⚡ 30秒でわかる答え
- クジラの歌は、ユニット→フレーズ→テーマ→ソングという階層をもつ長い発声で、確認された歌い手は主にオスのザトウクジラです。
- ヒゲクジラは喉頭の特殊な構造で低周波の音をつくることが、2024年のNature論文で直接示されました。
- 歌は個体群のあいだで学習・共有され、南太平洋では約2年で東へ広がる文化的伝播が確認されています。
- 歌の役割は繁殖との関係が有力ですが、繁殖期以外にも録音され、全容は解明されていません。
海の中で何時間も続く、低くうねる音の連なり。ザトウクジラの「歌」は、半世紀以上の研究を経ても、なお多くの謎を残しています。
歌は誰が、どうやって、何のために歌うのか。そして、なぜ海域を越えて同じ歌が広がるのか。本記事では、近年の査読論文を手がかりに整理します。
あわせて、船舶の騒音が歌を脅かしているという課題も取り上げます。
この記事で学べること
- 歌の階層構造と歌うのは主にオスであること
- ヒゲクジラが喉頭で音をつくる仕組み(2024年Nature)
- 歌が繁殖や社会とどう関わると考えられているか
- 歌が太平洋規模で文化として伝わること
- 言語との共通点と、言語とは言えない理由
- 海洋騒音が歌に与える影響と私たちにできること
クジラの「歌」とは何か:ザトウクジラのソングの基本
歌を歌うのは主にオスのザトウクジラ
海の中を流れる低くうねる音、高く澄んだ笛のような音、うなり声のような音が、一定の順序でくり返される——。これがザトウクジラ(Megaptera novaeangliae)の「ソング(歌)」です。研究者が歌うところを確認できた個体は、これまでのところオスだけだとされており、歌は繁殖と深く結びついた行動だと考えられています。
ただし、「歌」という呼び名は人間の音楽になぞらえた比喩です。クジラが私たちと同じように「楽しんで」歌っているかどうかは分かっていません。科学的には、決まった構造をもち、くり返され、個体群のなかで共有される長い発声パターンを指す言葉として使われています。
1971年に始まった本格的な研究
ザトウクジラの歌が科学の世界で広く知られるようになったきっかけは、1971年に科学誌『Science』に掲載されたRoger PayneとScott McVayの論文です。この研究は、歌が「ユニット→フレーズ→テーマ→ソング」という階層構造をもつことを示しました。同じテーマが数回くり返され、複数のテーマが決まった順序で並んで1つのソングになります。
| 階層 | 内容 | たとえ |
|---|---|---|
| ユニット | 1つの連続した音のかたまり(うなり、笛、ホイッスル状の音など) | 音符 |
| フレーズ | 数個のユニットが並んだ短いまとまり | 短いメロディ |
| テーマ | 同じフレーズを何度かくり返したもの | 楽節 |
| ソング | 複数のテーマが決まった順序で並んだ全体 | 1曲 |
| ソングセッション | ソングを休みなく何度もくり返す、ひとまとまりの歌唱 | ライブ1回 |
1つのソングの長さは、報告によって幅があります。Suzukiらの2005年の論文は、Payne and McVayを引いて7〜30分という範囲を紹介しています。さらに、同じ個体が歌を休みなくくり返す「ソングセッション」は数時間に及ぶこともあるとされます。
ここがポイント
- 歌う確認個体は主にオス
- 歌は階層構造(ユニット→フレーズ→テーマ→ソング)をもつ
- 1曲は数分〜30分ほど、歌い続ける時間は数時間に及ぶことがある

歌と「鳴き声」はどう違うのか
クジラは歌のほかにも、短い鳴き声(コール)やクリック音、泡を吹く音などを出します。歌とは、そのなかでも長く、規則的で、くり返される発声をいいます。一方、群れの仲間同士の連絡や、採餌の合図に使うとされる短い鳴き声は、歌とは区別して扱われるのが一般的です。
どうやって音を出すのか:声帯のないクジラの発声メカニズム
長く謎だった「喉の仕組み」
クジラは肺の空気を吐き出さずに歌い続けることができ、水中で何時間も歌うことができます。その音がどこで、どうやってつくられるのかは、長いあいだ謎でした。
ハクジラ(イルカなど)は鼻の奥にある「音声唇」で音を出すことが知られています(詳しくはイルカの反響定位の記事を参照)。一方、ザトウクジラを含むヒゲクジラ類は、喉の奥にある喉頭(こうとう)で音をつくると考えられてきましたが、それを直接確かめた実験はありませんでした。
2024年のNature論文が示したこと
2024年2月、Coen Elemans、Tecumseh Fitch、Magnus Wahlbergらの国際研究チームが、『Nature』誌(627巻123〜129ページ)に論文を発表しました。チームはヒゲクジラ3種から取り出した喉頭に空気を通す実験を行い、解剖学的な観察や計算モデルと組み合わせて、喉頭が実際に発声できることを直接示しました。
論文によると、ヒゲクジラの喉頭には、ほかの哺乳類にはない独自の構造があります。この構造のおかげで、体の大きな動物でも低周波で周波数が変化する音を出せると説明されています。また、この仕組みはヒゲクジラ類の共通の祖先の時代から備わっていた可能性があるとされています。
発声の仕組みの要点
- ヒゲクジラは喉頭の特殊な構造で音をつくる(Elemans et al. 2024)
- ハクジラは鼻の奥の音声唇で音をつくる
- この構造は低周波で周波数が変わる音を大きな体で出すための進化的な工夫とされる
構造がもたらす「制約」
同じ論文は、この構造が音の周波数の範囲や、深い場所での発声に制約を生む可能性にも触れています。そのため、船の騒音のなかで声の高さを大きく変えて対処することが難しく、結果として音が届く範囲が狭まる可能性があるとされます。この点は、後の章で扱う海洋騒音の問題と直結します。
音はどこまで届くのか
水中の音は空気中よりはるかに速く、遠くまで伝わります。海の中には、音が水深によって屈折して一定の層に閉じ込められ、遠くまで届きやすい「音波の通り道」ができることがあります。そのため、低い周波数の音を出すクジラの声は、条件がよければ数十km以上先まで届くと説明されることが多いです。ただし、実際に届く距離は水温・塩分・水深・波や船舶のノイズなどに大きく左右され、一概には言えません。
歌の役割を考える:なぜオスは歌うのか
有力な仮説は「繁殖」との関係
ザトウクジラの歌は、おもに低緯度の温かい繁殖海域で、冬から春にかけて多く聞かれます。日本でも、小笠原諸島の父島沿岸で行われた北海道大学の辻井浩希氏の研究(博士論文・2023年)では、歌うオス(シンガー)が2〜3月に多く、2月に最盛期を迎えることが示されました。また、日の出前と夕方以降に多く、日中は少ない傾向も報告されています。
こうした季節性から、歌はメスへのアピールや、オス同士の関係づくりに関わると考えられてきました。ただし、歌の機能が「メスを惹きつけること」なのか、「ほかのオスへの威嚇や距離の確保」なのか、あるいは両方なのかについては、現在も議論が続いています。
| 仮説 | 内容 | 現状 |
|---|---|---|
| メスへの求愛 | 歌の質や持続力が、オスの強さを示す | 有力だが直接の証拠は限られる |
| オス同士の関係調整 | ほかのオスとの距離をとり、競争を避ける | 一部で支持 |
| 航行・位置把握 | 音の反響で海底地形や位置を把握する | 仮説の一つ。確証は不十分 |
| 社会的学習の場 | 歌を共有し、集団の絆を保つ | 文化的伝播の研究と関連 |

繁殖海域の外でも歌が聞こえる
以前は「歌は繁殖海域のもの」と考えられていましたが、近年は回遊の途中や、高緯度の餌場でも歌が録音されることが分かってきました。たとえば、アイスランド周辺で行われた研究(Magnúsdóttir & Lim、PLOS ONE、2019年)は、1〜2月に歌の頻度がピークを迎え、北半球の繁殖期と重なることを報告しています。さらに、カーボベルデや西インド諸島の歌と比べることで、餌場での歌が北大西洋全体での歌の伝播に関わっている可能性を指摘しました。
南アフリカ西部の研究(Hawkeyら、African Zoology、2020年)でも、ケープタウン沖で録音された歌が個体間で共有され、同じ繁殖群に属する個体が歌っていると読み取れる、と報告されています。さらに、シーズンが進むにつれて歌が少しずつ変化することや、正式な繁殖期を過ぎても歌い続ける個体がいる可能性も示されました。
断定は禁物
「歌=求愛の歌」と単純に言い切れないことが、近年の研究で明らかになっています。繁殖期以外にも歌が録音される以上、歌には複数の役割があるか、あるいは私たちがまだ知らない役割があるかもしれません。
歌う時間帯・場所から見えること
小笠原の研究で、日の出前や夕方に歌うオスが多く、西側の海域では潮の満ち引きとも関係した出現パターンが見られたことは、歌が単なる「時刻や気分」ではなく、環境や社会的状況に応じて調整されている可能性を示唆します。論文は、歌がオスの繁殖戦略に重要な役割を果たしていると考えられること、そして人為的な騒音で歌の行動が妨げられない環境づくりが必要であることを述べています。
歌は「文化」として広がる:太平洋を渡るヒットソング
歌は少しずつ、ときに一気に変わる
ザトウクジラの歌は固定されたものではなく、年ごとに少しずつ変化していきます。そして同じ海域のオスたちは、ほぼ同じ歌を歌います。つまり、歌は個体ごとに生まれつき決まっているのではなく、ほかのクジラの歌を聞いて学ぶことで共有されていると考えられています。
2011年、Ellen Garlandらは科学誌『Current Biology』で、南太平洋の6つの隣り合う個体群から、約11年間にわたって録音された775のソングを分析した結果を報告しました。この研究で11種類の歌のタイプが確認され、多くはオーストラリア東海岸の個体群で生まれ、東へ段階的に広がって、仏領ポリネシアまで届きました。1つの歌が全域に広がるのには、おおむね2年ほどかかったとされています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 論文 | Garland et al. 2011, Current Biology |
| 対象 | 南太平洋の隣り合う6つの個体群 |
| 期間 | 約11年間 |
| 分析した歌 | 775ソング、11種類の歌タイプ |
| 広がり方 | 豪州東岸から東へ、仏領ポリネシアまで段階的に |
| 伝播の速さ | 全域に広がるまでおおむね2年 |
「文化の革命」と「進化」
Garlandは、歌の変化を2種類に分けて説明しています。1つは長い時間をかけて少しずつ変わる進化的な変化、もう1つは、オスたちがまったく新しい歌に一斉に乗り換える革命的な変化です。研究では、歌の広がる方向が東向きにほぼ限られていた点も注目されました。その理由として、オーストラリア東岸の個体群が地域で最も大きく、影響力が強いためではないかという見方が示されています。
この伝わり方は、人間社会でのヒット曲や流行語の広がりに似ています。研究者は、クジラが共通の回遊ルートで歌を聞いて学ぶか、一部の個体が個体群のあいだを移動して歌を運ぶ、といった経路を考えています。ただし、報道で紹介された「人間以外の種で初めての大規模な文化交流」という評価は、研究者自身の見解であり、第三者の確定的な判断ではない点には注意が必要です。

歌は「言葉」なのか:統計から見えてきた言語との共通点
2025年のScience論文:Zipfの法則

2025年、Inbal Arnonを中心に、Ellen GarlandやSimon Kirbyらが加わった研究チームが、『Science』誌に注目の論文を発表しました。ニューカレドニアで8年間にわたって録音されたザトウクジラの歌を分析したところ、歌のなかに統計的にまとまりをもつ部分列が見つかり、その出現頻度がZipf(ジップ)の法則に従うことが分かったのです。
Zipfの法則とは、人間の言語で「ごく少数の単語が非常によく使われ、大多数の単語はまれにしか使われない」という普遍的なパターンのことです。さらに、部分列の長さについても、頻繁に使われるものほど短いというZipfの短縮の法則に従う傾向が見つかりました。
Zipfの法則とは
- 頻度の順位が2倍になると、出現頻度は約半分になるという経験則
- 人間の言語のほぼすべてで観察される
- 音楽や一部の動物の発声でも見つかることがある
言語とは限らない:研究者自身が示す慎重さ
この結果を「クジラは言葉を話している」と受け取るのは早計です。研究者は、クジラの歌は人間の言語と同等ではないこと、そしてこのパターンがなぜ生じるのか、どれほど意味をもつのかについては議論が続いていることを強調しています。クジラの歌は、意味(語彙や文法)を伝える仕組みというより、学習しやすく、記憶しやすい形に整理された音の並びである可能性が考えられます。
こうした統計的な構造は、赤ちゃんが言葉を覚えていくときに音の並びをまとまりとして切り出す能力とも関係があるのではないか、という視点から研究が進められています。クジラの歌が、人間の言語の起源を考える手がかりになるかもしれません。
| 観点 | クジラの歌 | 人間の言語 |
|---|---|---|
| 階層構造 | ユニット→フレーズ→テーマ→ソング | 音素→単語→文→談話 |
| 学習 | 他個体の歌を聞いて学ぶ(社会的学習) | 周囲の言語を聞いて習得 |
| 頻度分布 | Zipf型の傾向が報告されている | Zipf型(普遍的) |
| 意味・文法 | 確認されていない | あり |
ザトウクジラだけではない:ほかの大型クジラの歌
シロナガスクジラとナガスクジラ:超低周波の声
歌をもつのはザトウクジラだけではありません。ヒゲクジラのなかでも、シロナガスクジラやナガスクジラは、人間の耳にはほとんど聞こえない超低周波の歌を発することが知られています。こうした声は、海のなかを非常に遠くまで届くと考えられています。
興味深いのは、シロナガスクジラの歌の高さが数十年にわたって少しずつ低くなっているという報告です。NOAA関連の解説(DOSITS)によると、北太平洋では歌の基本周波数が1963年の21.9Hzから2008年には15.2Hzへと下がったとされています。McDonaldらの2009年の研究は、その原因を完全には説明できていませんが、捕鯨後に個体数が回復したことが関係するのではないかという仮説を挙げています。個体数が増えると、遠くまで声を届ける必要が薄れ、低い声のほうが好まれるようになるという「声の大きさと高さのトレードオフ」が考えられています。
その後の2018年のインド洋での研究(Leroyら)でも、南極シロナガスクジラやナガスクジラの鳴き声が年々低くなっていることが報告されました。ただ、原因については、気候変動や海水の酸性化(海水中での音の伝わりやすさの変化)、個体数の回復などさまざまな説があり、決着はついていません。
ホッキョククジラは「ジャズ」を歌う
北極海に暮らすホッキョククジラも、冬から春にかけて歌を発することが知られています。ザトウクジラのように同じ歌を厳密にくり返すというより、年ごとに歌のレパートリーが大きく入れ替わる、より自由な様式をもつと報告されています。同じヒゲクジラでも、歌のスタイルは種ごとに大きく異なるのです。
ハクジラの「ことば」との違い
イルカやシャチなどのハクジラ類は、ザトウクジラとは別の方法でコミュニケーションをとっています。クリック音やホイッスル音を使い、個体ごとに「名前」にあたる特有のホイッスルをもつことが知られています。歌をもつヒゲクジラとは、音をつくる器官も、音の使い方もまったく異なります。クジラ類の声の世界は、このように多様です。
歌をかき消す海の騒音:クジラの声が届かなくなる
船舶・ソナー・工事が水中を満たしている
クジラの歌が頼りにしている水中の音の世界は、人間活動による騒音で大きく変わりました。大型船のエンジン音やスクリュー音、軍事・調査用のソナー、海底資源探査、洋上風力などの建設工事は、いずれもクジラが使う周波数帯と重なる低周波の音を出します。海洋騒音問題の記事で詳しく解説しているように、こうした騒音は声がかき消される「マスキング」を引き起こします。
歌はオスにとって繁殖に関わる大切な行動と考えられているので、騒音で歌が届かなくなったり、歌う場所や時間を変えざるを得なくなったりすれば、繁殖の成功にも影響しうると心配されています。先に紹介した小笠原の研究も、歌の行動が人為的な騒音で妨げられない環境づくりの必要性を指摘していました。
喉頭の構造が「逃げにくさ」を生むかもしれない
2024年のNature論文は、ヒゲクジラの喉頭の構造が、声の周波数の範囲や深い場所での発声に制約をもたらす可能性を述べています。もし騒音に合わせて声の高さを大きく変えにくいのだとすれば、ヒゲクジラは騒音に適応しにくいことになります。研究者は、この制約が、船の騒音を避けたり、深い場所で会話したりする能力を下げ、声が届く範囲(能動的な通信距離)を縮める可能性があると論じています。
歌が届かなくなると?
- 求愛や社会的なやりとりの機会が減るおそれ
- 餌場や回遊ルートでの連絡が難しくなるおそれ
- 騒音から逃れるために、利用海域を変える個体が出るおそれ
私たちにできること
騒音対策には、船の速度を落とす、プロペラの設計を静かなものにする、クジラが多い海域では航路を調整する、といった取り組みがあります。ホエールウォッチングの船にもガイドラインがあり、クジラとの距離や船の速度を守ることが求められます。クジラの回遊の記事も合わせて読むと、歌が聞こえる海域がなぜ守られるべきかが見えてきます。
日本の海で歌を探る:小笠原・沖縄・研究の最前線
日本で歌が聞ける海域
日本は、ザトウクジラの繁殖海域として世界的にも知られる場所を複数もっています。冬から春にかけて、沖縄、小笠原、奄美の海に来遊し、歌うオスの声が水中マイクで録音されています。沖縄美ら島財団が1991年から約30年にわたって来遊状況の調査を続け、認定NPOエバーラスティング・ネイチャー、小笠原ホエールウォッチング協会、奄美クジラ・イルカ協会などと共同で行った研究では、沖縄・小笠原・奄美・北海道の4海域で撮影された3,532頭分の尾びれ写真を照合しました。その結果、国内4海域に来遊するザトウクジラが共通の一つの集団である可能性が示され、PLOS ONEに掲載されています(この研究は尾びれ写真の照合が中心で、歌の分析は含まれていません)。
また、長崎大学の博士論文(2001年度)は沖縄海域のザトウクジラの鳴き声(ソング)の音響特性を扱っており、日本でも歌の研究が積み重ねられてきたことが分かります。
水中マイクでクジラを調べる:受動的音響モニタリング
歌の研究では、海中に設置した水中録音装置(ハイドロフォン)で、長期間にわたって音を記録する手法がよく使われます。クジラを直接見つけなくても、歌が聞こえればそこにオスがいることが分かるため、船で探すよりも広い範囲・長い期間を調べられるのが利点です。小笠原の研究でも父島沿岸で水中録音装置が使われ、シンガーの出現周期が調べられました。
- 歌が聞こえる=歌うオスがいる、という手がかりになる
- 夜間や悪天候でも調査できる
- 長期間のデータから、季節や時間帯のパターンが分かる
- クジラに近づかずに調べられるため、負担が少ない
ホエールウォッチングで歌に出会うには
ホエールウォッチング船では、水中マイクで歌を聞かせてくれることがあります。船の上からでも、船底を伝わる低い響きとして感じられることがあるかもしれません。観察のときは、ガイドラインに沿って適切な距離を保つこと、クジラの進路をふさがないこと、エンジン音を必要以上に出さないことが大切です。歌が聞こえる環境を守ることも、観察する側の責任です。
今日からできること
- ホエールウォッチングはガイドラインを守る事業者を選ぶ
- 水中の音や騒音の問題を知り、周囲に伝える
- 海洋保全に取り組む団体の活動を知る
- 自然音の科学を読み、音の環境への関心を広げる

まとめ:歌から見えるクジラの社会と、私たちの役割
歌の仕組み・役割・文化を振り返る
ザトウクジラの歌は、階層的に組み立てられた長い音のパターンで、主にオスが歌います。喉頭の独自の構造で低い音をつくり、水中を遠くまで響かせます。歌は繁殖と結びついていますが、繁殖海域以外でも歌が録音されるなど、その役割はまだ完全には解明されていません。
歌はまた、個体群のあいだで学び、伝え、変化する文化でもあります。南太平洋では、数年のうちに東へ広がる様子が捉えられ、統計的にも言語に似た性質が見つかりました。一方で、船の騒音がこうした音の世界を脅かしています。
この記事のまとめ
- 歌は階層構造をもち、主にオスが歌う
- ヒゲクジラは喉頭の特殊な構造で音をつくる(2024年Nature)
- 歌は学習され、太平洋規模で文化的に広がる(2011年)
- 歌には言語に似た統計的性質がある(2025年Science)が、言語とは言えない
- 海洋騒音は歌を届きにくくするおそれがある
これからの研究と私たち
まだ分からないことが多いからこそ、クジラの歌の研究は進んでいます。次に海辺でクジラの話を聞くことがあれば、その声の向こうにある長い物語を思い出してみてください。
参考文献・出典
- Elemans et al. (2024) Evolutionary novelties underlie sound production in baleen whales, Nature 627 – ヒゲクジラの喉頭による発声
- ウィーン大学 プレスリリース:Baleen whales evolved a unique larynx to communicate – 2024年2月の発表
- Garland et al. (2011) Dynamic Horizontal Cultural Transmission of Humpback Whale Song at the Ocean Basin Scale, Current Biology – クイーンズランド大学の発表
- Magnúsdóttir & Lim (2019) PLOS ONE:アイスランドのザトウクジラの歌 – 餌場での歌と文化的伝播
- Arnon et al. (2025) Science:ザトウクジラの歌のZipf則 – ニューカレドニア8年分の録音
- DOSITS:Changes in Baleen Whale Vocalizations – シロナガスクジラの歌の周波数低下
- McDonald et al. (2009) Worldwide decline in tonal frequencies of blue whale songs – Endangered Species Research
- Suzuki, Buck & Tyack (2005) Information entropy of humpback whale song, JASA – 歌の長さと構造
- 北海道大学 辻井浩希 博士論文(小笠原のザトウクジラ) – 歌うオスの出現周期
- 沖縄美ら島財団 プレスリリース – 国内4海域のザトウクジラの照合
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア