⚡ 30秒でわかる答え
- 魚は傷みやすく規格や知名度の壁もあるため、市場と小売でロスが生まれやすい。
- 日本の食品ロスは2022年度に472万トンで、事業系236万トンは2030年度目標を前倒しで達成した。
- 水産物に限った公的統計は乏しく、世界推計も14.8%〜約35%と出典で幅がある。
- 冷やす・使い切る・つなぐの3方向と、買い手の選び方が削減の鍵になる。
魚は食品のなかでも傷みが早く、大きさや形もまちまちです。そのため、市場や小売の現場では、食べられるはずの魚が少しずつ失われています。
とはいえ、水産物に限った廃棄量の公的な数字は多くありません。この記事では、確認できる一次情報の数字を整理し、何が分かっていて何が分かっていないのかを区別しながら、ロスの仕組みと減らす工夫を解説します。
農林水産省、FAO、世界経済フォーラム(WEF)などの資料を出典にしています。数字は推計であり、出典ごとに対象範囲が違う点にご注意ください。
この記事で学べること
- 食品ロスの定義と、水産物のロスが起きる5つの段階
- 日本と世界の食品ロス推計の読み方と注意点
- 市場と小売で魚のロスが生まれやすい理由
- 冷やす・使い切る・つなぐという削減の工夫
- 買い方・食べ方でできること
水産物の食品ロスは「どの段階」で起きるのか
食品ロスとFAOの定義
魚は、食品のなかでも傷みが早く、重さも形もばらつきが大きい食材です。そのため、漁獲から食卓までの流れのあちこちで、食べられるはずの量が失われます。国連食糧農業機関(FAO)は、食品ロス・廃棄を「食品の量または質の減少」と定義しています。生産から小売の手前までで生じるものを「ロス」、小売・外食・消費者の段階で生じるものを「廃棄」と整理するのが一般的です。
水産分野の例として、FAOは混獲した魚を海上で捨てるディスカード(投棄)を挙げています。陸に揚がる前に失われる分も、水産ではロスの一部として数えます。
漁獲から食卓までの5つの関所
- 漁獲・船上:混獲、サイズ不足、船上での温度管理の失敗
- 水揚げ・産地市場:値がつかない魚、荷役中の傷み
- 卸売・仲卸(消費地市場):売れ残り、規格外、鮮度落ち
- 小売・外食:売れ残り、見切り品の廃棄、仕込み過剰
- 家庭:買いすぎ、食べ残し、調理くず
本記事は、このうち市場(卸・仲卸)と小売の段階に焦点を当てます。家庭の段階は家庭の食品ロスの記事、水産物全体の整理は水産物のフードロスの全体像で扱っています。

なぜ魚は特にロスが出やすいのか
- 傷みが早い:鮮度が品質を左右し、温度管理が数時間単位で効いてくる
- 供給が読めない:天候や資源状況で水揚げ量が日々大きく変わる
- 種類・サイズが多様:規格にそろえにくく、「売りやすい魚」に需要が偏る
- 知名度の壁:食べ方が知られていない魚は、味が良くても値がつきにくい
この節のポイント
- 食品ロスは量や質が減ることで、水産では船上の投棄も含まれる
- 市場・小売は、鮮度と規格の壁がぶつかる段階
数字で見る:日本と世界の食品ロスの現在地
日本全体の食品ロス量
農林水産省が2024年6月に公表した推計では、2022年度の食品ロスは472万トンでした。前年度の523万トンから51万トン(9.8%)減っています。内訳は、食品関連事業者から出る事業系が236万トン、家庭系が236万トンです。
| 区分 | 2021年度 | 2022年度 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 食品ロス全体 | 523万t | 472万t | −51万t(−9.8%) |
| 事業系 | 279万t | 236万t | −43万t(−15.4%) |
| 家庭系 | 244万t | 236万t | −8万t(−3.3%) |
事業系については、食品リサイクル法の基本方針で2030年度までに2000年度比で半減(547万トンから273万トン)する目標が置かれています。2022年度の236万トンはこの水準を下回っており、農林水産省は目標を達成したとしています。

その後の推計
2026年に公表された推計では、2024年度の食品ロスは461万トン(前年度464万トン)、うち事業系は237万トン(同231万トン)と報告されています。家庭系が減る一方、事業系は前年度より増えました。目標を達成した後も、ロスが減り続けるとは限らないことを示す数字です。
注意:この数字は水産物だけの量ではない
- ここで示した量は肉・野菜・穀物なども含む食品全体の推計です
- 水産物だけの内訳は、公表資料から確認できた範囲では取り出せていません
世界の水産ロスの推計
世界経済フォーラム(WEF)が世界資源研究所(WRI)などと行った2024年の研究では、2021年に世界で約2,380万トンの水産物が失われたか廃棄され、これは世界の生産量の14.8%に当たると推計されています。
一方、「漁獲物の約35%が失われる」という数字もよく引用されます。これはFAOの旧来の推計に由来するとされ、数値が大きく異なります。対象範囲(船上の投棄を含むか、加工段階を含むか)や算定方法が違うため、単純に比べることはできません。どちらの数字も「かなりの量が失われている」ことを示す目安として読むのが適切です。
| 推計 | 数値 | 特徴 |
|---|---|---|
| WEF/WRI(2024年) | 2021年に約2,380万t、生産量の14.8% | 最近の推計。算定範囲に注意 |
| FAO由来の引用 | 漁獲物の約35% | 旧来の推計。範囲に船上投棄を含むとされる |
市場で起きること:鮮度と規格の壁
卸売市場の役割
消費地の卸売市場は、各地から集まる魚を、スーパー・鮮魚店・飲食店などが必要とする量と質にそろえて届ける仕分けの拠点です。大量の魚を短時間でさばく仕組みは効率的ですが、その分、売れ残りや規格外が一定量出ることは避けにくくなります。
市場でロスが生まれやすい場面
- 需要と入荷のずれ:入荷が多い日に値が下がり、買い手がつかない魚が出る
- サイズ・見た目の規格:小さい、傷がある魚は、味に関係なく敬遠されやすい
- 種類の偏り:知名度の高い魚に注文が集中し、それ以外は売り先が限られる
- 温度管理:荷さばきや待機の間に温度が上がると、短時間でも品質が落ちる
ただし、市場の現場でどの程度が廃棄されているかを魚種別に示す公的な統計は、確認できた範囲では見当たりませんでした。数字がないこと自体が、水産のロスを把握しにくい理由の一つです。
「値がつかない」は「価値がない」ではない
日本では、漁獲量・規格・知名度・手間などの理由で市場に出回りにくい魚を「未利用魚」と呼ぶことがあります。明確な定義はありませんが、大日本水産会の報告書では、日本で年間約100万トンの水産資源が廃棄されている可能性があるとされています。これは正確な数値ではなく推計である点に注意が必要です。
水産庁は、こうした低・未利用魚を含め、利用の拡大や付加価値の向上が期待される魚の魅力を発信する「魅了ギョ・プロジェクト」を始めています。未利用魚の活用は、未利用魚の活用の記事で詳しく扱っています。

この節のポイント
- 市場は仕分けの拠点で、規格と鮮度の基準がロスを生みやすい
- 未利用魚は年約100万tとの推計もあるが、正確な数値ではない
小売で起きること:売り場の「欠品を出さない」圧力
鮮魚売り場の難しさ
スーパーの鮮魚売り場は、開店から閉店まで「いつ行っても魚がそろっている」状態を求められます。欠品は売上を逃すだけでなく、店の信頼にも関わります。そのため、売り切れを避けるように多めに仕入れる傾向が生まれ、閉店時に残った分が値引きや廃棄の対象になります。
小売全般での食品ロスの背景はスーパーの食品廃棄削減の記事で整理しています。魚の場合はこれに加え、消費期限が短いこと、切り身・刺身などパック加工の段階でも傷みやすいことが重なります。
売れ残りが出る主な要因
- 需要予測の難しさ:天気、曜日、行事、特売で売れ行きが大きく変わる
- 見た目の基準:色つや、切り身の形、パックの見栄えが購入を左右する
- 期限の設定:期限が近づくと、店頭から下げる判断が必要になる
- 品ぞろえの幅:多くの種類を並べるほど、1種類あたりの売れ残りリスクが増える
値引きと見切りの工夫
売れ残りを減らす最も身近な方法が、期限が近い商品の値引き販売です。閉店前の時間帯に価格を下げ、買い手を見つけて売り切る取り組みは多くの店で行われています。魚は傷みが早いため、値引きの判断が遅れると売り物にならなくなります。判断のタイミングが、そのまま廃棄量の差につながります。
また、鮮魚として売り切れなかった分を、同じ日のうちに惣菜・加工品(フライ、煮付け、刺身の丼など)へ振り替える方法もあります。店内に調理設備がある場合に取りやすい手段です。

この節のポイント
- 欠品を避ける意識が、多めの仕入れと売れ残りを生む
- 値引きのタイミングと、惣菜への振り替えが廃棄を減らす
ロスを減らす工夫:技術・流通・加工
鮮度を守る:温度管理
魚のロスを減らす基本は、漁獲から売り場まで低い温度を保つことです。船上での冷却、産地市場での保冷、輸送中の温度維持のどこかが途切れると、見た目は変わらなくても品質が落ちます。FAOも、水産分野のロス削減には冷蔵・冷凍設備の整備や、取り扱いの改善が重要だとしています。
使い切る:冷凍と加工
生のまま売りにくい魚は、冷凍や加工に回すことで長く保存できます。すり身、干物、缶詰、調味した冷凍パックなどは、期限が長く、廃棄のリスクを下げられる形です。静岡県の研究では、ソコダラ類のすり身加工品やギンメダイの干物が商品化・販売された例が示されています。
つなぐ:販路づくり
未利用魚の活用では、漁業者と加工業者、飲食店をつなぐマッチングが重要です。水揚げから販売までの流通体制を作れるかどうかが、実際に流通するかを左右します。知名度の低い魚は、食べ方の提案や名前の付け方を工夫して売り出す例もあります。
| 段階 | 主な工夫 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| 船上・産地 | 冷却、取り扱い改善 | 鮮度劣化の抑制 |
| 市場 | 保冷、需要に合わせた仕分け | 売れ残りの抑制 |
| 小売 | 需要予測、値引き、惣菜への振り替え | 店頭廃棄の抑制 |
| 加工 | 冷凍、すり身、干物 | 保存期間の延長・未利用魚の活用 |
| 販路 | 漁業者と加工業者のマッチング | 値がつかない魚の流通 |
この節のポイント
- 対策は冷やす・使い切る・つなぐの3方向
- どれか一つではなく、段階ごとの組み合わせが必要
私たちにできること:買い方・食べ方
店頭での選び方
- 見た目の小さな差を気にしすぎない:サイズや形が不ぞろいでも、味や安全性とは別の話
- 値引き商品を選ぶ:その日のうちに食べるなら、期限が近い商品も十分に選択肢になる
- 未利用魚・低利用魚に挑戦する:知らない魚を食べる機会が、販路を支える
- 必要な量だけ買う:パックの量と、実際に食べる量を見比べる
お店や産地を支える
産地直送の通販、規格外の魚を扱う店、未利用魚を使うメニューを出す飲食店など、ロスを減らす取り組みを選んで利用することも、需要を生む一つの方法です。購入を通じて、売れ残りを減らす仕組みを後押しできます。
家庭で食べきるコツ
- 買った日のうちに食べない分は、すぐに小分けして冷凍する
- 調理くずやアラは、出汁や汁物に使えないか考える
- 冷蔵庫の中の魚の期限を、見える場所にメモしておく

まとめ
- 魚の食品ロスは、船上から家庭まで複数の段階で起きる
- 市場では規格と鮮度、小売では欠品を避ける意識がロスを生みやすい
- 数字は推計が中心で、出典ごとに範囲が違う点に注意
- 冷やす・使い切る・つなぐ、そして買い手の選び方がロスを減らす
まとめ:数字の限界を踏まえて、現場を見る
日本全体の食品ロスは減ってきましたが、水産物に限った量や、市場・小売の魚の廃棄量を示す公的な統計は、確認できた範囲では十分に整っていません。世界の推計も、出典によって14.8%から約35%まで幅があります。
だからこそ、数字を引用する際は出典と範囲を確かめることが大切です。そのうえで、魚が傷みやすく、規格や知名度の壁を受けやすい食材だという構造を理解すれば、買い方や食べ方で自分にできることが見えてきます。海から得た恵みを無駄なく食べることは、海の資源を大切にすることにもつながります。
- 水産物の全体像:水産物のフードロスの全体像
- 未利用魚の活用:未利用魚の活用
- 小売の取り組み:スーパーの食品廃棄削減
- 家庭の取り組み:家庭の食品ロス
参考文献・出典
- 農林水産省 食品ロス量(令和4年度推計値)の公表 – 2022年度の食品ロス472万トン、事業系236万トンと削減目標
- 消費者庁 食品ロス削減関係 – 食品ロスの最新推計と削減施策
- FAO Reducing food loss and waste in aquatic value chains – 水産バリューチェーンにおけるロス・廃棄の定義
- World Economic Forum Investigating Global Aquatic Food Loss and Waste – 世界の水産ロスを約2,380万トンと推計した白書
- 水産庁 – 魅了ギョ・プロジェクトなど低・未利用魚の活用施策
- 大日本水産会 – 未利用魚に関する報告書
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア