⚡ 30秒でわかる答え
- キリンは1999年の横浜工場の水源地(丹沢)から水源の森活動を始め、現在は全国11か所で取り組んでいる
- 容器は2027年までに国内PET樹脂の50%をリサイクル樹脂にする目標を掲げ、軽量化・R100・ラベルレスを進めている
- CDP水セキュリティのAリストは情報開示の評価であり、環境負荷ゼロの証明ではない点に注意が必要
ビールも「午後の紅茶」も、中身の大半は水です。飲料メーカーにとって水源の保全と、使い終わった容器の循環は、事業そのものを支える環境課題です。キリンはどこまで取り組み、どんな課題が残るのでしょうか。
この記事では、キリンホールディングスの環境報告書やニュースリリース、自治体の公開情報をもとに、水源の森・工場の節水・スリランカの水源地保全と、再生PETや軽量化などの容器の環境対応を整理します。
企業の自己発表が中心の資料に基づくため、事実と評価を分け、課題や限界も併記します。海とのつながりも意識しながら、水と資源の循環を読み解きます。
この記事で学べること
- キリンが水源の森活動で守っている場所と仕組み
- 工場の洗浄水カスケード利用とオーストラリアの水リサイクル
- スリランカの紅茶農園で行う水源地保全の内容
- 再生PET・軽量化・ラベルレスなど容器対応の年表
- CDP評価など企業の環境取り組みを読む視点
キリンの水と容器の環境対応とは?全体像を整理
キリンホールディングスは、ビール・清涼飲料・医薬・ヘルスサイエンスを手がける企業グループです。ビールも、「午後の紅茶」や「生茶」といったペットボトル飲料も、中身の大半は水です。つまり水は、事業の原料であると同時に、工場の洗浄や冷却にも欠かせない基盤資源にあたります。この記事では、水源地を守る活動と容器(ペットボトル)の環境対応という二つの柱に絞って、公開されている公式資料をもとに整理します。
対象とする資料は、キリンホールディングスの環境報告書(2022年版・2024年版)、2020年・2024年のニュースリリース、2025年12月11日付のCDP「水セキュリティ」Aリスト獲得のリリース、神奈川県・滋賀県の公開ページ、国土交通省の水循環関連資料です。企業の自己発表が中心になるため、事実と評価を分けて、評価にあたる部分は「会社がそう説明している」と明記します。
なぜ「水」と「容器」を一緒に見るのか
水源の保全は「資源をつかう前の入口」の話、容器の環境対応は「つかい終わったあとの出口」の話です。キリングループは「環境ビジョン2050」で、生物資源・水資源・容器包装・気候変動を統合的に扱う方針を示しています。入口と出口を並べて見ることで、飲料メーカーの資源循環の全体像がつかみやすくなります。海との関係でいえば、水源の森や河川の健全さは沿岸の海の栄養循環に、容器の回収・再資源化は海洋プラスチックごみの発生抑制につながります。
この記事のスタンス
- 企業の公式資料に書かれた事実(年・数量・地名)を中心に紹介する
- 「環境にやさしい」と断定せず、残された課題や限界も併記する
- 最新の数値は年ごとに更新されるため、最終的には各社の最新報告書を確認する
本記事で扱う範囲
- 水源の森活動(日本国内11か所)と地下水涵養の取り組み
- 工場の節水(洗浄水のカスケード利用)とオーストラリアの水リサイクル
- スリランカの紅茶農園での水源地保全
- 再生PET(R100ペットボトル)・軽量化・ラベルレスなどの容器対応
- 評価の見方(CDP水セキュリティAリストの意味と限界)
日本の水事情:豊かなようで一人当たりは少ない
日本は「水に恵まれた国」というイメージがあります。確かに年間降水量は多く、国土交通省の水循環白書の参考資料では、日本の年降水量は約1,668mmで、世界の陸地平均(約815mm)の約2倍と紹介されています。ところが人口あたりに直すと事情が変わります。同じ資料では、一人当たりの水資源賦存量は約3,400m³/人・年で、世界平均(約6,800m³/人・年)の約2分の1程度とされています。
| 指標 | 日本 | 世界平均 | 比較 |
|---|---|---|---|
| 年降水量 | 約1,668mm | 約815mm | 日本は約2倍 |
| 一人当たり水資源賦存量 | 約3,400m³/人・年 | 約6,800m³/人・年 | 日本は約2分の1程度 |
この差は、日本が降った雨の多くを短い急流で海へ流してしまう地形であること、そして人口密度が高いことから生まれます。だからこそ、山に降った雨をいったん森や土壌にためて、ゆっくり川や地下水へ送り出す水源涵養の機能が重要になります。

水源涵養という考え方
森林の土壌はスポンジのように雨を吸い込み、時間をかけて川へ送り出します。この働きの実際の大きさについては、研究者のあいだでも「緑のダム」という言葉の使い方に議論があります。詳しくは、当サイトの水源涵養林の働きとはで整理しています。本記事では、企業が水源の森活動を行う背景として、森の手入れ(間伐・下草刈りなど)が土壌や下層植生の状態を保つという一般的な理解にとどめます。
海とのつながり
山の水は川を通って海へ届きます。森が荒れて土砂が流れ込めば沿岸の環境にも影響し、逆に健全な森は栄養分を適度に海へ運びます。水源の保全は、遠い山の話にとどまらず、海の豊かさにも関わるテーマです。
水源の森活動:1999年の横浜工場から全国11か所へ
キリンの水源地保全の中心にあるのが「水源の森活動」です。2024年版の環境報告書によると、この活動は1999年に、業界に先駆けてキリンビール横浜工場の水源地である神奈川県丹沢地区の森から始まり、現在も日本全国11か所で取り組まれています。水源地の森林を管理する自治体や関係先との中長期の協定を土台に、植樹、下草刈り、枝打ち、間伐などを進めています。
神奈川県の事例:協定の更新が続く
神奈川県の公開ページによると、キリンホールディングスは「キリン神奈川水源の森」で、森林再生パートナーとして2024年2月1日から2029年1月31日までの協定期間で活動しています。県のページには、前身の「水源林パートナー制度」の時代から数えて1999年1月12日から支援していることも記されています。つまり四半世紀以上、同じ水源地に関わり続けている計算になります。
滋賀県の事例:琵琶湖水源の森
滋賀県の公開ページには、キリンの「琵琶湖水源の森」の協定対象地面積として596.09haが掲載されています(協定相手は大滝山林組合。協定は期間を区切って延長されていく形です)。琵琶湖は近畿の水がめと呼ばれる水源であり、工場(キリンビール滋賀工場)の水源地を守る活動と位置づけられています。
| 名称(報告書の図に記載) | 関連する工場・拠点 |
|---|---|
| キリン千歳水源の森 | 北海道千歳工場 |
| キリン北蔵王水源の森 | 仙台工場 |
| 協和キリン高崎水源の森 | 高崎工場 |
| キリン神奈川水源の森 | 横浜工場(活動の発祥地) |
| 琵琶湖水源の森 | 滋賀工場 |
| 千苅貯水池の水源涵養 | 神戸工場 |
| キリン岡山水源の森 | 岡山工場 |
読み取りのポイント
- 活動の単位は「工場の水源地ごと」で、森林所有者・自治体との協定が前提
- 面積や成果は拠点ごとに公開形式が異なる(数値を横並びで比較しにくい)
- 一部の場所では、希望する顧客が活動に参加できると報告書に書かれている
お客様参加という広がり
報告書によれば、一部の水源の森では、希望するお客様にも森づくりに参加してもらっています。企業が一方的に管理するのではなく、飲料を飲む人が森と水の関係を体験する機会にもなる点は、環境教育の観点でも意味があります。ただし参加者数などの定量的な成果は、今回確認した資料には載っていませんでした。
工場の節水:洗浄水のカスケード利用とオーストラリアの水リサイクル
水源を守るだけでなく、工場でつかう水そのものを減らす取り組みも並行して語られています。環境報告書によれば、工場で使う水の多くは設備や配管の洗浄・殺菌工程で使われます。そこで、洗浄に使った水を水質に応じた用途で繰り返し使うカスケード利用が行われています。
カスケード利用の仕組み
たとえば、洗浄工程の最後に使う「すすぎ水」は比較的きれいなので、次回は最初に配管を洗う予洗に回せます。きれいな順に水を滑らせるように使い回すため、新しく取り込む水(新水)を減らせます。ただし、確実に洗浄できていることを品質面で保証する必要があり、回収できる水の量と使う量のバランスやタイミングを合わせる運用ノウハウが欠かせないと報告書は説明しています。
- 洗浄の最後に使った比較的きれいな「すすぎ水」を回収する
- 回収した水を、次の洗浄の最初(予洗)に再利用する
- 汚れの強い工程ほど、使い回した水を中心に使う
- 品質確認の仕組みを整え、確実に洗浄できていることを保証する
水ストレスの高い地域:ライオン社(オーストラリア)
キリングループは、オーストラリアの酒類・飲料会社ライオンも傘下に持ちます。同国は過去に大きな渇水を何度も経験しており、水ストレス(水不足の度合い)が高い地域です。報告書によれば、ライオンは2009年にクイーンズランド州政府と提携して、排水を回収して再利用するための逆浸透(RO)プラントをCastlemaine Perkins Breweryに設置しました。処理した水は、洗浄・冷却・低温殺菌など、製品に直接触れない工程で使われます。
さらに2025年12月11日付のリリースでは、Tooheys工場に2024年に水リサイクルプラント(逆浸透処理)を導入したと説明されています。水ストレスの高いオーストラリアでの導入は、Castlemaine Perkins工場に続く2工場目です。
| 項目 | 内容(環境報告書2024・CDPリリースより) |
|---|---|
| 対象事業所(目標) | Tooheys、Castlemaine Perkins、James Boag など(目標ごとに範囲が異なる) |
| 用水使用量原単位の目標 | 2025年に2.4kl/kl以下(非財務目標) |
| 2024年の目標 | 3.0kl/kl以下(非財務目標) |
| 水リサイクル設備 | Castlemaine Perkins(2009年)、Tooheys(2024年) |

用水原単位とは
- 「1つの製品をつくるのに使う水の量」を示す指標
- 生産量が増えても、使う水が比例して増えないかを見るのに役立つ
- 一方、工場の水使用の総量や、取水する流域への影響までは、この指標だけでは分からない
報告書は今後の方向性として、単に節水するだけでなく流域全体の自然資本に及ぼす影響を把握し、その影響を減らす目標設定を目指すとしています。節水の次の段階として、地域の水環境とどう関わるかが課題になっている、と読み取れます。
サプライチェーンの水:スリランカの紅茶農園で水源地を守る
水の課題は自社工場の中だけでは完結しません。キリンビバレッジの「午後の紅茶」の茶葉の主要な産地の一つがスリランカです。キリングループは2013年からスリランカの紅茶農園でレインフォレスト・アライアンス認証の取得を支援しており、2023年末までに累計94農園が認証を取得し、同国の認証取得済み大農園の約30%に相当すると、環境報告書は説明しています。
マイクロ・ウォーターシェッドを守る
水源地保全の活動は2018年に始まりました。スリランカ中央高地の紅茶農園には、雨水が地中にしみ込み、農園の一角で泉として湧き出る場所があります。報告書はこれをマイクロ・ウォーターシェッドと呼んでいます。面積はわずかでも、多くは沿岸の都市へ流れる川の源流になる貴重な水源地です。
- 動物の侵入や他目的の使用を防ぐため、水源地を柵で囲む
- 今後は周囲に在来種を植林し、単一栽培の農園に植生の多様性を与える
- 豪雨で斜面から流れ出る土砂が水源地へ入るのを防ぐ
住民への教育:1,750人の研修と15,000人への啓発
2023年末の時点で、水源地の保全は累計22か所で完了しています。あわせて、水源地の近くに住む1,750人に集合形式の研修を行い、さらに約15,000人に水の保全と流域保護に関するパンフレットを配布しました。パンフレットの提供は、一部の農園では収穫作業従事者の保育所や小学校のプログラムに組み込む工夫もされています。

この活動の背景として、CDPリリースは、サプライチェーンを分析した中で特にWASH(水・トイレ・衛生設備へのアクセス)の課題が大きい地域として、「午後の紅茶」の主要産地であるスリランカを挙げています。調達先の水問題にも関与する、という考え方です。
留意点
- 保全の完了数(22か所)は農園内の水源地であり、スリランカの水問題全体の規模からみればごく一部
- 活動の成果(水質・水量の改善)を定量的に示した数値は、確認した資料には含まれていない
- 企業の取り組みは、現地の政府機関(PHDTなど)や認証団体との協力で成り立っている
容器の環境対応:再生PET・軽量化・ラベルレスの歩み
出口側にあたる容器の取り組みを、公式リリースで確認できる年表に沿って見ていきます。キリングループは2019年2月に「キリングループ プラスチックポリシー」を策定し、「日本国内におけるリサイクル樹脂の割合を2027年までに50%に高める」ことを目指しています。2020年2月には「キリングループ環境ビジョン2050」を策定し、「容器包装を持続可能に循環している社会」を目指すと宣言しました。
| 時期 | 内容 | 出典 |
|---|---|---|
| 2014年2月 | 「午後の紅茶 おいしい無糖」に再生PET100%の「R100ペットボトル」を導入(報道・企業発表による) | キリン発表 |
| 2019年2月 | プラスチックポリシー策定(2027年までに国内PET樹脂の50%をリサイクル樹脂に) | 2020年12月リリース |
| 2019年6月 | 「生茶デカフェ」にR100ペットボトルを採用 | 2020年12月リリース |
| 2020年2月 | 環境ビジョン2050策定 | 2020年12月リリース |
| 2020年12月 | 2L・1.5Lの大型ボトルを約16%軽量化(38.2g→32.2g) | 2020年12月リリース |
| 2021年〜 | 「生茶」シリーズなどでR100の使用拡大、ラベルレス商品の発売 | 2024年1月リリース |
| 2024年 | 「生茶」小型ボトルの一部を20gから18gへ軽量化(6月以降の予定と発表) | 2024年1月リリース |
軽量化:2020年12月の大型ボトル
2020年12月、キリンビバレッジは「午後の紅茶」「生茶」などの2Lと1.5Lの大型ペットボトルについて、プリフォーム(ボトルの元になる試験管状の成形品)の金型を改良し、38.2gから32.2gへ約16%軽量化すると発表しました。会社の試算では、年間約439トンのPET樹脂と、年間約1,515トンのCO₂排出量を削減できるとされています(製造計画に基づく同社試算)。
R100ペットボトルとラベルレス
R100ペットボトルは、再生PET樹脂を100%使ったボトルです。2024年1月の「生茶」リニューアルのリリースでは、2021年から「生茶」ブランドを環境配慮型のCSVフラッグシップブランドと位置づけ、一部容器でのR100ペットボトル、ロールラベルの導入、ラベルレス商品の発売を進めてきたと説明されています。ラベルレス商品は量販店限定の6本パックやケース販売などに限られており、全商品に広がっているわけではありません。
同様の取り組みは他社にも広がっています。たとえばアサヒのラベルレスボトル、コカ・コーラの100%リサイクルPETボトル、サントリー天然水のボトルtoボトルと比べると、各社が「再生素材の使用」「軽量化」「ラベル削減」をそれぞれ組み合わせているのが分かります。

ボトルtoボトルとは
使用済みペットボトルを回収し、再びペットボトルに戻す水平リサイクルをボトルtoボトルと呼びます。繊維やトレーなど別の製品へ変えるよりも、同じ用途で資源が循環し続ける点が特徴です。国内の回収・再資源化の仕組みについては、ボトルtoボトル水平リサイクルとはで詳しく解説しています。
キリンの公開情報では、湘南工場(神奈川県寒川町)で使用済みボトル由来の樹脂を100%使ったボトルの原型を製造する方針や、東京建物と協同した2023年10月からの中野セントラルパークでの回収の取り組みなどが報じられています。また、非食品用途のPETを原料とするケミカルリサイクルへの取り組みも報じられています。これらは報道ベースの情報を含むため、最新の状況は公式発表で確認してください。
外部評価をどう読むか:CDP「水セキュリティ」Aリスト10年連続
2025年12月11日、キリンホールディングスは国際的な非営利団体CDPの2025年度「水セキュリティ」で最高評価のAリストに選ばれたと発表しました。同社のAリスト獲得は10回目(10年連続)です。CDPは、投資家や購買企業の要請を受け、企業や自治体に環境情報の開示を求め、その対策を促している組織です。
評価された点(会社の説明)
- サプライチェーンと自社拠点の水リスクを評価し、水ストレスの高い地域を重視して目標・戦略を立てている
- 水ストレスの高いオーストラリアのライオン社で、野心的な用水原単位目標を設定している
- Tooheys工場に2024年に水リサイクルプラント(逆浸透処理)を導入した
- 特にWASH課題が大きいスリランカの紅茶農園で、水源地保全活動を拡大した
評価を読むときの注意
CDPのスコアは、企業の情報開示とマネジメントの水準を評価するものです。水の使用量が少ない、あるいは環境負荷がゼロであることを保証する認証ではありません。また、選定理由は会社自身が「評価されたものと考えている」と説明している点にも注意が必要です。Aリストの有無だけで企業を判断せず、具体的な数値や継続性、第三者による検証を併せて見ることが大切です。
まとめて見ると
- 入口:水源の森(11か所)、スリランカ(22か所)で水源地の保全を進めている
- 工場:洗浄水のカスケード利用、オーストラリアでの水リサイクル
- 出口:軽量化(約16%)、R100ペットボトル、ラベルレスなどの容器対応
- 評価:CDP水セキュリティAリストを10年連続で獲得(開示評価である点に注意)
残る課題と今後の論点:数字の読み方と海への影響
ここまで見てきた取り組みは、いずれも公式資料に基づく事実ですが、「だからキリンの環境対応は十分だ」と結論づけられるわけではありません。ここでは、資料を読むうえで押さえておきたい論点を整理します。取り組みを評価することと、課題を見つけることは両立します。
論点1:水源の森の「成果」はどう測るのか
水源の森活動は、植樹や間伐といった実施した作業は説明されていますが、その結果として地下水がどれだけ増えたか、水質がどう変わったかといった成果の数値は、確認できた資料には載っていません。森林の水源涵養機能は、土壌・地質・気候など多くの要素に左右されるため、一社の活動と水量の変化を直接結びつけるのは簡単ではありません。この点は企業側の問題というより、環境評価の難しさそのものです。
- 実施面積や本数などの「投入量」は比較的公開しやすい
- 地下水位・流量・生物多様性といった「成果」は、長期の継続観測が必要
- 第三者による検証や、流域ごとのデータ公開が進むと、読者も判断しやすくなる
論点2:用水原単位は「節水の質」を語り尽くさない
ライオンの用水原単位目標は、製品1klあたりの水使用量を下げる指標です。生産が増えても効率が保たれているかを見るには有効ですが、工場全体の取水量の総量や、その地域の水需給への影響までは示しません。報告書自身も、今後は流域全体の自然資本への影響を把握する方向を示しており、指標が次の段階へ移ろうとしている途上にあると読めます。
論点3:再生PETの比率と、ボトルtoボトルの現実
プラスチックポリシーが掲げる「2027年までに国内PET樹脂の50%をリサイクル樹脂に」という目標は、リサイクル樹脂の割合の話です。そのうち何割がボトルtoボトル(水平リサイクル)によるものか、ケミカルリサイクルをどう位置づけるかは、年ごとの実績や各社の定義によって異なります。国内で使える食品用の再生PET原料の供給量にも限りがあるため、各社の目標は、供給量や回収率の伸びとあわせて見る必要があります。
| 論点 | 公式資料で分かること | 分かりにくいこと |
|---|---|---|
| 水源の森 | 活動内容、協定期間、拠点数(11か所) | 地下水量・水質などの成果の数値 |
| 工場の節水 | カスケード利用、用水原単位の目標値 | 総取水量、流域への影響 |
| スリランカ | 保全22か所、研修1,750人、啓発約15,000人 | 水質・水量の改善効果 |
| 容器 | 軽量化率、R100の採用商品、2027年の目標 | 全商品に占める再生PETの最新比率 |
論点4:海洋プラスチックとの関係
ペットボトルは、適切に回収されれば資源として循環しますが、回収の外へこぼれたものは、川を通って海へ流れ出す可能性があります。川から海へ流れ出るプラスチックごみの実態は、川から海へ流れ出すプラスチックごみの記事で整理しています。容器メーカー・飲料メーカーの軽量化や再生材の使用は、新たに石油由来の樹脂をつくる量を減らす意味で有効ですが、使い捨てごみそのものを減らすこと、そして回収の外に出さないことは、別の課題として残ります。
断定を避けるべきポイント
- 「軽量化したから海がきれいになる」とは言えない(発生抑制の一助にとどまる)
- 「再生PETだから環境負荷が小さい」と単純化できない(回収・洗浄・再生の工程にもエネルギーを使う)
- 「Aリストだから問題がない」とも言えない(開示評価であり、成果の保証ではない)
論点5:サプライチェーン全体で見るという視点
飲料の環境負荷は、工場の中だけでなく、原料の栽培(茶葉・大麦・ホップなど)、輸送、容器の製造、回収・再資源化まで広がります。キリンがスリランカの水源地や、紅茶農園の認証取得支援に取り組んでいるのは、こうしたバリューチェーン全体を見る発想に基づくものです。一方で、調達先の数が多いほど、個々の現場での効果検証は難しくなります。企業の取り組みを読む側も、「どの段階の話か」を意識すると、情報を整理しやすくなります。
私たちにできること:水と容器を意識した選び方
企業の取り組みを知ることは、消費者が選ぶときの手がかりになります。ただし、どの商品が「環境に良い」かは、使い方や地域の回収体制によって変わります。以下は、一般的に意味のある行動を、事実に基づいて整理したものです。
ペットボトルを選ぶとき・捨てるとき
- ラベルとキャップを外し、中をすすいで、自治体のルールどおりに出す(リサイクルの品質を保つ最初の一歩)
- ラベルレスや再生PET使用のパッケージを見かけたら、表示の内容を確認する
- 繰り返し使えるマイボトルで、使い捨ての総量そのものを減らす選択肢も持つ
- 再生PETの比率や回収の仕組みは企業ごとに違うため、最新の報告書で数値を確かめる
水源の森に関わる
水源の森活動の一部は、希望者が森づくりに参加できる場合があります。自治体の森林ボランティアや、企業・NPOの体験プログラムに参加すると、水がどこから来るのかを実感しやすくなります。身近な川や湧水を調べるだけでも、水のつながりが見えてきます。関連して、当サイトの海底湧水と地下水保全の記事も参考になります。

企業の取り組みを見るときの視点
- 目標は「いつまでに・何を・どれだけ」か(例:2027年までにリサイクル樹脂を50%)
- 実績は公開されているか、年ごとに追えるか
- 自社だけでなく、原料の産地や流域への視点があるか
- 外部の評価は、開示の質か、実際の環境負荷の削減か
水も容器も、一社の努力だけでは循環しません。森を管理する自治体や地域、回収する自治体や事業者、そして消費者の行動が重なって初めて、水と資源の循環が成り立ちます。
参考文献・出典
- キリンホールディングス|CDP水セキュリティAリスト獲得(2025年12月11日) – 10年連続Aリスト、Tooheys工場の水リサイクル、スリランカ水源地保全
- キリングループ 環境報告書2024(水資源) – 水源の森11か所、スリランカ22か所、ライオンの用水原単位
- キリングループ 環境報告書2024(生物資源) – スリランカ紅茶農園の認証取得支援
- キリングループ 環境報告書2022(容器包装) – プラスチックポリシー、R100ペットボトル
- キリンビバレッジ|大型ペットボトルを約16%軽量化(2020年12月2日) – 38.2g→32.2g、年約439トンの樹脂削減
- キリンビバレッジ|「生茶」大刷新(2024年1月25日) – R100ペットボトル、ラベルレス、20g→18g軽量化
- 神奈川県|キリンホールディングス(水源林パートナー) – 協定期間2024年2月1日〜2029年1月31日
- 滋賀県|森林づくり・水源の森関連ページ – 琵琶湖水源の森の協定対象地面積
- 国土交通省|水循環に関する資料 – 日本の年降水量・一人当たり水資源賦存量
- CDP – 環境情報開示を促す国際非営利団体
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア