飛行機の座席で配られる小さなトレー。その中に焼き魚やサーモンのマリネが載っていたとき、その魚がどこの海から、どんな獲り方でやってきたのかを考える人は多くありません。けれど機内食は、年間で数千万食という単位の「見えない大量調達」です。航空会社が調達基準を一行変えるだけで、その先にある漁業や養殖の現場は確実に揺れ動きます。
その基準として世界的に使われているのが、天然漁業を対象とするMSC認証(海洋管理協議会)と、養殖を対象とするASC認証(水産養殖管理協議会)です。スーパーの売り場で見かける青い「海のエコラベル」やターコイズ色のASCラベルは、単なるマークではありません。その背後には、資源評価・環境負荷・労働環境・地域社会への配慮まで含む数百項目の審査と、加工・流通の全段階を貫くCoC認証という仕組みがあります。
この記事では、FAO(国連食糧農業機関)や水産庁、MSC・ASC両団体、そして航空会社の公表資料といった一次情報をもとに、「機内食という大口調達が海の持続可能性とどうつながるのか」を、確認できた事実だけで組み立てて解説します。確認できなかったことは「確認できなかった」と正直に書きます。それがこの分野で一番大事な作法だからです。
この記事で学べること
- MSC認証(天然漁業)とASC認証(養殖)は、それぞれ何を審査してどう違うのか
- 「認証シーフード」を名乗るために不可欠なCoC認証と、日本での急拡大の実態
- 航空会社の機内食やホテルの厨房という大口需要が、漁業・養殖の現場をどう動かすのか
- 南三陸のカキ、宇和島のマダイ、北海道のホタテなど、日本の認証取得の具体例
- 供給量・コスト・グリーンウォッシュという、認証制度が抱える3つの現実的な壁
- 消費者として、そして一人の乗客として今日からできる選び方
機内食という「見えない大量調達」が海につながっている
私たちが「サステナブル・シーフード」を意識する場面といえば、まずスーパーの鮮魚売り場でしょう。青いMSCラベルの付いたサーモンやツナ缶を手に取るかどうか——それは確かに一票です。しかし水産物の流通量という視点で見ると、個人が売り場で選ぶ量よりも、企業が一括で買い付ける量のほうが圧倒的に大きいという当たり前の事実があります。外食チェーン、ホテル、給食事業者、そして航空会社の機内食。これらは「業務用調達」と呼ばれ、消費者の目に触れないまま日々巨大な量の魚を動かしています。
一便のトレーが積み上がると何になるか
国際線の一便でおおよそ200〜300食、大型機なら400食近い機内食が搭載されます。これに一日の便数、一年の日数を掛けていけば、一社の年間搭載数は容易に数百万食から数千万食の規模に達します。しかもその献立は数か月単位で固定され、同じ食材が繰り返し発注される。つまり機内食は「量が大きく」「予測可能で」「継続的な」需要という、供給側にとって理想的な条件を備えています。
この性質は、持続可能性の観点では大きな意味を持ちます。認証を取得しようとする漁業者や養殖業者にとって最大の不安は「認証を取ったところで買ってくれる相手がいるのか」という点だからです。審査費用も、記録管理の手間も、漁法の変更に伴う一時的な減収も、その先に安定した販路があると分かっていれば投資として踏み出せます。逆に販路が見えなければ、どれほど理念に共感しても手は出せません。
機内食はサプライチェーンの縮図でもある
機内食の製造は、航空会社本体ではなくケータリング会社が担うのが一般的です。日本ではJALグループのジャルロイヤルケータリング、ANAグループの株式会社ANAケータリングサービス(ANAC)などが該当します。原料の魚は商社や水産卸から入り、加工され、冷却され、専用車で機側へ運ばれ、機内で再加熱されて配られる。この長い鎖のどこか一箇所でも「認証品と非認証品が混ざる」と、その魚はもう認証水産物として提供できません。後述するCoC認証は、まさにこの混入を防ぐための仕組みです。

この記事のスタンス
- 企業名・数値・年号は、公的機関や当該企業の公表資料で確認できたものだけを記載しています
- 確認できなかった取り組みについては、推測で補わず「確認できなかった」と明記します
- 認証制度そのものへの批判的な指摘も、後半で正面から扱います
MSCとASC——天然と養殖、2つの国際認証のしくみ
サステナブル・シーフードの世界標準として最も広く使われているのが、MSCとASCという2つの認証です。よく似たラベルなので混同されがちですが、対象がまったく異なります。ひとことで言えばMSCは「獲る漁業」、ASCは「育てる養殖」のための認証です。
MSC認証——漁業が満たすべき3つの原則
MSC(Marine Stewardship Council/海洋管理協議会)は1997年に設立された国際的な非営利団体で、本部はロンドン、現在は25か国に事務所を置いています。日本法人にあたるMSCジャパンは2007年の設立です。MSCの漁業認証規格は、FAO(国連食糧農業機関)とISEAL(国際社会環境認定表示連合)の双方の要求事項を満たす、世界で唯一の漁業認証プログラムとされています。
漁業がMSC認証を取得するには、第三者の審査機関による審査を通じて、次の3点を実証しなければなりません。
- 資源の持続可能性:対象となる水産資源が、獲り続けても枯渇しない持続可能なレベルにあること
- 環境への影響の最小化:漁業活動による海洋環境・生態系への負荷が最小限に抑えられていること(混獲や海底へのダメージを含む)
- 効果的な管理システム:長期的な持続可能性を確実にするための管理の仕組みが実際に機能していること
重要なのは、これが「一度取れば終わり」ではないという点です。認証には有効期限があり、定期的な監査と再審査がある。資源状況が悪化すれば認証は停止されます。認証は結果の証明ではなく、管理し続けている状態の証明だと理解しておくと、後述する「限界」の議論も見通しがよくなります。
ASC認証——養殖場が背負う環境と社会の責任
ASC(Aquaculture Stewardship Council/水産養殖管理協議会)は、WWF(世界自然保護基金)とオランダの持続可能な貿易推進団体IDHの支援のもと、2010年に国際非営利団体として設立されました。認証の対象となる魚介類は、サケ、ブリ・スギ、淡水マス、スズキ・タイ・オオニベ、カレイ目、熱帯魚類、ティラピア、パンガシウス、二枚貝(カキ・ホタテ・アサリ・ムール貝)、アワビ、エビ、海藻の12種群で、魚種ごとに策定された基準にしたがって養殖場が審査されます。
審査項目には、海底の汚染指標、餌となる天然魚の使用率、薬剤の適切な使用、逃避魚による生態系への影響、労働環境、地域社会との関わりなどが細かく含まれます。「環境にやさしい」という漠然としたイメージではなく、水質データや飼料原料のトレーサビリティといった具体的な数値と記録で証明することが求められる点が特徴です。

| 観点 | MSC認証 | ASC認証 |
|---|---|---|
| 対象 | 天然の漁業(獲る) | 養殖場(育てる) |
| 設立 | 1997年(MSCジャパンは2007年) | 2010年(WWFとIDHの支援) |
| 主な審査軸 | 資源状態・環境影響・管理システムの3原則 | 水質・飼料・薬剤・逃避魚・労働環境・地域社会 |
| 日本での第1号 | —(複数漁業が順次取得) | 2016年 宮城県漁協志津川支所 戸倉のカキ養殖 |
| 対象魚種の考え方 | 漁業単位で審査(魚種+漁法+海域) | 12種群ごとに基準を策定し養殖場単位で審査 |
ラベルは「選べる状態」をつくる装置
認証制度の本質的な役割は、消費者や調達担当者に「選べる状態」を提供することにあります。目の前の切り身がどんな海でどう獲られたかを、買い手が一つひとつ調べることは現実的に不可能です。第三者審査によってその情報を一枚のラベルに圧縮し、意思決定のコストを劇的に下げる。これが認証の経済的な意味であり、だからこそ大口調達を行う企業にとって扱いやすい道具になっています。
この認証を公式で確かめるMSC(海洋管理協議会)ジャパン 公式サイトMSC「海のエコラベル」の意味、漁業認証の3原則、日本の認証取得漁業一覧を確認できる公式サイト。🔗 msc.orgCoC認証——「認証シーフード」を名乗るための見えない鎖
ここが、サステナブル・シーフードの話でもっとも見落とされやすい部分です。漁業や養殖場が認証を取っただけでは、店頭や機内でラベルを付けて提供することはできません。その魚が消費者に届くまでのすべての事業者が、CoC(Chain of Custody=管理の連鎖)認証を取得している必要があります。
混ざらないことを証明し続ける
CoC認証が求めるのは、シンプルですが実務的にはかなり厳しい要件です。認証水産物と非認証水産物が、保管・加工・輸送・調理のどの段階でも混ざらないよう物理的・記録的に分離されていること。仕入伝票から出荷伝票まで数量が整合すること。担当者が制度を理解していること。これらが監査で確認されます。
ホテルや外食のように多品目・多店舗でオペレーションを回す現場では、この管理は特に難易度が上がります。実際、ヒルトン東京ベイの事例では、食材の仕入れから管理・調理・提供までの間に非認証と認証の製品が混在すればCoC認証が取り消される可能性があることを念頭に、フードサービスに携わるメンバー全員で定期的に研修を行っていることが報告されています。認証は書類仕事ではなく、現場の習慣を変える取り組みだということがよく分かる話です。
日本のCoC認証は世界3位の水準へ
MSCジャパンの発表によれば、日本国内で初めてMSC CoC認証が取得されたのは2006年4月のこと。その後、取得事業者数は着実に増加し、2025年9月末時点で400を突破しました。この数はここ数年でドイツやフランスを上回り、現時点で中国、アメリカに次いで世界で3番目に多い水準です。
伸びが最も急だったのは2016年から2019年にかけての期間で、前年比約35〜40%超の成長を記録しています。MSCジャパンはこの背景として、水産資源に関する危機意識の高まりと、2015年に採択されたSDGsの影響を挙げています。新型コロナウイルス感染症の流行初期には一時的に伸びが鈍化したものの、その後は再び増加傾向にあります。
注目したいのは、取得事業者の業態です。商社、加工企業、卸売・仲卸業者、小売関連企業に加えて、外食関連事業者、ホテル、給食事業会社が並びます。MSCジャパンは、ホテル・レストランなどの外食関連事業者、およびそこへ水産物を供給する食品卸売業者による認証取得や問い合わせが増えていると指摘しています。これまで小売や水産企業を中心に高かったサステナブル・シーフードへの関心が、「その場で調理して出す」業態へ広がりつつあるという変化です。機内食もまさにこの領域に属します。

CoC認証がないとどうなるか
- 認証漁業から仕入れた魚でも、ラベルを付けて「MSC認証」と表示・訴求できない
- サプライチェーンの途中に未取得の事業者が一社でもあると、そこで鎖が切れる
- 取り消しリスクがあるため、企業は現場教育と記録管理を継続する必要がある
日本の航空会社はいまどこまで来ているのか
では、日本の航空会社の機内食は実際にどうなっているのでしょうか。ここは推測が混ざりやすい領域なので、各社が自ら公表している内容に限って整理します。
JAL:機内食製造会社が認証食材を採用
日本航空(JAL)はサステナビリティサイトの「認証品の採用」において、JALグループの機内食を製造しているジャルロイヤルケータリング株式会社が、生物多様性に配慮したMSC認証・ASC認証・ASIAGAP認証を受けた食材を積極的に採用していることを公表しています。MSC認証は持続可能で環境や社会に配慮した漁業で獲られた天然水産物の証、ASC認証は環境と社会への影響を最小限に抑えた養殖場で育てられた水産物の証であると、同社は説明しています。
つまり、日本の航空会社の機内食において、認証水産物の採用はすでに「構想」ではなく「実務」の段階にあるということです。ここで効いてくるのが前章のCoC認証で、機内食を作るケータリング会社がこの鎖の一部として機能していなければ、認証食材を「認証食材として」使うことはできません。
この取り組みを公式で見る日本航空(JAL)|認証品の採用ジャルロイヤルケータリングによるMSC認証・ASC認証・ASIAGAP認証食材の採用について、JALが公表しているページ。🔗 jal.com食べ残しを減らす「ミールスキップ」という別解
調達だけでなく、「そもそも作りすぎない」という切り口もあります。JALは、機内食が不要な乗客が事前にキャンセルを申し込める「JAL Ethical Choice Meal Skip Option」を2020年11月にバンコク線で開始し、東南アジア・東アジア路線を中心に展開したのち、2022年12月より国際線の全路線・全クラスへ拡大しました。深夜便の乗客からは「ゆっくり休めて良かった」と好評だといいます。
さらにこのサービスは、JALが参画するNPO法人TABLE FOR TWO Internationalの「TABLE FOR TWOプログラム」の対象メニューに設定されており、キャンセルされた機内食1食ごとに、JALから一定額が寄付され、開発途上国の子どもたちの学校給食事業に充てられます。食品廃棄の削減と、途上国の飢餓解消・教育支援を同じ仕組みでつなぐ設計です。
同社はまた、2022年11月1日から2023年2月28日までの期間限定で、ロンドン発東京行のファーストクラス・ビジネスクラスのアラカルトメニューとして、ドイツ・ベルリンのスタートアップBettaF!sh社がノルウェー産のワカメとソラマメから作った「TU-NAH」というツナ代替食材を使ったラップサンドを提供しました。水産資源そのものへの負荷を減らす「代替」という方向も、選択肢として実装されはじめています。
ANA:機内食の残渣100%リサイクルと海の保全活動
ANAグループについては、機内食まわりで公表されている取り組みとして次のものが確認できます。国内線および国際線(日本出発便)の機内食を製造する株式会社ANAケータリングサービス(ANAC)では、調理時に出る残渣(生ごみ)を堆肥や飼料へ100%リサイクルし、その堆肥を使って育てた「ソフトケール」を国際線エコノミークラス(一部路線を除く)の機内食のサラダで提供しています。2022年にはこのソフトケールをペーストにしてパン生地に練り込んだ「ケールフォカッチャ」も登場しました。
海の生物多様性の面では、ANAは「チーム美らサンゴ」を2004年から継続しています。環境省・沖縄県・恩納村の後援、恩納村漁業協同組合の協力のもとでサンゴ苗の植え付けプログラムや啓発イベントを開催しており、2024年で20周年、メンバー企業は16社。2024年までに4,652名が参加し、19,532本のサンゴを植え付けたと公表されています。また2012年からは東日本大震災の被災地である南三陸町で「ANAこころの森プロジェクト」を展開し、2022年からはWWFジャパンの法人会員となっています。
この取り組みを公式で見るANAグループ|生物多様性保全チーム美らサンゴ(2004年〜)、ANAこころの森プロジェクト、WWFジャパン法人会員などの活動実績と数値を掲載。🔗 ana.co.jp確認できなかったこと(あえて書き残す)
本記事の執筆にあたり、ANAが機内食にMSC認証・ASC認証の水産物を採用しているという公表情報は、ANAグループの公式サイトおよび報道の範囲では確認できませんでした。ANAが海洋保全に長く取り組んでいることと、機内食の水産物調達に認証制度を用いているかどうかは別の話です。ここを曖昧にしたまま「航空各社が認証水産物を導入」と書いてしまうことは、企業にとっても読者にとっても不誠実だと考え、確認できた範囲だけを記載しました。今後、公式に発表があれば本記事も更新します。

企業事例を読むときの注意
- 「サステナブルな機内食」という言葉は、認証水産物・食品ロス削減・容器の脱プラなど複数の意味で使われます
- どの取り組みがどの範囲(路線・クラス・期間)に適用されるのかまで確認すると実像が見えます
- 期間限定の企画と、恒常的な調達方針の変更は分けて評価する必要があります
調達が現場を変えた——南三陸・宇和島・北海道の実例
認証は書類の話に見えて、実際には漁業と養殖の現場の働き方そのものを変えます。日本国内でもっとも象徴的なのが、宮城県南三陸町のカキ養殖です。
日本初のASC認証「南三陸戸倉っこかき」
2016年、宮城県漁業協同組合志津川支所 戸倉海域のカキ養殖業が、日本で初めてASC養殖場認証を取得しました。東日本大震災の津波でいかだも施設もすべて流された海域です。ゼロから再建するにあたって、生産者たちは震災前のようにいかだを詰め込んで並べるのではなく、養殖いかだの数を震災前の約3分の1に減らすという選択をしました。
結果は劇的でした。過密養殖をやめたことで一つひとつのカキに行き渡る餌(植物プランクトン)が増え、品質が向上し、出荷までの期間が短縮。かつては2〜3年かかっていた出荷サイズまでの成長が大幅に早まりました。それだけでなく、作業量が減ったことで労働時間が短くなり、休日が確保できるようになり、若い後継者の参加が増えるという、生産性と労働環境の両方の改善が起きたのです。「減らして育てる」ことが結果的に収益と担い手を増やした、という逆説が現実に成立しました。
南三陸町はその後、森林のFSC認証も取得し、FSC認証とASC認証の両方を取得した世界初の自治体となっています。森・川・海をひとつながりの流域として管理する発想が、認証という形で可視化された事例と言えます。詳しくはカキ養殖の復興 三陸が選んだ「減らして育てる」海の再生でも掘り下げています。
この産地を見る「南三陸戸倉っこかき」とASC認証|海さ、ございん日本で初めてASC養殖場認証を取得した宮城県南三陸町・戸倉のカキ養殖について、産地側が紹介するページ。🔗 umisagozain.com世界初のブリ、世界初のマダイ
日本の養殖はASCの世界でも先行例を生んでいます。コロナ前の2017年には宮崎県のブリが世界で初めてASC認証を取得し、2020年には愛媛県宇和島市で生産するマダイが世界初のASC認証を取得しました。いずれも日本が主要な生産国である魚種であり、基準づくりの段階から日本の養殖現場が関与したことを意味します。
MSC認証を取得した日本の漁業
天然漁業側でも、日本ではすでに複数の漁業がMSC漁業認証を取得しています。MSCジャパンが公表している一覧には、次のような漁業が並びます。
| 取得主体 | 対象漁業 |
|---|---|
| 北海道漁業協同組合連合会 | ホタテガイ垂下式漁・桁網漁業 |
| 明豊漁業株式会社 | カツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業 |
| 株式会社マルト水産 | カキ垂下式漁 |
| 株式会社臼福本店 | タイセイヨウクロマグロはえ縄漁業 |
| 尾鷲物産株式会社 | ビンナガマグロはえ縄漁業 |
| 伊藤忠商事株式会社 | カツオ・キハダマグロまき網漁業(2例) |
| かつお一本釣漁業株式会社 | カツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業 |
| 共和水産株式会社・明豊漁業株式会社 | カツオ・キハダマグロまき網漁業 |
| 大洋エーアンドエフ株式会社 | カツオ・キハダマグロまき網漁業 |
| 福一漁業株式会社 | キハダ・メバチ・ビンナガはえ縄漁業、カツオ・キハダ・メバチまき網漁業 |
一覧を見て気づくのは、カツオ・マグロ類の比率の高さです。MSCジャパンも、近年の日本ではマグロ・カツオ類を扱う事業者による認証取得が増えており、これは国内外でマグロ・カツオ類のMSC漁業認証が増え、取り扱いが拡大していることが関係していると分析しています。ツナ缶やツナサンドという形で機内食にも頻繁に登場する魚種であり、需要と認証が噛み合いやすい領域です。

現場が変わるメカニズム
- 審査基準を満たすため、養殖密度・漁具・記録の取り方といった具体的な操業が変わる
- 記録が残ることで、経験と勘に頼っていた判断がデータで検証できるようになる
- 販路と価格が安定すると、後継者にとって「続けられる仕事」に見えてくる
数字で見る、認証水産物市場の広がり
ここで、認証水産物がどの程度の規模になっているのかを数字で押さえておきましょう。
世界の漁獲の16.5%がMSC認証漁業から
MSCの公表によれば、2024年3月末時点で世界約60か国の572の漁業がMSCの漁業認証を取得しており、これらの漁業による漁獲量は世界の天然魚介類総漁獲量の16.5%を占めています。ラベル製品の面では、MSC「海のエコラベル」の付いた製品は2024年度に世界70か国以上で約22,000品目、日本では660品目が販売されました。国内ではイオングループ、生協・コープ、イトーヨーカドー・ヨーク、マクドナルドなどで購入できます。イオンの取り組みについてはイオン「トップバリュ」MSC・ASC認証水産物—売り場から海を守る調達改革で詳しく扱っています。
ASCは3年で市場が一気に伸びた
ASC側も伸びています。初の年次報告書によれば、世界の認定取得済みの養殖場は2021年に前年比で20%増え、ASC認証基準の社会的責任と環境の持続可能性の要件を満たした水産物の生産量は250万トン以上に達しました。
日本国内では、2023年5月時点で15企業・漁協の48養殖場が認証を取得し、CoC認証取得企業数は前年比10%増の187社、国産のASC認証製品も同じく10%増の576品となっていました。ASCジャパンが公表する「数字で見るASCマーケット」では、その後さらに拡大し、2026年3月時点で日本のASC養殖場認証は45件、CoC認証取得事業者は218件、ASCラベル付き製品は700件以上とされています。
| 魚種 | 2020年 | 2021年 | 2022年 |
|---|---|---|---|
| アトランティックサーモン | 約8,500トン | 約11,000トン | 約14,000トン |
| ギンザケ | 約1,000トン | 約2,500トン | 約6,000トン |
3年でアトランティックサーモンは約1.6倍、ギンザケにいたっては約6倍です。欧州と比べればまだ数分の一の規模ですが、伸び率という点では明確な変化が起きています。コロナ禍で物流・輸送上の問題が顕在化し、認証水産物の自給率拡大への関心が高まったことも背景として指摘されています。
外食・ホテルはどこまで本気か
業務用調達の本気度を示す具体的な数値もあります。ヒルトングループは日本・韓国・ミクロネシアの全ホテルで取り扱う水産物のうち30%をサステナブル・シーフードにするという目標を掲げていましたが、すでに35%に到達。ヒルトン東京ベイに限れば2023年4月に79.9%を達成したと報告されています。同ホテルでは生の国産サーモン(千葉県産・青森県産)はレストラン用、冷凍の輸入サーモンの腹身は朝食用サラダにするなど、食材の特性に応じて使い分ける工夫も行われています。
総合食品メーカーのニッスイからは、調達側では認証品の比率を上げている一方、販売比率という意味ではまだ少ないという現実も語られています。それでも「九州や中四国といった各地の生協が方針として認証製品の強化を掲げ始めたのがちょうど2021年ごろで、コロナ禍を経て流れが確実に変わってきた」という手応えが示されました。調達方針の変更が、数年かけて売り場と食卓に染み出してくる——そのタイムラグを含めて理解しておく必要があります。

追いつかない供給、コスト、グリーンウォッシュ——3つの壁
ここまで前向きな数字を並べてきましたが、認証水産物の調達には現実的な壁があります。企業事例を評価するうえでも、この壁を知っておくことが重要です。
壁①:そもそも供給が足りない
最大の制約は供給量です。MSC認証漁業が世界の天然漁獲に占める割合は16.5%。裏を返せば8割以上は非認証ということになります。特定の魚種を大量・安定的に必要とする業務用調達において、「認証品だけで献立を組む」ことは現時点では容易ではありません。国産に絞ればさらに厳しく、日本のMSC漁業認証取得漁業は十数件、ASC養殖場認証も数十件という規模です。
そして根本には、資源そのものの状態があります。FAOの『世界漁業・養殖業白書(SOFIA)2024』によれば、生物学的に持続可能な水準を超えて漁獲されている資源の割合は、直近2年間で35.4%から37.7%へと悪化しました。一方で2022年の世界の漁業・養殖生産は2億2,320万トンと過去最高を更新し、養殖による水生動物の生産量が初めて漁獲を上回りました。獲る漁業が頭打ちになるなか、育てる養殖の持続可能性がますます重い問いになっているという構図です。乱獲がどのように資源崩壊につながるかは乱獲で水産資源はなぜ崩壊するのか|タラ・ニシンの教訓と漁獲枠による回復策で解説しています。
壁②:コストとオペレーション
認証品は一般に調達価格が高くなります。審査費用、記録管理の人件費、分離保管のためのスペース——これらのコストはサプライチェーンのどこかが負担しなければなりません。原材料が高騰する局面では、この上乗せは軽くない。前出のヒルトン東京ベイでも「サプライヤーとのつながりを持ち、常に比較的安価な新しい食材を探してもらう」という企業努力を続けていることが語られています。
機内食の場合は、これに厳格な食品衛生基準、重量制限、冷却・再加熱への耐性といった追加条件が重なります。「認証を取得していて、なおかつ機内食のオペレーションに耐えられる食材」という条件を同時に満たす選択肢は、想像以上に狭いのが実情です。
壁③:認証さえあれば安心、ではない
認証制度そのものへの批判もあります。養殖業は、水質や海洋環境の汚染、薬剤の適切な利用、餌原料の資源への影響、逃避魚の生態系への影響、労働環境、地域社会との関係など、いくつもの課題を抱えています。なかでも藻類を除く養殖生産の70%以上は飼料に依存しており、その飼料に天然魚由来の魚粉・魚油が使われている限り、「養殖だから天然資源に負荷をかけない」とは単純に言えません。FAOの2020年時点の調査では、養殖業は世界の水産物生産量の49%を占めるまでに成長しています。
制度側もこの点は認識しており、ASCでは2023年5月30日、ラベルの価値と保証の向上を目的として、CoC認証の過程でGFSI(世界食品安全イニシアチブ)認定スキームの取得を必要とする食品安全要件などを追加した新モジュールが発効し、義務化されました(1年間の猶予期間あり)。基準は固定されたものではなく、批判を受けて更新され続けています。
小売の現場からは、こうした厳格化を前向きに捉える声も出ています。セブン&アイ・ホールディングスの担当者は「企業にとっていちばん怖いのは消費者からグリーンウォッシュじゃないかとみられること。そうした懸念を払拭し、企業をバックアップしてくれるという意味でもルールの厳格化はいいことだ」と述べています。認証は企業にとって「守り」でもあるという視点です。

評価するときのチェックポイント
- 「一部路線・一部メニューのみ」なのか「全社の調達方針」なのかを見分ける
- 取扱量の目標値(何%を認証品にするか)と実績値が公表されているか
- サプライチェーン全体でCoC認証を取得しているか(末端だけの表示ではないか)
- 期間限定キャンペーンで終わらず、継続的に更新されているか
土台となる資源管理と、私たちにできること
認証は万能薬ではありません。市場側からの働きかけである以上、その土台には国が行う資源管理がなければ機能しません。日本でもこの土台づくりが進んでいます。
改正漁業法とMSYベースの資源管理
水産庁は、改正漁業法のもとで、資源調査にもとづく資源評価を行い、MSY(最大持続生産量)を実現するために維持・回復させるべき資源量の水準を目標として資源を管理するという、国際的に見て遜色のない科学的・効果的な評価方法および管理方法の導入を進めています。管理手法はTAC(漁獲可能量)による管理が基本です。
2024年3月には「資源管理の推進のための新たなロードマップ」が策定・公表されました。主な内容は次のとおりです。
- MSYベースの資源評価対象資源を、現在の38資源から45資源程度に拡大する
- 2025年度までに、漁獲量ベースで8割の資源でTAC管理を開始する
- MSYベースの資源評価が行われている資源の6割以上について、資源量をMSY水準以上にする
- IQ(漁獲割当て)の運用面の課題解決(移転手続の簡素化等)を図る
- 2030年度に漁獲量を444万トンまで回復させることを目標とする
MSC認証の第3原則が「効果的な管理システムが機能していること」である以上、国の資源管理が前に進まなければ、日本の漁業が認証を取得できる余地も広がりません。企業の調達改革と国の制度改革は、車の両輪の関係にあります。
乗客として、消費者としてできること
個人にできることは、地味ですが確実に効きます。売り場で青いMSCラベルやターコイズ色のASCラベルを探すこと。外食やホテルで認証水産物のメニューがあれば選ぶこと。そして機内では、食事が要らない夜行便でミールスキップのような仕組みを積極的に使うこと。これらはすべて、企業に対して「この選択肢には需要がある」という信号を送る行為です。
企業の調達担当者は、売れない商品を作り続けることはできません。逆に、認証品が確実に選ばれるという実績が積み上がれば、調達比率の目標は引き上げられます。前出のニッスイの事例で、生協が方針を掲げたことで「売り上げも増え、関係も深まった」と語られていたように、需要側の意思表示が、供給側の投資判断を後押しするという循環が実際に起きています。
外食チェーンの動きも見ておきたい
航空以外でも、外食産業では資源に配慮した調達の工夫が広がっています。たとえば回転寿司チェーンの取り組みは、市場に出回らない魚を活用しながら漁業者の収入を支える設計になっており、認証とは別のアプローチで持続可能性に向き合う例として参考になります。詳しくはくら寿司の一船買いと未利用魚活用とは|外食企業が支える持続可能な漁業をご覧ください。

今日からできる3つのこと
- 買い物のとき、まず青いMSCラベル/ターコイズ色のASCラベルがある商品を探してみる
- 夜行便に乗るときは、機内食のスキップやサイズ選択のオプションがあるか事前に確認する
- 利用するホテル・外食チェーンのサステナビリティ情報を一度だけ読んでみる(数値目標があるかを見る)

この記事のまとめ
- MSCは天然漁業、ASCは養殖を対象とする国際認証。どちらも第三者審査と定期監査が前提
- 認証水産物として提供するには、サプライチェーン全体でのCoC認証が不可欠
- 日本のMSC CoC認証事業者は2025年9月末で400を突破し、世界3位。外食・ホテル・給食への広がりが顕著
- JALはジャルロイヤルケータリングでMSC・ASC・ASIAGAP認証食材を採用。ANAは機内食残渣100%リサイクルやサンゴ保全で貢献(MSC・ASC採用の公表は確認できず)
- 南三陸のカキ養殖は、密度を下げるASC対応が品質・成長・労働環境の改善を同時にもたらした
- 供給量・コスト・グリーンウォッシュという3つの壁があり、国の資源管理という土台が不可欠
参考文献・出典
- FAO(国連食糧農業機関) – 『世界漁業・養殖業白書(The State of World Fisheries and Aquaculture)2024』。世界の水産資源の状態と生産量の統計
- 水産庁 – 水産白書。我が国の資源管理、改正漁業法にもとづくMSYベースの管理と新ロードマップ
- MSC(海洋管理協議会)ジャパン – MSC認証の概要、日本のMSC漁業認証取得漁業一覧、CoC認証の解説
- MSCジャパン プレスリリース – 「MSC CoC認証の取得事業者数が日本国内で400を突破 中国、アメリカに次ぐ世界3位の水準に」(2025年10月30日)
- ASC(水産養殖管理協議会)ジャパン – ASC養殖場認証の基準、対象魚種、日本国内の認証件数(数字で見るASCマーケット)
- 日本航空(JAL)サステナビリティ – 「認証品の採用」。ジャルロイヤルケータリングによるMSC・ASC・ASIAGAP認証食材の採用について
- 日本航空(JAL)プレスリリース – 「機内食におけるSDGsに配慮した取り組みがさらに拡大」(2022年11月16日)。Meal Skip OptionとTABLE FOR TWO
- ANAグループ企業情報 – 生物多様性保全。チーム美らサンゴ、ANAこころの森プロジェクト、WWFジャパン法人会員
- ANA Future Promise – 「ANAにおけるサスティナブルな食の取り組みについて」(2022年9月16日)。ANAケータリングサービスの残渣100%リサイクル
- サステナブル・ブランド ジャパン – 「世界で広がる水産養殖のASC認証製品、日本でも3年で市場拡大」(2023年6月1日)。ヒルトン・ニッスイ・セブン&アイの発言を収録
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