スニーカーの箱を開けると、そこには「海」が入っている――そう言われても、最初はピンとこないかもしれません。けれどもアディダスとParley for the Oceansが手がけたランニングシューズ、UltraBOOST Parleyのアッパーは、その大部分が海岸や沿岸で回収されたプラスチックごみから生まれています。私たちが履いて走る一足に、かつて海を漂っていたペットボトルが約11本分、糸となって編み込まれているのです。汚染の象徴だったプラスチックが、走るための道具に生まれ変わる。この逆転の発想が、世界中の注目を集めてきました。
この記事では、海洋メディア「海LAB」の視点から、UltraBOOST Parleyという一足を丸ごと分解していきます。素材であるParley Ocean Plasticがどこで集められ、どうやって繊維になるのか。アッパーの何パーセントが再生素材で、履き心地は通常モデルとどう違うのか。そして最も大切な問い――「靴を買うことは、本当に海を守ることにつながるのか」に、政府や国際機関の一次情報をもとに、正直に向き合います。数字も、良い面も、限界も、できるだけごまかさずに並べていきます。
結論を先に言えば、この一足は「万能の解決策」ではありません。しかし、海洋プラスチック問題を自分ごととして考える強力な入口にはなります。買う前も買った後も、私たちにできることがある。その全体像を、事実に基づいて見ていきましょう。
この記事で学べること
- Parley Ocean Plasticが「海岸・沿岸で回収されたプラごみ」を再生した素材であること
- UltraBOOST Parleyのアッパーは最大95%がOcean Plasticでできていること
- 1足に約11本分のペットボトルが使われ、性能は通常モデルと遜色ないこと
- 回収(Intercept)はParleyのAIR戦略の一部で、根本解決は使用の削減であること
- 購入は入口にすぎず、長く履き・正しく手入れすることが最も環境負荷を下げること
- 「海洋プラ由来」表示の限界やグリーンウォッシュ批判も理解して選ぶこと
海から生まれたランニングシューズ――adidas×Parleyの物語
スポーツブランドが海洋環境保護を語るとき、私たちはつい身構えてしまいます。「またイメージ戦略か」と。しかしアディダスとParley for the Oceansの取り組みは、単なる広告キャンペーンとは少し毛色が違います。2015年、両者は「使い捨てられたプラスチックを、性能を妥協しない製品へ変える」という、当時としては前例のない挑戦を公に宣言しました。その象徴が、海洋プラスチックを主素材にしたランニングシューズだったのです。掲げたのは理想論ではなく、実際に店頭に並び、何百万人もの足に届く「製品」でした。
一足の靴が「宣言」になった日
物語の起点は2015年4月、そして同年のニューヨーク国連本部で開かれたParleyのイベント「Oceans. Climate. Life.」でした。この場でアディダスは、海のごみと違法な深海漁で使われた漁網から回収・再生した糸でアッパーを編んだコンセプトシューズを世界に披露します。製品として売るためではなく、「素材は変えられる」という可能性を示すための一足でした。国連という舞台で靴を掲げるという演出そのものが、業界全体に向けた強いメッセージだったのです。放置していた漁網が新たな海洋汚染源になる問題は、ゴーストギア(放置漁網)の脅威でも詳しく扱っています。

Parleyを率いるシリル・グッチ氏は、プラスチック汚染を「デザインの失敗」と捉えました。人間がデザインして生み出した問題なら、人間はデザインで解決できるはずだ、という発想です。だからこそ解決策もデザインで示す。アディダスという世界最大級のスポーツブランドと組むことで、実験室レベルの理想論ではなく、実際に何百万人もの足に届くスケールで素材を置き換えていく――そこにこの協業の本質があります。海の問題を、遠い環境ニュースではなく、私たちの足元へと物理的に引き寄せたのです。
なぜ「スポーツブランド」だったのか
海洋プラスチックを再生した素材そのものは、Parley以前にも研究レベルでは存在しました。しかし多くは普及せず、環境意識の高い一部の人だけに届く「ニッチな善行」で終わりがちでした。アディダスと組んだ意義は、まさにその壁を越えた点にあります。世界中に店舗を持ち、機能性で選ばれるスポーツブランドが本気で採用すれば、素材の需要は一気に桁が上がり、回収と再生の仕組みそのものを経済的に成り立たせられる。「良いことだから」ではなく「良い製品だから売れる」状態を作ることが、持続可能性の鍵だったのです。
「待つのをやめる」という合言葉
パートナーシップ発表時、両者が掲げたスローガンは「Stop the waiting game(待つゲームをやめよう)」でした。完璧な技術や制度が整うのを待っていては、海はその間も汚れ続ける。ならば不完全でも今できることから動く――この姿勢は、私たち消費者にもそのまま当てはまります。海洋プラスチックの人体への影響についてはマイクロプラスチックと私たちの健康の記事でも触れていますが、いずれも「完璧を待たずに一歩踏み出す」ことの価値を教えてくれます。
- 2015年4月、アディダスとParleyがパートナーシップを正式発表
- 同年、国連イベントで海洋プラ・漁網由来のコンセプトシューズを公開
- 小売店のレジ袋廃止やケア用品のマイクロビーズ廃止など具体策も並行
- 『良いことだから』ではなく『良い製品だから売れる』状態を目指した
- 『待つのをやめて今動く』という思想が製品全体を貫く
興味深いのは、この協業が「一度きりのキャンペーン」で終わらなかったことです。2015年のコンセプトシューズ発表から、翌年以降は実際に販売できる製品へと進化し、モデルの種類も年々増えていきました。ランニングシューズだけでなく、サッカーユニフォームやアパレルへと展開が広がり、素材の用途は着実に多様化しています。話題づくりで終わらせず、地道に製品ラインへ落とし込み続けた点こそ、この取り組みが本物である何よりの証拠だといえるでしょう。継続してこそ、回収と再生の仕組みは経済的に回り続けるのです。
Parley for the Oceansとは
海洋環境の保護を目的に活動する国際的なネットワーク。クリエイター・ブランド・研究者・行政をつなぎ、海洋プラスチック問題への意識喚起と、素材の再発明を推進している。アディダスはその最も大規模な製品パートナーの一つで、両者の協業は国連のパートナーシップ事例としても登録されている。
海洋プラスチック問題の現在地――なぜ「回収して履く」に意味があるのか
そもそも、なぜ海のプラスチックをわざわざ靴にするのでしょうか。その意味を理解するには、私たちの海が今どれほどプラスチックにさらされているかを知る必要があります。環境省やWWF、国際機関の推計が示す現実は、想像以上に切実です。ここで一度、素材の話から離れて「問題そのもの」を直視しておきましょう。
毎年800万トンという桁
国内外の推計によれば、少なくとも年間およそ800万トンものプラスチックごみが陸から海へ流れ込んでいるとされています。この数字は、英国のエレン・マッカーサー財団が2016年の世界経済フォーラム年次総会に合わせて発表した報告に基づくもので、環境省の環境白書でも繰り返し引用されています。800万トンは、大型ジェット機に換算して何万機分にもなる重さで、しかも一度きりではなく毎年積み上がっていくのです。私たちが今この瞬間にも、海はプラスチックを飲み込み続けています。

さらに深刻なのは、このまま有効な対策が取られなければ、2050年には海に漂うプラスチックの重量が魚の重量を上回るという試算です。プラスチックは自然界でほとんど分解されず、波や紫外線で砕けて5mm以下のマイクロプラスチックとなり、生態系の隅々まで入り込みます。なぜここまで分解されにくいのかは海洋プラスチックはなぜ分解されにくいのかで詳しく解説しています。細かく砕けたプラスチックは魚や海鳥の体内に取り込まれ、食物連鎖を通じて最終的に私たちの食卓にも戻ってきます。
日本も無関係ではない
海洋プラスチックは、遠い外国の海だけの話ではありません。環境省の調査では、日本の沿岸にも大量のプラスチックごみが漂着しており、その一部は国内の街から川を通じて流れ出たものです。ペットボトル、食品トレー、レジ袋、そして漁具。私たちの日常の消費が、そのまま海のごみになっていきます。日本財団の「海と日本PROJECT」なども、こうした海洋ごみの実情を国内向けに発信し続けています。海の問題は、実は最も身近な生活の問題でもあるのです。

海の生き物への影響
プラスチック汚染がとりわけ深刻なのは、海の生き物への直接的な被害です。ウミガメはレジ袋をクラゲと間違えて飲み込み、海鳥は破片を餌と誤認してヒナに与えてしまいます。漁網に絡まって命を落とす個体も後を絶ちません。こうした被害の実態と保護の取り組みはウミガメ保全の現場でも紹介しています。回収されるプラスチックの一本一本は、こうした生き物の被害を減らす可能性を秘めています。だからこそ、まだ回収できる段階での行動に価値があるのです。
「取り除く」ことの価値と限界
ここで重要なのは、海に流出したプラスチックの多くは、実は沖合よりも海岸線や沿岸部で回収可能なタイミングがあるということです。まだ細かく砕けていない、陸に近い段階で「取り除く(インターセプト)」ことができれば、マイクロプラスチック化を防げます。Parley Ocean Plasticは、まさにこの回収可能な段階のプラスチックを対象にしています。海に沈んだごみの問題は深海に沈むごみの実態でも扱っていますが、いったん深く沈めば回収は極めて困難になります。だからこそ「陸に近いうちに、砕ける前に」回収する意味があるのです。
回収は万能ではない
海岸回収は価値ある行動ですが、すでに流出したごみのごく一部にしか届きません。だからこそParleyは『回収』だけでなく『そもそも使わない・減らす』ことを最優先に位置づけています。回収は最後の砦であり、蛇口を締めることの代わりにはなりません。
つまり「回収して靴にする」は、海洋プラスチック問題の入口としては優れていますが、それ自体が問題を解決するわけではありません。この前提を押さえておくことが、次に紹介する素材の仕組みを正しく理解する鍵になります。良い面も限界も、両方を知ったうえで一足と向き合っていきましょう。
Parley Ocean Plasticとは何か――素材の正体と作り方
「海のプラスチックから作った糸」と聞くと、なんとなくゴツゴツした再生素材を想像するかもしれません。しかし実際のParley Ocean Plasticは、通常のポリエステル繊維と遜色ない品質を持つ、れっきとした高機能素材です。汚れたごみが、どうやって足を包む滑らかな糸になるのか。その正体と製造プロセスを順に見ていきましょう。
どこで、どう集められるのか
Parley Ocean Plasticの原料は、海洋生物や沿岸コミュニティに脅威を与える地域で回収された、アップサイクル対象のプラスチックです。代表的な回収地の一つがモルディブ沿岸で、島々の海岸に打ち上げられたり漂着したりしたペットボトルなどが集められます。回収の現場では、地域の人々が実際に手を動かしてごみを拾い、選別します。この回収活動が現地の雇用や環境教育にもつながっている点は、素材の見えにくい価値の一つです。集められたプラスチックは選別・洗浄され、繊維化の拠点(台湾など)へ送られて糸へと生まれ変わります。

ごみが糸になるまでの3工程
回収されたプラスチックは、おおまかに次の流れで繊維へと加工されます。まず認証を受けたリサイクルパートナーが洗浄・選別し、フレーク(細片)やペレット(粒)にします。次に生産パートナーがペレットを溶かして糸に紡ぎ、その糸を編んで生地に仕上げます。こうしてさまざまな色・太さ・風合いのParley Ocean Plastic糸と生地が生まれるのです。もとは雑多なごみだったものを、色や品質を揃えて製品グレードに引き上げるこの工程こそ、再生素材づくりの技術的な核心といえます。
- 回収と選別:沿岸で集めたプラごみを洗浄・分別する
- フレーク化・ペレット化:細かく砕き、扱いやすい粒状に加工する
- 紡糸・製織:ペレットを溶かして糸にし、生地へと編み上げる
| 工程 | 行うこと | アウトプット |
|---|---|---|
| 1. 回収 | 沿岸・海岸でプラごみを集め洗浄・選別 | 洗浄済みプラスチック |
| 2. 加工 | 細片化しペレット(粒)にする | フレーク・ペレット |
| 3. 繊維化 | 溶かして紡糸し生地に編む | Ocean Plastic糸・生地 |
回収プラだけでは作れない現実
ここで正直に触れておくべき点があります。海岸で回収されたプラスチックは、汚れや劣化、混入物のばらつきが大きく、それ「だけ」で安定した高品質の糸を作るのは容易ではありません。そのためParley Ocean Plasticの製品には、回収プラに加えて一定量のリサイクルポリエステルなどが組み合わされることが一般的です。100%が海のごみというわけではない――この事実を知ったうえで、「それでも大量のプラを製品化して循環させている」意義を評価するのが、誠実な見方だといえるでしょう。
AIR戦略――回収は3本柱の1つにすぎない
Parleyの活動全体は「AIR戦略」という考え方に貫かれています。AIRとは、Avoid(避ける)・Intercept(取り除く)・Redesign(再発明する)の頭文字です。まずプラスチックを可能な限り使わない。避けられない分は環境から回収してOcean Plasticに変える。そして根本的には、プラスチックに代わる新素材そのものを発明していく。Ocean Plasticはこの真ん中のI(回収)に位置づけられます。回収を出発点にしつつ、最終ゴールは「そもそもプラスチックを使わなくて済む世界」なのです。靴はあくまで、その思想を人々に伝えるためのメディアでもあります。
色や風合いの面でも工夫があります。回収されたプラスチックは色も透明度もバラバラですが、選別と加工の技術によって、白から鮮やかな青まで幅広い色の糸に整えられます。UltraBOOST Parleyに多い青系のカラーリングは、単なるデザインの選択であると同時に、海そのものを想起させるブランドメッセージにもなっています。素材の物語が、そのまま製品の見た目に宿っている――再生素材だからこそ生まれた、意味のあるデザインだといえます。
AIR戦略の3本柱
- Avoid(避ける):そもそもプラスチックを使わない・減らす
- Intercept(取り除く):流出前・回収可能な段階でごみを回収する
- Redesign(再発明する):プラに代わる新素材や仕組みを生み出す
UltraBOOST Parleyの中身を分解する――何がどれだけ再生素材か
ではいよいよ、UltraBOOST Parleyという一足そのものを分解してみましょう。「海洋プラスチック製」といっても、靴のすべてが海のごみからできているわけではありません。どの部分が、どれだけ再生素材なのかを具体的に見ていくことで、この靴の実像がはっきりします。
アッパーは最大95%がOcean Plastic
UltraBOOST Parley(アンケージド版など)の最大の特徴は、足を包むアッパー(甲の部分)です。このアッパーはアディダスのPrimeknit(プライムニット)技術で編まれており、最大で約95%がParley Ocean Plastic、残り約5%がリサイクルポリエステルで構成されています。つまりアッパーはほぼ全量が再生素材でできている計算です。足を靴下のように包み込む一体成型のニットは、縫い目を減らして軽さとフィット感を両立させ、ムダな端材も出しにくい構造になっています。

1足に約11本のペットボトル
具体的な量でいうと、UltraBOOST Parleyには1足あたりおよそ11本分のペットボトルに相当するOcean Plasticが使われています。シューレース(靴ひも)、ヒール部分のライニングや補強、インソール(中敷き)のカバーなどにも再生素材が使われ、アッパーだけでなく細部にまで海由来の素材が行き渡っています。1足履くたびに、10本超のペットボトルが道路のごみにも埋め立てにもならずに済んだ、と考えると実感がわきます。小さな数字に見えて、これが数百万足の規模で積み上がると、置き換えられるプラの総量は膨大になります。
| 部位 | 主な素材 | 再生素材の関与 |
|---|---|---|
| アッパー(甲) | Primeknitニット | 最大95%がOcean Plastic |
| シューレース | リサイクル素材 | 再生ポリエステル |
| ヒール補強・ライニング | リサイクル素材 | 再生素材を使用 |
| インソールカバー | リサイクル素材 | 再生素材を使用 |
| アウトソール(靴底) | 再生・再粉砕ラバー | リサイクルラバーを使用 |
靴底やクッションはどうなっているのか
アウトソール(接地する靴底)には、再生・再粉砕されたラバーが用いられています。一方、UltraBOOST最大の売りであるクッション「BOOST」フォームは、無数の小さなカプセルを圧着したTPU素材で、これは海洋プラ由来ではありません。つまりこの靴は「アッパーは海のプラ、クッションは高機能フォーム」という組み合わせで、環境配慮と走行性能を両立させているのです。全部を再生素材にするのではなく、性能・耐久性・安全性を犠牲にしない範囲で最大限に置き換える――現実的で誠実な設計思想が、この構成から見て取れます。

PrimeblueとParley――呼び名の違い
店頭やオンラインで探すと、「Parley」だけでなく「Primeblue(プライムブルー)」という言葉も目にします。Primeblueは、Parley Ocean Plasticを含む再生ポリエステルでできたアディダスの高機能素材のシリーズ名です。似た仲間に「Primegreen(プライムグリーン)」があり、こちらは海洋プラを含まない100%リサイクルポリエステルです。つまり同じ『サステナブル素材』でも中身は少しずつ違います。海洋プラの関与を重視するなら、Parley/Primeblueの表記と『どこに何%使用』の記載を確認するのが確実です。
『海洋プラ100%』ではない理由
アッパーは約95%がOcean Plasticですが、靴全体でみれば再生素材とそうでない素材の組み合わせです。これは性能・安全性・耐久性を担保するための現実的な判断であり、誇張のない正確な表示こそが信頼につながります。『海のごみ100%の靴』という表現は正確ではありません。
履き心地と性能――「エコだから妥協」ではない設計
サステナブルな製品にありがちな不安が、「環境にいいのは分かるけれど、性能は落ちるのでは?」というものです。UltraBOOST Parleyについて言えば、この心配はほぼ杞憂です。ベースとなっているUltraBOOSTは、そもそもアディダスのランニングシューズの中でも高いクッション性で知られるフラッグシップだからです。再生素材を使うために性能グレードを下げているわけではありません。
BOOSTフォームの反発力
UltraBOOSTの心臓部であるBOOSTフォームは、着地の衝撃を吸収しながらエネルギーを蓄え、蹴り出すときに反発として返す特性を持ちます。長距離ランニングでも脚への負担を和らげ、弾むような走り心地を生むこのクッションは、Parley版でもそのまま採用されています。海洋プラスチックを使ったからといって、走行性能が犠牲になっているわけではないのです。むしろ「環境配慮=我慢」という思い込みを、実際の履き心地で裏切ってくれる一足だといえます。

Primeknitの通気性とフィット
アッパーのPrimeknitニットは、部位ごとに編み方の密度を変えることで、必要な場所にはサポートを、動く場所には柔軟性と通気性を与えています。足を靴下のように包み込むため、走行中のズレが少なく、蒸れにくいのも特長です。Ocean Plastic由来の糸でもこの機能性がしっかり実現されている点は、再生素材の完成度の高さを物語っています。汚れたごみから、これほど繊細な履き心地を作り出せる――技術の進歩が、環境配慮と快適さを両立可能にしたのです。
- BOOSTフォーム:衝撃吸収と高い反発でランを支える
- Primeknitアッパー:軽量で通気性が高く、足を包むフィット感
- 再生ラバーアウトソール:日常使いに十分なグリップと耐久性
- デイリーユースにも:ランだけでなく通勤・普段履きにもなじむ汎用性
どんな人に向いているか
このシューズは、日々のジョギングから通勤・普段履きまで幅広くこなせる万能タイプです。クッションが厚く足あたりが柔らかいため、これからランニングを始める人や、長時間歩くことが多い人にも向いています。一方で、レースで自己ベストを狙うような競技志向のランナーには、より軽量で反発に特化したモデルのほうが合う場合もあります。サイズ選びでは、ニットが足に馴染む前提でジャストサイズを基本にしつつ、幅広の足の人は試着して確認すると安心です。用途と足に合っているかどうかが、結局は一番のサステナビリティにつながります。
「見た目で選ぶ」も立派な動機
波を思わせるアッパーのグラデーションや、青系を基調としたカラーリングは、海の物語をまとうデザインとして単純に格好いい。環境のためだけでなく「デザインが好きだから」という理由で手に取り、結果として海洋問題に触れる――そんな入り方でまったく問題ありません。むしろ、性能もデザインも妥協しないからこそ、多くの人の足に届き、素材の置き換えがスケールしていくのです。「我慢して選ぶエコ」ではなく「欲しいから選んだら、たまたま海にもよかった」。この順番こそが、持続可能な消費のあるべき形かもしれません。
性能面のポイント
- クッション・反発はUltraBOOST通常版とほぼ同等
- アッパーの通気性・フィット感も高水準
- エコを理由に走行性能を我慢する必要はない
- デザイン性が高く、普段履きとしても選びやすい
1足の購入が海に届くまで――数字で見るインパクトと限界
ここまで読むと「じゃあ買えば買うほど海がきれいになるのでは」と思えてきます。しかし、その受け止め方には少し注意が必要です。この章では、Parley素材シューズが生み出してきた実際のインパクトと、同時に見落としてはならない限界の両方を、できるだけ正直に整理します。良いニュースと厳しい現実を、セットで受け取ってください。
スケールした置き換えの実績
アディダスがParley Ocean Plasticで製造したシューズは、2017年に約100万足、2018年に約500万足、2019年には約1100万足と急速に拡大し、2020年末までの累計では約3000万足に達したと報じられています。1足に約11本のペットボトルという計算を当てはめれば、膨大な量のプラスチックが埋め立てや海洋流出を免れ、製品として再利用されてきたことになります。実験的な一足から始まった取り組みが、数年で世界規模の生産へと育った事実は、素直に評価すべき成果です。

ブランド全体の方向転換
Parleyの取り組みは、アディダスというブランド全体をも動かしました。同社はParley Ocean Plasticを含む「Primeblue」や、100%リサイクルポリエステルを使う「Primegreen」といった素材を展開し、事業全体でバージン(新規石油由来)ポリエステルをリサイクルポリエステルへ置き換える方針を進めてきました。近年ではポリエステルの大部分を再生素材でまかなうまでになっており、加えて2017年比で温室効果ガス排出量を削減する目標も掲げています。一足のコンセプトシューズが、企業の素材戦略そのものを変えていった好例といえます。
この方向転換の背景には、消費者の意識の変化もあります。かつては「安くて機能的なら素材は問わない」という選び方が主流でしたが、近年は「この製品は誰を、何を傷つけていないか」を気にする人が確実に増えてきました。企業がサステナブル素材に投資するのは、単なる善意ではなく、そうした消費者の声に応える経営判断でもあるのです。つまり私たちが何を選び、何を評価するかという一つひとつの購買が、巡り巡って企業の素材戦略を動かす力になっている。その意味で、消費者もまた海洋問題の当事者であり、変化の担い手なのです。
| 年 | Parley素材シューズの製造量(目安) |
|---|---|
| 2017年 | 約100万足 |
| 2018年 | 約500万足 |
| 2019年 | 約1100万足 |
| 2020年目標 | 約1500万足 |
| 累計(2020年末まで) | 約3000万足 |
見落としてはいけない限界
一方で、冷静に押さえるべき点もあります。第一に、回収されるのは海に流出したプラスチックのごく一部にすぎず、製品化される量は年間流出量800万トンに比べればわずかです。第二に、シューズを製造・輸送する過程でもエネルギーとCO2は排出され、ゼロにはなりません。第三に、「海洋プラ由来」という言葉が独り歩きし、実態以上の環境貢献を消費者に感じさせるグリーンウォッシュの懸念も指摘されています。買うこと自体を目的化せず、あくまで問題を知る入口として捉える冷静さが求められます。
それでも意味がある理由
限界を並べると悲観的に聞こえるかもしれませんが、それでもこの取り組みには確かな価値があります。回収の仕組みを経済的に成り立たせ、沿岸地域の雇用を生み、何より「プラスチックは資源として取り戻せる」という認識を世界中の消費者に広めたからです。海の炭素吸収を担うブルーカーボンや、生き物を守る海洋保護区と同じく、完璧な単独の解決策は存在しません。無数の不完全な一歩が重なって、初めて海は守られていくのです。
そしてもう一つ、数字には表れにくい効果があります。それは「認識の変化」です。海のごみから作られた靴を履くという体験は、履く人自身の意識を確実に変えます。ペットボトルを一本捨てるとき、レジ袋を一枚もらうとき、その先にある海を少しだけ思い浮かべるようになる。この意識の連鎖こそ、企業が公表する製造トン数よりもはるかに大きな波及効果を持つのかもしれません。一足の靴が果たす本当の役割は、プラスチックの再利用そのものよりも、無数の人の行動をわずかに変えていく点にあるのです。
『買えば海がきれいになる』ではない
新しく1足買うことは、必ず新たな製造・輸送の負荷を生みます。最も環境負荷が低いのは『今持っている靴を長く履くこと』。Parleyシューズは買い替えのタイミングで選ぶ賢い選択肢であって、消費を増やす言い訳にはなりません。
賢い選び方と長く履くコツ――買う前後にできること
海洋プラスチック再生シューズの意味を最大化するのは、実は購入そのものよりも「その前後の行動」です。同じ一足でも、選び方と使い方しだいで環境への効果は大きく変わります。ここでは、後悔のない選び方と、一足を長く生かすための実践的なポイントをまとめます。
買う前に自問したい3つのこと
まず「本当に今、新しい靴が必要か」を自分に問いましょう。手持ちの靴がまだ使えるなら、それを履き続けることが最も環境にやさしい選択です。買い替えが必要な場合に初めて、再生素材モデルが有力な候補になります。次に、用途に合ったサイズと機能かを確認します。合わない靴は結局履かれず眠るだけで、どんな素材でも無駄になってしまいます。最後に、表示を正しく読むこと。「一部にParley素材使用」と「アッパー95%がOcean Plastic」では、環境インパクトの大きさがまったく違います。
- 本当に今必要か:手持ちの靴で足りるなら買わないのが最善
- 用途とサイズは合っているか:履かれない靴は素材が何でも無駄になる
- 表示を正しく読むか:『一部にParley素材使用』か『アッパー95%』かを区別する

長く履くための手入れ
ニットアッパーは、汚れたら早めに柔らかいブラシと中性洗剤で優しく洗い、直射日光を避けて陰干しするのが基本です。洗濯機の高温乾燥は素材を傷めるので避けましょう。複数の靴をローテーションして履くと、湿気が抜ける時間ができ、それぞれの寿命が延びます。ソールがすり減ったら修理や張り替えを検討し、簡単に捨てないこと。一足を長く履くほど、製造時にかかった環境負荷は履いた年数で薄まっていきます。つまり「大切に履く」ことそのものが、立派な環境行動なのです。
- 柔らかいブラシと中性洗剤で優しく洗い、陰干しする
- 高温乾燥・直射日光は素材を劣化させるので避ける
- 数足をローテーションして1足への負担を減らす
- ソールの摩耗は修理・張り替えも検討する
- 履かなくなったら回収プログラムや譲渡・リユースを検討する

『循環』まで見届ける
本当のサステナビリティは、作る側だけでなく使い終えた後まで含めた「循環」で完成します。まだ履ける靴は譲る・売る・寄付する。傷んだ靴は自治体やブランドの回収の仕組みを活用する。一足の靴を入口に、海と自分の暮らしのつながりを少しずつ広げていきましょう。買う・履く・手入れする・手放すという一連の選択のすべてに、海への配慮を少しだけ足す。その積み重ねが、遠回りに見えて確かな変化を生んでいきます。
最後に、この一足を「対話のきっかけ」として使うこともできます。友人に「この靴、実は海のごみからできてるんだよ」と話すだけで、海洋プラスチック問題は自然と会話に上ります。SNSに投稿すれば、同じ関心を持つ人とつながれるかもしれません。一人が一足を大切に履き、その物語を誰かに伝える。そうやって関心の輪が広がっていくことこそ、メーカーの生産数字には表れない、私たち消費者だからこそ生み出せる価値なのです。海LABも、そうした対話の入口であり続けたいと考えています。
今日からできる小さな一歩
- まずは手持ちの靴を最後まで大切に履き切る
- 買い替え時に再生素材モデルを候補に入れる
- 表示を鵜呑みにせず『どこに何%』使われているか確認する
- 洗い方・干し方を見直して靴の寿命を延ばす
- 履かなくなった靴を捨てずにリユース・回収に回す
まとめ――一足の靴を、海を考える入口に
アディダス×ParleyのUltraBOOST Parleyは、海岸で回収されたプラスチックをアッパーの最大95%に使い、1足あたり約11本のペットボトルを製品へと生き返らせるランニングシューズです。BOOSTクッションとPrimeknitによって走行性能もしっかり確保され、「エコだから妥協」とは無縁の完成度を持っています。実験的な一足から累計約3000万足へと広がり、アディダスというブランド全体の素材戦略まで動かしてきました。
同時に、この一足は魔法の解決策ではありません。海に流出する年間約800万トンのプラスチックに対して、回収・製品化できるのはごく一部。買うこと自体が海をきれいにするわけではなく、最も大切なのは「使い続ける・減らす・循環させる」という日々の選択です。それでも、足元から海の問題を意識するきっかけとして、この靴は確かな力を持っています。次にランニングシューズを選ぶとき、その一足の向こうに海を思い浮かべられたら――それがきっと、いちばん大きな一歩です。
海洋プラスチック問題は、あまりに巨大で、個人の力ではどうにもならないように感じられます。けれども、この一足が教えてくれるのは、汚染さえもデザインの力で価値へと転換できるという希望です。完璧な解決を待つのではなく、不完全でも今できる一歩を選ぶ。その姿勢を、私たちは靴を通じて手にすることができます。海を守る行動は、遠い場所での特別な活動ではなく、日々の小さな選択の積み重ねの中にあるのです。
この記事のまとめ
- UltraBOOST Parleyはアッパー最大95%が海岸回収プラ(Ocean Plastic)
- 1足に約11本のペットボトル相当を使用し、性能も通常版とほぼ同等
- Parleyの根本思想はAIR戦略で、回収より『そもそも使わない』が最優先
- 累計約3000万足(2020年末時点)に拡大しブランド全体の素材転換も牽引した
- 購入は入口であり、長く履き・正しく手入れし・循環させることが最も重要
- 『海洋プラ由来』表示の限界も理解し、消費を増やす言い訳にしないこと
参考文献・出典
- 環境省 – 令和2年版 環境・循環型社会・生物多様性白書(海洋プラスチックごみ汚染)
- 環境省 – 海洋プラスチックごみ流出量の推計
- 国連 SDGs Partnership Platform – Parley AIR Strategy: Avoid. Intercept. Redesign
- 日本財団 海と日本PROJECT – 今、知っておきたい海洋ごみの実情
- WWFジャパン – 海洋プラスチック問題について
- Parley for the Oceans – Ocean Plastic – How it Works
- adidas – Sustainability: adidas x Parley Ocean Plastic
- adidas Group – adidas and Parley for the Oceans stop the industry's waiting game
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア