⚡ この記事の要点
魚を捌いた後に残るアラ・皮・内臓は、国内だけで年間およそ75万トンにのぼる。かつて廃棄されていたこの非可食部が、コラーゲンや魚醤、フィッシュレザー、ペットフード、肥料へと生まれ変わる技術と実例を、統計と一次資料から解説する。
刺身や切り身になるのは、水揚げされた魚のおよそ半分にすぎない。骨や頭、皮、内臓といった残りの部分は「アラ」と呼ばれ、長らく廃棄物として処理費用をかけて捨てられてきた。だが近年、この非可食部をコラーゲンや発酵調味料、革製品、ペットフードに変える技術と事業が各地で動き出している。
笹川平和財団海洋政策研究所のニュースレターで示された試算によれば、国内で発生する魚アラは年間およそ75万トンにのぼる。世界に目を向ければ、FAO(国連食糧農業機関)は世界の漁獲量の35%が収穫後に失われるか廃棄されていると報告しており、水産業の「もったいない」は日本だけの課題ではない。一方で、この副産物を飼料・肥料だけでなく、より単価の高い化粧品原料や革製品へと引き上げる「アップサイクル」の動きが、国内の中小企業やスタートアップから広がりつつある。
この記事では、魚のアラがどのように価値ある製品へと生まれ変わっているのか、水産物全体のフードロス問題も踏まえながら、統計データと国内外の実例をもとに整理する。
この記事で学べること
- 国内で発生する魚アラの量と、その大半がどこへ運ばれているか
- 魚由来コラーゲンが化粧品やサプリメントに使われる仕組み
- 「いしり」「しょっつる」など魚醤が内臓を活かす伝統技術であること
- サーモンレザーなど魚の皮を革製品に変える国内企業の挑戦
- 骨や頭が肥料・飼料・ペットフードに変わる流れと残る課題
- アップサイクルを広げるうえで残る鮮度・コスト・法規制のハードル
魚を捌いた後に残る「アラ」とは何か
刺身や切り身、干物になるのは、水揚げされた魚の一部でしかない。頭、骨、内臓、皮、ひれ、うろこ、血合いといった「非可食部」は「アラ」と総称され、鮮魚店や水産加工工場から日々大量に排出されている。家庭の台所でも、魚を一尾買えば同じことが起きているが、加工工場ではその量が桁違いに大きい。
非可食部にはどんな種類があるか
- 頭・骨——だしを取る用途のほか、粉砕して魚粉や肥料の主原料になる
- 内臓——発酵させて魚醤の原料になるほか、飼料や肥料に混ぜられる
- 皮——なめしてフィッシュレザーに、あるいはコラーゲンの原料になる
- うろこ・ひれ——コラーゲンの抽出原料や、和紙・工芸品の材料に使われることもある
- 血合い・切り落とし——色やにおいが強く単品での販売は難しいため、練り製品や飼料に混合されることが多い
可食部と非可食部、歩留まり率という考え方
水産物の可食部の割合は「歩留まり率」と呼ばれる。国内で流通する魚介類(貝類・海藻を除く)の歩留まり率はおよそ54%とされ、残りの46%が頭・骨・内臓・皮などの非可食部になる計算だ。魚種や加工方法によって歩留まり率は大きく変わり、三枚におろす切り身加工や、頭と内臓を除いた「ラウンド」加工では歩留まりがさらに下がることもある。養殖魚と天然魚でも、脂の乗り方や骨格の大きさによって非可食部の比率は変動する。
年間75万トンという数字の内訳
笹川平和財団海洋政策研究所が発行するOcean Newsletterに掲載された筆者試算によれば、2024年統計をもとに国内向けに供給される魚介類(貝類・海藻を除く)はおよそ162万トン、可食部の割合を示す歩留まり率はおよそ54%とされ、この試算から非可食部=魚アラは年間およそ75万トンと見積もられている。かまぼこや缶詰、切り身用の加工工場から出るものが多くを占め、水揚げ港に近い加工団地ではアラの処理・輸送コストそのものが経営課題になることも珍しくない。
どこへ運ばれているのか
同試算では、発生した魚アラのうち、およそ74%は魚粉(フィッシュミール)会社へ搬入され、養殖用飼料や肥料の原料になるとされる。残りは食品残さとして廃棄されるほか、一部がコラーゲンや魚醤、皮革、ペットフードといった、より付加価値の高い製品へと加工されている。この「その他」の部分を広げていく取り組みが、近年各地で広がっているアップサイクルの動きだ。実際に水産加工残さを魚粉や魚油に変える取り組みはすでに国内で大きく広がっており、本記事ではその先にある、より単価の高い製品化の事例を中心に見ていく。

廃棄コストという、もうひとつの顔
魚アラは価値ある資源であると同時に、放置すれば産業廃棄物として処理費用のかかる存在でもある。腐敗が進めば悪臭や汚水処理の問題を引き起こし、加工工場にとっては速やかな搬出・処理が経営上の課題になる。魚粉会社や肥料会社への搬入は、こうした廃棄コストを収益に変える最も基本的な仕組みであり、コラーゲンや魚醤といったより高付加価値な用途は、そのさらに一歩先にある選択肢と言える。
水産加工業が集積する港町では、複数の工場から出る魚アラを一括して集荷・処理する体制が整っている地域もある。個々の工場だけでは採算の合わない量でも、地域単位でまとめることで魚粉工場への安定供給が可能になり、結果としてコラーゲンや魚醤といった小ロットの高付加価値用途に振り分ける余地も生まれやすくなる。
世界でも「もったいない」は終わっていない
魚のアラを活かす動きは日本だけの話ではない。世界的に見ても、水産物の廃棄・ロスは決して小さな問題ではなく、地域によってその原因も異なっている。
漁獲量の35%が失われるか捨てられている
FAO(国連食糧農業機関)は、世界の漁業・養殖業で生産される水産物のうち、およそ35%が収穫後に失われるか廃棄されていると推計する。冷蔵・輸送インフラが整っていない地域では、水揚げ直後の腐敗による損失(フードロス)が大きな割合を占める一方、日本を含む先進国では加工段階で生じる非可食部の未活用(フードウェイスト)が主な課題になっている。同じ「35%」でも、途上国と先進国では対策の方向性がまったく異なる点に注意が必要だ。
副産物は魚体の3割から7割を占める
FAOの資料によれば、頭・骨・内臓・うろこなどの水産加工副産物は、魚体全体の30%から70%を占めるとされる。この幅の大きさは、マグロのように大型で骨格が大きい魚種と、イワシのように小型で丸ごと利用されやすい魚種とで、非可食部の割合が大きく異なることを示している。
魚粉・魚油の生産で進む転換
近年、この副産物を魚粉・魚油の原料として活用する動きが世界的に広がっている。2022年時点で、副産物は世界の魚粉生産量の34%、魚油生産量の53%を占めるまでになった。FAOは2025年までに、魚アラ由来の魚粉が世界の魚粉生産の38%を占めると見込んでおり、2013〜2015年平均の29%から着実に増加している。天然の小型浮魚(カタクチイワシなど)を丸ごと魚粉にするのではなく、加工残さから作る比率が高まることは、海の資源管理の観点からも重要な変化とされる。
| 時期 | 魚アラ由来が魚粉生産に占める割合 |
|---|---|
| 2013〜2015年平均 | 29% |
| 2025年(FAO見通し) | 38% |
発酵させて飼料にする「フィッシュサイレージ」の研究
FAOは、魚のアラを発酵させて液状化し、家畜や養殖魚の飼料にする「フィッシュサイレージ」技術の研究を、バングラデシュ・フィリピン・タイなど東南アジア・南アジアの国々で進めている。乾燥・加熱を必要とする従来の魚粉づくりに比べ、発酵による方法は小規模な加工場でも導入しやすいとされ、大規模な設備投資が難しい地域での魚アラ活用策として期待されている。
日本と世界を比べると見えてくること
国内で発生する魚アラのうち74%が魚粉工場へ搬入されているという試算値は、世界的に見れば高い活用率と言える。一方でFAOが指摘する「世界の漁獲量の35%が失われるか廃棄される」という数字には、水揚げ後の輸送・保存段階で傷んでしまう、より根本的なロスも含まれている。つまり日本の課題は主に「非可食部をどう高付加価値化するか」であるのに対し、インフラが未整備な地域の課題は「そもそも食べられる部分を腐らせずに届けられるか」にある。同じ水産物ロスでも、地域によって解くべき問題が異なる点は見落とされがちだ。

コラーゲン・ゼラチンに生まれ変わる
非可食部の中でも、皮やうろこ、骨に多く含まれるコラーゲンは、化粧品やサプリメントの原料として最も付加価値の高いアップサイクル先のひとつだ。原料としての魚アラの単価が数十円/kg単位だとすれば、精製されたコラーゲンペプチドは数千円/kg単位で取引されることもあり、加工による付加価値の差が大きい分野でもある。
魚由来コラーゲンの弱点だった「におい」
コラーゲン原料としては牛や豚の皮が主流だったが、2000年代の狂牛病(BSE)問題以降、牛由来原料への不安から魚由来コラーゲンへの関心が高まった。ただし魚由来コラーゲンには特有のにおいが残りやすいという弱点があり、化粧品や食品への応用が難しいという課題があった。
低温抽出という工夫
国内コラーゲンメーカー最大手のニッピは、魚のうろこを原料に、低温で時間をかけて抽出し高度に精製することで、においを抑えたコラーゲン製品「ニッピコラーゲン100 フィッシュタイプ」を開発した。廃棄されていたうろこが、無味無臭の原料として生まれ変わっている。抽出温度を高くすればするほど収率は上がるが、におい成分やタンパク質の変性も進みやすいため、低温・長時間という一見非効率な工程が品質を左右する。
化粧品からサプリメントまで広がる用途
低分子化して吸収されやすくした「コラーゲンペプチド」は、飲料や粉末の健康食品、スキンケア化粧品など幅広い用途に使われている。魚由来コラーゲンは分子構造が人の皮膚に近いとされ、美容分野での需要が伸びている。高齢化の進む国内市場だけでなく、美容意識の高いアジア圏の輸出向け需要も、フィッシュコラーゲン市場の拡大を後押ししている。
国内シェアの実態
ニッピはコラーゲン原料シェア国内1位、新田ゼラチンはゼラチン国内シェア1位・コラーゲンペプチドで国内2位を掲げており、業界内では両社合わせておよそ8割近いシェアを占めるとされる。市場調査会社の推計では、世界のフィッシュコラーゲンペプチド市場は2025年時点でおよそ7.9億米ドル規模とされ、今後も成長が見込まれている。原料が牛・豚から魚へとシフトする流れは、非可食部の付加価値化という観点からも今後注目される。
背景には、高齢化にともなう健康・美容志向の高まりに加え、宗教上の理由やアレルギーで牛・豚由来原料を避けたい消費者が一定数存在することもある。魚由来コラーゲンは、こうした多様な需要の受け皿としての側面も持ち合わせており、単に「廃棄物の再利用」という切り口だけでなく、原料選択の幅を広げる商品としても評価されている。
コラーゲンとゼラチンはどう違うのか
コラーゲンとゼラチンは、どちらも同じタンパク質を原料にしているが、加工の度合いが異なる。コラーゲンを加熱・変性させたものがゼラチンで、ゼリーやグミ、カプセル剤の被膜など、幅広い食品・医薬品に使われている。魚由来のゼラチンは牛・豚由来のものに比べて低い温度で溶けやすい性質があり、常温で固まりにくい代わりに、口どけの良さを活かした菓子への応用が進んでいる。
- 美容・健康食品——コラーゲンペプチド飲料、粉末サプリメント
- 化粧品——保湿クリームや美容液の配合成分
- 食品——ゼラチンとしてゼリー、グミ、菓子の食感づくりに使用
- 医薬・医療分野——カプセルの被膜材料など
魚醤:内臓を発酵させる伝統の知恵
コラーゲンが新しい技術だとすれば、魚醤は数百年前から続く「内臓のアップサイクル」だ。日本各地には、魚の内臓や骨を発酵させて作る伝統調味料が今も残っている。
能登の「いしり」——いかの内臓から生まれる調味料
石川県能登地方の「いしり(いしる)」は、宇出津港で水揚げされたイカを加工する際に出る内臓を塩漬けし、発酵させて作られる魚醤だ。江戸時代後期にはすでに作られていたとされ、サバの骨や内臓、いわしなども原料に使われる。鍋料理や刺身のつけだれとして地元で親しまれてきた。
このお店を見るいしり(いしる)|有限会社カネイシ能登に伝わる魚醤「いしり」を製造する老舗。イカの内臓を発酵させる伝統製法を今に伝える。🔗 kaneishi.com秋田の「しょっつる」——ハタハタと発酵の力
秋田県の「しょっつる(塩魚汁)」は、ハタハタやイワシを塩漬けにして発酵させた魚醤で、地元の複数の業者が製造・販売を続けている。骨や内臓を無駄にしない生活の知恵が、鍋料理などに欠かせない郷土の調味料として今に伝わっている。
世界にも広がる魚醤という発酵技術
魚介類の内臓や骨を発酵させて調味料にする技術は、日本だけのものではない。ベトナムの「ヌクマム」やタイの「ナンプラー」も、魚を塩漬けにして自己消化酵素で発酵させる点で「いしり」「しょっつる」と共通の原理を持つ。古代ローマにも「ガルム」と呼ばれる魚醤が存在したとされ、魚の非可食部を発酵によって長期保存可能な調味料に変える知恵は、世界各地で独立に発達してきた。
- いしり・いしる(石川県能登)——イカの内臓、サバの骨・内臓が主原料
- しょっつる(秋田県)——ハタハタ、イワシが主原料
- いかなご醤油(香川県)——いかなごが主原料
- ヌクマム(ベトナム)・ナンプラー(タイ)——小型の海水魚が主原料
共通するしくみ
「いしり」「しょっつる」に加え、香川県の「いかなご醤油」を合わせて日本三大魚醤と呼ばれることが多い。いずれも魚介類が持つ自己消化酵素の働きを利用し、内臓や骨を長期間かけて発酵・熟成させる点が共通している。魚醤は非可食部を無駄にしないための、先人による発酵技術の到達点のひとつと言える。
骨や内臓を無駄にしない生活の知恵から生まれたものと言われている。
― 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑」
郷土料理から現代の食卓へ
かつては地元の鍋料理や漬物に使われることが中心だった魚醤だが、近年はうま味調味料として和食以外の料理にも取り入れられている。塩の代わりに少量加えることでコクを足す使い方が知られ、パスタのソースやドレッシング、炒め物の隠し味など、家庭料理でも応用できる調味料として再評価が進んでいる。
- パスタやスープに数滴加えてうま味を補う
- 野菜炒めや焼きそばの仕上げに使う
- ドレッシングやたれに混ぜて風味に深みを出す
小規模な醸造元が支える伝統の味
いしりやしょっつるの多くは、大手食品メーカーではなく地域に根ざした小規模な醸造元によって作られ続けている。長期熟成が必要な発酵食品は工業的な大量生産に馴染みにくく、原料となる魚の内臓や骨の入手も地元の漁業と密接に結びついている。こうした小規模生産の構造が、大量生産される調味料にはない風味の個性を守る一方で、後継者不足や原料調達の不安定さという課題も抱えている。
醸造には数ヶ月から1年以上かけて発酵・熟成させる工程が必要で、天候や気温によって仕上がりが左右されるため、大手メーカーの規格化された生産ラインには乗りにくい。それでも各地の醸造元が製法を守り続けているのは、地域の水産加工から出る内臓や骨を、廃棄せずに次の世代へつなぐ手段として魚醤づくりが機能してきたからでもある。
皮を「革」に変えるフィッシュレザー
魚の皮は薄く、加工の難しさから多くが廃棄されてきた。だが近年、この皮を鞣(なめ)して革製品に仕立てる「フィッシュレザー」が、国内外で少しずつ広がっている。
なぜ魚の皮は捨てられてきたのか
牛や豚の革に比べて魚の皮は薄く、繊維の方向も不均一なため、なめし加工には高度な温度・薬品管理が必要になる。手間がかかる割に1枚あたりに採れる面積が小さいことも、これまで活用が進まなかった理由のひとつだ。
高知から広がる挑戦——新喜皮革とOcean Leather
兵庫県姫路市の新喜皮革は、食品加工企業から相談を受けたことをきっかけに、食用として加工されたサケの皮を原料にしたレザーづくりを試験的に始めた。皮は薄く丈夫で、魚特有のうろこ模様が浮き出るのが特徴だ。高知県に拠点を置くOcean Leatherも、加工の過程で廃棄される魚の皮を仕入れてサーモンレザーなどのフィッシュレザーを製造・販売しており、フィッシュレザーを作るためだけに魚を捕獲することはないとしている。
このブランドを見るサーモンレザー|Ocean Leather高知発、加工の過程で廃棄される魚の皮をなめして作るフィッシュレザーブランド。🔗 oceanleatherforbusiness.com
なめし工程のおおまかな流れ
- 洗浄・脱脂——皮に残った身や脂肪分を丁寧に取り除く
- なめし——タンニンなどの薬剤で皮のタンパク質を安定させ、腐敗しにくくする
- 染色・乾燥——用途に応じて色付けし、時間をかけて乾燥させる
- 仕上げ——表面を整え、財布やバッグなどの部材として使える状態にする
サケ以外にも広がる魚種
国内のフィッシュレザーはサケの皮を使う事例が目立つが、皮の張りや模様の出方は魚種によって異なるため、タラやスズキ、ティラピアなど地域で水揚げされるさまざまな魚の皮を使った試みが世界各地で報告されている。地元の水産加工業から出る皮をそのまま原料にできることから、サケ以外の魚種にも応用範囲が広がりつつある。
牛革にはない模様と薄さという個性
フィッシュレザーは牛革に比べて薄く軽いため、財布や小物、バッグのアクセントパーツに向いている。うろこの跡が生み出す独特の模様は、量産される牛革製品にはない一点物の個性として評価されている。
克服すべき技術的な壁
魚の皮は牛や豚の皮に比べて脂肪分が多く、においや腐敗が進みやすい。なめし工程では温度管理を徹底し、脱脂・タンニンなめしなどの工程を丁寧に重ねることで、実用に耐える革へと仕上げている。原料となる魚皮の安定調達も、事業を広げるうえでの課題になっている。
新たに家畜を飼育しないという環境面の利点
牛革は畜産業という別の産業の副産物であり、牛を新たに飼育するための土地や飼料、温室効果ガス排出とも切り離せない。一方でフィッシュレザーは、食用として水揚げされた魚の皮という、すでに存在する加工残さを原料にしている点が特徴だ。革を作るために新たに生き物を飼育・捕獲する必要がないという意味で、環境負荷の面でも注目されている。
とはいえフィッシュレザーは、まだ牛革のように大量生産・大量流通する規模には至っておらず、価格も牛革製品より高くなりがちだ。少量生産ゆえの希少性をブランド価値として打ち出しながら、財布や名刺入れ、アクセサリーといった小物から市場を広げているのが現状の姿と言える。
骨・頭を肥料と飼料に
コラーゲンや革に加工しきれない骨や頭、内臓の多くは、魚粉・魚油として肥料や飼料の原料になっている。量としては、魚のアラのアップサイクル先の中で今も最大の割合を占める分野だ。
魚粉が支える有機肥料
魚粉はミネラルとアミノ酸を豊富に含み、油かすや鶏ふんと並ぶ有機肥料の代表的な原料だ。イワシやマグロなど魚の加工時に出る魚粕を原料にした有機肥料も国内で製造・販売されており、農林水産省は国内資源由来肥料の活用事例を「国内資源由来肥料の活用事例集」としてまとめ、食品残さを含む取り組みを29事例紹介している。
養殖用飼料としての需要拡大
魚粉・魚油は養殖業向け配合飼料の主原料でもある。世界的に天然由来の魚粉需要が高まる中、廃棄されていたアラを原料にした魚粉の比率を高めることは、天然の小魚(カタクチイワシなど)の乱獲を抑える意味でも重要性を増している。水産物の国際認証制度の中には、魚粉・魚油の調達元をたどれるようにするサプライチェーン認証も存在し、原料の由来を明確にする動きが飼料業界でも進んでいる。養殖業者にとっても、アラ由来の魚粉を選ぶことは、飼料調達の持続可能性を示す一つの指標になりつつある。
農水省の活用事例集に見る国内の取り組み
農林水産省がまとめた事例集では、水産加工残さを原料にした肥料化の取り組みが各地の企業・団体から報告されている。地域で発生した副産物を、その地域の農業に還元する「地域内循環」のモデルとしても注目されている。
地域内で資源を循環させる発想
水産加工残さを地域の農地に還元する取り組みは、遠方から化学肥料を購入するコストを抑えつつ、産地の土づくりに海の栄養分を活かせる点が評価されている。漁業と農業という別々の産業を、廃棄物ではなく資源としてつなぎ直す「地域内循環」の考え方は、輸送コストのかかる大都市圏よりも、水揚げ港と農地が近い地方でこそ実践しやすいモデルとされる。
| 用途 | 主な原料 | 主な使い道 |
|---|---|---|
| 飼料 | 頭・骨・内臓 | 養殖用配合飼料の主原料 |
| 肥料 | 骨・内臓 | ミネラル豊富な有機肥料 |
| コラーゲン | 皮・うろこ | 化粧品・サプリメント |
| 革(レザー) | 皮 | 財布・バッグなどの革小物 |
| 調味料(魚醤) | 内臓 | 発酵調味料 |
| ペットフード | 身・骨(未利用魚含む) | ドッグフードなど |
未利用魚×ペットフードという掛け算
魚のアラだけでなく、市場に出回らない「未利用魚」も、廃棄されがちな水産資源のひとつだ。近年、この未利用魚を原料にしたペットフード開発が、環境問題の解決策としても注目されている。
藻場を食べ荒らすイスズミがドッグフードになる理由
イスズミやアイゴは、海藻を食べ尽くして藻場を消失させる「磯焼け」の主な原因のひとつとされる魚だが、独特の臭みから食用として好まれず、多くが未利用魚のまま廃棄されてきた。海藻を主食にするため身に独特の風味がつきやすく、これが食用としての需要が伸びなかった理由のひとつとされる。
立命館大発ベンチャー・オーシャンリペアの挑戦
福岡市のオーシャンリペア株式会社は、立命館大学発のスタートアップとして2024年に創業し、イスズミやアイゴを主原料にした高級ドッグフード「オーシャンハーベスト」を開発、2024年9月に発売した。臭みの原因となる成分を加工技術で抑えることで、ペットフードとしての実用化にこぎつけている。
この会社を見るオーシャンリペア株式会社立命館大学発のスタートアップ。未利用魚を主原料にしたドッグフード「オーシャンハーベスト」を開発。🔗 oceanrepair.co.jp
未利用魚活用がもたらす二重の環境効果
この取り組みは、未利用魚を有効活用して食品ロスを減らすと同時に、原因魚を駆除することで藻場の再生を後押しするという二重の環境効果を狙っている点が特徴だ。海の生態系保全と資源の有効活用を同時に進めるモデルとして、他地域への展開も期待されている。
藻場が消える「磯焼け」という背景
磯焼けとは、コンブやワカメなどの海藻が茂る藻場が、何らかの原因で消失し、岩肌がむき出しになってしまう現象を指す。水温上昇による海藻の生育不良に加え、イスズミやアイゴ、ウニなど海藻を食べる生物の増加が要因のひとつとされている。藻場は稚魚の生育場所としても重要な役割を果たしているため、磯焼けの進行は漁業全体への影響も懸念されている。
拡大するプレミアムペットフード市場という追い風
国内では、犬や猫を家族の一員として迎える世帯の増加とともに、原材料や産地にこだわった「プレミアムペットフード」への支出が伸びている。未利用魚や魚のアラを主原料にした商品は、こうした市場の中で「原材料の透明性」や「環境配慮」を訴求できる選択肢として位置づけられており、単なる廃棄物対策にとどまらない商品価値を持ち始めている。
スタートアップだからこそ動ける機動力
未利用魚の活用は、原料となる魚種や漁獲量が年によって変動しやすく、大手メーカーが定番商品として量産するには不確実性が大きい分野でもある。大学発ベンチャーのような小規模な企業は、地元の漁業関係者と直接連携しながら、その年に獲れた魚種に合わせて商品設計を柔軟に見直せる機動力を持つ。オーシャンリペアのような事例は、こうした小回りの利く事業形態だからこそ成立している面がある。
アップサイクルが抱える課題とこれから
魚のアラを価値ある製品に変える技術は着実に広がっているが、事業として定着させるにはいくつかの壁が残っている。
鮮度管理とにおい対策というハードル
魚のアラは鮮度低下が早く、においの原因にもなりやすい。コラーゲンや魚皮の加工では、水揚げから加工までの時間を短縮し、低温での管理を徹底することが品質を左右する。工場の立地が水揚げ港から離れているほど、この鮮度管理のハードルは高くなる。
コストと供給の安定性
アラの発生量や魚種は漁獲状況によって変動しやすく、原料の安定調達が事業拡大の課題になっている。少量多品種になりがちな水産加工残さを、一定の品質でまとめて集荷する仕組みづくりも欠かせない。
食品・化粧品としての法規制
魚アラを原料に食品や化粧品を作る場合、原料の衛生管理や表示に関する法規制への対応が必要になる。特にコラーゲンを食品・サプリメントとして販売する場合は、原料由来の情報開示やアレルギー表示など、通常の食品と同様の基準を満たす必要がある。魚アラという同じ原料から出発していても、飼料・肥料向けと、食品・化粧品向けとでは求められる衛生基準の水準がまったく異なる点も、事業者にとって参入のハードルになっている。
小さな企業でも参入できる分野という側面
コラーゲン精製や大規模な魚粉プラントには相応の設備投資が必要になる一方、魚醤の醸造や小ロットのフィッシュレザー加工は、比較的小さな設備からでも始められる分野だ。地域の水産加工業者や個人事業者が新たな商品開発として着手しやすいことも、アップサイクルの裾野が広がっている理由のひとつになっている。
消費者にできる小さな選択
こうした技術や事業を後押しするのは、最終的には消費者の選択だ。魚由来コラーゲンのサプリメントを手に取る、フィッシュレザーの小物を選ぶ、未利用魚を使った加工品を買う——そうした一つひとつの購買行動が、廃棄されていた資源に新しい市場をつくっていく。
本記事で紹介したコラーゲン、魚醤、フィッシュレザー、ペットフード、肥料は、いずれも同じ「魚のアラ」という資源から枝分かれした異なる出口にすぎない。どの技術も単独で魚アラ問題を解決するわけではないが、複数の用途が同時に広がることで、これまで廃棄されるしかなかった非可食部の受け皿は着実に増えつつある。
消費者にできること
- 魚由来コラーゲンや魚醤など、非可食部を活用した商品を選んでみる
- フィッシュレザーなど国内の小規模ブランドの取り組みを知る
- 未利用魚を使ったペットフードや加工品を試してみる
- 地元の魚醤や発酵調味料など、地域の伝統食を見直す

参考文献・出典
- 笹川平和財団海洋政策研究所「海の恵みを活かしきる〜漁業系廃棄物の行方〜」(Ocean Newsletter) – 国内の魚アラ発生量・歩留まり率・魚粉工場搬入率の試算
- 水産庁「水産統計情報」 – 水産物需給・生産統計
- 農林水産省「令和6年漁業・養殖業生産統計」 – 国内供給量の統計データ
- FAO「Fish By-Products Utilization」 – 水産加工副産物の活用に関する解説
- FAO「Food Loss and Waste in Fish Value Chains」 – 世界の水産物ロス・廃棄の概況
- FAO「Fish waste management: an assessment on potential production and utilization of fish silage」 – フィッシュサイレージ(発酵飼料)の研究
- 農林水産省「にっぽん伝統食図鑑:いしり、いしる」 – 能登の魚醤の歴史と製法
- 農林水産省「国内資源由来肥料の活用事例集(食品残渣等)」 – 水産加工残さの肥料化事例
- ニッピコラーゲン化粧品公式サイト – 魚由来コラーゲン製品の解説
- 繊研新聞「新喜皮革が食用サケの皮でレザーを製造」 – 国内フィッシュレザーの取り組み
- オーシャンリペア株式会社 公式サイト – 未利用魚を活用したドッグフード開発
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