⚡ 本文要点

2023年6月、アメリカザリガニは「条件付特定外来生物」という新しい区分に指定された。一律禁止にすると大量遺棄を招くという逆説から生まれた制度だ。1927年にわずか27匹が持ち込まれてから全国約65万世帯・540万匹が飼われる今まで、規制の中身と正しい向き合い方を整理する。

約65万世帯
アメリカザリガニを飼育する世帯数(環境省推計・2020年1月時点)
1927年
ウシガエルの餌として神奈川県に持ち込まれた年
300万円以下
個人が野外に放った場合の罰金上限(懲役3年以下)

子どもの頃、田んぼわきの用水路でスルメを糸に結んでザリガニを釣った――そんな記憶を持つ人は多いだろう。誰もが知っているアメリカザリガニは、実は2023年6月1日から法律上の扱いが変わった生きものだ。

環境省はこの日、アメリカザリガニとアカミミガメ(ミドリガメ)を「条件付特定外来生物」という、それまでになかった新しい区分に指定した。特定外来生物といえば輸入も飼育も原則禁止という強い規制を思い浮かべるが、条件付はそれとは違う。家庭で飼っている個体はこれまで通り飼い続けてよく、禁止されるのは主に「野外に放つこと」「販売・頒布・購入」「輸入」だ。

なぜこれほど中途半端に見える制度がわざわざ作られたのか。その答えには、1927年にわずか27匹が持ち込まれてから全国約65万世帯・540万匹が飼われるまでの100年近い歴史と、「規制すればするほど被害が広がりかねない」という外来種対策特有のジレンマが隠れている。本記事では、指定の経緯、生態系や農業への被害の実態、規制の具体的な中身、そして今飼っている人・これから出会う人がどう向き合えばよいかを、環境省などの一次情報をもとに整理する。

この記事で学べること

  • 「特定外来生物」ではなくあえて「条件付」にした環境省の狙い
  • 1927年のわずか27匹が全国に広がった拡散の経路
  • 水草・水生昆虫・魚類・水田にまで及ぶ具体的な被害の実態
  • 条件付特定外来生物で禁止されること・引き続きできること
  • 違反した場合の罰則と、今飼っている人が取るべき対応
  • 学校での生き物観察・ザリガニ釣り文化との両立の考え方

アメリカザリガニとは何者か:北米生まれの甲殻類が日本に来た経緯

アメリカザリガニ(学名 Procambarus clarkii)は、もともと米国南部からメキシコ北部にかけての湿地帯を原産地とする淡水性のザリガニだ。成体は全長10cm前後、赤みの強い体色で知られ、雑食性が強く、水草からミミズ、他の水生生物の死骸まで何でも食べる。乾燥にも比較的強く、水が涸れた田んぼでは泥に穴を掘って潜り、雨季を待つしぶとさも持つ。この「何でも食べる」「乾燥に耐える」という性質が、後に日本各地で驚異的な広がりを見せる土台になった。

ウシガエルのエサとして海を渡った27匹

日本への移入は1927年(昭和2年)にさかのぼる。当時、食用ガエルとして養殖が試みられていたウシガエルの餌にする目的で、米国ニューオーリンズから神奈川県大船町(現在の鎌倉市大船)へアメリカザリガニが送られた。送り出されたのは100匹だったとされるが、長い船旅の間に大半が死んでしまい、実際に日本の地を踏んだのはわずか27匹(20匹という説もある)だったと記録されている。

木箱に入ったアメリカザリガニが日本に運ばれてくる様子を描いた歴史的なイラスト
ウシガエルの餌として海を渡った27匹が、後に全国へ広がる起点になった

養殖場の閉鎖後、水路や水田へ広がった

その後、ウシガエルの養殖事業自体が下火になって養殖池は閉鎖されたが、周辺に逃げ出していたアメリカザリガニは姿を消さなかった。むしろ大船町周辺の河川や、水田とそれにつながる灌漑用水路を新たな住みかとして、静かに数を増やしていった。天敵が少なく、餌となる水草や小動物が豊富な日本の水田環境は、アメリカザリガニにとって好都合な場所だったのだ。

日本在来のニホンザリガニとは、まったく別の生きもの

北海道と東北の一部にだけ生息するニホンザリガニは、アメリカザリガニとは属からして異なる日本固有の在来種で、冷たくきれいな水を好む希少な存在だ。同じ「ザリガニ」という名前を持ちながら、アメリカザリガニは北米原産の外来種、ニホンザリガニは氷期の生き残りとされる日本固有種という、まったく異なる生い立ちを持つ。両者が同じ水域で直接出会う機会は多くないものの、後述するように病気の媒介という形で間接的な脅威になり得る。

観賞用に品種改良された個体も流通

近年ではペットとしての人気の高まりを受け、赤色以外にも青色や白色など、選抜育種によって作られた色変わりの品種が「ダイゴースト」などの名称で市場に流通している。祭りの屋台のザリガニ釣りや観賞魚店で見かける多彩な色合いのザリガニも、多くはこのアメリカザリガニの品種改良個体だ。身近なペットとしての人気の高さが、飼育者数の多さと、それに伴う規制設計の難しさに直結している。

わずか27匹から始まった大増殖の理由

生き残った個体数がごくわずかだったにもかかわらず全国に広まった背景には、繁殖力の高さがある。メス1匹が一度に数百個の卵を抱え、年に複数回産卵できる個体もいる。加えて、ペットショップや祭りの露店でのザリガニ釣り、学校教材としての流通など、人の手を介して各地に運ばれる経路も増えていった。生態的な強さと、人間社会との距離の近さの両方が、この生きものの拡散を後押ししたといえる。

また、ザリガニの仲間は硬い外骨格を持つため、成長するには定期的な脱皮を繰り返す必要がある。はさみや脚を失っても脱皮を重ねる中で徐々に再生していく高い再生能力を持ち、危険を感じると自ら脚を切り離す自切という行動も見られる。こうした環境適応力の高さとタフさも、原産地から遠く離れた日本の水田環境で生き延び、増え続けてきた理由の一つと考えられている。

1930年代から60年余りで全国に広がった拡散の経路

関東平野を北上した自然分散

神奈川県大船町から始まった定着は、1930年代には東京・埼玉・千葉方面へと伝播していった。水路や河川をつたって少しずつ生息域を広げていく自然分散には時間がかかり、関東平野の北部に到達するまでにおよそ30年の歳月を要したとされる。

人の手による「飛び石」状の拡散

興味深いのは、拡散が必ずしも隣接する水系づたいに連続して進んだわけではないという点だ。遠く離れた地域で突然生息が確認されるような「飛び石」状の分布拡大も見られ、これは人が生き物として持ち運んだ結果だと考えられている。釣り餌用や観賞用としての流通が広がるほど、この飛び石状の拡散も加速した。

年代できごと
1927年神奈川県大船町に27匹が上陸(ウシガエルの餌用)
1930年代東京・埼玉・千葉方面へ伝播
1960年代北海道を除く国内の都府県へ定着
2020年1月時点環境省推計で全国約65万世帯・約540万匹が飼育
2023年6月1日「条件付特定外来生物」に指定、放出・販売等を規制
アメリカザリガニの移入から規制までの主な経緯

入手経路の9割は野外採取、それでも1割超が野外へ放していた

環境省が2020年に行った飼育実態調査によると、飼育している個体の入手経路は「野外からの採取」が86.7%と圧倒的多数を占め、ペット専門店(4.8%)、知り合いからの譲り受け(4.1%)、学校から譲り受け(1.9%)、祭りの夜店での購入(1.5%)と続く。つまり、多くの飼育者は「買った」というより「捕まえた」個体を飼っているのが実態だ。

入手経路割合
野外からの採取86.7%
ペット専門店で購入4.8%
知り合いからの譲り受け4.1%
学校から譲り受け1.9%
祭り(夜店)で購入1.5%
アメリカザリガニ飼育個体の入手経路(環境省調査・2020年1月時点)

一方で同じ調査では、飼育経験者のうち11.7%が野外へ放流した経験を持ち(元いた場所へ7.0%、別の場所へ4.7%)、さらに1.9%は「逃げ出してしまった」と回答している。捕まえるのは簡単でも、最後まで飼いきれずに野外へ戻してしまう人が一定数いる——この数字こそが、条件付特定外来生物という規制が生まれた最も直接的な理由だといえる。

今はすべての都道府県で確認されているが、濃淡は大きい

現在ではアメリカザリガニはすべての都道府県で生息が確認されている。ただし、地域内でも生息の有無には偏りがあり、例えば兵庫県神戸市の調査では、54か所のため池のうち生息が確認されたのは17か所にとどまり、残りのため池では見つからなかったという報告もある。「全国どこにでもいる」というより、「定着に成功した水域から、まだ侵入していない水域へと今も広がり続けている」と捉えたほうが実態に近い。

何が壊れているのか:生態系への被害の実態

アメリカザリガニは水生植物を消失させたり、水生昆虫を捕食したりして生態系を荒らすほか、ザリガニペストや白斑病などを媒介するリスクがあり、ニホンザリガニなどの在来種に大きな影響を与える可能性があります。

― 政府広報オンライン

水草が消え、池全体が濁っていく

アメリカザリガニの食害は、水草を中心とした水生植物に強く現れる。神奈川県内のある公園緑地の池では、かつてアサザやコウホネが茂っていたが、アメリカザリガニが持ち込まれて爆発的に増えた結果、これらの水生植物は完全に消失した。夏になると水温の上昇とともにプランクトンが大発生し、池の水は年間を通して濁ったままになっているという。茨城県の牛久沼では浮葉植物のオニバスが、兵庫県内の多くのため池では古くから採取されてきたジュンサイが、アメリカザリガニの増加とともにこの10年ほどで急激に姿を消しつつある。

希少なゲンゴロウやトンボが池ごと消えた例

水生昆虫への影響も各地で具体的に報告されている。石川県金沢市では、希少種シャープゲンゴロウモドキが生息していた池で、アメリカザリガニの侵入により植生が消失し、この昆虫自体も絶滅した。静岡県磐田市の桶ヶ谷沼では、希少なベッコウトンボをはじめとするトンボ類が著しく減少し、コバンムシやコオイムシなどの水生昆虫も相次いで姿を消している。長崎県五島市の調査では、アメリカザリガニが定着していないため池でゲンゴロウ類を含む20種類以上の水生昆虫が確認された一方、高密度で定着したため池ではわずか3種類しか確認されなかったという、対比の鮮やかなデータもある。

地域報告されている被害
石川県金沢市希少種シャープゲンゴロウモドキが植生消失とともに絶滅
静岡県磐田市(桶ヶ谷沼)希少トンボ・ベッコウトンボが著しく減少、コバンムシ等が絶滅
長崎県五島市水生昆虫が定着池で3種、未定着池で20種類以上(比較調査)
三重県全国唯一安定していたマダラシマゲンゴロウの産地が消滅
青森県・秋田県・山形県マルコガタノゲンゴロウの生息地が複数のため池で絶滅
岡山県の水田地帯タガメの個体数減少の一因と特定
福井県中池見湿地トンボ類・ゲンゴロウ類が周辺湿地に比べ著しく減少
環境省が公表しているアメリカザリガニによる地域別の被害報告(一部)

メダカやドジョウなど魚類への連鎖被害

室内実験でミナミメダカ・ヤリタナゴ・ドジョウへの影響を調べたところ、いずれもアメリカザリガニに捕食されて個体数を減らし、中でも底生性のドジョウが最も影響を受けやすいと報告されている。

宮城県の旧品井沼周辺のため池群では、二枚貝タガイがアメリカザリガニに食害された結果、タガイに卵を産みつけて繁殖する希少種ゼニタナゴが産卵場所を失うという、間接的な連鎖被害も確認されている。在来のメダカが置かれている厳しい状況についてはメダカが絶滅危惧種になった本当の理由でも解説している。

一方で、千葉県内のある親水公園では、水生植物の減少が続いていた池でアメリカザリガニの駆除を行ったところ、抽水植物や動物プランクトンが増加する回復傾向が確認された(完全な駆除ではなかったため、水中で生育する沈水植物の回復までには至らなかったという)。捕獲によりアメリカザリガニを低密度に抑えた水域では、カエル類・魚類・水生昆虫類・水生植物からなる生物相が劇的に回復した事例も報告されており、被害は「対策すれば戻る」性質のものでもある。

在来ザリガニへの脅威——ザリガニペストと白斑病

アメリカザリガニは、ザリガニペストと呼ばれる病原性のカビの一種や、白斑病と呼ばれるウイルス性の病気を保菌している場合があり、これらを媒介するリスクが指摘されている。北米原産のザリガニ類はこうした病原体への耐性を進化させてきたが、日本在来のニホンザリガニをはじめ在来の甲殻類にはこの耐性がなく、感染すれば深刻な影響を受けるおそれがある。

日本在来のニホンザリガニは、北海道と青森・秋田・岩手の1道3県だけに生息する固有種で、環境省レッドリストで絶滅危惧II類に指定され、種の保存法に基づく特定第二種国内希少野生動植物種として販売・頒布目的の捕獲や譲渡しも禁止されている希少な存在だ。生息環境の悪化に加え、外来種であるアメリカザリガニの移入による影響も、生息数減少の要因の一つに挙げられている。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

見過ごせない農業被害:あぜに穴を開け、水を漏らす

巣穴の深さは最大100cm、1日20cm以上のペースで掘り進む

アメリカザリガニによる被害は生態系だけにとどまらない。農研機構(NARO)の実態調査によれば、アメリカザリガニが田んぼの畦(あぜ)に掘る巣穴は、現地調査で最大100cmの深さに達した例があり、模型を使った実験でも58cmまで掘り進むことが確認されている。

平均的な深さは25cm程度だが、1日あたり20cm以上のペースで掘削が進むこともあり、孔の直径は5〜10cmほどになる。巣穴は主に縦方向に、緩やかなS字を描くように掘り進められるという。

調査項目数値
巣穴の最大深さ(現地調査)約100cm
巣穴の最大深さ(模型実験)約58cm
平均的な深さ約25cm
1日あたりの掘削ペース20cm以上
孔の直径5〜10cm
最大漏水量毎秒1.5リットル(30アール区画換算で1日あたり43mm相当)
農研機構によるアメリカザリガニの畦畔掘削・漏水に関する実態調査データ

漏水で雑草が繁茂し、収量が落ちる

巣穴が漏水経路になると、そこから水が流れ出るだけでなく、水流によって穴自体が洗い広げられ、修復が必要になるほどの漏水に発展することがある。漏水が続いた圃場では水位を保てなくなり、除草剤の効果が失われてコナギなどの雑草が繁茂し、水稲の収量が落ちる例も報告されている。

こうした被害の積み重ねが、深刻な場合には耕作放棄の一因になるおそれも指摘されている。巣穴の数は、被害が顕著な地域では100mあたり8個程度から30個超へと急増した年もあり、7月の中干し(田んぼの水を一時的に抜く作業)の開始以降に掘削が急増する傾向があるという。

レンコンなど水田以外の農作物にも

農林水産省が実施した全国調査では、水田の漏水だけでなくレンコンなどの農作物への食害も広い範囲で確認されており、アメリカザリガニによる農業被害は特定の地域に限った問題ではなく、全国の農村地域が向き合う課題として捉えられるようになっている。畦畔だけでなく、ため池の堤防(堤体)の法面や水路の壁を巣穴が崩す事例も報告されており、農業用水を支える施設そのものの維持管理コストを押し上げる要因にもなっている。

世界に広がるアメリカザリガニ問題

1970年代にヨーロッパへ渡り、在来種を脅かす

アメリカザリガニが定着しているのは日本だけではない。1970年代には食用目的でヨーロッパへ持ち込まれ、以降スペインやイタリアをはじめ各地の湿地・水路に定着した。ヨーロッパにはヨーロッパザリガニなど複数の在来ザリガニがいたが、アメリカザリガニが保菌するザリガニペスト(病原性の卵菌の一種)に対する耐性を持たない在来種は次々と感染し、地域によっては個体群が壊滅する事態を招いた。ヨーロッパザリガニ自体も、こうした外来ザリガニ類との競合や病気の影響で個体数を減らし、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで絶滅危惧種に分類されるまでになっている。

病原体そのものが「世界のワースト100」に

ザリガニペストの病原体(Aphanomyces astaci)は、国際自然保護連合(IUCN)が選定する「世界の侵略的外来種ワースト100」に名を連ねるほど、各地の生態系に深刻な影響を与えてきた。アメリカザリガニはこの病原体を運ぶ宿主として、ヨーロッパだけでなくアジアやアフリカなど世界各地の淡水生態系にも影響を広げている。

中国では一大食用産業に:同じ生きものが「厄介者」にも「経済の柱」にもなる

一方で中国では、このアメリカザリガニ(現地名・小龍蝦)が国民食として親しまれ、巨大な産業に育っている。中国水産関連団体の報告によれば、養殖から加工・外食までを含むザリガニ産業全体の市場規模は2021年時点で4,222億元(日本円でおよそ8兆円規模)に達し、およそ500万人の雇用を生み出しているとされる。2016年時点でザリガニ料理を提供する飲食店は1万店を超え、これは中国国内のケンタッキーフライドチキン(約5,000店)とマクドナルド(約2,000店)を合わせた店舗数を上回る規模だった。唐辛子と山椒で煮込んだ「麻辣小龍蝦」は、夏の風物詩として全国で親しまれている。

日本国内でも、東京・豊洲市場では1kgあたり3,000円ほどで取引される高級食材としてアメリカザリガニが流通する例がある。同じ生きものが、ある国・ある文脈では生態系を脅かす「厄介者」として規制の対象になり、別の国・別の文脈では欠かせない「経済の柱」として愛される——アメリカザリガニは、外来種問題が単純な善悪では語れないことを教えてくれる存在でもある。

日本も「共通の悩み」を抱える国の一つ

日本のアメリカザリガニ問題は、世界的に見て特異な事例ではない。原産地から遠く離れた大陸へ持ち込まれた生きものが、数十年をかけて在来生態系を脅かす存在に変わる——これは外来種問題に共通する構図だ。1927年にわずか27匹が持ち込まれてから今日に至るまでの日本の歴史は、その典型例の一つといえる。

なぜ「特定外来生物」ではなく「条件付」なのか

中央環境審議会が指摘した「規制のジレンマ」

2022年(令和4年)1月、環境省の中央環境審議会は、アメリカザリガニのように既に広く飼育され、なおかつ生態系等に大きな影響を及ぼしている侵略的な外来種について、飼育等を一律に規制すると野外への大量遺棄という深刻な弊害を招くおそれがあると指摘し、新たな規制の仕組みを構築する必要があるとの答申をまとめた。

2022年5月の法改正で生まれた新区分

この答申を受けて、2022年5月に成立・公布された改正外来生物法により、新たに特定外来生物に指定する種のうち、指定そのものが生態系等への被害防止に支障を及ぼすおそれがあるものについては、当分の間、一部の規制を適用除外できる仕組みが新設された。これが「条件付特定外来生物」であり、2023年6月1日、アメリカザリガニとアカミミガメがこの区分の第1号として指定された。

天秤にアメリカザリガニと法律の本が乗り、バランスを取っているイメージ図
「規制の強化」と「大量遺棄の防止」を両立させるために生まれたのが条件付特定外来生物という区分だ

「禁止すれば減る」わけではない外来種対策の難しさ

一律に飼育を禁止すれば、手続きが面倒になった飼育者が「捨てる」という選択をしてしまい、かえって野外への拡散を早めてしまう――これは外来種対策全般に共通するジレンマだ。条件付特定外来生物という制度は、このジレンマを踏まえた現実的な妥協点として設計されている。既存の飼育は容認しつつ、拡散の主要な経路である「放出」と「販売・頒布・輸入」だけをピンポイントで断つ、という考え方だ。

条件付特定外来生物の規制内容:何が禁止され、何が許されるのか

禁止される行為

  • 野外への放出(意図的に放す場合も、逃がしてしまう場合も違法)
  • 販売・頒布(無償でも不特定多数・多数への配布は「頒布」に当たり禁止)
  • 購入
  • 許可のない輸入
  • 許可のない「業として」の飼養等(動物園・釣り場・教育機関・研究施設などが継続的に扱う場合を含む)

引き続きできること

  • 2023年6月1日時点で家庭で飼育していた個体を、そのまま飼い続けること
  • 野外での捕獲(販売・頒布目的での移動でなければ規制対象外)
  • 友人・知人など少人数への譲渡(不特定多数への頒布でなければ可能)
  • 捕獲してその場で放すキャッチアンドリリース
  • 家庭での繁殖そのもの(生まれた個体の販売・頒布は不可)
行為可否
野外への放出(逃がす・池や川に放す)✕ 違法
許可のない販売・頒布・購入・輸入✕ 違法
家庭での継続飼育○ 引き続き可能
捕獲・持ち帰り(飼育目的)○ 可能(頒布目的の移動は許可が必要)
キャッチアンドリリース(その場での再放流)○ 規制対象外
友人・知人など少人数への譲渡○ 可能
家庭での繁殖○ 可能(生まれた個体の販売・頒布は不可)
条件付特定外来生物としてのアメリカザリガニの規制まとめ

「業として飼養等する場合」とは

規制の中でしばしば出てくる「業として飼養等する場合」とは、一般家庭以外で、営利・非営利を問わず反復継続して飼育等を行い、社会通念上事業の遂行とみなせる程度のものを指す。環境省が示す具体例には次のようなケースが挙げられている。

  • 動物園や水族館における展示・飼育
  • アメリカザリガニ釣り場での飼養等
  • 学校等における教育事業の一環としての飼養等
  • 学術研究のための研究施設での飼養等
  • 防除事業の一環としての飼養等

一般家庭でペットとして飼うだけであれば、この「業として」には該当しない。ただし、事業として継続的に扱う場合は、たとえ非営利の教育目的であっても許可が必要になる点には注意したい。なお、指定日である2023年6月1日時点ですでに業として飼養等を行っていた事業者には、その年の11月30日までの申請猶予期間が設けられ、既存の事業を急に止めずに済むよう配慮された。

死んでいれば食材として流通できる

興味深いのは、生きた個体の取り扱いは厳しく制限される一方、死んだ状態で料理として提供することは規制の対象外とされている点だ。飲食店が食材として調理・提供する分には、食品衛生法上の営業許可さえあれば手続きは不要とされる。前述の中国での食用産業や、豊洲市場での高級食材としての流通は、こうした「生体は厳格に、食材としての流通は柔軟に」という制度設計とも整合的だ。

罰則:個人と法人で異なる重さ

違反行為には重い罰則が設けられている。個人が野外への放出や無許可の輸入・販売などを行った場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはその両方が科される。行為が法人の業務として行われた場合は、その法人に対して1億円以下の罰金が科される両罰規定になっている。「知らなかった」では済まされない重さだと理解しておきたい。

家庭で今飼っている人が気をつけること

寿命を迎えるまで責任を持つ

アメリカザリガニは飼育下では5年ほど生きることがある。「世話が面倒になった」「大きくなって手に負えない」「引っ越し先に連れていけない」といった身勝手な理由で野外に放したり逃がしたりすることは違法であるだけでなく、その場所に元々暮らしていた在来の生きものへの悪影響にもつながる。飼い始める前に、最後まで飼いきれるかをよく考えることが何より大切だ。

実際、環境省の調査でも飼育経験者の1.9%が「逃げ出してしまった」と回答している。アメリカザリガニは意外と脚力・登坂力があり、水位が高いと水槽のふちを登って脱走することがあるため、フタや高さのある水槽を用意するなど、飼育環境そのものを工夫して「意図しない逃走」を防ぐことも、責任ある飼育の一部だといえる。

気づいたら卵を産んでいた場合

繁殖そのものは規制されていないが、生まれてきた子ザリガニも同じように寿命を迎えるまで飼育する責任が生じる。不用意な繁殖が結果的に「飼いきれずに逃がす」という違法行為につながりかねないため、増えすぎないよう気をつけたい。どうしても数が増えてしまった場合、無償であっても不特定多数への配布(頒布)は認められていないので、まずは友人・知人など少人数への譲渡先を探すのが基本になる。

どうしても飼えなくなったら

環境省は地方環境事務所などを相談窓口として案内している。飼育の継続が難しくなった場合は、まず身近な人や里親を探している団体への譲渡を検討し、最大限努力しても引き取り手が見つからない場合に限り、やむを得ず適切な方法で処分することも案内されている。いずれの場合も、野外の池や川に放すという選択肢だけは絶対に避けなければならない。

飼育を続けられなくなったときの優先順位

  • ① 友人・知人・生き物好きの知り合いに譲渡先を探す
  • ② 里親募集をしている団体・SNSの情報を活用する
  • ③ どうしても見つからない場合は、適切な方法での処分を検討する
  • ④ どんな理由があっても、池や川など野外には放さない

学校教育との両立と、私たちにできること

幼稚園・小学校の約3割が飼育を経験、捕まえて観察すること自体は規制されない

環境省が教育関係者を対象に行った調査によると、幼稚園・保育園・小学校・中学校・高校を合わせた教育機関全体での飼育経験は11.1%だったが、幼稚園から小学校に限ると約3割に達した。教材として選ばれる理由は「観察がしやすい」が最も多く、次いで「入手しやすい」「親しみやすい」「飼育方法が容易」と続く。

野外での捕獲や、教室での観察・飼育といった行為そのものは規制の対象になっていない。教材会社などが継続的に販売目的で扱う「業として」の飼養等の場合のみ許可が必要になるため、学校の授業で今まで通り観察や飼育を行うだけなら対応を変える必要はない。

教室の水槽でアメリカザリガニを観察する子どもたちのイラスト
幼稚園・小学校の約3割がアメリカザリガニの飼育を経験している(環境省調査)

環境教育の題材としての価値はむしろ高まった

「なぜこんなに身近な生きものが規制の対象になったのか」「1927年のわずか27匹が、なぜここまで広がったのか」――アメリカザリガニは、外来種問題を自分ごととして考えるための格好の教材になり得る。捕まえて終わりにするのではなく、その生い立ちや生態系・農業への影響まで踏み込んで学ぶことが、これからの環境教育には求められている。

いちばん大切なのは「野外に放さない」、そして防除活動という選択肢

アメリカザリガニをめぐる規制の要点は、突き詰めれば一つに集約される。「新たに野外に放たない」ことだ。今すでに飼っている人はそのまま飼い続けてよく、新たに飼い始めること自体も禁止されていない。禁止されているのは、拡散の入り口になる放出と、それを助長する無許可の販売・頒布・輸入である。

加えて、農林水産省は水田や用排水路が広がる農村地域を対象にアメリカザリガニの防除の手引きを公開しており、地域の水路や田んぼで行われている防除活動に参加することも、この生きものと向き合う一つの方法だ。捕獲した個体をその場で再び放してしまっては意味がないため、防除の趣旨に沿って適切に扱う必要がある。

海の外来種、田んぼの生きものともつながる問題

アメリカザリガニは淡水の生きものだが、外来種による生態系への影響という点では海の世界でも同じ構図が起きている。船のバラスト水に乗って運ばれる生きものについては海の外来種はどこから来る?で詳しく解説している。また、アメリカザリガニが暮らす水田そのものが持つ豊かな生きものの世界については田んぼの生きもの図鑑も参照してほしい。淡水であれ海であれ、私たちの生活圏のすぐそばにある水辺で、外来種と在来種の静かなせめぎ合いが今も続いている。身近な水辺で起きていることに目を向けることが、生物多様性を守る第一歩になる。

まとめ

  • アメリカザリガニは1927年にわずか27匹が持ち込まれ、100年近くかけて全国約65万世帯・540万匹が飼われるまでに広がった
  • 2023年6月1日、飼育者の多さゆえの大量遺棄を防ぐため「条件付特定外来生物」に指定され、放出・販売・頒布・輸入が規制対象になった
  • 水生植物・水生昆虫・魚類・在来ザリガニへの被害に加え、あぜの掘削による農業被害も全国で報告されている
  • 家庭で今飼っている個体はそのまま飼い続けてよく、大切なのは「新たに野外に放たない」ことに尽きる
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

参考文献・出典

  1. 環境省 – アメリカザリガニ|日本の外来種対策
  2. 環境省 – 何が問題なの?水草、全部切る!?(生態系への被害の詳細事例)
  3. 環境省 – 条件付特定外来生物アカミミガメ・アメリカザリガニの規制について
  4. 環境省 – 条件付特定外来生物アカミミガメ・アメリカザリガニの規制内容と手続き
  5. 環境省 – なぜそこら中に?アメリカザリガニの分布拡大の経緯
  6. 環境省 – 私たちとの関わりは?アメリカザリガニの飼育実態調査
  7. 政府広報オンライン – アメリカザリガニ・アカミミガメなど身近な「外来種」が生態系に悪影響を?
  8. 農研機構(NARO) – アメリカザリガニの畦畔掘削による漏水の実態と対策技術
  9. 農林水産省 – 農村地域におけるアメリカザリガニ防除の手引
  10. JETRO(日本貿易振興機構) – ザリガニの消費市場 4.3兆円規模に成長(中国)
  11. 環境省生物多様性センター – 生物多様性情報システム:ニホンザリガニ(レッドリスト掲載種)

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