⚡ 30秒でわかる答え
- 規格外野菜・未利用魚は味や鮮度でなく、大きさ・見た目・市場の規格基準が原因で流通から外れる
- 日本の食品ロスは令和5年度推計で約464万トン、家庭系233万トン・事業系231万トンとほぼ半々
- 食べチョクやフィシュルなど産直EC・サブスクが規格外品の新しい販路として広がっている
- 未利用魚の活用は漁業者の収入確保だけでなく、水産資源の有効利用にもつながる
スーパーの棚に並ぶ野菜や魚は、実は畑や漁港で獲れたもののごく一部にすぎない。曲がったキュウリ、小ぶりのジャガイモ、傷のついたトマト、そして名前も知られていない魚たち——味や鮮度に問題はなくても、大きさや見た目、市場が定める「規格」に合わないという理由だけで、多くの農産物・水産物が食卓に届く前に姿を消している。
農林水産省・環境省の推計によると、日本の食品ロスは令和5年度で約464万トン。家庭から出るものと、生産・流通・外食の現場から出るものがほぼ半々を占める。その中には、そもそも店頭に並ぶ機会すら与えられなかった「規格外野菜」や「未利用魚」が一定量含まれるとみられている。
この記事では、規格外野菜・未利用魚がなぜ生まれるのかという仕組みの話から、食べチョクやポケットマルシェ、Kuradashi、未利用魚サブスク「フィシュル」といった実在のサービスがどう流通の隙間を埋めているのか、生産者・漁業者にとっての意義、そして海の資源を守ることとのつながりまでを、公的データと一次情報にもとづいて整理する。
この記事で学べること
- 規格外野菜・未利用魚が生まれる仕組みと、市場の「規格」の役割
- 日本の食品ロスの最新統計(令和5年度・約464万トン)と内訳
- 規格外品を食卓に届ける実在サービス(食べチョク・ポケットマルシェ・Kuradashi・フィシュル)
- 未利用魚の活用が漁業資源・海洋環境にもたらす意義
- 生産者・漁業者が規格外品を売ることで得られる経営上のメリット
- 家庭で規格外品を選ぶときに気をつけたいポイント
規格外野菜・未利用魚とは何か
「規格外野菜」「未利用魚」という言葉は、品質が劣る食材を指すわけではない。どちらも味や安全性には問題がないのに、市場に出回りにくい農産物・水産物の総称である。まずはこの2つの言葉が何を指し、どこまでの範囲を含むのかを整理しておきたい。
規格外野菜の定義
野菜は出荷段階で、大きさ・重さ・形・色つやなどをそろえる「規格」に沿って選別される。この規格は、箱詰めや輸送、店頭陳列を効率よく行うために農協や卸売市場が長年かけて定めてきたものだ。規格から外れた野菜は「規格外」「訳あり」と呼ばれ、廃棄されたり、加工用・自家消費・直売所への出荷に回されたりする。
規格外の理由はさまざまで、単に形が曲がっているだけのものから、天候不順による表面のキズ、豊作で規格内の需要枠を超えて余ったもの、収穫のタイミングでサイズが基準よりわずかに大きい・小さいものまで幅広い。いずれも味や栄養価そのものには影響しないケースがほとんどとされる。
未利用魚の定義
一般社団法人大日本水産会の魚食普及推進センターによれば、未利用魚とは「まったく利用されていない魚ではなく、美味しく食べられるにもかかわらず、市場に出回りにくかったり、十分に活用されていなかったりする魚」の総称である。フグの仲間や見慣れない深海魚のように種として認知度が低いものだけでなく、サイズが規格外の一般的な魚も含まれる。
未利用魚という呼び方は特定の魚種を指す固有名詞ではない点に注意したい。ある漁港では未利用魚とされる魚種が、別の地域では郷土料理の定番として流通していることもある。つまり「未利用」かどうかは魚そのものの性質だけでなく、地域の消費文化や流通網の有無にも左右される。
規格外品の行き先はどこまで広がるか
規格外野菜・未利用魚と一口に言っても、その後の行き先は一様ではない。加工用の原料としてカット野菜や冷凍食品、練り物などに姿を変えるもの、直売所や道の駅でそのまま販売されるもの、飼料や堆肥として再利用されるもの、そしてどこにも行き場がなく廃棄されるものまで幅がある。この記事で主に扱うのは、加工や直売、通販といった「食用として食卓に届く」ルートだ。
同じ規格外野菜・未利用魚であっても、どのルートに乗るかによって最終的に得られる価値は大きく変わる。生鮮のまま食卓に届けば通常の食材と同程度の価値を持ちうる一方、飼料や堆肥に回る場合はそれよりも価値が下がる。廃棄されればゼロになる。だからこそ、できるだけ食用としてのルートに乗せる工夫が、生産者の収入にも食品ロス削減にも直結する。
「規格外」と「傷んでいる」は違う
- 規格外野菜・未利用魚は、基本的に食べられる状態にある食材を指す
- 廃棄の理由は「味」ではなく「大きさ・見た目・市場のルールに合わない」こと
- 傷みや腐敗が進んだ食品の廃棄とは区別して考える必要がある

なぜ市場の外に置かれてしまうのか
野菜:規格は「効率」のために生まれた
卸売市場を介した流通では、同じ大きさ・形の野菜を箱に詰めた方が、輸送効率や陳列のしやすさ、値付けのしやすさが高まる。この仕組み自体は、全国津々浦々に安定して野菜を届け、価格の乱高下を防ぐうえで長らく合理的だった。だが結果として、形がいびつなだけの野菜や、豊作で規格内の数量が余ったときの野菜が、出荷対象から外れやすくなっている。
特に台風や長雨、猛暑といった天候の影響を受けやすい葉物野菜・果菜類では、その年の気象条件によって規格外の発生量が大きく変動する。豊作の年ほど「規格内だけでも需要を満たせてしまう」ため、規格外の割合が高まりやすいという皮肉な構造もある。
魚:重量規格と「値がつかない」という現実
水産物の産地市場でも、効率的な取引のためにサイズ(主に重量)の規格が設けられている。この基準に合わない魚は、セリや入札の対象にすらならないことがある。また、見た目が悪い魚や、知名度の低い魚種は買い手がつきにくく、値がつかなければ漁業者にとって水揚げする経済的なメリットが薄れる。
さらに、狙った魚種以外が網にかかる「混獲」も未利用魚を生む大きな要因だ。一度の操業で多種多様な魚が水揚げされるが、そのすべてに安定した需要と販路があるわけではない。需要が偏っている魚種ほど、水揚げされても未利用魚として扱われやすい。
船上の人手不足という要因
未利用魚が生まれるもうひとつの理由は、漁船内での処理能力の限界だ。限られた乗組員と時間の中で、市場価値の高い魚を優先して選別・氷詰めせざるを得ず、規格外や少量の魚種は処理が追いつかずに海へ戻される、あるいは廃棄されるケースがある。漁業就業者の高齢化・減少が進む地域ほど、この傾向は強まりやすい。
流通の各段階でロスが積み重なる
規格外・未利用は、生産・水揚げの現場だけで完結する問題ではない。産地での選別を通過した後も、卸売市場での競り、仲卸での再選別、小売店の陳列基準といった各段階でさらにふるいにかけられる。ひとつの野菜・魚が食卓に届くまでには複数の「規格の関門」があり、そのどこかで弾かれれば、それ以降のルートには乗らなくなる。この多段階の構造を理解すると、規格外品を活かすには生産段階だけでなく流通全体を見直す視点が必要だと分かる。
地域や品目による差も大きい
規格外・未利用の発生率は全国一律ではなく、産地の気候、栽培品目、漁場の特性によって大きく異なる。例えば台風の通り道になりやすい地域では、外傷による規格外野菜が増えやすい。水産物でも、多魚種が入り交じる沿岸漁業の産地ほど未利用魚が発生しやすく、単一魚種を狙う沖合漁業では比較的発生しにくい傾向がある。こうした地域差があるからこそ、全国一律の対策ではなく、産地ごとの実情に応じた販路づくりが求められる。
| 要因 | 野菜 | 魚(水産物) |
|---|---|---|
| 規格の基準 | 大きさ・形・色つや | 重量・サイズ |
| 主な発生場所 | 産地・選果場 | 水揚げ後の産地市場・船上 |
| よく起きる理由 | 天候による豊作・形の不揃い | 混獲・知名度の低さ・人手不足 |
| 主な行き先(規格外時) | 加工用・自家消費・直売所・廃棄 | 自家消費・餌料・廃棄 |
共通しているのは「経済合理性の外側」にあること
- 規格に合わないと市場での取引コスト(選別・値付け・輸送)が割に合わなくなる
- そのため生産者・漁業者自身が出荷や水揚げを見送ってしまう
- 食べられるのに販路がない、という構造が野菜・魚に共通する
日本の食品ロスの現状をデータで見る
環境省の発表によると、令和5年度(2023年度)の食品ロス発生量は約464万トンと推計されている。内訳は家庭から出る「家庭系」が約233万トン、食品関連事業者から出る「事業系」が約231万トンと、ほぼ半々を占める。前年度の令和4年度(約472万トン)と比べると総量はわずかに減少しており、削減の取り組みが少しずつ数字にあらわれ始めている。
事業系食品ロスは削減目標を前倒しで達成
農林水産省によれば、事業系食品ロス量は2022年度推計の時点で、2030年度に2000年度比半減という国の目標を8年前倒しで達成した。食品製造・卸売・小売・外食のそれぞれの現場で、需要予測の精度向上や賞味期限表示の見直しなどが進められてきた成果とされ、規格外野菜や未利用魚の活用が広がったこともその一因と考えられている。
規格外野菜が占める規模の推計
農林水産省の資料などを基にした推計では、野菜の規格外発生率は生産量のおよそ2割前後にのぼるとされる。すべてが廃棄されるわけではなく、加工用や自家消費、直売所での販売に回るものも多いが、それでも相当量が出荷段階で行き場を失っている計算になる。品目や産地、その年の天候によって発生率には幅があり、一律の数字で語れない点には注意が必要だ。
消費者の意識は変わりつつある
農林水産省が東京都・千葉県のスーパーで行った調査では、回答者の79%が規格外野菜を購入した経験があり、購入したことはないが今後購入したいという層を含めると93%に達した。見た目より中身を重視する消費者は、すでに多数派になりつつあることがうかがえる。
この意識の変化を後押ししているのが、2019年10月に施行された「食品ロスの削減の推進に関する法律」だ。国・自治体・事業者・消費者が一体となって食品ロス削減に取り組む枠組みが法律で定められたことで、規格外品の活用は一部の環境意識の高い消費者だけの選択肢ではなく、社会全体で取り組むべき課題として位置づけられるようになった。
廃棄には見えないコストもかかる
規格外野菜や未利用魚を廃棄すること自体にも、処分費用や輸送・保管にかかる手間といったコストが発生する。生産者・漁業者にとっては、収入を得られないまま廃棄コストだけを負担することになるため、規格外品を売る仕組みが整うことは、収入面だけでなくコスト面でもメリットがある。

この章のまとめ
- 日本の食品ロスは年間約464万トン。家庭系・事業系がほぼ半々
- 事業系食品ロスは2030年度目標を8年前倒しで達成
- 規格外野菜は生産量の2割前後という推計があり、消費者の受容度も高まっている
規格外野菜を食卓へ届ける仕組み
産直EC「食べチョク」の規格外品特設サイト
全国の農家・漁師から旬の食材を直送する産直通販サイト「食べチョク」は、規格外品だけを集めた特設サイト「かたちにこだわらない、おいしさ。」を運営している。市場を介さず生産者から消費者へ直接届ける仕組みのため、見た目にかかわらず、収穫から短時間での発送が可能になっている。生産者は市場の規格に縛られずに値段や量を決められるため、規格外だからといって収入がゼロになることを避けられる。
食べチョクを見てみる食べチョク 規格外品特設サイト「かたちにこだわらない、おいしさ。」全国の農家・漁師から規格外の野菜・果物・水産物を直送する産直ECの特設ページ🔗 tabechoku.comポケットマルシェ:農家・漁師本人が出品する直売所
「ポケットマルシェ」は、加工業者を介さず、農家・漁師本人だけが出品できるオンラインマルシェだ。規格外野菜も多く取り扱われており、生産者が値段や量を自分で決めて販売できるため、規格に合わないという理由だけで収入の機会を失わずに済む。生産者自身が商品説明や写真を用意することで、規格外品ならではの背景(不作の年でも味は変わらない、など)を消費者に直接伝えられる点も特徴だ。
Kuradashi:訳あり品と社会貢献を組み合わせる
「Kuradashi(クラダシ)」は、規格外品を含む訳あり食品を最大97%オフで販売する通販サイトで、売上の一部を社会貢献活動団体へ寄付する仕組みを組み合わせている点が特徴だ。フードロス削減と経済的なメリット、社会貢献を同時に成立させるモデルとして広がっており、扱う商品も野菜・果物だけでなく加工食品まで幅広い。
Kuradashiを見てみるKuradashi(クラダシ)規格外品を含む訳あり食品を最大97%オフで販売し、売上の一部を社会貢献団体へ寄付する通販サイト🔗 kuradashi.jp自治体によるマッチング支援
産直ECや通販サイトに加え、自治体レベルでも規格外品の活用支援が進んでいる。食品ロス削減推進法の施行を背景に、規格外野菜を持つ生産者・事業者と、それを活用したい加工業者・団体とを無料でマッチングする取り組みを行う自治体も出てきており、地域単位で需給のミスマッチを埋める動きが広がりつつある。
| サービス | 扱う食材 | 仕組みの特徴 |
|---|---|---|
| 食べチョク | 規格外野菜・果物・水産物 | 産直ECの規格外品特設サイト。生産者が直接出品 |
| ポケットマルシェ | 規格外野菜・未利用魚など | 農家・漁師本人のみが出品できるオンラインマルシェ |
| Kuradashi | 規格外品・訳あり食品全般 | 最大97%オフ通販+売上の一部を社会貢献団体へ寄付 |
| フィシュル | 未利用魚(約200種類) | 下処理・味付け済みで届く未利用魚のサブスク |

美味しいのに捨てられてしまう食材と、それを求める消費者をつなぐことが、フードロス削減の第一歩になる。
― 各種フードロス関連メディアで共通して語られる考え方
価格の付け方という工夫
規格外品を扱うサービスの多くは、通常品より価格を抑えつつも、生産者の取り分が極端に下がらないよう配慮した価格設定を行っている。単純な「安売り」ではなく、選別・梱包にかかる手間を踏まえたうえで、生産者・消費者双方が納得できる価格を模索している点も、こうしたサービスが広がってきた理由のひとつだ。
未利用魚を食卓に届ける仕組み
未利用魚サブスク「フィシュル」
福岡市に拠点を置く株式会社ベンナーズが運営する「Fishlle!(フィシュル)」は、サイズが不揃いだったり傷がついていたりする理由で流通の前段階で廃棄されてきた魚を、ミールキットや加工品に加工して届けるサブスクリプションサービスだ。これまでに活用してきた魚種は約200種類にのぼり、味付け・下処理済みで解凍するだけで食べられる形に加工することで、魚をさばく手間がハードルになりがちな家庭でも扱いやすくしている。
フィシュルのようなサービスの強みは、未利用魚特有の「魚種が毎回変わる」という不確実性を、加工・味付けという工程で吸収できる点にある。消費者は届いた魚が何であるかを事前に選べないことが多いが、調理法込みで届くことで「知らない魚をどう食べればいいか分からない」という心理的なハードルを下げている。フィシュルの定期会員数は2023年時点で1万人を突破しており、サブスクという継続課金の仕組みが、単発の訳あり品購入では得にくい安定した需要を生産・加工の現場にもたらしている。
サブスクという仕組みの利点
未利用魚は水揚げのたびに魚種・量が変動するため、通常の小売のように「同じ商品を継続的に仕入れて売る」形が難しい。サブスクリプション型のサービスは、消費者側が内容の変動をあらかじめ受け入れる契約形態であるため、この不確実性と相性が良い。生産・加工側にとっても、会員数に応じてある程度の需要を見込めることは、未利用魚を仕入れる計画を立てやすくする利点になる。
フィシュルを見てみるFishlle!(フィシュル)未利用魚を下処理・味付け済みのミールキットで届けるサブスクリプションサービス(運営:株式会社ベンナーズ)🔗 fishlle.com地方の産直サイトが担う役割
前章で紹介した食べチョクやポケットマルシェも、野菜だけでなく漁師本人が出品する未利用魚・規格外の水産物を扱っている。産地に近い漁師自身が販路を持てることで、市場でセリにかけられなかった魚にも値がつく可能性が生まれる。従来は漁協や仲買人を介さないと販売できなかった魚が、スマートフォン一つで全国の消費者に直接届けられるようになったことは、流通構造そのものの変化と言える。
外食産業からの取り組み
回転寿司チェーンのくら寿司は「一船買い」という仕組みで、市場を通さず漁船から水揚げされた魚をまるごと買い取り、未利用魚も含めて商品化する取り組みを続けている(詳細は関連記事を参照)。一定の魚を丸ごと買い取ることで、漁業者は水揚げした魚全体に対して収入を得やすくなり、外食チェーン側は市場価格の変動リスクを抑えながら安定調達ができるという、双方にメリットのある仕組みになっている。
学校給食や加工品への展開
未利用魚の活用先は家庭向けの通販だけにとどまらない。一部の自治体では学校給食の食材として未利用魚を取り入れる取り組みが行われているほか、練り物やフィッシュカツなどの加工品原料として活用することで、魚の形が分かりにくい商品に姿を変え、抵抗感なく消費される道も開かれている。

生産者・漁業者にとっての意義
収入源の多様化
規格外野菜や未利用魚を販路に乗せることは、生産者・漁業者にとって単なる「廃棄物の削減」以上の意味を持つ。これまで値がつかなかった、あるいは自家消費や廃棄に回すしかなかった食材に新たな収入源が生まれることは、天候や漁模様に左右されやすい農業・漁業の経営を安定させる一助になる。特に小規模な家族経営の農家・漁師にとっては、規格内の売上だけでは経営が厳しい年でも、規格外・未利用分の収入が経営を下支えする緩衝材になり得る。
産直ECやサブスクを通じた直接販売は、卸売市場を介する場合と比べて手数料構造が異なり、条件によっては生産者の手取りが増えるケースもある。もっとも、梱包・発送作業を自ら担う必要があるため、規模や労力とのバランスを見ながら導入するかどうかを判断する生産者も多い。
水揚げ全体を無駄にしない漁業のかたち
水産資源は有限であり、獲った魚をできるだけ無駄なく利用することは、資源管理の観点からも重要とされる。未利用魚を活用する取り組みは、限られた漁獲量の中で経済的な価値を最大化する手段のひとつになりうる。同じ漁獲量でも、未利用魚まで販売できれば、漁業者一回あたりの操業で得られる収入は増える計算になる。
燃料費や人件費をかけて出漁する以上、水揚げした魚のうち収入につながる割合を少しでも高めることは、漁業経営そのものの持続可能性にも関わる。未利用魚の活用は、環境面だけでなく、燃料高騰など漁業経営を取り巻く厳しい状況への対応策としても位置づけられつつある。
加工・直売との組み合わせ(六次産業化)
規格外野菜・未利用魚を自ら加工品にして販売する「六次産業化」の取り組みも各地で広がっている。ジャムやピクルス、乾物、練り物などに加工することで、原形をそのまま売る場合よりも保存期間を延ばし、規格や見た目の制約を受けにくい商品として届けられる。加工には設備投資や技術が必要になるが、産直ECとの組み合わせで販路を確保しやすくなっている。
- 規格外・未利用でも売れる販路があれば、生産者が出荷・水揚げをためらう理由が減る
- 産直ECやサブスクは市場より高い手取りになるケースもある
- 廃棄コスト(処分費用や労力)の削減にもつながる
- 消費者に生産の背景を直接伝えられ、ファン化・リピート購入につながりやすい
留意しておきたい点
- 規格外品の販売が広がっても、品質管理や表示のルールは通常の食品と同様に守られる必要がある
- 産直ECでの直販は、選別・梱包・発送の手間が生産者側に新たに発生する
- 「安いから」ではなく「食材として正当な価値がある」という理解が広がることが持続の鍵になる
海の資源・環境とのつながり
混獲と未利用魚の関係
漁業では、狙った魚種以外の生き物が一緒に網にかかる「混獲」がしばしば起こる。混獲された魚介の中には、市場価値が低いために海へ戻される、あるいは廃棄されるものも含まれる。未利用魚の活用は、こうした混獲を「捨てるもの」から「活かすもの」へ転換する取り組みとも重なる。
水産資源の有効利用という視点
限りある水産資源を持続的に利用していくためには、獲った魚を無駄にしないことが欠かせない。未利用魚を含めて資源を無駄なく食卓に届ける仕組みは、漁獲量そのものを増やさなくても、食料としての価値を引き出す手段になる。これは、乱獲を防ぎながら水産物の供給を確保するという、資源管理と食料確保の両立にもつながる考え方だ。
陸の畑と海の漁場、共通する構造
規格外野菜と未利用魚は、発生する場所こそ畑と海で異なるが、「市場のルールに合わないという理由だけで価値が認められない」という構造は共通している。どちらも、生産・漁獲の現場ですでに投じられた労力や資源(土壌・水・燃料・漁業資源)を無駄にしないという意味で、食品ロス問題であると同時に資源・環境の問題でもある。
野菜を育てるための土や水、肥料、そして魚を獲るための燃料や漁具は、規格に合うかどうかにかかわらず同じだけ投入されている。規格外・未利用として廃棄することは、その投入資源そのものを無駄にすることでもあり、この視点は近年、環境負荷の観点からも注目されるようになってきた。
資源管理と食品ロス削減は矛盾しない
「魚を獲りすぎない」という資源管理の考え方と、「獲った魚を無駄にしない」という未利用魚活用の考え方は、一見すると別々の話に見えるが、実際には両立する目標だ。むしろ、獲った分をきちんと食料として活かせる仕組みがあってこそ、無理に漁獲量を増やさなくても漁業経営が成り立ちやすくなり、結果として資源への負荷を抑えることにもつながる。
地域ブランドとしての再評価
未利用魚や規格外野菜を、あえて「その土地ならでは」の食材として打ち出す地域ブランド化の動きも各地で見られる。知名度が低いだけで市場に出回らなかった魚が、産直ECやふるさと納税の返礼品として紹介されることで、価格ではなく物語や希少性に価値を見出す消費者に届くようになった例もある。規格外・未利用という「マイナスの属性」を、地域の個性という「プラスの物語」に転換する試みだと言える。
気候変動と資源変動という背景
近年は海水温の上昇など海洋環境の変化により、漁獲される魚種や水揚げ量そのものが変わりつつある地域もある。これまで馴染みのなかった魚が水揚げされるようになれば、それは新たな「未利用魚」になりやすい。未利用魚を活用する仕組みをあらかじめ持っておくことは、こうした資源構成の変化に対応しやすくするという意味でも重要性を増している。
SDGsの目標との関わり
持続可能な開発目標(SDGs)のターゲット12.3は、2030年までに小売・消費段階での一人当たりの食料廃棄を半減させ、生産・サプライチェーンにおける食品ロスも減少させることを掲げている。規格外野菜・未利用魚の活用は、まさにこの「生産・サプライチェーン段階での食品ロス削減」に直接寄与する取り組みであり、海の資源を守る目標14(海の豊かさを守ろう)とも重なる領域だと言える。
海LABの視点
- 未利用魚の活用は、単なる節約術ではなく水産資源の持続的な利用という海洋環境の課題と直結している
- 陸の食品ロス対策と海の資源管理は、切り離さずに考える価値がある
家庭でできる選択
産直ECやサブスクを試してみる
食べチョクやポケットマルシェ、Kuradashiのように規格外品を扱う通販サイト、フィシュルのような未利用魚サブスクは、特別な知識がなくても利用を始められる。旬の食材が届く楽しみと、フードロス削減への貢献を同時に体験できる入口になる。
直売所・道の駅もひとつの選択肢
地域の直売所や道の駅、漁協の直売コーナーでは、規格外の野菜や未利用魚が地元価格で並んでいることが多い。オンラインだけでなく、こうした地域の販路を利用することも規格外品の受け皿を支えることにつながる。旅行や帰省の際に立ち寄ってみるだけでも、普段見かけない野菜や魚に出会える機会になる。地元のスーパーでも「訳あり」「規格外」コーナーを設けている店舗が増えており、日常の買い物の延長で取り入れられる選択肢も広がっている。
「見た目」への意識を少し変える
曲がったキュウリも、見慣れない魚も、下処理や調理法さえ分かれば普段の食材と変わらず美味しく食べられることが多い。購入前に簡単な調理法を調べておくと、無理なく取り入れやすくなる。特に未利用魚は捌き方に不安を感じやすいため、下処理済みで届くサービスから試すのも一つの方法だ。
子どもと一緒に食材を知る機会にする
規格外野菜や未利用魚は、食材の見た目と味は必ずしも一致しないことを子どもと一緒に学ぶ良い教材にもなる。曲がった野菜や見慣れない魚を実際に手に取り、調理して食べる体験は、食品ロスや水産資源について家庭で話すきっかけにもなりやすい。
- まずは少量から、産直ECや直売所で規格外品を試してみる
- 届いた食材の調理法をサービスのレシピやSNSで確認する
- 定期的に利用する場合はサブスクを検討し、生産者の安定した販路づくりを支える

今後の課題と展望
法制度の後押し
2019年10月に施行された食品ロスの削減の推進に関する法律(食品ロス削減推進法)は、規格外農産物の有効利用を含めた食品ロス削減を、国・自治体・事業者・消費者が一体となって進める枠組みを定めている。この法律を背景に、自治体レベルでも規格外品のマッチング支援などの取り組みが広がってきた。同法では毎年10月を「食品ロス削減月間」と定めており、この時期には全国で規格外品の活用を含む啓発イベントや販売促進が行われる。
流通側の規格そのものを見直す動き
規格外品を「別ルートで売る」だけでなく、そもそも規格自体を緩和したり、加工用途など複数の規格を用意したりする動きも出てきている。多様な販路・規格を組み合わせることで、廃棄を前提としない生産・流通のあり方が模索されている。
消費者側の理解が広がる余地
消費者の意識調査ではすでに9割超が規格外野菜の購入経験・購入意向を示しているが、実際の購入頻度や、未利用魚のように「魚種を知らない」ことへのハードルはまだ残る。情報発信やレシピ提案を通じて、規格外品・未利用魚を選ぶことへの心理的なハードルを下げていくことが、今後の普及の鍵になる。
SNSや産直ECのレビュー機能を通じて、実際に購入した消費者の調理例や感想が共有されるようになったことも、こうしたハードルを下げる後押しになっている。「知らない魚をどう食べたか」という情報が可視化されることで、次に同じ魚に出会った別の消費者が購入を検討しやすくなるという好循環も生まれつつある。
産直ECやサブスクといった新しい流通の形は、まだ市場全体からみれば一部にとどまる。それでも、規格外野菜や未利用魚を「もったいないもの」から「選ばれるもの」へ変えていく仕組みが少しずつ広がっていることは、日本の食品ロス削減にとって着実な一歩だと言える。
生産者・漁業者、流通事業者、そして消費者のそれぞれが、規格に合わないという理由だけで食材を手放さない選択を少しずつ積み重ねていくこと。それが、年間464万トンという食品ロスの数字を、これから先の年度で確実に減らしていく力になる。
まとめ
- 規格外野菜・未利用魚は品質でなく市場の規格に合わないために生まれる
- 日本の食品ロスは年間約464万トンで、規格外野菜だけでも生産量の2割前後にのぼる推計がある
- 食べチョク・ポケットマルシェ・Kuradashi・フィシュルなど、市場を介さず届ける仕組みが広がっている
- 未利用魚の活用は漁業者の収入と水産資源の有効利用の両方を支える
参考文献・出典
- 環境省「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和5年度)の公表について」 – 食品ロス総量・家庭系/事業系の内訳
- 農林水産省「食品ロスとは」 – 食品ロスの定義と基礎データ
- 農林水産省「令和4年度の事業系食品ロス量が削減目標を達成!」 – 事業系食品ロスが2030年度目標を8年前倒しで達成
- 農林水産省 資料3「農産物の生鮮販売や加工・業務用途における多様なニーズに対応した取組の可能性(案)」 – 規格外野菜への消費者意識調査
- 大日本水産会 魚食普及推進センター「未利用魚・低利用魚とは?」 – 未利用魚の定義と発生理由
- 消費者庁「食品ロス削減関係参考資料(令和7年6月27日版)」 – 食品ロス削減の統計・施策一覧
- 食べチョク 規格外品特設サイト「かたちにこだわらない、おいしさ。」 – 産直ECの規格外野菜特設ページ
- ポケットマルシェ – 農家・漁師直営の産直マルシェ
- Kuradashi(クラダシ) – 訳あり品・規格外品の通販と社会貢献の仕組み
- Fishlle!(フィシュル) – 未利用魚のサブスクリプションサービス(運営:株式会社ベンナーズ)
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア