⚡ この記事の要点
海洋教育・オーシャンリテラシーとは何かを、NOAAの7原則や海洋基本法、気仙沼・唐津の実践例、日本財団の意識調査データから読み解く。海に行ったことのない子どもが増える中、学びが海を守る次世代をどう育てるかを解説する。
海に行ったことがない子どもは、大人になっても海を守ろうと思うだろうか。日本財団の調査では、子ども時代の海体験が「年に1日未満」だった人が68%にのぼる一方、大人になっても海に行きたいと感じている人の63%は「年2〜4日以上」海と接していたという結果が出ている。海への関心は、知識としてではなく体験として育つものだということを、このデータは静かに示している。
「海洋教育」ということばは、2007年に制定された海洋基本法によって国の施策として明確な位置づけを得た。同法第28条は、学校教育・社会教育を通じて海に関する国民の理解を深めることを国の努力義務としている。以来、国土交通省・環境省・文部科学省がそれぞれの立場から教材づくりや学習指導要領との連携を進め、気仙沼や唐津のように地域ぐるみで実践する自治体も生まれてきた。
海外に目を向けると、アメリカのNOAA(海洋大気庁)が整理した「オーシャンリテラシー7原則」が、世界の海洋教育の共通言語になっている。UNESCO政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)も、気候変動や生物多様性の危機が深刻化する中で、各国のカリキュラムに海の内容をもっと組み込むよう政策提言を行っている。この記事では、日本と世界の海洋教育の現在地を、データと実践例から整理する。
この記事で学べること
- 海洋教育・オーシャンリテラシーの定義と、なぜ今必要とされているか
- NOAA・UNESCOが示す「海洋リテラシー7原則」の中身
- 日本の学習指導要領・海洋基本法における海洋教育の位置づけ
- 気仙沼・唐津など地域ぐるみの実践例
- 子どもの海体験が将来の意識・行動に与える影響
- 家庭や地域で今日からできる海洋教育的アクション
海洋教育・オーシャンリテラシーとは何か
「海洋教育」とは、学校や地域社会を通じて、海の自然・文化・産業・環境問題への理解を深め、海と人との関わり方を考え行動できる人材を育てる教育活動を指す。日本では2007年制定の海洋基本法が、この考え方を国の施策として初めて明文化した。
海洋教育の定義と海洋基本法
海洋基本法第28条は、国が学校教育・社会教育における海洋に関する教育を推進し、国連海洋法条約をはじめとする国際的な取り組みの周知や、海洋に親しむレクリエーションの普及を図るよう努めることを定めている。あわせて、大学等における学際的な教育・研究を通じて、海洋政策の課題に対応できる人材を育成する努力義務も規定した。四方を海に囲まれた海洋国家でありながら、それまで海洋教育を体系的に位置づける法律がなかったことを踏まえた条文だといえる。
海洋基本法に基づき、政府は概ね5年ごとに「海洋基本計画」を閣議決定して具体的な施策を積み上げている。2023年4月に決定された第4期計画は「総合的な海洋の安全保障」と「持続可能な海洋の構築」を2つの柱に掲げ、その中に海洋人材の育成・海洋教育の推進も主要施策の一つとして位置づけられた。法律という土台の上に、5年単位の具体的な計画が積み重ねられていく構造になっている。
海洋教育を構成する4つの視点
- 海に親しむ ― 五感で海を体験する
- 海を知る ― 自然科学・社会科学として海を学ぶ
- 海を守る ― 環境問題や保全の当事者になる
- 海を利用する ― 漁業・海運・観光など海の恵みを持続的に活かす
日本の陸地面積は世界第61位に過ぎないが、領海と排他的経済水域(EEZ)を合わせた海の面積は国土の約12倍にあたる約447万平方キロメートルに達し、世界第6位の広さを誇る。太平洋にぽつんと浮かぶ南鳥島や沖ノ鳥島のような小さな島々が、この広大な「海の領土」を支えている。国土の狭さの陰に隠れがちだが、日本は紛れもない海洋国家であり、それに見合う海への理解を国民が持てているかどうかが、海洋教育の出発点にある問いだといえる。
オーシャンリテラシーということば
英語圏では「Ocean Literacy(オーシャンリテラシー)」という表現が定着している。これは単なる海の知識量を指すのではなく、「海が自分にどう影響し、自分が海にどう影響しているかを理解する力」と定義される。この定義を体系化したのがアメリカ海洋大気庁(NOAA)で、2005年前後から教育関係者・研究者との協働で枠組みを整備し、最新版は2024年1月公開のバージョン3.2にあたる。
この考え方が重要なのは、海の話題を「魚や船の知識」に矮小化しないためだ。海は気候をつくり、酸素の相当量を供給し、経済活動の基盤にもなっている。オーシャンリテラシーは、こうした複数の分野にまたがる海の役割を、理科・社会・家庭科・総合的な学習の時間など教科の枠を横断して理解する力として設計されている点に特徴がある。単発の校外学習で「海に行った」だけで終わらせず、体系的な知識と結びつけることが、この概念のねらいである。
なお、日本の海洋教育は海洋基本法という法律を出発点に発展してきたのに対し、NOAAのオーシャンリテラシーは研究者・教育関係者のボトムアップな協働から生まれた点で経緯が異なる。トップダウンの制度整備とボトムアップの現場発の枠組みという、それぞれ異なる出自を持つ二つの流れが、結果的に「知識と体験の両立」という同じ結論に近づいている点は興味深い。
なぜ今、海洋教育が必要とされているのか
海から遠ざかる子どもたち
日本財団が2017年から2年おきに実施している「海と日本人」に関する意識調査は、2024年で4回目を迎え、初めて小学生とその親を対象にした調査を行った。結果は示唆に富む。小学生の75%は「海に行きたい」と答えた一方で、子育て世代の海への意識は相対的に低く、行きたい気持ちほどには実際に海へ足を運べていない実態が浮かび上がった。

気候変動・生物多様性の危機と教育の役割
海水温の上昇によるサンゴの白化、乱獲や海洋プラスチックによる生態系への負荷など、海が直面する課題は年々複雑になっている。国際的には海洋保護区(MPA)の拡大を目指す30by30目標のような政策対応も進むが、制度をつくるだけでは足りない。UNESCO政府間海洋学委員会(IOC-UNESCO)は、気候変動や生物多様性の損失、経済的な持続可能性といった課題に世界が向き合う中で、オーシャンリテラシーを教育システムの基盤要素として位置づけるべきだと各国の政策担当者に呼びかけている。危機の解決を将来世代に託す以上、まず海を「自分ごと」として理解できる教育の土台が欠かせないという発想である。
教育の外側にある社会的な効果
海洋教育の意義は、環境問題への意識づけだけにとどまらない。造船・海運・水産・海洋エネルギーなど、海洋産業は日本経済の重要な一角を占めており、こうした分野を担う人材が将来にわたって確保できるかどうかは、産業政策上の課題でもある。あわせて、津波や高潮など海に由来する自然災害への備えを子どもの頃から身につけることは、防災教育の観点からも重要だ。気仙沼のように震災の経験を海洋教育に統合してきた地域があるのは、この二つの側面が本来切り離せないことを物語っている。
海洋教育を進める上での現場の課題
理念には賛同が集まりやすい一方、教育現場での実践にはいくつかの壁がある。第一に、理科・社会・総合的な学習の時間など複数教科にまたがるテーマであるがゆえに、誰がどの時間を使って教えるのかが曖昧になりやすい。第二に、海洋教育を専門的に学んだ教員は少なく、教材があっても指導に自信が持てない教員が一定数いる。第三に、海に面していない内陸の学校では、実体験を伴う学習機会そのものが物理的に限られる。国土交通省や環境省の教材整備、大学の研究センターによる教員研修は、こうした壁を一つずつ取り除くための取り組みだと位置づけられる。
こうした課題は、海洋教育に限らず環境教育全般が抱える共通の悩みでもある。裏を返せば、海洋教育の現場で見つかった工夫やノウハウは、森林や河川、生物多様性など他の環境テーマの教育にも応用できる可能性を持つ。海は地球上のあらゆる生態系とつながっているという原則6の考え方は、教育方法そのものにも当てはまるのかもしれない。
NOAA・UNESCOが示す「海洋リテラシー7原則」
NOAAが整理したオーシャンリテラシーの枠組みは、7つの「エッセンシャル・プリンシプル(基本原則)」と、それぞれを補足する合計45の「基本コンセプト」で構成される。学齢を問わず誰もが知っておくべき海の知識体系として、世界の教育プログラム設計の参照軸になっている。
7つの原則の中身
| 原則 | 内容の要約 |
|---|---|
| 原則1 | 地球には多様な特徴を持つ、ひとつの大きな海洋がある |
| 原則2 | 海洋と海洋の生物は、地球の姿かたちを形づくっている |
| 原則3 | 海洋は気象と気候に大きな影響を与えている |
| 原則4 | 海洋は地球を生命が住める場所にしている |
| 原則5 | 海洋は多様な生態系と生物多様性を支えている |
| 原則6 | 海洋と人間は切り離せないほど深く結びついている |
| 原則7 | 海洋の大部分は、いまだ十分に探査されていない |
この7原則で興味深いのは、原則6「海洋と人間は切り離せないほど深く結びついている」が、単に「海は大切だ」という情緒的なメッセージではなく、私たちが呼吸する酸素の相当量が海の植物プランクトンに由来すること、海が余分な二酸化炭素と熱の大部分を吸収していること、貿易や食料の多くが海を介して成り立っていることなど、具体的な事実の集合として示される点だ。
原則7「海洋の大部分は未探査」の裏づけ
NOAAは、世界の海洋の80%以上が地図化・観測・探査されていないと説明している。2026年時点で最新型のマルチビームソナーによって高解像度に地図化された海底は全体の約28.7%にとどまり、実際に人の目や機器で「探査」された深海底の面積は、ロードアイランド州ほどの大きさに相当する0.001%未満とされる。海洋底の完全地図化を2030年までに目指す国際プロジェクト「Seabed 2030」も進行中だ。海は身近であると同時に、人類にとって最も知られていない場所のひとつでもある。

45の基本コンセプトとは
7つの原則それぞれには、より具体的な知識を示す「基本コンセプト」が数個ずつ紐づけられており、全体で45項目に及ぶ。例えば原則3(気候への影響)には、海洋が地球表面の熱の大部分を蓄え、大気との間で熱と水分を交換しているといった具体的な事実が含まれる。教員やカリキュラム開発者は、この45項目を学年やテーマに応じて分解し、理科・社会・総合的な学習の時間などに落とし込んでいく。UNESCOも2017年に発行した「Ocean Literacy for All」ツールキットで、この枠組みを世界の教育現場に広げる取り組みを進めてきた。
NOAAのフレームワークが優れているのは、知識の一覧であると同時に、教育カリキュラムを設計するための「共通言語」として機能する点にある。国や言語が違っても、7原則と45コンセプトという同じ座標軸を参照すれば、自国のカリキュラムのどこに海の視点が不足しているかを点検できる。日本の学習指導要領との対応関係を整理した研究も進んでおり、国内の海洋教育プログラムを国際的な枠組みと接続させる土台になっている。
実務的には、この45コンセプトは授業設計のチェックリストとしても使われる。例えば「海の生き物」を扱う単元をつくる際、原則5(生物多様性)の視点だけでなく、原則2(海洋生物が地形を形づくる)や原則6(人間との結びつき)の視点も盛り込めているかを確認することで、単なる図鑑的な知識の紹介にとどまらない、立体的な授業に仕上げることができる。海洋教育の教材を評価・改善する際のものさしとしても機能している。
日本の学校教育における海洋教育の位置づけ
学習指導要領と海洋教育プログラム
国土交通省は、改訂された学習指導要領に対応する形で、小中学校の教員向けに「海洋教育プログラム」を作成・公開している。小学校社会科、中学校社会科地理的分野の授業に無理なく組み込めるよう設計されており、海上輸送・造船・港湾といった海事産業に関する内容が教材として充実してきた。四方を海に囲まれた国でありながら、海事に関する記載が教科書の中で限られていたことへの対応という側面がある。

環境省・文部科学省の連携(ESD)
環境省は、持続可能な開発のための教育(ESD)を実践するためのWebコンテンツ「学びの地図」を公開し、海洋に関する学習内容を含む教育プログラムを、学習指導要領の各教科の単元と連携させる形で提供している。文部科学省も環境教育全般の枠組みの中で海洋分野を位置づけており、国土交通省・環境省・文部科学省という複数省庁が役割分担しながら教材や機会を整備している状態だといえる。
教科の枠を超えた学びへ
近年の学習指導要領は「総合的な学習(探究)の時間」を通じて、教科横断的なテーマを扱うことを推奨している。海洋教育はまさにこの枠組みと相性がよい。理科の視点からは海流や生態系を、社会科の視点からは漁業や貿易を、家庭科の視点からは水産物と食生活を、それぞれ別の角度から同じ「海」というテーマに接続できるからだ。ある地域では地元の漁港を訪ね水揚げの様子を観察したうえで、教室に戻って流通の仕組みを調べるといった、体験と座学を往復する探究学習が組まれている。こうした設計は、7原則が目指す「複数の教科にまたがる海の理解」を、日本の教育制度の中で実現する具体的な方法のひとつになっている。
| 校種・教科 | 海洋教育との接点の例 |
|---|---|
| 小学校 理科 | 潮の満ち引き、海の生き物のくらし、水の循環 |
| 小学校 社会科 | 水産業のさかんな地域、貿易と港のはたらき |
| 中学校 社会科(地理的分野) | 排他的経済水域、海上輸送、水産資源と漁業 |
| 中学校 理科 | 海流と気象、プレートテクトニクスと海溝 |
| 高校 地理総合/地学 | 海洋環境問題、気候変動と海洋循環 |
| 総合的な学習(探究)の時間 | 地元の海・港・漁業を題材にした課題解決型学習 |
地域で育つ海洋教育:気仙沼・唐津の実践
気仙沼市のESD・海洋教育
宮城県気仙沼市は20年以上にわたりESDに取り組んできた自治体のひとつで、東日本大震災以降は防災教育の視点をESDに統合し、地域のNPOと協働しながら復興を支える教育活動を展開してきた。海と生きる産業と、海が牙をむいた震災の記憶の両方を抱える気仙沼だからこそ、海洋教育が「海を知る」だけでなく「海と共に生きる覚悟を育てる」学びとして根づいている。津波で校舎や漁港を失った経験を持つ地域の子どもたちにとって、海はやみくもに恐れる対象でも、無条件に賛美する対象でもなく、恵みと脅威の両面を正しく理解した上で付き合っていく相手として学ばれている。
唐津市・東京大学海洋教育センターの連携
東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターは、2010年に日本財団の支援で設立された「海洋教育促進研究センター」を前身とし、2019年に現在の体制になった、小中高教育における海洋教育の研究・実践を専門に手がける日本初の拠点である。同センターは気仙沼で「海洋教育こどもサミット」を開催するなど、地域と連携した実践を重ねてきた。佐賀県唐津市をはじめ、各地の学校現場でも同様に大学や研究機関と連携した海洋教育の取り組みが広がっている。
地域を超えて広がるネットワーク
気仙沼や唐津のような特定の自治体単位の実践に加え、日本国内には持続可能な開発のための教育を推進する学校が加盟する「ユネスコスクール」のネットワークがあり、海に面した地域の加盟校では、地元の海や川をテーマにしたESD実践が数多く報告されている。特定の一校・一自治体の成功事例で終わらせず、こうした全国的なネットワークを通じてノウハウを共有し、海になじみの薄い内陸の学校にも応用可能な形へ翻訳していくことが、次の課題として意識されている。
サンゴ礁の島から:沖縄・竹富島の実践
沖縄県竹富町の竹富小中学校では、児童・生徒が実際に竹富島の海へ出てサンゴの現状を観察し、白化現象が起きている様子を目にした上で、その要因についての情報を集めて整理し、自分たちにできることを考えて発表する、という一連の探究学習を行っている。地域の海洋教育サポーターがサンゴの生態に関する講話やシュノーケリング体験学習に協力しており、沖縄県自体もサンゴ礁保全のための環境教育・普及啓発プログラム集を作成し、各地の学校や地域団体が活用できるようにしている。危機の説明を聞くだけでなく、目の前の海で異変を確認してから考えるという順序が、当事者意識を育てる鍵になっている。
子どもの「海体験」が将来を左右するというデータ
日本財団の意識調査が示す実態
日本財団「海と日本人」に関する意識調査2024は、全国の1万人規模を対象にした調査で、コロナ禍前後の意識変化も含めて継続的に実施されている。「海が好きだ」と答える人の割合は年々減少傾向にある一方、小学生に限れば75%が「海に行きたい」と答えており、海への関心そのものが失われたわけではないことがわかる。問題は、関心と実際の体験機会のあいだにあるギャップだといえる。

原体験の有無がその後の海への関わりを変える
同調査では、子ども時代の海体験が「年に1日未満」だったと回答した人が68%にのぼった一方、大人になっても海に行きたいと感じている人のうち63%は、子ども時代に「年2〜4日以上」海と接していたと回答している。因果関係を断定はできないものの、幼少期の原体験の頻度が、その後の海への関わり方を左右する要因のひとつであることをうかがわせるデータだ。海洋教育を教室内の知識学習だけに閉じず、実際に海に触れる機会とセットで設計する重要性が、ここに表れている。
この「原体験の頻度が意識を左右する」という傾向は、2024年調査で初めて出てきた発見ではない。日本財団は2019年の意識調査でも、子ども時代の海への原体験が、大人になってからの海への意識や行動と関係していることを特集として取り上げている。複数年の調査で同様の傾向が繰り返し確認されていることは、単発の相関ではなく、ある程度安定した構造的な関係であることを示唆している。
「海なし」環境で育つ子どもへの視点
海洋教育をめぐる議論では、海に面した地域と、海から離れた内陸の地域とで、子どもが得られる原体験の量に差が生まれやすいという構造的な課題がしばしば指摘される。修学旅行や自然体験学習で海辺を訪れる機会を組み込む、川や水道水を通じて海とのつながりを教える、水族館や科学館を活用するなど、居住地に関わらずオーシャンリテラシーを育める工夫が求められている。海洋教育を一部の沿岸自治体だけの取り組みに終わらせず、全国どこに住んでいても触れられる学びとして広げていけるかが、今後の実践の質を左右する。
国連海洋科学の10年とグローバルな動き
Ocean Decade(2021〜2030年)とは
国連は2021年から2030年までを「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年(Ocean Decade)」と定め、IOC-UNESCOが中心となって世界の海洋科学とその社会実装を推進している。「私たちが望む海のための科学(The Science We Need for the Ocean We Want)」を掲げ、研究者だけでなく政策担当者・産業界・市民社会を巻き込む形で、海に関する知識と行動をつなげることを目指している。
| 成果目標(通称「7つの海」) | 内容 |
|---|---|
| きれいな海 | 海洋汚染源が特定され、削減・除去されている |
| 健全かつ回復力の高い海 | 生態系が理解・保護・回復され、管理されている |
| 生産的な海 | 食料供給と持続可能な海洋経済を支えている |
| 予測できる海 | 現在と将来の状況を予測する能力を社会が持つ |
| 安全な海 | 人命と生活を海洋関連の危険から守る |
| 開かれた海 | 海洋データ・情報・技術に自由にアクセスできる |
| 夢のある魅力的な海 | 社会が海の恩恵と持続可能な開発への関わりを理解し、意識を変える |
この7つのうち「夢のある魅力的な海(Inspiring and Engaging Ocean)」が、教育やアウトリーチと最も直結する成果目標にあたる。海洋科学の研究成果をどれだけ積み上げても、社会がその意味を理解し行動を変えなければ、10年という期間の目標は達成できない。学校教育を含む海洋教育は、この「夢のある魅力的な海」を実現するための土台として位置づけられている。
日本国内では「国連海洋科学の10年国内委員会」が組織され、大学・研究機関・企業・NPOなどが連携してOcean Decadeの活動を推進している。気仙沼や竹富島のような地域単位の海洋教育実践は、それ単体では小さな取り組みに見えても、こうした国内委員会を経由してグローバルな10年計画の文脈に接続され得るという点で、ローカルな活動とグローバルな枠組みが地続きになっていることを示している。
世界の海洋教育政策の潮流
IOC-UNESCOは、気候変動・生物多様性の損失・経済的持続可能性といった課題が深刻化する中で、各国の政策担当者に対し、国のカリキュラムへ海洋関連の内容をより体系的に組み込むよう求める政策提言(Policy Brief)を発表している。ヨーロッパを中心に、教科横断的にオーシャンリテラシーを位置づける動きが広がりつつあり、日本の海洋基本法に基づく取り組みも、こうした国際的な潮流と軌を一にしている。
具体的な動きとして、欧州委員会海事漁業総局が2020年に立ち上げた「EU4Ocean連合」の柱の一つである「欧州ブルースクールネットワーク」が挙げられる。加盟校はオーシャンリテラシーとサステナビリティを日常の授業に組み込むことを掲げ、EU加盟国・準加盟国から600校を超える学校が参加する世界最大級の海洋教育ネットワークに成長した。参加校は「Find the Blue Challenge」と呼ばれる仕組みを通じて、身近な海に関するテーマを見つけ、プロジェクト型学習として取り組む。国境を越えた学校間のネットワークづくりという点で、気仙沼・唐津・竹富島のような日本の地域実践とは異なるアプローチだが、目指すゴールは共通している。
家庭・地域でできる海洋教育的アクション
海洋教育の主役は、国のプログラムでも大学の研究センターでもなく、最終的には日々子どもと接する家庭と地域である。ここまで見てきた海洋基本法もオーシャンリテラシー7原則も、国連海洋科学の10年も、いずれも「制度」や「枠組み」であり、それ自体が子どもの意識を変えるわけではない。制度が用意した機会を、実際の体験として子どもに届けるのは、身近な大人の一歩である。
この記事で紹介した日本財団のデータが示すように、海への関心自体は多くの子どもの中にすでに存在している。足りていないのは関心ではなく、その関心を実体験に変換する機会の方だ。海洋基本法という制度、7原則という知識の体系、気仙沼や竹富島という実践の蓄積は、それぞれ独立した点ではなく、家庭という現場でつながって初めて意味を持つ。
身近な体験から始める
- 近くの海岸を歩いてみる、砂浜のごみ拾いに親子で参加する
- 水族館や科学館の海洋展示を、図鑑や動画と組み合わせて振り返る
- 地引網体験や磯観察会など、地域の漁協・自治体が主催するプログラムに参加する。アマモ場のように魚を育む沿岸の生態系を間近に観察できる場所も各地にある
- 食卓で魚の産地や漁法について話題にし、担い手不足が進む漁業の現状など水産物の背景にある海の課題とつなげて考える
- 潮干狩りや海水浴のついでに、拾った貝や生き物を一緒に調べてみる
- 海のドキュメンタリーや図鑑アプリなど、内陸でもアクセスできるコンテンツで海への好奇心を補う
- 夏休みの自由研究のテーマに、身近な海・川・水辺の生き物調べを選んでみる
学びを次の世代につなぐために
海洋教育を続けるためのポイント
- 知識だけでなく「体験」とセットで設計する
- 海の危機だけでなく、海を楽しむ・愛でる視点も大切にする
- 学校・家庭・地域・研究機関が役割を分担して連携する
- 一度きりのイベントで終わらせず、継続できる小さな習慣にする

今日からできる、いちばん小さな一歩
難しく考える必要はない。次に魚を食べるとき、次に水道の水を飲むとき、「これはどこの海とつながっているだろう」と一言、子どもに問いかけてみること。答えが返ってこなくてもいい。その問い自体が、オーシャンリテラシーという長い学びの最初の一歩になる。
海洋教育は、特別な設備や遠くの海への旅行がなければ始められないものではない。近所の川が海につながっていること、食卓の魚がどこから来たのかを考えること。そうした小さな気づきの積み重ねが、オーシャンリテラシーという大きな枠組みの入り口になる。次世代が海を「知る」だけでなく「守る」側に回るための一歩は、すでに日常の中にある。
参考文献・出典
- 国土交通省 – 小中学校における海や船に関する教育(海洋教育)について
- 国土交通省 – 改訂学習指導要領に対応した海洋教育プログラムの公開(報道発表)
- 文部科学省 – 文部科学省における環境問題への取り組み
- 気仙沼市役所 – 気仙沼市ESD・海洋教育について
- 東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センター – Center for Ocean Literacy and Education
- 日本財団 海と日本PROJECT – 「海と日本人」に関する意識調査2024
- NOAA(アメリカ海洋大気庁) – Ocean Literacy: The Essential Principles and Fundamental Concepts(version 3.2)
- UNESCO – UNESCO Ocean Literacy
- IOC-UNESCO – UNESCO-IOC Launches New Policy Brief Highlighting the Urgent Need to Strengthen Ocean Literacy in Education
- 衆議院 – 海洋基本法(条文)
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア