⚡ 30秒でわかる答え

  • 海底ケーブルは大陸間通信の99%超を運び、衛星ではなく海の底が国際通信の主役である。
  • ケーブル故障の約半数は漁業が原因で、サメの被害は2007〜2014年は報告ゼロとされる。
  • 環境への影響は小さいとされるが、ルート選定や撤去後の扱いなど研究途上の論点がある。
  • ケーブルは観測装置にもなり、津波や気候変動の監視に使う構想(SMARTケーブル)が進む。
99%超
大陸間の通信トラフィックを海底ケーブルが運ぶ(TeleGeography)
約2cm
深海用ケーブルの直径の目安(庭用ホース程度)
約半数
ケーブル故障のうち漁業が占める割合(ICPC 2021)

スマートフォンで海外の動画を見るとき、データは空ではなく海の底を通って届いています。国際通信を支える海底ケーブルは、直径2cm前後と意外に細く、漁業や錨、地震などの影響を受けながら世界中をつないでいます。

この記事では、海底ケーブルの構造と敷設、環境への影響、漁業との共存、そして海を観測するSMARTケーブルの動きまでを、国際ケーブル保護委員会(ICPC)やUNEP-WCMC、JAMSTECなどの資料をもとに整理します。

数字は資料や数え方によって異なるため、確かな部分と推定の部分を区別して紹介します。

この記事で学べること

  • 海底ケーブルが国際通信の大半を担う理由
  • ケーブルの構造と敷設の流れ
  • 漁業・錨・自然災害が故障を引き起こす実態
  • 海の環境への影響と、ルート選定による配慮
  • SMARTケーブルと日本の海底観測網(DONET・S-net)の役割

海底ケーブルとは何か:インターネットを運ぶ「海の中の血管」

衛星ではなく海底を通る国際通信

スマートフォンで海外のサイトを開いたり、国際ビデオ通話をしたりするとき、データは空から降ってくるわけではありません。大陸間の通信の大部分は、海底に敷かれた光ファイバーケーブルを通っています。調査会社TeleGeographyは、海底ケーブルが大陸間トラフィックの99%超を運ぶという説明を「確認できる」としています。ただし、衛星通信の正確なトラフィック量が公開されていないため、精密な割合までは算出できないとも注記しています。つまり「ほぼすべて」という表現は妥当ですが、小数点以下まで断定できる数字ではありません。

世界で運用されている海底ケーブルシステムは、二次的な報道で約570本(計画中を含めるとさらに数十本)と紹介されることが多く、総延長は100万kmを大きく超えるとされます。数え方(システム単位か区間単位か、計画中を含めるか)によって数字は変わるため、ここでは「数百本・100万km超」という規模感で捉えるのが安全です。

ケーブルの中身:意外に細い

深海に敷かれるケーブルの太さは、庭の水まき用ホース程度、直径2cm前後とよく説明されます。中心に光ファイバーがあり、その外側を電力供給用の銅の管、ポリエチレンの絶縁層で包みます。波が荒く漁具や錨に触れやすい浅い海では、さらに鋼線の外装(アーマー)を重ねて太く頑丈にします。

光信号は長距離を進むと弱くなるため、数十kmごとに中継器(リピーター)が挟まれます。中継器を動かす電力は、陸上の陸揚げ局からケーブル内の銅管を通じて給電されます。海の中には電源がないため、ケーブルそのものが通信路であり電力線でもあるのです。

  • 光ファイバー:髪の毛ほどの細さの石英ガラス。データを光パルスとして運ぶ
  • 銅の給電管:中継器に電力を送る
  • 絶縁層・防水層:海水から内部を守る
  • 鋼線の外装:浅海部のみ。漁具や錨の衝撃に備える
海底ケーブルの断面構造を示す図解。光ファイバー、銅管、絶縁層、鋼線外装が層になっている
図1 海底ケーブルの断面イメージ(浅海用は外装が厚い)

ここまでのポイント

  • 大陸間通信の99%超は海底ケーブル経由(TeleGeography)
  • 深海用ケーブルは直径2cm前後と細い
  • 中継器への給電もケーブル内の銅管で行われる

歴史:電信ケーブルから光ファイバーへ

1850年代の大西洋横断電信

海底ケーブルの歴史は19世紀の電信にさかのぼります。1858年には大西洋を横断する電信ケーブルが敷設され、女王とアメリカ大統領の間で祝電が交わされました。しかしこのケーブルは数週間で使えなくなり、信頼できる大西洋横断通信が定着したのは1866年に敷設されたケーブルからでした。この時代のケーブルは1日にごく短い電文しか送れませんでした。

光ファイバーの時代へ

電話ケーブルを経て、大西洋横断の光ファイバーケーブルTAT-8が運用を始めたのは1988年です。その後、光増幅器や波長多重技術の進歩で、1本のケーブルが運べる容量は桁違いに増えました。近年は、1本で毎秒数百テラビット級をうたうケーブルも登場しており、動画配信やクラウドの普及が敷設を後押ししています。

時期出来事意味
1858年大西洋横断電信ケーブル(短期間で故障)海底通信の可能性を示した
1866年安定運用できる大西洋横断電信ケーブル国際通信が定着
1988年TAT-8(大西洋横断の光ファイバー)デジタル大容量化の始まり
2000年代以降波長多重・光増幅で大容量化動画・クラウド時代の基盤
海底ケーブルの主な節目

現在は、通信事業者に加えてクラウド大手などが自社用にケーブルへ出資・敷設する例も増えています。ネットワークの所有構造が変わりつつある点は、この分野の重要な動向です。

どうやって敷くのか:ケーブル敷設船と海底の準備

ルート調査と敷設

敷設はまず海底の調査から始まります。音波による地形調査で、急な斜面や断層、海底火山、岩盤、既存の他のケーブルや管路を把握します。漁業が盛んな海域や船が錨を下ろす泊地を避けるのも重要な条件です。

調査をもとに決めたルートに沿って、専用のケーブル敷設船が、船倉に巻いた数千kmのケーブルを繰り出しながら進みます。浅い海では、プラウ(鋤)のような機械で海底を掘りながらケーブルを海底面下に埋設します。国際ケーブル・シップ社の講演資料によれば、浅海部のケーブルは海底面下1〜3m程度に埋設されるとされています。深海では、ケーブルは基本的に海底に置くだけで、その重さと水圧で海底に落ち着きます。

陸揚げ局:海と陸の接点

ケーブルは砂浜や港の近くの陸揚げ点から陸に上がり、陸揚げ局で陸上の通信網と接続します。日本では房総半島の千倉や、三重県の志摩などが太平洋側の主要な陸揚げ地として知られています。太平洋に面した日本は、北米やアジア各地への玄関口になっているのです。

ケーブル敷設船が海上で海底ケーブルを繰り出している様子
図2 ケーブル敷設船による敷設のイメージ

海底ケーブルは海の環境にどう影響するのか

影響は「小さいが、ゼロではない」

国連環境計画の世界自然保全モニタリングセンター(UNEP-WCMC)と国際ケーブル保護委員会(ICPC)は、2009年に『Submarine Cables and the Oceans: Connecting the World』を共同で公表し、ケーブル産業と海洋環境の関わりを整理しました。2025年4月には、この続編にあたる報告書が公表され、敷設・運用・撤去が海洋生物多様性に及ぼしうる影響と、その緩和策が文献レビューにまとめられています。

ICPC側は、ケーブルの環境上の足跡は小さいと説明しています。ただしこれは業界団体の見解を含みますので、中立に読む必要があります。実際に想定される影響には次のようなものがあります。

  • 敷設時の攪乱:埋設や海底面の接触による底生生物の一時的な攪乱と濁り
  • 藻場・サンゴ礁など脆弱な生態系:ルート選定で回避するのが基本
  • 運用中の影響:電磁場や熱の影響に関する研究があるが、現時点で大きな影響を示す結論は限られる
  • 撤去・放置:使われなくなったケーブルをどう扱うかは課題

ルート選定が最大の環境対策

実務上、最も効果が大きいのはルートを決める段階です。サンゴ礁、海草藻場、保護区、産卵場などを避ける、敷設時期を生物の繁殖期からずらす、といった配慮が行われます。これは次の章の「漁業との摩擦」を減らすことにも役立ちます。

環境影響の見方

ケーブルは船舶による汚染や、底引き網漁などに比べると海底への負荷が小さいとする見方が多い一方で、特定の生態系への影響や撤去後の扱いなど、まだ研究途上の論点が残っています。

何がケーブルを壊すのか:漁業・錨・自然災害

最大の原因は人間活動

ケーブルは頑丈でも、故障はゼロにはなりません。ICPCの2021年の資料では、データベースに記録された5,000件超の故障のうち、漁業が約半数を占め、自然災害は10%未満とされています。古い分析では、錨と漁業を合わせて65〜75%と報告されたこともあります。漁具、とくにトロール網の板(オッターボード)を海底で引きずる操業が、ケーブルに大きな力をかけるとされています。

サメがかじる?

「サメがケーブルをかじる」という話は有名ですが、ICPCの整理では、魚やサメによる故障は2006年までで全体の1%未満、2007〜2014年は報告ゼロとされています。ケーブルの設計が改良されたことで、魚による被害リスクはほぼなくなったと考えられています。

原因おおよその割合(ICPC)備考
漁業約半数トロール網の板などが接触
錨漁業と合わせて65〜75%とする古い分析も走錨、緊急投錨
自然災害10%未満海底地すべり、地震、海流
部品故障約5%とする分析古い分析による
原因不明10〜20%とする分析—
海底ケーブルの故障原因(資料により数字は異なる)

自然災害の例

2011年の東日本大震災では、東京と仙台の間を含め複数のケーブルが被害を受け、少なくとも6本が損傷し、切断箇所は計十数か所に及んだとの分析があります。一方、運用者が迂回ルートを使えたため、インターネットへの影響は比較的限定的でした。2022年1月のトンガ火山噴火では、国際ケーブルが切断され、約5週間にわたり国際通信が途絶しました。修理は2月22日に完了しています。島しょ国が1本のケーブルに依存するリスクを示した事例です。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

漁業と共存するために:保護区域とルール

ケーブル保護区域

漁業と海底ケーブルの衝突を防ぐため、各国でケーブル保護区域が設けられています。たとえばニュージーランドのハウラキ湾では、国際通信ケーブルを守るために漁業と錨泊を禁止する回廊が地図上で指定されています。スコットランドのシェトランド諸島では、トロール漁船がケーブルを損傷したとされた事故をきっかけに、保護のための海底回廊の提案が出ました。

日本でも、ケーブルが敷設された海域は海図に記載され、漁業者や船舶に周知されます。漁協との協議や補償を経て敷設されるのが一般的で、漁業者との協力が海底ケーブルを守る土台になっています。

漁業者にとってのメリット

ケーブルを避けて操業するのは負担ですが、ケーブルが通信を支えることは、水産業にも恩恵をもたらします。たとえば海況データの送受信、漁獲情報のデジタル化、遠隔地の漁村のインターネット環境など、海と陸をつなぐインフラとして役立っています。

漁業者・船舶が気をつけたいこと

  • 海図で海底ケーブルの位置を確認する
  • ケーブル近くで錨を下ろさない(緊急時を除く)
  • 網や錨にケーブルらしきものが絡んだら、切らずに管轄機関へ連絡する
漁船が操業する海域の下を海底ケーブルが通り、保護区域が示されている概念図
図3 漁業とケーブルが共存する海域のイメージ

海底ケーブルが海を観測する:SMARTケーブル

通信ケーブルを観測装置に

海底ケーブルは通信のためだけでなく、海を観測するセンサーにもなりえます。ITU(国際電気通信連合)、WMO(世界気象機関)、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)は2012年に合同の作業部会(JTF)を立ち上げ、SMARTケーブルを推進しています。SMARTは「Science Monitoring And Reliable Telecommunications」の略とされ、ケーブルの中継器に温度・圧力・地震計(加速度)のセンサーを組み込む構想です。

数千の中継器を持つ約100万kmのケーブル網を活用できれば、海洋熱含量、海洋循環、海面上昇などの気候変動指標を、追加コストを抑えて継続観測できると期待されています。2019年のFrontiers in Marine Scienceの論文は、ケーブルを利用した圧力・地震加速度センサーが津波警報の猶予時間と地震情報の精度を改善しうることをシミュレーションで示しました。ただしこれらは見込みであり、運用面での成果の検証はこれからです。

日本の海底観測網

日本は、地震・津波の観測用に通信ケーブル技術を使った海底観測網を持っています。海洋研究開発機構(JAMSTEC)のDONETは南海トラフ沿いの観測網、防災科学技術研究所のS-netは東北沖の日本海溝沿いの観測網です。S-netは150か所の観測点を、全長約5,500kmのケーブルでつなぐ大規模なものとして知られています。津波防災について詳しくは津波防災の基礎知識もご覧ください。

通信と観測の両立

SMARTケーブルや日本のDONET・S-netのように、ケーブルは「情報を運ぶ線」から「海を測る線」へ役割を広げつつあります。

これからの課題:混み合う海と脱炭素・安全保障

洋上風力などとの海域競合

海底は通信ケーブルだけでなく、電力ケーブル、洋上風力発電、海底資源開発、漁業が重なる場所になりつつあります。洋上風力の送電ケーブルと通信ケーブルの交差や、風車の基礎工事の影響をどう調整するかが今後の課題です。日本の洋上風力の動向は洋上風力発電の記事で詳しく解説しています。

安全保障と冗長化

近年は、海底ケーブルの損傷が国際ニュースになる例が増え、通信の途絶リスクが安全保障の観点からも議論されています。事故か意図的な行為かの判断は難しく、断定は慎重にすべきです。確かなのは、複数のルートで迂回できる冗長性が、トンガのような単一ケーブル依存の地域では乏しいという点です。

海の持続可能な利用の中で

海底ケーブルは、海を使い切るのではなく、海と調和して使うという海洋の持続可能な利用の課題を映しています。漁具の放置が問題になるゴーストギアのように、海底に残る人工物の管理は共通のテーマです。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

読者が今日からできること

  • ニュースで「ケーブル切断」を見たら、原因と復旧時間に注目する
  • 海の利用ルール(錨泊・漁業)の背景を知る
  • 海の観測とインフラの両立という視点で海洋ニュースを読む

参考文献・出典

  1. TeleGeography「Do Submarine Cables Account For Over 99% of Intercontinental Data Traffic?」 – 大陸間トラフィックの99%超に関する検証
  2. TeleGeography「What happens when submarine cables break」 – ケーブル故障と修理
  3. ICPC(国際ケーブル保護委員会)出版物 – ケーブル保護と環境に関する資料
  4. UNEP-WCMC / ICPC『Submarine Cables and the Oceans: Connecting the World』 – ケーブルと海洋環境(2009)
  5. SMART Cables Joint Task Force(ITU/WMO/UNESCO-IOC) – SMARTケーブル構想
  6. Howe et al. (2019) SMART Cables for Observing the Global Ocean – Frontiers in Marine Science
  7. Fibre Systems「Sharks don't dine on subsea fibre optic cables, says ICPC」 – サメ被害に関するICPCの見解
  8. Computerworld「Don't blame sharks for Asian Internet problems」 – 故障原因の割合
  9. The Record「Tonga submarine cable repaired」 – トンガ噴火後のケーブル復旧
  10. Data Center Knowledge「Japan Quake: Multiple Undersea Cables Damaged」 – 東日本大震災と海底ケーブル

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