93%
漂着した人工ごみのうちプラスチックが占める割合(個数ベース・令和5年度)
47%
プラスチックごみの個数のうち漁具など海域由来が占める割合
1.3〜3.1万t
日本から海洋へ流出するプラスチックごみの年間推計量

波打ちぎわを歩くと、砂の上に細い線が引かれているのに気づきます。海藻や流木にまじって、色とりどりの破片が帯のように積もっている——それが漂着ごみのラインです。遠くの海で捨てられた何かが、潮と風に運ばれて、いま自分の足元にたどり着いている。海岸漂着ごみは、海の問題がもっとも身近な形で姿を見せる場所だといえます。

環境省が2025年3月に公表した令和5年度の漂着ごみ組成調査では、全国39都道府県・76地点で回収された人工物のごみを1個ずつ分類しました。総数87,725個、重量にして7,852kg。そのうち個数の93%、重量の72%がプラスチックでした。しかも中身をよく見ると、私たちが真っ先に思い浮かべるペットボトルやレジ袋よりも、カキ養殖用のパイプやロープといった漁業由来のものが上位を占めています。

この記事では、こうした一次データをもとに「何が」「どこから」「なぜその浜に」漂着するのかをたどります。そのうえで、全国で26万人以上が参加する清掃キャンペーンや、拾ったごみを記録して科学データに変える市民科学の取り組みまで、ビーチクリーンという行為が持つもうひとつの意味を見ていきます。海を守る行動は、拾うことと、数えることの両方から始まります。

この記事で学べること

  • 海岸に漂着するごみの組成が、個数と重量でまったく違う顔を見せる理由
  • 陸域由来(容器包装)と海域由来(漁具)の割合と、その見分け方
  • 海流・季節風・海岸の向きが、どの浜にごみを集めるのかという物理
  • 漂着ごみが生態系・漁業・観光・自治体財政に与える具体的な負担
  • 海岸漂着物処理推進法と自治体の補助制度、誰が費用を負担しているのか
  • ビーチクリーンを「拾う活動」から「データを生む活動」に変える方法

海岸漂着ごみとは何か——数字でつかむ全体像

海岸漂着ごみとは、海を漂って海岸に打ち上げられたごみのことです。海洋ごみは大きく、海岸に打ち上がった漂着ごみ、海面や海中を漂う漂流ごみ、海底に沈んだ海底ごみの3つに分けられます。このうち漂着ごみは、人が目で見て手で回収できる唯一の存在であり、海の中で何が起きているのかを推し量るための貴重な「サンプル」でもあります。

環境省は平成27年度から、海峡を中心に黒潮・対馬暖流・親潮の影響を受ける海岸を選んで、継続的なモニタリング調査を行ってきました。調査方法は明快で、清掃頻度の少ない海岸を選び、50mの調査範囲にある2.5cm以上の漂着ごみをすべて回収して分類するというものです。令和5年度は39都道府県・76地点で実施されました(令和4年度は78地点、令和3年度は89地点)。

全国でどれだけのごみが回収されているのか

地方公共団体や民間団体が実際に回収している漂着ごみ(自然物を含む)の量は、年平均でおよそ3万トンとされています。年度ごとの変動は大きく、平成27年度・28年度がそれぞれ約3.3万トン、平成29年度は約5.5万トン、平成30年度は約3.2万トンでした。台風の当たり年や大雨の年には、河川から一気に流木やごみが押し出されるため、回収量が跳ね上がります。

一方で、日本国内から海洋へ新たに流出しているプラスチックごみの量は、環境省が令和6年度にまとめた推計で年間13,000〜31,000トンと見積もられています。これは発生源と品目を一つずつ積み上げて算出したもので、別途マクロ統計から推計した値(2,300〜24,000トン)とも大きな食い違いはありませんでした。ただし環境省自身が「確定値ではなく暫定式・値である」と明記しているとおり、推計には幅があり、今後も精緻化が続けられます。

漂流ごみ・漂着ごみ・海底ごみの3分類を示した海の断面図イラスト
海洋ごみは存在する場所によって漂流・漂着・海底の3つに分けられる。人が回収できるのは主に漂着ごみである。

数字を読むときの3つの前提

  • 「回収量」と「流出量」は別物。回収3万トンは過去に流出したものを含む蓄積分
  • 調査地点は清掃頻度の少ない海岸を選定。人気の海水浴場より漂着が多く出やすい
  • 自然物(流木・海藻)を含む数字と、人工物だけの数字は必ず区別して読む

世界の中の日本

日本は約35,000kmの海岸線を持ち、その大部分が外洋や縁海に面しています。黒潮・対馬暖流・親潮という3つの主要な海流に囲まれ、東アジアの人口密集地帯の風下・潮下にあたる位置関係から、国内由来のごみと国外由来のごみの両方を受け取るという特徴があります。逆にいえば、日本の海岸は東アジア全体のプラスチック循環を映す鏡でもあります。

だからこそ、漂着ごみの対策は国内の廃棄物政策だけでは完結しません。日本が提唱した「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」(2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにする)は2022年9月時点で世界87の国・地域に共有され、2022年3月の第5回国連環境総会ではプラスチック汚染に関する法的拘束力のある条約を議論する政府間交渉委員会の設置が決まりました。浜辺で拾う一本のロープは、こうした国際交渉のテーブルと地続きです。

何が漂着しているのか——個数と重量で見える「別の顔」

漂着ごみの組成を語るとき、もっとも重要なのは「個数で数えるか、重量で量るか」で結論がまるで変わるという点です。小さくて軽いものは個数で目立ち、大きくて重いものは重量で目立ちます。どちらか一方だけを見ると、対策の優先順位を誤ります。

個数ランキング——トップは意外にもカキ養殖の部品

令和5年度の全国調査で、個数がもっとも多かったのはカキ養殖用まめ管(長さ1.5cm程度)で15,594個、全体の17.8%を占めました。これは令和4年度に続いての1位です。2位はカキ養殖用パイプ(長さ10〜20cm程度)で11,084個(12.6%)、3位がプラ製ロープ・ひもで10,129個(11.5%)。上位3品目がいずれも漁具という結果でした。

私たちが「海ごみ」と聞いて思い浮かべる生活由来のものは、4位のボトルのキャップ・ふた(9,698個・11.1%)、5位の飲料用ペットボトル(1L未満)(6,430個・7.3%)として現れます。キャップがボトル本体より多いのは、キャップが軽く浮きやすいうえ、小さくて回収からもれやすいためだと考えられます。

順位品目個数割合
1カキ養殖用まめ管(長さ1.5cm程度・漁具)15,594個17.8%
2カキ養殖用パイプ(長さ10-20cm程度・漁具)11,084個12.6%
3プラ製ロープ・ひも(漁具)10,129個11.5%
4ボトルのキャップ、ふた9,698個11.1%
5飲料用ペットボトル(1L未満)6,430個7.3%
6プラスチックその他4,549個5.2%
7ポリ袋(不透明・透明)4,487個5.1%
令和5年度 全国漂着ごみ 個数ランキング(人工物・必須項目ベース・破片類を除く/出典:環境省)

重量ランキング——首位は木材、次いでロープ

同じ調査を重量で見ると、風景は一変します。1位は木(木材等)で1,819kg、全体の23.2%。これは人工的に加工された木材や建材の破片などで、河川から流出したものが多いと考えられます。2位がプラ製ロープ・ひもで1,404kg(17.9%)、3位が硬質プラスチック破片868kg(11.1%)、4位が漁網741kg(9.4%)、5位が発泡スチロール製フロート・ブイ636kg(8.1%)と続きます。

個数では11.1%だったペットボトルのキャップは、重量ランキングの上位10位に入りません。逆に漁網やブイは、個数では目立たないのに重量では大きな存在感を示します。つまり「拾う手間」で見れば容器包装が主役だが、「処理する量」で見れば漁具が主役という二重構造になっているのです。

個数ランキングと重量ランキングを左右に並べて比較した棒グラフのイラスト
個数と重量では上位品目がまったく異なる。対策を考えるときは両方の視点が必要になる。

破片という厄介な存在

組成調査の上位に「硬質プラスチック破片」「シートや袋の破片」といった項目が並ぶことにも注目してください。プラスチックは海の中で紫外線と波の力によって細かく砕けていきますが、化学的に分解されて消えるわけではありません。もとが何だったのか分からなくなった破片は、発生源をたどることも、素材別にリサイクルすることも難しくなります。

そして砕け続けた先には、5mm以下のマイクロプラスチックがあります。2.5cm以上を対象とする通常の組成調査では捕捉されませんが、砂に混じって確実に存在しています。破片化のメカニズムは海洋プラスチックごみの分解過程で、人体への影響をめぐる研究の現在地はマイクロプラスチックが人体に与える影響で詳しく扱っています。

ビーチクリーンで「小さいもの」を拾う意味

大きなごみを拾うほうが達成感はあります。しかし小さな破片を放置すると、次の波でさらに砕けて回収不可能になります。時間が限られているときは、まず「これ以上細かくなると拾えないサイズ」を優先して拾うと、長い目で見た回収効率が上がります。

どこから来るのか——陸域由来と海域由来、そして国境

漂着ごみの発生源は、大きく「陸から来たもの」と「海の上で出たもの」に分けられます。環境省の組成調査では、プラスチックごみを海域由来(漁具など)/容器包装/製品/その他に分類して集計しており、発生源対策を考えるうえで直接役に立つデータになっています。

個数では47%、重量では44%が海域由来

令和5年度の集計では、プラスチックごみのうち海域由来が個数で41,251個(47%)、重量で3,430kg(44%)と最大でした。次いで容器包装が個数27,771個(32%)、重量732kg(9%)。歯ブラシなどの製品は個数6,553個(7%)、重量47kg(1%)にとどまります。

ここでも個数と重量の乖離が現れます。容器包装は個数では3分の1を占めるのに、重量ではわずか9%。軽くて薄い包装材が大量に流れ着いている一方で、処理の負担という意味では漁具のほうがはるかに重いということです。

由来の分類個数個数割合重量重量割合
海域由来(漁具・ブイ等)41,251個47%3,430kg44%
容器包装27,771個32%732kg9%
製品(生活雑貨等)6,553個7%47kg1%
上記以外(破片・ウレタン等)5,762個7%1,405kg18%
令和5年度 プラスチックごみの由来別内訳(出典:環境省 漂着ごみ組成調査データ)

陸から海への通り道は川

容器包装や生活由来のごみの多くは、街で捨てられたものが側溝や用水路を通って川に入り、河口から海へ出ていきます。ポイ捨てだけでなく、ごみ集積所からの飛散、屋外イベントでの取りこぼし、強風で飛ばされた資源ごみなど、経路は日常の中に無数にあります。海岸から遠く離れた内陸のまちで落ちたペットボトルも、数日後には海にいる可能性があるということです。

この構造は、対策の入口が「海岸」ではなく「まち」にあることを意味します。実際、河川敷や街なかの清掃活動は、海に出る前の段階でごみを止めるもっとも効率のよい海ごみ対策です。海に出てしまったごみを回収するコストは、陸で拾うコストより桁違いに大きくなります。

街のポイ捨てが側溝から川を通って海へ流れ、海岸に漂着するまでの経路を示した図
街で落ちたごみは側溝と川を経由して海へ出る。海ごみ対策は内陸のまちから始まっている。

ペットボトルの言語表記が語る国境

漂着ごみ調査のユニークな手法のひとつが、ペットボトルのラベルに書かれた言語を調べることです。令和5年度は全国で回収されたペットボトル6,901個のうち、4,140個の言語を判別できました。判別できた本数がもっとも多かったのは沖縄県で519個でした。

結果は地域によって鮮やかに分かれます。黒潮流域では、沖縄県・鹿児島県で中国・台湾語表記が8割以上を占めた一方、その他の県では日本語表記が8割以上でした。閉鎖性海域である瀬戸内海は日本語表記が多い県が大半でしたが、岡山県のみ韓国語表記の製品が9割以上を占めるという例外もありました。沿岸域区分でみると、対馬暖流下流・親潮流域・黒潮下流・瀬戸内海では日本語表記が過半数を占め、黒潮上流では中国・台湾語表記が最多、対馬暖流上流では日本語と中国・台湾語が同程度という結果でした。

さらに興味深いのは、漁業用の浮子(うき)です。こちらはすべての地域で中国・台湾語表記が最多で、5割以上を占めていました。同じ「漂着ごみ」でも、品目によって発生源の地理が違うということが、この一点だけでもはっきり分かります。

「外国から来たごみ」という単純化に注意

  • 地域によって国内由来が過半数を占める場所が多く、全国一律に外国由来とはいえない
  • 同じ海岸でも品目ごとに由来が異なる(ペットボトルは国内、浮子は国外が多い等)
  • 日本から流出したごみも他国の海岸に漂着している。責任は相互的なもの

なぜその浜に集まるのか——海流・季節風・地形の物理

海岸を歩いた経験のある人なら、「ごみが山のように積もる浜」と「驚くほどきれいな浜」が数km違うだけで隣り合っていることに気づいているはずです。この差はごみの捨てられ方ではなく、その浜に何が届くかという物理条件で決まっています。

3つの海流が運ぶ

日本周辺には、南から暖かい水を運ぶ黒潮、対馬海峡から日本海へ入り高温・高塩分の水を日本海南部の表層に流す対馬暖流、北から冷たい水を運ぶ親潮という3つの主要な流れがあります。環境省が調査地点を選ぶ際にこれらの流域を軸にしているのは、海流が漂着物の「配達ルート」そのものだからです。

実際、沿岸域区分別のデータは流域ごとの個性を示します。たとえば親潮流域では、重量ベースでプラ製ロープ・ひもが43.7%と突出しており、上位3品目はすべて漁具か木材でした。北の海では生活由来の容器包装よりも、漁業活動と自然由来のものが漂着の主役になっているということです。

冬の季節風が日本海側の浜を埋める

海流と並んで大きいのがの影響です。フタのついたペットボトルや発泡スチロールのように海面から体が出ている(乾舷のある)ごみは、水の流れよりも風の力を強く受けます。冬になると日本列島には北西からの季節風が吹きつけるため、北向き・西向きに開いた海岸に漂着物が集中します。日本海側の海岸で冬季に漂着量が激増するのは、この風と対馬暖流の組み合わせによるものです。

逆にいえば、清掃活動の計画は季節を考えて立てるべきだということでもあります。夏の海水浴シーズン前の清掃は利用者の快適さを守るために重要ですが、漂着量そのものを減らすなら、大量に打ち上がった直後(日本海側なら冬から春)に回収するほうが、再流出を防ぐ効果は高くなります。

日本列島と黒潮・対馬暖流・親潮の流れ、冬の北西季節風の向きを示した模式図
3つの海流と冬の北西季節風。漂着ごみがどの浜に集まるかは、この組み合わせでほぼ決まる。

溜まりやすい地形、溜まりにくい地形

同じ流域でも、地形によって差が出ます。一般に、次のような条件がそろう場所は漂着物が集まりやすくなります。

  • 湾の奥や入り江など、入ってきたものが出にくい閉じた形の海岸
  • 岬の風下側にできる流れのよどみ
  • 河口の近く(陸からの供給が直接ある)
  • 外洋に向かって開き、卓越風を正面から受ける向きの浜
  • 岩場や消波ブロックの隙間(一度入ると波では出ていかない)

岩場や消波ブロックの隙間は特に厄介です。目に見えるのに人力では取り出しにくく、そのまま紫外線を浴び続けて破片化していきます。清掃活動を計画するときは、こうした「取り残される場所」を最初から想定して、道具(火ばさみ、長柄のトング、麻袋)を用意しておくと回収率が上がります。

漂着量を左右する4つの因子

  • 海流:どの水塊がその沿岸に届いているか(黒潮・対馬暖流・親潮)
  • 風:卓越風の向きと、ごみが水面から出ている度合い(乾舷)
  • 地形:湾の閉じ方、岬の位置、河口からの距離
  • 季節・気象:季節風の強まり、台風・豪雨による河川からの一斉流出

漂着ごみが壊すもの——生態と暮らしへの影響

漂着ごみは景観の問題にとどまりません。環境省は想定される被害として、生態系を含めた海洋環境への影響、船舶航行への障害、観光・漁業への影響、沿岸域の居住環境への影響を挙げています。ひとつずつ具体的に見ていきます。

生き物への直接の被害

もっとも深刻なのは、生き物がごみを食べてしまう誤飲と、絡まって動けなくなる混獲・絡網です。ウミガメはクラゲとポリ袋を見分けにくく、海鳥は水面に浮かぶ破片を餌と誤認します。胃に大量のプラスチックが詰まったクジラや海鳥の事例は、国内外で繰り返し報告されてきました。

とくに問題が大きいのが、捨てられたり流失したりした漁具です。網やロープは海中で何年も形を保ち、意図せず魚やカメを捕らえ続けます。この現象はゴーストギア(幽霊漁具)と呼ばれ、漂着ごみの重量上位に漁網とロープが並ぶ今回のデータとも直接つながっています。

漁業と観光への打撃

漂流するロープやシートはスクリューに絡まり、船の航行トラブルの原因になります。定置網に大量のごみが入れば、選別に時間を取られ、網そのものが傷みます。養殖施設に漂着物が押し寄せれば、いかだの破損や作業の遅れにつながります。漁業者は被害者であると同時に、漁具由来のごみという意味では発生源にも関わる立場にあり、この二面性が対策を難しくもし、当事者としての力を持たせてもいます。

観光への影響も無視できません。海水浴場やダイビングスポットは景観そのものが商品であり、漂着ごみは直接的に来訪者数と満足度を下げます。清掃が観光地の維持コストとして毎年計上されている地域は少なくありません。

漂着ごみが生態系・漁業・観光・自治体財政に及ぼす影響を放射状に示した図
漂着ごみの影響は生態系から地域経済、自治体財政まで広がる。

自治体の財政という見えにくい負担

見落とされがちですが、漂着ごみの回収と処理には多額の費用がかかります。砂や海水を含んだごみは重く、塩分を含むため焼却炉を傷めやすい。木材と混ざっていれば分別も必要です。回収は人力に頼らざるを得ない場所も多く、輸送距離も長くなります。離島や過疎地域では、漂着量に対して人口も財源も限られており、負担はいっそう重くのしかかります。

そのため国は補助制度を設けて自治体を支援していますが(詳しくは次章)、それでも自己負担分は生じます。海岸を持つ自治体にとって、漂着ごみ対策は「毎年必ずやってくる固定費」なのです。

近年、海洋中のマイクロプラスチックが生態系に及ぼす影響が懸念されている。

― 環境省「海洋ごみ問題について」

誰が片づけているのか——法律と制度の仕組み

漂着ごみは「誰のごみか分からないごみ」です。排出者が特定できない以上、通常の廃棄物処理の枠組みでは扱えません。そこで日本には、この問題に特化した法律があります。

海岸漂着物処理推進法(2009年制定・2018年改正)

海岸漂着物処理推進法は2009年7月15日に公布・施行されました。海岸管理者や自治体の責務、国の支援、地域計画の策定などを定め、漂着ごみ対策の基本的な枠組みをつくった法律です。

2018年6月には改正法が公布・施行され、法律名は「美しく豊かな自然を保護するための海岸における良好な景観及び環境並びに海洋環境の保全に係る海岸漂着物等の処理等の推進に関する法律」に改められました。この改正で新たにマイクロプラスチック対策が明記され、事業者は製品へのマイクロプラスチックの使用抑制と、廃プラスチック類の排出抑制に努めなければならないと規定されました。回収だけでなく発生抑制へと軸足を広げた改正だといえます。

自治体を支える補助制度

実際の回収・処理を担う都道府県・市町村を財政的に支えているのが海岸漂着物等地域対策推進事業です。国から地域環境保全対策費補助金が交付され、回収・処理事業や発生抑制対策事業に充てられます。補助率は事業内容や地域によって異なり、おおむね事業費の7/10〜9/10(一部は9.5/10や10/10)が国の負担となります。この仕組みによって、全国で年平均3万トン程度の回収が維持されています。

また、法律にもとづいて都道府県は地域計画を作成できます。地域ごとに漂着の実態も、担い手も、処理施設の事情も違うため、全国一律ではなく地域単位で優先順位を決められるようにした仕組みです。自分の住む都道府県の地域計画を読むと、地元の海岸のどこが重点区域とされているかが分かります。

主体主な役割
国(環境省等)基本方針の策定、補助金による財政支援、実態調査・推計、国際交渉
都道府県地域計画の策定、市町村への補助、広域調整
市町村・海岸管理者実際の回収・運搬・処理、清掃活動の受け入れ
事業者プラスチック使用・排出の抑制、漁具の適正管理と回収協力
市民・NPO清掃活動、組成調査への協力、発生抑制の実践と発信
漂着ごみ対策における役割分担(海岸漂着物処理推進法の枠組みにもとづく)
国・都道府県・市町村・事業者・市民の役割分担を階層的に示した図
漂着ごみ対策は単独の主体では完結しない。制度・財源・現場の三層がかみ合って初めて回る。

回収したごみはどこへ行くのか

回収された漂着ごみの多くは、自治体の一般廃棄物として焼却・埋立処理されます。ただし近年は、漁網やブイなど素材が特定できるものを分別して再生原料にする動きも広がっています。使用済み漁網からの再生ナイロン化については使用済み漁網リサイクル完全ガイドで詳しく解説しています。

ビーチクリーンという行為——全国で広がる清掃の輪

制度が枠組みをつくり、自治体が処理を担う一方で、実際に砂浜でごみを拾っているのは圧倒的多数が市民です。企業のCSR活動、学校の課外活動、地域の自治会、サーファーやダイバーの有志——担い手の裾野は年々広がっています。

海ごみゼロウィーク——全国一斉清掃

環境省と日本財団が共同で実施している海ごみゼロウィークは、全国一斉清掃キャンペーンです。2025年は5月30日(ごみゼロの日)から6月8日(世界海洋デー)までを強化期間とし、全国約1,000か所で26万人以上が参加しました。ごみゼロの日に始まり世界海洋デーで終わるという日程設定そのものが、「まちのごみ」と「海のごみ」が地続きであるというメッセージになっています。

こうした大規模キャンペーンの価値は、回収量そのものよりも参加の入口をつくることにあります。年に1回でも砂浜でごみを拾った人は、その後スーパーで包装を見る目が変わります。行動が意識を変える順序で効く、という点が重要です。

1990年から続く国際海岸クリーンアップ

日本でこの分野を長く牽引してきたのが、一般社団法人JEANです。JEANは1990年に日本で初めて国際海岸クリーンアップ(ICC:International Coastal Cleanup)に参加しました。ICCは、世界中の海岸・河川敷・湖畔で、同じ時期に同じ方法でごみを拾いながら調べるという国際的な活動です。

ICCの特徴は、拾うだけで終わらせない点にあります。参加者はデータカードを使って、拾ったごみを品目ごとに数えて記録します。日本語版のデータカードは、世界標準のICC調査項目に日本独自の項目を加えたもので、海岸・河川敷・湖畔だけでなく陸域や水中でも使えるようになっています。2018年の秋のキャンペーンでは、146会場・6,570人が参加し、107kmの範囲から167,423個のごみを回収・記録しました。

砂浜でごみを拾いながら記録用紙に品目を書き込む参加者たちのイラスト
拾いながら数える。記録があることで、清掃活動は一度きりの善行からデータの蓄積へ変わる。

参加するときに知っておきたいこと

初めてビーチクリーンに参加する人が戸惑いやすいのは、安全と分別の実務です。以下を押さえておくと、当日の動きがスムーズになります。

  1. 軍手ではなくゴム引きの手袋を用意する(ガラス片・釣り針・注射器などの危険物がある)
  2. 厚底の靴を履く。サンダルは避ける
  3. 危険物(医療系廃棄物、注射器、油の付いた容器、正体不明のドラム缶やポリタンク)は自分で触らず主催者に報告する
  4. 自然物(流木・海藻)は生態系の一部なので、原則として持ち帰らない
  5. 処理区分に合わせて分別する。主催者の指示に従うのが最優先
  6. 熱中症対策と、潮位の確認(満潮時に岩場へ入らない)

海岸で見つけても絶対に触ってはいけないもの

  • 内容物の分からないポリタンク・ドラム缶(強酸・強アルカリの可能性がある)
  • 注射器などの医療系廃棄物
  • 銃弾・砲弾のような形をした金属物(不発弾の可能性。ただちに離れて110番)
  • 強い異臭のする液体が付着した容器

拾うだけで終わらせない——データが変える海ごみ対策

この記事でここまで紹介してきた数字は、すべて誰かが浜辺でごみを一つずつ数えた結果です。清掃活動は、そのままでは「きれいになった」という一過性の結果しか残しません。しかし記録を取れば、政策を動かす証拠になります。

組成調査が政策を動かした例

分かりやすい例が、カキ養殖用のまめ管・パイプです。これらが個数ランキングの1位・2位を占めるという事実は、丹念な組成調査があって初めて可視化されました。「海ごみ=ペットボトルとレジ袋」という直感的なイメージのままでは、対策の力は容器包装にばかり向けられ、養殖資材の流出防止という具体的で効果の高い打ち手にはたどり着けません。

同様に、ペットボトルの言語表記調査は、地域ごとに「国内対策を優先すべき浜」と「国際協調が不可欠な浜」があることを示しました。データがあるからこそ、限られた予算をどこに投じるかを議論できます。環境省が調査ガイドラインを令和5年6月に改訂し、「釣具」を必須項目として新設したのも、蓄積されたデータから見えてきた課題を反映した動きです。

アプリが変えた市民科学

近年は、スマートフォンで手軽に記録できる仕組みが普及しました。ごみ拾いSNS「ピリカ」は世界130を超える国と地域で使われており、2025年2月20日に累計で拾われたごみが4億個を突破したと発表されています。拾ったごみを写真に撮って投稿するだけで、位置情報つきのデータが蓄積されていく仕組みです。

同社は、水中のマイクロプラスチックを定量的に採取する調査装置「アルバトロス」も開発しています。アルバトロス5号機は東京理科大学と共同で開発され、日本財団「海と日本プロジェクト」の助成事業として、関東・関西・アメリカ合衆国ニューヨーク市の河川と湾岸あわせて38か所で調査を実施し、結果が公開されました。「見えない汚染を見える化する」という発想が、市民の関心と研究をつないでいます。

スマートフォンで拾ったごみを撮影・記録し、地図上にデータが蓄積されるイメージ図
スマートフォンによる記録は、個人の清掃活動を全国規模のデータセットに変えていく。

回収から素材の循環へ

集めたごみをどうするか、という出口の議論も進んでいます。海洋プラスチックは紫外線と塩分で劣化しているうえ、素材が混ざっているため、リサイクルの難度は陸のプラスチックより高い。それでも、漁網の再生ナイロンや、雑多な海洋プラを模様として活かす樹脂素材など、素材の特性に合わせた活用が広がっています。具体的な製品事例は海洋プラスチックのリサイクル製品で紹介しています。

ただし、リサイクルは万能ではありません。回収と輸送、洗浄、選別のコストを合計すると、多くの場合バージン材より高くつきます。だからこそ、出口の工夫と同時に入口を細くすること(発生抑制)が欠かせません。拾う努力と、そもそも流出させない努力は、片方だけでは足りないのです。

データを残す清掃の3ステップ

  • 拾う前に:範囲を決める(例:50m区間)。範囲が定まらない記録は比較できない
  • 拾いながら:品目ごとに数える。ICCデータカードやピリカなど既存の様式を使う
  • 拾ったあと:数値を主催者やJEAN、自治体に報告する。積み上がって初めて意味を持つ

明日からできること——流出を止める暮らしの選択

最後に、この記事を読んだ人が実際にできることを整理します。ポイントは、「拾う」「流出させない」「知らせる」の3つを、無理のない範囲で組み合わせることです。

拾う——最初の一歩を軽くする

いきなり大規模な清掃活動に参加しなくても構いません。散歩のついでに袋を一枚持って行き、目についたものを拾う。海に行かない人でも、近所の川べりや側溝まわりを拾えば、海に出る前のごみを止めたことになります。前章で見たとおり、陸で止めるほうが圧倒的に低コストです。

本格的に参加したいなら、海ごみゼロウィークやJEANのクリーンアップキャンペーンの開催情報を調べるのが近道です。道具も分別のルールも用意されていることが多く、初めてでも安心して参加できます。

流出させない——日常の小さな設計

組成調査の結果を思い出すと、日常で効く行動が具体的に見えてきます。

  • ペットボトルのキャップを外して捨てない(キャップは個数ランキング4位。分別容器に確実に入れる)
  • 資源ごみの袋を強風の日に屋外へ出しっぱなしにしない(飛散が流出の大きな経路)
  • 屋外イベント・BBQ・花火のあとは、風で飛びやすい軽い包装を最後に確認する
  • 海辺のレジャーでは、風で飛ぶもの(ビニール袋、食品トレイ、ストロー)を持ち込まない工夫をする
  • そもそも使い捨て包装を減らす。詰め替え・マイボトル・量り売りの活用

漁業や養殖に関わる人にとっては、資材の流出防止がそのまま最大の貢献になります。まめ管やパイプ、ロープの端材を作業中に確実に回収すること、破損した資材を海域に放置しないこと、使用済み漁具の回収ルートを地域で共有すること。上位ランキングを占める品目だからこそ、現場の運用改善が効きます。

マイボトル・詰め替え容器・エコバッグなど、流出を減らす日常の選択を並べたイラスト
海に出る前の段階で流出を減らすことが、もっとも費用対効果の高い海ごみ対策になる。

知らせる——数字と一緒に伝える

海ごみの話題は「悲しい写真」で語られがちですが、行動につながるのはむしろ具体的な数字です。「個数の93%がプラスチック」「上位3品目は漁具」「日本からの流出は年間1.3〜3.1万トン」といった事実は、感情に頼らずに問題の構造を伝えてくれます。

同時に、海は守るべき対象であるだけでなく、楽しむ対象でもあります。清掃活動が続く現場を見ていると、参加者は義務感よりも「この浜が好きだから」という気持ちで通っていることが分かります。好きな場所を持つこと、そこに繰り返し足を運ぶこと。それ自体が、いちばん長続きする海ごみ対策なのかもしれません。

今週できる3つのこと

  • 近所の川か海岸を15分歩いて、袋一杯だけ拾ってみる
  • 自分の都道府県の「海岸漂着物対策地域計画」を検索して読んでみる
  • 次の清掃イベントの日程を調べてカレンダーに入れる(海ごみゼロウィークは毎年5月末〜6月上旬)

参考文献・出典

  1. 環境省 – 令和5年度漂着ごみ組成調査データ 取りまとめの結果について(2025年3月)
  2. 環境省 – 令和6年度検討結果 日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計
  3. 環境省 – 海洋ごみ実態把握調査(漂着・漂流・海底ごみの調査手法と結果)
  4. 環境省 – 海岸漂着物処理推進法関係(法律・基本方針・地域計画の手引き)
  5. 環境省 水・大気環境局 – 海洋ごみ問題について(令和2年11月・調査手法と被害の全体像)
  6. 環境省 – 環境省・日本財団 海洋ごみ対策共同事業「海ごみゼロウィーク2025」の開催について
  7. 一般社団法人JEAN – 国際海岸クリーンアップ(ICC)とデータカードによる調査
  8. 海ごみゼロウィーク – 全国一斉清掃キャンペーン公式サイト(日本財団 海と日本PROJECT)
  9. 株式会社ピリカ/一般社団法人ピリカ – ごみ拾いSNS「ピリカ」とマイクロプラスチック調査サービス「アルバトロス」
  10. 環境省 – 海岸漂着物等地域対策推進事業(自治体向け補助制度の概要)

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