⚡ 30秒でわかる答え

  • 菌根菌は植物の根に共生し、糖をもらう代わりに窒素・リン・水を届ける。維管束植物の約72%がアーバスキュラー型、約2%が外生型を持つ。
  • 1997年の実験で、樹木間を菌糸経由で炭素が移動することが示された。一方「親木が子を意図して助ける」説は、2023年の検証で証拠が乏しいと指摘された。
  • 日本の研究では、菌根タイプが異なる木の下では苗の成長が約50〜90%低下した例があり、森の樹種の構成に菌が関わる可能性がある。
  • 海辺のクロマツ林ではショウロなどの菌根菌が活着を助けるとして研究され、地下の菌を含めた森づくりが重要視されている。
約72%
維管束植物のうちアーバスキュラー菌根をつくる割合
約4億年
アーバスキュラー菌根の化石が見つかるデボン紀前期の年代
約131億t
菌根菌の菌糸体へ年間に流れる炭素の推定量(CO2換算)

森の木々の足元では、目に見えない菌の糸が土の中に張りめぐらされ、木々の根とひとつになって水や養分をやり取りしています。この共生の仕組みが菌根(きんこん)で、それをつくる菌が菌根菌です。

「木と木が地下でつながり、親木が子を助ける」という“ウッド・ワイド・ウェブ”の物語は広く知られていますが、科学者の間では評価が分かれています。この記事では、確かな事実と議論中のことを分けて整理します。

さらに、日本の芦生研究林での研究や、海辺のクロマツ林で菌根菌を活用する取り組みなど、森と海をつなぐ視点からも紹介します。

この記事で学べること

  • 菌根菌とは何か、外生とアーバスキュラーの2タイプの違い
  • 菌根が約4億年の歴史をもち、植物の大多数が菌と共生していること
  • 「ウッド・ワイド・ウェブ」の起点となった1997年の実験と、2023年に分かれた評価
  • 日本の研究(菌根タイプのマッチング効果)と、海岸クロマツ林での活用
  • 地下の菌を守るために私たちができること

菌根菌とは何か|植物の根に住み着く「地下のパートナー」

根と菌がひとつになった器官「菌根」

森を歩いていると、足元の土の中でどんなことが起きているのか、想像する機会は多くありません。ところが、森の木々の根の先端には、ほとんどの場合、菌類(カビやキノコの仲間)が入り込んで「菌根(きんこん)」と呼ばれる共同の器官をつくっています。この菌根をつくる菌類が菌根菌(きんこんきん)です。

菌根菌は、土の中に細い糸状の「菌糸(きんし)」を張りめぐらせます。菌糸は根の毛よりもさらに細く、土の粒のすきまにまで入り込めるため、根だけでは届かない範囲の水分や養分を集められます。その代わり、植物は光合成でつくった糖を菌に分け与えます。つまり菌根は、「栄養を運ぶ菌」と「糖を作る植物」が互いに得をし合う共生関係の現場です。

科学ポータル(科学技術振興機構)が紹介する京都大学・門脇浩明さんの解説でも、菌根菌は樹木から光合成でつくられた糖をもらう代わりに、窒素やリンといった必要な栄養を与えていると説明されています。

2つの主要タイプ|外生菌根菌とアーバスキュラー菌根菌

菌根にはいくつかの型がありますが、森林を理解するうえで大切なのは次の2つです。

タイプ菌のすみ方地表のきのこ主な共生樹種(例)
外生菌根菌根の表面を菌糸が覆い、細胞のすきまに菌糸を伸ばすきのこをつくるものがあるマツ、ナラ、シイ、シデなど
アーバスキュラー菌根菌根の細胞の中にまで菌糸が入り込むきのことしては現れないサクラ、ツバキ、カエデ、クスノキなど
二大タイプの違い(出典:科学ポータル「菌根菌ネットワーク」解説をもとに作成)

マツタケやショウロのように食用にされるきのこの多くは外生菌根菌の仲間で、地上に見える「実」にあたる部分です。本体は土の中に広がる菌糸のかたまりで、きのこはその一部にすぎません。一方、アーバスキュラー菌根菌は根の中に入り込むタイプで、地表にはきのこが出ないため、気づかれにくい存在です。

ここがポイント

菌根は「菌が植物を支配する」関係でも「植物が菌を使い捨てる」関係でもなく、糖と養分を交換し合う取引関係です。この交換が森の物質循環の出発点になります。

ほとんどの植物は菌根をもつ

では、菌根をもつ植物はどのくらいあるのでしょうか。2018年に『New Phytologist』誌に発表されたBrundrett氏とTedersoo氏の総説は、維管束植物のうち約72%がアーバスキュラー型、約2%が外生型の菌根をつくり、ほかにツツジ科などのエリコイド型が約1.5%、ラン科の菌根が約10%で、菌根をまったくつくらない植物は約8%だと整理しています。

つまり「植物は単独で生きている」というイメージのほうが例外的で、陸上の植物の大多数は、根の外側にもうひとつの“根”である菌糸のネットワークを借りて暮らしているのです。

4億年の共生史|菌根が陸上の植物を支えてきた

最古の化石は約4億年前のライニーチャート

菌根の歴史は驚くほど古く、スコットランドのライニー(Rhynie)で見つかった約4億年前(デボン紀前期)のチャート(珪質の岩石)に、アーバスキュラー菌根とみられる構造が保存されています。Taylorらの1995年の報告などによって、化石化した植物の根の細胞内に、現生のアーバスキュラー菌根菌によく似た「樹枝状体(アーバスキュル)」が確認されています。

植物が海から陸へ上がったころ、根はまだ未発達でした。そのため、土から水やリンを吸い上げる役目を、菌が肩代わりしたのではないかと考えられています。陸上植物の進出そのものが、菌との共生に支えられていたという見方は、現在の植物学で広く受け入れられている仮説のひとつです。

白亜紀に生まれた外生菌根

Brundrett氏とTedersoo氏の総説は、菌根の進化に「3つの波」があったと述べています。最初はアーバスキュラー型の成立、2つ目は白亜紀に外生菌根やエリコイド型、ラン型の菌根が新たに生まれた時期、3つ目は生物多様性の高い地域で今も進む根の複雑化と多様化です。

外生菌根は、マツ科やブナ科など、現在の温帯〜亜寒帯の森をつくる主役の樹木と結びついています。日本の里山で見慣れたマツ・ナラ・シイの森は、外生菌根菌との関係を抜きには語れません。

時代の目安出来事意味
約4億年前アーバスキュラー菌根の化石が見られる(ライニーチャート)陸上植物の進出と菌の共生が同時期
白亜紀外生・エリコイド・ラン型の菌根が新たに登場針葉樹・ブナ科など森林の主役と結びつく
現在維管束植物の大半が菌根をもつ(菌根なしは約8%)地上の植物の大半が菌に依存
菌根の進化の流れ(出典:Brundrett & Tedersoo 2018、Taylor ら 1995 などをもとに作成)
植物の根と菌糸が土の中でつながる様子を示した断面図
図1:根の先端に広がる菌糸のイメージ。菌糸は根よりはるかに細く、土のすきまに入り込む

豆知識:「菌根」は共同の“住まい”

菌根という言葉は「菌(きん)」と「根(ね)」を合わせたものです。植物と菌のどちらか一方だけでは成り立たない構造なので、研究者は生物学的に「共生体」として扱います。

「ウッド・ワイド・ウェブ」の誕生|1997年の実験が起点

カバノキとモミの間を炭素が行き来した

菌根菌が木と木をつなぐという考えを広く知らせたのが、1997年に科学誌『Nature』に載ったSuzanne Simard氏らの野外実験です。カナダの森で、シラカバ(ペーパーバーチ)の仲間と、ダグラスファー(ベイマツ)の苗を並べ、片方に炭素の同位体(13Cや14C)を含む二酸化炭素を与えて、その炭素がどちらに動くかを調べました。

結果として、標識された炭素は2種の樹木の間を双方向に移動し、2年目にはダグラスファー側に正味で炭素が移動したと報告されました。菌の型が異なる第3の樹種(ベイスギ=ウェスタンレッドシダー)を対照に置き、菌糸を介した輸送かどうかを見分ける工夫もされました。

同じ号の表紙に掲げられた「wood-wide web(ウッド・ワイド・ウェブ)」という言葉は、インターネットの「ワールド・ワイド・ウェブ」をもじった呼び名で、のちに一般向けの書籍やドキュメンタリーを通じて世界に広まりました。

注意:呼び名は研究者がつけたものではない

  • ウッド・ワイド・ウェブという言葉は、論文の記事を紹介するときに雑誌側が用いたものだと言われています。印象的な名前が先に広まったことが、のちの過剰な解釈につながった面もあります。

ハブとなる「母なる木」の発見

2010年にはBeilerらが『New Phytologist』誌で、カナダ・ブリティッシュコロンビア州の森(30m×30mの調査区)で、ダグラスファーの根についた菌根菌を遺伝子(マイクロサテライトDNA)で個体識別し、菌のネットワークの“設計図”を描きました。ショウロ属のRhizopogon vesiculosusとRhizopogon vinicolorは、それぞれ13〜14の遺伝的個体(ジェネット)をつくり、1つのジェネットが最大19本の木に感染していました。

さらに、木の大きさとつながりの数に強い正の関係があり、大きな老木ほどたくさんの木と結ばれる「スケールフリー」型のネットワークになっていることがわかりました。若い苗木は、老木がつくる菌ネットワークの中に入り込む形で育っていたのです。

  • つながりが多い少数の老木=「ハブ」の存在が示された
  • 若木が既存の菌ネットワークに“加入”して育つ様子が確認された
  • ただし、これは「つながっている」ことの証拠であり、「木が意図して助けている」ことの証拠ではない

菌糸のネットワークで何が運ばれるのか

糖・窒素・リン・水の4つの流れ

菌根ネットワークをめぐる研究では、同位体で印をつけた物質を追跡することで、次のような流れが確認されてきました。ただし、どの程度の量が、どの条件で、実際の森でどれだけ意味をもつのかは、研究ごとに結論が分かれています。

運ばれるものおもな向き役割
糖(光合成産物)植物 → 菌菌が生きていくためのエネルギー源になる
窒素菌 → 植物葉やタンパク質の材料。土の有機物から菌が集める
リン菌 → 植物リンは土の中で動きにくく、菌糸が届く範囲が大きな差を生む
水菌 → 植物乾燥時に土の細かなすきまから水を運ぶ場合がある
菌根で交換される主な物質(出典:科学ポータルほか)

「親木が子に分け与える」は本当か

ウッド・ワイド・ウェブの物語で最も人気があるのが、「大きな親木が、日陰の苗木に糖を分け与えて助ける」というイメージです。しかし、これは現時点で科学的に十分に示されているとは言えません。

2023年に『Nature Ecology & Evolution』誌で発表されたKarst氏らの論文は、菌ネットワークに関する3つの人気の主張を検証しました。(1)共通菌根ネットワークは森に広く存在する、(2)苗木はネットワークを通じた資源の移動で成長が良くなる、(3)成木は子孫に選択的に資源や防御シグナルを送る、の3つです。その結果、(1)(2)は野外研究のばらつきが大きく、別の説明も成り立つため証拠が不十分、(3)は査読つき論文での裏づけが見つからないと指摘しました。また、根拠の乏しい主張が過去25年で増えていることも報告しています。

これに対し、2025年にはSimard氏らが『Frontiers in Forests and Global Change』誌で、文献の探し方や論文の選び方に問題があると反論しています。研究者の間でも評価が割れており、科学的な議論は現在進行形です。

科学の「確からしさ」を分けて考える

①菌根菌が木の栄養獲得を助ける:十分に確立。②菌糸が複数の木をつなぎ得る:遺伝子解析などで確認。③ネットワークで資源が移動する:実験で確認されるが、量や森での意義は議論中。④親木が意図して子を助ける:証拠は乏しい。

菌ネットワークの確からしさを段階的に示した図
図2:菌根ネットワークの主張の確からしさ(目安)。下に行くほど確立され、上に行くほど議論が分かれる

日本の森の研究|芦生研究林と「菌根タイプのマッチング効果」

マツ林はできるのに、サクラ林はできないのはなぜ?

日本でも菌根ネットワークの研究は進んでいます。京都大学の門脇浩明さんらは、森林を模した大規模な実験で苗木の成長を調べ、土壌中のDNAを解読して、どの微生物がネットワークをつくっているかを明らかにしました。

先行研究から、外生菌根をもつ樹種(マツ、ナラなど)の親木の周りでは同じ種の苗木が育ちやすい(正のフィードバック)、アーバスキュラー菌根をもつ樹種(サクラ、カエデなど)の親木の周りでは同じ種の苗木が育ちにくい(負のフィードバック)ことが知られていました。DNA解析では、親木から苗木へ菌が受け渡され、共有されている証拠も得られました。

この違いは、自然にはマツ林が形づくられやすい一方、サクラの純林は自然にはできにくい、という身近な観察とも重なります。

菌根のタイプが違うと苗が育ちにくい

さらに興味深いのは、異なる菌根タイプの木の下では苗の成長が大きく落ちる、という結果です。ヤマザクラの下に植えたアカマツの苗は、アカマツの下に植えた場合より成長率が約50%低下しました。逆に、アカマツの下に植えたヤマザクラの苗は、ヤマザクラの下に植えた場合より成長率が約90%低下しました。

研究チームはこれを「菌根タイプのマッチング効果」と呼んでいます。自分と同じタイプの菌根菌が多い土では育ちやすく、違うタイプの土では不利になる、という考え方です。アカマツとイロハモミジ、アカシデとヤマザクラなどでも似た傾向が見られました。

組み合わせ苗の成長率の変化考えられる背景
アカマツ苗をヤマザクラの下に植える約50%低下外生菌根の苗が、アーバスキュラー菌根の土に合わない
ヤマザクラ苗をアカマツの下に植える約90%低下アーバスキュラー菌根の苗が、外生菌根の土に合わない
菌根タイプのマッチング効果(出典:科学ポータル「菌根菌ネットワーク」2023年)

実際の森では単純ではない

ただし、京都府北部の芦生研究林の毎木調査データ(一定以上に成長した全樹木の調査)を使って樹木の密度から同様の関係を調べたところ、実験で得られたマッチング効果とは必ずしも一致しませんでした。実際の森では、光、水、動物による種子の移動、病原菌、他の微生物など、たくさんの要因が複雑に絡み合っているためと考えられます。

京都大学は2018年に、地下の菌類ネットワークが森林の安定と変化を左右する可能性を示す成果も発表しています。菌根菌は樹木の多種共存だけでなく、樹種が入れ替わる遷移を加速する原動力にもなりうる、という示唆です。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

研究から見えてくること

  • 実験で見える傾向と実際の森で見える傾向は必ずしも一致しません。だからこそ、現場のデータを積み重ねる長期の調査が欠かせません。

菌根のバリエーション|ラン・ツツジ・イチヤクソウの場合

ラン科とツツジ科の菌根

菌根は森の木だけのものではありません。Brundrett氏とTedersoo氏の整理では、ラン科の植物(約10%)はラン型の菌根を、ツツジ科やその近縁の植物(約1.5%)はエリコイド型の菌根をつくります。ラン科の植物は、種子がとても小さく養分をほとんど蓄えていないため、発芽の段階から菌に頼ることがよく知られています。

ツツジ科の植物は、やせた酸性の土壌や湿原などで見られることが多く、エリコイド型の菌根は、そうした厳しい環境で窒素などを得る助けになっています。菌根の型は、植物の暮らす環境と深く結びついているのです。

光合成を“やりすぎない”植物

日本の林床に広く分布するイチヤクソウでは、炭素安定同位体の分析から、炭素源の約50%が菌根菌に由来すると推定された研究が報告されています。ふつう植物は糖を菌に渡す側ですが、暗い林床に暮らすこの種では、一部の炭素を菌から受け取って補っている可能性が示されました。

植物と菌の関係は「植物が与え、菌が受け取る」という一方向の図式では収まりません。条件によって、与える側と受け取る側の比重が変わりうる、柔軟な取引関係だと考えられています。

菌根の型割合(維管束植物)代表的な植物特徴
アーバスキュラー型約72%サクラ、カエデ、クスノキ、多くの草本根の細胞内に菌糸が入る。最古の型
外生型約2%マツ、ナラ、シイ、ブナ科根の表面を覆う。きのこをつくる菌が多い
エリコイド型約1.5%ツツジ科の植物やせた酸性土壌での窒素獲得に有利
ラン型約10%ラン科種子の発芽段階から菌に頼る
菌根なし約8%一部の草本など菌に頼らず別の方法で養分を得る
菌根の型の比較(出典:Brundrett & Tedersoo 2018 をもとに作成)

数字の見方

割合はあくまで種の数にもとづく整理で、森林の面積や個体数ではありません。外生菌根の樹種は種数で見ると約2%ですが、温帯〜亜寒帯の森では優占種が多いため、森の景観に与える影響は大きくなります。

地球規模で見る菌根菌|炭素循環と気候変動への影響

植物が固定した炭素の一部は菌に流れている

植物は光合成で大気中の二酸化炭素を取り込み、そのうち一部を地下の菌へ手渡します。2023年に『Current Biology』誌で発表されたHawkinsらの研究は、世界の菌根菌が地下の菌糸体に配分している炭素の量を推定しました。それによると、陸上の植物が固定した炭素のうち年間約131億トンのCO2相当が、少なくとも一時的に菌根菌の菌糸体へ流れているとされ、これは化石燃料由来のCO2排出量(年間)の約36%にあたります。

「貯蔵量」ではなく「年間の流れ」

  • この数字は、菌が毎年受け取る炭素の“流れ”の推定値です。「菌が131億トンを貯め込んでいる」と読むと誤りになります。著者らも、推定は現時点で最良の根拠に基づくが不完全であり、慎重に解釈すべきだと述べています。

土の炭素を守る視点

菌糸は枯れたあとも土の中に炭素を残し、土壌の有機物として長くとどまる場合があります。森林の伐採や農地化は、菌根菌のネットワークを断ち切り、土の炭素を失わせる原因になりえます。京都大学の研究者らが指摘するように、木を伐って植林しても、地下の微生物はすぐには元に戻らないことが複数の研究で示されています。

気候変動への対策として、木を植える「量」だけでなく、その土に合う菌を含めた地下の生態系ごと守る視点が重視されはじめています。

  • 森林を守る=地下の菌のネットワークを守ること
  • 植林では、植える樹種と土の菌根タイプとの相性も成否を左右しうる
  • 土を掘り返す開発や農地化は、地下のネットワークを分断する

関連して、土の中の生きもの全体については「土の中の生きものたち|ミミズとトビムシが支える地下生態系」もあわせて読むと、地下の生態系の広がりがつかめます。

森から海へ|菌根が海岸林と沿岸環境を支えるつながり

海辺のクロマツ林と「ショウロ」

海との接点で、菌根菌が最も目に見える形で活躍するのが海岸林です。砂地は水分や栄養が乏しく、潮風や塩分にもさらされる厳しい環境ですが、日本の海岸林の主役であるクロマツは、外生菌根菌と共生することで生き延びています。

愛知県や島根県の研究報告では、海岸でクロマツの苗の活着率が低い問題に対し、ショウロなどの菌根菌を接種した苗が試されています。菌根菌には土の中の水分を補う働きもあると説明されており、貧栄養で乾きやすい砂地での活着を高める技術として研究が進んでいます。長崎県の島原半島での長期調査では、コツブタケとショウロ類が在来の菌根菌のなかで優占種であり、クロマツの健全化を助けると推察されています。

三重大学の松田らの実験では、塩化ナトリウムの濃度が高くなると、コツブタケやショウロは増える傾向を示し、ヌメリイグチやCenococcum geophilumは減る傾向を示しました。塩に強い菌を選ぶことが、海岸林の再生に役立つと考えられています。

海岸林は海の環境ともつながっている

海岸林は、津波や飛砂、潮風から暮らしを守るだけでなく、陸から海へ流れる水や栄養の入り口にもなっています。森や海岸林の土が健全であれば、雨水は土にゆっくり染み込み、過剰な土砂や栄養が一気に海へ流れ出るのを和らげます。詳しくは「水源涵養林の働きとは」や「海岸林の再生」でも取り上げています。

海岸のクロマツ林の地下に菌糸が広がる様子
図3:砂地のクロマツは、根の先で菌根菌と共生し、水と栄養を補っている

海の生きものとの違い

海草(アマモなど)のように、水中で暮らす植物の多くは、陸上植物のような菌根を主要な栄養獲得の手段としていません。陸と海では、栄養を集める戦略が大きく異なります。海と陸のつながりについては「川と海のつながり」もご覧ください。

ニュースを読むときのコツ|「木は会話する」をどう受け止めるか

見出しと論文のあいだにある距離

「木は地下でおしゃべりしている」「母なる木が子を育てる」といった表現は、人の心をひきつけるぶん、研究の実際の結果より強い言い方になりがちです。Karst氏らの2023年の論文が指摘したのは、まさにこの点でした。引用されるたびに少しずつ話が大きくなり、元の研究より強い主張として広まる「引用の偏り」が起きうるというのです。

一方で、これを「ウッド・ワイド・ウェブは嘘だった」と受け取るのも正確ではありません。1997年の実験や2010年のネットワーク解析など、菌糸を介した連結や炭素の移動を示す成果は積み重なっています。争点は、そのつながりが森の中でどれだけ大きな意味をもつか、そして木が“意図して”資源を送っていると言えるかという点にあります。

研究の「確かさ」を見分ける3つの問い

  1. 実験室か、野外か:温室の苗木の結果が、そのまま実際の森に当てはまるとは限りません。
  2. 「移動した」のか「助けた」のか:物質が動いたことと、受け取った側の成長が良くなったことは別の話です。
  3. 他の説明はないか:土や根から直接吸収された可能性など、ほかの経路を排除できているかを確認します。

この3つの問いは、海洋生物や気候変動のニュースを読むときにも役立ちます。「面白い」と「確かである」は別物だと意識するだけで、情報との付き合い方は変わります。

この節のまとめ

菌根ネットワークは確かに存在し、物質の移動も確認されている。ただし、その生態学的な意味や“親木の意図”については科学的に議論中。確かな部分と議論中の部分を分けて受け止めよう。

私たちにできること|地下の森を守る暮らし方

身近な行動チェックリスト

  1. 森や公園の土を踏み固めすぎない:決められた道を歩くことで、菌糸が集まる根の周りの土を守れます。
  2. きのこを採りすぎない:きのこは菌の“実”ですが、土の中の菌糸体を傷つけないよう、地域のルールを守りましょう。
  3. 植樹イベントでは「何を植えるか」だけでなく「どこに植えるか」を意識:その土地に昔からある樹種を選ぶことが、地下の菌との相性を保つ近道です。
  4. 化学肥料や農薬の使いすぎを見直す:過剰なリンは、植物が菌に頼る必要を減らし、菌根のはたらきを弱めることがあるとされます。
  5. 地域の海岸林・里山の保全活動に参加する:地上だけでなく、地下の生態系を守る活動でもあります。

特別な技術がなくても、「地面の下にも生きもののネットワークがある」と知っているだけで、足の運びや、緑地とのつきあい方は少し変わります。

学校や家庭で試せる観察

  • 公園の落ち葉の下や、倒木の周りで、白い糸状の菌糸を探してみる
  • マツ林で、きのこの根元から土をそっと掘り、マツの根との位置関係を観察する(採集の可否は管理者に確認)
  • 同じ公園でも、マツ・サクラ・カエデなど樹種ごとに、足元の植物の顔ぶれがどう違うか調べる
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

まとめ:地下の森を知ると、地上の森が違って見える

  • 菌根菌は、植物の根と一体になって水や養分を運び、4億年にわたり陸上の生態系を支えてきました。「木々が地下でつながっている」という発見は魅力的ですが、「分かっていること」と「まだ議論中のこと」を分けて受け止める姿勢が大切です。

参考文献・出典

  1. 科学ポータル(科学技術振興機構)菌根菌ネットワーク|門脇浩明(京都大学) – 菌根のタイプ、マッチング効果、芦生研究林の解析
  2. 京都大学 研究成果(2018年11月20日)地下の菌類のネットワークが森林の安定と変化の原動力であることを解明 – 菌根菌と樹木の多種共存・遷移
  3. Simard et al. (1997) Net transfer of carbon between ectomycorrhizal tree species in the field. Nature – カバノキとダグラスファー間の炭素移動
  4. Beiler et al. (2010) Architecture of the wood-wide web. New Phytologist 185:543-553 – Rhizopogon属ジェネットによる複数世代の連結
  5. Brundrett & Tedersoo (2018) Evolutionary history of mycorrhizal symbioses and global host plant diversity. New Phytologist – 菌根タイプ別の植物の割合と進化
  6. Taylor et al. (1995) Fossil arbuscular mycorrhizae from the Early Devonian. Mycologia – ライニーチャートのアーバスキュラー菌根化石
  7. Karst, Jones & Hoeksema (2023) Positive citation bias and overinterpreted results lead to misinformation on common mycorrhizal networks in forests. Nature Ecology & Evolution – 共通菌根ネットワークの主張の検証
  8. Frontiers in Forests and Global Change (2024) Simardらによる反論論文 – Karstらの検証手法への反論
  9. ScienceDaily (2023) Mycorrhizal fungi crucial to storing carbon(Hawkins et al., Current Biology) – 菌根菌の菌糸体への炭素配分の推定
  10. 愛知県 クロマツ実生を利用した海岸林再生技術の開発(2015〜2017年度) – ショウロ接種クロマツ苗の研究

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