⚡ 30秒でわかる答え

  • 日本で産卵するのはアカウミガメ・アオウミガメ・タイマイの3種で、中心はアカウミガメ。
  • ウミガメの性別は卵の時期の砂の温度で決まり、高温ではメスが増える。
  • 温暖化で性比の偏りや孵化率の低下が心配され、長期の観測が鍵になる。
3種
日本の砂浜で産卵するウミガメ
約30〜40%
屋久島永田浜が占める国内のアカウミガメ上陸
約99%
豪北部のアオウミガメ幼体がメス(2018年報告)

毎年初夏、日本の砂浜にウミガメが産卵のために上陸します。夜の闇の中で穴を掘り、卵を産み、海へ帰っていくその姿は、命の循環そのものです。

けれども、卵の性別が砂の温度で決まるという不思議な仕組みは、温暖化の時代には弱点にもなりえます。日本の砂浜では今、何が起きているのでしょうか。

この記事では、日本に来る3種のウミガメ、産卵の様子、性比の偏りの問題、そして守るための取り組みを、環境省などの一次情報をもとに整理します。

この記事で学べること

  • 日本で産卵するウミガメ3種の違い
  • 産卵の一晩に何が起きるのか
  • 砂の温度で性別が決まる仕組み
  • 温暖化による性比の偏りと日本の現状
  • 屋久島永田浜と産卵数の変動の読み方
  • 砂浜の脅威と私たちにできること

日本の砂浜に上陸するウミガメ3種:アカウミガメ・アオウミガメ・タイマイ

世界に7種、日本で産卵するのは3種

ウミガメは世界に7種が知られています。そのうち日本の砂浜で産卵が確認されるのはアカウミガメ・アオウミガメ・タイマイの3種です。種ごとに好む海岸や産卵の時期が違い、日本列島の南北に長い海岸線をうまく分け合うように上陸しています。

もっとも身近なのはアカウミガメです。九州・四国・本州の太平洋沿岸を中心に、砂浜へ毎年産卵に訪れます。アオウミガメは小笠原諸島や南西諸島など暖かい島々の砂浜が主な産卵場所で、タイマイは沖縄県の八重山地方などでごく少数が産卵するとされます。

種主な産卵場所の目安産卵の時期の目安特徴
アカウミガメ屋久島・九州〜本州の太平洋沿岸5〜8月ごろ日本の産卵の中心。甲羅は赤褐色で頭が大きい
アオウミガメ小笠原諸島・南西諸島など初夏〜夏ごろ成長すると海草や海藻を食べる草食性が強い
タイマイ沖縄県の八重山地方などごく一部夏ごろくちばしが鳥のように尖る。世界的に希少
日本で産卵するウミガメ3種の比較(時期や場所は目安)

どの種も絶滅の心配がある種

国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、ウミガメ類の多くが絶滅の危険がある区分に入っています。環境省の資料も、屋久島で産卵するアカウミガメとアオウミガメを、それぞれ絶滅の危険が高い種として紹介しています。海を長く回遊し、数十年かけて大人になる生き物なので、一度減ると回復にも時間がかかります。

夜の砂浜に上陸して産卵のために穴を掘るアカウミガメのイメージ
砂浜に上陸して産卵する準備をするアカウミガメのイメージ

この章のポイント

  • 日本で産卵するのはアカウミガメ・アオウミガメ・タイマイの3種
  • 産卵の中心はアカウミガメで、太平洋側の砂浜に多く上陸する
  • どの種も、減少や絶滅の心配がある種として扱われている

産卵の一晩:上陸から穴掘り、産卵、海へ帰るまで

夜の砂浜で起きること

ウミガメの産卵は、人が少なくなった夜の砂浜で行われます。メスは波打ち際から上陸し、人が来ても動じない場所まで砂の上を進み、前足と後足を使って体を入れる浅い穴と、卵を産むための深い穴を掘ります。

産卵そのものは短時間ですが、上陸から海へ戻るまでには数時間かかることもあります。穴を砂で埋め戻し、周辺の砂をかき混ぜて卵の場所を隠してから、海へ帰ります。この間、メスは涙を流すように見えますが、これは体内の余分な塩分を排出するための仕組みだとされます。

1回に産む卵の数と、産卵を繰り返す理由

アカウミガメの場合、1回の産卵で産む卵は100個前後が目安です。卵は白くやわらかい殻のピンポン玉のような形をしています。メスは1シーズンのうちに間隔をあけて数回産卵することがあり、さらに数年おきに産卵に戻ってきます。そのため、上陸回数や産卵回数は、実際の個体数よりずっと多く数えられることに注意が必要です。

  • 上陸:メスが砂浜に上がった回数(産卵に至らず海へ戻った場合も含む)
  • 産卵:実際に卵を産んだ回数
  • 個体数:産卵に訪れたメスの頭数(1頭が複数回産卵するので回数より少ない)

上陸しても産卵に至らないことがある

上陸した記録と産卵の記録に差があるのは、途中で海へ引き返す個体がいるからです。明かりや人の気配、砂浜に置かれた障害物などが原因になることがあります。環境省の調査でも、上陸回数に対して産卵回数が少ない年があり、これを「産卵成功率」の目安として見ています。

豆知識

  • 産卵の穴は、満潮でも海水をかぶりにくい場所に掘られる
  • メスは生まれた浜の近くへ戻って産卵するとされ、これを「回帰」と呼ぶ
  • 産卵のあと、メスは子ガメの世話をしない

卵の中で決まる性別:砂の温度が運命を分ける

温度依存性決定(TSD)とは

人間を含む多くの動物では、性別は受精のときに染色体で決まります。ところがウミガメは違います。卵が砂の中で育つ孵化までの間の温度によって、オスになるかメスになるかが決まります。これを温度依存性決定(TSD)といいます。

アカウミガメでは、おおむね29℃前後が「オスとメスが半々になる温度(分岐温度)」の目安とされます。それより低い温度ではオスが多く、高い温度ではメスが多く生まれます。わずか数度の違いで性比が大きく変わるため、砂の温度のわずかな変化にも敏感です。

砂の温度(目安)生まれやすい性別補足
約29℃より低いオスが多い涼しい砂浜・木陰・降雨後
約29℃前後オスとメスが半々分岐温度(種や地域で少しずつ異なる)
約29℃より高いメスが多い日当たりのよい砂浜・夏の高温
33℃前後以上胚が死亡する危険が高まる孵化率が下がる
砂の温度と性別・孵化の関係(目安。種・地域で異なる)

性別が決まる「感受期」

性別は、卵の発生の中盤の限られた期間(温度に敏感な時期)の温度で決まるとされます。そのため、産卵の時期が梅雨や猛暑にどう重なるか、卵が砂の浅い場所にあるか深い場所にあるかによって、同じ砂浜でも巣ごとに性比が違ってきます。

この仕組みは、これまでの気候が安定している間は、ウミガメが性比を上手に調整する役に立ってきたと考えられます。しかし、気候が急速に変わる時代には、逆に弱点となる可能性があります。

この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

注意

  • 性比はあくまで「割合」の話で、孵化した子ガメの数ではない
  • 日本のウミガメの孵化直後の性別は、見た目だけでは判別できず、専門的な調べ方が必要

温暖化がもたらす性比の偏り:世界の事例と日本の現状

オーストラリアの衝撃的な報告

2018年、米国の研究者らは、オーストラリアのグレートバリアリーフ北部に暮らすアオウミガメの性比を調べた研究を発表しました。報道や関係団体の紹介によると、暖かい北部の産卵地に由来するアオウミガメでは、幼体の99.1%、亜成体の99.8%、成体の86.8%がメスだったといいます。比較的涼しい南部では、メスの割合は65〜69%にとどまりました。

北部の個体群は20年以上にわたり、ほとんどがメスの子ガメを生み出してきたと指摘されています。著者らは、オスが足りなくなれば、将来的に個体群の繁殖や維持に影響が及ぶおそれがあると警告しました。

  • 北部(暖かい産卵地):幼体の約99%がメス
  • 南部(涼しい産卵地):メスの割合は約65〜69%
  • 研究対象の北部の産卵メスは20万頭以上とされる

日本ではどうなっているのか

日本のウミガメについて、オーストラリアのように大規模な性比調査の結果がそろっているわけではありません。ただし、環境省のモニタリングサイト1000は、全国の砂浜で産卵回数や砂の中の温度を継続して記録しています。2023年度の報告書では、胚が死ぬ危険が高まる33.0℃以上の砂中温度が、伊豆諸島と愛知県田原市の2地点で記録されました。

暑い夏が続けば、日本でも砂の温度が高くなり、メスの割合が高くなる可能性があります。さらに、温度が高すぎれば、性比どころか卵そのものが育たなくなるおそれもあります。温暖化の影響は、性比の偏りと孵化率の低下の二つの形で現れうるのです。

日本の砂浜で何が起きているか

  • 砂の温度の観測は続いているが、性比の全国データはまだ十分ではない
  • 高温(33℃以上)が記録される地点が出てきている
  • 性比と孵化率の両方に注意が必要

日本最大の産卵地・屋久島永田浜と全国の産卵数の変動

北太平洋最大のアカウミガメ産卵地

鹿児島県の屋久島北西部にある永田浜は、環境省によれば北太平洋最大のアカウミガメの産卵地です。日本全体のアカウミガメの上陸のうち、約30〜40%がここに集中するとされます。2002年に国立公園の保護区域に指定され、2005年にはラムサール条約の登録湿地になりました。

産卵は4月下旬ごろに始まり、7月上旬ごろから子ガメが出てくる時期を迎えます。地元では、観察のルールを定め、ガイド同行の観察会を設けて、ウミガメと人との距離をうまく保つ工夫が進められています。

産卵数は年によって大きく変わる

ウミガメの産卵数は、毎年同じではありません。環境省のモニタリングサイト1000の報告では、2012年度に調査開始以来最多の上陸18,650回・産卵10,142回が記録されました。その後も増減を繰り返し、2022年の産卵は930回と前年から62%増加した一方、2023年は634回(上陸1,129回)と前年から約31%減少し、全国5地域すべてで減りました。

年・度対象主な数字出典
2012年度調査地点全体上陸18,650回・産卵10,142回(調査開始以来最多)モニタリングサイト1000
2022年アカウミガメ産卵930回(前年比約62%増)同2023年報告書
2023年アカウミガメ上陸1,129回・産卵634回(前年比約31%減)同2023年報告書
環境省モニタリングサイト1000にみる産卵数の変動
屋久島永田浜の砂浜と産卵に上陸するアカウミガメのイメージ
日本最大級の産卵地・屋久島永田浜のイメージ

数字の読み方:変動と長期傾向を分けて見る

産卵数は、メスが毎年産卵するわけではなく、2〜3年おきに産卵する周期の影響で増減します。このため、1年の増減だけで「増えた」「減った」と判断するのは危険です。長期的な傾向を見るには、複数年のデータを重ねて分析する必要があります。

覚えておきたいこと

  • 産卵は年ごとに増減するため、長期で評価する
  • 永田浜は国内の約30〜40%が集中する重要な場所
  • モニタリング調査は、市民や地域団体の協力で支えられている

小笠原のアオウミガメ:島で受け継がれる産卵と来遊

小笠原諸島は国内有数のアオウミガメの産卵地

小笠原諸島は、日本のアオウミガメの主要な産卵地です。環境省の第5次レッドデータブック(2026年)では、小笠原のアオウミガメは、1880年から捕獲数の記録が残されている貴重な事例として紹介されています。2015年頃の来遊数は、毎年約250〜600個体と推定されました。

同資料は、過去に約800個体いた来遊数が現在は約500個体とすると、減少率は30%を超えると述べています。かつての捕獲圧、島の開発、海洋環境の変化など、複合的な要因が考えられます。

草食のカメが支える海草藻場

アオウミガメは成長するにつれて海草や海藻を主に食べるようになり、藻場の生態系で大きな役割を担います。体の脂肪が緑がかっていることが名前の由来とされ、食べ物の違いがそのまま体の特徴につながっています。

アオウミガメの産卵場所となる島の砂浜は、海面上昇や台風の高波による浸食に弱く、気候変動の影響を受けやすい場所でもあります。

  • 来遊数は年ごとに変動し、長期でみた傾向が重要
  • 産卵場所の砂浜は、海面上昇・高波・浸食の影響を受けやすい
  • 藻場の保全は、アオウミガメの餌場を守ることにもつながる
藻場で海草を食べるアオウミガメのイメージ
藻場で海草を食べるアオウミガメのイメージ

砂浜が抱える脅威:光害・浸食・漂着ごみ・混獲

人工の光が子ガメを迷わせる

子ガメは、孵化した後、海面の反射光や星明かりを頼りに海へ向かうとされます。道路や建物の明かりが砂浜に届くと、内陸側へ向かってしまい、力尽きるおそれがあります。このため、産卵期には砂浜の周りの照明を弱めたり、海側に光が漏れないようにしたりする取り組みが行われます。

砂浜が減れば、産卵の場所も減る

日本の砂浜は、ダムによる土砂の堰き止めや護岸、海面上昇などで、減少が進んでいます。砂浜が狭くなれば、産卵できる場所が減ります。浸食と海面上昇の詳しい話は、海岸侵食の記事と海面上昇で日本の砂浜が消える話をあわせてご覧ください。

漂着ごみと、混獲という見えにくい脅威

海岸に流れ着くごみは、産卵の妨げになるだけでなく、子ガメの移動を邪魔することがあります。また、海ではレジ袋などを餌と間違えて食べてしまう事故や、漁具に絡まる混獲も続いています。ウミガメの一生と保全の全体像は、ウミガメの一生と保全の記事で詳しく紹介しています。

脅威砂浜・海での影響私たちにできること
光害子ガメが海へ向かえず、内陸へ迷い込む産卵期は海側の照明を消す・遮光する
砂浜の減少産卵できる面積が減る護岸や土砂の流れを見直す・砂浜再生を支える
漂着ごみ産卵の妨げ・食べ間違いビーチクリーンに参加し、プラごみを減らす
混獲漁網や釣り糸に絡まる漁業での混獲回避の工夫を知る・支える
ウミガメを取り巻く主な脅威と対策
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

観察のときの注意

  • フラッシュ撮影や懐中電灯の使用はウミガメを驚かせる
  • 産卵を見つけても近づきすぎない・触らない
  • 観察会やガイドのルールに従う

守る取り組み:モニタリング、保護、そして私たちにできること

砂浜を歩いて数える:市民と研究者の連携

日本のウミガメ研究は、研究者だけでなく地域のボランティアや団体に支えられています。日本ウミガメ協議会は全国の調査地とつながり、上陸・産卵・孵化の記録を積み重ねています。環境省のモニタリングサイト1000にも、こうした調査団体の観測データが生かされています。

巣を守る・照明を整える:現場の工夫

  • 巣の場所を記録して標識を立て、人や車が踏まないようにする
  • 波に洗われやすい巣を、安全な場所へ移すことがある
  • 砂浜の照明を落とし、子ガメが海へ向かいやすくする
  • 観察ルールを設け、ガイドと一緒に見学する

旅行や日常から、できること

ウミガメの産卵地を訪れるときは、地域のルールを守り、夜の砂浜では明かりの扱いに気をつけましょう。海辺のごみを拾う活動への参加や、使い捨てプラスチックを減らす暮らしも、ウミガメの暮らす海を守ることにつながります。身近な参加方法は、ビーチクリーンの参加方法の記事も参考になります。

今日からできる3つ

  • 海辺の砂浜ではごみを持ち帰る・拾う
  • 夜の砂浜では強い明かりを使わず、ウミガメを見守る
  • 地域のウミガメ保護団体の活動を知り、応援する

これからのウミガメと砂浜:不確かな未来にどう備えるか

わかっていること・わかっていないこと

温度で性別が決まる仕組みや、高温が孵化率を下げることは、研究で広く確認されています。一方で、日本の各産卵地で性比がどの程度偏っているのか、海での生存率がどう変わるのかなど、まだ十分にわかっていないことも多くあります。

砂浜の「涼しい場所」を残す

世界では、砂浜に日陰を作ったり、巣に水をかけたりして温度を下げる実験的な試みも報告されています。ただし、人が介入すること自体のリスクもあり、まずは自然な環境を守り、砂浜の植生を残すことが基本です。砂浜の植物の役割は、海岸砂丘の植生の記事で解説しています。

長期のデータが未来の判断を支える

ウミガメは成熟まで約30年かかるとされ、今の保全の成果が見えるのは何十年も先になります。だからこそ、毎年コツコツと続ける観測が、将来の判断の土台になります。海水温の上昇が漁業へ及ぼす影響も含め、海水温上昇と漁業の記事とあわせて、海全体の変化として考えてみましょう。

まとめ

  • 日本で産卵するのはアカウミガメ・アオウミガメ・タイマイの3種
  • 卵の温度で性別が決まるため、温暖化で性比や孵化率に影響が出うる
  • 産卵数は年ごとに大きく変動するので、長期の観測が欠かせない
  • 光害・浸食・ごみ・混獲といった脅威は、私たちの暮らしとつながっている

参考文献・出典

  1. 環境省 屋久島自然保護官事務所:ウミガメ – 永田浜の位置づけ・ラムサール登録
  2. 環境省 生物多様性センター モニタリングサイト1000 ウミガメ調査 2023年報告 – アカウミガメの上陸・産卵回数と砂中温度
  3. 環境省 生物多様性センター モニタリングサイト1000 ウミガメ調査 2024年報告 – 最新の調査結果
  4. 環境省 モニタリングサイト1000 ウミガメ調査 2012年度報告 – 過去最多の上陸・産卵回数
  5. 環境省 第5次レッドデータブック アオウミガメ – 小笠原諸島の来遊数と減少
  6. WWF-Australia:北部の暖かさでアオウミガメがメス化 – グレートバリアリーフ北部の性比報告
  7. National Geographic:99% of These Sea Turtles Are Turning Female – 2018年の研究報道
  8. 日本ウミガメ協議会 – 全国のウミガメ調査・保全活動
  9. IUCN レッドリスト – ウミガメ類の保全状況

※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア