⚡ 30秒でわかる答え

  • 海底湧水は、山に降った雨が地下を通って海底から湧き出す水で、川に並ぶ沿岸への栄養ルートです。
  • 福井県の小浜湾では、地下水による栄養物質の流入量が河川水の4〜19倍に達していました。
  • 地下水を汲みすぎると塩水化や湧水の減少が起こり、海への栄養供給にも影響しうるため、流域全体での保全が大切です。
4〜19倍
小浜湾で地下水が運ぶ栄養物質量(河川水比)
約85%
地下水流入のうち水深10m以深の沖合で起きた割合
200選
名水百選と平成の名水百選の合計

山に降った雨は、すべてが川を流れて海へ出るわけではありません。かなりの量が地面に浸み込み、地下をゆっくり進んで、海岸や海底から湧き出しています。この海底湧水は、沿岸の海を育てる大切な水の通り道です。

福井県の小浜湾での調査では、地下水が運ぶ栄養物質は河川水の4〜19倍にのぼり、その大半は水深10m以深の沖合で湧き出していました。見えない水が、海の豊かさを支えているのです。

一方で、地下水の汲みすぎは塩水化や湧水の枯渇を招きます。この記事では、海底湧水の仕組みから名水の保全、地下水マネジメントまでを、海とのつながりを軸に解説します。

この記事で学べること

  • 海底湧水(海底地下水湧出)の仕組みと、日本で多い理由
  • 小浜湾の研究が示した、沖合からの地下水流入の大きさ
  • 湧水が沿岸の植物プランクトンや貝・魚を育てる流れ
  • 名水百選と涵養林、水田など地下水をつくる土台
  • 過剰揚水による塩水化と、地下水マネジメントの考え方

海底から湧く水とは何か:見えない「第二の川」

海岸を歩いていて、干潮の砂浜から真水がじわじわと染み出しているのを見たことはないでしょうか。実はこれは、陸の地下水が海へ向かって流れ出している現場です。こうして海底や海岸から海へ出ていく地下水を海底湧水(海底地下水湧出)と呼びます。川のように目に見える流れではないため長く見過ごされてきましたが、近年の研究で、沿岸の海を育てる大切な水の通り道であることがわかってきました。

海底湧水の定義と仕組み

雨や雪解け水は地面に浸み込み、土や岩の隙間(帯水層)をゆっくり進みます。その一部は海岸線を越えて、砂や岩の割れ目から海底へと湧き出します。湧き出す水には、淡水だけでなく、いったん海から地下へ入り込んだ海水が再び循環して出てくるものも含まれます。研究では、この淡水成分と塩水成分を区別して評価することが重要とされています。

  • 淡水性の湧水:陸の雨水に由来し、窒素・リン・ケイ素などの栄養塩を運ぶ
  • 再循環した海水:砂浜や海底の堆積物を通り抜ける間に化学成分が変わって出てくる
  • 湧出の場所:潮間帯の砂浜から、沖合の海底まで広く分布する

日本が「地下水流出のホットスポット」といわれる理由

日本列島は降水量が多い湿潤な気候で、山地が海に迫る起伏の大きい地形をもち、火山地帯や砂礫層など透水性の高い地質が広がっています。さらに島国のため大きな河川が発達しにくい地域も多く、海へ出る水に占める地下水の割合が相対的に大きくなります。こうした条件がそろうため、日本は世界的に見ても地下水が海へ流れ出しやすい国のひとつと考えられています。

山地の雨水が地下水となり、海底から湧き出す断面イメージ
山に降った雨は、地下をゆっくり進んで海底から湧き出す

この記事で扱うこと

この記事では、海底湧水が沿岸の生態系を支える仕組み、日本の名水と湧水の保全、そして過剰な地下水の汲み上げが引き起こす塩水化の問題までを順に整理します。関連して、地下水が育まれる仕組みは地下水はどこから来るのか、水源の森の役割は水源の森と水循環の記事も参考になります。

どうやって測るのか

海底湧水は目に見えないため、調べるには工夫が必要です。代表的な方法のひとつが、地下水に多く含まれる天然の放射性物質(ラドンやラジウム)を指標にする方法です。これらは海水中にはほとんど含まれませんが、地下水には豊富に含まれるため、海水中の濃度を測れば地下水がどれだけ入り込んでいるかを推定できます。このほか、海底に設置した「シープメーター」という装置で湧出量を直接測る方法や、海水の塩分・水温のわずかな違いを調べる方法も使われます。

  • ラドン・ラジウム法:地下水に特有の物質を海水中で測り、流入量を推定する
  • シープメーター:海底に半球状の容器をかぶせ、湧き出す水を直接集める
  • 塩分・水温の観測:湧水は周囲の海水と性質が違うため、その差から位置を探る

こうした手法の発展によって、これまで推測にとどまっていた海底湧水の規模が、少しずつ数字で語れるようになってきました。

淡水と塩水を分けて考える意味

湧水を一括りにせず、淡水性の地下水と再循環した海水に分けて評価することで、陸から運ばれる栄養なのか、海の中で循環しているだけなのかが見えてきます。小浜湾の研究で、淡水性の地下水に限ると沖合での流出が約97%に達したことは、陸の水が思った以上に沖まで届いていることを示しています。

海底湧水が運ぶ栄養:川に匹敵する物質輸送

海の生き物を育てるには、植物プランクトンや海藻が使う栄養塩が欠かせません。その栄養塩の主な供給元として、従来は川の水が注目されてきました。しかし海底湧水の研究が進むと、地下水が運ぶ物質量は川と同等かそれ以上になる海域があることが示されてきました。

窒素・リン・ケイ素を運ぶ地下水

地下水は、森林土壌や農地、市街地を通る間にさまざまな物質を溶かし込みます。海底湧水は窒素、リン、ケイ素といった栄養塩の重要な供給経路であり、グローバルな評価でも栄養塩の供給量は河川と同等またはそれ以上と報告されています(日本水産学会誌の解説による)。とくにケイ素は珪藻類の殻の材料になるため、食物連鎖の土台を支える意味があります。

小浜湾の研究が示した「沖合」の重要性

福井県立大学の杉本亮教授らは、若狭湾の小浜湾をモデルサイトに、ラドンとラジウムという2種類の放射性物質を指標にして地下水の流入を調べました。2023年に国際学術誌 Science of The Total Environment に発表された成果では、次のことが明らかになりました。

調査項目明らかになったこと
全地下水流入量河川水の約10倍に達していた
栄養物質(窒素・リン・ケイ素)の供給量河川水の4〜19倍に達していた
地下水流入が起きる場所約85%が水深10m以深の沖合域で生じていた
淡水性地下水に限った場合沖合域で約97%が流出していた
小浜湾における地下水流入の調査結果(福井県立大学の発表より)

これまで海底湧水の調査は、歩いて確かめやすい浅い海岸に偏りがちでした。この研究は、実は見えにくい沖合の海底から大量の地下水が出ていることを示した点で重要です。さらに世界53海域のデータを再解析したところ、沖合域の地下水流入が浅海域を上回る傾向も確認されたと報告されています。

ここがポイント

  • 海底湧水は川と並ぶ、もうひとつの陸から海への栄養ルート
  • 日本では沖合の海底からの湧出が大きい海域がある
  • 栄養塩の質(窒素・リン・ケイ素のバランス)も生態系に影響する
この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

栄養塩のバランスという視点

海の生き物にとって大切なのは、量だけではありません。窒素・リン・ケイ素の比率が変わると、増える植物プランクトンの種類も変わります。ケイ素が十分にあれば殻をつくる珪藻が増え、これが二枚貝や小型の動物プランクトンのえさとして好まれる傾向があります。一方、窒素やリンばかりが過剰でケイ素が少ないと、有害な藻類が増えやすくなることも知られています。地下水は、森や土壌の岩石から溶け出したケイ素を含むため、海の栄養バランスを整える役割を担う可能性があります。

人間活動の影響も運ぶ

地下水は、よいものだけを運ぶわけではありません。農地に過剰にまかれた肥料の窒素、生活排水、工場や廃棄物処分場に由来する汚染物質が地下に浸み込み、時間をかけて海へ届くこともあります。地下水は動きがゆっくりなので、汚染が顕在化するまで数年から数十年かかる場合があり、いったん汚れると回復にも時間がかかります。海底湧水を守ることは、陸の土地利用を見直すことでもあります。

注意したいこと

  • 地下水は流れが遅く、汚染が海に届くまで長い時間差がある
  • 陸の肥料や排水の管理が、数年〜数十年後の沿岸の海に影響しうる
  • 湧水の質と量の両方を長期的に見守る必要がある

湧水が育む沿岸の生態系:植物プランクトンから底生生物まで

海底湧水の周辺は、水温や塩分、栄養の条件が周囲と少し違う「特別な場所」になります。そこには独特の生き物のにぎわいが生まれることがあります。

植物プランクトンと海藻

栄養塩が供給されると、植物プランクトンが増えやすくなります。調査報告では、湧水が植物プランクトンやメイオベントス(砂や泥の粒の間にすむ微小な生き物)、底生生物に良い効果をもたらす例が多く報告されています。一方で、栄養塩が過剰になれば赤潮や貧酸素の原因にもなりうるため、「ちょうどよい量と質」が大切です。この点は栄養塩の流出と富栄養化の記事とも深くつながります。

貝類・魚類を支える食物連鎖

植物プランクトンや付着藻類は、二枚貝や小さな甲殻類のえさになり、それらを食べる魚へと食物連鎖がつながります。湧水の出る場所が好漁場になっていたり、牡蠣などの貝類が育ちやすかったりすることは、各地の漁業者の経験則としても語られてきました。

「森は海の恋人」が示す考え方

宮城県気仙沼の牡蠣養殖家・畠山重篤さんが1989年に始めた植樹運動「森は海の恋人」は、森から川、地下水を通って運ばれる養分が海の恵みを育てるという考え方を広めました。川だけでなく地下を流れる水の道も含めて、山と海を一体の水循環として見ることがこの運動の核心です。

  • 森林土壌がためた水が、ゆっくりと地下水になる
  • 地下水がミネラルや鉄などを溶かして海へ運ぶ
  • 沿岸のプランクトン、海藻、貝類、魚が育つ

藻場・干潟・サンゴ礁との関係

栄養塩を適度に含む湧水は、アマモ場や海藻の藻場、干潟の底生生物の生育を支えることがあります。藻場は魚の産卵・稚魚の育成場所になるため、湧水が出る場所を中心に生物が集まる例もあります。サンゴ礁の島々でも、地下水を通じた栄養や淡水の流入がサンゴ礁の環境に関わっており、陸と海を一体として管理する研究が進められています。関連して、アマモ場と稚魚の記事もあわせてご覧ください。

湧水がつくる局所的な環境

湧水が出る場所では、周囲より水温が低く塩分が低い水が湧くため、季節を通じて環境が安定した小さな避難場所のようになることがあります。夏の高水温が続く海域でも、湧水の周辺だけは水温が低めに保たれ、生き物が逃げ込める可能性があります。気候変動で海の水温が上がる中、こうした場所は貴重な「逃げ場」になりうるとして注目されています。

森と海は、地下の水でもつながっている。

― 海底湧水の研究から見えてきた考え方

日本の湧水と名水:地域が守ってきた水

海へ出る前の地下水は、各地で湧水となって人々の暮らしを支えてきました。飲み水、農業用水、豆腐や酒づくり、信仰の場まで、湧水は地域文化と深く結びついています。

名水百選と平成の名水百選

環境庁(現・環境省)は1985年に「名水百選」として全国の湧水・河川・地下水など100か所を選びました。その後、2008年には「平成の名水百選」として新たに100か所が選定され、両者に重複はなく、合わせて200選となっています。選定では保全状況が良好であることと、地域住民による保全活動があることが重視されました。とくに平成の名水百選では、住民が主体的かつ継続的に水環境を守る活動がある点が重視されています。

名水百選の数字

  • 名水百選:1985年選定、100か所
  • 平成の名水百選:2008年選定、100か所
  • 合計200選(重複なし)

湧水は海とつながっている

山麓で湧く水の一部は川に合流して海へ向かい、一部は地下を通って沿岸の海底から湧き出します。つまり名水を守る取り組みは、下流の海の栄養環境を守る取り組みでもあります。湧水の代表例や文化は日本の湧水の記事で紹介しています。

保全活動の担い手

湧水保全の中心は、清掃、水質調査、周辺の森づくり、学校での環境学習など、地域の人々による地道な活動です。水の流れは見えにくいからこそ、身近な湧水を入口に、水の旅を想像することが保全への第一歩になります。

湧水と地域の暮らし・文化

日本各地には、湧水を中心に発達した町や集落があります。湧水は一年を通して水温が安定しているため、夏は冷たく冬は温かく感じられ、野菜や果物を冷やす、洗い物をするといった生活の場として使われてきました。酒蔵や豆腐店、わさび田など、水質のよい湧水に支えられた産業も多くあります。神社や祠が湧水の近くにあるのも、水を神聖なものとして大切にしてきた文化の表れです。水と神社の文化もあわせてご覧ください。

湧水が減る原因

湧水が減る原因には、宅地やアスファルトの拡大で雨が地中に浸み込みにくくなること、森林や農地の減少、地下水の過剰な汲み上げ、トンネルや地下工事による地下水脈の変化などがあります。都市部では、かつて湧いていた水が枯れ、わずかに残った湧水が地域の宝になっている例もあります。都市の水辺の環境は都市の水辺環境の記事で取り上げています。

湧水が減る原因起こること
市街化(舗装・建物の増加)雨が浸み込まず、涵養量が減る
森林・水田の減少水をためる力が弱まる
過剰な揚水地下水位が下がり、湧水が枯れる
地下工事地下水の流れが変わる
湧水が減る主な原因

涵養林と水源の森:地下水をつくる土台

地下水は空から勝手に湧いてくるわけではありません。雨を受けとめ、ゆっくり地中へ浸み込ませる地表の環境が必要です。その代表が森林と農地、そして水田です。

森林土壌のスポンジ機能

森林の土は、落ち葉や根、土壌動物のはたらきでふかふかした構造をもち、雨水を一時的にためながらゆっくり地下へ送ります。これを水源涵養機能と呼びます。荒れた人工林や放置された森では、土壌が固く締まり、浸透が弱くなることがあるため、間伐などの手入れが重要です。詳しくは水源の森と水循環をご覧ください。

水田や農地の役割

水を張った水田は、地下水を補充する場所としても知られています。熊本地域では、水田に水を張って地下水を涵養する取り組みが広がっています。農地の減少や宅地化は、涵養量の低下につながることがあります。

沿岸の森が海を守る

海岸近くの森林(魚付き林や海岸林)も、土砂や栄養の流れを整える役割をもつと考えられています。海岸林の再生は海岸林の再生の記事でも紹介しています。

森林が雨を受けとめて地下へ浸み込ませる仕組み
森の土は雨水をためて、ゆっくり地下へ送る

人工林の手入れと水源涵養

戦後に植えられたスギ・ヒノキの人工林は、手入れが行き届かないと林内が暗くなり、下草が生えなくなります。すると雨滴で土がむき出しになり、表面が固まって水が浸み込みにくくなります。間伐によって林内に光が入ると下草や落ち葉が増え、土壌がふかふかになって浸透力が回復します。水源地の森づくりは、地下水と湧水を守る確実な方法のひとつです。

広葉樹との混交林という選択

針葉樹だけの森より、広葉樹が混じった森のほうが、根の張り方が多様で土壌の構造が豊かになりやすいといわれます。地域によっては、水源を守るために針葉樹と広葉樹の混交林へ誘導する取り組みも進められています。

涵養を支える3つの土台

  • 森林:落ち葉と根のスポンジで雨をためる
  • 水田:水を張ることで地下水を補充する
  • 公園・緑地・浸透ます:都市でも雨を地中に返す

過剰揚水と塩水化:地下水を汲みすぎると何が起こるか

地下水は便利な水資源ですが、補充される量を超えて汲み上げると、さまざまな障害が起こります。海に近い地域で特に問題になるのが塩水化です。

塩水くさびと淡水レンズの仕組み

海岸付近の地下では、軽い淡水が重い海水の上に乗るように分布しています。陸側から海へ向かう淡水の流れ(水頭差)が、海水の内陸への侵入を押しとどめています。淡水の水位が海面より1m高ければ、その下の淡水の厚みはおよそ40mになるという関係(ガイベン・ヘルツベルグの関係)が知られています。つまり、地下水位が少し下がるだけで、淡水の層は大きく薄くなります。

ガイベン・ヘルツベルグの関係

  • 海水の密度は淡水よりおよそ2.5%重い
  • そのため淡水の水位が1m下がると、淡水層は約40m薄くなる計算
  • 地下水位の低下は、見た目以上に大きな影響をもつ

日本で起きた地下水障害

日本では1960年代に、地下水の過剰な揚水による広範な地盤沈下や地下水の塩水化といった地下水障害が各地で発生しました。いったん塩水化した地下水は、自然に回復するまで長い年月がかかるとされています。そのため環境省は、地盤沈下、地下水汚染、塩水化などを防ぎ、生態系を含む良好な地下水環境を確保するための「地下水保全」ガイドラインを策定しています。

海への影響

地下水を過剰に汲めば、陸から海へ流れ出る地下水の量も減ります。これは海底湧水を通じた栄養塩の供給を弱める可能性があります。地下水の保全は、水道や農業のためだけでなく、沿岸の海を守る意味ももっているのです。

問題起こること対策の例
塩水化井戸水に塩分が混じり、飲用・灌漑に使えなくなる揚水量の規制、地下水位のモニタリング
地盤沈下地盤が沈み、浸水や建物被害のリスクが高まる地下水採取の規制、代替水源の確保
湧水の枯渇湧水が減り、川や海への供給も減る涵養域の保全、水田涵養
海への栄養供給の変化沿岸の生産性や生態系に影響しうる流域全体の水循環管理
地下水の過剰利用で生じる主な問題

沿岸での具体的な事例のイメージ

たとえば、井戸水を灌漑や生活に使ってきた海沿いの農村地域で、汲み上げ量が増えると、井戸水の塩分が高まって作物に影響が出ることがあります。こうした地域では、地下水位や塩化物イオン濃度を定期的に測り、一定の基準を超えたら取水を制限するなどのルールがつくられています。また、島しょ部では、雨水が島の地下にたまった淡水レンズが唯一の水源というケースもあり、わずかな揚水の増加で水質が悪化しやすいため、慎重な管理が求められます。

気候変動と海面上昇の影響

海面が上昇すると、海水と淡水の境界が内陸側へ押し上げられ、沿岸の地下水の塩水化がさらに進むおそれがあります。降水パターンの変化によって涵養量が減れば、同じ揚水量でも影響が大きくなります。日本沿岸の海面上昇の記事とも関連が深いテーマです。

知っておきたいこと

  • 塩水化は一度進むと回復に長い年月がかかる
  • 海面上昇や少雨が、塩水化のリスクを高める可能性がある
  • 早めの観測と揚水ルールの設定が被害を防ぐ

地下水マネジメント:水循環基本法と流域の取り組み

地下水は、一度に使いすぎれば他の人の井戸や湧水、さらに海まで影響が及びます。だからこそ、地域全体で守る「地下水マネジメント」が求められています。

水循環基本法の登場

2014年に水循環基本法が成立し、翌2015年に水循環基本計画が閣議決定されました。この計画では、持続可能な地下水の保全と利用を進めることが位置づけられ、地域全体で効率的・効果的に地下水を管理することを目指しています。

地下水マネジメントのしくみ

地下水マネジメントとは、地域の関係者が協議の場をつくり、地下水の現状(水位、水質、利用量)を共有して、利用と保全のルールを合意していく取り組みです。内閣官房の水循環政策本部事務局や国土交通省が、考え方や事例を紹介しています。

  1. 地下水の状態を調べる(水位・水質・利用量の観測)
  2. 関係者で課題と目標を共有する(協議会の設置)
  3. 揚水量や涵養の目標、ルールを決める
  4. 継続的にモニタリングし、見直す

海との関係を組み込む視点

これからの地下水マネジメントでは、淡水資源としての利用だけでなく、沿岸生態系への栄養供給という「海への贈り物」の側面も考える必要があります。小浜湾の研究のように、沖合の湧出まで含めて評価する技術が発展すれば、海と陸をつなぐ水の管理はいっそう進むはずです。

地下水マネジメントの関係者が協力して水を守るイメージ
山から海まで、関係者が一緒に地下水を守る

市民が参加する観測と保全

地下水の管理は、専門家の観測だけでは十分ではありません。井戸の水位や水温、湧水の湧出量や透明度を、地域の住民や学校が定期的に記録する取り組みは、変化に気づく大きな力になります。市民が集めた長期のデータは、行政や研究者の分析にも役立ちます。海の観察と同じように、湧水の観察は市民科学の入り口にもなります。日本の市民科学の記事も参考になります。

今後の課題

  • 沖合の海底湧水を、より広い海域で継続的に測る技術と体制づくり
  • 地下水の利用量・水質・海への流出量を一体で評価する仕組み
  • 気候変動で変わる降水・海面の条件を織り込んだ管理計画
  • 陸の肥料や排水が地下水を経て海に届く影響の長期評価

私たちにできること:暮らしから考える水の旅

海底湧水や地下水の保全は、専門家や行政だけの仕事ではありません。日々の暮らしの中でできることがあります。

身近な湧水を知る・訪ねる

まずは住んでいる地域の湧水や名水を調べてみましょう。環境省の名水百選ポータルには、各地の名水の情報がまとめられています。訪れて水に触れることが、水への関心の入り口になります。

水を大切に使う

節水は、地下水の汲み上げを減らすことにつながります。家庭での節水の工夫は水資源の節約技術の記事も参考になります。

森づくり・清掃活動・環境学習に参加する

植樹や間伐体験、河川や海岸の清掃、環境学習イベントは、水循環を守る具体的な参加の機会です。ビーチクリーン活動のように、海と陸のつながりを実感できる活動もあります。

今日からできること

  • 住んでいる地域の湧水・名水を調べてみる
  • 歯みがきやシャワーなど、水の出しっぱなしを減らす
  • 地域の森づくりや海岸清掃のイベントに参加する
  • 井戸を使っている場合は、水位や塩分の変化に気を配る
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

海の学びにつなげる

湧水は、水循環と海洋の学びをつなぐ格好の教材です。子どもたちと近くの湧水を訪れ、水温や透明度を測り、「この水はどこから来て、どこへ行くのだろう」と話してみましょう。山から川、地下水、海へと続く水の旅を想像すると、海の環境問題が自分の暮らしの延長にあることが実感できます。海洋教育の観点は海洋リテラシー教育の記事で紹介しています。

見えない水に目を向けることは、見えない海の変化に気づく力にもつながります。今日のコップ1杯の水の行き先を、ぜひ想像してみてください。

参考文献・出典

  1. 福井県立大学|小浜湾をモデルサイトに沖合域での地下水流出の重要性を明らかにしました – 小浜湾の地下水流入の研究発表(2023年)
  2. 日本水産学会誌|Ⅱ-1. 地下水海底湧水による海域への栄養塩供給 – 本田尚美(2016)
  3. 豊かな海づくりに資する海底湧水の保全の取り組みについて(三重県議会資料) – 福井県立大学 杉本亮氏による説明資料
  4. 環境省|名水百選ポータル – 名水百選・平成の名水百選
  5. 環境省|「地下水保全」ガイドライン – 地下水障害の防止と持続可能な地下水利用
  6. 内閣官房|地下水マネジメントとは – 水循環政策本部事務局
  7. 国土交通省|水資源:地下水マネジメントについて – 地下水マネジメントの取り組み
  8. EICネット|環境用語集「塩水化」 – 塩水化の解説
  9. 地盤工学会 中国支部|沿岸部での地下水の流れと塩水くさび – 塩水くさびの解説

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