1936年3月12日
中谷宇吉郎が世界で初めて人工雪の製作に成功した日(北海道帝国大学の低温実験室)
121種類
2013年に発表された雪結晶の「グローバル分類」の小分類数(8大分類・39中分類)
5,100枚超
2016年11月24日の関東降雪で市民から寄せられた雪結晶写真(#関東雪結晶プロジェクト)

冬の朝、コートの袖に落ちた白い粒にスマホを近づけてみたことはありますか。肉眼ではただの白い点にしか見えないその粒は、画面いっぱいに拡大すると驚くほど精緻な六角形をしています。しかも、隣に落ちた粒とは少しずつ形が違う。この「形の違い」に、上空数千メートルで何が起きていたかという情報が刻まれています。

その事実を世界で初めて実験で示したのが、石川県片山津に生まれ、北海道帝国大学で雪を研究した物理学者・中谷宇吉郎(1900〜1962)です。中谷は1936年3月12日、大学の低温実験室で世界初の人工雪の製作に成功し、結晶の形が気温と水蒸気量という2つの条件で決まることを突き止めました。そして著書『雪』(岩波書店、1938年)で、こう書き記しています――「雪は天から送られた手紙であるといふことが出来る」。

この記事では、雪の結晶ができる物理から中谷宇吉郎の仕事、結晶の形と気象条件を結ぶ「中谷ダイヤグラム」の読み方、そしてスマホ1台と数百円のマクロレンズで今日から始められる撮影法までを通してたどります。撮った写真が実際の気象研究に使われている市民科学の話、さらに雪と海をつなぐ水の循環まで――「天からの手紙」を自分の手で受け取り、読んでみるための案内です。

この記事で学べること

  • 雪の結晶が六角形になる理由と、雲の中で結晶が育っていく仕組み
  • 中谷宇吉郎の歩みと、「雪は天から送られた手紙である」という言葉の本当の意味
  • 中谷ダイヤグラムの読み方――結晶の形から上空の気温と水蒸気量を推定する考え方
  • スマホと100円ショップのマクロレンズでできる、雪結晶撮影の具体的な手順とコツ
  • 撮った1枚が研究データになる市民科学プロジェクトのしくみと、参加するときの注意点
  • 雪の結晶と海のつながり――日本海からの水蒸気、雪解け水、そして温暖化による変化

雪の結晶とは何か――空から届く「手紙」の正体

雪の結晶は、雲の中で水蒸気が氷になり、そのまま成長してできた氷の単結晶です。水が凍って固まった「氷の粒」ではなく、気体(水蒸気)から直接固体(氷)へ移り変わる昇華凝結によって、分子が一枚ずつ積み上がるようにして作られます。だからこそ、あれほど規則正しい形が生まれます。

結晶は雲の中で生まれ、落ちながら育つ

冬の雲の中は、気温が0℃を下回っていても水滴が液体のまま漂っている「過冷却」の状態にあります。そこへ、大気中の微小な粒子(鉱物粒子や生物由来の粒子など)が氷の種=氷晶核として働くと、水蒸気が凍りついて小さな氷の粒が誕生します。

ここから先が面白いところです。同じ温度でも、氷に対する飽和水蒸気圧は過冷却水滴に対する値より低いため、周囲の水滴が蒸発しながら、その水蒸気が氷晶に集まっていきます。氷晶だけが一方的に大きくなる――この過程は発見者の名にちなんでベルジェロン過程(ウェゲナー・ベルジェロン・フィンダイセン過程)と呼ばれ、日本を含む中緯度の雪や雨のもとになっています。

育った結晶は毎秒数十センチから1メートル程度というゆっくりした速さで落ちてきます。上空数千メートルの雲から地上へ届くまでに数十分かかることもあり、その間ずっと、通り抜けた層の気温と水蒸気の条件を形に刻み続けます。落ちてくる途中で条件が変われば、結晶の形も途中から変わります。中心が角柱で外側が板状、といった「二階建て」の結晶が見つかるのはそのためです。

雲の中で氷晶核から雪の結晶が生まれ、落下しながら成長していく過程を示した模式図
雪の結晶は雲の中で生まれ、落ちながら通過した層の条件を形に記録していく。

なぜ六角形になるのか――氷の分子構造

六角形の理由は、水分子そのものの形と結びつきかたにあります。水分子は1個の酸素原子に2個の水素原子がおよそ105度の角度でついた「くの字」型です。この分子どうしが水素結合でつながると、酸素原子を頂点とする六角形の環が平面状に並び、その層が積み重なった構造ができます。これが日常的な氷の構造で、六方晶系であることから「氷Ih(アイスワン・エイチ)」と呼ばれます。

結晶が成長するとき、水蒸気は原子の並びが決めた方向にしか付きようがありません。六角形の平面が広がる方向(a軸方向)に伸びれば板状や樹枝状に、平面に垂直な方向(c軸方向)に伸びれば角柱状や針状になります。どちらの方向が速く伸びるかを決めているのが気温と水蒸気量で、この対応関係こそが後述する中谷ダイヤグラムです。

「六角形」は分子の形が決めている

  • 水分子の水素結合が六角形の環をつくる → 氷Ih(六方晶系)
  • 成長方向はa軸(横に広がる=板・樹枝)とc軸(縦に伸びる=角柱・針)の2通り
  • どちらが優勢になるかを決めるのが「気温」と「水蒸気の多さ(過飽和度)」
  • 6本の枝が似た形になるのは、6方向がほぼ同じ環境を同時に経験するため

「雪」と「雪の結晶」は別のもの

観察を始める前に、区別しておきたい言葉があります。私たちが「雪」と呼んでいるものの多くは、結晶が単独で落ちてきたものではなく、いくつもの結晶がくっついた雪片(ぼたん雪)や、水滴が凍りついて白く濁ったあられです。きれいな一枚の結晶が撮れるかどうかは、その日の気温と雪の質でほぼ決まります

名称正体見た目の特徴結晶観察の向き不向き
雪結晶(単結晶)1個の氷の結晶六角形・枝や板がはっきり見える◎ 最も撮りたい対象
雪片(ぼたん雪)複数の結晶が絡み合ったもの白い綿のような大きな塊△ ほぐすと結晶が見えることも
あられ(雪あられ)結晶に過冷却水滴が凍りついたもの白く不透明な丸い粒× 元の形が埋もれている
ひょう積乱雲の中で成長した氷の塊5mm以上の硬い氷粒× 別の現象
みぞれ雪が融けかけた状態水を含んだべたつく雪× すぐ融けて撮れない
空から降る氷たちの違い。狙うのは左端の「単結晶」。

気温が0℃前後だと結晶どうしがくっついて雪片になりやすく、地面に着いた瞬間から融け始めます。気温がマイナス2℃以下でさらさらした乾いた雪が降っている日が、いちばんの撮影日和です。

中谷宇吉郎と「天から送られた手紙」

雪の結晶を「美しいもの」から「読み解けるもの」へと変えたのが、物理学者・中谷宇吉郎です。その転換は、日本の雪国で行われた地道な観測と、世界初の人工雪という実験によって成し遂げられました。

加賀に生まれ、北の大学で雪を研究した

中谷宇吉郎は1900年7月4日、石川県江沼郡片山津町(現在の加賀市)に生まれました。東京帝国大学理学部物理学科で寺田寅彦に学び、1925年に卒業。理化学研究所を経てイギリスのキングス・カレッジ・ロンドンに留学し、1930年に北海道帝国大学理学部助教授、1932年には教授となります。

「雪の研究を始めたのは、北海道に来て、あまりに雪が多かったからだ」といった趣旨のことを中谷自身が書いています。研究テーマとして雪を選んだのは偶然に近い出会いでしたが、そこから彼は3,000枚を超える自然雪の顕微鏡写真を撮りためて分類し、日本の雪に共通する規則性を探し出していきました。

できごと
1900年石川県江沼郡片山津町(現・加賀市)に生まれる
1925年東京帝国大学理学部物理学科を卒業。寺田寅彦に師事
1928年英国キングス・カレッジ・ロンドンへ留学
1930年北海道帝国大学理学部助教授に着任、雪の研究を開始
1932年同大学教授に就任
1936年3月12日低温実験室で世界初の人工雪の製作に成功
1938年著書『雪』を岩波書店から刊行
1943年北海道帝国大学に低温科学研究所が開所、主任研究員となる
1962年東京にて逝去(61歳)
中谷宇吉郎の歩み。雪の研究は着任から6年で世界初の成果に結実した。

1936年3月12日、世界で初めて雪をつくる

自然の雪をいくら観察しても、「この形はこの条件でできる」と証明することはできません。空の条件を測ることができないからです。そこで中谷が選んだのが、実験室の中に雲をつくり、条件を自分で決めて結晶を育てるという方法でした。

低温実験室に置いた装置の中で水蒸気を供給し、細い繊維を垂らして結晶の足場にします。核として使われたのがウサギの毛でした。毛の表面にある微細な突起が氷晶核として働き、そこに結晶が育っていきます。試行錯誤の末、1936年3月12日、装置の中に人工の雪の結晶が生まれました。世界で初めて、人の手で雪がつくられた瞬間です。

人工雪の意義は「雪をつくれた」ことそのものではありません。温度と水蒸気量を1つずつ変えながら、どの条件でどの形ができるかを網羅的に確かめられるようになったことです。この実験の積み重ねが、次章の中谷ダイヤグラムを生みました。1941年には人工雪研究を基礎として低温科学研究所の設置が決まり、1943年に開所しています。

『雪』に記された一文

1938年に岩波書店から刊行された『雪』の中で、中谷は自らの研究が意味することを、次のような表現で言い表しました。

雪は天から送られた手紙であるといふことが出来る

― 中谷宇吉郎『雪』岩波書店、1938年

この一文はしばしば詩的な比喩として引用されますが、中谷の意図はもっと具体的です。結晶の形は上空の気温と水蒸気量が書き込んだ「文字」であり、その文字を読めば、直接は測れない空の状態がわかる――手紙という比喩は、そういう実務的な宣言でした。ラジオゾンデも気象レーダーも十分に普及していない時代に、空を知るための新しい手段が示されたのです。

そして重要なのは、この「読み方」を知っていれば、誰でも空の便りを受け取れるということです。特別な装置は要りません。手のひらに落ちた結晶が、今この瞬間の上空の様子を語ってくれます。

中谷ダイヤグラム――結晶の形から上空を読む

中谷が人工雪の実験からまとめ上げたのが、横軸に気温、縦軸に水蒸気の過飽和度(空気がどれだけ水蒸気を余分に含んでいるか)をとり、そこにどんな形の結晶ができるかを描き込んだ図です。これが中谷ダイヤグラムと呼ばれ、雪結晶研究の出発点となりました。

2つの軸で形が決まる

ダイヤグラムが示すのは、驚くほどシンプルな原理です。気温が「板状になるか柱状になるか」を決め、水蒸気の多さが「どこまで複雑に育つか」を決める。同じ気温でも、水蒸気が少なければ縁のはっきりした角板、豊富なら枝が何段にも分かれた樹枝状になります。

たとえば、教科書でおなじみの美しい六花(樹枝状結晶)ができるのは、おおむねマイナス15℃前後で水蒸気が十分にある条件です。同じマイナス15℃付近でも水蒸気が少なければ、枝の伸びない角板になります。マイナス6℃前後で水蒸気が多いときには、細長い針状の結晶が現れます。

おおよその気温帯水蒸気が少ないとき水蒸気が多いとき
0〜−4℃前後小さな六角板うすい板状・扇形
−4〜−10℃前後角柱(鉛筆のような形)針状・鞘状
−10〜−22℃前後角板・扇状板樹枝状・星状六花(−15℃付近が最盛)
−22℃より低い角柱・砲弾状砲弾集合・立体的な結晶
中谷ダイヤグラムのおおまかな読み方。境界はなだらかで、実際には中間的な形も多い。
横軸に気温、縦軸に水蒸気の過飽和度をとり、結晶の形の分布を描いた中谷ダイヤグラムの模式図
気温と水蒸気量という2つの軸だけで、雪結晶の多様な形が説明できる。

「手紙を読む」とは具体的にどういうことか

地上で樹枝状の結晶を大量に見つけたとしましょう。ダイヤグラムを逆にたどれば、上空にマイナス15℃前後で水蒸気に富んだ層があったと推定できます。針状の結晶が混じっていれば、マイナス6℃付近にも湿った層があったと考えられます。あられが多ければ、過冷却水滴が大量に存在する厚い雲があったことになります。

これは単なる知的遊びではありません。実際の気象研究では、数値予報モデルが計算した上空の気温・水蒸気の分布が正しかったかを、地上で観測された結晶の形と突き合わせて検証します。結晶は、モデルの答え合わせに使える「実物の記録」なのです。とくに関東の南岸低気圧による雪は、雨になるか雪になるか、積もるか積もらないかの予測が難しく、結晶の情報が役立ちます。

結晶の形から読み取れること

  • 樹枝状・星状六花が多い → 上空マイナス15℃前後に水蒸気の豊富な層があった
  • 針状・鞘状が混じる → マイナス6℃前後にも湿った層があった
  • 角柱・砲弾状が中心 → かなり低温(マイナス22℃以下)の層で育った
  • 結晶に白い粒がびっしり付いている → 過冷却水滴の多い雲を通過した(雲粒付き)
  • 結晶どうしがくっついた雪片が多い → 0℃に近い層で結晶が絡み合った

その後の研究が広げた地図

中谷ダイヤグラムは完成された最終形ではなく、その後も検証と拡張が続いています。日本気象学会の機関誌『天気』では、拡散式の人工雪作成法とダイヤグラムの関係について検討した議論が発表されるなど、実験手法の違いによって得られる図がどう変わるかも論じられてきました。80年以上前の図が今なお議論の土台であり続けていること自体が、この仕事の射程の広さを示しています。

雪結晶の分類――ベントレーからグローバル分類まで

「同じ形の結晶は二つとない」とよく言われます。厳密には枝の細部まで一致する結晶はまず存在しませんが、大づかみな形にははっきりした型があります。その型を整理する試みは、写真術の発達とともに始まりました。

ウィルソン・ベントレーの5,381枚

雪の結晶を初めて写真に収めたのは、アメリカ・バーモント州ジェリコの農夫、ウィルソン・A・ベントレー(1865〜1931)です。15歳のとき母親の顕微鏡で雪の結晶を見て魅了され、顕微鏡にベローズカメラを組み合わせた自作の装置で、1885年1月15日に世界で初めて単一の雪結晶の顕微鏡写真を撮影しました。

以後、農作業のかたわら生涯にわたって撮影を続け、その数は5,381枚に達します。1931年秋、2,453枚を収めた写真集『Snow Crystals』が刊行され、その直後にベントレーは肺炎で亡くなりました。雪の結晶の多様性を、初めて誰の目にも見える形にしたのが彼の仕事でした。中谷が研究を始めたとき、参照できた最大の写真資料もこのベントレーのコレクションでした。

雪の結晶はなぜ六角形なのかの要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

分類は7種類から121種類へ

中谷は自然雪の観測にもとづき、日本で見られる結晶を系統立てて分類しました。その後1966年には孫野長治とC. W. Leeが、より細かい80種類の分類(Magono-Lee分類)を発表し、長く国際的な標準として使われます。

そして2013年、菊地勝弘・亀田貴雄・樋口敬二・山下晃らの研究グループが、中緯度から極域までの観測をふまえた新しい分類体系を国際誌に発表しました。これがグローバル分類で、8つの大分類・39の中分類・121の小分類から成ります。121種類のうち10種類は直径0.2mm以下の氷晶、6種類は凍雨・みぞれ・ひょうなどの固形降水で、雪結晶に限れば105種類です。

分類体系発表年分類数特徴
ベントレーの写真集1931年(分類でなく写真集)2,453枚の顕微鏡写真を公開
中谷の一般分類1930年代大分類7種を含む体系自然雪の観測にもとづく日本初の系統分類
Magono-Lee分類1966年80種類長く国際標準として使われた
グローバル分類2013年121種類(8大分類・39中分類)極域も含めた観測に対応。雪結晶は105種類
分類は観測の広がりとともに精緻化してきた。

まず覚えたい代表的な形

121種類を暗記する必要はまったくありません。最初は次の6つの型を見分けられれば十分で、撮った写真の大半はこのどれかに当てはまります。

  • 星状六花(樹枝状):6本の枝が何段にも分かれる、いちばん人気の形。−15℃前後で水蒸気が豊富なとき
  • 角板:枝のない、のっぺりした六角形の板。水蒸気が少ない条件でできる
  • 扇状六花:6方向に扇形の板が広がる、樹枝と角板の中間的な形
  • 角柱・砲弾:鉛筆や弾丸のような細長い柱。低温の層で育つ
  • 針状:細い針の集まり。−6℃前後で水蒸気が多いとき
  • 雲粒付き結晶:表面に白い小さな粒がびっしり付いたもの。過冷却水滴の多い雲を通ってきた証拠

「雲粒付き」を見逃さない

初心者はつい形の美しさに目が行きますが、研究上とくに価値が高いのは雲粒(うんりゅう)が付いているかどうかです。付着した白い粒は、その結晶が過冷却水滴の多い雲を通過してきた証拠で、雲の中の状態を推定する重要な手がかりになります。ピントを結晶の表面に合わせて撮っておくと、後から判定できます。

スマホで雪の結晶を撮る――用意するものと準備

ここからが実践編です。雪の結晶の撮影というと顕微鏡が必要に思えますが、現在のスマートフォンのカメラは、数百円のマクロレンズを足すだけで十分に結晶の細部を捉えられます。気象研究所の雲研究者・荒木健太郎氏も、100円ショップのスマホ用マクロレンズで美しい結晶写真が撮れると繰り返し発信しています。

用意するものは3つだけ

アイテム選び方・ポイント代替案
スマートフォン機種は問わない。マクロ撮影モードがあれば有利マクロ撮影できるデジカメでも可
クリップ式マクロレンズ100円ショップや家電量販店で入手可。10〜20倍程度で十分レンズなしでも最大ズーム+接写で撮れる
濃い色の布黒・濃紺のフェルトや起毛素材。結晶が沈み込まず映える黒い手袋、濃色のニット帽、黒い下敷き
(あれば)ミリ定規大きさの記録用。結晶の隣に一緒に写す10円玉など大きさの分かるもの
(あれば)小さな筆結晶を傷つけずに動かす。化粧用の細い筆が便利つまようじの先
総額数百円から始められる。特別な機材は必要ない。

最大のコツは、布とスマホをあらかじめ屋外に出して冷やしておくことです。暖かい室内から持ち出した布に結晶を受けると、着地した瞬間に融けて丸い水滴になってしまいます。撮影の15〜30分前には外に出しておきましょう。スマホも冷やしすぎるとバッテリーが急速に減るので、ポケットで軽く保温しつつ、撮る直前に取り出すくらいのバランスが現実的です。

撮影に向く日、向かない日

どんなに準備しても、雪の質が合わなければきれいな結晶は撮れません。狙い目の条件をまとめます。

  • 気温がマイナス2℃以下:0℃前後だと着地した瞬間に融け、結晶どうしもくっつきやすい
  • さらさらした乾いた雪:手のひらに載せても水っぽくならない雪
  • 風が弱い:強風だと結晶が布の上で転がって壊れる
  • 降り始め〜降っている最中:積もった雪はすでに変質しており、元の形が失われている
  • 雪が本降りになる少し前:小さな結晶が単独で落ちてくる時間帯は狙い目

逆に、気温が高くべたつく雪の日、強風の日、そして積もった雪をすくって撮ろうとするのは失敗しやすいパターンです。積雪は時間とともに結晶が丸まり結合していく(変態する)ため、降ってきたばかりのものを受け止めるのが鉄則です。

雪が降りそうな日の準備チェックリスト

  • 前日にマクロレンズと濃色の布を玄関先に用意しておく
  • 降り始めたら布を屋外に出し、15分以上かけて外気になじませる
  • スマホのカメラ設定でグリッド表示をオンにし、連写のしかたを確認しておく
  • 手袋は指先が使えるタイプか、スマホ対応のものを選ぶ
  • 気温を確認できるもの(アプリでも可)を用意し、撮影時刻と一緒に記録する
  • バッテリーは満充電に。低温では残量表示より早く減る

撮影の手順とコツ――ピント・連写・スケール

準備ができたら、あとは実践あるのみです。結晶が形を保っていられる時間は短く、条件によっては数十秒で角が丸くなり始めます。迷わず一気に撮るのが成功の鍵です。

7ステップの撮影手順

  1. 冷やしておいた濃色の布を、風の当たりにくい平らな場所(ベンチ、車のボンネット、傘の上など)に広げる
  2. 降ってくる雪を数十秒受け止める。粒がまばらに散っている状態がベスト
  3. 肉眼またはスマホ画面で、単独で落ちていて形の整った結晶を1つ選ぶ
  4. スマホにマクロレンズを付け、カメラを最大ズームにする
  5. 手首を布や地面に付けて固定し、結晶に数センチまで近づける(レンズなしなら約10cm)
  6. 体をゆっくり上下させてピントを合わせる。指でピントを追うより、距離を変えるほうが確実
  7. ピントが合った瞬間に連写する。1枚狙いではなく、数十枚撮って後から選ぶ

とくに5と6が重要です。手持ちで宙に浮かせたままでは必ずぶれます。手首や肘を接地させて三脚代わりにし、ピント合わせはスマホを前後に動かして行う――この2点を守るだけで、成功率は劇的に上がります。

手首を地面につけて固定し、マクロレンズ付きのスマホを雪の結晶に数センチまで近づけて撮影する手元
手首を接地させて固定し、体を前後させてピントを合わせるのがコツ。

失敗しやすい3つのポイント

よくある失敗と対処法

  • ピントが合わない:ズームしすぎ、または近づきすぎ。レンズありなら2〜3cm、レンズなしなら10cm前後が目安。少しずつ距離を変えて探す
  • 結晶が融ける・丸くなる:布やスマホの熱、息が原因。布を十分に冷やし、結晶の真上で息を吐かない。マスクをずらして下を向いて呼吸する
  • 暗い・青くにじむ:結晶は半透明で背景に光を吸われやすい。逆光を避け、明るい方向に体を向ける。露出を少し下げると輪郭が締まる

もうひとつ、意外に多いのが結晶を触って壊してしまう失敗です。位置を変えたいときは指ではなく細い筆の先でそっと動かします。指で触れば体温で瞬時に融けます。

「記録」としての写真にするために

きれいに撮れた写真は、それだけで嬉しいものです。ただ、少し情報を添えるだけで科学的に価値のあるデータに変わります。必要なのは次の4つです。

記録する項目なぜ必要か簡単なやり方
日時(分単位)上空の状態は数十分で変わるため写真の撮影日時が自動で残る
場所どの地点の上空の情報かを特定するため市区町村レベルで十分。詳細な自宅位置は控える
大きさ結晶の型を判定する手がかりになるミリ定規や硬貨を隣に置いて一緒に撮る
気温・天気地上の条件と照らし合わせるため気温をメモ、または同時刻の空の写真も撮る
この4つを添えるだけで、写真は「観測記録」になる。

なお、位置情報は写真に自動で埋め込まれる場合があります。SNSに投稿する際は、自宅の詳細な位置が特定されないよう設定を確認してください。市区町村までの情報があれば、研究上はほぼ十分です。

撮った1枚が研究になる――#関東雪結晶プロジェクト

自分で撮った雪結晶の写真が、そのまま気象研究のデータになる――そんな仕組みが日本には実際にあります。気象庁気象研究所の荒木健太郎氏が2016年度に立ち上げた「#関東雪結晶」プロジェクトです。

スマホとSNSが生んだ超高密度観測

関東平野の雪は、南岸低気圧がもたらすことが多く、予測が非常に難しいことで知られています。雨か雪かの境目が微妙で、上空わずか数百メートルの気温差が積雪の有無を分けます。しかし上空の状態を細かく測る手段は限られており、ラジオゾンデの観測地点は日本全国でも十数か所しかありません。

そこで着目されたのが、「地上に降ってきた結晶の形」を大量に集めれば、上空の状態を面的に推定できるという中谷以来の発想でした。高性能カメラを備えたスマートフォンとSNSが普及した現在なら、特別な機材なしに、多くの人が同時に、それぞれの場所で観測できます。参加者はスマホで結晶を撮り、ハッシュタグ「#関東雪結晶」を付けて投稿するだけです。

2016年11月24日、5,100枚が集まった日

プロジェクトが最初に大きな成果を挙げたのが、2016年11月24日の関東降雪事例です。この日、市民から5,100枚を超える雪結晶画像が寄せられ、世界で初めての市民参加による超高密度・広域の雪結晶観測が実現しました。11月の東京都心での積雪は観測史上まれな出来事で、その珍しい現象が多数の目によって同時多発的に記録されたことになります。

その後も降雪のたびにデータは蓄積され、累計では10万枚を超える規模になっています。集まった画像は結晶の型ごとに分類され、数値予報モデルが再現した上空の気温・水蒸気の分布と突き合わせて検証されます。一人ひとりの1枚が、日本の降雪予測の精度を上げる材料になっているわけです。この取り組みは2016年度の日本雪氷学会奨励賞にもつながりました。

参加してみる(公式)気象研究所「#関東雪結晶 プロジェクト」公式ページ参加方法、スマホでの観測手順の解説資料(PDF)、これまでの成果がまとめられている公式ページ。雪が降りそうな日はここを確認してから外へ。🔗 mri-jma.go.jp

参加するときに気をつけたいこと

参加のハードルは低いのですが、データとして活きるかどうかは記録の丁寧さで決まります。前章で挙げた「日時・場所・大きさ・気温」を添えること、そしてきれいに撮れなかった写真も捨てないことが大切です。あられや雪片ばかりだった、という情報にも意味があります。

一方で、安全とプライバシーには注意が必要です。雪の日の路上や車道での撮影は危険を伴います。足元と周囲を確認できる安全な場所を選び、位置情報の公開範囲も設定を見直してから投稿しましょう。

こうした「専門家でない人が観測や分類に参加し、科学に貢献する」取り組みは市民科学(シチズンサイエンス)と呼ばれ、生きもの調査や星空観測など幅広い分野に広がっています。海LABでは市民科学とは?だれでも参加できる生きもの調査と、集まったデータの使われ方で日本の事例をまとめているので、あわせて読むと全体像がつかめます。

市民科学としての雪結晶観測が優れている理由

  • 観測地点の密度が、公的な観測網では実現できないレベルになる
  • 結晶は「上空の状態」を運んでくるので、地上の写真から高層の情報が得られる
  • スマホ1台で参加でき、専門的な訓練がほとんど要らない
  • 降雪という短時間の現象を、多数の目で同時にカバーできる
  • 参加者自身が空を見上げるようになり、防災意識にもつながる

雪と海はつながっている――結晶の先にある水の循環

手のひらの上の小さな結晶は、じつは壮大な水の旅の一場面です。その水はもともと海にあり、やがてまた海へ帰っていきます。雪の結晶を入り口にすると、日本という国の水の仕組みが見えてきます。

日本海が「雪の工場」になる仕組み

日本海側の大雪をつくっているのは、冷たいシベリアの寒気と、比較的暖かい日本海の海面です。寒気が暖かい海の上を吹き渡ると、海面から大量の熱と水蒸気が大気へ供給されます。この現象は気団変質と呼ばれ、乾いた寒気を湿った雪雲へと作り替えます。つまり、新潟や金沢に降る雪の水は、直前まで日本海の海水だったのです。

とくに大雪を引き起こすのが、日本海に伸びる線状の降雪帯「JPCZ(日本海寒帯気団収束帯)」です。2022年2月、新潟大学・三重大学・水産大学校などの研究チームが日本海の洋上観測でJPCZの内部構造を初めて捉えました。観測時の海面水温は14℃、気温は3℃で温度差は11℃、風速は毎秒17メートル。広い海面から蒸発した水蒸気が気流の収束によってJPCZに集中し、1日あたり降雪量2メートルに相当する量が運ばれていたことが示されています。

海面水温が高いほど供給される水蒸気は増えます。近年、日本海の海面水温は長期的な上昇傾向にあり、「気温が上がっても、降るときの雪はむしろ増える」という一見矛盾した現象が起こりうる背景がここにあります。海の高水温が続く現象については、海洋熱波(マリンヒートウェーブ)とは何かでくわしく扱っています。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

雪は「貯まる水」――そして海へ帰る

雨と雪の決定的な違いは、雪はその場に留まり、時間差で流れ出すことです。冬に降り積もった雪は山に蓄えられ、春から初夏にかけてゆっくり融けて川へ供給されます。稲作の代かき期に安定した水が得られるのも、夏に川が干上がらないのも、この天然の貯水機能によるところが大きいのです。

そして雪解け水は、山の土壌から窒素・リン・鉄などの栄養分を溶かし込みながら川を下り、河口から沿岸へ流れ込みます。この栄養が植物プランクトンを育て、豊かな漁場を支えます。山に降った雪の一粒は、めぐりめぐって海の生きものを養っている――「森は海の恋人」という言葉が指しているのも、この連鎖です。

段階起きていること海とのつながり
海面からの蒸発海水が水蒸気となって大気へ雪の水の出発点は海
雲の中で結晶化氷晶核をもとに雪結晶が成長結晶の形に上空の条件が記録される
積雪として貯留山地に数か月間ためこまれる季節をまたぐ天然のダムになる
融雪・河川流出春から初夏に融けて川へ栄養分を溶かしながら下る
沿岸へ供給河口から海へ栄養塩が届く植物プランクトンと漁場を支える
雪の一生。海に始まり、海に還る。

温暖化で「雪」はどう変わるか

気温が上がると、まず変わるのは降水の形です。同じ量の水が降っても、雪ではなく雨になる日が増えれば、山に貯まる水は減り、春の融雪流量のピークは早まって小さくなります。夏の渇水リスクや、農業用水・発電用水への影響が懸念されます。

同時に、海水温の上昇によって大気に含まれる水蒸気の量が増えるため、寒気が入ったときの短時間の降雪量はかえって激しくなる可能性が指摘されています。「雪の日は減るのに、降るときはドカ雪」という変化です。年ごとの雪の多い少ないにはエルニーニョ・ラニーニャ現象も大きく関わっており、その仕組みはエルニーニョ・ラニーニャが漁業と天候を変える仕組みで解説しています。

そして、こうした変化を検証するために必要なのが、まさに実際にどんな雪が降ったかの記録です。市民が撮りためた結晶の写真は、モデルの答え合わせに使える貴重な観測資料になります。趣味の1枚が、気候研究の土台に加わっていくのです。

もっと楽しむために――訪ねる場所と、次の一歩

雪の日を待たなくても、雪と氷の世界に触れる方法はあります。最後に、観察をもう一歩深めるための場所と方法を紹介します。

中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県加賀市)

中谷宇吉郎の生地・片山津(現在の加賀市)には、その業績を顕彰する「中谷宇吉郎 雪の科学館」があります。1994年11月に開館し、建築は磯崎新が手がけました。柴山潟に面した六角形をモチーフとした建物そのものが、雪の結晶へのオマージュになっています。

館内では、中谷の研究資料や自然雪の顕微鏡写真に加えて、ダイヤモンドダストの発生実験や氷のペンダントづくりなど、体験型の展示が用意されています。物理学者としてだけでなく、随筆家・記録映画製作者・画家としても知られた中谷の多面的な仕事に触れられるのも、この館の魅力です。雪の降らない季節に訪れても、雪の科学を体感できます。

この施設を見る中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県加賀市)1994年開館・磯崎新設計。ダイヤモンドダスト実験や氷のペンダントづくりなど、雪と氷を体感できる展示がそろう。開館時間・休館日は公式サイトで確認を。🔗 yukinokagakukan.kagashi-ss.com

雪が降らない日にできること

  • 霜の結晶を撮る:晴れた冬の朝、枯れ草や車の窓に付く霜も六角形の氷の結晶。雪より長持ちするので練習に最適
  • 窓霜(フロストフラワー)を探す:寒冷地では窓ガラスに羽根状の氷の模様ができる。マクロ撮影の題材になる
  • 冷凍庫の霜を観察する:庫内の霜も昇華凝結でできた氷の結晶。同じ物理が家の中で起きている
  • 過去の写真を分類してみる:撮りためた結晶を型ごとに並べ替えると、天気との対応が見えてくる
  • 『雪』を読む:中谷の著書は青空文庫でも読める。実験の苦労と喜びが平易な文章で綴られている

とくにおすすめしたいのが霜の撮影です。雪と違って融けるまでの時間に余裕があり、マクロ撮影のピント合わせを落ち着いて練習できます。ここで慣れておけば、雪が降った日に慌てずに済みます。

記録を続けるための小さな工夫

観察を長く続けるコツは、記録の負担を減らすことです。撮影のたびにアルバムを作り、日付・場所・気温をひとことメモするだけで十分。数シーズン分たまると、「この地域では南岸低気圧のときは扇状六花が多い」といった自分だけの傾向が見えてきます。

そこまで来れば、あなたはもう天からの手紙の読み手です。中谷が実験室で確かめた対応関係を、自分の土地の空に当てはめて確かめている――それは規模こそ違え、80年以上前に彼が始めた仕事の続きにほかなりません。

この記事のまとめ

  • 雪の結晶が六角形なのは、水分子の水素結合が六角形の環をつくる氷Ihの構造に由来する
  • 中谷宇吉郎は1936年3月12日に世界初の人工雪に成功し、形が気温と水蒸気量で決まることを示した
  • 『雪』(1938年)の「雪は天から送られた手紙であるといふことが出来る」は、結晶から上空の状態を読めるという実務的な宣言だった
  • 中谷ダイヤグラムを使えば、樹枝状ならマイナス15℃前後で湿潤、針状ならマイナス6℃前後で湿潤、といった推定ができる
  • スマホ+100均マクロレンズ+冷やした濃色の布があれば、誰でも結晶を撮影できる。手首を固定し、距離を変えてピントを合わせ、連写する
  • 撮った写真は「#関東雪結晶」プロジェクトなどを通じて実際の気象研究データになる
  • 雪の水は海から来て海へ帰る。結晶を見ることは、日本の水循環と海のつながりを見ることでもある

参考文献・出典

  1. 気象庁 気象研究所 – 「#関東雪結晶 プロジェクト」――市民参加による雪結晶観測の公式ページ(参加方法・観測手順の解説資料つき)
  2. 中谷宇吉郎 雪の科学館(石川県加賀市) – 中谷宇吉郎の業績を顕彰する公式サイト。経歴・研究・展示内容
  3. 青空文庫 – 中谷宇吉郎『雪』本文(「雪は天から送られた手紙であるといふことが出来る」の出典)
  4. 公益社団法人 日本雪氷学会 – 「雪の結晶」――角板・樹枝・星状六花などの顕微鏡写真と解説
  5. 日本気象学会『天気』 – 対馬勝年「中谷ダイヤグラムと拡散式人工雪作成法の問題」(2004年10月号、気象談話室)
  6. 日本気象学会『天気』 – 菊地勝弘ほか「新しい雪結晶の分類(グローバル分類)」(2012年4月号)
  7. 名古屋大学 宇宙地球環境研究所 – 「気象50のなぜ+10」19.「雪は天からの手紙」ってどんな意味?
  8. 新潟大学 – 「豪雪をもたらす線状の降雪帯、JPCZの構造とメカニズムを日本海洋上観測により明らかにした」(2022年)
  9. 水産研究・教育機構 – 「豪雪をもたらすJPCZを日本海洋上観測で初めて捉えた」(2022年、水産大学校)
  10. 富山県 – 「雪の結晶」――中谷ダイヤグラムと結晶の形の対応をまとめた解説ページ

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