52トン
2024年の国内天然ウナギ漁獲量。統計開始以来の過去最低(水産庁)
約73%
国内供給に占める輸入の割合(2024年、供給60,941トンのうち44,730トン)
1,821円
人工シラスウナギ1尾の生産コスト(2023年)。2016年の40,127円から96%減

土用の丑の日にウナギを食べる——日本人にとって当たり前だったこの習慣が、いま大きな岐路に立っています。ニホンウナギは国際自然保護連合(IUCN)と環境省の両方から「絶滅危惧IB類(EN)」に指定された絶滅危惧種です。それなのに、スーパーには今日もかば焼きが並び、専門店には行列ができる。「絶滅しそうなのに食べていいの?」という素朴な疑問に、正面から答えられる人は多くありません。

数字は深刻です。国内の天然ウナギ漁獲量は、大正〜昭和初期には年3,000〜4,000トンありましたが、2024年はわずか52トンと統計開始以来の過去最低を記録しました。養殖の元手となる稚魚・シラスウナギの採捕量も激減し、2025年11〜12月のワシントン条約締約国会議(COP20)では、ニホンウナギを含むウナギ属全種を国際取引規制の対象にする提案まで議論されました。

この記事では、水産庁・環境省・水産研究・教育機構などの一次情報をもとに、「なぜ減ったのか」「なぜまだ食べられるのか」「完全養殖はいつ実用化するのか」「私たちはどうすればいいのか」を、順を追って整理します。読み終えたとき、ウナギを見る目がきっと変わるはずです。

この記事で学べること

  • ニホンウナギの漁獲量・シラスウナギ採捕量がどれほど減っているか(最新データ)
  • IUCNと環境省の「絶滅危惧IB類」指定の意味と、食用が禁止されない理由
  • 養殖ウナギが天然の稚魚(シラスウナギ)に完全依存している構造
  • ワシントン条約COP20(2025年)でウナギの国際取引規制がどう議論されたか
  • 完全養殖技術の最新到達点と、実用化までに残る課題
  • 消費者として今日からできる、ウナギとの持続可能な付き合い方

数字で見るニホンウナギ資源の現状——100年で60分の1に

まず、感覚ではなくデータでウナギ資源の現状を確認しましょう。日本は世界最大級のウナギ消費国であり、その食卓の変化は東アジア全体の資源に直結します。水産庁と水産研究・教育機構がまとめる「国際漁業資源の現況」によれば、ニホンウナギの資源状態を示す指標は、この数十年で一貫して悪化してきました。

天然ウナギの漁獲量は過去最低を更新中

国内の天然ウナギ(親ウナギ)の漁獲量は、1915年から1943年までは年3,000〜4,000トンで安定していました。ところが1970年以降は減少の一途をたどり、2000年代前半には600トン台、2015年以降は100トンを下回るようになります。そして2024年の漁獲量はわずか52トン。大正期の約60分の1という水準で、統計開始以来の過去最低です。

時期国内天然ウナギ漁獲量
1915〜1943年約3,000〜4,000トンで安定
2000年代前半600トン超
2015年以降100トン未満に
2020年65トン(当時の過去最低)
2024年52トン(過去最低を更新)
国内天然ウナギ漁獲量の推移(出典:水産庁・水産研究・教育機構「国際漁業資源の現況」)

養殖を支える稚魚「シラスウナギ」も激減

店頭に並ぶウナギの99%以上は養殖ものですが、その養殖は天然の稚魚「シラスウナギ」を捕まえて育てることで成り立っています。このシラスウナギの国内採捕量も、ピークだった1960年代前半の200トン超から長期的に減少し、近年はおおむね10トン前後、不漁の年には数トンまで落ち込みます。稚魚が獲れなければ養殖もできない——ウナギ供給の土台そのものが細っているのです。

ニホンウナギの国内漁獲量が100年間で3000〜4000トンから52トンへ激減したことを示す下降グラフのイメージ
大正期に年3,000〜4,000トンあった天然ウナギ漁獲量は、2024年に52トンまで減少した

こうした急激な資源の減少は、ウナギに限った話ではありません。世界の水産資源全体で進む乱獲の構造については、関連記事「乱獲はなぜ起きる?水産資源崩壊のメカニズム」でも詳しく解説しています。

この節のポイント

  • 国内天然ウナギ漁獲量は2024年に52トンと過去最低(大正期の約60分の1)
  • 養殖の元手となるシラスウナギの採捕量もピーク時の200トン超から近年は10トン前後に
  • 資源の減少は「親も稚魚も」同時に進んでいる

そもそもニホンウナギとはどんな魚か——謎に満ちた一生

対策を考える前に、ニホンウナギがどんな一生を送る魚なのかを押さえておきましょう。実はウナギは、つい最近まで「どこで生まれるのかすら分からない」魚でした。その謎めいた生態こそが、資源管理と保護をこれほど難しくしてきた根本原因でもあります。

太平洋を数千km旅する「降河回遊魚」

サケが川で生まれて海で育つのに対し、ウナギは正反対です。ニホンウナギの産卵場は、日本から2,000km以上離れたマリアナ諸島西方の外洋。2009年には東京大学の調査チームがこの海域で世界初となる天然卵の採取に成功し、長年の謎だった産卵場所が科学的に確認されました。外洋で生まれた仔魚は北赤道海流と黒潮に乗って数千kmを漂流し、半年ほどかけて東アジアの沿岸にたどり着きます。そして川や河口で5年から10年以上かけて成長した後、再びはるか南の産卵場を目指して旅立つのです。この壮大な回遊のすべてを人間が観察できたわけではなく、外洋での生態には今も多くの謎が残されています。

成長とともに名前が変わる魚

ウナギは成長段階ごとに姿も呼び名も大きく変わります。それぞれの段階で生息場所が異なるため、資源を守るには「海も川も河口も」一体で保全する必要があります。

  • レプトセファルス——外洋を漂う、柳の葉のような透明な仔魚
  • シラスウナギ——沿岸に到達した5〜6cmの透明な稚魚。養殖用に採捕されるのはこの段階
  • クロコ——川を遡り始め、色素が付いた若い個体
  • 黄ウナギ——川や河口で数年〜十数年を過ごす成長期。腹が黄色みを帯びる
  • 銀ウナギ——産卵のため海へ下る親。体が銀色に変化し、目が大きくなる

生態の謎が保護を難しくしてきた

産卵場が確認されたのはわずか十数年前。卵から親までの完全な人工飼育は極めて難しく、資源がどれだけ残っているのかを正確に見積もることも容易ではありません。回遊ルートは日本・中国・韓国・台湾の海域にまたがるため、一国だけで守ることもできません。「生態が分からない」「国境をまたぐ」「稚魚の段階で獲られる」——この三重の難しさが、ウナギ資源管理の出発点にあることを覚えておいてください。

マリアナ諸島西方で生まれたウナギが海流に乗って日本の川に至り、再び産卵場へ戻る回遊ルートの概念図
外洋で生まれ、川で育ち、再び外洋へ——数千kmを往復する一生はいまだ謎に包まれている

なぜ減ったのか——乱獲・生息環境・海洋変動の3要因

ニホンウナギはなぜここまで減ってしまったのでしょうか。水産庁は、シラスウナギ採捕量減少の要因として「海洋環境の変動」「生息環境の悪化」「シラスウナギの過剰な採捕(乱獲)」の3つを挙げています。ただし、どの要因がどれだけ効いているかは科学的に特定されていません。複数の要因が絡み合っているというのが実態です。

要因①:獲りすぎ——稚魚も親も獲られてきた

ウナギは「シラスウナギ(稚魚)」「黄ウナギ(若い個体)」「銀ウナギ(産卵に向かう親)」と、成長のあらゆる段階で漁獲の対象になってきました。特に問題なのは、まだ卵を産んでいない稚魚と、これから産卵に向かう親の両方を獲ってしまう構造です。次世代を残す前に獲られてしまえば、資源が再生産されないのは当然といえます。

要因②:川と沿岸の環境悪化——住む場所が消えた

ニホンウナギは一生の大部分を川や河口、沿岸域で過ごす「降河回遊魚」です。ところが高度経済成長期以降、ダムや堰(せき)が川を分断してウナギの遡上を妨げ、コンクリート護岸が隠れ家となる岩の隙間や泥底を奪いました。環境省も、河川や沿岸域の生息環境の変化を個体数減少の主要因の一つと位置づけています。

ニホンウナギの個体数は、1960年から70年代と比較すると、大きく減少しており、河川や沿岸域等の生息環境の変化が個体数の減少要因の一つと考えられます。

― 環境省「ニホンウナギの生息地保全の考え方」
  • ダム・堰による遡上ルートの分断——上流の生息域にたどり着けない
  • コンクリート護岸化——餌場と隠れ家(石の隙間・泥底・植生)の喪失
  • 干潟や湿地の埋め立て——成長期を過ごす場の減少

要因③:海洋環境の変動——産卵場から日本までの長い旅

前の章で見たとおり、ニホンウナギははるか南のマリアナ諸島西方海域で生まれ、海流に乗って東アジアの沿岸へやってきます。このため、エルニーニョ現象などで海流や水温が変動すると、稚魚が沿岸にたどり着ける割合が大きく変わると考えられています。近年の気候変動が、この不確実性をさらに高めている可能性も指摘されています。

ウナギ減少の3要因(乱獲・生息環境悪化・海洋変動)を描いた概念図
乱獲・生息環境の悪化・海洋環境の変動という3つの要因が複合的に作用している

こうした生息環境の課題と、石倉かご設置などの保全の取り組みについては、関連記事「ニホンウナギを守る——保全の最前線」で詳しく取り上げています。

「絶滅危惧IB類」指定の意味——なぜ食用禁止にならないのか

「絶滅危惧種なのに食べていいの?」という疑問に答えるには、まず「絶滅危惧種」という言葉の正確な意味を知る必要があります。実は、この指定には皆さんが想像するような法的な強制力はありません。

環境省とIUCN、2つのレッドリスト

ニホンウナギは2013年2月、環境省の第4次レッドリストで「絶滅危惧IB類(EN)」に指定されました。続いて2014年6月には、国際自然保護連合(IUCN)も同じく絶滅危惧IB類と評価します。IUCNの評価理由は、3世代(ウナギでは12〜45年)の間に個体数が50%以上減少したと判断されたためです。「IB類」は「ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高いIA類ほどではないが、近い将来における絶滅の危険性が高い」カテゴリーで、トキやジャイアントパンダと同格の危機ランクです。

危機に瀕しているのはニホンウナギだけではありません。世界に十数種いるウナギ属のうち、ヨーロッパウナギはIUCNで最も危機的な「近絶滅種(CR)」、アメリカウナギも絶滅危惧種と評価されています。世界中でウナギ資源が同時に細っているからこそ、後述するように「ウナギ属まるごと」の国際取引規制が提案される事態になったのです。

レッドリストに法的拘束力はない

重要なのは、レッドリストが「科学的な危機評価のリスト」であって、「捕獲や売買を禁止する法律」ではないという点です。日本で捕獲や取引が法律で規制されるのは、種の保存法の「国内希少野生動植物種」などに指定された場合ですが、ニホンウナギは指定されていません。つまり、絶滅危惧種であることと、漁獲・販売・消費が合法であることは、制度上は矛盾なく両立してしまうのです。

「絶滅危惧IB類(EN)」とは

  • IUCNレッドリストで上から3番目に深刻なカテゴリー(絶滅・野生絶滅を除く)
  • 「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」と評価された種
  • リスト掲載自体に捕獲・取引を禁じる法的効力はない
  • ニホンウナギは環境省(2013年)とIUCN(2014年)の両方でEN指定

「規制されていない」ことと「大丈夫」は別問題

水産庁は「適切に管理すれば絶滅のおそれはない」という立場で資源管理を進めていますが、研究者の間では「現在の管理では不十分」との指摘も根強くあります。法律で禁止されていないからといって、資源が安泰だという意味ではありません。この「制度の隙間」こそが、ウナギ問題を分かりにくくしている核心だといえるでしょう。

レッドリストの危機カテゴリーの中でニホンウナギが絶滅危惧IB類に位置することを示す概念イラスト
ニホンウナギはIUCNレッドリストで上から3番目に深刻な「絶滅危惧IB類(EN)」に位置する

それでもウナギが食べられる理由——養殖と輸入の仕組み

天然ウナギの漁獲量が52トンしかないのに、日本では年間約6万トンのウナギが消費されています。この1,000倍以上のギャップを埋めているのが、養殖と輸入です。ただしその「養殖」には、多くの人が誤解している重大な前提があります。

ウナギの「養殖」は天然の稚魚が大前提

ウナギの養殖は、卵から育てているわけではありません。冬から春に川を遡ってくる天然のシラスウナギを捕まえ、養殖池で半年〜1年半かけて育てて出荷する——これが現在の養殖の実態です。つまり養殖ウナギも元をたどれば100%天然資源。シラスウナギが獲れなくなれば、養殖業そのものが立ち行かなくなります。稚魚の争奪戦は価格高騰を招き、シラスウナギは「白いダイヤ」と呼ばれるほど高値で取引されてきました。

供給の実像——3分の2以上が輸入

2024年の国内供給量60,941トンの内訳を見ると、輸入が44,730トンと全体の約73%を占め、国内養殖が16,159トン、国内の天然漁獲はわずか52トン(0.1%未満)です。輸入の大半は中国や台湾で養殖されたかば焼きや活鰻で、これらも東アジアの海で獲られた天然シラスウナギから育てられています。なお、供給量のピークは2000年の約16万トンで、現在はその4割弱まで縮小しています。

供給源数量(2024年)割合
輸入(中国・台湾など)44,730トン約73%
国内養殖16,159トン約27%
国内天然漁獲52トン0.1%未満
合計60,941トン100%
日本のウナギ供給の内訳(2024年。出典:農林水産省・水産庁資料)

資源の逼迫は、価格にはっきりと表れています。東京都中央卸売市場でのウナギの年平均価格は、2009〜2010年には1kgあたり2,300円前後でしたが、シラスウナギの不漁が続いた2010年代に急騰し、2022年は4,998円と2倍以上になりました。ここ数年は5,000円前後の高止まりが続いており、「うなぎ登り」という言葉どおりの状況です。かつて庶民の味だったウナギは、資源の減少とともに確実に「高嶺の花」へと変わりつつあります。

ヨーロッパウナギという「前例」

忘れてはならないのが、ニホンウナギより先に危機に陥ったヨーロッパウナギの存在です。かつて日本は中国で養殖されたヨーロッパウナギを大量に輸入していましたが、資源の激減を受けて同種はIUCNで最も危機的な「近絶滅種(CR)」に評価され、2009年からはワシントン条約附属書IIの対象として国際取引が規制されています。EUは域外への輸出を原則停止しました。「規制される前に使い尽くしてしまった」ヨーロッパウナギの教訓は、ニホンウナギの未来を考えるうえで重い前例です。

日本のウナギ供給の73%が輸入、27%が国内養殖、天然はごく僅かであることを表す構成図
供給の約73%は輸入。国内天然漁獲は全体の0.1%にも満たない

養殖業が環境に与える影響と持続可能な養殖への模索については、関連記事「養殖の環境負荷を考える」も参考にしてください。

ワシントン条約COP20——国際取引規制をめぐる攻防

2025年、ウナギ問題は国際政治の表舞台に立ちました。野生動植物の国際取引を規制するワシントン条約(CITES)の第20回締約国会議(COP20)で、ニホンウナギを含むウナギ属全種の規制が正式な議題になったのです。

EUとパナマが提案した「附属書II掲載」とは

2025年6月、EUとパナマは、ニホンウナギを含むウナギ属(Anguilla属)の全種をワシントン条約の附属書IIに掲載する提案を提出しました。附属書IIに掲載されると、絶滅の危険が直ちにあるわけではなくても、輸出国政府の許可証なしには国際取引ができなくなります。すでに規制対象のヨーロッパウナギと外見での区別が難しいため、「ウナギ属をまとめて規制しなければ抜け穴になる」というのが提案側の論理でした。

COP20での結論——提案は否決

COP20は2025年11月24日から12月5日まで、ウズベキスタンのサマルカンドで開催され、163か国とEUが参加しました。ウナギ属の附属書II掲載提案は採決にかけられましたが、日本を含む多くの締約国の反対により否決されました。日本政府は「ニホンウナギは既に日中韓台の枠組みで管理されており、掲載には科学的根拠が不足している」と主張し、関係国への働きかけを重ねていました。供給の7割超を輸入に頼る日本にとって、国際取引規制は食卓を直撃しかねない問題だったのです。

否決は「終わり」ではない

ただし、否決で問題が消えたわけではありません。ウナギ類の保全と取引管理をめぐる国際的な議論は続いており、次回のCOP21は2028年にパナマで開催されます。資源状態が改善しなければ、掲載提案が再び提出される可能性は十分にあります。国際社会が突きつけたのは「規制されたくなければ、資源回復を実績で示せ」という宿題だといえるでしょう。

仮に附属書IIに掲載されていたら、何が起きていたのでしょうか。取引が全面禁止になるわけではありませんが、輸出のたびに「取引が種の存続を脅かさない」ことを輸出国政府が証明し、許可証を発行する必要が生じます。かば焼き・活鰻・稚魚のすべてが対象になれば、輸入に頼る日本の流通コストは確実に上がり、供給量の縮小や価格上昇につながった可能性が高いと考えられます。ウナギ問題が「環境の話」であると同時に「食卓の経済の話」でもあることが分かります。

ワシントン条約締約国会議でウナギの国際取引規制が議論される様子を表した概念イラスト
COP20(2025年・サマルカンド)でウナギ属の附属書II掲載が採決にかけられ、否決された

ここに注意

  • 否決は「資源が安全」という意味ではなく、規制の見送りにすぎない
  • ヨーロッパウナギは2009年から附属書II対象——ニホンウナギが同じ道をたどる可能性は残る
  • 次回COP21(2028年・パナマ)までに資源回復の実績が問われる

資源管理の現在地——池入れ規制と密漁という影

「日本はすでに管理している」——COP20で日本が主張の根拠にしたのが、東アジアの国際的な枠組みです。しかしその管理には、実効性を疑問視する声も少なくありません。光と影の両面を見てみましょう。

日中韓台の「池入れ数量管理」

ニホンウナギを利用する日本・中国・韓国・台湾は2014年に合意し、2015年から養殖池に入れるシラスウナギの量(池入れ数量)に上限を設ける管理を続けています。上限は4か国・地域合計で78.8トン、うち日本は21.7トン。日本国内では養鰻業者の池入れ実績が上限に達した場合にシラスウナギの採捕を停止する措置がとられています。

国・地域池入れ上限
中国36トン
日本21.7トン
台湾・韓国など残り約21トン
合計78.8トン
シラスウナギ池入れ数量の上限(2014年合意。出典:水産庁資料ほか)

この管理は現在も運用が続いており、たとえば令和8年漁期の日本では、養殖池への池入れ実績が上限の21.7トンに達した場合にシラスウナギの採捕を停止する措置がとられることになっています。「上限に達したら獲るのをやめる」という仕組み自体は、資源管理の第一歩として一定の意味を持ちます。

「上限が高すぎる」という構造的な問題

この枠組みには根本的な批判があります。上限78.8トンは、シラスウナギが比較的多く獲れた2014年漁期の実績から2割減として設定されたもので、資源評価に基づく科学的な数字ではありません。実際、東アジア全体の池入れ実績が上限を大きく下回る年が続いており、「獲れるだけ獲っても上限に届かない」状態では、規制として機能しているとは言い難いのです。研究者からは、資源回復につながる水準まで上限を引き下げるべきだとの指摘が続いています。

密漁・無報告漁獲——「白いダイヤ」の闇市場

もう一つの深刻な影が、シラスウナギの密漁と不透明な流通です。高値で取引されるシラスウナギは密漁の標的になりやすく、無報告の採捕や流通が資源管理のデータそのものを歪めてきました。この状況を変えるため、日本は漁業法を改正し、2023年12月からシラスウナギを「特定水産動植物」に指定。許可なく採捕した場合は3年以下の拘禁刑または3,000万円以下の罰金という重い罰則が科されるようになりました。トレーサビリティ(流通経路の追跡可能性)の確保が、次の大きな課題です。

流通の不透明さは、単なるモラルの問題ではありません。かつては、養殖池に入れられたシラスウナギの量が国内の採捕報告量と正規の輸入量の合計を上回る年が珍しくなく、その差分は無報告の採捕や不正な輸入によるものと指摘されてきました。実際に獲られた量が正確に分からなければ、資源評価も池入れ上限の設定も砂上の楼閣になってしまいます。密漁対策と流通の透明化は、ウナギ資源管理の土台そのものなのです。

放流と生息場づくり——効果検証はこれから

規制と並行して、資源を「増やす」取り組みも各地で行われています。産卵に向かう親ウナギを漁業者から買い上げて海へ放流する事業や、シラスウナギ・若いウナギの放流、そして石を詰めた籠でウナギの隠れ家を作る「石倉かご」の設置などです。ただし、放流したウナギがどれだけ産卵場にたどり着き、次世代を残せているのかの科学的な検証はまだ十分ではありません。研究者からは、放流よりもまず「獲る量を減らすこと」と「川の環境を取り戻すこと」が資源回復の本筋だという指摘もあり、対策の優先順位をめぐる議論が続いています。

夜の川で行われるシラスウナギ漁と、透明な稚魚の姿を描いたイラスト
「白いダイヤ」と呼ばれるシラスウナギ。2023年12月から無許可採捕には重罰が科される

完全養殖は救世主になるか——コスト40,000円から1,821円へ

天然の稚魚に頼らずウナギを育てる「完全養殖」。実現すれば資源問題を根本から変えうる技術ですが、どこまで来ているのでしょうか。結論からいえば、技術は完成し、いまは「コストとの闘い」の最終盤です。

2010年、世界初の完全養殖に成功

完全養殖とは、人工的にふ化させたウナギを親まで育て、その親から再び卵をとって次世代を育てる——つまり天然資源に一切頼らないサイクルを閉じることです。2010年、水産総合研究センター(現・水産研究・教育機構)が世界で初めてこのサイクルの完結に成功しました。ウナギの赤ちゃん(レプトセファルス)は餌が特殊で飼育が極めて難しく、成功までに数十年の研究が費やされています。

コストは7年で20分の1以下に

課題は生産コストでした。人工シラスウナギ1尾あたりの生産コストは2016年時点で40,127円。天然のシラスウナギ(1尾500〜600円程度)の約70倍で、商業化は夢物語に見えました。しかし飼育技術の改良が急速に進み、2023年には1尾1,821円まで低下。水産研究・教育機構は2027年度に1,000円を下回る水準を目指しています。2025年にはヤンマーが量産用の新型水槽を発表するなど、民間企業の参入も相次いでいます。

人工シラスウナギ1尾あたり生産コスト
2016年40,127円
2023年1,821円(約96%減)
2027年度(目標)1,000円未満
(参考)天然シラスウナギ1尾500〜600円程度
人工シラスウナギの生産コストの推移(出典:水産研究・教育機構、報道各社)

コスト低下の裏側には、地道な技術革新の積み重ねがあります。水産研究・教育機構は、採卵からふ化までの技術開発、仔魚用の餌の開発、生産性の高い水槽の設計、自動給餌による省力化、成長の早い系統を選ぶ選抜育種という5つの分野を統合して研究を進めてきました。特に、サメの卵を主原料としていた特殊な餌の改良と、仔魚が育ちやすい水槽形状の開発が、量産化への大きなブレークスルーになっています。

残る課題——規模とスピード

現在の人工シラスウナギの生産規模は年間数万尾レベル。国内養殖に必要な稚魚は年間数千万尾から億尾の単位ですから、規模にはまだ1,000倍近い開きがあります。完全養殖ウナギの試験販売も一部で始まっていますが、価格は1尾5,000円前後とまだ高価です。技術がコストと規模の壁を越えるのが先か、天然資源が限界を迎えるのが先か——ウナギの未来は、この競争の行方にかかっています。

研究施設の水槽で人工的に育てられるウナギの仔魚と研究者を描いたイラスト
完全養殖の技術は確立済み。コストは7年で約96%下がり、実用化が視野に入ってきた

完全養殖の現在地

  • 2010年に世界初の完全養殖成功(水産研究・教育機構)
  • 生産コストは2016年の40,127円/尾から2023年に1,821円/尾へ
  • 2027年度に1,000円未満が目標。天然稚魚(500〜600円)との差は縮小中
  • 量産規模はまだ年数万尾——商業レベルには大きな拡大が必要

私たちにできること——「食べない」だけが答えじゃない

ここまで読むと「もうウナギは食べないほうがいいのでは」と感じるかもしれません。しかし、消費をゼロにすることだけが解決策ではありません。ウナギの食文化と資源を両方残すために、消費者にできる現実的な行動があります。

「安さ」を追わない——価格の裏側を想像する

極端に安いウナギの背景には、大量仕入れ・大量廃棄や、出どころの不透明な稚魚が潜んでいる可能性があります。実際、土用の丑の日に合わせて大量に仕入れられたかば焼きが売れ残り、廃棄される問題は消費者庁も食品ロスの事例として取り上げてきました。「特別な日に、信頼できる店で、適正な価格で味わう」——頻度を落として一食の価値を上げることは、資源への圧力を減らしながら食文化を守る、最も現実的な選択です。

「土用の丑の日」を見直してみる

そもそも夏にウナギを食べる習慣は、江戸時代に蘭学者の平賀源内が夏に売れないウナギ屋のために「本日丑の日」という宣伝を考案したのが始まりという説が有名です(諸説あります)。実は天然ウナギの旬は、産卵に備えて脂を蓄える秋から冬。夏の集中消費は歴史的にみれば「作られた需要」の側面があり、この一極集中が売れ残りと廃棄を生む一因にもなっています。丑の日にこだわらず、食べたいときに予約して味わう——それだけでも食品ロスと資源への圧力は減らせます。

出どころを確かめる——表示とトレーサビリティ

購入時には産地表示や、生産・流通の情報を公開している事業者かどうかに目を向けましょう。国内では、稚魚の入手経路や養殖方法を開示する養鰻業者や、持続可能性に配慮した調達方針を掲げる小売・外食企業が少しずつ増えています。消費者が「どこから来たウナギか」を気にかけること自体が、不透明な流通を市場から締め出す圧力になります。

食べる以外の関わり方

  • ウナギが暮らせる川づくりを支援する——石倉かご(石を詰めた籠でウナギの隠れ家を作る取り組み)の設置や河川清掃などの活動に参加・寄付する
  • 正確な知識を共有する——「養殖だから天然資源と無関係」という誤解を周囲に伝え直すだけでも意味がある
  • 完全養殖など技術の進展を応援する——試験販売品を選ぶことは研究開発への投票になる
  • 選挙や意見公募で資源管理の強化を後押しする——池入れ上限の科学的見直しやトレーサビリティ制度は政策で決まる
うな重を大切に味わう人と、川で泳ぐウナギが共存する未来を描いた希望のあるイラスト
「特別な日に大切に食べる」ことと「ウナギの住める川を残す」ことは両立できる

文化を未来に手渡すために

ウナギの蒲焼きは、江戸の昔から続く日本の食文化の結晶です。しかし文化は、それを支える資源があってこそ続きます。ヨーロッパウナギの教訓が示すように、「規制されてから」「獲れなくなってから」では選択肢は大きく狭まります。幸い、完全養殖という出口は視界に入り、罰則強化や国際管理の枠組みも動き始めました。あとは需要の側——つまり私たち消費者が、資源の回復速度を上回らない食べ方へ舵を切れるかどうかです。100年後もうな重に胸を躍らせる人がいる未来は、今日の一人ひとりの選択の積み重ねの先にあります。

今日からできるアクション

  • ウナギは「特別な日のごちそう」に——頻度を減らし、信頼できる専門店で味わう
  • 産地表示・調達方針を確認してから買う
  • 極端に安いウナギ・出どころ不明のウナギは選ばない
  • 石倉かご設置など、ウナギの生息環境を守る活動を知り、支援する

この記事のまとめ

  • ニホンウナギは環境省・IUCNの両方が認めた絶滅危惧種。2024年の国内天然漁獲量は52トンと過去最低
  • レッドリストに法的拘束力はなく、養殖(=天然稚魚に依存)と輸入で供給が続いている
  • COP20(2025年)で国際取引規制の提案は否決されたが、2028年のCOP21で再び問われる可能性がある
  • 完全養殖はコスト1,821円/尾まで到達。実用化と資源枯渇の時間競争が続く
  • 消費者は「頻度を減らし、出どころを確かめ、適正価格で味わう」ことで解決に参加できる

参考文献・出典

  1. 水産庁 – ウナギに関する情報(資源状況・池入れ数量管理)
  2. 水産庁 – ウナギをめぐる状況と対策について(令和8年7月)
  3. 水産庁・水産研究・教育機構 – 令和7年度 国際漁業資源の現況 ニホンウナギ
  4. 環境省 – ニホンウナギの生息地保全の考え方
  5. 環境省 – ワシントン条約第20回締約国会議(COP20)の結果概要
  6. 水産研究・教育機構 – ウナギ人工種苗生産技術に関する情報(完全養殖・コスト)
  7. 農林水産省 – ウナギの輸入の状況について(こどもそうだん)
  8. WWFジャパン – 人とウナギの歴史(消費と資源問題)
  9. 中央大学 海部研究室 – ニホンウナギは絶滅するのか(研究者による解説)
  10. ヤンマーホールディングス – ウナギ種苗量産用水槽の開発(2025年ニュースリリース)

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