⚡ 30秒でわかる答え
- アユは川で生まれ、海で冬を越し、春に川へ戻る「両側回遊」の一年魚で、人生の半分近くを海で過ごします。
- 孵化した仔魚は5〜7mmで、1〜2日で海へ流下。春に5〜10cmに育って遡上し、夏は石の藻を食べて縄張りをつくります。
- 遡上数・漁獲量は減少傾向で、2023年の内水面漁獲量は1,695トン。多摩川の2024年の遡上推定は約37万尾でした。
- 減少は堰・ダム、海水温、病気、捕食などの複合要因。魚道の整備で遡上が増えた例もあります。
アユは「川の魚」と思われがちですが、実は人生の半分近くを海で過ごす魚です。秋に川で生まれた仔魚は、すぐに海へ下って冬を越し、春に川を遡って成長します。
寿命はわずか1年。短い一生のあいだに、川と海という2つの世界を行き来する「両側回遊」という暮らし方を貫きます。この旅のどこかが途切れれば、アユは次の世代を残せません。
この記事では、アユの一生を産卵・降下・海での冬・遡上・夏の川の暮らしに沿ってたどり、多摩川の遡上調査や全国の漁獲量のデータ、堰やダム・魚道の影響、そして私たちにできることまでを、一次情報をもとに解説します。
この記事で学べること
- アユの一生と「両側回遊」のしくみ
- 仔魚が海へ下り、春に遡上するまでの流れ
- 遡上の水温や体長など、生態の数字
- 多摩川の遡上数や漁獲量の最新データ
- 堰・ダムと魚道がアユに与える影響
- アユを守るために川と海でできること
アユとはどんな魚か:「年魚」と呼ばれる理由
日本の清流を象徴する魚、アユ
アユ(鮎、学名 Plecoglossus altivelis)は、北海道西部から九州、さらに朝鮮半島や中国沿岸にかけて分布するキュウリウオ目の魚です。日本では夏の風物詩として塩焼きや鵜飼い、友釣りで親しまれ、「清流の女王」とも呼ばれてきました。環境省の資料によると、日本国内では北海道西部の天塩川から沖縄まで広く分布しています。
多くの人は、アユを「川の魚」と考えています。ところが実際には、アユは人生の半分近くを海で過ごす魚です。川で生まれ、すぐに海へ下り、海で冬を越し、春にふたたび川へ戻ってくる。この海と川を行き来する暮らしが、アユの一生を理解する最大の鍵になります。
寿命はわずか1年──「年魚」の由来
アユの寿命は基本的に1年です。秋に生まれたアユは翌年の秋に産卵して一生を終えます。漢字の「鮎」のほかに「年魚」と書かれるのは、この一年きりの命に由来します。川で見かける体長10〜30cmの成魚も、前の年の秋に生まれた個体にすぎません。
生まれた年の秋に卵から孵化した仔魚(しぎょ)は、体長わずか5〜7mmほどです。そこから約1年で最大30cm近くまで成長し、次世代を残して命を終えます。この「短い一生に、海と川という2つの世界を使い切る」生き方は、魚類の中でも特徴的です。
アユの一生を一言で言うと
- ['秋:川で産卵し、親は死ぬ', '秋〜冬:仔魚は海に下り、プランクトンを食べて育つ', '春:稚魚が川を遡上する', '夏:川の石に付いたコケ(付着藻類)を食べ、縄張りをつくる', '秋:成熟して下流へ降り、産卵する']
「両側回遊」とは何か
川と海を行き来する魚の暮らし方は「回遊」と呼ばれ、その中でも産卵のためではなく、成長のために淡水と海水を移動するタイプを「両側回遊」といいます。アユのほか、ボウズハゼ類やヨシノボリの仲間にも見られる暮らし方です。
| 回遊のタイプ | 産卵場所 | 代表的な魚 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 両側回遊 | 川(淡水) | アユ、ヨシノボリ類 | 川で生まれ海で育ち、川へ戻って成長・産卵 |
| 降河回遊 | 海 | ニホンウナギ | 川で育ち、産卵のため海へ下る |
| 遡河回遊 | 川(淡水) | サケ、サクラマス | 海で育ち、産卵のため川を遡る |
ウナギは海で産卵し川で育つ「降河回遊」、サケは川で産卵し海で育つ「遡河回遊」ですが、アユはそれらとは異なる両側回遊です。ウナギについてはウナギの産卵場の謎、サケについてはサケの母川回帰の記事も合わせてお読みください。

川で生まれ、海で育つ:産卵から仔魚の旅まで
秋、下流域の瀬で産卵する
アユの主な産卵期は10〜12月で、北ほど早く、北海道では9月から始まります。南へ行くほど遅くなります。産卵の場所は、川の中流域と下流域の境目あたりにある、砂利底の浅い瀬です。親アユは夏のあいだ上流で育ち、秋になると昼の時間が短くなったことを感知して成熟が始まり、群れで川を下ります。
産卵が始まる目安は水温の低下で、一般に水温が20℃前後を下回る頃から産卵行動が見られ、15℃以下になると活発になるとされます。メスは砂利に卵を産みつけ、オスが放精します。卵は粘着性があり、砂利に付着します。卵径は直径1mm弱と非常に小さく、水温15〜20℃では約2週間で孵化します。
孵化した仔魚はすぐに海をめざす
孵化した仔魚は全長5〜7mm、卵黄を抱えた透明な体をしています。仔魚は孵化後1〜2日ほどで川の流れに乗って海へと流下します。この「降下」は主に夜間に行われるとされ、天敵に見つかりにくい時間帯を選んでいると考えられます。
降下のスピードと距離
- ['仔魚の体はわずか5〜7mmで、自力で川を下るというより、流れに乗って運ばれる', '川の長さによっては、孵化した場所から河口まで数日かかることもある', '川に流れが少ないと、海に着く前に卵黄を使い果たしてしまうリスクがある']
このため、アユにとって「川の流れ」はとても重要です。ダムや堰で水が止まったり、取水で川の水が減ったりすると、仔魚が海にたどり着けない可能性が高まります。
海での冬:シラスと呼ばれる時期
河口にたどり着いた仔魚は、海で動物プランクトンを食べて育ちます。この時期のアユは半透明で細長い体をしており、川で見るアユとは全くの別の姿をしています。この時期のアユは「シラス」とも呼ばれます。
海で過ごす期間は、秋から翌春までのおよそ半年間です。仔魚は河口から沖合、とくに河口から数km以内の沿岸の浅い海に広く分布し、昼間は海底近く、夜は海面近くへと移動する日周的な行動をとるとされています。塩分が低い場所や水温が適した場所を選んで群れるため、河口周辺の海は、アユにとって大切な「育児室」になっています。

海での生き残りは「水温」に左右される
海で冬を越すあいだのアユの生き残りには、水温が強く影響すると考えられています。研究報告では、水温が高い状態で海水へ移ると仔魚の生残率が低下することが示されており、冬の海が暖かすぎることもアユにとって好ましくないとされます。海で冬を越すアユは、黒潮や対馬暖流の影響を受けた比較的暖かい海(12〜15℃前後)に依存するとされ、海の水温環境がアユの生き残りを左右します。
海洋環境の変化は、海を経由するすべての回遊魚に共通の課題です。回遊魚と水温の関係は海洋温暖化と漁業の記事でも詳しく扱っています。
この章のポイント
- ['産卵は秋、下流域の砂利底の瀬で行われる', '卵は直径1mm弱、約2週間で孵化し、仔魚は5〜7mm', '仔魚は1〜2日で海へ流下し、冬は河口周辺の沿岸で育つ']
春の遡上:海から川へ、若アユの大移動
遡上は水温がスイッチになる
海で冬を越した稚アユは、春になると河口に集まり、川を遡り始めます。遡上の時期は地域によって違いますが、おおむね3月から5月です。遡上を始める目安は川の水温で、川の水温が8〜10℃を上回るようになると海から川へ入り始め、活発に遡上するのは14〜17℃ほどとされています。
遡上時の体長は5〜10cm程度。環境省の資料では、海で5〜6cmほどに育った稚アユが川へ入ると記されています。半年前は5〜7mmだった仔魚が、およそ10倍以上の大きさになって戻ってくるわけです。
| 河川 | 遡上速度の目安(1日あたり) |
|---|---|
| 長良川 | 約1.7〜2.5km |
| 狩野川 | 約3〜4.3km |
| 吉野川 | 約2km |
| 日野川 | 約0.3〜0.5km |
河川によって遡上の速さは大きく異なります。流れの強さや堰の有無、水温など、川ごとの条件が反映されると考えられます。
体も食べ物も、海仕様から川仕様へ
海にいるあいだのアユは動物プランクトンを食べていますが、川に入ると食べ物が一変します。若アユは、川底の石に付いた付着藻類(いわゆる「苔」)を食べるようになります。アユの歯は櫛(くし)のような形をしており、石の表面の藻類をそぎ取るのに適しています。
遡上の途中で、体の色や形も変わっていきます。海にいた頃の透明な体から、川の暮らしに合った体色へ。この変身のタイミングは、アユにとって一生で最も大きな転換点のひとつです。
遡上のとき、アユは何を乗り越えるのか
- ['河口の堰(河口堰)や潮止め堰', '途中の取水堰・砂防ダムなど、落差のある構造物', '水量の少ない瀬や、水温の低すぎる雪解け水の流入', 'カワウやサギ類、大型魚による捕食']
次章以降で詳しく見る通り、遡上の途中にある横断構造物は、アユの回遊を左右する最大の壁になり得ます。
夏の川で何をしているか:縄張りと「苔」を食べる暮らし
1㎡の縄張り:なぜアユは友釣りで釣れるのか
川の中流から上流まで到達した若アユは、餌場となる石を中心に1㎡程度の縄張りをつくります。そして、石の表面に付いた藻類を、自分だけの「畑」のように守ります。縄張りに侵入してきた別のアユに体当たりして追い払うのです。
この縄張り行動を利用したのが、日本の伝統的な漁法「友釣り」です。生きたアユ(おとりアユ)を泳がせ、縄張りを守ろうと攻撃してきたアユを、おとりの後ろの掛け針に引っかけて釣ります。アユという魚の習性そのものを活かした、世界でも珍しい釣りです。
食み跡(はみあと)が語る川の健康
アユが石の藻類を食べた跡は「食み跡」と呼ばれ、石の表面に楕円形やV字形の跡として残ります。食み跡がたくさん見られる川は、アユが多く、藻類が豊富に育っている証拠になります。
面白いことに、アユが食べる藻類の種類は、食べる量が増えると変化することが報告されています。摂餌圧が高まると、藻類はケイ藻中心からラン藻中心へと変わっていきます。アユは「川の庭師」として、石の上の生態系をつくり変えているともいえます。
日長が成熟の合図になる
- ['アユは「昼の時間が短くなった」ことを感知して成熟し始める', '夏のあいだは成長が優先され、秋の日照短縮で産卵の準備が進む', '成熟したアユは「落ちアユ」「錆びアユ」と呼ばれ、体色が黒ずんで婚姻色になる']
ここまでが、アユの一生のおおまかな流れです。次の章からは、近年問題になっている遡上量・漁獲量の減少と、その背景にある川と海の変化を見ていきます。
海に行かないアユもいる:陸封型と琵琶湖のコアユ
湖だけで一生を終える「陸封型」
アユの仲間には、海へ下らずに湖で一生を過ごすタイプがいます。代表が琵琶湖のアユです。琵琶湖のアユは「コアユ」と呼ばれ、秋に流入河川で生まれた仔魚が、海ではなく湖へ下って冬を越します。このように、本来は海と川を行き来する魚が、湖など淡水域だけで生活環を完結させることを陸封と呼びます。
琵琶湖産の陸封型アユと、海を経由する回遊型アユとでは、海水への順応能力が異なることが研究で明らかになっています。陸封型は海水に弱く、回遊型は海水への耐性を保っているというものです。長い年月のあいだに、湖で暮らす集団が海を使わない暮らしへと適応していったことを示しています。
琵琶湖のコアユは、全国の河川に稚魚として放流されてきた歴史があります。環境省の資料には、放流された湖産アユのほうが、天然アユよりも早く縄張りをつくり、成長も早い傾向があると記されています。一方、遡上してくる海産(回遊型)のアユとは、性質や行動が異なることも知られています。
| タイプ | 育つ場所 | 特徴 |
|---|---|---|
| 回遊型(海産) | 海で冬を越し、春に川へ遡上 | 海水耐性をもち、遡上のために河口へ集まる |
| 陸封型(湖産) | 湖で冬を越し、春に川へ上る | 琵琶湖のコアユが代表的。放流用の稚魚としても利用される |
琉球列島の固有亜種「リュウキュウアユ」
日本のアユには、沖縄・奄美に分布する別亜種「リュウキュウアユ」がいます。奄美大島の河川に生息し、環境省のレッドリストでは絶滅のおそれが極めて高い種として掲載されています。かつては沖縄島にも生息していましたが、1970年代に姿を消したとされ、現在は地元の取り組みとして再導入が進められています。
リュウキュウアユも、基本的には川と海を行き来する暮らしをします。亜熱帯の暖かい川では、本州のアユとは産卵期や成長の時期が異なります。こうした地域ごとの違いも、アユの多様性をつくっています。
アユの多様性
- ['本州以南の回遊型アユ:海で育ち、春に川を遡る', '琵琶湖などの陸封型アユ:湖で一生を過ごす', '奄美・沖縄のリュウキュウアユ:南の島に暮らす固有亜種']
ひとつの種でも、生まれ育つ場所によって暮らし方が変わる。アユの多様性を守ることは、海・川・湖の環境の多様さを守ることにもつながります。
アユと日本人:鵜飼い・友釣り・食文化
古くから親しまれてきた魚
アユは日本人にとって特別な魚です。漢字の「鮎」は、古い時代の伝承で、神が鮎を釣って吉凶を占ったという話に由来するとされ、日本書紀や古事記にもアユにまつわる記述があります。一年の命であることから「年魚」、独特の香りから「香魚(こうぎょ)」とも呼ばれてきました。
香りは、アユが石の藻類を食べることに由来するといわれ、スイカやキュウリにたとえられることもあります。川の水質や、食べた藻類の種類によって味や香りが変わるため、「どの川のアユか」が料理の価値を左右してきました。
鵜飼いと友釣り:アユの習性を活かした漁
日本各地には、アユを獲るための独特の漁法や文化が根づいています。長良川の鵜飼いは、鵜を操ってアユを捕らえる伝統漁法として知られ、夏の風物詩になっています。友釣りは、前述のとおりアユの縄張り行動を利用した釣りで、おとりのアユに体当たりしてきたアユを釣り上げます。
- 鵜飼い:夜間、かがり火で川面を照らし、鵜が泳ぐアユを捕らえる
- 友釣り:縄張りを守るアユの攻撃性を利用した釣り
- 簗(やな)漁:産卵のために川を下るアユ(落ちアユ)を、仕掛けで捕らえる
これらの漁は、アユが川を上り下りする習性や、縄張りをつくる行動を熟知した先人の知恵の結晶です。同じように、海と川の暮らしが文化を育てた例は、日本の伝統的な漁業文化の記事でも紹介しています。
「天然」と「養殖」のアユを食べ分ける
私たちが食べるアユの多くは養殖ものですが、天然の遡上アユを楽しめる地域もあります。農林水産省の統計では、令和5年の内水面養殖によるアユの収獲量は3,387トンと、内水面漁業の漁獲量1,695トンの約2倍にのぼります。養殖アユは、安定して供給できる一方で、天然アユは川の環境を反映した香りや味わいが魅力です。
天然アユを守ることは、文化を守ること
- ['アユ漁や川遊びの文化は、遡上する天然アユがいてこそ成り立つ', '川の環境が変われば、アユの味も、漁の暮らしも変わる', '地域の遡上調査や放流の取り組みを知ることが、保全の第一歩になる']
遡上調査から読み解く:アユを数える技術と限界
どうやってアユの数を数えるのか
川を遡る若アユの数を、直接数えることはできません。そこで多くの調査では、河口付近に設置した定置網や、魚道の入口などでアユを数え、その数をもとに全体の遡上数を推定します。多摩川の調査では、河口から11km地点に網を設置し、毎日24時間ごとに入網した数を記録しています。
推定の考え方はシンプルです。「全体のうち、何%が網に入るか」を示す入網率(多摩川では5.4%)がわかれば、累計の入網数をその率で割ることで、遡上全体の数が推定できます。19,881尾が入網し、入網率が5.4%なら、遡上推定数は約37万尾になります。
数字を読むときの3つの視点
- 年ごとの変動:河川の水量や海の条件で、遡上数は年によって大きく上下する
- 体の大きさ:数が少なくても、体長が大きい年は、海での成長が良かった可能性がある
- 長期の傾向:1年の増減に一喜一憂せず、数年〜数十年の傾向を見る
多摩川の2024年の遡上は、数は少なめでも体長6.5cmと大きめでした。海での餌や水温の条件が、数と大きさにそれぞれどう影響するのかは、アユの研究のなかでも重要なテーマです。
数字の限界
- ['入網率は川の水量や調査年によって変わるため、推定値には幅がある', '1つの川の調査を全国に一般化することはできない', '放流アユと天然アユは、見た目では区別が難しいことがある']
アユの遡上調査は、単に魚の数を数えるだけでなく、川と海の環境が変化しているかを測る「ものさし」でもあります。長年のデータを積み重ねている川ほど、変化に気づきやすくなります。
遡上数の推定値は、あくまで「川と海のいまの状態を知るための手がかり」です。数字の増減だけでなく、調査が何年続いているか、どんな方法で数えているかを合わせて見ることで、アユの変化をより正確に読み取れます。身近な川の遡上調査結果が公開されていれば、ぜひ一度のぞいてみてください。
また、アユの回遊を守る取り組みは、同じ川を利用するウナギやヨシノボリ類、モクズガニなど、他の回遊性の生き物の保全にも役立ちます。ひとつの魚を手がかりに、川全体の生き物のつながりを見ることができるのも、アユの大きな魅力です。
データで見るアユの現在:遡上数と漁獲量
多摩川:40年以上続く遡上調査
アユの遡上数は、河川ごとに調査が行われています。東京都が続けている多摩川のアユ遡上調査は、昭和58年(1983年)から継続されている貴重なデータです。令和6年(2024年)の調査は3月12日から5月28日まで実施され、河口から11km地点に設置した定置網への入網数をもとに推定されました。
| 項目 | 令和6年(2024年)の多摩川 |
|---|---|
| 調査期間 | 3月12日〜5月28日 |
| 累計入網数 | 19,881尾 |
| 入網率(推定に使用) | 5.4% |
| 推定遡上数 | 約37万尾 |
| 遡上魚の平均体長 | 6.5cm |
推定遡上数は「累計入網数÷入網率5.4%」で算出されます。令和6年の約37万尾は、前年より減少し、近年で最も少なかった令和3年に次ぐ少なさでした。一方で平均体長6.5cmは、過去10年間で2番目に大きい値で、数は少なくても粒ぞろいの大きな個体が遡上した年でした。

全国的な減少傾向
遡上量の減少は多摩川だけの現象ではありません。福井県など各地の水産試験場からも、近年は全国的にアユの遡上が少ない傾向が報告されており、福井県では平成29年(2017年)から遡上量が大きく減少したとされています。
漁獲量にも減少の傾向が現れています。農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、令和5年(2023年)の内水面漁業(天然・放流を含む河川や湖での漁獲)によるアユの漁獲量は1,695トンで、前年に比べて81トン(4.6%)減少しました。内水面養殖業のアユ収獲量は3,387トンで、前年比8.0%減少です。
アユの漁獲量は1990年代前半以降、長期的に減少してきたとされています。1992年以降減り続けているという整理もあります。
データを読むときの注意
- ['遡上数は定置網などから推定した「推定値」で、年ごとの変動も大きい', '漁獲量には放流(種苗放流)されたアユの分も含まれ、天然アユだけの数字ではない', '1つの川の傾向が、他の川にそのまま当てはまるとは限らない']
堰とダムが断つ回遊経路:魚道は届いているか
川の横断構造物が回遊魚に与える影響
アユは川を遡るだけでなく、秋には下って産卵し、仔魚は流れに乗って海へ向かいます。つまり、川の上りと下りの両方が確保されていないと、一生が完結しません。ところが日本の川には、取水堰、床固め、砂防ダム、発電ダムなど、数多くの横断構造物があります。
調査によると、ダムや堰は魚が遡上できる河川の長さを制限し、アユの生息域を大きく減らしてきたことが指摘されています。また、川に流れが少なくなると、秋に生まれた仔魚が海にたどり着くまでの時間が長くなります。卵黄しか持たない仔魚にとって、これは致命的になりかねません。

魚道とは何か
魚道は、堰・床固・ダム・砂防ダムなどの河川横断施設に、魚の通り道として設けられる構造物です。階段式、緩勾配式(スロープ式)、小さな水路をつくる式など、さまざまな形があります。ゲートが閉まっていても、魚が遡上できるようにするのが目的です。
魚道が効果を上げた事例
国土交通省の資料には、魚道の整備で遡上数が大きく変わった例が示されています。たとえば、ある河川の堰(新六堰)では、緩勾配の魚道を整備する前の2008年の遡上確認数は13でしたが、整備後の2009年は1,572に大幅に増えました。その後は年によって51〜999の範囲で推移しています。
多摩川・秋川では、平成4年(1992年)3月に「魚がのぼりやすい川づくり推進モデル事業」のモデル河川に全国に先駆けて指定され、横断工作物の改良や魚道の新設・改善が計画的に進められてきました。
- 魚道があっても、水量が足りなければ機能しない
- 魚道の入口が見つけにくい位置にあると、魚が入れない
- 上りだけでなく、仔魚や産卵後の親魚の降下も考える必要がある
川の再生の取り組み全般は日本の河川再生の記事で、ダムが海岸に与える影響はダムと沿岸への土砂供給の記事で解説しています。
なぜ減っているのか:川と海、複合する要因
単一の原因ではない
アユが減っている理由は、ひとつに絞れません。各地の水産試験場や研究者は、複数の要因が重なっていると整理しています。大きくは「川の問題」「海の問題」「人間活動の問題」に分けられます。
| 区分 | 主な要因 | アユへの影響 |
|---|---|---|
| 川 | ダム・堰による遡上・降下の阻害、産卵場の荒廃、取水による水量減少、水質汚濁 | 生息域の縮小、仔魚が海に届かない |
| 海 | 冬の海水温の変化、沿岸環境の変化 | 仔稚魚の生き残りの低下 |
| 生物・人間 | 冷水病などの病気、濫獲、カワウなどによる捕食 | 成魚の大量死、個体数の減少 |
海の側の要因:水温と仔稚魚の生き残り
河川の環境が同じでも、遡上数は年によって大きく変わります。その一因として注目されているのが、海で過ごす冬の環境です。研究では、水温が高い状態で海水に移ると仔魚の生残率が低下することが示されています。海洋温暖化が進むと、アユが育つ冬の沿岸の海が変化し、遡上量に影響する可能性があります。
高知県の奈半利川では、放流された人工アユの「回帰率」(放流した数のうち、遡上してくる数の割合)が、通常は1/700〜1/4500の範囲で年ごとに大きく変動し、最も低かった2014年は1/4500だったという報告があります。同じ川、同じ放流条件でも、海の中での生き残りが年ごとに大きく変わることを示す例です。
海と川のつながりを見るために
- ['アユの資源は、川だけを守っても、海だけを守っても守れない', '仔魚が海で生き残るかどうかは、河口周辺の水温・餌・塩分に左右される', '遡上数の推移は、海の環境変化を映す「指標」にもなり得る']
魚の分布や漁獲が海水温の変化でどう動いているかは、魚の分布の北上の記事も参考になります。
人間活動の要因:病気・濫獲・捕食
アユの減少要因として、河川荒廃(ダム建設や水質汚濁)、濫獲、冷水病による大量死などが挙げられています。冷水病は、アユにとって深刻な細菌性の病気で、水温の低い時期に発生しやすく、養殖や放流の現場でも問題になってきました。また、カワウなど魚を食べる鳥の増加が、河川のアユに影響しているとも指摘されています。
ただし、どの要因がどれだけ効いているかは川ごとに異なります。「原因はこれだ」と決めつけず、川ごとに調べて対策を選ぶことが大切です。
海と川をつなぎなおす:私たちにできること
川の側でできること:つなぐ・流す・産ませる
アユを増やす取り組みは、川の環境を整えることから始まります。国土交通省は「魚がのぼりやすい川づくり」として、魚道の整備や既存魚道の改善を進めてきました。また、土木研究所は既存の魚道をより上りやすくする「簡易改善法」も紹介しています。
- つなぐ:堰や落差工に魚道を設け、上りと下りの両方を確保する
- 流す:取水や発電で川の水が減りすぎないよう、必要な流量を確保する
- 産ませる:下流の砂利の瀬(産卵場)を保全・再生する
放流だけに頼らない
アユの資源は、全国の河川で稚魚の放流によっても支えられています。琵琶湖産の稚アユ(コアユ)や、人工種苗を放流する取り組みが長く続けられてきました。一方で、放流したアユは遡上してくる天然のアユとは異なる性質をもつことがあり、縄張りづくりや回遊の行動などにも違いがあります。放流は有効な手段ですが、天然の遡上を支える河川環境の再生とセットで考えることが重要です。
私たち一人ひとりができること
今日からできる3つのこと
- ['身近な川の「アユの遡上」ニュースや、自治体の遡上調査結果を見てみる', '夏のアユ料理を食べるときに、産地や、天然か養殖かを意識してみる', '川の清掃や水辺の観察会に参加し、川と海がつながっていることを体験する']
川の水質や水量は、上流から海までつながっています。生活排水や農業・工業の排水への配慮、川のごみを減らす行動も、結果的にアユの暮らしを守ることにつながります。川から海へのプラスチックごみの流入については川から海へ流れるプラスチックの記事もご覧ください。

まとめ:アユは海と川の健康診断
アユは、川で生まれ、海で育ち、川で成長して命を終える、1年の旅を生きる魚です。その旅のどこか1か所が途切れても、一生は完結しません。アユの遡上数や漁獲量の変化は、川の構造物、水量、水質、そして海の環境が、いまどうなっているかを映す鏡でもあります。
身近な川を流れるアユの一生に目を向けることが、海と川を一体のものとして考える第一歩になります。
この記事のまとめ
- ['アユは両側回遊の一年魚。川で産卵し、仔魚は海で冬を越して春に遡上する', '遡上数・漁獲量は長期的に減少傾向(令和5年の内水面漁獲量1,695トン、多摩川の令和6年遡上推定約37万尾)', '堰やダムは回遊経路を断ち、魚道整備で遡上が回復した例もある', '原因は川・海・人間活動の複合。川ごとの調査と、海まで含めた環境の保全が鍵']
参考文献・出典
- アユ・ワカサギに関する生態について|環境省 – アユの生態資料
- アユ|せとうちネット(環境省) – アユの分布・産卵・遡上
- 令和6年アユ遡上調査取りまとめ|東京都 – 多摩川の遡上推定数
- 令和5年漁業・養殖業生産統計|農林水産省 – 内水面漁業・養殖業のアユ
- アユの生活史|たかはし河川生物調査事務所 – 産卵・遡上の水温と速度
- 減りつつあるアユ資源|たかはし河川生物調査事務所 – 資源減少の要因
- アユの遡上量が少ないのはナゼか?|福井県 – 遡上量減少の解説
- 多摩川における魚類の遡上状況等について|国土交通省 – 魚がのぼりやすい川づくり
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア