。ただし施工・保守の難度も跳ね上がる

参考までに、海上保安庁のデータによる日本三大急潮の最大流速は、鳴門海峡が10.5ノット(時速約19.4km=約5.4m/s)、来島海峡が10.3ノット、関門海峡が9.4ノットです。これは世界的に見てもきわめて速い部類ですが、同時に船舶交通の要衝でもあり、そのまま発電所にできるわけではないという難しさがあります。

潮流発電・潮汐発電とは?月がつくる「予測できる電気」と五島の実証の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

その代わり、海中は装置にとって過酷な場所

水の密度が高いということは、装置にかかる力も大きいということです。さらに海中には、塩分による腐食、生物の付着(バイオファウリング)、浮遊物の衝突、そして何より点検・修理に船と好天と潮止まりが必要という制約があります。陸上の風車ならクレーンで数時間の作業が、海底では数日がかりの作戦になります。

海中設置がもたらすコスト構造

  • 設置・撤去に専用の作業船が必要で、1回の海上作業が高額になる
  • 作業できるのは潮が緩む憩流のタイミングと、海況が穏やかな日に限られる
  • 故障が起きても即日対応できず、停止期間が長引きやすい
  • 腐食・生物付着対策のための材料費と定期整備費が上乗せされる

長崎・五島の奈留瀬戸——日本初の商用スケール潮流発電

日本の潮流発電を語るうえで外せないのが、長崎県五島市の奈留瀬戸(なるせと)です。奈留島と久賀島の間にある潮の速い水路で、九州電力グループの九電みらいエナジーが環境省の事業として、国内初の大型潮流発電機の実証を段階的に進めてきました。

Phase1(500kW)——2021年、国内初の大型機が発電を開始

第1段階は、環境省の「潮流発電技術実用化推進事業」として行われました。2021年1月23日、国内初となる大型潮流発電機(出力500kW)を奈留瀬戸の海底に設置し、発電を開始しています。設置工事には自航式の多目的船が使われ、潮の速い海域での据付という難所を国内の施工技術でクリアしました。

ここで見落とせないのが施工技術です。潮の速い海域で、数百トン級の構造物を海底の狙った位置に、狙った向きで据え付ける——これは陸上の重機作業とは別次元の難しさがあります。作業できるのは潮が緩む憩流の短い時間帯だけで、海況が崩れれば即中断です。日本の海洋土木がこの工程をやり切ったこと自体が、実証の成果の一部でした。

成果も具体的です。実証開始から3か月あまりで約8万kWhを発電しました。これは一般家庭360戸の1か月分の使用電力量に相当します。数字としては小さく見えるかもしれませんが、「日本の海で、大型の潮流発電機が実際に安全に回り続け、電気をつくれる」ことを実証した意味は大きいものでした。

Phase2(1,100kW)——2025年、商用スケールへ

第2段階では、発電機を大型化して1,100kW(1.1MW)の商用スケール機へ移行しました。2025年2月に奈留瀬戸の海底へ設置され、試運転調整を経て、経済産業省から電気事業法に基づく使用前検査の合格証(2025年5月23日付)を受領。2025年5月26日に実証運転を開始しています。

事業者の発表を見る商用スケール大型潮流発電機の実証運転を開始(九電みらいエナジー)2025年5月26日付のプレスリリース。奈留瀬戸に設置した1,100kW機の使用前検査合格と実証運転開始を告知。🔗 q-mirai.co.jp

Phase1との決定的な違いは、九州電力送配電の電力網に接続し、五島市へ実際に送電している点です。試験装置として海中で回すだけでなく、島の暮らしに電気を届ける系統電源として運転しています。2025年度中に発電データを収集・分析し、その後は装置を撤去・回収する計画です。

五島列島の奈留島と久賀島の間の奈留瀬戸に潮流発電機が設置されている位置関係のイメージ図
奈留島と久賀島に挟まれた奈留瀬戸。潮が絞り込まれて加速する好適地

離島だからこそ意味がある——地域脱炭素という文脈

五島市で潮流発電が進められている理由は、単に潮が速いからだけではありません。離島は電力の自給という課題を抱えているからです。本土から離れた島では、燃料を船で運んで発電するコストが高く、燃料価格の変動をまともに受けます。地元の海の流れで電気をつくれれば、そのリスクを減らせます。

五島市は洋上風力(浮体式)の先進地としても知られており、潮流発電はその補完として位置づけられます。風が弱い日にも潮は必ず動く。逆に潮が緩む憩流の時間帯には風車が回っている——という組み合わせが成り立てば、島の電力はより安定します。同じ離島の脱炭素の文脈では、電気推進フェリーとゼロエミッション船の取り組みも並行して進んでいます。

五島の潮流発電・実証の歩み

  • 2019〜2021年度(Phase1):500kW機を設置し、日本の海域で安全に稼働できることを確認
  • 2021年1月23日:国内初の大型潮流発電機が発電開始。3か月余で約8万kWh
  • 2022年度:環境省「潮流発電による地域の脱炭素化モデル構築事業」に採択
  • 2025年2月:商用スケール1,100kW機を奈留瀬戸へ設置
  • 2025年5月26日:系統に接続して実証運転を開始、五島市へ送電

世界の最前線——MeyGen、ランス、始華湖が示す到達点

日本の取り組みを評価するには、世界の水準を知っておく必要があります。潮流発電と潮汐発電、それぞれで最先端を走るプロジェクトを見ていきましょう。

MeyGen(英国スコットランド)——世界最大の潮流発電アレイ

スコットランド北端のペントランド海峡で稼働するMeyGenは、潮流発電の到達点を示すプロジェクトです。1.5MWのタービンを4基、合計6MW設置しており、複数機を束ねた「アレイ(列)」として商用運転を継続している点が画期的でした。1基の試験機を海に沈めるのと、4基を並べて何年も運転し続けるのとでは、技術的な難度がまったく違います。

2025年には4基すべてがフル稼働に達し、サイトの累計発電量が50GWhを突破。潮流発電アレイとして世界で初めての到達点となりました。その後も発電を重ね、累計では84GWhを超えたと報告されています。プロジェクト側は将来的に数百MW規模への拡張を視野に入れています。

プロジェクト詳細を見るMeyGen Tidal Energy Project|Tethys(米国PNNL)世界最大の潮流発電アレイMeyGenの設備概要と、環境モニタリングの文献がまとめられた公的データベース。🔗 tethys.pnnl.gov

ランス潮汐発電所(フランス)——半世紀動き続ける実証済み技術

潮汐発電の側では、1966年11月26日に完成したフランスのランス潮汐発電所が半世紀以上運転を続けています。ブルターニュ地方サン・マロ郊外のランス川河口を幅数百mの堤で仕切り、最大出力24万kW(240MW)、年間発電量は約6億kWhに達します。実現できた背景には、最大13.5m・平均8.5mという世界屈指の潮位差がありました。

同時にランスは、環境影響の教訓も残しました。湾内の海水交換の頻度が下がったことで、一時期は生態系のバランスが崩れたと報告されています。「動く」ことと「環境負荷が小さい」ことは別問題だという事実は、その後の潮汐発電計画の慎重さにつながっています。

始華湖(韓国)——世界最大の潮汐発電所

設備容量で世界最大の潮汐発電所は、韓国西海岸の始華湖(シファホ)潮力発電所です。2011年8月に発電を開始し、10基合計で254MW(25万4,000kW)と、ランスを上回る規模になりました。もともと水質悪化が問題になっていた人工湖に海水を出入りさせる目的も兼ねており、発電と環境改善を組み合わせた事例として語られます。

興味深いのは、始華湖もランスも発電のためだけに造られた構造物ではないという点です。ランスは河口の交通路も兼ねており、始華湖は水質改善という別の必要が先にありました。潮汐発電が成立してきた場所は、いずれも「そこに堤を造る理由が他にもあった」場所なのです。ゼロから湾を仕切って発電所を建てるという発想が今日ほとんど採られないのは、この点を見ればよく分かります。

プロジェクト国・海域方式設備容量特筆点
MeyGen英国・ペントランド海峡潮流(着底式アレイ)6MW(1.5MW×4基)潮流発電アレイとして世界初の累計50GWh超
ランス潮汐発電所フランス・ランス川河口潮汐(堰堤)240MW1966年完成。年間約6億kWh、最大潮位差13.5m
始華湖潮力発電所韓国・京畿湾潮汐(堰堤)254MW2011年稼働。設備容量で世界最大の潮汐発電所
奈留瀬戸 実証日本・長崎県五島市潮流(着底式)1,100kW2025年に国内初の商用スケール実証運転
潮流・潮汐発電の主要プロジェクト。潮汐は大型、潮流はこれからの技術という構図

数字の読み方に注意

潮汐発電(240〜254MW)と潮流発電(6MW)を並べると潮流が見劣りしますが、これは技術の優劣ではなく成熟段階の差です。潮汐発電は地形制約が厳しく新設余地が乏しい一方、潮流発電は設置できる海域が桁違いに多く、量産による低コスト化の余地が残されています。

波力発電・洋上風力と比べる——強みは「量」ではなく「質」

潮流発電を評価するときに陥りやすいのが、「太陽光や風力より発電量が少ないから意味がない」という早合点です。電源の価値は総発電量だけでは測れません。ここでは、同じ海の再生可能エネルギーである波力発電、そして先行する洋上風力と並べて考えます。

波力発電との比較——変動の性質が正反対

波力発電は、風がつくった波のエネルギーを取り出す技術です。日本では、東京大学生産技術研究所が開発した装置を用いた岩手県久慈市の「久慈波力発電所」(出力43kW、2016年完成)などが知られています。海中で受波板が波の動きを受け、陸へ送電する仕組みで、一般家庭約10世帯分に相当する発電が見込まれていました。

資源量としては波力の方が大きく、NEDOの試算では日本沿岸の波パワーは平均7kW/m、賦存量は36GW、将来的なポテンシャルは87TWh——国内総電力消費のおよそ1割に相当します。しかし波は気象由来なので、いつ・どれだけ来るかは天気次第。資源量では波力、予測可能性では潮流という対照的な関係になります。

洋上風力との比較——設備利用率で上回る

設備利用率(設備容量に対して実際にどれだけ発電したかの割合)で見ると、好条件の海域に設置された潮流発電は40〜50%を狙えるとされます。潮汐(堰堤)方式は25〜30%程度、洋上風力は一般に30%台です。潮流発電は装置あたりの出力こそ小さくても、設置した容量を有効に使い切る効率は高いのです。

さらに英国の研究では、潮流発電の周期的で予測可能な性質が、従来のLCOE(均等化発電原価)の計算には現れない系統全体のコスト削減効果——需給調整(バランシング)にかかる費用の低減など——をもたらす可能性が指摘されています。単価だけを比べると割高でも、システム全体で見ると評価が変わりうるということです。

組み合わせて初めて価値が出る

結論として、潮流発電は単独で主力電源になる技術ではありません。しかし、太陽光が沈み、風が止まり、それでも電気が必要な時間帯に、あらかじめ「ここは出せます」と約束できる電源は、再エネ比率が高まるほど価値を増します。港湾や離島の脱炭素をめぐる議論でも、こうした地域電源の組み合わせが鍵になります。

もう一つ見落とされがちなのが、設置面積あたりの発電量です。潮流タービンは海面を占有せず海底に沈むため、同じ海域を漁業や航路と共有できる可能性があります(もちろん、それには丁寧な調整が要ります)。海面を広く使う洋上風力や太陽光と比べたとき、この「空間の使い方」の違いは、狭い日本の沿岸では意外に効いてくる論点です。

観点潮流発電波力発電洋上風力
予測可能性◎ 何十年先まで計算可能△ 気象予報に依存○ 数日先まで予報可能
設備利用率40〜50%(好適地)20〜30%程度30%台
国内の資源量限定的(狭い海峡に集中)36GW(賦存量ベース)大きい(着床・浮体合わせて)
技術成熟度実証〜初期商用実証段階商用化済み
発電コスト高い(洋上風力の2〜3倍の設置コスト)高い低下が進行中
海洋・洋上の再エネ3方式の比較。潮流の強みは予測可能性と利用率にある

コスト・環境影響・社会調整——実用化に残るハードル

強みを確認したところで、正面から課題を見ます。潮流発電が広がっていない理由は明確で、まだ高いこと、そして海を使う以上、先に使っている人と生きものがいることです。

コスト——洋上風力の2〜3倍という現実

現状、潮流発電の設置コストは洋上風力の2〜3倍とされます。専用作業船、海底ケーブル、腐食対策、限られた作業可能日——これらが積み上がります。英国の分析では、LCOEは技術学習率17%を前提に、約240ポンド/MWhから150ポンド/MWh以下へ低下しうると見込まれています。実績ベースの学習率は約25%と、想定を上回るペースで下がっているという報告もあります。

重要なのは、この低下が「自然に」起きるのではなく、導入量が増えることで起きるという点です。だから英国は、再エネ入札制度であるCfD(差金決済契約)に潮流発電専用の予算枠を設けました。2024年のAR6(第6回入札)では1,500万ポンドの専用枠に対して6事業・28MWが落札され、行使価格は172ポンド/MWh。これは上限価格から34%安く、専用枠の導入以来もっとも低い水準でした。過去2ラウンドの93MWと合わせ、2029年までに121MWのパイプラインが積み上がっています。

「専用枠」という政策手法

潮流発電を洋上風力と同じ土俵で競わせれば、価格で必ず負けます。英国はそれを承知のうえで小さな専用枠を切り出し、事業者に「毎年必ず案件がある」という予見性を与えました。結果として入札のたびに価格が下がっています。技術を育てる政策の教科書的な事例です。

生きものはタービンにぶつかるのか

海中で羽根が回ることへの当然の懸念が、魚・海生哺乳類・潜水する海鳥との衝突リスクです。潮流発電の適地は流れが速く濁りやすいため、そもそも「観測が難しい」ことが長く課題でした。英国のEMEC(欧州海洋エネルギーセンター)などは、遭遇率モデルと衝突リスクモデルを組み合わせた評価手法を整備してきました。

近年は実測データも出てきています。稼働中の小型潮流タービンを対象に109日分の水中カメラ映像を解析した研究(PLOS ONE, 2025)では、タービンに接近した魚229個体・5つの魚群のうち、回転する羽根への衝突が観察されたのは4件でした。海鳥や海生哺乳類の衝突は観察されていません。多くの個体はタービンを避けて泳いでいたことになります。

衝突以外の影響経路にも目を配る必要があります。装置が発する水中騒音は、音でコミュニケーションや索餌をする海生哺乳類にとって無視できません(海の音の問題は海洋騒音問題で詳しく扱っています)。海底ケーブルが生む電磁場が、地磁気を頼りに回遊する種に影響しないかも論点です。さらに、タービンが流れからエネルギーを取り出すこと自体が、下流の流速や混合の構造をわずかに変える可能性も指摘されています。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

この数字の慎重な読み方

  • 観測はあくまで1基の小型タービンを対象にした限定的なもので、大型機や多数機を並べたアレイに直接あてはめることはできない
  • 回遊魚の通り道に大規模に設置した場合の累積影響は、まだ十分に分かっていない
  • 衝突以外にも、水中騒音や電磁場、流れの構造そのものの変化という経路がある
  • だからこそ、稼働中の実証機で環境モニタリングを継続することに意味がある

漁業・航路との共存という一番難しい問題

技術以上に難しいのが、社会調整です。潮の速い海峡は、たいてい良い漁場であり、同時に船の通り道でもあります。鳴門海峡や来島海峡が典型で、流速だけを見れば世界有数の適地でも、そこに構造物を置くという話は簡単には進みません。

  • 漁業権との調整:設置海域での操業がどう変わるのか、事前に丁寧な合意形成が要る
  • 航行安全:海面下の構造物の位置と水深余裕を明示し、海図・航行警報へ反映する
  • 海底ケーブルのルート:漁具や錨との干渉を避けた敷設計画が必要
  • 地域への還元:発電した電気や利益が地域に戻る仕組みがないと、受け入れは進みにくい

五島の実証が「地域の脱炭素化モデル構築事業」という枠組みで進められているのは、まさにこの点を意識してのことです。技術実証と地域合意はセットでしか前に進みません。

日本の海はどこまで使えるのか——ポテンシャルと現実的な道筋

最後に、日本の海が持つ潜在力と、これから何が起きうるのかを整理します。結論から言えば、潮流発電は「日本の電力を支える柱」ではなく、「特定の地域を確実に支える電源」として育っていく可能性が高いと考えられます。

潮流の資源は限定的、しかし黒潮という別札がある

NEDOの評価によれば、日本は欧米と比べて波力・潮流のポテンシャルが小さい一方、世界有数の海流である黒潮が陸に比較的近いところを流れているという独自の優位性を持っています。海流エネルギーの規模は約205GWと試算されており、潮流とは桁の違う資源です。

この黒潮を狙った挑戦が、NEDOとIHIによる水中浮遊式海流発電システム「かいりゅう」です。100kW級の実証機を、2017年8月に鹿児島県十島村の口之島沖の黒潮域へ設置し、発電性能と姿勢制御システムの検証を実施。最大出力約30kWを記録し、水中で姿勢を安定させる自律制御や、設置・撤去の工法を確認しました。その後、自律制御プログラムの改良や整流板の追加などの改造を施した機体で、1年以上の長期実証にも取り組んでいます。

「主力」ではなく「離島と地域」から広がる

ただし黒潮の利用は、潮流発電以上に難しい挑戦でもあります。設置海域は水深が深く、陸から遠く、しかも黒潮の流路は季節や年によって大きく蛇行します。「そこに必ず流れがある」とは言い切れない場所で、深い海に装置を係留し、長い海底ケーブルで陸まで送る——技術的にもコスト的にも、まだ研究段階にあると理解しておくのが妥当です。

潮流発電が最初に価値を出すのは、燃料コストが高く、電力の自給性が経営課題になっている離島や沿岸の小規模系統です。本土の大規模系統では価格競争に勝てなくても、ディーゼル発電の燃料代と比べる土俵なら話が変わります。五島の実証がまさにその文脈で進められているのは、偶然ではありません。

  1. 実証段階(現在):1〜数基の装置を、実際の系統につないで長期運転しデータを取る
  2. 小規模アレイ段階:数基〜10基程度を束ね、施工・保守の反復で単価を下げる
  3. 地域電源段階:離島や沿岸自治体の電力の一部を安定的に賄う存在になる
  4. 拡大段階:コストが十分下がれば、より条件の緩い海域へ広がる

私たちが見ておくべき指標

ニュースで潮流発電の話題に出会ったとき、何を見れば実態がつかめるでしょうか。設備容量(kW)だけを見るのではなく、次の3つに注目すると、その取り組みが本物かどうかが分かります。

潮流発電のニュースを読むときの3つの視点

  • 系統につながっているか:試験水槽や短期試験ではなく、実際の電力網へ送電しているか
  • どれだけ長く回り続けたか:海洋機器の価値は連続運転時間で決まる。累計発電量(kWh・GWh)が公表されているか
  • 環境モニタリングを併走させているか:生きものへの影響を測る計画があるか。なければ、その事業は社会的に長続きしない

海のエネルギーを使うということは、海の恵みを分けてもらうということでもあります。潮の満ち引きは、人が電気を必要とするずっと前から、干潟を潤し、栄養を運び、魚を育ててきました。そのリズムを電気に変えるなら、リズムそのものを壊さないやり方を選ぶ必要があります。五島の海で回り続けるタービンは、その両立が可能かどうかを、いま実地で確かめている最中です。

この記事のまとめ

  • 潮汐は月と太陽の起潮力で生まれるため、何十年先まで発電量を予測できる唯一級の再生可能エネルギー
  • 「潮流発電」は流れを水中タービンで受ける方式、「潮汐発電」は湾を堤で仕切り潮位差を使う方式で、規模も課題も別物
  • 海水は空気の約800倍の密度を持ち、エネルギーは流速の3乗に比例するため、適地は潮の速い狭い海峡に限られる
  • 長崎県五島市の奈留瀬戸で、2025年5月から国内初の商用スケール1,100kW機が系統に接続して実証運転中
  • 世界ではMeyGen(英国・6MW、累計50GWh超)が潮流の先頭を走り、潮汐ではランス(240MW)と始華湖(254MW)が半世紀規模の実績を持つ
  • 設備利用率40〜50%と予測可能性が強みだが、設置コストは洋上風力の2〜3倍。英国は専用入札枠で価格を下げてきた
  • 生きものへの衝突は限定的な実測では少数だが評価はまだ途上。漁業・航路との調整を含め、地域合意とセットで進める必要がある

参考文献・出典

  1. 五島市 – 潮流発電(環境省「潮流発電技術実用化推進事業」の実証概要)
  2. 九電みらいエナジー株式会社 – 「潮流発電技術実用化推進事業」発電機の設置工事完了・発電開始について(2021年)
  3. 九電みらいエナジー株式会社 – 商用スケール大型潮流発電機の実証運転を開始(2025年5月26日)
  4. NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構) – 海洋エネルギー発電実証等研究開発
  5. NEDO – 再生可能エネルギー技術白書 第6章 海洋エネルギー(波力・潮流・海流のポテンシャル)
  6. NEDO – 実海域における1年以上の長期実証試験に向け実証機「かいりゅう」が出港
  7. 内閣府 総合海洋政策推進事務局 – 波力発電の動向(佐賀大学海洋エネルギー研究所 今井康貴)
  8. 佐賀大学 海洋エネルギー研究所 – 潮汐力発電|海洋エネルギーとは
  9. Tethys(米国パシフィック・ノースウェスト国立研究所) – MeyGen Tidal Energy Project
  10. PLOS ONE – Observations of marine animal interactions with a small tidal turbine(2025)
  11. UK Marine Energy Council – 6 tidal stream projects successful in the UK's latest renewable auction(CfD AR6)

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