91%
海洋生物種のうち、まだ学名がついていない(未記載)と推定される割合
5,578種
深海採掘が計画される太平洋クラリオン・クリッパートン海域で確認された生物種数(88〜92%が新種)
1,121種
国際プロジェクトOcean Censusが2025〜2026年の1年間で新たに記載した海洋生物種数

地球の表面積の7割を占める海洋のうち、水深200mより深い「深海」は地球最大の生息空間でありながら、その生態系の99%以上がいまだ解明されていないとされる。水圧・低温・暗闇という極限環境が調査を阻んできたが、近年は無人探査機(ROV)や環境DNA(eDNA)分析、有人潜水調査船「しんかい6500」による探査が進み、新種の発見ペースは加速している。

2023年に英国自然史博物館の研究チームが、深海採掘が計画される太平洋のクラリオン・クリッパートン海域だけで5,578種もの生物を記録し、その9割近くが学術的に未記載の新種だったと報告した。国際プロジェクト「Ocean Census」も、2025〜2026年の1年間で1,121種の新種を記載したと発表している。

一方で、これらの発見は「まだ名前も付いていない生物が、採掘や環境変化によって発見される前に失われかねない」という危機感の裏返しでもある。2026年1月には公海の生物多様性を守る国際条約「BBNJ協定」が発効する。本記事では、深海生物多様性の実態と、それを守るための国際的な動きを一次情報にもとづいて解説する。

この記事で学べること

  • 深海(水深200m以深)は地球最大の生息空間でありながら、その99%以上が未調査であること
  • 熱水噴出孔・冷湧水域など、太陽光に頼らない化学合成生態系のしくみ
  • Ocean CensusとJAMSTECしんかい6500による新種発見の最前線(2025年の日本近海調査など)
  • 深海採掘が「発見される前に失われる」生物多様性にもたらすリスク
  • 2026年1月発効のBBNJ協定が公海の生物多様性をどう守るのか
  • 個人や企業が深海の生物多様性保全に関わる具体的な方法

深海とは何か:地球最大の生息空間

「深海」に厳密な定義はないが、一般的には太陽光がほとんど届かなくなる水深200m以深を指す。海洋の平均水深は約3,800mで、体積ベースで見ると地球上の生物が生息できる空間の9割以上を深海が占めるとも言われる。にもかかわらず、人類がこれまでに直接観察・調査した深海の範囲はごく一部にすぎない。

水深帯ごとの環境の違い

水深帯目安の水深特徴
中深層(トワイライトゾーン)200〜1,000m微弱な光が届く。発光生物が多く生息
漸深層(暗黒層)1,000〜4,000m太陽光は完全に届かない。水温は低く安定
深海層4,000〜6,000m水圧は海面の400〜600倍。大陸棚斜面や深海平原が広がる
超深海層(ハダル)6,000m〜10,000m超海溝の底部。日本海溝・マリアナ海溝など限られた場所のみ
深海の水深帯区分(JAMSTECほかの資料をもとに作成)

深海は一様な砂漠ではない。熱水が噴き出す熱水噴出孔、メタンがしみ出す冷湧水域、海底の山脈である海山列、栄養に富んだ湧昇域など、多様な地形と化学環境が入り組んでおり、それぞれに固有の生態系が形成されている。

表層とは何もかもが違う環境条件

深海が特殊な生態系を育む背景には、表層の海とは大きく異なる環境条件がある。水温は場所によって差はあるものの、深海層では概ね1〜4℃前後で安定しており、季節変化もほとんどない。栄養分は表層から沈んでくる生物の死骸やふん(マリンスノー)に依存する部分が大きく、全体として「暗く・冷たく・栄養に乏しい」という共通の制約の中で、生物たちは驚くほど多様な適応戦略を進化させてきた。

  • 光:水深200m以深では光合成に必要な光量がほぼゼロになる
  • 水温:深海層では場所を問わずおおむね1〜4℃前後で安定している
  • 水圧:水深1,000mで約100気圧、水深6,000mでは約600気圧に達する
  • 栄養:表層からのマリンスノー(有機物の沈降)や化学合成が主な栄養源になる

深海と「海洋生物多様性」の関係

海全体の生物多様性を議論するとき、深海を除外することはできない。日本近海だけでも黒潮・親潮の影響と複雑な海底地形が重なり、世界有数の海洋生物多様性を生み出している。詳しくは 日本の海はなぜ世界有数の生物多様性を誇るのか も参照してほしい。

深海探査、150年の歩み

深海生物への科学的な関心は決して新しいものではない。1872年から1876年にかけて、英国の調査船チャレンジャー号は世界初となる本格的な海洋科学調査航海を実施し、深海底の泥や生物の採集、水温測定などを通じて海洋学という学問分野の基礎を築いた。20世紀に入ると、1960年に潜水艇トリエステ号が世界最深部マリアナ海溝のチャレンジャー海淵(水深約10,900m)への到達に成功し、人類は初めて自らの目で深海底を確認した。

日本では1989年、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」が完成し、同年8月に三陸沖で水深6,527mへの潜航に成功した。1991年から本格的な調査潜航を開始して以来、しんかい6500は日本近海はもとより太平洋・大西洋・インド洋など世界各地で調査を重ね、2025年のOcean Censusとの共同調査に至るまで、日本の深海生物研究の中核を担い続けている。

なぜ深海の生物多様性はいまだ「地球最大の謎」なのか

深海生物の調査が進まない最大の理由は、単純に「行くのが極めて難しい」ことにある。水深1,000mを超えると水圧は100気圧を超え、耐圧殻を備えた有人潜水調査船か、無人探査機(ROV・AUV)でなければ到達できない。日本が誇る有人潜水調査船「しんかい6500」でも、1回の潜航調査でカバーできる範囲は限られており、広大な深海のごく一部を「点」で調べているにすぎない。

コストと技術の壁

  • 調査船の運航には1日あたり数百万円規模のコストがかかり、長期の広域調査が難しい
  • 深海生物の多くは水圧・水温の変化に弱く、採集した瞬間に姿形が崩れてしまう種もいる
  • 暗闇の中での観察には強力な照明が必要だが、光や船の音自体が生物の行動を変えてしまう可能性がある

環境DNA(eDNA)という新しい調査手法

近年は、海水を汲み上げて生物の排泄物や体表細胞に含まれる微量のDNA(環境DNA/eDNA)を分析し、そこにどんな生物が生息しているかを推定する手法が急速に普及している。実際に生物を捕獲しなくても種の存在を把握できるため、広域かつ低コストでの生物多様性モニタリングが可能になりつつある。ただし、eDNAだけでは「新種かどうか」を確定できないため、最終的には標本の採集と形態・遺伝子の詳細な分析が必要になる。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

深海生態系の99%以上は「謎」のまま

JAMSTECは、深海生態系の99%以上がいまだ解明されていないと説明している。海洋生物種全体で見ても、学名が付けられている(記載済みの)種は全体の1割程度にすぎず、残る9割は存在すら知られていない可能性がある。

「発見」から「新種記載」までのもう一つの壁:分類学者不足

探査で標本を採集できたとしても、それが本当に新種かどうかを見極め、正式な学名を付けて論文化する「分類学」を担う専門家が世界的に不足していることも、大きなボトルネックになっている。深海生物、特に多毛類や甲殻類などの小型無脊椎動物を専門とする分類学者は限られており、探査で採集された標本が未同定のまま研究室に眠り続けるケースも少なくない。Ocean Censusが「探査航海」と「種発見ワークショップ」をセットで実施しているのは、世界中の分類学者を一堂に集めて同定作業を集中的に進め、この滞留を解消する狙いがある。

太陽なしで生きる:化学合成生態系という異世界

深海生物多様性を語るうえで欠かせないのが、太陽光にもエネルギー源を依存しない「化学合成生態系」の存在だ。地球上のほとんどの生態系は植物プランクトンや植物による光合成を出発点とするが、熱水噴出孔や冷湧水域では、硫化水素やメタンをエネルギー源にする微生物(化学合成細菌)が生態系の土台を作っている。

熱水噴出孔とチューブワームの共生

海底火山活動によって高温の熱水が噴き出す熱水噴出孔の周辺には、体内に化学合成細菌を共生させて栄養を得るチューブワーム(ハオリムシ)や、殻を持たない特殊なエビ・カニ類が密集して暮らしている。詳しい生態や生命の起源との関わりは 熱水噴出孔の生態系とは?太陽なしで生きる深海生物と生命の起源 で解説している。

冷湧水域とメタンをめぐる生態系

熱水噴出孔と並んで注目されるのが、海底の割れ目からメタンや硫化水素を含む冷たい水がしみ出す「冷湧水域(コールドシープ)」だ。日本近海の相模湾や熊野灘などにも分布しており、こちらもチューブワームやシロウリガイ類を中心とした化学合成生物群集を育んでいる。冷湧水域と熱水噴出孔の生態系がどう違うのかは 冷湧水域とは?日本近海に広がる化学合成生物群集と熱水噴出孔との違い で詳しく比較している。

海山列・湧昇域:化学合成に頼らない深海の多様性ホットスポット

化学合成生態系だけが深海生物多様性のホットスポットではない。海底からそびえる海山(海底火山の跡など)は、周囲に複雑な流れを生み出し、冷水サンゴやウミトサカ類が密集する「深海のオアシス」を形成することが知られている。2025年のJAMSTEC・Ocean Census共同調査が対象にした七曜海山列も、こうした海山特有の生物多様性に着目したものだった。海流が深層から栄養分を巻き上げる湧昇域も、深海生物にとって重要な採餌の場になっている。

熱水噴出孔の周囲に密集するチューブワームと化学合成生物群集のイラスト
熱水噴出孔の周囲には、化学合成細菌と共生するチューブワームが密集する(イメージ)

化学合成生態系は深海全体のごく一部

熱水噴出孔や冷湧水域は「点」として散らばる特殊な環境で、深海底の大部分を占めるのは栄養の乏しい泥の平原(深海平原)である。それでもナマコやクモヒトデ、小型甲殻類などが低密度ながら広く分布しており、深海全体としての生物量・多様性は決して小さくない。

新種発見の最前線:Ocean Censusとしんかい6500

深海生物の新種発見を国際的に加速させているのが、日本財団と英国の海洋探査団体Nektonが主導する「Ocean Census」だ。世界中の研究機関と連携し、探査航海と分類学者による「種発見ワークショップ」を組み合わせることで、標本の採集から正式な新種記載までのスピードを大幅に短縮する試みを続けている。

2025年、しんかい6500による日本近海調査

2025年6〜7月、JAMSTECとOcean Censusは共同で、支援母船「よこすか」と有人潜水調査船「しんかい6500」を用いた日本初の共同深海探査を実施した。調査海域は南海トラフや七曜海山列など、火山性の海山やメタン湧出域を含む生物多様性の豊かなエリアで、合計10回の潜航により528点を超える標本を採集した。同年10月にはJAMSTEC横須賀本部で国内外の分類学者が集う「種発見ワークショップ」が開催され、少なくとも38種の新種と、28種の新種候補が確認されている。

1年間で1,121種、過去最速のペースで新種記載

Ocean Censusは2025年半ばから2026年半ばまでの1年間で13回の探査航海と9回の種発見ワークショップを実施し、水深6,575mに至る深海から新種のラブカ型ゴーストシャーク、ガラス海綿の内部に共生する多毛類、新属の深海エビ「Meteoronia属」など、1,121種の新種を記載したと発表した。これは前年の年間記載数から54%の増加にあたる。

深海探査船から発見された新種の深海生物(透明感のあるエビや発光する多毛類)のイラスト
Ocean Censusの探査では、既存の分類群に収まらない奇妙な深海生物が次々と発見されている(イメージ)
  • 南海トラフ・七曜海山列:しんかい6500による調査で38種の新種を確認(JAMSTEC・Ocean Census、2025年)
  • ニュージーランド沖:水深900mでフジツボの新種 Amigdoscalpellum calicicolum を発見
  • 熱帯大西洋東部:新属の深海エビ2種を含む「Meteoronia属」を新設

クラリオン・クリッパートン海域:採掘計画地で見つかった5,578種

太平洋のハワイとメキシコの間に広がるクラリオン・クリッパートン海域(CCZ)は、電気自動車の電池などに使われるコバルト・ニッケル・マンガンを含む「マンガン団塊(ポリメタリックノジュール)」が広範囲に分布し、複数の企業・国が商業採掘を計画している海域だ。

なぜCCZが採掘対象として注目されるのか

CCZの海底に転がるマンガン団塊には、リチウムイオン電池の正極材やモーターに使われるコバルト・ニッケル・マンガン・銅などが高濃度で含まれている。脱炭素に向けた電気自動車や蓄電池の需要拡大を背景に、陸上鉱山に代わる新たな資源供給源として各国・企業の関心が高まってきた。CCZの面積は日本の国土の十数倍にあたる約450万平方kmにおよび、その大部分がまだ生物調査の手が及んでいない。

英国自然史博物館による生物リストの公表

2023年、英国自然史博物館のミュリエル・ラボーン博士らのチームは、これまでCCZで確認された生物種を学術誌『Current Biology』にまとめ、合計5,578種を記録した。このうち88〜92%にあたる種が、これまで科学的に記載されたことのない新種だったと報告している。

生物群確認された主な生物
節足動物深海性のクモ類に近縁な仲間、甲殻類など
刺胞動物サンゴ類、イソギンチャク類
海綿動物ガラス海綿など
棘皮動物ナマコ類、クモヒトデ類
環形動物多毛類(ゴカイの仲間)
クラリオン・クリッパートン海域で確認された生物群の例(Rabone et al., 2023をもとに作成)
深海底に転がるマンガン団塊とその周囲に生息する深海生物のイラスト
マンガン団塊が広がる深海平原にも、多様な生物が暮らしている(イメージ)

これらの生物の多くは、マンガン団塊そのものを足場や隠れ家として利用しており、団塊を取り除く商業採掘が生態系に与える影響は依然として不確実性が大きい。

私たちはこの豊かな生物多様性と地球を共有しており、それを理解し保護する責任がある。背中に精巧な帆のような突起を持つ奇妙なナマコから、美しいガラス海綿まで、そこは驚くほど奇妙で魅力的な環境だ。採掘による影響で何を失う可能性があるのか、まず生物多様性の実態を知る必要がある。

― ミュリエル・ラボーン博士(英国自然史博物館・深海生態学者)

深海採掘の脅威:発見される前に失われる生物多様性

国際海底機構(ISA)は、公海下の深海底鉱物資源の管理を担う国連の関連機関で、CCZを含む複数の海域で採掘規則(マイニングコード)の策定と試験的な採掘計画の審査を進めている。一方で、生態学者からは「名前すら付いていない種が、調査される前に採掘によって失われる恐れがある」という警鐘が繰り返し鳴らされてきた。

採掘規則の策定は難航、モラトリアムを求める国も37カ国に

ISAは商業採掘に先立つ「マイニングコード」の策定を続けているが、環境影響評価の基準や利益配分をめぐる各国の意見対立が続き、採択は当初の想定から大幅に遅れている。一方で、科学的知見が十分に蓄積されるまで採掘を停止すべきだとする「モラトリアム(予防的停止)」を支持する国も増えており、2025年の国連海洋会議の時点で37カ国に達したと報告されている。深海生物多様性の実態解明と、資源開発をめぐる国際交渉は、いま同時並行で進んでいる状況だ。

ISAの枠組みを迂回する動きも

こうした国際交渉の停滞に業を煮やす形で、2025年にはカナダの採掘企業ザ・メタルズ・カンパニー(TMC)が、ナウル共和国のスポンサーによるISA経由の申請とは別に、米国内法(深海底硬鉱物資源法)にもとづく採掘許可を米海洋大気庁(NOAA)へ申請する動きを見せた。ISAという多国間の枠組みを経ずに一国の国内法で公海の採掘を進めようとする前例のない動きとして、国際的な議論を呼んでいる。

一度壊れた深海生態系は数十年〜数百年戻らない

深海生物の多くは低温・低栄養の環境に適応するため成長が非常に遅く、寿命が長い。採掘による堆積物の巻き上げや団塊の除去で生息基盤が失われた場合、生態系が元の状態に回復するまでには数十年から数百年単位の時間がかかると考えられている。深海採掘そのものの技術的・環境的な論点は 深海採掘とは?レアメタルを狙う海底鉱物資源開発と深海生態系への不可逆な影響 で詳しく取り上げている。

採掘を禁じる「特別環境利益地域(APEI)」という緩衝策

ISAはCCZ全体を対象にした「地域環境管理計画」の一環として、採掘を全面的に禁止する「特別環境利益地域(APEI)」を設定している。当初9か所だった保護区は2021年12月に4か所が追加され、現在は13か所・合計約197万平方kmが採掘対象から除外されている。ただし、APEIの配置が実際の生物分布の偏りをどこまで代表できているかについては研究者の間でも議論が続いており、生物多様性の全体像が分からない以上、保護区の設計自体にも不確実性が残る。

「知らないまま失う」というリスク

CCZで確認された5,578種のうち9割近くが未記載の新種だったという事実は、裏を返せば「この海域にどれだけの生物がいるのか、人類はまだ正確に把握していない」ということでもある。生態系への影響評価そのものが、判明していない生物多様性を前提に行われているという構造的な難しさがある。

国際的な保全の動き:BBNJ協定と30by30

深海を含む公海(どの国の管轄権にも属さない海域)は、地球の海洋面積の約6割を占めるにもかかわらず、これまで生物多様性を守るための国際的な法的枠組みが存在しなかった。この空白を埋めるのが「国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)」である。

2026年1月17日、ついに発効

BBNJ協定は2023年6月に国連で採択され、批准国が60カ国に達した120日後に発効する規定になっていた。2025年9月、国連は批准要件である60カ国への到達を発表し、2026年1月17日の発効が確定した。発効時点で日本を含む81カ国が批准を完了する見込みで、公海に「海洋保護区(ABMT:区域型管理ツール)」を設置する法的な枠組みが初めて整うことになる。

日本の海洋保護区は30by30目標に対してまだ道半ば

生物多様性に関する国際目標「30by30」は、2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全することを掲げている。環境省によると、日本の海域における保護区の割合は約13%にとどまっており、目標達成には海洋保護区の拡大や、企業・漁業関係者による保全区域(OECM)の認定拡大が必要とされている。

2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」で国際的な数値目標として合意された30by30は、深海を含む公海にも同様に適用される。これまで公海には保護区を設置する明確な法的根拠がなかったため、BBNJ協定の発効は30by30の達成に向けた重要なピースが埋まったことを意味する。環境省が主導する「30by30アライアンス」には企業や自治体も参加しており、海の保全を自分たちの活動に組み込む動きが少しずつ広がっている。

枠組み・組織目的現状(2026年9月時点)
Ocean Census探査と分類学を組み合わせ新種発見を加速2025〜2026年に1,121種を新規記載
国際海底機構(ISA)公海下の鉱物資源開発を管理・規則策定採掘規則(マイニングコード)の採択は難航中
BBNJ協定公海の生物多様性の保全・持続可能な利用2026年1月17日発効、81カ国が批准見込み
30by30(昆明・モントリオール枠組)2030年までに陸海の30%以上を保全日本の海域保護区は約13%にとどまる
深海・公海の生物多様性をめぐる主要な国際的枠組みの現状

BBNJ協定が変えること

BBNJ協定の発効により、公海上でも環境影響評価の実施や、複数国にまたがる海洋保護区の設置が可能になる。深海の生物多様性を法的に守る仕組みが、ようやく国際社会全体で動き出したと言える。

私たちにできること:深海の生物多様性を知り、支える

深海は多くの人にとって縁遠い世界に見えるかもしれないが、深海の生態系は炭素循環や漁業資源とも密接につながっており、地球全体の環境を支える基盤の一部である。専門家でなくても関われる方法はいくつかある。

  • Ocean CensusやJAMSTECなど、深海調査を行う研究機関の発信(プレスリリース・SNS)をフォローし、最新の発見を知る
  • 深海採掘や海洋保護区の拡大に関する政策議論に関心を持ち、パブリックコメントなどの機会があれば意見を届ける
  • 水族館や科学館で開催される深海生物の企画展・特別展に足を運び、実物や映像から興味を広げる
  • 電池原料など、深海採掘由来の鉱物資源の使用状況について、企業のサステナビリティ報告を確認する

深海の生物多様性は、まだ人類が全体像をつかめていない「知られざる資産」だ。名前も付いていない種が数百万種規模で存在すると考えられているからこそ、調査と保全を同時に進める国際的な取り組みの意義は大きい。

Ocean Censusは発見した生物の情報を「Ocean Census Biodiversity Data Platform」で無償公開しており、研究者でなくても新種の写真や分布データに触れることができる。深海は縁遠い場所に見えて、実はこうしたオープンサイエンスの取り組みを通じて、誰もが「発見の現場」に近づける時代になりつつある。

この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

まとめ:未知なる深海と、これからの向き合い方

深海生物多様性の全貌は、いまだそのごく一部しか明らかになっていない。Ocean Censusやしんかい6500による探査は、その未知の領域に光を当てる貴重な一歩であり、同時に、深海採掘という開発圧力の中で「発見と保全のスピード」が問われていることも浮き彫りにしている。2026年1月に発効するBBNJ協定は、公海の生物多様性を守る国際的な仕組みの第一歩であり、今後の運用がその実効性を左右することになる。

この記事のポイント

  • 深海(水深200m以深)は地球最大の生息空間だが、99%以上が未解明とされる
  • 熱水噴出孔・冷湧水域には太陽光に頼らない化学合成生態系が存在する
  • Ocean Censusとしんかい6500の探査により新種発見のペースは加速している
  • 深海採掘計画地のクラリオン・クリッパートン海域だけで5,578種、うち9割近くが新種
  • 2026年1月発効のBBNJ協定により、公海に海洋保護区を設ける法的枠組みが初めて整う

参考文献・出典

  1. Ocean Census「Over 1,100 New Marine Species Discovered」 – 2025〜2026年の1年間で1,121種の新種を記載したと発表するプレスリリース
  2. JAMSTEC「日本の豊かな深海生物多様性が明らかに」 – しんかい6500による2025年の日本近海共同調査結果に関するプレスリリース
  3. Scientific American「Thousands of New Creatures Discovered in Deep-Sea Mining Zone」 – クラリオン・クリッパートン海域で5,578種を記録した研究の解説記事
  4. 国土交通省「海洋:国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)」 – BBNJ協定の概要と日本政府の対応に関する公式解説
  5. EICネット「国連、国連公海等生物多様性協定の2026年1月発効を発表」 – BBNJ協定が2026年1月17日に発効することを伝えるニュース
  6. JAMSTEC GODAC「深海生態系の99%以上は謎なんです!」 – 深海生態系の未解明の割合に関する解説記事
  7. 環境省「30by30」 – 2030年までに陸と海の30%以上を保全する国際目標の公式ページ
  8. WWFジャパン「国連公海等生物多様性協定(BBNJ協定)の発効を歓迎」 – BBNJ協定発効に対するWWFの見解
  9. Pew Charitable Trusts「Deep-Sea Mining May Harm Thousands of Species」 – クラリオン・クリッパートン海域の生物多様性データの可視化資料
  10. JAMSTEC「The Ocean Census Embarks on First Deep-sea Expedition in Japan」 – JAMSTECとOcean Censusによる2025年日本初共同深海探査の英語プレスリリース
  11. Pew Charitable Trusts「Regional Environmental Management Plans Are Key to Deep-Sea Conservation」 – クラリオン・クリッパートン海域の特別環境利益地域(APEI)に関する解説
  12. しんかい6500(Wikipedia) – 1989年の完成・潜航実績など有人潜水調査船しんかい6500の基本情報

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