⚡ 30秒でわかる答え

  • 市民科学とは、一般の人が決まった手順で海の生きものやごみを記録し、研究に役立てる取り組み。
  • 国のモニタリングサイト1000でも、同定しやすい分類群では協力者の約8割を市民調査員が占める。
  • 磯は方形枠、海ごみはデータカードで記録するのが基本。「同じ場所・同じ方法・くり返し」が価値を生む。
  • 集まったデータは、海ごみ規制の効果検証など研究・政策にも活用されている。
約8割
モニタリングサイト1000の協力者に占める市民調査員(同定しやすい分類群)
約50万人
2023年の国際海岸クリーンアップ参加者(世界)
約1000か所
国の長期モニタリングの定点数

海の変化は、研究者だけでは追いきれません。日本の長い海岸線を見守るには、地域の人びとの目と手が欠かせず、市民が集めた記録は国の調査や国際研究の一部としても使われています。

磯の生きもの、砂浜のごみ、サンゴ礁の状態。それぞれに「だれでも参加できる」調べ方があります。ただし、データとして役立てるには、記録の取り方にコツがあります。

この記事では、環境省のモニタリングサイト1000、国際海岸クリーンアップ、Reef Checkなどの実例をもとに、参加方法とデータの活かされ方をわかりやすく整理します。

この記事で学べること

  • 市民科学とは何か、なぜ海の調査に役立つのか
  • 環境省モニタリングサイト1000の仕組みと市民の役割
  • 磯の生きもの調査・海ごみ調査の基本的な手順
  • 集めたデータが研究や政策にどう使われるか
  • 安全とマナーを守った参加の始め方

市民科学とは何か|海の調査に「だれでも」が加わる理由

市民科学(シチズンサイエンス)の基本

市民科学とは、専門の研究者だけでなく、一般の人びとが科学的な調査やデータ収集に参加する取り組みのことです。英語では citizen science と呼ばれ、鳥の観察、星空の記録、天気の観測など、さまざまな分野で長く続いてきました。海の分野でも、磯で見つけた生きものの記録、砂浜に流れ着いたごみの種類別カウント、サンゴ礁の定期調査など、参加できる活動が全国に広がっています。

参加する人は、必ずしも研究者である必要はありません。大切なのは「決められた手順で」「同じ場所を」「くり返し」記録することです。一人ひとりの記録は小さくても、数百人、数万人分が集まると、研究者が単独では得られない広さと長さのデータになります。

海は「広すぎて、人手が足りない」

日本は海岸線が非常に長く、磯、干潟、砂浜、藻場、サンゴ礁と、環境のタイプも多様です。これらすべてを少数の研究者が定期的に調べることは、現実的に困難です。しかも海の変化は、ある日突然ではなく、数年から数十年かけて少しずつ進みます。変化に気づくには、同じ場所を長く見続ける目が必要で、そこに地域の人びとの力が生きてきます。

  • 空間の広がり:全国の海岸に調査者がいれば、地域ごとの違いを比べられる
  • 時間の長さ:毎年同じ時期に同じ場所を調べ続けることで、増減の傾向がつかめる
  • 異変の早期発見:地元をよく知る人ほど「いつもと違う」ことに気づきやすい
  • 学びと関心:参加すること自体が、海への理解や関心を深める
磯で方形枠を置いて生きものを記録する市民調査員のイメージ
磯の市民調査のイメージ(AI生成イラスト)

市民科学が果たす3つの役割

市民科学の役割は、大きく3つに整理できます。1つ目はデータ収集で、調査の人手と範囲を広げます。2つ目は教育・普及で、参加者が海の現状を自分の目で確かめ、理解を深めます。3つ目は協働と政策への橋渡しで、地域の声を科学的な根拠に変え、行政や研究者に届けます。この3つが回り始めると、調査は単なる作業ではなく、地域の海を守る活動へと育っていきます。

研究者の側にもメリットがあります。専門家だけの調査では、予算や人員の制約から、調べられる場所や頻度に限りが生じます。市民の協力があれば、そうした制約を補い、より細かな時間・空間の変化を捉えられます。一方、市民の側は、専門家から調べ方や見分け方を学べます。両者がお互いの強みを持ち寄る関係が、市民科学の理想の姿です。

日本全体の市民科学の広がりについては、市民科学とは?だれでも参加できる生きもの調査も参考になります。

国の調査も市民が支えている|モニタリングサイト1000

全国約1000か所で続く長期調査

環境省の「モニタリングサイト1000(重要生態系監視地域モニタリング推進事業)」は、2003年度に始まった国の長期調査です。日本を代表する生態系を対象に、全国に約1000か所の定点を設け、長期的かつ定量的に調べ続けることで、生態系の変化や異変を早くつかむことを目的としています。山・森・里・湖沼・サンゴ礁・沿岸など、調査の対象は海にとどまりません。

海に関係するのは、このうち「沿岸域調査」です。磯、干潟、アマモ場、藻場といった浅い海の環境を、生物多様性センターが中心となって調べています。2008〜2012年度の5年分のとりまとめ報告書が環境省から公表されており、その中には、東日本大震災の津波による突発的な影響をデータとして捉えられた、という成果も含まれています。

調査を担う人たち

この調査は、環境省が各分野のコーディネーター団体に業務を委託し、地域の専門家や市民が参加して各サイトで実施する仕組みで進められています。調査対象のうち、関心を持つ人が多く、種の見分けが比較的やさしい分類群では、市民調査員が中心的な役割を果たしており、全調査協力者の約8割を市民が占めると説明されています。また報道によれば、2024年4月時点の参加者は研究者と市民調査員を合わせて5,120人にのぼります。

ここがポイント

  • 国の長期調査でも、現場の記録の大部分は市民調査員が支えている
  • 調査はマニュアルに従って実施され、誰が調べても同じ条件で比べられるようになっている
  • 成果は5年ごとに報告書としてまとめられ、公開される

ただし、モニタリングサイト1000は「だれでも飛び入り参加」できる仕組みではなく、各サイトの調査団体を通じた参加が基本です。参加を考える場合は、地域の調査団体や環境省生物多様性センターの案内を確認するのが確実です。

磯の調査の方法:方形枠で数える

磯の調査では、潮間帯(満潮時には海水に浸かり、干潮時には空気にさらされる帯)の上部・中部・下部に、方形枠(コドラート)と呼ばれる四角い枠を置き、枠の中に出現する生きものを記録します。報告書では、各サイトに多数の方形枠を設けて出現種を記録する方式が説明されています。たとえば潮間帯の上部ではイワフジツボやウノアシ(笠形の貝)などが見られる、といった具合に、帯ごとに顔ぶれが変わります。

枠の大きさや数え方の細部は年度ごとの調査マニュアルに定められているため、実際に取り組む際は、最新の報告書やマニュアルを環境省生物多様性センターのサイトで確認してください。

なぜ「同じ場所を同じ方法で」続けるのか

長期モニタリングの価値は、「比べられること」にあります。もし調査ごとに場所や方法が変われば、数が増えたのか、たまたま調べた場所が違っただけなのか区別できません。モニタリングサイト1000が調査地点を固定し、マニュアルに沿って実施するのは、毎年の結果を同じ物差しで比べるためです。

たとえば、ある磯の同じ高さの帯で、数年のあいだにフジツボの被度(岩を覆う割合)が減り、別の種が増えたとします。方法が一定であれば、この変化は環境変化の兆しとして読み取れます。津波のような突発的なできごとの影響も、前後のデータがそろっていてはじめて、「どれだけ変わったか」「どれくらいで戻るか」を追えます。

市民調査員の「目」が生きる場面

  • 調査員が毎年同じ磯を訪れることで、細かな変化に気づける
  • 地域の漁業者や住民の経験が、調査の計画づくりに生かされる
  • 調査結果を地域に還元することで、海への関心が高まる

磯の生きもの調査に参加するには

まずは「自分の海」を知るところから

本格的な長期調査でなくても、身近な磯で生きものを観察して記録することは、今日から始められます。潮の満ち引きを調べ、大潮の干潮の時間帯に出かけ、岩の上の生きものを写真に撮って記録する。これだけでも立派な第一歩です。磯遊びの基本は、当サイトの磯遊びの楽しみ方完全ガイドでも解説しています。

記録のコツ:同じ条件でくり返す

  1. 日時と潮位を書く:何月何日の何時、潮が引いていた(満ちていた)かを記録する
  2. 場所を決める:地図上の地点や目印の岩を決めて、毎回同じ場所で観察する
  3. 範囲を決める:枠(たとえば、ひもで作った正方形)を置き、枠の中だけ数える
  4. 写真を残す:後で見直せるよう、枠全体と気になった生きものを撮影する
  5. 見分けられないものは「不明」と書く:無理に名前を決めず、写真を残して後で調べる

使えるツールと記録先

環境省生物多様性センターの「いきものログ」は、身近な生きものの観察情報を投稿・共有できるサイトです。2013年10月に公開され、2019年8月20日時点で観察情報は4,775,445件、登録者は5,167ユーザーに達しています。投稿データの一部は、世界の生物多様性情報を集めるGBIF(地球規模生物多様性情報機構)にも提供されています。

ほかにも、写真から種を調べて世界中の人と共有できるアプリや、地域の自然史博物館・NPOが運営する調査プロジェクトなど、記録の受け皿は複数あります。目的に合わせて選べますが、どこに記録を残す場合も、日時・場所・写真という基本情報は共通して大切です。

観察のマナーと安全

  • 生きものは調べたら元の場所に戻す(持ち帰らない、岩をひっくり返したら元に戻す)
  • 潮が満ちてくる時間を確認し、足場の悪い場所や岩場には単独で行かない
  • 立入禁止区域・保護区・漁業権が設定された場所では、採集のルールを必ず確認する
  • 子どもと行くときは、ライフジャケットと滑りにくい靴を用意する
市民が磯や砂浜で記録した観察データがつながるイメージ
各地の記録が集まって大きなデータになる(AI生成イラスト)

磯で出会える代表的な生きもの

日本の磯では、潮間帯の高さに応じて生きものの顔ぶれが変わります。岩の上の方には、乾燥に強いフジツボ類や小型の巻貝が、中ほどにはカメノテやヒザラガイ、イソギンチャクなどが、下の方にはウニや海藻、ヒトデなどが現れます。この「帯状の分布」は、波や乾燥といった環境条件に生きものが適応した結果で、潮だまりの生きものについては潮だまり(タイドプール)の生き物図鑑で詳しく紹介しています。

観察する際は、全部を見分けようとせず、まず「目立つ数種類」に絞るのがコツです。図鑑や識別アプリを使い、確実に分かるものだけを記録に残し、残りは「不明」とします。精度の高い少数の記録のほうが、あいまいな大量の記録よりも、後の研究に使いやすいのです。

観察の1日の流れ(例)

  1. 前日:潮見表で干潮時刻を確認する。天気・波の予報も見る
  2. 出発前:記録用紙・ひもの枠・カメラ・滑りにくい靴・飲み物を準備する
  3. 干潮の1〜2時間前:現地に着き、安全な範囲と撤収の目安を確認する
  4. 観察中:枠を置き、写真を撮り、種類と個体数を記録する
  5. 撤収:潮が満ち始める前に引き上げる。ごみを持ち帰る
  6. 帰宅後:写真を整理し、見分けられなかったものを調べて記録を投稿する

事故を防ぐために

  • 潮が満ちてくると、行きは歩けた岩場が帰りに水没することがある
  • 波の高い日、うねりのある日は、岩場に近づかない
  • 単独行動を避け、天気が崩れそうなら早めに引き上げる

海ごみ調査で「何がどれだけ落ちているか」を数える

国際海岸クリーンアップ(ICC)という世界規模の調査

海ごみの分野で世界最大級の市民科学が、米国のNGOオーシャン・コンサーバンシー(Ocean Conservancy)が主導する「国際海岸クリーンアップ(International Coastal Cleanup、ICC)」です。参加者は海岸でごみを拾いながら、種類ごとに数をデータカードに記録します。日本では、NPO法人JEAN(ジーン)が国内の窓口を担ってきました。

規模の大きさは数字に表れています。JEANの資料によれば、2017年は107の国と地域から789,138人が参加し、1990年から2017年までの日本の累計参加者は387,116人でした。さらにオーシャン・コンサーバンシーの報告によれば、2022年には約47万人が97か国で活動し、2023年には約50万人が1,400万点を超えるごみを回収しています。1986年の開始以来の累計は、1,800万人以上のボランティアと約3億8,500万ポンド(約17万トン)のごみとされています。

拾うだけでなく、数える

ICCの特徴は、「拾って終わり」ではなく「数えて記録する」ことです。たばこの吸い殻、プラスチックのキャップ、レジ袋、ペットボトル、漁具など、品目ごとに数を記録することで、その海岸のごみの特徴が見えてきます。2011〜2017年の陸上でのクリーンアップ22,508回(118か国)を分析した研究では、最も多く見つかったのはたばこの吸い殻でした。

JEANが取りまとめた2024年の国内キャンペーンでは、エントリー総数が290件で、そのうち79%がICCのデータカードを使った調べるクリーンアップを実施した、と報告されています。国内でも「拾う」から「調べる」への流れが広がっています。

ごみ調査の基本の流れ

  1. 区画を決める:海岸の長さ(たとえば100m)と奥行きを決め、毎回同じ範囲で行う
  2. 安全に拾う:手袋・火ばさみ・袋を使い、危険物(注射器、ガラス、薬品容器)には触れない
  3. 分類して数える:データカードの品目ごとに、1点ずつ数える
  4. 記録して提出する:日時・場所・参加人数・所要時間も合わせて書き、主催団体に提出する

海岸ごみの実態や発生源については海岸漂着ごみの正体で、スマホを使った調査の仕組みについてはスマホで海ごみ調査で詳しく紹介しています。清掃活動そのものの始め方はビーチクリーンとは?参加方法と持ち物を参照してください。

よく見つかるごみと、その背景

海岸で見つかるごみは、場所や季節によって大きく異なります。観光客の多い砂浜ではたばこの吸い殻や飲料容器が目立ち、漁業の盛んな地域では漁具が多く見つかります。河口付近では、川から流れ込んだごみが多くなる傾向があります。品目別の記録を積み重ねれば、「この海岸のごみはどこから来るのか」という発生源の手がかりになります。川から海へのごみの流れについては、川から海へ流れ出すプラスチックごみで解説しています。

国境を越えて流れ着く漂着ごみもあります。国内の発生源だけでなく、海流に乗って遠くから来るごみもあり、その実態は国境を越える漂流ごみで紹介しています。市民のデータは、こうした広域の動きを裏づける材料にもなります。

記録するときの注意点

  • 数え方を統一する:破片は「1点」とするのか「全体で1点」とするのか、団体のルールに従う
  • 回収できなかったごみも記録する:大きすぎて回収できないものは、写真と場所を記録
  • 危険物には触れない:注射器・薬品容器・不発弾の疑いのあるものは、触れずに自治体や警察に連絡する
  • 所要時間と人数を残す:後で「1人1時間あたり」の数に換算でき、比較しやすくなる

サンゴ礁や海の生きものを守る市民の記録

Reef Check:訓練を受けたダイバーによる調査

サンゴ礁の分野では、Reef Check(リーフチェック)という世界的な市民参加型調査があります。訓練を受けたダイバーや地元住民が、決められた方法でサンゴや魚類、底生生物の状況を調べます。Reef Checkによると、設立以来5,000以上のリーフで約20,000回の調査が行われ、関連する科学論文は150本を超えるとされています。

日本でも、環境省の資料によると、調査は毎年実施され、データはGCRMN(世界サンゴ礁モニタリングネットワーク)やReefBaseに提供されています。2008年の学会報告では、沖縄での10年間のモニタリング結果をもとに、陸からの土砂堆積の影響を受ける沿岸の礁では回復が遅いことが示されました。市民が集めた長期データが、保全の課題を具体的に示した例です。

身近な海の生きものの変化を捉える

磯や干潟、アマモ場でも、記録を長く続けることで、生きものの分布の変化が見えてきます。たとえば、これまで南の海でしか見られなかった種が北の海岸で見つかる、といった記録は、水温上昇などの環境変化を考える手がかりになります。ただし、個々の目撃情報だけで原因を断定することはできません。複数の地点・複数年のデータを重ね、専門家が検討してはじめて、変化の意味が明らかになります。

水中の遺伝子から生きものを調べる新しい手法も登場しています。詳しくは環境DNAとはで紹介していますが、こうした技術と市民の採水・観察を組み合わせる試みも進んでいます。

この章のまとめ

  • サンゴ礁では、訓練を受けた市民ダイバーが国際的な調査網に参加している
  • 長期データがあるからこそ、回復の遅れといった課題を数字で示せる
  • 原因の特定には、専門家による多地点・多年の解析が欠かせない

海の中の記録に挑戦するには

サンゴ礁や藻場の調査は、ダイビングの技術と、調査方法の講習が必要です。Reef Checkのような団体では、参加者に対して事前の研修を行い、調査者の技量をそろえることで、データの信頼性を保っています。ダイバーでない人も、陸上から参加できる活動があります。たとえば、海岸でのごみ調査、写真の整理、データ入力、イベント運営の手伝いなどです。

サンゴ礁と海の環境問題については、コーラルトライアングルが多様性の中心である理由も参考になります。

陸の活動も、海の調査につながる

海の調べものは、陸の暮らしとつながっています。川の水質、都市のごみ、農地からの栄養塩などが、最終的に海へ流れ込みます。庭やベランダの生きもの観察、田んぼや川での生きもの調査も、海の健康を考える入口になります。庭やベランダに生きものを呼ぶ方法のような身近な取り組みから、海へ関心を広げるのもよい方法です。

集めたデータは何に使われるのか

研究と政策への活用

市民科学のデータは、「集めて満足」ではなく、研究や政策に使われてこそ意味を持ちます。海ごみの例では、2025年に科学誌Scienceに発表された研究(Papp and Oremus)が、米国で4万5千件を超える海岸清掃(45,067回)の市民科学データを使い、レジ袋の禁止や有料化といった政策の効果を検証しました。報道によれば、こうした規制のある地域では、回収ごみに占めるレジ袋の割合が25〜47%低下していました(数値は報道による。正確な値は原論文で確認してください)。

欧州では、市民科学の海岸ごみデータが、使い捨てプラスチック指令(SUP指令)の議論でも活用されてきました。たばこのフィルターが規制対象に含まれたことは、データに基づく政策形成の例として語られています。

市民が集めたごみ調査のデータが政策につながるイメージ
集めたデータが研究や政策に届く(AI生成イラスト)

データの価値は「同じ方法」で決まる

研究者がデータを使えるかどうかは、品質と一貫性にかかっています。西オーストラリアの研究では、地域のコミュニティによる海岸ごみ調査が、全国的な標準化された市民科学調査と整合的な結果を示し、テイクアウト飲料のプラスチック製ふたやたばこの吸い殻が有意に減ったことが報告されています。つまり、標準的な方法に沿っていれば、地域の取り組みも政策評価に使える可能性があるのです。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

データを公開・共有する意義

多くの市民科学プロジェクトは、集めたデータを公開しています。いきものログのデータの一部がGBIFに提供されているように、国境を越えて共有されることで、気候変動や外来種の拡大など、地球規模の課題を調べる研究にも使えるようになります。自分の記録が世界の研究の一部になる、というのは参加の大きな魅力のひとつです。

データが研究になるまでの流れ

  1. 観察・記録:参加者が日時・場所・種類・数を記録する
  2. 集約:団体や事務局が記録を集め、形式をそろえる
  3. 確認:専門家が写真や記載をチェックし、誤りを訂正する
  4. 公開・共有:データベースや報告書として公開する
  5. 解析・活用:研究者や行政が、変化の傾向や政策の効果を分析する

この流れのうち、参加者が担当するのは最初の「観察・記録」ですが、全体を通して初めて、データは意味を持ちます。そのため、記録の提出期限を守る、様式を統一する、といった地味な作業が、実は非常に重要です。

地域での活用例を考える

市民科学のデータは、国レベルや国際的な政策だけでなく、地域の暮らしにも役立ちます。たとえば海岸の利用ルールの見直し、清掃活動の重点場所の選定、学校の環境学習の教材づくりなどです。地元で集めたデータは、地域の人びとが自分ごととして捉えやすく、行動の変化を生みやすいという強みがあります。

はじめの一歩|無理なく続けるための実践ガイド

目的から選ぶ参加先の目安

やりたいことおすすめの活動準備するもの難易度
海の生きものを知りたい磯の観察・記録、いきものログへの投稿スマホ、図鑑、潮見表やさしい
海ごみの実態を知りたいデータカードを使ったクリーンアップ手袋、火ばさみ、袋、記録用紙やさしい〜ふつう
サンゴ礁を守りたいReef Checkなど地域の調査団体の講習ダイビング認定、講習の受講むずかしい
本格的に研究へ貢献したい地域の調査団体や博物館のプロジェクトに参加団体の指示によるふつう〜むずかしい
目的別の参加先の目安

続けるための3つの工夫

  • 頻度を決める:月1回、季節ごと、など無理のないペースで
  • 仲間をつくる:家族・学校・地域団体と一緒に取り組むと続きやすい
  • 記録を見返す:数か月後に写真やメモを並べると、変化に気づける

子どもと取り組む場合

学校や地域の学習活動として取り入れる例も増えています。磯の観察や海岸の調査は、教科書で学ぶ内容を自分の目で確かめる機会になります。大切なのは、安全管理と、自然へのやさしい接し方を事前に共有することです。

今日からできること

  • 近くの海岸や磯の場所と、次の大潮の日を調べる
  • スマホで日付・場所・写真付きの観察記録を1件残してみる
  • 地域のビーチクリーンや調査イベントを検索して、1つ予約する
  • データカードを使うイベントなら、記録係に挑戦してみる

参加前のチェックリスト

  • 主催団体の目的・方法・データの扱いを確認した
  • 保険の加入状況(ボランティア保険など)を確認した
  • 潮・天気・波の予報を確認し、中止の判断基準を決めた
  • 持ち物(手袋、飲み物、帽子、滑りにくい靴、救急セット)をそろえた
  • 立入や採集のルール(保護区・漁業権・私有地)を確認した

オンラインでできる参加

現地に行けなくても、参加の方法はあります。たとえば、投稿された写真の種名を確認する作業、観察データの整理や入力、自治体や団体が行う調査の広報の手伝いなどです。体力や時間に制約がある人でも、市民科学の一員として貢献できます。

限界と課題|市民科学を正しく活かすために

データの質をどう担保するか

市民科学には、いくつかの課題があります。種の同定ミス、調査努力量(かけた時間や人数)のばらつき、調べやすい場所に記録が偏ること、などです。これらを減らすために、多くのプロジェクトでは、調査マニュアルの整備、事前の講習、専門家による確認、写真の提出などの仕組みを設けています。

「すごい発見」より「地味な継続」が価値になる

市民科学の価値は、珍しい生きものを見つけることだけではありません。むしろ、ごくありふれた種が増えたのか減ったのか、毎年の同じ場所の状態がどう変わるのか、という地味な記録の積み重ねが、変化を読み解く土台になります。国のモニタリングサイト1000が長期の継続を重視しているのも、そのためです。

参加者側が気をつけたいこと

  • 自然への負荷:観察で踏み荒らさない。生きものを傷つけない
  • 個人情報と場所情報:希少種の場所は公開しない。投稿サイトの公開設定を確認する
  • 過度な一般化:数回の観察だけで「減った」「増えた」と断定しない

市民科学は、研究者と市民が対等に協力して、海の理解を深める方法です。調べる人が増えるほど、海のことがよく分かり、守るための選択肢も増えます。まずは身近な海で、小さな記録から始めてみてください。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

データの偏りを理解する

市民科学のデータは、「人が行きやすい場所」「天気のよい日」「週末」に偏りがちです。このため、記録が少ない場所を「生きものがいない場所」と解釈することはできません。研究者は、調査努力量(人数・時間)を考慮した解析を行い、偏りの影響を小さくする工夫をしています。参加者も、「自分のデータは全体の一部」という意識を持つことが大切です。

これからの市民科学:技術との組み合わせ

スマートフォンのカメラやGPS、画像による種の自動判別、環境DNAなど、技術の進歩によって、市民科学の可能性は広がっています。技術が進んでも、現場で「見る・数える・記録する」人の存在は変わらず重要です。技術は人の力を補うもので、置き換えるものではありません。

参考文献・出典

  1. 環境省 生物多様性センター モニタリングサイト1000 – 全国約1000か所の長期生態系調査(沿岸域調査を含む)
  2. 環境省 モニタリングサイト1000 沿岸域調査 2008-2012年度とりまとめ報告書の公表 – 磯・干潟・アマモ場・藻場の5年分のとりまとめ
  3. 環境省 いきものログ – 身近な生きものの観察情報を投稿・共有するサイト
  4. JEAN(Japan Environmental Action Network) – 国際海岸クリーンアップ日本事務局
  5. Ocean Conservancy – International Coastal Cleanup(国際海岸クリーンアップ)の報告
  6. Reef Check – サンゴ礁・藻場の市民参加型モニタリング
  7. Papp and Oremus (2025) Plastic bag bans and fees reduce harmful bag litter on shorelines – Science 掲載。市民科学データを用いた政策効果の検証
  8. GBIF(地球規模生物多様性情報機構) – 世界の生物多様性観察データの公開基盤

※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア