2,400ha
過去15年間で浸食により消失した日本の砂浜面積
42%→28%
鳥取砂丘で雑草に覆われた面積の推移(1990年代→2018年)
2,850t
鳥取県のらっきょう収穫量(2020年産・全国シェア約38.5%で日本一)

白い砂浜の少し内陸、波の届かないあたりに薄紫の花をつけるハマヒルガオや、細長い葉を茂らせるコウボウムギを見たことはないだろうか。強い日差しと塩を含んだ風、絶えず動く砂という過酷な環境で、これらの海浜植物は太い地下茎を砂の中に張り巡らせ、風で飛ばされる砂を静かに留めている。

海岸砂丘は、こうした植物の働きによって初めて安定した地形として存在できる。日本は海岸線が複雑で長く、全国各地に砂浜と砂丘が分布してきたが、近年はダムや護岸によって砂の供給が減り、開発や高波の影響も重なって、砂浜そのものが年々姿を消しつつある。

一方で鳥取砂丘では、まったく逆の問題が起きている。植物が「増えすぎる」ことで裸地や動く砂が失われ、砂丘本来の景観と生態系が損なわれかねないというジレンマだ。海岸砂丘の植生は、守るべき対象であると同時に、管理のバランスが常に問われる存在でもある。この記事では、砂を留める植物たちの仕組みから、砂丘が育んできた農業や生きもの、消えゆく砂浜の実態、そして矛盾に満ちた保全の現場までを、一次情報をもとに読み解く。

この記事で学べること

  • 海岸砂丘がどのように形成され、日本の海岸線に広く分布しているか
  • コウボウムギ・ハマヒルガオなど海浜植物が砂を留める仕組み
  • 砂丘植生が海側から陸側へ帯状に変化する理由
  • 砂丘が農地としても活用されてきた歴史
  • 日本の砂浜・砂丘がどれだけ、なぜ失われているか
  • 鳥取砂丘で起きている「緑化問題」という保全のジレンマ

海岸砂丘とは何か——波と風がつくる「動く大地」

海岸砂丘とは、海から吹く風によって運ばれた砂が海岸沿いに堆積してできる丘状の地形のことだ。波が砂浜に砂を打ち上げ、乾いた砂を風がさらに内陸へ運び、何らかの障害物(漂着物や植物の芽生えなど)にぶつかって積もることで少しずつ形成されていく。海岸線に沿って帯状に細長く続くことが多く、規模の大小はあれど日本各地の砂浜背後に見られる地形だ。

砂丘ができる仕組み

砂の粒は水よりずっと軽く風に舞いやすいため、植生がない裸地では砂丘は常に形を変え続ける「動く地形」になる。逆に言えば、植物が根を張って砂を固定して初めて、砂丘は一定の形を保ち、その上に多様な生きものが暮らせる環境へと変わっていく。海岸砂丘の植生は、地形そのものを支える基盤でもある。風の当たり方や砂の供給量によって、丘の高さや幅は場所ごとに大きく異なり、同じ砂丘の中でも常に堆積と侵食を繰り返している。

日本の海岸に砂丘が多い理由

国土交通省水管理・国土保全局の資料によると、日本は島国であり国土面積に比べて海岸線が長く、砂浜・岩場・干潟など多様な地形を持つ。河川が山地から運んだ土砂が海に流れ込み、沿岸流によって運ばれて堆積することで、各地に砂浜と砂丘が形成されてきた。

規模の大きな砂丘は「日本三大砂丘」として観光地にもなっており、それぞれ成り立ちや景観の見どころが異なる。共通するのは、いずれも砂と植生のせめぎ合いによって今の姿が保たれている点だ。

名称所在地特徴
鳥取砂丘鳥取県鳥取市日本最大級の起伏を持つ砂丘。国の天然記念物
中田島砂丘静岡県浜松市遠州灘沿いに広がり、風がつくる風紋が美しい
吹上浜鹿児島県(3市にまたがる)長さ約47kmに及ぶ日本有数の規模
庄内砂丘山形県(鶴岡市・酒田市)長さ約35kmに及ぶ日本海側最大級の海岸砂丘
日本の代表的な海岸砂丘(「日本三大砂丘」は鳥取・中田島・吹上浜とされることが多い)

砂丘と「砂漠」はどう違う?

砂丘は乾燥した砂地という点で砂漠のイメージと重なりやすいが、定義上は「砂が風で運ばれ堆積してできた地形」を指すだけで、降水量とは直接関係しない。日本の海岸砂丘は年間を通じて雨が降る湿潤な気候にあり、海浜植物が繁茂しやすい環境にある点が、乾燥地帯の砂漠とは大きく異なる。

防災インフラとしての砂丘・海岸林

国土交通省水管理・国土保全局によると、東日本大震災を受けて2011年12月に「津波防災地域づくりに関する法律」が成立し、防潮堤などのハード対策と避難計画などのソフト対策を柔軟に組み合わせて被害を最小化する「多重防御」の考え方が示された。砂丘の上に広がる海岸防災林は、もともと飛砂防備・防風・防潮を目的に造成されたものだが、津波に対する減衰効果もあわせ持つとして、震災復興以降は防潮堤と一体的な盛土・植生を配置する「緑の防潮堤」の一部としても再評価されている。海岸砂丘とその植生は、単なる自然景観ではなく、多重防御という防災政策の一角を担う存在でもある。

砂を留める最前線の主役——コウボウムギとハマヒルガオ

海岸砂丘の最前線、波打ち際に近い最も過酷な場所に生育するのが、コウボウムギとハマヒルガオだ。地上に見える部分はわずかでも、地下には砂を固定する精巧な仕組みが広がっている。

コウボウムギの地下茎ネットワーク

環境省中部地方環境事務所の解説によると、コウボウムギは太い地下茎で広範囲がつながっており、さらに深く地中へと茎を伸ばして砂中の水分を吸収するための細かい根を広げている。地上部だけを見れば点々と生えているように見えても、地下では網の目のようにつながった構造体が砂の層をがっちりと押さえ込んでいる。カヤツリグサ科の植物で、太い地下茎の繊維は古くから筆(穂)の材料として使われたことが名前の由来ともいわれる。

海岸砂丘に群生するコウボウムギとハマヒルガオの近影
コウボウムギ(右)とハマヒルガオ(左)。地下茎で砂を固定する(イメージ)

ハマヒルガオのつる性戦略

ハマヒルガオも同様に、地表からは小さな葉がまばらに顔を出しているだけに見えるが、掘ってみると太い地下茎で株全体がつながっていることが分かる。地表を這うように茎を伸ばして砂の表面を覆い、風による砂の移動や埋没に対応する生態的な工夫を持つ点は、コウボウムギと共通している。初夏には淡いピンクから薄紫色の花を咲かせ、観光地の砂浜でも一際目を引く存在だ。

その他の代表的な海浜植物

  • ハマボウフウ:セリ科。厚い葉で乾燥に耐えるが、近年は海浜侵食で減少傾向にある
  • ハマゴウ:木本性で砂丘後方に生育し、紫色の花をつける
  • コマツヨイグサ:黄色い花をつける帰化植物。コウボウムギ群落と共存することが多い
  • ハマニガナ:黄色い花をつけるキク科。前砂丘の先駆種の一つ

種子も「漂着」して広がる

海浜植物の中には、種子や果実が海水に浮く性質を持ち、波に運ばれて別の砂浜に漂着することで分布を広げる種も少なくない。植物体そのものが地下茎で砂を留めるだけでなく、繁殖の段階から海という移動手段を利用している点も、内陸の植物には見られない海浜植物ならではの生態的な特徴だ。

海浜植物に共通する適応

  • 厚いクチクラ層を持つ丈夫な葉で、潮風や乾燥・塩分に耐える
  • 地下茎や深根で砂中の水分を吸収し、埋没しても再生できる
  • 地表を這うように広がり、風で舞う砂を物理的に押さえる

砂丘植生の帯状構造——海から陸へ変わる顔ぶれ

海岸砂丘の植生は、海に近い側から陸側にかけて段階的に種類が変わる「帯状構造(ゾーネーション)」を示すことが知られている。潮風・砂の移動・塩分の強さが海側ほど厳しく、内陸に向かうにつれて環境が穏やかになるためだ。

前砂丘(海側)の先駆種

波打ち際にもっとも近い前砂丘には、コウボウムギやハマヒルガオ、ハマニガナといった、砂の移動と乾燥に強い先駆種が優占する。構成する種数は少なく、多くの調査で2〜9種程度とされる。ここは砂の堆積・侵食が最も激しい場所であり、生育できる植物は限られる。

後方の安定した砂丘の植生

内陸側の、比較的安定した砂丘後方になると、ハマゴウやクロマツなど木本性の植物が加わり、種の多様性も増していく。かつて日本各地で植林された海岸林(防砂林)は、まさにこの後方の帯を人為的に強化したものだ。海岸林が果たす防災機能についてはクロマツと海岸林の役割の記事でも詳しく解説している。

主な代表種特徴
前砂丘(海側)コウボウムギ、ハマヒルガオ、ハマニガナ砂の移動が激しく、耐性の強い先駆種のみ生育
中間帯ハマボウフウ、コマツヨイグサやや安定し種数が増える
後方砂丘(陸側)ハマゴウ、クロマツなど木本最も安定し多様な植生が成立
海岸砂丘における植生の帯状構造(ゾーネーション)の例

この帯状構造は固定されたものではなく、台風による高波や大規模な飛砂で前砂丘が削られれば後退し、逆に穏やかな年が続けば前進する。砂丘の植生図は、いわば海と陸のせめぎ合いが刻まれた「地図」でもある。

生態学の教材にもなる「一次遷移」の舞台

何も生えていない裸地に生物が定着し、時間とともに植生が変化していく過程を生態学では「遷移(サクセッション)」と呼ぶ。海岸砂丘は、火山噴出物や氷河の後退地などと並んで、この一次遷移を観察できる代表的なフィールドとして教科書でもたびたび取り上げられる。裸地にコウボウムギなどの先駆種が定着し、やがて土壌が形成されて多様な植物が育つようになる過程は、荒れた土地が生態系へと育っていく仕組みそのものを教えてくれる。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

砂丘に依存するいきものたち

海浜植物が支える砂丘は、植物単体の景観にとどまらず、そこに依存して暮らす動物たちの生息地でもある。植生の根が砂を固定して地形を安定させ、その上にできる裸地・低木・草地のモザイク環境が、種ごとに異なる生きものの生息場所を用意している。

シロチドリ・コアジサシの営巣地

シロチドリとコアジサシは、いずれも環境省レッドリストで絶滅危惧II類に指定されている鳥類で、コンクリートの護岸ではなく、砂浜や砂礫地に直接卵を産む習性を持つ。植生がまばらに残る砂丘は、周囲を見渡せて外敵を発見しやすく、地面に溶け込む保護色の卵を隠せる貴重な繁殖場所になっている。

砂丘の昆虫・小動物

砂に潜って暮らすスナガニや、海浜植物の花を訪れる昆虫など、砂丘には専門的に適応した小さな生きものも数多く暮らす。日本自然保護協会(NACS-J)の海浜調査資料では、コウボウムギやハマヒルガオといった植物とともに、砂浜性のハンミョウ類、跳ねて移動するハマトビムシ、波打ち際の砂に潜るナミノコガイやフジノハナガイといった二枚貝が、代表的な海浜生物として紹介されている。植生と裸地がモザイク状に入り混じる環境こそが、これらの生物多様性を支えている。

アカウミガメの産卵地としての砂浜

砂丘に隣接する砂浜は、環境省レッドリストで絶滅危惧IB類に指定されるアカウミガメの産卵場所でもある。日本は北太平洋個体群のアカウミガメが産卵する唯一の地域とされ、屋久島の永田浜だけで日本全体の上陸数の30〜40%を占め、北太平洋最大の産卵地となっている。産卵の北限域とされる福島・茨城・千葉の太平洋岸を対象にした調査では、産卵に適した砂浜の植生被度は平均で約62%だったと報告されており、海浜植物の量や分布が産卵環境の質と結びついていることがうかがえる。同じ調査では、砂中温度が孵化率の低下する目安とされる32℃を超える地点も複数確認され、産卵海岸の砂の消失そのものが深刻な課題として指摘されている。

レジャー利用が繁殖に与える影響

夏の海水浴シーズンは、シロチドリやコアジサシ、アカウミガメの産卵期と重なる。砂浜への立ち入りや車両の乗り入れ、夜間の人工照明は、気づかないうちに卵やヒナ・仔ガメの生存を脅かすリスクがある。営巣地・産卵地にロープやサインで注意喚起する取り組みが各地で行われている。

砂丘は農地にもなる——らっきょう畑を支える砂地の恵み

海岸砂丘は「守るべき自然」であると同時に、古くから人の暮らしを支える農地としても活用されてきた。砂丘の厳しい環境に適応した植物と、そこで育てられる作物には、実は共通点がある。

鳥取砂丘のらっきょう畑

鳥取砂丘に隣接する鳥取市福部町は、砂丘らっきょうの全国屈指の産地として知られる。農林水産省の作物統計によると、鳥取県のらっきょう収穫量は2020年(令和2年)産で約2,850t、全国シェア約38.5%で全国一位だった。福部地区の砂丘らっきょうは地理的表示(GI)保護制度にも登録されている。

砂丘らっきょうを見るらっきょう|JA全農とっとり鳥取砂丘の砂地で育つ砂丘らっきょうの紹介。収穫量・全国シェアともに日本一の産地情報。🔗 zennoh.or.jp

なぜ砂丘の畑で作物が育つのか

農林水産省の資料によると、砂丘の土壌は保水力・保肥力に乏しい「砂丘未熟土」で、夏の晴天日には地表面の最高温度が60℃を超えることもある過酷な条件だ。かつては「不毛の地」とも呼ばれたが、らっきょうは生命力が旺盛で、こうした砂地でも根を張って育つ特性を持つ。海浜植物が地下茎で砂を固定する仕組みと同じように、砂地に適応した植物だからこそ成立する農業といえる。かん水施設の整備など人の手による工夫も、この農地を支えてきた。

砂丘農業のもう一つの顔

鳥取砂丘以外にも、山形県の庄内砂丘ではメロンやすいか、砂防林の陰でのねぎ栽培などが行われてきた。砂丘は「不便な土地」ではなく、水はけの良さや日照の強さを逆手にとった特産品づくりの舞台にもなっている。

砂丘農業が成り立つ背景には、海浜植物の研究とも重なる土壌改良・かん水技術の積み重ねがある。もともと保水力に乏しい砂地に、スプリンクラーなどで計画的に水を供給する体制を整えたことで、乾燥に強い作物だけでなく比較的水を必要とする野菜の栽培も可能になった。海浜植物が何百万年もかけて獲得した「砂地で生き抜く仕組み」を、人間は品種選びと灌漑技術という別のアプローチで実現してきたともいえる。

日本の砂浜・砂丘はなぜ減っているのか

海浜植物がどれほど砂を留めても、そもそも供給される砂の量自体が減れば、砂浜や砂丘は先細りになる。国土交通省東北地方整備局仙台河川国道事務所の資料によると、日本の砂浜面積は全国で約19,000haとされる一方、この15年間で約13%にあたる約2,400haが浸食により消失し、年間では約160haのペースで減少しているという。

土砂供給の減少——ダム・護岸・砂利採取

砂浜を作る砂の多くは、もともと河川が山から運んできたものだ。しかし治水のためのダムが土砂をせき止め、河口や海岸の護岸工事が砂の移動経路を分断し、かつて盛んだった海砂の採取も海底の砂を直接減らしてきた。この土砂供給の減少についてはダムと海岸侵食の関係を解説した記事海砂採掘が海岸侵食を加速させる実態の記事で詳しく取り上げている。

開発・海面上昇との複合要因

戦後の臨海開発や港湾整備、台風による高波の激化に加え、気候変動に伴う海面上昇も砂浜の後退に拍車をかける。国土交通省によると神奈川県湘南海岸の茅ヶ崎市では、約50年間で海岸線が陸側に最大50メートルも後退した地点があるという。将来予測を含めた海面上昇の影響は日本の砂浜と海面上昇についての記事で解説している。

波で削られ植生の縁が崩れている海岸砂丘の断面
侵食で植生ごと削られていく砂丘の縁(イメージ)

世界規模で進む砂浜の消失

この問題は日本に限らない。欧州委員会共同研究センター(JRC)の研究者らが『Nature Climate Change』誌に発表した研究では、世界の海岸線の30%以上を占める砂浜のうち、半分近くが2100年までに深刻な浸食にさらされる可能性があると指摘されている。同研究は35年分の衛星観測データと、気候・海面上昇の将来予測、1億件を超える暴風のシミュレーションを組み合わせたもので、実効性のある気候変動対策によって、その浸食の約40%を防げる可能性があるとも試算している。

同研究では国別の影響も試算されており、コンゴ民主共和国・ガンビア・パキスタンなどは今世紀末までに砂浜海岸線の60%以上を失う可能性があるとされた。喪失する総延長で見るとオーストラリアが最大で、脅かされる砂浜は約1万1,426km、同国の砂浜海岸線全体のおよそ半分に相当するという。アルゼンチン・カナダ・チリ・中国・メキシコ・ロシア・米国なども、大きな影響を受ける国として挙げられている。

海浜植物そのものの減少

砂丘が縮小すれば、そこに生育する海浜植物も生育場所を失う。セリ科のハマボウフウは近年減少が指摘されている種の一つで、河川護岸や砂利採取による砂の供給量減少が主な原因とみられている。砂丘の物理的な消失は、そこに暮らす動植物の生息地の消失に直結する。

砂浜・砂丘の縮小は、生態系だけの問題にとどまらない。Nature Climate Changeに掲載された研究チームも指摘するように、砂浜は波・高潮・海水の浸入から後背地を守る自然の緩衝帯であり、同時に観光業を支える基盤でもある。海水浴場としての価値が失われれば地域経済への打撃も大きく、防災・生態系・観光という複数の価値が、砂丘というひとつの薄い帯の上に積み重なっていることが見えてくる。

鳥取砂丘のパラドックス——「緑化」という保全の悩み

海浜植物は砂丘を安定させる存在だと述べてきたが、日本最大級の観光砂丘として知られる鳥取砂丘(観光地として知られる浜坂砂丘の部分だけで約545ha、うち131haが特別保護地区)では、まったく逆の問題が起きている。植物が「増えすぎる」ことが、保全上の課題になっているのだ。

そもそも砂丘自体が縮小してきた歴史

「緑化」の前に、鳥取砂丘には別の縮小の歴史もある。鳥取大学の永松大氏らが景観生態学会誌に発表した研究(2014年)によると、現在残る鳥取砂丘の面積は、約100年前の面積のおよそ12%にまで縮小しているという。周辺の市街地化や農地開発によって砂丘そのものの範囲が大きく削られてきた結果であり、残された区域の中でコウボウムギやケカモノハシを中心とした植生の基本構造は維持されているものの、砂丘という地形自体が長期的に追い詰められてきたことがうかがえる。

なぜ緑化が進んでしまうのか

鳥取砂丘未来会議の解説によると、飛砂による被害を防ぐために戦後整備された防砂林などの影響で、砂の移動そのものが以前より穏やかになった。砂が動きにくくなると、風で運ばれてきた種子が発芽・定着しやすくなり、チガヤなどイネ科植物をはじめとする繁殖力の強い植物が広がりやすくなる。1970年代ごろから侵入・繁殖が進み、1990年代には雑草やマツなどが砂丘全体の約42%にまで広がったという。

除草という逆説的な保全

この状況を受け、鳥取県と鳥取市の主導で1994年から除草事業が始まった。当初は重機も使われたが、現在は生態系を傷つけないよう原則手作業で行われている。2004年からは地元住民や企業を中心にボランティアが募集され、これまで延べ約7万5千人が参加。地道な取り組みの結果、2018年には雑草に覆われた面積が約28%まで縮小したと報告されている。

鳥取砂丘で除草ボランティアが作業する広大な砂丘の風景
植生が広がった区域(手前)と本来の裸地・砂丘景観(奥)のイメージ

コロナ禍で見えた保全の脆さ

山陰中央新報デジタルの報道によると、新型コロナウイルス流行下では企業・団体単位でのボランティア派遣が難しくなり、除草ボランティアの参加人数が半減する年もあった。人手によって成り立つ地道な作業だからこそ、担い手の確保そのものが保全の持続性を左右することが浮き彫りになった。

保全のゴールは「植物ゼロ」ではない

鳥取砂丘未来会議によれば、保全の目的は植物を根絶することではなく、裸地・風で動く砂・コウボウムギやハマニガナなど砂地に適応した植物が共存する、砂丘本来の生態系と景観を取り戻すことにある。

世界の砂丘管理に学ぶ——マラム草の教訓

「植生による砂丘安定化」と「過剰な安定化による生態系の変質」という同じジレンマは、日本だけの問題ではない。ヨーロッパ原産のマラム草(Ammophila arenaria)は、深い根系による強力な砂固定力から、世界各地の海岸で砂丘安定化のために意図的に導入されてきた植物だ。

「良い植生」が外来種問題になる境界線

IUCN(国際自然保護連合)の外来種データベースによると、ニュージーランドなどではマラム草が在来の砂丘植生を駆逐し、生息する無脊椎動物や鳥類の群集にまで影響を及ぼす外来種として扱われている。防災・防風のために「砂を留める力の強い植物」を選んで導入した結果、在来の生態系バランスが崩れてしまった典型例といえる。

善意の対策が招いた誤算——マラム草導入の歴史

マラム草がニュージーランドに持ち込まれたのは1874年ごろ、オーストラリア経由でウェリントン周辺の砂の移動を抑えるためだったとされる。19世紀のヨーロッパ人入植によって砂丘の元の植生が失われ、放牧などの影響で砂が内陸の集落や農地まで浸食する被害が深刻化したことが背景にあった。農家自ら砂丘の安定化のためにマラム草を植え、一定の成果を上げたことで各地に広がったが、結果として在来のピンガオ(pingao)やスピニフェックス(spinifex)といった固有の海浜植物を圧迫し、それらに依存する動植物の生息環境を大きく縮小させてしまった。良かれと思って導入した植物が、長期的には別の危機を生んだという教訓は、日本の砂丘管理を考えるうえでも示唆に富む。

在来種による砂丘再生への回帰

近年はニュージーランドをはじめ各地で、外来のマラム草に頼らず、その土地本来の在来海浜植物で砂丘を安定化させる手法が優先的に選ばれるようになっている。日本のコウボウムギやハマヒルガオも、こうした「在来種による砂丘管理」の観点からあらためて価値が見直されている植物だ。

オランダの砂丘保全——「水源」としての砂丘

国土の多くが海面より低いオランダでは、砂丘は防災の要であると同時に、飲料水を蓄える貴重な水源としても管理されてきた。ミツカン水の文化センターの解説によると、砂丘には雨水がろ過されながら地下水として蓄えられており、砂丘協会のような自然保護団体と水道会社がかつては対立しながらも、現在は砂丘と水を共に守るパートナーとして協働する体制が築かれているという。

「サンドモーター」という発想の転換

オランダ政府は2011年、南ホラント州沖合に北海の海底から吸い上げた約2,140万立方メートルの砂を半島状に積み上げる「サンドモーター」事業を約92億円をかけて実施した。人力で砂浜に砂を撒くのではなく、風・波・海流という自然の力で長い年月をかけて砂を沿岸へ拡散させ、海岸線を再形成させるという「自然を生かした沿岸づくり」の発想だ。オランダでは現在も基準となる海岸線と比較して後退が進んだ地点に毎年約1,200万立方メートルの砂を補充する養浜が続けられており、砂丘・砂浜の維持がインフラ整備と同列の国家的事業として扱われている。

日本の海岸砂丘では、外来の万能植物を導入する代わりに、もともとその土地に生育してきたコウボウムギやハマヒルガオを主役に据えてきた歴史がある。鳥取砂丘の緑化問題も、外来種そのものというよりチガヤなど在来・帰化を含む繁殖力の強い植物が想定以上に広がったことが要因であり、ニュージーランドの事例とは背景が異なる。それでも「特定の植物に頼った管理が、長期的に思わぬ結果を招きうる」という構造そのものは共通しており、砂丘管理を考えるうえで参照すべき事例だといえる。

国内外に共通する教訓

  • 砂丘の植生は「多ければ多いほど良い」わけではなく、種類と量のバランスが重要
  • 地域固有の在来種による安定化が、生態系保全の観点では望ましいとされる
  • 防災目的の緑化と、生態系保全目的の植生管理は、時に矛盾しうる

わたしたちにできること——砂丘を守るためのアクション

海岸砂丘の植生を守ることは、専門機関だけの仕事ではない。海水浴やビーチ散策で砂丘を訪れる一人ひとりの行動も、砂丘の未来に影響を与えている。鳥取砂丘の除草ボランティアが延べ7万5千人という規模に育ったように、地道な人の手が砂丘本来の姿を取り戻す原動力にもなってきた。

訪れるときに意識したいこと

難しいことをする必要はない。砂丘を訪れたときに、次のような小さな行動を一つずつ意識するだけでも、海浜植物や砂丘に暮らす生きものへの負荷を減らすことにつながる。

  • 海浜植物の上を歩かない・踏み荒らさない(地下茎が浅い場所では踏圧だけで枯れることがある)
  • 花や植物を持ち帰らない(種子の分散や個体群の維持を妨げないため)
  • 鳥取砂丘など各地で行われている除草・清掃ボランティアに参加する
  • シロチドリなど営巣期の注意喚起サインがある区域には立ち入らない
  • 砂丘周辺の特産品(らっきょうなど)を選ぶことで、砂丘とともにある農業を応援する
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

まとめ

  • 海岸砂丘は、コウボウムギやハマヒルガオなど海浜植物の地下茎が砂を留めることで成り立つ地形
  • 植生は海側から陸側へ帯状に変化し、シロチドリやアカウミガメなど絶滅危惧種の生息地にもなっている
  • 鳥取砂丘のらっきょう畑のように、砂丘は農業の場としても活用されてきた
  • 日本の砂浜はこの15年で約13%(約2,400ha)が浸食で消失し、世界的にも砂浜消失が懸念されている
  • 一方、鳥取砂丘では植生の広がりすぎが保全課題となる逆説的な現象も起きている
  • 国内外の事例が示すのは、砂丘保全に必要なのは「植物の量」ではなく「本来の生態系バランス」だということ
  • 防災・農業・生態系という複数の価値を同時に支える砂丘は、開発と保全のどちらか一方では守れない土地でもある

参考文献・出典

  1. 環境省 中部地方環境事務所「海辺の植物を知ろう」 – コウボウムギ・ハマヒルガオの生態解説
  2. 国土交通省 東北地方整備局仙台河川国道事務所 – 砂浜がなくなる?(海岸侵食の現状資料)
  3. 国土交通省 水管理・国土保全局「海岸」 – 海岸行政・海岸保全の全体情報
  4. 環境省「レッドリスト・レッドデータブック」 – シロチドリ・コアジサシ等の絶滅危惧種指定
  5. 鳥取砂丘未来会議「鳥取砂丘の草原化」 – 緑化問題の経緯と保全の考え方
  6. 山陰中央新報デジタル – 鳥取砂丘『緑化』に悩む 除草ボランティアの動向
  7. J-STAGE「鳥取砂丘における最近60年間の海浜植生変化と人為インパクト」 – 海浜植生変化に関する学術論文
  8. 農林水産省 中国四国農政局 – 砂丘畑(砂丘未熟土)における栽培条件の資料
  9. IUCN Global Invasive Species Database – Ammophila arenaria(マラム草)の外来種としての評価
  10. Nature Climate Change「Sandy coastlines under threat of erosion」 – 世界の砂浜消失に関する国際研究
  11. 国土交通省 四国地方整備局「河川植生解説集 コウボウムギ」 – コウボウムギの植物学的解説
  12. 国土交通省 水管理・国土保全局「津波は防げるの?:海岸」 – 多重防御・海岸防災林の位置づけ
  13. 日本自然保護協会(NACS-J) – 海浜性動植物の調査ワークシート
  14. 鳥取砂丘観光案内所(鳥取市) – 鳥取砂丘(浜坂砂丘)の面積・天然記念物指定の解説
  15. 地域の入れ物「らっきょうの生産量の都道府県ランキング(令和2年)」 – 農林水産省統計に基づく2020年産らっきょう収穫量・シェア

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