⚡ 30秒でわかる答え
- 衣類リサイクルが進まないのは混紡素材・分別コスト・回収の仕組みが整っていないためで、再び衣類へ戻る割合は日本の統計上ごくわずか。
- 環境省の推計では、国内供給約82万トンのうち約50万トンが手放され焼却等で処理されている。
- 洗濯による合成繊維の繊維くずは、海へ流れる一次マイクロプラスチックの有力な発生源(IUCN推計で約35%)。
- 長く着る・洗い方を工夫する・リユースを優先することが、廃棄と海への流出の両方を減らす。
毎年大量に手放される衣類は、どこへ行くのでしょうか。環境省の最新推計では、国内供給の約6割にあたる約50万トンが焼却等で処理されています。
しかも衣類の問題は「捨てる」場面だけではありません。合成繊維の服を洗うたびに出る目に見えない繊維くずが、下水や川を経て海へ届く可能性が指摘されています。
この記事では、衣類リサイクルの現状と課題、再生技術、マイクロファイバー対策までを、公的データをもとに整理します。
この記事で学べること
- 日本で手放される衣類の量と、その行き先
- ファストファッションが環境に与える負荷
- 衣類リサイクルが難しい理由(混紡素材・コスト)
- 繊維to繊維など再生技術の最前線
- 洗濯で出るマイクロファイバーが海へ届く経路と家庭での対策
- EUと日本の制度の動き
毎年どれだけの衣類が手放されているのか
クローゼットの奥で着なくなった服、流行が過ぎたシャツ、数回しか袖を通していないワンピース。多くの人にとって、衣類を手放すことは日常の小さな出来事です。しかし日本全体で積み上げると、その量は私たちの想像をはるかに超えます。環境省が公表した「2025年版 衣類のマテリアルフロー」(令和8年3月)によれば、国内に新たに供給された衣類は年間約82万トン。そのうち約6割にあたる約50万トンが、事業所や家庭から手放されたのち、焼却などで処理されていると推計されています。
50万トンを人口で割ると、一人あたり年間4キログラム前後になる計算です。ここで注意したいのは、「手放された」ことと「ごみになった」ことが同じではない点です。古着として次の持ち主に渡るもの、ウエス(工業用雑巾)や反毛(繊維に戻して再利用する素材)として別の用途に回るものも含まれます。それでも、国内で再び衣類として着られる量は限られており、大半は燃やされるか埋め立てられるのが現状です。
衣類の「見えない量」にも目を向ける必要があります。フロー図では、販売業者や家庭、事業者の手元に「在庫」や「退蔵」(タンスに眠ったままの状態)として一定期間とどまる衣類が存在します。環境省の資料も、これらの主体に投入された衣類は一定時間ストックされた後に排出されるため、推計年のインプットとアウトプットは一致しないと注記しています。つまり、今年の廃棄量には過去に買われた服が含まれ、今年の購入量が将来の廃棄量になります。
事業者側の動きも見逃せません。売れ残りや季節外れの商品が在庫処分として廃棄されるケースは、消費者の目に触れにくいぶん課題が可視化されにくい領域です。環境省のフローでも、事業所から排出される在庫処分の流れは小さな数字で示されていますが、量の把握そのものが難しい分野だとされています。
日本の衣類の「流れ」を数字で追う
同じ資料のフロー図を読み解くと、手放された衣類の行き先が見えてきます。目安として、焼却・埋立・サーマルリカバリー(熱回収)に回る量が約45万トン、ウエス化・反毛化などのマテリアルリサイクルが約6万トン、国内でのリユースが約1万トン、中古衣料として海外へ輸出される量が約10万トンです。一方、繊維を化学的に分解して再び糸にするケミカルリサイクルは、全国規模の統計上ほぼゼロと整理されています(四捨五入のため合計は一致しません)。
| 行き先 | 量の目安(2025年版フロー) | 主な中身 |
|---|---|---|
| 焼却・埋立・熱回収 | 約45万トン | 可燃ごみ・事業系廃棄物など |
| マテリアルリサイクル | 約6万トン | ウエス化・反毛化(繊維を別の製品へ) |
| 国内リユース | 約1万トン | 古着店・フリマ・譲渡など |
| 海外へ中古衣料として輸出 | 約10万トン | 選別後に海外市場で販売 |
| ケミカルリサイクル | ほぼ0 | 化学的に分解して繊維へ戻す技術 |

政府が掲げる削減目標
国も手をこまねいているわけではありません。2024年8月に閣議決定された第5次循環型社会形成推進基本計画では、家庭から手放される衣類のうち廃棄されるものを、2030年度までに2020年度比で25%削減する目標が示されました。ただし、公表資料では目標に対する進捗は現時点で小さいと報告されており、消費者・事業者・自治体が同時に動かなければ達成は難しい状況です。
では、なぜ「手放された衣類」の量は簡単に減らないのでしょうか。最大の理由は、衣類が「消耗品」ではなく「流行品」として消費される側面が強いことです。傷んで着られなくなるより前に、気分や流行の変化で手放されることが多く、状態のよい衣類が大量に流通から外れていきます。こうした服こそ、本来はリユースの対象として次の人へ渡る価値があります。
また、海外へ輸出される中古衣料の存在も、全体像を理解するうえで欠かせません。国内で売れない古着が海外市場で流通する一方、受け入れ側の国では、質の低い古着が大量に流入することで廃棄の負担が生じているという指摘もあります。国内の「リサイクル」「リユース」が、地球規模で見ればごみの場所を移しただけにならないよう、国際的な視点も必要です。
この節のポイント
- 国内の衣類供給は年間約82万トン、手放された約50万トンの大半が焼却・埋立
- 再び衣類に戻るケミカルリサイクルは統計上ほぼゼロ
- 2030年度に2020年度比25%削減という国の目標がある
ファストファッションが生む環境負荷
衣類の廃棄が増えた背景には、ファストファッションと呼ばれるビジネスモデルの普及があります。最新トレンドを取り入れた服を低価格で素早く大量に供給する仕組みで、消費者にとっては手頃にファッションを楽しめる利点があります。一方で「安いから短期間で手放す」行動を後押しし、生産量と廃棄量の双方を押し上げてきました。
温室効果ガスと水の問題
国連環境計画(UNEP)は、ファッション産業が世界の温室効果ガス排出量の2〜8%を占めると紹介しています(推計の幅が大きいのは、算定範囲や手法によって数字が変わるためです)。綿花の栽培には大量の水と農薬が使われ、染色や仕上げの工程では排水が問題になります。ポリエステルなど合成繊維は石油を原料とするため、製造時のエネルギー消費に加え、使用後も自然に分解されにくい特徴があります。
環境負荷の話では、国や地域によって数値が異なる点にも注意が必要です。UNEPが紹介する2〜8%という幅は、算定の範囲(原料の栽培から廃棄までを含めるか)や、各国の電力の排出係数、使用した統計の年によって変わります。数字を引用する際は、「推計」であることと、出典の年を併せて確認する姿勢が大切です。
「1秒にごみ収集車1台分」という警告
エレン・マッカーサー財団が2017年に公表した報告書『A New Textiles Economy』は、世界でごみ収集車1台分の繊維製品が1秒ごとに埋立・焼却されていること、そして使用済み衣類が新しい衣類へとリサイクルされる割合は1%未満であることを指摘し、大きな反響を呼びました。同報告書は、衣類の素材価値が年間数千億ドル規模で失われているとも推計しています。数字は公表から年数が経っているため最新の状況とは異なりますが、問題の構造を示す資料として今も広く引用されています。
| 視点 | 問題の中身 | 背景 |
|---|---|---|
| 生産 | 水・エネルギー・農薬の大量使用 | 綿花栽培、染色・加工工程 |
| 流通 | 需要予測を超える過剰生産と在庫処分 | 短サイクルの商品投入 |
| 消費 | 着用回数が少ないまま手放される | 低価格・流行の変化 |
| 廃棄 | 大半が焼却・埋立、再び衣類になるのはごくわずか | 複合素材・分別の難しさ |
ここで押さえておきたいのは、ファストファッションそのものを一律に否定する必要はないという点です。価格が手頃であることは、さまざまな人がおしゃれを楽しめる機会を広げてきました。問題の本質は「買うこと」より、「短期間で手放し、その後の出口が乏しいこと」にあります。企業側も、長く着られる品質、修理サービス、回収と再生の仕組みを備えることで、モデルを変えていく動きを見せています。
日本の消費者に目を向けると、買った服を着ていない「未着用」「着用回数が少ない」状態の衣類が家庭に多く眠っていることが、各種の調査で指摘されています。購入の段階では「安いから」「セールだから」という理由で手が伸びても、着る機会が少なければ、結果として一着あたりの環境負荷は高くなります。長く着ることが、もっとも手軽で効果の大きい環境対策といえる理由です。
消費者としては、購入時の小さな問いかけが効果を発揮します。「同じような服を持っていないか」「3か月後も着たいか」「手放すとき、誰かに譲れる状態を保てるか」。この3つを意識するだけで、衣類の寿命は大きく変わります。
- 着用回数を増やすだけで1着あたりの環境負荷は下がる
- 「安さ」と「長く使えるか」はセットで考える価値がある
- 廃棄の問題は消費者だけでなく、設計・生産・流通の問題でもある
なぜ衣類のリサイクルは難しいのか
ペットボトルは「ボトルからボトルへ」の循環が実用化されている一方で、衣類は同じようにいきません。主な理由は素材の複雑さにあります。
混紡素材という最大の壁
多くの衣類は、綿とポリエステルを混ぜた混紡素材です。肌触りやシワへの強さ、価格の面で優れる反面、再資源化の段階では二つの繊維をきれいに分離する技術が必要になります。さらに、ボタンやファスナー、プリント、縫い糸、裏地といった部品も素材がばらばらです。回収した服を手作業で取り外し、素材ごとに選別する工程には時間とコストがかかります。
日本の回収現場では、このほかにもさまざまな事情があります。たとえば、自治体の資源回収では「雨に濡れた衣類は回収不可」「汚れがひどいものは可燃ごみ」といったルールが一般的です。これは、汚れや湿気が混じると、ほかの衣類まで品質が落ちて再利用できなくなるためです。ルールを守って出すことが、回収された衣類の価値を保つ最初の一歩になります。
加えて、再生した素材の「出口」づくりも課題です。反毛を使った製品やリサイクル糸の需要が安定しなければ、回収から再生までの事業は成り立ちません。回収・再生・製品化・販売を一体で設計する「サプライチェーン全体の連携」が、これからの鍵とされています。
品質の劣化とコスト
機械的に繊維へ戻す反毛(はんもう)は、布を細かくほぐして綿状に戻す方法ですが、繊維が短くなるため、再び高品質な衣類の糸に戻すのは容易ではありません。結果として、ウエスや断熱材、自動車の内装材など、別の用途へ向かう「カスケード利用」が中心になります。バージン素材(新品の原料)のほうが安い局面では、リサイクル材の採算が合いにくいという経済的な課題もあります。

回収の仕組みも整っていない
そもそも、回収の段階で「古着」「リサイクル原料」「ごみ」が混在してしまうことも課題です。汚れや濡れ、カビのある衣類は再利用に向きません。自治体の資源回収や店頭回収が広がりつつありますが、回収後の受け皿となる再生工場の処理能力が十分でなければ、集めた服が行き場を失います。
よくある誤解
- 「回収ボックスに入れた服はすべて新しい服に生まれ変わる」とは限りません
- 多くは古着として輸出されたり、ウエスや固形燃料などの用途に回ったりします
繊維から繊維へ:再生技術の最前線
課題が多い衣類リサイクルですが、技術面では前進も見られます。キーワードは「繊維to繊維(Fiber to Fiber)」、つまり使い終わった衣類から再び衣類用の繊維を作る循環です。
ケミカルリサイクル
ポリエステルを化学的に分解し、原料の段階まで戻してから、新品と同等の品質の糸を作る技術が実用化に向けて進んでいます。日本では、帝人やJEPLANなどが回収・再生の取り組みを進めてきました。JEPLANの「BRING」は、回収した衣類のポリエステルを再生する仕組みで、当サイトのJEPLAN「BRING」とは|古着が糸に戻る仕組みでも詳しく紹介しています。
ケミカルリサイクルには、素材の品質を保ちやすいという大きな利点があります。ポリエステルは、化学反応で分子の単位まで分解し、不純物を取り除いたうえで再び重合させれば、バージン素材に近い品質を実現できるとされています。一方、綿などの天然繊維は、セルロースを溶かして再生繊維にする研究開発が進められている段階で、実用規模への拡大には時間がかかる見通しです。
海との関係でも、このリサイクルは重要です。繊維の再資源化が進めば、焼却や埋立が減るだけでなく、ごみとして屋外に流出する可能性のある衣類も減ります。また、漁網など海洋由来の廃材を衣類の素材に生まれ変わらせる取り組みも広がっています。詳しくは使用済み漁網リサイクル完全ガイドをご覧ください。
素材設計から変える
リサイクルしやすい服をつくる「設計段階の工夫」も重要です。単一素材(モノマテリアル)で作る、分解しやすい縫製にする、ファスナーなどの付属品を減らすといった考え方で、後工程の手間を大きく減らせます。再生ポリエステルを使った衣類は無印良品の再生ポリエステルとは?循環の仕組みのように身近な店頭でも見られるようになりました。
| 方法 | 仕組み | 向いている用途 | 課題 |
|---|---|---|---|
| マテリアル(反毛・ウエス) | 布を機械的にほぐして綿状・布片に | 断熱材、吸音材、工業用ウエス | 繊維が短く、高品質な衣類には戻りにくい |
| ケミカル | 繊維を分子レベルまで分解して再重合 | 新品同等の糸・衣類 | 設備投資・分別精度・エネルギー |
| サーマルリカバリー | 燃焼熱をエネルギー利用 | 他に手段がない場合 | 素材としては失われる |
補足
- 再生ポリエステルの原料にはペットボトル由来のものも多く、「衣類から衣類へ」の循環と区別して理解することが大切です
- ペットボトル由来は便利な再資源化ですが、衣類側の循環を完成させる技術とは別のものです
洗濯で海へ流れる繊維:マイクロファイバー問題
ここまでは「捨てる」場面の話でしたが、衣類の環境問題は「着て洗う」段階でも起きています。ポリエステルやナイロン、アクリルなどの合成繊維の衣類は、洗濯のたびに目に見えないほど細かい繊維くず(マイクロファイバー)を排水に流します。
海へ届く「一次マイクロプラスチック」
国際自然保護連合(IUCN)が2017年に公表した報告書(ブーシェとフリオ)は、海に流れ出る一次マイクロプラスチック(最初から微小な状態で環境に出るもの)のうち、合成繊維製品の洗濯が約35%と最大の発生源になりうると推計しました。注意したいのは、この35%は「海にあるマイクロプラスチック全体」ではなく、「一次マイクロプラスチックの発生源の内訳」だという点です。他の推計では、欧州における寄与はこれより小さいとされるなど、数字には幅があります。
繊維くずの出方は、衣類の種類によって大きく異なると報告されています。一般に、毛羽立ちやすいフリースや、使い込んで生地が傷んだ衣類、古い洗濯機の強い水流で洗う場合に出やすいとされ、新品の初期の洗濯でも多めに出るという研究報告があります。ただし、測定方法や洗濯条件がそろっていないため、研究ごとの数値を単純に比較することはできません。
もう一つの視点は、大気や雪、深海など、思いもよらない場所からも微細な繊維が見つかっていることです。マイクロプラスチックのなかでも、繊維状のものは検出例が多いと報告されています。繊維状の粒子は、環境中でどのように移動するのか、どの程度生物に影響するのかが、現在も世界中で研究されています。深海の汚染については深海ゴミ問題の実態も参考になります。
下水処理場を通り抜けるもの
下水処理場では多くの繊維くずが汚泥として取り除かれますが、一部は処理水とともに川や海へ出ていきます。除去された汚泥が農地利用されれば、土壌にも繊維が移ります。こうした経路は、川から海へ流れ出すプラスチックごみの問題ともつながっています。洗濯の仕組みや家庭でできる工夫は洗濯で流れ出るマイクロファイバーとはで詳しく解説しています。


私たちの暮らしでは、化学繊維の衣類が洗濯機に入らない日はほとんどありません。だからこそ、数字の大小に一喜一憂するよりも、「出さない工夫」と「出たものを捕まえる工夫」の両面から取り組むのが現実的です。個人の行動に加え、下水処理の高度化、洗濯機・フィルターの技術開発、繊維自体が抜けにくい設計の開発など、多方面のアプローチが必要とされています。
海の生き物への影響
- プランクトンや貝類など小さな生物が微細な繊維を取り込むことが実験で確認されています
- 生態系や人体への長期的な影響は研究が続いており、評価が定まっていない部分があります
家庭でできるマイクロファイバー対策
洗濯由来の繊維くずを完全にゼロにするのは難しいものの、家庭の工夫で放出量を減らせることが、複数の研究で示されています。研究によって数値は異なりますが、方向性は共通しています。
- 洗濯ネットに入れる:摩擦を減らし、繊維の脱落を抑えやすい
- 洗濯の頻度を見直す:汚れが少ない服を毎回洗わない
- 洗濯物を詰め込みすぎない・適量で洗う:衣類同士のこすれを減らす
- 低めの水温・短めのコースを選ぶ:繊維へのダメージが小さくなる
- フリースなど毛羽立ちやすい素材は特に丁寧に扱う
- 市販の専用フィルターや洗濯袋を活用する:捕集効果を謳う製品があるが、性能は製品により異なる
洗濯ネットについては、目の細かいものが繊維の脱落を抑えやすいとされますが、ネット自体が合成繊維製であれば、それも繊維くずを出す可能性があります。「何を使うか」よりも、「洗う頻度と量を減らす」という根本的な考え方のほうが、効果が確実で、コストもかかりません。
洗濯で捕集した繊維くずを家庭でどう処分するかにも、少し気を配りたいところです。フィルターや洗濯袋に溜まったくずを排水口に流してしまっては、せっかく集めた意味が失われます。可燃ごみとして処理するのが基本です。また、洗濯機メーカーや自治体、学術機関のなかには、洗濯機に標準でフィルターを組み込む方向を検討する動きもあり、家庭任せではなく、機器や制度の側から流出を減らす議論が始まっています。
買い方を変える
素材選びも対策のひとつです。天然繊維(綿・麻・ウール)が一概に優れているとは言えませんが、合成繊維の衣類を「長く大切に着る」ことは、廃棄量と繊維の放出量の両方を減らします。購入前に「何回着るか」「手入れの方法は」と自問する習慣が効果的です。
今日からできる3つ
- 洗濯ネットを使い、洗う頻度を見直す
- 着なくなった服は捨てる前に、リユース・回収の選択肢を調べる
- 新しい服は「10回以上着るか」を基準に選ぶ
素材別に見る:綿・ポリエステル・ウール・ナイロン
衣類の環境負荷や再生のしやすさは、素材によって大きく異なります。ここでは代表的な4つの繊維について、特徴と課題を整理します。「天然だから環境にやさしい」「合成だから悪い」と単純に決めつけず、それぞれの長所と短所を知ることが、賢い選択につながります。
綿(コットン)
綿は肌触りがよく吸湿性に優れ、世界中で広く使われる天然繊維です。一方、栽培には多くの水と、地域によっては農薬が使われます。使用後は生分解されるため、海に流れても合成繊維のように長く残らない可能性がありますが、染料や仕上げ剤が付いていれば話は別です。リサイクルでは反毛としてウエスや断熱材に回ることが多く、繊維が短くなるため、再び高品質な糸に戻すのは難しいとされています。
ポリエステル
ポリエステルは石油由来の合成繊維で、丈夫でシワになりにくく、乾きも早いため、衣類全般に広く使われます。世界の繊維生産でも最大級のシェアを占めるとされ、環境問題を語るうえで避けて通れない素材です。ケミカルリサイクルとの相性がよいため、「繊維to繊維」の主役候補ですが、混紡品や染料の影響をどう克服するかが課題です。洗濯時の繊維くずは、合成繊維全般の問題です。
ウール(羊毛)
ウールは保温性に優れ、長持ちする素材で、手入れ次第で何年も着られます。使い終わった毛織物は、昔から反毛の原料として再利用されてきた歴史があり、マテリアルリサイクルとの親和性が高い素材です。ただし、牧羊に伴う土地利用や温室効果ガス(メタン)の問題も議論されており、「長く着る」ことが前提になります。
ナイロン
ナイロンは強度としなやかさに優れ、スポーツウェアやストッキング、アウトドア用品に使われます。海洋との関わりが深い素材で、廃棄された漁網を原料に再生ナイロンを作る取り組みが知られています。漁網から再生された糸が衣類やバッグになる流れは、海のごみ削減と衣類の循環を結びつける好例です。
| 素材 | 主な長所 | 環境面の課題 | 再生の方向性 |
|---|---|---|---|
| 綿 | 吸湿性・肌触り | 水・農薬の使用 | 反毛、再生セルロースの研究 |
| ポリエステル | 丈夫・軽い・速乾 | 石油由来、洗濯時の繊維くず | ケミカルリサイクルで繊維to繊維 |
| ウール | 保温性・耐久性 | 牧羊の環境負荷 | 反毛として再利用の歴史が長い |
| ナイロン | 強度・しなやかさ | 石油由来、繊維くず | 廃漁網などからの再生 |
素材を見比べるとわかるのは、環境負荷の大小は一つの指標では決まらないということです。栽培・製造・使用・廃棄・再生のどの段階を重視するかで、評価は変わります。だからこそ、目の前の服を「何度着られるか」「手放すときに出口があるか」という視点で選ぶことが、もっとも現実的な判断基準になります。
素材表示を読むコツ
- 衣類の組成表示(例:綿60%・ポリエステル40%)を見れば混紡かどうかが分かります
- 単一素材に近い服ほど、将来リサイクルされやすい傾向があります
世界の動き:EUの繊維規制と日本の取り組み
欧州連合(EU)は2022年に「持続可能で循環型の繊維戦略」を公表し、2030年までに市場に出る繊維製品を長持ちして修理・リサイクルしやすく、再生繊維を含み、有害物質を含まないものにする方向性を示しました。また、廃棄物枠組み指令の改正により、加盟国には2025年1月から繊維製品の分別収集が義務づけられています。
EUの動きで注目されるのは、「拡大生産者責任(EPR)」の考え方を繊維に広げようとしている点です。製品を売る事業者が、使用済みになったあとの回収・処理の費用まで負担する仕組みで、設計段階から「リサイクルしやすい製品」を作る動機づけになります。日本でも、事業者の自主的な回収の取り組みは広がっていますが、費用負担のあり方や制度化の是非は、これからの論点です。
日本の動き
日本でも、経済産業省や環境省が中心となり、繊維産業の循環型への転換を検討する場が設けられています。環境省は「サステナブルファッション」の情報発信を行い、2020年度比25%削減という目標のもと、リユース、リサイクル、長期使用を促す施策を検討しています。企業側でも、回収スキームの整備、再生素材の採用、リペアサービスの拡大などが進んでいます。
国内の動向を追ううえでは、行政の資料や審議会の議事録を直接確認するのがおすすめです。制度は更新が早く、本記事の内容も執筆時点の情報に基づいています。最新の政策や統計は、環境省や経済産業省の公表資料でご確認ください。

まとめ
- 衣類の廃棄は国内で年間約50万トン規模、再び衣類に戻る割合はごくわずか
- 洗濯由来のマイクロファイバーは海のプラスチック汚染の一因
- 制度・技術・消費者の行動がそろってはじめて循環が回る
私たちにできること:着る・手放す・選ぶの循環
衣類の問題は、消費者だけに責任を押し付けても解決しませんし、企業や政策だけに任せても進みません。それぞれの立場でできることを重ねることが重要です。
着る:長く使う
もっとも効果が大きいのは、すでに持っている服を長く着ることです。補修や、仕立て直し、洗い方の工夫で寿命は大きく延びます。1着あたりの着用回数が増えれば、その分、新たな生産と廃棄を減らせます。
手放す:リユースを優先する
状態のよい服は、フリマアプリや古着店、譲渡、寄付で次の持ち主へつなぐのが基本です。リサイクル回収は、着られなくなった服の受け皿として使います。回収先が何に再生しているのか、事業者の説明を確認することも一つの目安になります。
選ぶ:素材と作り手を見る
購入時には、再生素材の使用、修理サービスの有無、素材表示を確認しましょう。価格だけでなく、「長く着られるか」「手放すときの出口があるか」まで見て選ぶことで、市場全体を循環型へ動かす力になります。海を守ることは、日々の衣類との付き合い方から始まります。マイクロプラスチックの健康への影響に関心がある方は、マイクロプラスチックの人体影響と健康リスクも参考にしてください。
小さな行動でも、積み重ねると大きな力になります。たとえば、地域のリペアカフェや、衣類の交換会、フリマの活用は、廃棄を減らす身近な方法です。学校や職場で服の回収・交換イベントを開く、地域の海岸清掃と組み合わせて環境の学びにつなげる、といった活動も考えられます。
まとめのチェックリスト
- クローゼットの中身を把握し、重複買いを避ける
- 洗濯ネット・低温・適量洗いを習慣にする
- 手放す前にリユース・回収・リペアの順で検討する
参考文献・出典
- 環境省 令和7年度 循環型ファッションの推進方策に関する調査業務「2025年版 衣類のマテリアルフロー」 – 衣類の国内供給・手放し量・行き先の推計
- 環境省 サステナブルファッション – 衣類の循環型利用に関する政策・情報
- Ellen MacArthur Foundation: A New Textiles Economy – 繊維の廃棄・リサイクル率に関する2017年の報告書
- IUCN: Primary microplastics in the oceans – 海洋への一次マイクロプラスチックの発生源推計(2017)
- UNEP: Fashion's tiny hidden secret – ファッション産業の環境負荷とマイクロファイバー
- European Commission: Textiles – EU繊維戦略と分別収集の義務化
- 経済産業省 繊維産業に関する審議会資料 – 繊維産業の循環型転換の検討
- JEPLAN – 衣類の回収・再生の取り組み
※ 信頼性の高い順に配列:政府機関・学術機関 > 査読済み論文 > 専門機関 > 信頼できるメディア