⚡ 30秒でわかる答え

  • 魚のアラは捨てるものではなく、魚粉・魚油、だし、コラーゲン、肥料などに使える資源で、国内で年約75万トンと試算される。
  • 最大の出口は魚粉・魚油で、アラの約74%が魚粉会社へ運ばれると推計される。
  • 皮やうろこはコラーゲン・ゼラチン原料として価値が高いが、鮮度・量・規制が普及の壁になっている。
約75万t
国内の魚アラ推計量(2024年統計・筆者試算)
約74%
魚粉会社に搬入されると推計される割合
最大70%
加工される魚のうち副産物になりうる割合(FAO)

魚の切り身を食べるとき、頭や骨、皮、内臓はどこへ行くのでしょうか。これらは「アラ」と呼ばれ、国内だけで年間約75万トンと試算されています(2024年統計をもとにした筆者推計)。

アラは捨てられるだけではありません。養殖の餌になる魚粉・魚油、だしやエキス、コラーゲン、肥料など、さまざまな形で使われています。

この記事では、アラの発生源から活用法、普及の壁、家庭でできることまでを、公開資料と学術レビューをもとに整理します。

この記事で学べること

  • 魚のアラが部位ごとにどれくらい出るか
  • 魚粉・魚油が最大の出口になっている理由
  • だし・コラーゲン・肥料などへの活用法
  • 鮮度・量・規制という普及の壁
  • 家庭でできるアラの使い切り方

魚のアラとは何か:捨てられる部分は想像以上に大きい

スーパーの切り身や刺身、缶詰、かまぼこ、干物。私たちが口にする水産物は、じつは魚一尾のうちの「食べやすい部分」だけです。頭、骨、皮、ひれ、内臓、うろこといった残りの部分は、水産業界でアラや加工残渣(ざんさ)と呼ばれます。魚をさばく工程が増えるほど、アラは必ず生まれます。

アラの量は、決して小さくありません。水産の業界誌『Ocean Newsletter』(笹川平和財団海洋政策研究所)に掲載された試算では、国内向けの魚介類供給量のうち貝類・海藻を除く魚介類は162万トン(2024年統計)で、可食部の割合を示す歩留まり率が54%であるため、頭・骨・皮・ひれ・内臓などの非可食部は約75万トンになるとされています。ただしこれは筆者による推計で、水産庁など公的機関の確定統計ではない点には注意が必要です。

部位ごとの重さの目安

魚の部位がどれくらいの割合を占めるかは、魚種や大きさ、さばき方で大きく変わります。コラーゲンペプチドに関する学術レビューでは、水産副産物の内訳として、頭が全体重量の9〜12%、内臓が12〜18%、皮が1〜3%、骨が9〜15%、うろこが約5%と整理されています。これらを合計すると、魚の重さの半分近くが「可食部以外」になる計算です。

部位全体重量に占める目安主な成分の特徴
頭9〜12%タンパク質・脂質・うま味成分
内臓12〜18%消化酵素・脂質・タンパク質
皮1〜3%コラーゲン(I型が中心)
骨9〜15%カルシウム・リン・コラーゲン
うろこ約5%コラーゲン・ケラチン・カルシウム
魚の副産物の部位別割合の目安(学術レビューの整理による。魚種により変動)

世界ではどうか

国連食糧農業機関(FAO)の報告書『世界漁業・養殖業白書(SOFIA)2022』は、加工される魚のうち副産物が占める割合は、魚の大きさ・種類・加工方法によって最大で約70%に達しうると述べています(国際魚粉魚油機関IFFOによる引用)。つまり、水産物を「加工して食べる」ことは、そのまま大量の副産物を生むことを意味します。

この記事の見どころ

  • アラは「ごみ」ではなく、タンパク質・脂質・ミネラルを含んだ資源
  • 主な行き先は、魚粉・魚油(養殖の餌)、肥料、だし・エキス、コラーゲンの4系統
  • 同じ魚のアラでも、鮮度と回収の仕方で行き先と価値が大きく変わる

アラの活用は、すでに別の切り口でも解説しています。コラーゲンの活用は魚の骨・皮・うろこは何になる?、国内の加工残さ全体は水産加工残さを資源に変える、混獲魚の食品化は混獲魚を食品に変える工夫もあわせてご覧ください。

アラはどこから出る?発生源で行き先が変わる

アラと一口に言っても、どこから出るかで性質は大きく異なります。『Ocean Newsletter』の整理では、水産加工場由来、卸売市場・量販店・料理店由来、家庭由来の三つに分けられています。

水産加工場のアラ:量がまとまり、魚種がそろう

かまぼこ、冷凍フィレ、缶詰などの工場では、同じ魚種を大量にさばくため、アラも単一魚種でまとまって出ます。鮮度も保ちやすく、近隣のフィッシュミール(魚粉)工場に運ばれて魚粉・魚油になるのが定番の流れです。同じ記事の推計では、アラ総量75万トンのうち約74%がフィッシュミール会社に搬入されるとされています。

市場・小売・飲食店のアラ:種類が混ざる

卸売市場やスーパーのバックヤード、飲食店では、魚種も大きさもばらばらのアラが少量ずつ出ます。回収の手間がかかり、混ざり合うことで品質が安定しにくいのが難点です。一方で、鮮魚店が「アラ」として家庭向けにあら汁用に売る例のように、出口が見つかる場合もあります。

家庭のアラ:ほとんど可燃ごみへ

家庭で出る魚の骨や皮、頭は、生ごみとして自治体の焼却ルートに入るのが一般的です。量は少なくても、世帯数を掛け合わせると無視できない規模になります。自治体によっては生ごみのたい肥化や、バイオガス化を進めているところもあります。

発生源特徴主な行き先
水産加工場単一魚種・大量・鮮度が良い魚粉・魚油、エキス、コラーゲン原料
卸売市場・量販店・飲食店魚種が混在・少量ずつ魚粉工場、肥料、産業廃棄物処理
家庭少量・分散可燃ごみ、一部は生ごみ資源化
発生源別に見たアラの特徴と行き先(Ocean Newsletterの整理をもとに編集部が作成)
魚一尾が頭・骨・皮・内臓・可食部に分かれ、それぞれ別の用途に向かう様子を示した図解
一尾の魚は、部位ごとに別の用途へ向かう

最大の出口は魚粉・魚油:養殖の餌になるアラ

アラの最も定着した使い道は、乾燥・粉砕して作る魚粉(フィッシュミール)と、搾って得る魚油(フィッシュオイル)です。これらはサケ・ブリ・マダイなどの養殖魚や、家畜・ペットの飼料に使われます。

魚粉ができるまで

基本的な流れは、細かく砕く、煮る(蒸煮)、圧搾して水分と油を分ける、乾燥させて粉にする、という工程です。静岡県焼津市の事例を取り上げた静岡県水産・海洋技術研究所の資料では、水産加工工場から出る加工残滓が煮熟処理、固液分離などを経て、飼料・食品・有機肥料に加工されると説明されています。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

世界の魚粉・魚油と副産物の割合

IFFOによると、魚粉・魚油の生産に使われる魚の量は1994年に3,000万トン超でピークとなった後に減り、2022年には1,670万トンになりました。原料の中でアラなどの副産物が占める割合は年や資料で幅があり、シーフィッシュ(英国水産業機関)はFAOの2020年版を引いて25〜35%、IFFOは資料により30%や42%と紹介しています。年や定義が異なるため単純比較はできませんが、世界の魚粉・魚油原料のおよそ3割から4割が、食用に加工された魚の副産物から来ているというのが大づかみな姿です。

数値の読み方

  • 25〜35%(FAO SOFIA 2020を引用したシーフィッシュ)、30%・42%(IFFO)と資料で差がある
  • 年・地域・定義が違うため、「3〜4割前後」と幅で捉えるのが安全

魚粉の課題と、アラへの期待

天然の小魚を主原料にした魚粉は、水産資源への圧力という批判を受けてきました。そこで、すでに食用として漁獲・加工された魚のアラを原料に回す方向は、資源の使い方として合理的です。アラ由来の魚粉は、天然小魚を新たに獲る量を抑えることにつながります。ただし、アラ由来は魚種や部位によりタンパク質・灰分(骨由来のミネラル)の比率が変わり、飼料として求められる品質を安定させる工夫が必要です。

だし・エキス・調味料:うま味を取り出す

魚のアラは、うま味の宝庫です。頭や骨、中骨のまわりの身には、イノシン酸やアミノ酸、ペプチドなどが含まれ、昔から「あら汁」「魚のだし」として食べられてきました。これを工場規模で行うのが、エキス・調味料への加工です。

加熱抽出と酵素分解

基本の方法は二つあります。ひとつは水で煮出して濃縮する熱水抽出で、かつお節の製造過程やだしパックの原料づくりなどで古くから使われてきた考え方に近いものです。もうひとつは、タンパク質分解酵素を加えて分子を細かくする酵素分解(加水分解)で、うま味の強い「ペプチド」や「アミノ酸」を効率よく取り出せます。伝統的な魚醤(ぎょしょう)は、魚の内臓に含まれる酵素と塩の力で長期間熟成させる、いわば自然の酵素分解です。

カツオ内臓の例:食べ物ではなく「漁の餌」へ

静岡県水産・海洋技術研究所の研究(令和6年度)では、カツオの水産加工で出る内臓(胃腸・幽門垂)のエキスを、漁業用の餌料の誘引剤として使う試みが紹介されています。水槽試験では、従来使われてきたカタクチイワシと同等の誘引効果が得られたとされます。加工業者からは用途の拡大や付加価値化が求められており、食品以外の出口を探る一例といえます。

おいしさ以外の価値:機能性ペプチド

酵素で分解した魚のタンパク質には、血圧を下げる働きが期待される成分などの研究が国内外で進んでいます。ただし、ここは研究段階の内容や商品ごとの根拠の差が大きい領域です。機能性表示などを見るときは、対象の成分や試験の中身を確認することが大切です。

家庭でできるアラ活用

  • 魚のアラは霜降りして臭みを取り、あら汁やだしに使う
  • 骨付きの身は、揚げて骨せんべいにすると丸ごと食べられる
  • 鮮魚店でアラだけを安く売っている場合は、積極的に買う

コラーゲン・ゼラチン:皮とうろこが高付加価値になる

アラの中で最も付加価値が高くなりうるのが、皮、うろこ、骨に含まれるコラーゲンです。魚の皮は約70%がI型コラーゲンとされ、うろこはタンパク質が約70%で、主にコラーゲンとケラチンで構成されると、学術レビューでまとめられています。

抽出の三つの方法

魚の皮からコラーゲンペプチドを得る方法は、レビューでは大きく三つに整理されています。酸・アルカリで処理する方法、タンパク質分解酵素で分解する方法、発酵させる方法です。このうち酵素分解は、栄養価を損なわずに皮を加水分解できる方法として評価されています(これは一つのレビューの見解で、定説とまでは言い切れません)。うろこの場合はカルシウムが多いため、先に脱灰(だっかい)の工程が必要で、EDTAという薬剤を用いる方法が報告されています。

コラーゲンとゼラチンの違い

ゼラチンはコラーゲンを部分的に加水分解して得られるもので、さらに細かく分解したものがコラーゲンペプチドです。魚由来のゼラチンは、ウシやブタ由来と比べてアレルギー反応が少ないとされ、宗教上の食の制限がある地域でも代替品として注目されています。一方、魚由来は融点が低く、ゼリーの固まり方などに違いが出る点が課題です。

原料主な成分主な製品例
皮I型コラーゲンゼラチン、コラーゲンペプチド、化粧品原料
うろこコラーゲン・ケラチン・カルシウムコラーゲン、カルシウム素材
骨カルシウム・リン・コラーゲンカルシウム強化食品、肥料
部位ごとの主成分と製品の例
魚の皮やうろこがコラーゲンペプチドの粉末や化粧品になる流れを示した図解
皮・うろこはコラーゲンやゼラチンの原料になる

注意したい点

  • 「魚由来だから安全・高機能」と単純には言えない
  • 食品や化粧品は、原料表示・アレルゲン表示(魚)を確認する
  • 効果をうたう商品は、根拠となる試験の内容まで見る

肥料・飼料・バイオガス:丸ごと循環させる

価値は高くなくても、量をさばけるのが、肥料と飼料、エネルギー利用です。

肥料:窒素・リン・カルシウムの供給源

魚のアラは窒素やリン、骨由来のカルシウムを含み、乾燥して粉にした魚かす肥料や、発酵させた有機肥料として古くから農地に戻されてきました。焼津の事例のように、煮熟・固液分離で出る固形分が有機肥料に回る流れもあります。海で獲れたものの栄養を、陸の作物に返す循環です。

フィッシュ・サイレージ:酸で保存する

魚のアラに有機酸などを加えて自己消化させ、液状の飼料に変える方法をフィッシュ・サイレージといいます。乾燥の設備が要らず、小さな規模でも導入しやすいのが強みです。保存性が上がり、家畜や養殖魚の飼料原料として使えます。

バイオガス:エネルギーに変える

脂質やタンパク質の多いアラは、メタン発酵に向く原料でもあります。発酵で発生するガスを発電や熱利用に回せば、焼却に比べて燃やす際の化石燃料を減らせます。ただし、魚の塩分やアンモニアが発酵菌に影響するため、他の有機物と混ぜて調整するなどの工夫が欠かせません。

方法設備の規模得られるもの向く原料
魚粉・魚油大(専用工場)飼料原料単一魚種の大量のアラ
フィッシュ・サイレージ小〜中液状の飼料原料新鮮なアラ
肥料化小〜中有機肥料骨・固形分
バイオガス中〜大電気・熱他の有機物と混合
主な資源化の方法の比較(編集部の整理)

アラ活用が進まない壁と、これからの工夫

アラの活用は、技術的にはほとんど確立しています。それでも広がりきらないのは、技術以外の壁があるからです。

壁1:鮮度の劣化が早い

アラの価値は鮮度で決まります。内臓の酵素が働くと、短時間でタンパク質や脂質が劣化します。冷蔵・冷凍設備が十分でない小規模な加工場では、すぐに処理しないと原料として使いにくくなります。

壁2:量が少なく、回収コストが見合わない

港から離れた地域や小規模事業者では、1日に出るアラの量が少なく、遠くの工場まで運ぶ費用が収益を上回ることがあります。魚種も混ざるため、付加価値の高い用途に回しにくいのも悩みです。

壁3:用途ごとの規制と品質基準

飼料や食品に使うには、安全性や品質の基準を満たさなければなりません。たとえば飼料原料では、混入物の管理や、どの部位を使ってよいかの区分が求められます。化粧品や食品では、原料のトレーサビリティも必要です。

これからの工夫

  • 地域での共同処理:近隣の加工場がアラをまとめ、共同で冷蔵・一次処理を行う
  • 用途の組み合わせ(カスケード利用):皮はコラーゲン、骨はカルシウム、残りは魚粉・肥料へと、価値の高い順に使い切る
  • 新しい出口の開拓:カツオ内臓エキスを漁の餌にするなど、食品以外の需要を探る
  • 消費者側の理解:アラ由来の食品や素材を、選んで買う
魚のアラが価値の高い順に使い切られる階段状のカスケード利用の図解
価値の高い順に使い切る「カスケード利用」

私たちにできること:アラまで食べる選択

アラの活用は、事業者や研究機関だけの課題ではありません。消費者の選択も、出口を広げる力になります。

家庭での三つの行動

  • 魚を買うときは、切り身だけでなく、アラ付きや丸魚も選び、あら汁やだしに使い切る
  • 骨せんべい、魚醤、だしパックなど、アラ由来の食品を試してみる
  • 食べ残しを減らす。身も皮も無駄にしないことが、アラ以前の食品ロス削減につながる

お店や産地を応援する

アラを活用した商品を売る産地や企業は、少しずつ増えています。商品を選ぶとき、原料や取り組みの説明を読んでみてください。また、持続可能な漁業の認証(MSCなど)がついた水産物を選ぶことも、資源全体を大切にする行動です。

まとめ

  • 魚のアラは、日本だけで年間数十万トン規模が発生すると推計される
  • 魚粉・魚油が最大の出口で、だし、コラーゲン、肥料、バイオガスへも広がる
  • 鮮度・量・規制という壁を、共同処理やカスケード利用で乗り越えつつある
  • 家庭でも、アラまで使い切る工夫から始められる
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

参考文献・出典

  1. Ocean Newsletter 第605号(笹川平和財団 海洋政策研究所) – 魚アラの発生量の推計と発生源別の整理
  2. 静岡県水産・海洋技術研究所 令和6年度研究成果(R6-09) – カツオ内臓エキスの漁業用餌料への利用
  3. 静岡県水産・海洋技術研究所 令和5年度研究成果(R5-12) – 水産加工残滓の飼肥料利用
  4. IFFO(国際魚粉魚油機関)Marine ingredients – 魚粉・魚油原料に占める副産物の割合
  5. Seafish: Sourcing fishmeal and fish oil – FAO SOFIA 2020を引いた副産物の割合
  6. Improving the Sustainability of Processing By-Products: Extraction and Recent Biological Activities of Collagen Peptides – 水産副産物の部位別割合とコラーゲンペプチド
  7. A Review on Fish Skin-Derived Gelatin – 魚皮由来ゼラチンとペプチドのレビュー
  8. FAO The State of World Fisheries and Aquaculture – 世界の漁業・養殖業白書

※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア