37.7%
世界の水産資源のうち持続可能な水準を超えて漁獲されている割合(FAO・2021年評価)
約660品目
日本国内で販売されたMSC「海のエコラベル」付き製品の品目数(2024年度・MSC公表)
21.4kg
日本人1人1年当たりの食用魚介類消費量(2023年度・ピーク時のおよそ半分)

スーパーの缶詰コーナーは、たいてい静かだ。100円台から並ぶツナ缶とサバ缶、その隣にオイルサーディンと焼き鳥。特売のワゴンに山積みになっていることもある。ところが最近、その山のなかに青い楕円形のマークが印刷された缶が混ざるようになった。魚の形を白く抜いた、あのマークである。

これはMSC「海のエコラベル」と呼ばれるもので、水産資源と環境に配慮して管理された漁業で獲られた天然の水産物であることを示す国際的な認証だ。養殖版のASC認証もある。生鮮売り場の刺身や切り身では見かけたことがある人も多いだろうが、缶詰のような常温の加工品にも、じつは着実に広がっている。

この記事では、缶詰・レトルト・魚肉ソーセージといった「棚に常温で置かれている水産加工品」に絞って、認証マークの意味と、日本で実際に買える商品、売り場での見分け方を整理する。制度そのものの全体像はMSC海のエコラベル認証とは?持続可能な水産物をスーパーで見分ける方法ASC認証の養殖魚とは|サーモン・カキ・ブリの選び方と基準を中立解説で扱っているので、ここでは「買い物カゴに入れる瞬間」に役立つ話を中心にしたい。

この記事で学べること

  • MSC(天然)とASC(養殖)の違いと、どちらが缶詰・加工品に関係するか
  • 日本のスーパーやコープで実際に買えるMSC認証の缶詰・常温加工品の具体例
  • 売り場でラベルを見分ける3ステップと、認証番号(MSC-C-…)が保証していること
  • 「一本釣り」「国産」などの表示と認証マークは別物だと知る
  • 缶詰という形態そのものが持つ強み(備蓄・食品ロス・可食部・リサイクル)
  • 認証商品がまだ少ない理由と、認証がない商品を否定しない現実的な選び方

缶詰の棚から海は変えられるのか

「持続可能な水産物を選ぼう」と言われて、多くの人が最初に思い浮かべるのは鮮魚コーナーだろう。だが実際の家庭の消費を追いかけると、話はもう少し複雑になる。日本人が1年間に食べる食用魚介類の量は、2001年度の40.2kgをピークに減り続け、2023年度には21.4kgまで落ちた。ピーク時のおよそ半分である。2011年度以降は肉類の消費量を下回った状態が続いている(水産庁『令和6年度 水産白書』)。

その一方で、水産缶詰は生活のなかに残り続けた。調理の手間がいらず、常温で長く置け、価格が読みやすい。魚離れが進むなかでも、ツナ缶とサバ缶は「魚を食べる回路」として生き残ってきた食品なのだ。だからこそ、この棚に認証商品が並ぶかどうかは、鮮魚売り場と同じか、場合によってはそれ以上に効いてくる。

鮮魚・冷凍・常温加工品では「選び方」がまるで違う

同じ「魚を買う」でも、売り場によって消費者が判断できる材料はかなり違う。鮮魚は産地表示と見た目で選ぶことになるが、その魚がどの漁業で、どんな資源状態のもとで獲られたかまでは、店頭でほぼ分からない。缶詰は逆で、パッケージという「情報を印刷できる面」を持っている。認証マークとの相性がいいのはこのためだ。

売り場買う人が判断できること認証マークとの相性
鮮魚(生鮮)産地・魚種・鮮度・価格。漁法や資源状態は分かりにくい△ 産地シールに小さく載る程度で見落としやすい
冷凍・チルド加工品産地・原材料・加工地。袋の面積が広く表示しやすい○ ラベル表示の余地が大きい
缶詰・レトルト(常温)原材料・原料原産地・製造者・賞味期限。長期保存できる◎ 印刷面が固定され、繰り返し買う商品なので効きやすい
売り場ごとの「分かること」の違い。常温加工品は表示の力が最も働きやすい

水産缶詰の主役はツナとサバ

日本の水産缶詰の生産量を見ると、上位を占めるのはツナ(まぐろ・かつお類)とサバである。日本缶詰びん詰レトルト食品協会がまとめる国内生産数量統計では、ツナ缶は年間500万箱台の規模で推移しており、サバ缶も健康志向のブームを経て定番の座を保っている。つまり、ツナとサバの2つに認証原料が入るかどうかで、常温加工品全体の絵が大きく変わるということだ。

実際、後述するように日本で先に動いたのはツナ缶だった。カツオ・マグロ類は国際的な地域漁業管理機関(RFMO)のもとで資源評価と漁獲管理が進んでいる魚種であり、MSC認証を取りやすい構造があったことも背景にある。

サバ缶ブームが残したもの

2010年代後半、サバ缶は健康番組やSNSをきっかけに一気に売れた。EPA・DHAといった脂肪酸の話題が広がり、水産缶詰の生産量で長くサバが首位を占める状況が続いた。品薄で棚から消えた時期もあったほどだ。このブームが示したのは、缶詰の売れ行きは「魚の味」ではなく「買う理由」で動くという事実である。

健康という理由でこれだけ動いたのだから、資源という理由でも動きうる——というのは楽観が過ぎるかもしれない。健康は自分の体に返ってくるが、資源の話は返ってくる先が遠い。ただ、少なくとも「棚の商品が入れ替わるスピードは意外に速い」ことは分かった。ブームの裏側では、原料となるサバの資源状態や、輸入原料への依存度といった議論も同時に起きた。缶詰は身近であるがゆえに、資源の話を持ち込みやすい商品でもある。

この章のポイント

  • 日本人の魚介類消費はピーク時の約半分(2023年度で21.4kg)まで減った
  • そのなかでツナ缶・サバ缶は「日常的に魚を食べる回路」として残っている
  • 缶詰は印刷面が固定され繰り返し買われるため、認証マークが効きやすい

MSCとASC——2つのラベルは何を保証しているのか

缶詰の棚で見かける認証マークは、大きく2種類ある。天然の漁業を対象とするMSCと、養殖を対象とするASCだ。名前が似ているうえ、どちらも「持続可能な水産物」と説明されるので混同されがちだが、審査している対象がそもそも違う。

MSC「海のエコラベル」——天然の漁業を審査する

MSC(Marine Stewardship Council:海洋管理協議会)は1997年に設立された国際的な非営利団体で、天然水産物を対象にした漁業認証を運営している。審査は次の3つの原則で行われる。

  • 原則1:資源の持続可能性——獲りすぎを避け、資源を枯渇させない漁獲量になっているか。すでに減っている資源なら、回復させる仕組みが機能しているか
  • 原則2:生態系への影響——混獲や海底へのダメージを含め、その漁業が依存する生態系の構造・多様性・生産力を維持できているか
  • 原則3:漁業の管理システム——地域・国内・国際のルールを守り、資源の状態に応じて漁のやり方を変えられる管理体制があるか

この3原則が置かれている背景には、世界の漁業資源の現状がある。FAO(国連食糧農業機関)の『世界漁業・養殖業白書2024』によれば、評価対象となった水産資源のうち37.7%が生物学的に持続可能な水準を超えて漁獲されている(2021年の評価)。この割合は1974年の10%から一貫して上昇してきた。ただし漁獲量で重みづけすると、持続可能な資源からの漁獲が全体の76.9%を占める。「よく管理された大きな資源」と「管理が届いていない小さな資源」に二極化していると読むのが実態に近い。認証制度は、この前者を増やしていくための市場側の仕掛けだと言える。

審査は第三者の認証機関が行い、認証を取得するまでにおおむね1年から1年半かかる。取得後も5年ごとに更新審査があり、その間も年次審査が入る。「一度取ったら終わり」ではなく、資源状態が悪化すれば認証が停止されることもある仕組みだ。世界では570を超える漁業がMSC漁業認証を取得している(MSC公表)。

ASC——養殖場の環境と人を審査する

ASC(Aquaculture Stewardship Council:水産養殖管理協議会)は2010年設立で、対象は養殖だ。天然資源の獲りすぎという論点がない代わりに、養殖特有の課題を見る。水質汚染や周辺生態系への影響、抗生物質・薬剤の使用、餌に使う魚粉の調達、そして労働環境や地域社会との関係まで基準に含まれるのが特徴である。

缶詰との関係でいえば、ASCは生鮮サーモンや冷凍えび、わかめなどで先行しており、常温加工品ではまだ数が少ない。ただしカキやムール貝の加工品、レトルトの水産惣菜などでは着実に増えている。

養殖側の基準を見るASC(水産養殖管理協議会)日本語サイト責任ある養殖の認証基準、国内の認証養殖場、ラベルの読み方を掲載する公式サイト。🔗 jp.asc-aqua.org

CoC認証——ラベルを支える「見えない配管」

ここが意外に知られていないのだが、漁業や養殖場が認証を取っただけでは、商品にラベルは付けられない。獲られた魚が加工され、流通し、店頭に並ぶまでのすべての事業者が、認証品と非認証品を混ぜずに管理できることを示すCoC認証(Chain of Custody:加工流通過程の管理認証)を取得している必要がある。

缶詰のような加工品では、この配管の長さがそのまま難易度になる。漁船から水揚げ港、原料商社、缶詰工場、物流センター、小売の物流までを一本の認証チェーンでつなぐ必要があり、途中で一社でも欠ければラベルは付かない。裏を返せば、缶に印刷された認証番号は「この配管がつながっている」ことの証明だと言える。MSCによれば、ラベル付き製品のDNA検査などによる誤表示率は1%未満に抑えられている。

項目MSC「海のエコラベル」ASCラベル
対象天然の漁業で獲られた水産物養殖された水産物
設立1997年2010年
主な審査項目資源状態/生態系への影響/管理システムの3原則水質・生態系/薬剤/餌の調達/労働環境・地域社会
缶詰・常温品での例ツナ缶、魚肉ソーセージ、サバ加工品などカキ・ムール貝の加工品、レトルト惣菜など(数は少ない)
共通の前提流通・加工の全事業者がCoC認証を持つこと同左
MSCとASCの基本的な違い。どちらもCoC認証が前提になる
MSC・ASC認証の缶詰の選び方の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標
制度の一次情報を見るMSC(海洋管理協議会)日本語サイト「海のエコラベル」の基準・認証漁業一覧・取り扱い企業を確認できる一次情報。買う前の確認先として最も確実。🔗 msc.org

よくある誤解

  • 「MSCは環境にやさしい漁法のマーク」——漁法そのものより、資源と生態系と管理体制を総合的に見る制度
  • 「ASCは無農薬・無投薬のマーク」——薬剤ゼロを意味するのではなく、使用の管理と記録を求める基準
  • 「認証を取れば永久」——5年ごとの更新と年次審査があり、資源が悪化すれば停止もありうる

日本で実際に買えるMSC認証の缶詰・常温加工品

ここからが本題である。制度の説明は分かっても、「で、どこで何が買えるのか」が分からなければ買い物は変わらない。常温の水産加工品で、日本の一般的な売り場に実際に並んでいる(あるいは並んだ実績のある)MSC認証商品を、公表資料で確認できるものに絞って紹介する。

イオン「トップバリュ」——ツナ缶を認証つきに置き換えた

常温加工品で分かりやすい事例が、イオンのプライベートブランド「トップバリュ」だ。イオンは2020年6月17日、「トップバリュ グリーンアイナチュラル 環境にやさしいMSC認証 ライトフレーク かつおオリーブオイル漬」を、全国の「イオン」「イオンスタイル」など約1,200店舗で発売した。MSC認証を取得したカツオを原料に、スペイン産のピュアオリーブオイルと野菜エキス、食塩で仕上げたツナ缶である(イオン株式会社プレスリリース)。

イオンがMSC認証水産物の販売を始めたのは2006年にさかのぼる。生鮮のサケやマグロから始まり、加工品へと広げてきた流れの延長に、この「認証つきツナ缶」がある。同社の公式ページでは、MSC認証の「一本釣りかつお」やASC認証の「えびフライ」「ムール貝トマト&ガーリック」など、認証番号つきで商品が紹介されている。

このブランドを見るトップバリュ|MSC/ASC認証の水産物イオンのプライベートブランドが扱うMSC・ASC認証商品と、認証番号の考え方をまとめた公式ページ。🔗 topvalu.net

はごろもフーズ——「シーチキン」ブランドをMSCに

ツナ缶の代名詞である「シーチキン」を展開するはごろもフーズも、MSC認証原料の製品を出している。2022年に発売された「シーチキンSmile マイルド(MSC)」50gがそれで、原料を一本釣りで漁獲したカツオに絞り、MSC認証を取得した製品だ。形状は缶ではなく使い切りのパウチだが、常温で棚に置かれる加工品という意味では缶詰と同じ位置づけになる。

同社が公式サイトで説明しているのは、はえ縄漁では小さな魚まで漁獲してしまう可能性があるのに対し、一本釣りは狙った魚を選んで獲れるという点だ。ただし注意したいのは、「一本釣り」という漁法の表示そのものは認証ではないということ。同社には一本釣り原料でMSC認証を取っていない製品も併存しており、ラベルの有無で見分ける必要がある。

このメーカーを見るはごろもフーズ|サステナブルな社会の実現のために一本釣り原料の使用とMSC認証製品の展開について、メーカー自身が説明している公式ページ。🔗 corp.hagoromofoods.co.jp

コープ(日本生活協同組合連合会)——缶詰と魚肉ソーセージ

生協は日本でMSCラベル付き製品の市場を牽引してきた組織のひとつだ。常温品では、はごろもフーズとの共同開発商品「CO・OP&はごろも シーチキンマイルド 水煮 50g」がMSC認証対象として掲載されている。また、アラスカ産のスケソウダラを使った「CO・OPフィッシュソーセージ」もMSC認証商品として紹介されており、こちらは子どものおやつや弁当に使われる定番だ。

生協が強いのは、カタログという「説明できる売り場」を持っていることだろう。棚の前で数秒しか見てもらえないスーパーと違い、認証の意味を文章で伝えたうえで注文してもらえる。認証商品の普及にとって、この差は小さくない。日本生活協同組合連合会は2007年ごろからMSC認証商品を扱い始めており、当初はノルウェー産のサバを使った商品が中心だったという。生鮮・冷凍・加工へと品目を広げてきた歴史がある。

輸入品・専門店という選択肢

国内メーカーの製品以外に、輸入のMSC認証缶詰も流通している。ヨーロッパはMSCラベルの普及が早く、ポルトガルやスペインの水産加工品ではMSC認証のツナ缶・イワシ缶が一般的な商品として売られている。日本でも輸入食品店やオンラインストアで、こうした認証つきの缶詰を見かけることがある。価格帯は国産の量販品より高めだが、「まず1缶試してみる」入口としては悪くない。

なお、輸入品を選ぶときも確認方法は同じだ。パッケージにMSCラベルと認証番号があるかを見る。英語表記の場合は「Certified Sustainable Seafood」「MSC」の文字と青い魚のマークが目印になる。日本語の説明がなくても、マークと番号は世界共通なので判断できる。

対象商品を見るコープ商品|MSC認証日本生活協同組合連合会のMSC認証商品と、CoC認証の仕組みを解説した公式ページ。対象商品一覧へのリンクもある。🔗 goods.jccu.coop
商品名販売元形態認証確認できる公表情報
グリーンアイナチュラル 環境にやさしいMSC認証 ライトフレーク かつおオリーブオイル漬イオン(トップバリュ)缶詰MSC2020年6月17日発売、約1,200店舗で展開
MSC認証 一本釣りかつおイオン(トップバリュ)加工品MSC公式サイトに認証番号つきで掲載
シーチキンSmile マイルド(MSC)50gはごろもフーズパウチ(常温)MSC2022年発売、一本釣りカツオを原料に使用
CO・OP&はごろも シーチキンマイルド 水煮 50g日本生活協同組合連合会缶詰MSCコープ商品サイトのMSC認証商品一覧に掲載
CO・OPフィッシュソーセージ日本生活協同組合連合会魚肉ソーセージ(常温)MSCアラスカ産スケソウダラを使用と説明
公表資料で確認できる、常温の水産加工品におけるMSC認証商品の例
ツナ缶・魚肉ソーセージ・パウチ入りツナなど常温の水産加工品を並べたイメージ
缶・パウチ・ソーセージ。常温の水産加工品にも認証は広がりつつある

商品情報についての注意

  • 商品ラインナップ・取り扱い店舗・パッケージは時期によって変わる。ここで挙げたのは公表資料で確認できた時点の情報
  • 同じブランドでも認証原料の製品とそうでない製品が併存する。ブランド名ではなくラベルで判断する
  • 在庫や取り扱いは店舗ごとに異なるため、確実に買いたい場合は各社の公式サイトや店舗で確認する

売り場での見分け方——3ステップで確認する

認証商品を選ぶのに、特別な知識はいらない。必要なのは、缶を手に取ってひっくり返す数秒だけだ。次の3ステップで確認できる。

ステップ1:マークの形を覚える

MSC「海のエコラベル」は青い楕円形のなかに白い魚のシルエットが入ったデザインで、多くの場合「MSC 海のエコラベル」の文字が添えられている。ASCラベルは緑色を基調にしたデザインだ。缶詰では正面ラベルの下部や側面、パウチなら裏面に置かれることが多い。まずはこの2つの形を目に焼き付けておけば、棚をひと通り眺めるだけで候補が絞れる。

ステップ2:認証番号を確認する

ラベルの近くには、「MSC-C-□□□□□」のような認証番号(CoC認証番号)が印字されている。これは、その商品を扱った事業者が加工流通過程の管理認証を取得していることを示すコードだ。番号は公式サイトのデータベースで照会でき、たとえばトップバリュの公式ページでは商品ごとに認証番号が公開されている。

実務的には、番号を毎回調べる必要はない。「マークの横に番号が印刷されているか」を見るだけでも、雰囲気だけの環境訴求と本物の認証を区別する手がかりになる。

ステップ3:まぎらわしい表示と区別する

水産缶詰のパッケージには、環境や品質をうたう表現が数多く並ぶ。しかし、それらは認証とは別物だ。以下は「認証ではない」表示の代表例である。

  1. 「一本釣り」「棒受網」などの漁法表示——資源への負荷が比較的小さい漁法ではあるが、それ自体は認証を意味しない
  2. 「国産」「三陸産」などの産地表示——産地は資源状態や管理体制を保証しない
  3. 「イルカに優しい(ドルフィンセーフ)」——混獲に関する別制度で、資源の持続可能性全体を審査するものではない
  4. 「天然」「無添加」「BPAフリー」——原料や容器の性質の話であり、漁業の管理とは無関係
  5. 「サステナブル」「地球にやさしい」等の自社表現——第三者審査を経ていない場合がある

誤解のないように付け加えると、これらの表示に意味がないわけではない。一本釣りは実際に混獲が少ない漁法だし、産地表示は消費者にとって重要な情報だ。ただし「第三者が資源と生態系と管理体制を審査した」ことを示すのは認証マークだけ、という整理をしておくと迷わなくなる。

オンラインで探すときのコツ

店頭よりも効率がいいのがオンラインだ。ネットスーパーや生協の注文サイトで「MSC」「ASC」「海のエコラベル」と検索すれば、認証商品だけを一覧できる。商品ページには認証の説明が書かれていることが多く、棚の前で判断するより情報量が多い。買い物リストに一度登録してしまえば、次回以降は選び直す手間もなくなる。

もうひとつの入口が、MSCとASCの公式サイトだ。MSCの日本語サイトには認証水産物を取り扱う企業の一覧があり、ASCのサイトには国内の認証養殖場が掲載されている。「近所のあの店が扱っているのか」を先に確認してから出かけると、空振りが減る。制度の一次情報にあたるという意味でも、いちばん確実な確認先である。

缶詰を手に取り、パッケージの認証マークと番号を確認する様子
缶を裏返す数秒。それが売り場でできるいちばん確実な確認方法

今日の買い物でできること

  • 缶詰コーナーで、青い楕円(MSC)と緑(ASC)のマークを探してみる
  • 見つけたら、マークの近くに「MSC-C-」で始まる番号があるか確認する
  • 同じ棚に認証品がなければ、無理に探し回らず次回に持ち越す。続けることのほうが大事
  • 気に入った商品があれば、リピート買いの定番にする(一度決めれば毎回悩まない)

日本の海でも認証は増えている

認証水産物というと輸入品の話に聞こえるかもしれないが、日本の漁業も着実に認証を取得している。缶詰の原料になるカツオ・マグロ類が中心なのも、缶詰の話としては見逃せない点だ。

MSC——ホタテ、カツオ、マグロ

MSCの日本語サイトに掲載されている国内のMSC認証漁業には、次のようなものがある。

  • 北海道漁業協同組合連合会——ホタテガイ垂下式漁・桁網漁業
  • 明豊漁業株式会社(宮城県)——カツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業
  • 株式会社マルト水産——カキ垂下式漁
  • 株式会社臼福本店——タイセイヨウクロマグロはえ縄漁業
  • 尾鷲物産株式会社——ビンナガマグロはえ縄漁業
  • 共和水産株式会社・明豊漁業株式会社——カツオ・キハダマグロまき網漁業
  • 大洋エーアンドエフ株式会社福一漁業株式会社かつお一本釣漁業株式会社伊藤忠商事株式会社など——カツオ・マグロ類のまき網・はえ縄漁業

なかでも象徴的なのが明豊漁業だ。同社は東日本大震災のあと、親会社である水産加工会社が原料のカツオを安定して確保できなくなったことをきっかけに2012年に設立され、2016年にカツオ・ビンナガマグロ一本釣り漁業でMSC漁業認証を取得した。日本で3例目の認証漁業であり、ビンナガについては国内初だった。震災という危機が、資源管理の証明を取りにいく動機になったという経緯である。

リストの筆頭にある北海道漁業協同組合連合会のホタテガイ漁業も、缶詰の話と無縁ではない。ホタテは水煮の缶詰として長く輸出されてきた品目であり、垂下式(養殖に近い育成)と桁網(海底のホタテを漁獲)という2つの方式を組み合わせた資源管理が国際的に評価された例だ。4年周期で区画を回して稚貝をまく輪採方式など、日本の漁業者が長年積み上げてきた管理が、そのまま認証の根拠になっている。

ASC——戸倉のカキから始まった

養殖側では、2016年3月に宮城県漁業協同組合志津川支所戸倉地区のカキ養殖が日本初のASC養殖場認証を取得した。津波で施設が流されたあと、以前より養殖いかだの数を大幅に減らして再開したところ、密度が下がったことでカキの成長が早まり品質も上がったという経験が背景にある。「減らして育てる」という選択が、結果的に国際基準に届いた事例だ。この経緯はASC認証の養殖魚とはでも詳しく扱っている。

その後、2018年にはマルハニチログループのアクアファーム(大分県)がブリでASC認証を取得するなど、魚種も広がっている。ただし、養殖魚が常温の缶詰になる例はまだ限られており、消費者が出会いやすいのは生鮮・冷凍・チルドが中心だ。

区分代表例特徴
MSC(天然・国内)北海道漁連のホタテガイ、明豊漁業のカツオ・ビンナガ一本釣り缶詰原料になりうる魚種が含まれる
MSC(天然・遠洋)まき網・はえ縄によるカツオ・キハダ・ビンナガ・メバチツナ缶の原料供給に直結する
ASC(養殖・国内)宮城県志津川・戸倉地区のカキ(2016年、国内初)、大分のブリ(2018年)常温加工品より生鮮・冷凍での流通が中心
国内の認証取得の代表例。ツナ缶の原料と重なる魚種が多い

なぜ日本の売り場ではまだ認証商品が少ないのか

ここまで読んで、「思ったより少ないな」と感じた人もいるだろう。実際、日本で販売されているMSC「海のエコラベル」付き製品は2024年度で約660品目とされる(MSC公表)。世界では22,000品目を超えていることを考えると、市場規模に比して小さい。理由はいくつか重なっている。

審査のコストと時間

漁業がMSC認証を取得するには、平均して1年から1年半かかる。審査費用に加えて、資源評価データの整備、混獲のモニタリング、記録の体系化といった準備が必要で、小規模な漁協や個人経営の漁業者にとっては負担が大きい。日本の沿岸漁業は小規模・分散型の経営が多く、この構造がそのまま壁になっている。

分別管理という現場の壁

CoC認証の話で触れたとおり、認証品は非認証品と混ぜられない。ところが日本の水産流通は、産地市場で複数の漁船の水揚げをまとめ、消費地市場を経て加工場に届くという多段階の構造を持つ。「混ぜて効率化する」ことで成り立ってきた流通に、「混ぜない」という要求を入れるのは簡単ではない。加工場でも、認証原料を扱う日はラインを分けるか、洗浄と切り替えの手間をかけることになる。

認知度と価格

認証取得には審査費用だけでなく、ラベルを使うためのライセンス費用もかかる。これらは最終的に商品価格に乗る。数十円の差でも、毎日の買い物では大きく感じられるものだ。しかも缶詰は特売の常連商品で、価格競争が激しい売り場でもある。

そしてもうひとつが、買う側の認知だ。マークの意味を知らなければ、価格差のぶんだけ選ばれにくくなる。メーカーからすれば、コストをかけて認証を取っても売上に返ってこないリスクがある。ここは鶏と卵の関係で、認証商品が棚に並び、消費者が見慣れることで初めて動き出す部分でもある。MSCジャパンが2025年6月に「海の恵みをもっと、ずっと。選ぼうMSCラベル」といった消費者向けキャンペーンを展開しているのも、この認知のボトルネックに手を入れる取り組みだ。

「いきなり認証」ではない道もある

審査に届かない漁業がいきなり脱落するわけではない。国際的にはFIP(漁業改善プロジェクト)という枠組みがあり、認証の基準に照らして足りない点を洗い出し、数年かけて改善しながら認証取得を目指す方式がとられている。データが足りないなら記録の仕組みを作り、混獲が多いなら漁具を変える。その過程自体を買い手(小売や外食)が支えるという形だ。

日本の場合、この「途中の状態」をどう消費者に伝えるかが難しい。認証マークは付けられないが、改善に取り組んでいることは事実である。売り場で伝える手段が限られるため、小売の調達方針やサステナビリティ報告書のなかでしか見えないことが多い。MSC海のエコラベルの記事でも触れたように、認証は「白か黒か」ではなくグラデーションのなかの一点を切り取る仕組みだと理解しておくと、過度な期待も過度な失望もせずに済む。

課題具体的な中身動き始めている対応
審査コスト・期間取得まで1年〜1年半、データ整備と費用の負担改善プロジェクト(FIP)を経て段階的に認証を目指す方式
分別管理多段階の流通で認証品と非認証品が混ざりやすい小売PB主導で調達ルートを固定し、CoC認証を一括整備
消費者の認知マークの意味が知られず、価格差で選ばれにくい小売・生協・NGOによる売り場での啓発とキャンペーン
対象魚種の偏り国際管理が進むカツオ・マグロに集中しがちホタテ・カキなど国内資源での取得例が増加
日本で認証商品が増えにくい理由と、それに対する動き

制度の背景にある国内の変化

  • 2020年12月に改正漁業法が施行され、TAC(漁獲可能量)による管理が資源管理の基本に据えられた
  • 水産庁は資源評価対象魚種の拡大や、漁獲量ベースでTAC管理する割合の引き上げを進めている
  • 国内の資源管理が進むほど、MSCの原則1・原則3を満たしやすくなる土台が整っていく

缶詰という形態そのものが持つ強み

認証マークの話から少し離れて、缶詰という商品形態そのものを持続可能性の観点から見てみたい。じつは認証とは別のところで、缶詰にはいくつもの利点がある。

長期常温保存——備蓄と食品ロスの両方に効く

水産缶詰の賞味期限は、一般に製造から3年程度に設定されているものが多い。冷蔵・冷凍が不要なので、保管や輸送でエネルギーを使わない。これは家庭の防災備蓄としての価値であると同時に、食べきれずに捨てる確率を下げることでもある。生鮮の魚は買った日から数えて2〜3日が勝負だが、缶詰は買い置きしても腐らない。

水産物の食品ロスは、鮮度劣化や規格外による廃棄が大きな比率を占める。この構造については水産物のフードロスを減らす—鮮度劣化・規格外廃棄・冷凍活用の全体像で詳しく扱っているが、常温加工という選択肢がロス削減の受け皿になりうる点は覚えておいて損がない。

骨まで食べられる——同じ1尾から得られる食べ物が増える

サバ缶やイワシ缶は、高温高圧で加熱されるため中骨がやわらかくなり、そのまま食べられる。これは栄養面(カルシウム)の話として語られることが多いが、資源の観点からも意味がある。同じ1尾の魚から、実際に人が食べる部分が増えるということだからだ。切り身にすれば捨てられていた部位が、缶詰では食品として残る。

「詰めて加熱する」という単純さ

缶詰の製法は、原理としてはきわめて単純だ。原料を缶に詰めて密封し、高温高圧で加熱殺菌する。保存料を使わずに常温で長期保存できるのはこのためで、「無添加」をうたう水産缶詰が多いのも同じ理由による。冷凍食品のようにコールドチェーンを維持する必要がなく、輸送でも保管でも電力を使わない。水産物の流通全体で見ると、この差は無視できない大きさになる。

もっとも、いいことばかりではない。缶詰は加工の段階でエネルギーを使うし、製缶にも資源がいる。調味液の塩分や油分が多い商品もある。「缶詰なら何でも環境にいい」という単純な話ではなく、保存性・可食部・容器という3点で他の形態より有利な場面があるという程度に捉えるのが妥当だろう。

スチール缶のリサイクル

缶詰の容器であるスチール缶は、日本で長年高いリサイクル率を維持してきた素材だ。磁力で選別できるため回収・分別の効率がよく、再生鋼材として繰り返し使われる。プラスチック容器の海洋流出が問題になっているなかで、この点は缶詰の実務的な強みと言える。

観点缶詰・常温加工品補足
保存常温で長期保存が可能(水産缶詰は3年程度が一般的)冷蔵・冷凍のエネルギーが不要
食品ロス買い置きしても傷まない/備蓄の入れ替えで消費できる生鮮に比べ廃棄リスクが低い
可食部骨までやわらかくなり食べられる商品がある1尾あたりの利用率が上がる
容器スチール缶は分別・再生が進んだ素材磁力選別が可能で回収効率が高い
注意点調味液の塩分・油分、原料の産地表示は確認が必要健康面と表示の両方を見る
認証とは別に、缶詰という形態そのものが持つ利点と注意点
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

缶詰を見直すポイント

  • 常温で3年前後もつため、備蓄と日常消費を両立できる
  • 骨まで食べられる商品は、1尾あたりの可食部を増やす
  • スチール缶は再生しやすい素材で、容器としての環境負荷を抑えやすい
  • 一方で塩分・油分は商品差が大きいので、栄養表示も併せて確認したい

今日からできる、無理のない5つの習慣

最後に、買い物の場面に落とし込んでみたい。ポイントは、全部を認証品に置き換えようとしないことだ。選択肢が限られている以上、完璧を目指すと続かない。

  1. 缶詰コーナーで一度だけ棚全体を見る——青い楕円と緑のマークを探す。数秒で終わる
  2. 定番を1つだけ認証品に決める——毎回悩まずに済むよう、ツナ缶かサバ缶のどちらか1品だけリピート買いの定番にする
  3. ネットスーパーや生協のカタログで「MSC」「ASC」と検索する——店頭より探しやすく、説明も読める
  4. マークが見つからない日は気にしない——旬の国産魚を選ぶ、食べきれる量だけ買う、といった行動も十分に意味がある
  5. 買った理由を家族に一言だけ話す——認知のボトルネックを崩すのは、結局この積み重ねになる

「認証がない=悪い商品」ではない

誤解されやすいところなので、はっきり書いておきたい。認証を取っていない漁業や商品が、そのまま「持続可能でない」ことにはならない。認証は第三者が審査して証明したものであって、審査を受けていない漁業のなかにも、地域で丁寧に資源を管理してきた例はいくらでもある。とくに日本の沿岸漁業には、漁期・漁具・区域を自主的に取り決めて資源を守ってきた長い歴史がある。

認証の意味は「良い/悪い」の線引きではなく、買う人が確かめようのない情報を、外部の審査で見えるようにするところにある。だから認証品を選ぶことは、「認証というやり方を支持する」という意思表示に近い。そう捉えたほうが、気持ちよく続けられるはずだ。

選択が棚に返ってくるまでの時間差

個人の買い物が海を変える、という言い方には正直なところ無理がある。1人が缶詰を1つ選び直したところで、太平洋のカツオ資源は微動だにしない。ただし、棚の品揃えは動く。小売にとって売上データは唯一の言語であり、認証商品が売れれば発注が増え、発注が増えればメーカーが原料調達を変える。原料調達が変われば、認証を取ろうとする漁業者が出てくる。この連鎖は遅いが、実際に起きてきたことでもある。

イオンが2006年にMSC認証水産物の販売を始めてから、認証つきのツナ缶が約1,200店舗に並ぶまでに14年かかった。生協がノルウェー産のサバから始めた取り組みが、缶詰や魚肉ソーセージにまで広がるのにも同じくらいの時間がかかっている。10年単位で見れば、棚は確実に変わってきた。今日の1缶がその何万分の1かを担っていると考えれば、少なくとも無意味ではない。

続けるための現実的な線引き

価格差が気になる場合は、頻度で調整するのが現実的だ。毎回でなく、月に何回かは認証品にする。あるいは、家族の人数が多くて量が必要なときは通常品、自分ひとりの昼食用なら認証品、といった使い分けでもいい。持続可能性の話は往々にして「全か無か」で語られがちだが、棚の前で毎回すこしずつ選び直せることのほうが、長い目で見れば効いてくる。

海と食卓がつながっていることを象徴する、穏やかな海の水平線
缶詰の棚の向こうには、そのまま海の資源状態がつながっている

この記事のまとめ

  • MSCは天然の漁業、ASCは養殖を対象にした国際認証。どちらもCoC認証で流通全体をつないで初めてラベルが付く
  • 常温の水産加工品では、トップバリュのMSC認証ツナ缶(2020年発売)、はごろもフーズのシーチキンSmileマイルド(MSC)、コープのシーチキンマイルド水煮やフィッシュソーセージなどが確認できる
  • 売り場では「マークの形→認証番号→まぎらわしい表示との区別」の3ステップで確認できる
  • 国内でも北海道のホタテ、明豊漁業のカツオ・ビンナガ、戸倉のカキ(国内初のASC)など認証が広がっている
  • 日本のラベル付き製品は2024年度で約660品目。審査コスト・分別管理・認知度が普及のボトルネックになっている
  • 認証がない商品を否定する必要はない。定番を1つ決めて続けることが、いちばん効く

参考文献・出典

  1. Marine Stewardship Council(MSC) – MSC「海のエコラベル」とは(3原則・審査の仕組み・世界の認証漁業数)
  2. MSCジャパン – プレスリリース「海の恵みをもっと、ずっと。選ぼうMSCラベル」キャンペーン(2025年6月3日)
  3. Marine Stewardship Council(MSC) – 日本のMSC認証漁業一覧
  4. ASCジャパン(水産養殖管理協議会) – ASC養殖場基準
  5. FAO(国連食糧農業機関) – The State of World Fisheries and Aquaculture 2024 — The status of fishery resources(37.7%の出典)
  6. 水産庁 – 令和6年度 水産白書「水産物消費の状況」(1人1年当たり消費量21.4kg)
  7. 環境省 – 環境ラベル等データベース「MSC『海のエコラベル』」
  8. イオン株式会社 – トップバリュ グリーンアイナチュラルからMSC認証取得のかつおを使ったツナ缶発売(2020年6月)
  9. 日本生活協同組合連合会 – コープ商品サイト「MSC認証」
  10. 公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会 – 国内生産数量統計(水産缶詰の生産動向)

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