12.1万人
漁業就業者数(令和5年)。平成29年の15.3万人から6年で約2割減
17.0%
海面漁業の経営体が5年間で減った割合(2023年漁業センサス)
1,733人
令和5年度の新規漁業就業者数。うち約7割が39歳以下

スーパーの鮮魚売り場に並ぶ魚は、誰かが海に出て獲ってきたものです。ところが、その「誰か」が急速にいなくなっています。水産庁の令和6年度水産白書によれば、日本の漁業就業者数は令和5(2023)年に12万1,389人。平成29(2017)年の15万3,490人と比べると、わずか6年で約2割が消えた計算になります。

さらに深刻なのは、人だけでなく経営体そのものが消えていることです。2023年漁業センサス(確定値)では、全国の海面漁業の経営体数は6万5,662経営体で、5年前より1万3,405経営体(17.0%)減りました。個人経営体に限れば17.6%減。船を持ち、漁協に属し、地域の海を使ってきた「家」の単位が、5年で6分の1近く失われたということです。人が減るスピードよりも、受け皿が減るスピードのほうが速い——これが担い手問題の本質的な難しさです。

この記事では、「高齢化だから仕方がない」で終わらせずに、なぜ後継者が生まれにくいのかを所得・住居・情報・権利という四つの角度から分解します。そのうえで、新規就業支援制度、スマート漁業による省力化、海業(うみぎょう)による所得の多角化という三つの再生策が、どこまで効いていてどこが足りないのかを、公的資料と実在の取り組みに即して整理します。海のなりわいを次代へ継ぐために、いま何が起きているのかを一緒に見ていきましょう。

この記事で学べること

  • 漁業就業者数・経営体数が「どのくらいの速さで」減っているのかを、最新の公的統計で正確につかめる
  • 高齢化という一言では説明できない、後継者が生まれにくい構造的な理由(所得・住居・情報・権利)がわかる
  • 国と自治体が用意している新規就業支援の中身と、実際の入り口(就業支援フェア・研修)が具体的にわかる
  • スマート漁業(ICT・AI)が担い手不足のどの部分を軽くし、どこは軽くできないのかを冷静に整理できる
  • 海業(うみぎょう)や地域の受け皿づくりなど、「稼げる漁村」への転換に向けた実例を知ることができる
  • 消費者・一般市民の立場から、海のなりわいを支えるためにできることが見えてくる

数字で見る担い手不足の現在地

担い手不足を語るときに一番大事なのは、印象ではなく実際の数字です。まずは公的統計が示す「減り方の速度」を確認しておきましょう。

漁業就業者は令和5年に12万1,389人

水産庁の令和6年度水産白書によれば、漁業就業者数は令和5(2023)年で12万1,389人、前年比1.4%減でした。平成29(2017)年は15万3,490人(前年比4%減)でしたから、6年間で約3万2千人、率にしておよそ21%が減少したことになります。1年あたりおよそ5千人ずつ、地方の一つの町の働き手に相当する規模が海から抜けている計算です。

漁業就業者数備考
平成29(2017)年153,490人前年比4%減
令和4(2022)年123,100人前年比4.8%減
令和5(2023)年121,389人前年比1.4%減
漁業就業者数の推移(出典:水産庁 平成30年度・令和5年度・令和6年度水産白書)

注意したいのは、減少率が年によって大きく揺れることです。令和4年は4.8%減と急落し、令和5年は1.4%減にとどまりました。単年の数字だけを見て「下げ止まった」と判断するのは危険で、統計の取り方や燃油価格・魚価といった外的要因の影響も混じります。長期の傾き(右肩下がり)こそが本質です。

経営体そのものが5年で17%消えた

人より深刻なのが経営体です。農林水産省の2023年漁業センサス(令和5年11月1日現在・確定値)では、全国の海面漁業の漁業経営体数は6万5,662経営体で、5年前に比べて1万3,405経営体、17.0%の減少でした。

区分経営体数(2023年)5年前からの増減
海面漁業 経営体(全体)65,662▲13,405(▲17.0%)
うち個人経営体61,386▲13,140(▲17.6%)
個人経営体のうち専業33,921▲4,377(▲11.4%)
個人経営体のうち兼業27,465▲8,763(▲24.2%)
2023年漁業センサス(確定値)が示す経営体の減少(出典:農林水産省)

この表で目を引くのは、兼業の減り方(24.2%減)が専業(11.4%減)の2倍以上だという点です。兼業は「漁業だけでは食べられないので他の仕事と組み合わせる」という、地域に残るための現実的な選択肢でした。その兼業層がまず崩れているということは、漁業を続けるための「ゆるい足場」が先に抜け落ちていることを意味します。

また、経営体全体6万5,662のうち個人経営体が6万1,386を占めるので、会社・漁協・共同経営などの団体経営体は差し引き約4,276にとどまります。日本の海面漁業が、いまなお圧倒的に「個人の家」によって担われていることがわかります。個人経営体は一人の引退がそのまま一経営体の消滅につながるため、統計上の減少が実際の現場の空白に直結しやすい構造です。

漁業就業者数と海面漁業経営体数の減少を並べて示した折れ線・棒グラフの図解
図1:就業者の減少(左)と経営体の減少(右)。受け皿である経営体のほうが速く減っている

将来試算が示す「7万人への収束」

水産庁が平成30年度水産白書のコラムで示した機械的な試算では、当時の新規就業者数などの条件を固定した場合、漁業就業者は2028年に約10万3千人、2048年に約7万3千人、2068年に約7万人へ収束するとされました。これは「予言」ではなく、条件を変えなければこうなるという警告値です。逆にいえば、新規就業者を増やすか離職を減らすかすれば、この線は動かせるということでもあります。

この章のポイント

  • 漁業就業者は令和5年で12万1,389人。6年で約21%減った
  • 海面漁業の経営体は5年で17.0%減。個人経営体の兼業が24.2%減と最も速い
  • 条件を変えなければ2048年に約7万3千人という試算がある(平成30年度水産白書)

なぜ後継者が生まれないのか──所得・住居・情報の壁

「若者が海に来ない」と言われますが、来ない理由は気持ちの問題ではありません。数字と制度で説明できる、具体的な壁があります。

漁労所得219万円という現実

水産庁の令和6年度水産白書によれば、令和5(2023)年の沿岸漁船漁業を営む個人経営体の平均漁労所得は219万円で、前年から33万円減少しました。漁労外の収入を加えた事業所得でも242万円です。令和4(2022)年は漁労所得252万円でしたから、1年で1割以上落ちたことになります。

この金額は「船を持ち、燃油を買い、漁具を修繕し、保険を払ったあとに手元に残る額」です。しかも漁労所得は魚価と燃油価格に強く揺さぶられ、年ごとの振れ幅が大きい。安定した月給に慣れた世代にとって、この不安定さは金額そのもの以上に重い障壁になります。

さらに、漁業は労働環境の面でもハードルがあります。出港は深夜から早朝、天候によって仕事の有無が決まり、海上作業には常に危険が伴います。休日が固定されず、家族との時間や子どもの学校行事に合わせにくいという声も現場から聞かれます。所得が高ければ「その分の対価」と納得できるかもしれませんが、219万円という水準では、割に合わないと判断されてもおかしくありません。担い手対策の第一歩は、精神論ではなく所得と働き方の改善である——統計はそう告げています。

「継ぐ」以外の入り口が細い

日本の沿岸漁業は長く家族経営を基本単位としてきました。船・漁具・漁協の組合員資格・漁場の使い方に関する暗黙知が、親から子へまとめて引き渡される仕組みです。この仕組みは効率的でしたが、裏を返せば「家に生まれなかった人」が入る導線が細いということでもあります。

  • 船と漁具の初期投資が大きく、中古船でも数百万円〜数千万円かかることがある
  • 漁業権・漁業許可の枠は地域ごとに管理され、新規参入者が自動的に得られるわけではない
  • どの漁場でいつ何が獲れるかという知識は文書化されておらず、隣で見て覚えるしかない
  • 漁村に住まいがなく、空き家はあっても賃貸市場として機能していない地域が多い

つまり後継者問題は「跡取りがいない」問題であると同時に、外から入りたい人がいても入れない問題でもあります。この二つは別々の対策を必要とします。

新規参入者の前に立ちはだかる4つの壁(資金・権利・技能・住居)を示した図解
図2:新規参入をはばむ四つの壁。どれか一つを外すだけでは通り抜けられない

受け皿が減ると、継ぎたい人も継げない

経営体が17%減ったという事実は、雇ってくれる場所・技を教えてくれる人が17%減ったということでもあります。担い手不足は「人が足りない」と「人を受け入れる余力が足りない」が同時進行する二重の縮小であり、放置すると加速度的に進みます。地域に一定数の経営体が残っているうちに手を打つ必要があるのは、このためです。

見落とされがちな連鎖

経営体が減る→教えられる親方が減る→新規就業者を受け入れられない→さらに経営体が減る、という負の循環が起きます。担い手対策は「若者を呼ぶ」だけでなく「受け入れ側を維持する」ことがセットでなければ効きません。

高齢化の内実──引退の波と若手の薄さ

「高齢化」という言葉はよく使われますが、実際に現場で何が起きているのかを分解すると、対策の優先順位が見えてきます。

現場を支えているのは高齢層

水産庁の令和6年度水産白書は、漁業就業者全体が減少するなかで、65歳以上の割合が増加傾向にあると分析しています。東北圏の例では、65歳以上の割合は1973年の8.4%から2023年には39.2%へ上昇し、およそ4割を占めるまでになりました(東北圏社会経済白書等の地域統計)。地域によって差はありますが、沿岸漁業の日々の水揚げを支えているのが高齢層である点は全国に共通します。

高齢層が多いこと自体は、経験の蓄積という意味では強みでもあります。問題は、その層が今後10年ほどでまとまって引退するという時間的な集中です。緩やかな減少ではなく、階段状の落ち込みが来る可能性があります。

39歳以下は増えているが母数が小さい

見落とされがちですが、令和6年度水産白書は39歳以下の就業者も増加傾向にあると記しています。全体が減るなかで若年層が増えているのは、後述する支援制度や地域の受け入れ努力が一定の効果を上げている証拠です。ただし母数が小さいため、引退する高齢層の穴を埋めるには規模がまったく足りていません。

観点現状意味
65歳以上割合が増加傾向今後10年で引退が集中する可能性
39歳以下増加傾向だが母数が小さい対策は効いているが規模不足
中間層(40〜64歳)全体の減少の中心技能継承の中継ぎ役が薄い
年齢構成から読む担い手問題の構造(出典:水産庁 令和6年度水産白書の記述をもとに整理)

技能継承のタイムリミット

漁業の技能は、海況の読み方、漁具の仕立て、魚の締め方、市場との付き合い方まで幅広く、いずれも言語化されていない部分が多いのが特徴です。ベテランが現役でいるあいだに若手が横で覚える必要があり、一度断絶すると復元は困難です。「あと何年、教えられる人が船に乗っているか」という視点で見ると、担い手対策は待てる課題ではありません。

とりわけ失われやすいのが、その土地固有の知識です。どの瀬でいつ潮が変わるか、どの風のときにどこへ避難するか、何年おきに何が湧くか——こうした情報は全国共通の教科書には載っていません。地域の海を安全に使うための知識でもあるため、断絶は生産量の低下だけでなく、事故のリスク増にもつながります。近年はデジタル操業日誌などで記録に残す試みが始まっていますが、記録できるのは数値化しやすい部分に限られます。

高齢層の引退の波と若年層の細い流入を対比した年齢構成の図解
図3:太い高齢層、細い中間層、少しずつ増える若年層。断絶が起きやすい形をしている

新規就業者はどこから来るのか──1,733人の内訳

毎年どれだけの人が新しく漁業に入っているのか。ここには希望と課題の両方が表れています。

雇われ就業と独立自営の内訳

水産庁によれば、令和5(2023)年度の新規漁業就業者数は1,733人でした。内訳は雇われでの就業が1,150人(前年比19%増)、独立・自営が576人(前年比20%減)です。前年の令和4年度は全体1,691人でしたから、総数はわずかに増えています。

年度新規就業者 合計雇われ就業独立・自営
令和3(2021)年度1,744人1,076人668人
令和4(2022)年度1,691人965人718人
令和5(2023)年度1,733人1,150人576人
新規漁業就業者数の推移と就業形態(出典:水産庁 令和5年度・令和6年度水産白書)

この表からは重要な変化が読み取れます。雇われ就業が増え、独立自営が減っているのです。会社や漁協に雇用される形での参入が増えるのは、初期投資リスクが低く入りやすいという意味で歓迎すべきことです。一方で、独立自営が減れば、将来的に「自分の船を持ち、地域の漁場を担う人」が細ります。入口の広さと、その先の道筋の両方を設計する必要があります。

なお、新規就業者のうち約7割が39歳以下です。漁業に若い人が来ないわけではなく、来る人数の絶対量が足りていない、というのが正確な捉え方になります。

漁業就業支援フェアという入り口

外部から漁業に入る最大の入り口が、一般社団法人全国漁業就業者確保育成センターが水産庁と連携して開く漁業就業支援フェアです。平成14(2002)年度から続く国内唯一の全国規模の漁師就職相談会で、北海道から沖縄まで、沿岸から沖合・遠洋までの漁業者や漁協が出展し、希望者が直接話を聞けます。

同センターの発表によれば、2026年7月に開催された「漁業就業支援フェア2026夏」の来場者は福岡75人・大阪122人・東京257人の合計454人で、前年の342人から約1.3倍に増えました。東京会場は前年比1.5倍です。数字としては決して大きくありませんが、関心が伸びていること自体は明るい材料です。

開催会場来場者数
2025年2月大阪/東京123人/172人
2025年7月福岡/東京/大阪65人/167人/110人
2026年7月福岡/大阪/東京75人/122人/257人(計454人)
漁業就業支援フェアの来場者数の推移(出典:全国漁業就業者確保育成センター 公表資料)

同センターによれば、フェアの開催は通算110回を超えました。2026年2月には、官民・地域間の連携を強化するための初のネットワーク会議も開かれています。個々の漁協や漁業会社が単独で募集をかけるのではなく、全国の受入側が情報とノウハウを共有する段階に入ったということです。担い手の獲得は、いまや地域間の競争であると同時に、業界全体の共同作業でもあります。

漁業就業支援フェアの会場で漁業者から話を聞く来場者のイメージ
図4:漁業就業支援フェアは、家に生まれなかった人が漁業に出会える数少ない場だ

水産高校・水産系教育からの流れ

全国の水産高等学校は、海洋漁業・栽培漁業・食品加工などを学べる専門教育機関で、実習船による航海訓練を持つ学校もあります。水産庁は水産教育の方向性のなかで、卒業生が必ずしも水産業に進まない現状を課題として挙げてきました。普通科の高校では水産という分野に触れる機会がほとんどないため、そもそも進路の選択肢に入らないという入口の問題もあります。

近年は漁業就業相談会と学校の連携が進み、水産高校の卒業生は「基礎がある人材」として現場から評価されるようになりました。船舶免許や無線資格を在学中に取得できる学校もあり、就業後の立ち上がりが速いという実利もあります。教育から就業への導線を太くすることは、支援金を配ることと同じくらい重要な担い手対策です。

数字の読み方

  • 毎年1,700人前後が新規就業する一方、就業者総数は年に数千人規模で減っている
  • つまり新規就業だけでは補えず、離職の抑制と経営体の維持が同時に必要
  • 雇われ就業の増加は入りやすさの改善、独立自営の減少は将来の担い手の細りを示す

支援制度をどう使うか──研修・資金・住まい

「漁師になりたい」と思ったとき、実際に使える制度があります。ここでは公的支援の骨格を押さえます。

新規漁業就業者総合支援事業

水産庁の新規漁業就業者総合支援事業は、漁業への就業を希望する人を段階的に支える国の枠組みです。就業前の情報提供・相談から、漁業現場での長期研修、独立自営に向けた準備までを一続きで支援します。独立・自営を目指す最長3年間の長期研修支援では、受入側への支援を含めて最大28.2万円/月規模の助成が設定されています(年度により内容・単価は変わるため、最新の公募要領を必ず確認してください)。

  • 就業相談・情報提供:漁業就業支援フェアや相談窓口を通じたマッチング
  • 長期研修:受入漁業者のもとで実務を学びながら生活を支える助成
  • 独立自営の準備:漁船・漁具のリース、漁業経費の一部補助など
  • 定着支援:就業後のフォローアップや技術向上のための研修

都道府県・市町村の上乗せ支援

国の制度に加えて、多くの都道府県が独自の支援制度を持っています。全国漁業就業者確保育成センターは、都道府県ごとの支援制度を一覧にまとめて公開しており、住居の家賃補助、漁船取得の利子補給、研修期間中の生活費補助などが地域ごとに用意されています。国+都道府県+市町村を重ねて使えるかどうかで、実際の負担は大きく変わります。

特に効くのが住まいの支援です。漁村では空き家が多くても賃貸市場が成立していないことが多く、「仕事は決まったが住む家がない」という理由で就業を諦めるケースが実際にあります。自治体が住宅を確保して斡旋する仕組みは、地味ですが決定的な役割を果たします。

漁業権・漁業許可という見えない参入障壁

漁業を独立して営むには、漁業種類に応じて漁業権(区画漁業権・共同漁業権など)や漁業許可が必要です。これらは地域の漁協や都道府県が管理しており、資源管理のために枠が限られています。新規参入者にとっては、資金や技術をそろえても最後に残る壁になりがちです。

この点で象徴的なのが、宮城県石巻市を拠点とする一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンのTRITON PROJECTです。2015年7月に始まったこの取り組みでは、外から入った就業者が区画漁業権や共同漁業権を取得した事例が生まれており、地域として「よそ者に権利を渡す」判断がなされたという意味で先進的です。制度の運用は地域の合意に左右されるため、こうした前例の積み重ねが次の参入者の道を広げます。

新規就業から独立自営までの支援の流れを示したステップ図
図5:相談から独立までを一続きで支える設計。どこか一つが欠けると人は残らない

漁師を目指すなら、まずここから

  • 全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp)で最新の就業支援フェア日程を確認する
  • 希望する都道府県の水産部局に、独自の支援制度と住宅支援があるか問い合わせる
  • いきなり独立を目指さず、まず雇われ就業や長期研修で1〜3年、現場を体験する
  • 受入先を選ぶときは「教えてくれる人がいるか」「住む場所があるか」を必ず確認する

スマート漁業は担い手不足を救えるか

人が減るなら、一人あたりの負担を減らせばいい——スマート漁業への期待はここにあります。ただし万能ではありません。

「経験と勘」をデータに変える

水産庁はスマート水産業の推進を掲げ、漁船にデジタル操業日誌などのICT機器を搭載して操業・漁場環境情報を直接収集する体制づくりを進めてきました。令和2年9月にはスマート水産業現場実装委員会を開き、「スマート水産業推進のための人材バンク」も立ち上げています。

民間の代表例が、株式会社ライトハウスが提供する船団運営支援システムISANA(イサナ)です。まき網やひき網など複数の船が連携する船団漁業では、他船の魚群探知機の反応や位置を把握しづらいという課題がありました。ISANAは魚群探知機・ソナー・船上カメラ・位置情報を船団内でリアルタイムに共有・記録し、判断の根拠を全員が同じ画面で見られるようにします。記録が残るということは、ベテランの判断を後から振り返って学べるということでもあります。

同社は宮城県石巻市を拠点とするフィッシャーマン・ジャパンと業務提携し、地域の水産業DXを進めています。担い手づくりの団体とテクノロジー企業が組む形は、技能継承と省力化を同時に狙う現実的なアプローチです。

養殖・沿岸のIoTモニタリング

養殖の分野でも実装が進んでいます。三重県では、漁場環境をリアルタイムで把握できるIoT海洋観測モニタリングシステム「うみログ」が開発され、水温・塩分などのデータを現場で使える形にしています。赤潮や高水温の兆候を早期に把握できれば、被害を減らすと同時に、見回りのための出港回数を減らすこともできます。

この「行かなくてよくなる」という効果は、担い手不足の文脈では特に重要です。人手が減っている現場では、見回りや確認のための移動時間が経営を圧迫します。手元の端末で漁場の状態がわかれば、限られた人数を本当に人がいなければできない作業に振り向けられます。省力化とは作業を速くすることだけでなく、やらなくてよい作業を見つけることでもあります。

  • 漁場探索の時間短縮=燃油費と労働時間の削減
  • 操業データの記録=技能の言語化と若手の学習加速
  • 環境モニタリング=赤潮・高水温被害の早期対応と見回り負担の軽減
  • 資源評価データの充実=科学的な漁獲管理の精度向上
船団内で魚群探知機のデータを共有するスマート漁業のイメージ図
図6:判断の根拠を船団全員で共有する。記録が残ることで若手の学習も速くなる

スマート漁業にできないこと

一方で、冷静に見ておくべき限界もあります。第一に、導入コストです。漁労所得219万円という個人経営体にとって、機器やサービスの費用は簡単に出せる額ではありません。補助や共同利用の仕組みがなければ、体力のある経営体だけが導入し、格差が広がる可能性があります。

第二に、技術は魚を増やさないことです。効率よく獲れるようになっても、資源そのものが減っていれば持続しません。海水温の上昇による魚の分布変化については海水温上昇で魚が消える——サンマ・スルメイカ不漁と日本の漁業の未来で詳しく扱っています。第三に、荷揚げ・選別・網の修繕といった身体を使う作業は依然として人手に頼る部分が大きいという点です。省力化は担い手不足を和らげますが、置き換えるものではありません。

期待しすぎない、諦めもしない

スマート漁業は「一人あたりの負担を下げる」「技能継承を速める」という点で確かな効果があります。しかし所得の低さ・住居の不足・権利の壁という他の要因を放置したままでは、担い手不足の解決にはなりません。技術は複数ある対策の一つとして位置づけるのが正確です。

外国人材と、多様な担い手のかたち

担い手を「日本人の若い男性」だけで考えるのは、すでに現実に合いません。現場はもっと多様です。

特定技能とマルシップ方式

水産庁の令和6年度水産白書によれば、令和6(2024)年12月末時点で、在留資格特定技能1号の外国人は漁業で2,127人、養殖業で1,361人、特定技能2号(漁業)が2人。加えて、日本の漁船を外国法人に貸し出して外国人が乗り組むマルシップ方式による外国人乗組員が3,565人います。合わせて7千人規模が、すでに日本の漁業・養殖業の現場を支えています。

特定技能1号(漁業2,127人+養殖業1,361人)と2号(2人)を合わせると約3,490人、マルシップ方式の3,565人を加えると約7,000人規模です。新規就業者が年1,700人前後であることを考えれば、この規模は無視できません。同時に、言語・生活支援・キャリアパスの整備が追いついているかという課題もあります。短期の労働力としてではなく、地域の一員として定着してもらう設計が問われる段階に入っています。

特定技能2号がまだ2人にとどまっている点も示唆的です。2号は在留期間の更新に上限がなく家族帯同も可能な資格で、長期定着の受け皿になり得ます。ここが増えていくかどうかが、外国人材を「一時的な労働力」で終わらせるか「地域の担い手」にできるかの分かれ目になります。

女性の参画はまだ入口

女性は漁業就業者の約10%を占めますが、令和5年時点で漁協の正組合員に占める女性の割合は5%、漁協役員では0.4%にとどまります(令和6年度水産白書)。一方、陸上作業では約36%、水産加工業では約60%が女性という推計もあり、現場の実務では大きな役割を担いながら、意思決定の場にはほとんどいないという構図が浮かびます。

区分女性の割合出典年
漁業就業者全体約10%令和6年度水産白書
漁協の正組合員5%令和5年
漁協の役員0.4%令和5年
漁業における女性の参画状況(出典:水産庁 令和6年度水産白書)

複業・半漁という選び方

「専業漁師として一生食べていく」以外の入り方も広がっています。漁閑期に加工や観光ガイド、リモートワークを組み合わせる複業型、Uターン・Iターンで実家の漁業を部分的に継ぐ形などです。前章で見たように兼業経営体は5年で24.2%減りましたが、これは兼業の需要がないからではなく、兼業を支える地域の仕事そのものが減ったことの反映とも読めます。漁業だけを見るのではなく、地域全体の生業(なりわい)の設計として考える視点が必要です。

多様な担い手(外国人材・女性・複業者・Uターン者)が漁業を支える構成図
図7:担い手は一種類ではない。多様な入り方を認める設計が現場を支える

海のなりわいを次代へ継ぐ──地域からの再設計

最後に、担い手不足への対策として最も本質的な「漁村そのものを稼げる場所にする」動きを見ていきます。

海業(うみぎょう)で漁業+αの稼ぎをつくる

水産庁が近年力を入れているのが海業(うみぎょう)です。海や漁村の地域資源の価値・魅力を活用する事業の総称で、漁港での直売所や食堂、遊漁・体験漁業、宿泊、水産加工などを含みます。狙いは、漁獲量の増加に頼らずに地域の所得と雇用の機会を増やすことにあります。

水産庁は5年間でおおむね500件の漁港で新たな海業の取組を実施することを目指し、「海業の推進に取り組む地区」を公募しています。令和6年3月に公表した54地区に、その後決定した32地区を加えて合計86地区が選ばれました(水産庁発表)。数字だけを見ればまだ目標の一部ですが、漁港を「魚を揚げる場所」から「人が集まる場所」へ広げる転換が全国で始まっています。

海業が担い手対策として重要なのは、漁業だけでは足りない所得を地域内で補える点、そして漁業以外の入口から漁村に人を呼べる点です。食堂や体験プログラムで働いていた人が、やがて船に乗るようになる——そういう回り道の導線が実際に生まれています。未利用魚の商品化については未利用魚の活用が変える食卓と漁業——給食・加工品・ふるさと納税で進むフードロス削減もあわせてご覧ください。

水産庁は「海業振興総合相談窓口(海業振興コンシェルジュ)」を設け、取り組みたい地域からの相談を受け付けています。漁港の施設をどう使えるか、必要な手続きは何か、補助制度は使えるかといった実務的な壁は、地域だけで抱えると前に進みません。制度の側が伴走する姿勢を持ったことは、担い手対策としても意味のある変化です。

海業は、漁村の人口減少や高齢化等の中で、地域資源を最大限に活用することで地域の所得と雇用の機会の確保を目指すものである。

― 水産庁「海業の推進に取り組む地区」公募要領

地域が担い手を育てる仕組み

宮城県石巻市の一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンは、2015年7月にTRITON PROJECTを立ち上げ、若者と漁師をつなぐ担い手育成に取り組んできました。求人・相談・マッチングだけでなく、受入側の環境整備、住居の提供、技能向上のための勉強会までを一体で行うのが特徴です。同団体の公表によれば、プロジェクトとその全国展開を通じて185人以上が新たに漁業の担い手となり、TRITON PROJECT経由で40人以上が就業、うち区画漁業権を取得した人が2人、共同漁業権を取得した人が1人生まれています。

同団体は石巻市の水産業担い手センター事業を2015年12月から受託し、その後、北海道や気仙沼市などへも展開しています。「募集して終わり」ではなく、住まい・技能・権利・仲間までを地域ぐるみで用意するという設計思想が、他地域にも参考になります。東日本大震災後の漁業復興と担い手の関係については東日本大震災からの漁業復興13年—漁港再建と担い手不足、水産業高度化の到達点で詳しく扱っています。

漁港の直売所と体験プログラムでにぎわう海業の風景イメージ
図8:漁港を「人が集まる場所」に変える海業。漁業以外の入口が担い手につながる

消費者・市民にできること

担い手不足は生産者だけの問題ではありません。買う側の行動が漁業者の所得に直結するからです。適正な価格で買う、旬の魚や未利用魚を選ぶ、産地を訪ねる、認証水産物を選ぶ——いずれも小さな行動ですが、積み重なれば漁労所得219万円という数字を動かす力になります。

今日からできること

  • 旬の魚・地元の魚を意識して選び、「安いから買う」だけの基準を少し変える
  • 未利用魚や規格外の魚を扱う直売所・通販を試してみる
  • 海業に取り組む漁港の直売所や体験プログラムに家族で足を運ぶ
  • 漁業就業支援フェアや漁村の求人情報を、進路を考える若い世代に伝える
  • 水産物の認証ラベル(MSC・ASCなど)を知り、売り場で探してみる

この記事のまとめ

  • 漁業就業者は令和5年で12万1,389人。6年で約21%減り、海面漁業の経営体は5年で17.0%減った
  • 後継者が生まれない理由は所得(沿岸個人経営体の漁労所得219万円)・住居・技能継承・漁業権という複合的な壁にある
  • 新規就業者は年1,733人(約7割が39歳以下)。雇われ就業は増え、独立自営は減っている
  • 国の新規漁業就業者総合支援事業と都道府県の上乗せ支援を重ねて使うことが現実的な入り口
  • スマート漁業は負担軽減と技能継承に効くが、コストと資源の問題は別に解く必要がある
  • 外国人材は約7千人規模ですでに現場を支え、女性は実務の担い手でありながら意思決定層には少ない
  • 海業による所得の多角化と、地域ぐるみの受け入れ体制づくりが、担い手を残す最も本質的な策

参考文献・出典

  1. 水産庁 – 令和6年度 水産白書 全文
  2. 水産庁 – 令和6年度水産白書「(3)漁業の就業者をめぐる動向」(就業者数・新規就業者・外国人材・女性の割合)
  3. 水産庁 – 令和6年度水産白書「(2)漁業・養殖業の経営の動向」(沿岸漁船漁業個人経営体の漁労所得)
  4. 農林水産省 – 2023年漁業センサス結果の概要(確定値)/経営体数の減少
  5. 水産庁 – 平成30年度水産白書「(1)漁業就業者をめぐる動向」(将来試算のコラム)
  6. 全国漁業就業者確保育成センター(漁師.jp) – 漁業就業支援フェア・都道府県別の就業支援制度
  7. 水産庁 – 「海業の推進に取り組む地区」の決定について(令和7年4月4日)
  8. 水産庁 – 令和4年度水産白書「(5)スマート水産業の推進等に向けた技術の開発・活用」
  9. 一般社団法人フィッシャーマン・ジャパン – TRITON PROJECT(担い手育成の取り組みと実績)
  10. 株式会社ライトハウス – 船団運営支援システム ISANA

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