⚡ 30秒でわかる答え

  • 庭やベランダに生きものを呼ぶ基本は、在来植物・小さな水場・農薬の削減・やりすぎない管理の4点。
  • 呼びたい生きものを決め、エサ場と住処をつくり、在来種を選ぶことが出発点になる。
  • 外来種の逸出や、水や薬剤の流出を通じて、庭は川と海にもつながっている。
76%
ドイツ保護区で推定された飛翔昆虫の季節平均減少率(27年間)
3,300億円
野生ハナバチによる農作物受粉の経済効果の推計(年間・日本全国)
54種
2016〜2020年度に特定外来生物へ追加指定された種数

庭やベランダは小さな空間ですが、チョウやハナバチ、小鳥にとっては、街のなかで移動するための大切な中継地になります。在来の植物を選び、浅い水場をつくり、農薬を減らし、管理をやりすぎない。この4点が、生きものを呼ぶ庭づくりの基本です。

この記事では、自治体のガイドライン、環境省の外来生物制度、国内のビオトープ調査などをもとに、家庭でできる具体的な方法を整理します。海ラボの記事として、庭の水や外来種が川を通じて海につながる点にも触れます。

すべてを一度に変える必要はありません。1鉢の在来植物と、1つの浅い水場から始め、観察を続けることが、最も現実的で長続きする方法です。

この記事で学べること

  • 庭やベランダが生きものの中継地になる理由
  • 在来植物の選び方と、自治体のリストの使い方
  • 外来生物法と、庭から逸出するリスク
  • 小さな水場・雨庭のつくり方と注意点
  • 農薬を減らす順番と、益虫との付き合い方
  • 庭の水が川を通じて海へつながること

なぜ庭やベランダが「生きもの」の話になるのか

小さな緑地は、街の生きものにとって点在する中継地

生きものの暮らしは、公園や森といった大きな緑地だけで完結しているわけではありません。チョウやハナバチ、小鳥は、街のなかに点在する小さな緑を飛び石のようにたどりながら移動しています。庭やベランダは、1か所ごとの面積こそ小さくても、数が多いため、合計すると無視できない広がりになります。

名古屋市の「生物多様性緑化ガイドライン ポケット版」(2024年9月発行)は、生物多様性に配慮した緑化の要点として、呼びたい生きものを目標に設定すること、エサ場や住処になる工夫をすること、在来種を植えること、そして侵略性のある植物は植えないことを挙げています。つまり「何でもいいから緑を増やす」のではなく、「誰に来てほしいかを決めて設計する」ことが出発点になります。

世界的に懸念される昆虫の減少

昆虫の減少は、遠い国だけの話ではありません。2017年に科学誌PLOS ONEに掲載されたHallmannらの研究では、ドイツの自然保護区63か所で27年間にわたり飛翔昆虫の総重量を測定したところ、季節平均で76%、真夏には82%の減少が推定されました。著者らは、天候・土地利用・生息環境の特徴だけではこの減少を説明できなかったと報告しています。

ただし、この数値はドイツの保護区を対象にした研究であり、日本の庭に直接そのまま当てはめられるものではありません。それでも、昆虫が減れば、それを食べる鳥やクモ、花粉を運んでもらう植物にも影響が及ぶ、という食物網のつながりは国を問わず共通です。

この記事の考え方

  • 庭の生きもの呼びは「植物選び」「水場」「農薬」「管理」の4点セットで考える。
  • 目標は、珍しい生きものを呼ぶことではなく、地域にもともといる生きものの居場所を足すこと。
  • 庭の水と土は、雨や排水を通じて川、そして海へつながっている。

庭と海はどうつながっているのか

海ラボが庭の話を扱うのは、庭に降った雨や、庭で使った肥料・農薬の一部が、側溝や下水、川を経て、いずれ海へ向かうからです。また、山から川を通って海に届く栄養や水の循環については、水源の森と水循環の記事でも触れています。足元の庭づくりは、流域という大きな単位でみれば海づくりの一部でもあります。

庭の面積と生きものの数は比例するのか

庭が広ければ多くの生きものが来る、というわけではありません。名古屋市のガイドラインが示すように、まず「どの生きものに来てほしいか」という目標を決め、その生きものに必要なエサ場と住処を用意することが重要です。たとえばチョウを呼びたいなら、成虫が蜜を吸う花と、幼虫が食べる葉の両方が必要になります。小鳥を呼びたいなら、実のなる低木と水浴び場、そして猫などから身を隠せる茂みが必要です。目標を絞ると、狭い庭でも、取り組みの効果を実感しやすくなります。

もう1つ大切なのが、周囲の環境の確認です。港区の「生物多様性緑化ガイド」でも、周辺の緑の状況を把握してから、誘致する生きものの目標を決める流れが示されています。近くに公園や川があれば、そこから来やすい生きものを想定できます。反対に、周囲に緑が少ない場所では、庭の緑が貴重な中継地になる可能性があります。まずは地図アプリなどで、半径数百メートルの緑と水の位置を確認してみてください。

在来の植物を選ぶ:生きものとの「つながり」を庭に作る

在来種とは何か、なぜ在来種なのか

在来種とは、その地域に人の手を介さず自然に分布してきた植物のことです。長い時間をかけて、その地域の昆虫や鳥、土の微生物と関係を築いてきたため、在来種を植えると、幼虫が葉を食べる、花の蜜を吸う、実を鳥が食べる、といった「つながり」が生まれやすいと考えられています。

反対に、見た目がきれいでも、地域の昆虫がほとんど利用できない園芸植物もあります。もちろん園芸植物がすべて悪いわけではなく、花壇の主役は好きな花にして、庭の一部だけ在来種のコーナーにする、といった組み合わせが現実的です。

自治体の在来植物リストを使う

植物選びに迷ったら、自治体の資料が役立ちます。東京都は2014年に「植栽時における在来種選定ガイドライン」を公表しており、植栽に適した在来種のリストと植栽時の配慮事項をまとめています。名古屋市は「なごや地域在来植物リスト」を公開しており、花期や草丈などの植物特性と、どのような生きものが訪れるかを確認できます。お住まいの自治体にも同様の資料がないか、環境課や公園緑地課のページで探してみてください。

考え方具体的なヒント注意点
季節を切らさない春・夏・秋に順番に咲く在来の草花を組み合わせる同じ時期に偏ると蜜源が途切れる
高さを重ねる地面の草本、中くらいの低木、高めの木の3段構成を目指す小さな庭では木を選びすぎない
幼虫の食草を入れるチョウやガの幼虫が食べる在来植物を1〜2種入れる葉が食べられても過度に防除しない
実のなる木を入れる小鳥が食べる実をつける低木を1本入れる果実が落ちる場所と管理を考える
在来植物を庭に取り入れる4つの考え方(自治体のガイドラインの考え方を参考に整理)
庭の花壇に在来の草花が咲き、チョウやハナバチが訪れている様子
在来植物の草花に訪れる昆虫のイメージ

ベランダなら「鉢と高さ」で小さな生態系を

ベランダでも、プランターに在来の草花を植えれば、ハナバチやハナアブが立ち寄る場になります。鉢の数が少なくても、季節ごとに花が途切れないよう組み合わせるのがコツです。風が強い高層階では、背の低い丈夫な種類を選び、鉢の転倒対策を優先してください。

チョウとガの幼虫に「食べられること」を許す

在来のチョウを呼ぶうえで、意外に大きな壁になるのが、葉が食べられることへの抵抗感です。チョウの幼虫は、種ごとに食べる植物が決まっていることが多く、その植物が庭になければ、成虫が花の蜜を吸いに来ても、庭で世代を重ねることはできません。葉に穴があくことは、庭が生きものの子育ての場として機能している証拠でもあります。

食べられても困らない場所に食草を植えるのが現実的です。庭の隅や、目立たない鉢に、在来の草本や低木を1〜2種植えてみましょう。観賞用の花壇は従来どおりに管理し、食草のコーナーは「食べられてもよい場所」と決めておくと、気持ちの面でも続けやすくなります。

花の形と、訪れる昆虫の関係

花には、訪れる昆虫の種類によって向き不向きがあります。口の短いハナアブやハエの仲間は、浅い皿状の花を好み、長い口を持つチョウやガ、一部のハナバチは、筒状の花から蜜を吸います。1種類の形に偏らず、形の違う在来の花を組み合わせると、訪れる昆虫の幅が広がります。

また、八重咲きなど改良が進んだ園芸品種のなかには、雄しべや蜜腺が変化し、昆虫が蜜や花粉を得にくくなっているものがあります。これは品種によって違うため、一概に悪いとはいえませんが、昆虫を呼びたい場所では、一重咲きの花や野生種に近い品種を選ぶと、効果が出やすくなります。

土づくりも植物選びの一部

在来種は、その地域の土壌条件や気候に合っていることが多く、植え付け後の肥料や水やりの手間が少なくて済む傾向があります。栄養の多い土を好む園芸種と同じ感覚で肥料を与えると、かえって徒長して弱ったり、虫がつきやすくなったりします。肥料を控えめにすることは、海に流れ出る栄養分を減らすことにもつながります。

植えてはいけないもの:外来種と逸出のリスク

特定外来生物には法的な規制がある

外来生物法では、特定外来生物に指定された種について、飼育・栽培、運搬、保管、輸入、野外への放出、植栽、種まきなどが規制されています。違反した場合は、個人で最高3年以下の懲役または300万円以下の罰金、法人で最高1億円以下の罰金が科されることがあります。庭に植える前に、環境省の特定外来生物一覧に入っていないかを確認することが基本です。

さらに2022年の法改正で、まん延すると著しく重大な被害が生じるおそれがあり、発見時に迅速な対処が必要な種を指定できる「要緊急対処特定外来生物」の仕組みが新設されました。

法律の対象外でも「生態系被害防止外来種」に注意

環境省は2015年3月に「生態系被害防止外来種リスト」を公表しました。このリストを受けて、2016〜2020年度に54種が特定外来生物として追加指定されています。一方で、リストに載っていても特定外来生物に指定されていない種には、法的な規制がないものもあります。法律に触れないからといって、野外に広がらないとは限りません。

庭の植物が「逃げる」仕組み

  • 種子が風や鳥、水で運ばれ、庭の外で増えることを逸出という。
  • 根や茎の断片が、園芸ごみとして捨てられた先で根づくこともある。
  • 剪定くずや抜いた植物は、必ず自治体のルールに従って燃やすごみ等として処分する。

川を通じて海まで運ばれる外来種

庭から逸出した植物の種子や、飼育していた水草・魚が、排水路から川に入り、水域の生態系を乱すことがあります。外来種の問題は海でも起きており、海の外来種の記事で紹介しているように、人間活動が運んだ生物が在来の生態系を変えてしまう例が知られています。

庭の水路と川と海がつながる流れを示した図
庭の水は川を通じて海へつながる(概念図)

外来種を見分けるときの考え方

植物の名前が分からないときは、自治体の環境課や、公園・緑地に関わる部署、地域の植物園・博物館に相談する方法があります。園芸店の表示でも、学名や分類が確認できる場合があります。分からないまま、野外で採取した植物を持ち帰って庭に植えることは避けましょう。外来植物であったり、地域の野生個体群の遺伝的なまとまりを乱したりする可能性があるためです。

在来種でも「他の地域産」には注意が必要

日本国内の在来種であっても、別の地域に由来する個体を持ち込むことには、慎重な配慮が必要です。同じ種でも、地域ごとに遺伝的な特徴が異なることがあり、異なる地域の個体が交雑すると、その地域に固有の特徴が薄れてしまう懸念があります。苗や種を入手するときは、できるだけ地元で採取・育成されたものを選ぶとよいでしょう。

水辺の生きものを野外に放さない

飼っていた魚やカメ、水草などを、いらなくなったからといって近所の川や池に放すことは、外来種問題を引き起こす原因となります。特に、庭の小さな水場から排水路を通じて、川や海へ流れ出ることも考えられます。飼育をやめるときは、最後まで責任を持って世話をするか、飼育を引き継ぐ人を探してください。

水場をつくる:小さな水辺が呼ぶ生きものたち

水場は鳥や昆虫にとって貴重な資源

鳥は水浴びや水飲みに、昆虫やカエルは産卵や生活に水を必要とします。庭に浅い水場があるだけで、訪れる生きものの種類は増えます。ただし、深い池を作る必要はありません。まずは、浅い皿や鉢を使った小さな水場から始められます。

ビオトープの長期調査から分かること

東京都内の約250m²の試験地で、新しくつくった水辺ビオトープを8年間追跡した研究があります。それによると、トンボ類は造成後2年目までに16種が定着し、その後は大きな変化がなく、鳥類は繁殖期に33種、越冬期に35種が確認されました。また、水生昆虫の種数は造成後しばらくは増えたものの、泥の堆積によって減少し、浚渫(泥の除去)の後に回復したと報告されています。

この調査は新しく造成した水辺を対象にしたもので、一般家庭の小さな水場にそのまま当てはまるわけではありません。それでも、水辺をつくる価値と、造成後に泥を取り除くといった管理の重要性の両方を示しています。

家庭でできる水場づくりの手順

  1. 日当たりと風を確認し、半日陰で人通りの少ない場所を選ぶ。
  2. 浅い容器(深さ5〜10cm程度)を置き、片側に石を入れて小さな生きものが上がれる斜面を作る。
  3. 水道水を使う場合は、一晩置いて塩素を抜く。
  4. 夏はボウフラ対策として、水を定期的に入れ替える。
  5. 泥や落ち葉がたまったら、季節ごとに少しずつ取り除く。

水場づくりの注意

  • 水深が深い場所は、小さな子どもやペットの事故につながる。安全な浅さにする。
  • 購入した魚や水草を放すと、外来種問題につながる。在来種であっても、他の地域の個体を持ち込まない。
  • 蚊の発生が気になる場合は、水を溜めたままにしない。

雨を受け止める「雨庭」という考え方

世田谷区や京都市は、雨庭(レインガーデン)を、降った雨水を下水道へ直接放流せず、いったん貯留してゆっくり地中へ浸透させる緑地として紹介しています。河川や下水道への雨水の集中的な流出を抑える働きがあり、グリーンインフラの一つとして位置づけられています。ただし、地下水位が高い場所や、傾斜地・建物基礎の近くでは設置に注意が必要とされています。家庭では、まず雨どいの出口に鉢や小さな植栽帯を置き、雨水がゆっくり染み込むようにするところから始められます。

水場の置き場所と、猫や子どもへの配慮

水場の置き場所は、鳥が安心して使えるかどうかを左右します。周囲が開けすぎていると、鳥はタカなどの捕食者を警戒して近づけません。反対に、茂みにぴったり接していると、猫が隠れて近づきやすくなります。1〜2メートルほど離れた位置に、低い茂みや枝のある場所が理想です。ベランダの場合は、手すりの近くに浅い皿を置き、近くに止まれる枝や支柱を立てる方法があります。

小さな子どもがいる家庭では、水深を浅くし、重い石で容器が動かないようにします。水が深くなる池を作る場合は、フェンスや蓋の設置、あるいは雨水がたまったままにならないような設計が必要です。安全を最優先にして、無理のない規模から始めてください。

水場を維持するコツ

  • 夏場は、水が温まりすぎないよう、半日陰に置く。
  • 藻が増えたら、容器をこすって洗い、水を入れ替える。
  • 落ち葉が多い時期は、こまめに取り除く。
  • 冬は、水が凍ると鳥が飲めないので、日中に水を入れ替える。
  • 野鳥の水場は、フンで汚れやすい。感染症予防のため、清掃のときは手袋を使い、終わったら手を洗う。

水場を維持することは、一見手間に思えるかもしれません。しかし、鳥が水浴びする姿や、トンボが水面に訪れる様子は、庭の変化を実感できる貴重な機会です。無理のない頻度で続けることが、結果として生きものにとってもよい環境になります。

農薬を減らす:害虫と益虫のバランスを見直す

「虫がいる=失敗」ではない

庭の虫には、植物を食べるものだけでなく、害虫を食べるテントウムシやクモ、花粉を運ぶハナバチなど、庭の健康を支える存在も多くいます。薬剤で一律に虫を排除すると、益虫も一緒にいなくなり、かえって害虫が増えやすくなることもあります。

農薬に関する日本の議論

ネオニコチノイド系農薬とミツバチ被害については、農林水産省が被害事例の調査を行ってきました。調査結果をめぐってはNGOなどから規制強化を求める声があり、農林水産省は、2015年の農薬取締法の改正により、登録済みの農薬を定期的に再評価する制度を導入したとされています。評価や規制のあり方は、国内外で議論が続いており、立場によって見解が異なる分野です。家庭では、製品のラベルに書かれた使用方法と、花や蜜源への注意書きを守ることが大切です。

家庭でできる「減らす」順番

  • 手で取る:アブラムシやイモムシは、見つけた段階でホースの水や手作業で除く。
  • 風通しをよくする:混み合った枝を剪定し、蒸れによる病気を予防する。
  • 植物を元気に育てる:水やりと肥料を適量にする。窒素分が多いと虫がつきやすくなる。
  • 薬剤は最後の手段:使うなら、開花期の植物には散布せず、風のない時間帯にピンポイントで使う。
  • 雨の前の散布は避ける:薬剤が流れて水域に入ることを防ぐ。

まずやってみること

  • アブラムシは、水圧と手作業でかなり減らせる。
  • 1か月に1回、庭の虫を観察して記録すると、益虫に気づきやすい。
  • 使う薬剤の名前と散布日をメモしておく。
庭のテントウムシがアブラムシを食べている様子
益虫が害虫を減らしてくれる関係

肥料と栄養塩の流出を考える

庭に与えた肥料のうち、植物が吸収しきれなかった分は、雨水に溶けて土の中を流れ、地下水や排水路を経て、最終的には川や海に届く可能性があります。窒素やリンといった栄養塩が水域に過剰に流れ込むと、藻類が増えすぎて水質が悪化することが知られています。家庭の庭で使う量は多くありませんが、住宅地が広がる流域では、その合計が無視できない量になりえます。

肥料を控えめにし、雨の前の施肥を避け、有機物の堆肥を土に混ぜるなど、土の力で植物を育てる方法を取り入れると、栄養塩の流出を減らせます。コンポストで作った堆肥も、使いすぎには注意が必要です。

天敵を呼ぶ庭づくり

害虫を減らす最も持続的な方法の1つが、天敵を庭に呼ぶことです。テントウムシ、ヒラタアブ、クモ、カマキリ、小鳥などは、アブラムシやイモムシを食べてくれます。これらの天敵は、花の蜜や花粉、隠れ場所、水場があると庭に定着しやすくなります。薬剤を使う頻度が高いと、天敵も減ってしまうため、結果として害虫が増えやすくなる、という悪循環に陥ることもあります。

害虫の被害が大きい植物は、場所を移す、別の種類に置き換えるなど、「植物を選び直す」ことも立派な対策です。同じ植物に無理に薬剤をかけ続けるより、その庭の環境に合った植物を選ぶほうが、手間も環境負荷も小さくなります。

草刈りと掃除を「やりすぎない」管理術

全部を刈らず、場所を決めて残す

きれいに整えすぎた庭は、生きものにとっては隠れ場所も産卵場所もない空間になりがちです。庭の一角に草を伸ばしたままのコーナーを作り、そこだけ年に1〜2回の草刈りにすると、昆虫の越冬場所やバッタの生活場所が残ります。

落ち葉と枯れ枝の役割

落ち葉は、地面の乾燥を防ぎ、分解されて土を豊かにします。落ち葉の下には、ダンゴムシやミミズ、甲虫の幼虫などがいて、それを食べに鳥がやってきます。庭の隅に落ち葉を溜める場所を作り、すべてを捨てずに循環させるのが良い方法です。枯れ枝を積んだ小さな山も、昆虫やトカゲの住処になります。

管理の年間カレンダー

時期おもな作業生きものへの配慮
春新芽の確認、苗の植え付け鳥の巣づくり期は、大きな剪定を避ける
夏水やり、水場の入れ替え草刈りは一部だけにして、逃げ場を残す
秋種の回収、落ち葉の集約花が終わっても、茎を残して越冬場所にする
冬剪定、堆肥づくり枯れ茎や落ち葉の一部は、そのまま残す
庭の年間管理と生きものへの配慮

ごみの出し方も庭づくりの一部

剪定くずや枯れ草は、地域のルールに従って処分します。園芸ごみを川辺や空き地に捨てると、外来植物の拡散や、ごみの流出につながります。コンポストを使えば、家庭内で土に還す循環も作れます。

実験的な小さなエリアをつくる

庭全体の管理方法を一度に変えるのは負担が大きいため、1〜2平方メートルほどの「実験エリア」を決める方法がおすすめです。そこだけは、草刈りを年1〜2回に減らし、農薬や化成肥料を使わず、落ち葉をそのまま残します。1年間の変化を観察すると、どんな草が生え、どんな虫や鳥が来るのかが見えてきます。結果が良ければ、少しずつ範囲を広げていくことができます。

近隣への配慮も忘れずに

生きものに配慮した庭づくりは、近隣との関係も大切です。草が伸びたままの庭は、地域によっては、ごみの不法投棄や害虫の発生源と誤解されることもあります。境界付近は手入れをして、内側に自然な草地を残すなど、メリハリをつけると理解が得られやすくなります。「生きもののための庭」と書いた小さな看板を設置する方法もあります。

田んぼやまちの緑とつなげる:庭を超えた広がり

1軒の庭から、まち全体の「みどりの帯」へ

生きものにとって大切なのは、庭が孤立していないことです。隣の家やベランダ、公園、街路樹、小さな水路がつながると、チョウやハナバチが移動できる「みどりの帯」になります。自治体が、民間の緑地を登録して在来種植栽を後押しする制度(東京都の「江戸のみどり登録緑地」など)もあり、個人の取り組みを面に広げる仕組みも整い始めています。

野生ハナバチは日本の農業も支えている

野生のハナバチ類による農作物の受粉は、日本全国で年間3300億円規模の経済効果があるという推計があります。街の庭や緑地が、近くの畑の受粉を支える昆虫の居場所にもなりえます。田んぼと生きものの関係は田んぼの生物多様性の記事でも詳しく紹介しています。

市民の記録が、地域の自然を可視化する

庭で見かけた生きものを写真に撮って記録しておくと、自分の庭の変化に気づけるだけでなく、地域の自然のデータにもなります。市民参加型の調査については、日本のシチズンサイエンスの記事で取り組みを紹介しています。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

近所で共有できること

  • 在来植物の苗や種を、近所の人と分け合う。
  • 自治体の緑化講座や、自然観察会に参加する。
  • 共有スペースの草刈りの時期を、管理者と相談して工夫する。

今後に向けて:庭の記録を残す

庭の変化を長期的に見るには、記録が重要です。同じ場所から、同じ季節に写真を撮るだけでも、年ごとの違いが分かります。来た鳥の名前や、咲いた花の時期をノートにメモしておくと、数年後に大きな発見につながることもあります。記録は、自分の取り組みを確かめる手がかりであり、地域の自然のデータとしても活用できる可能性があります。

今日から始める庭づくりロードマップ

3段階で無理なく進める

すべてを一度に変える必要はありません。まずは観察から始め、次に小さな変更を1つ、最後に継続的な管理へ、という3段階で進めるのが現実的です。

段階やること目安
①観察する庭やベランダに来ている生きものを1か月記録する今日〜1か月
②1つ変える在来植物を1鉢、浅い水場を1つ置く1〜3か月
③続ける農薬を減らし、刈り方を調整し、年1回見直す半年〜1年
庭づくりの3段階
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

まとめ

  • 庭の生きもの呼びは、在来の植物・小さな水場・農薬の削減・やりすぎない管理の4点で進める。
  • 外来種の逸出と、庭から川・海へのつながりを意識する。
  • 全部を完璧にしなくてよい。1鉢・1つの水場から始めて、観察を続ける。

つまずいたときの考え方

取り組んでみても、思ったほど生きものが来ないことがあります。生きものが庭に定着するには、時間がかかることが多く、1年目に結果が出なくても、失敗とは限りません。前述のビオトープの調査でも、トンボ類が定着するまでには、造成から約2年の時間がかかっています。焦らず、数年単位で変化を見守る姿勢が大切です。

また、うまくいかなかった点を記録しておくと、次の改善に役立ちます。日当たりが悪かった、水が深すぎた、植物が合わなかったなど、原因を1つずつ見直し、少しずつ調整していきましょう。庭づくりは、生きものとの対話のようなものです。

参考文献・出典

  1. 名古屋市 生物多様性緑化ガイドライン ポケット版(2024年9月) – 生物多様性に配慮した緑化の要点
  2. 名古屋市 なごや地域在来植物リスト – 在来植物の特性と訪れる生きもの
  3. 東京都環境局 江戸のみどり登録緑地 – 在来種植栽に取り組む民間緑地の登録制度
  4. 環境省 外来生物法の概要 – 特定外来生物の規制内容
  5. 環境省 外来生物法の概要図 – 規制と罰則の整理
  6. Hallmann et al. (2017) PLOS ONE – ドイツ保護区における飛翔昆虫量の減少
  7. 新規造成ビオトープの動植物相の初期遷移(杉山女子大学リポジトリ) – 東京都内試験地の8年間の追跡調査
  8. 国土交通省 ビオトープに関する資料 – 都市域のビオトープの目的
  9. 世田谷区 雨庭に関する資料 – 雨庭の仕組みと設置条件
  10. 環境省 エコジン クイズ – 農業に使われるハチと在来種への転換、野生ハナバチの受粉の経済効果の推計

※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア