37.7%
世界で「獲りすぎ」状態にある水産資源の割合(FAO・2021年)
約660品目
日本で販売されるMSCラベル商品数(2024年度)
22%
日本でのMSC「海のエコラベル」認知度(2024年)

スーパーの魚売り場やお惣菜コーナーで、白身魚フライやツナ缶、たらこのパッケージに小さな青い魚のマークが付いているのを見かけたことはありませんか。それが「MSC海のエコラベル」です。このマークは、ただのデザインではありません。「この魚は、海の資源を減らさないように配慮して獲られた魚ですよ」という国際的な“お墨付き”を意味しています。

世界では今、獲りすぎによって魚が減り続けています。国連食糧農業機関(FAO)の報告では、世界の水産資源のうち約37.7%が「持続可能でないレベルまで獲られている」状態です。そんな中で、未来の世代にも魚を残すための現実的な仕組みとして注目されているのが、このMSC認証です。

この記事では、MSC海のエコラベルとは何かという基本から、審査で見られる三原則、海から食卓までをつなぐトレーサビリティの仕組み、日本で認証を受けたマグロ・カツオ・タラの漁業、そしてスーパーでラベル商品を見分ける実践的なコツまでを、環境省・水産庁・FAOなどの一次情報をもとに、はじめての方にもわかるように整理します。読み終えるころには、次の買い物で青いマークを自然と探せるようになっているはずです。持続可能な海づくりは、遠い誰かの仕事ではなく、私たちの毎日の食卓の選択から始まります。

この記事で学べること

  • 青い「海のエコラベル」が示す“持続可能な漁業”という約束の意味
  • 世界の水産資源のいまと、MSCという仕組みが生まれた背景
  • 漁業認証とCoC認証という“二段構え”で信頼を担保する流れ
  • スーパーの魚売り場でMSCラベル商品を見つける具体的なコツ
  • MSC・ASC・MELという3つのマークの役割のちがい

MSC「海のエコラベル」とは何か──青い魚マークが示す約束

MSCとは Marine Stewardship Council(海洋管理協議会) の略で、減り続ける世界の水産資源を守るために1997年に設立された国際的な非営利団体です。もともとは世界的な環境保護団体WWFと、当時大手の水産企業だったユニリーバが協力して立ち上げ、1999年に両者から独立した中立的な組織になりました。本部はイギリスのロンドンにあり、世界各地に事務所を置いて活動しています。

MSCが運営するのが、青い魚のマークでおなじみの「海のエコラベル」です。このラベルは、水産資源や海の環境に配慮し、適切に管理された持続可能な漁業で獲られた天然の水産物にだけ付けることができます。パッケージにこのマークがあれば、その魚は「将来も獲り続けられるように配慮して漁獲された魚」だと第三者のチェックを受けている、ということになります。

設立の経緯には、1990年代前半に北大西洋で起きた「タラ資源の崩壊」という苦い教訓があります。カナダ東部のニューファンドランド島沖では、何百年も続いてきたタラ漁が、獲りすぎによって1992年に突然成り立たなくなり、数万人が職を失いました。豊かに見えた海でも、管理を誤れば魚は一気にいなくなる──この衝撃が、「良い漁業を市場の力で後押しする仕組みが必要だ」という発想につながり、MSC誕生の背景になったといわれています。

MSC自身は漁業を審査する主体ではなく、あくまで「基準(ものさし)」を定める組織です。実際の審査は、MSCから認定を受けた独立の審査機関がおこないます。ルールをつくる人と、合否を判断する人を分けることで、身内びいきが起きにくい公平な仕組みにしている点が、この制度の信頼性を支えています。

「海のエコラベル」という愛称の由来

MSCのマークは英語では“blue fish tick”(青い魚のチェックマーク)と呼ばれます。日本では2017年ごろから「海のエコラベル」という愛称が広く使われるようになりました。楕円のなかに魚とチェックマークを組み合わせたシンプルなデザインで、鮮魚だけでなく缶詰・冷凍食品・お惣菜・ペットフードなど、認証された原料を使ったあらゆる商品に付けられます。

MSC海のエコラベルの青い魚マークを模した抽象的なアイコン図解
青い楕円に魚とチェックマークを組み合わせた「海のエコラベル」のイメージ。

「持続可能な漁業」とはどういう意味か

「持続可能な漁業(サステナブル・フィッシング)」とは、ひとことで言えば 「獲る量を、海が自然に増やせる量の範囲におさめる漁業」 のことです。魚は毎年産卵して数を増やします。増える分だけを獲れば資源は減りませんが、増える速さを超えて獲り続けると、やがて魚は減っていきます。MSC認証は、この「増える範囲で獲る」仕組みがきちんと機能しているかを確かめる制度だと考えると分かりやすいでしょう。

たとえるなら、資源は銀行の預金のようなものです。元本(親魚の量)を減らさず、毎年生まれる「利子」の範囲でだけ使えば、預金はいつまでも残ります。けれども利子以上に元本を切り崩し続ければ、いつか残高はゼロになります。持続可能な漁業とは、まさに「元本に手をつけず、利子で暮らす」漁業のこと。MSCラベルは、その家計管理ができている漁業のあかしなのです。

まずここだけ押さえる

  • MSC=海洋管理協議会という国際的な非営利団体(1997年設立)
  • 「海のエコラベル」は持続可能な漁業で獲られた天然魚の目印
  • 対象は天然の水産物(養殖はASC認証が担当)
  • 鮮魚だけでなく缶詰・冷凍・惣菜など幅広い商品に付く

海に関わる問題を広く知りたい方は、失われた漁具が海を汚し続けるゴーストギア(幽霊漁具)の問題や、海の生き物のすみかを守るブルーカーボン生態系の記事もあわせて読むと、なぜ「獲り方」だけでなく海全体への配慮が大切なのかが立体的に見えてきます。

MSCの青い「海のエコラベル」は、いつまでも魚を食べ続けられるように、水産資源や環境に配慮し適切に管理された持続可能な漁業によって獲られた水産物に付けられる。

― Marine Stewardship Council(MSCジャパン)

つまりこのマークは、消費者にとって「難しい知識がなくても、レジに向かう数秒で“海にやさしい選択”ができる」道しるべです。次の章では、そもそもなぜこうした仕組みが必要になったのか、世界の海の現状から見ていきましょう。

なぜ今サステナブルシーフードが必要なのか──世界の海の現状

MSC認証の意義を理解するには、まず「世界の魚がどれくらい減っているのか」を数字で知ることが近道です。国連食糧農業機関(FAO)は2年ごとに『世界漁業・養殖業白書(SOFIA)』という報告書を出しており、これは世界の海の“健康診断書”のようなものです。最新の2024年版には、少し心配な数字が並んでいます。

獲りすぎの魚は、この50年で約4倍に

FAOによると、世界の主要な水産資源のうち 生物学的に持続可能でないレベルまで漁獲されている資源の割合は、1974年の約10%から2021年には37.7%にまで増えています。つまり、いま世界の魚のおよそ3分の1以上が「獲りすぎ」の状態にあるということです。この割合はこの数十年、じわじわと増え続けてきました。

一方で、残りの約62%は持続可能な範囲で利用されています。内訳を見ると、資源を目いっぱい活用している「満限利用」が約50.5%、まだ余裕のある「低・中利用」が約11.8%です。海の資源すべてが危機的というわけではなく、「うまく管理できている海」と「獲りすぎている海」がはっきり分かれているのが実情です。だからこそ、良い漁業を見える化して応援する仕組みが必要になります。

資源の状態割合(2021年)意味
低〜中利用約11.8%まだ漁獲を増やす余裕がある
満限利用約50.5%持続可能な上限まで活用している
過剰利用(獲りすぎ)約37.7%資源が減るペースで漁獲されている
世界の海洋水産資源の状態(出典:FAO『世界漁業・養殖業白書2024』、2021年時点)
世界の水産資源の状態を持続可能・満限・過剰の3区分で示したイメージ図
世界の魚の3分の1以上が「獲りすぎ」状態。良い漁業を選ぶことが海を守る力になる。

なぜ魚は減るのか──需要の増加と“早い者勝ち”の構造

背景には、世界人口の増加と健康志向による水産物需要の高まりがあります。人が食べる魚介の量は数十年で大きく増えました。需要が伸びれば漁獲圧も高まります。さらに、海の魚は「みんなのもの(共有資源)」であるため、ルールがないと「自分が獲らなければ他の誰かが獲ってしまう」という“早い者勝ち”の心理が働きやすく、これが乱獲を招きやすいという構造的な問題があります。この「共有地の悲劇」と呼ばれる現象こそ、漁業に厳格な管理ルールが欠かせない理由です。

一方で、明るい材料もあります。FAOの分析によれば、水揚げ量の多い上位10種の魚では、平均で約78.9%が持続可能な範囲で漁獲されていました。世界の市場で取引される魚介の多くが、比較的良好に管理された資源から来ているということです。きちんと管理すれば資源は守れる──MSC認証は、その「良い管理」を消費者の目に見える形にし、市場での評価につなげる橋渡し役を担っています。

加えて、必要な魚以外を巻き添えで獲ってしまう「混獲」や、海底環境を傷つける漁法、さらには海洋プラスチックやサンゴの白化に代表される気候変動の影響も、海の生態系に負荷をかけています。魚を「獲る量」だけでなく「獲り方」まで含めて見直す必要があるのです。

日本にとっても他人事ではない

日本は世界有数の魚の消費国であり、多くを輸入にも頼っています。国内でもサンマやスルメイカ、ウナギなど、身近な魚の不漁が近年たびたびニュースになっています。持続可能な漁業への転換は、遠い海の話ではなく、私たちの食卓を守る話でもあります。

こうした課題に対して「どの魚が、どんな漁業で獲られたのか」を消費者が選べるようにする。それがMSC認証の出発点です。次章では、その審査で実際に何が見られているのかを詳しく見ていきます。

ここで大切なのは、「魚を食べないこと」が答えではない、という点です。魚はタンパク質や不飽和脂肪酸を豊富に含む優れた食材であり、世界の何十億もの人々の食と生計を支えています。目指すべきは魚食をやめることではなく、資源を枯らさずに食べ続けられる仕組みへ切り替えることです。良い漁業を選んで応援するMSC認証は、まさにこの「食べながら守る」という現実的な発想に立った制度だといえます。

MSC漁業認証の三原則──何を審査して“合格”になるのか

「持続可能な漁業」といっても、感覚で決めるわけにはいきません。MSCは科学的な根拠に基づいて「持続可能で適切に管理された漁業のための原則と基準」を定めており、審査はこの 3つの原則 に沿って行われます。漁業者みずからではなく、MSCから独立した第三者の審査機関(審査会社)が現地調査や科学データをもとに評価する点がポイントです。

原則1:資源の持続可能性

1つ目は、その漁業が対象とする魚の資源そのものを枯渇させていないか、という点です。獲りすぎで資源を減らしていないこと、もしすでに減っている資源であれば、回復が見込める獲り方をしていることが求められます。魚が「増える範囲で獲る」という、持続可能な漁業のいちばん基本となる条件です。

原則2:漁業が生態系に与える影響

2つ目は、対象の魚だけでなく、その漁業が海の生態系全体に与える影響を見ます。狙っていない魚やウミガメ・海鳥などを巻き添えにする「混獲」を抑えているか、海底の環境を過度に傷つけていないか、生態系の構造や多様性、生産力を保てる形で操業しているか、といった観点です。海の生き物のつながり──たとえば知能の高いタコやイカのような生きものを含む食物網全体への配慮が問われます。

原則3:漁業の管理システム

3つ目は、原則1と2を実現し続けるための“仕組み”があるかどうかです。国内外の法律や国際ルールを守っているか、資源量を継続的に調べて漁獲ルールを見直す体制があるか、関係者の意見を取り入れながら適切に運営されているか。良い状態を「一度きり」ではなく「ずっと保てる」管理体制が評価されます。たとえ今年の資源が豊富でも、監視や見直しの仕組みがなければ「たまたま良かっただけ」で終わってしまうからです。

興味深いのは、審査を受けること自体が漁業を改善させる効果を持つ点です。認証を目指す過程で、漁業者は自分たちのデータを客観的に見直し、足りない部分を補強していきます。すぐに認証に届かない漁業でも、「漁業改善プロジェクト(FIP)」という段階的な取り組みを通じて、数年かけて基準に近づいていく道すじが用意されています。MSCは合格・不合格を突きつけるだけの制度ではなく、漁業をより良い方向へ導く“物差し兼コーチ”の役割も果たしているのです。

原則確認されることたとえるなら
① 資源の持続可能性魚を獲りすぎず、減った資源は回復させる貯金を切り崩さず利子の範囲で使う
② 生態系への影響混獲や海底破壊を抑え、海の生態系を保つ自分の畑だけでなく周りの自然も守る
③ 管理システムルールと監視、見直しの仕組みがある家計簿をつけて毎月ふり返る
MSC漁業認証の三原則(出典:MSCジャパン「MSC認証の概要」)
MSC漁業認証の三原則を資源・生態系・管理の3本柱で示したイメージ
資源・生態系・管理という3本柱がそろって初めて「持続可能な漁業」と認められる。

審査は“80点以上”が目安

この3原則について、さらに細かい評価項目が設けられています。審査では各原則ごとに採点され、平均でおおむね80点以上を満たすことが合格の目安で、どれか一つでも基準を大きく下回る項目があると認証は得られません。さらに認証は取って終わりではなく、通常は毎年の年次審査があり、5年ごとに更新審査を受け直す必要があります。継続的に基準を満たし続けなければラベルは維持できない、厳しい仕組みです。

「うたい文句」との違いに注意

「サステナブル」「環境にやさしい」といった言葉は、法律で厳密に定義されているわけではなく、企業が自由に名乗ることもできます。MSCラベルの価値は、こうした自己申告ではなく、独立した第三者が明確な基準で審査し、流通経路まで追跡している点にあります。言葉のイメージだけに頼らず、マークの有無で確認するのが確実です。

こうした厳格さは、ときに「認証が広がりにくい」という副作用も生みます。審査には時間も費用もかかるため、資源管理をきちんとしている漁業でも、書類やデータの整備が追いつかず認証に至らないケースがあります。「MSCラベルがない=悪い魚」という単純な話ではない点は覚えておきましょう。それでも、消費者が確実に見分けられる客観的な指標として、これほど信頼性の高い仕組みは多くありません。厳しさこそが、このマークの価値の源泉なのです。

海から食卓までをつなぐ仕組み──CoC認証とトレーサビリティ

実はMSCの認証は「漁業だけ」で完結しません。持続可能な漁業で獲られた魚でも、その後の流通の途中で認証されていない魚と混ざってしまえば、消費者が手に取る商品が本当に“その魚”なのか分からなくなってしまいます。そこでMSCは 「漁業認証」と「CoC認証」という二段構え で信頼を担保しています。

CoC認証とは──“管理の連鎖”を切らさない

CoCは Chain of Custody(管理の連鎖) の略で、認証された漁業で獲られた魚が、加工・流通・販売を経て消費者に届くまでの すべての過程 を対象とする認証です。魚を扱う加工業者、卸売業者、小売店などがそれぞれCoC認証を取得することで、認証製品が非認証製品と混ざらないよう、きちんと分別して管理されていることが保証されます。

審査では主に、認証された仕入れ先から買っているか、認証製品だと識別できるか、非認証品と分けて保管・加工しているか、記録をたどれるか(トレーサビリティ)、そして事業者としての管理体制があるか、といった点が確認されます。漁業からお店まで、この連鎖が一箇所でも切れていると、その先の商品に海のエコラベルを付けることはできません。

なぜここまで厳しくするのでしょうか。それは、水産物のサプライチェーンが非常に複雑だからです。一匹の魚が水揚げされてから、加工工場でさばかれ、冷凍され、商社を経て、別の工場で味付けされ、パッケージ詰めされて店頭に並ぶ──その間に何社もの手を渡ります。どこか一社が認証品と非認証品を同じラインで混ぜてしまえば、最終商品が本物かどうか誰にも分からなくなります。CoC認証は、この長いリレーのバトンを最後まで“汚さず”に渡しきるための約束事なのです。

漁船から加工・流通・店頭まで青いラベルの魚がつながって届く流れの図解
漁業からお店まで“管理の連鎖”を切らさないのがCoC認証。どこか一箇所でも欠けるとラベルは付けられない。

日本は世界3位のCoC認証大国

この裏方の仕組みは、日本でも着実に広がっています。MSCジャパンによれば、MSC認証水産物を扱うためのCoC認証を取得した国内事業者は400を超え、中国・アメリカに次ぐ世界3位の水準に達しました。消費者の目には見えにくい部分ですが、この事業者の広がりがあってこそ、スーパーに並ぶMSC商品が増えているのです。

トレーサビリティを裏打ちするDNA検査

MSCは市場に出回るラベル付き製品を抜き取り、DNA検査によって表示どおりの魚種かどうかを世界的にチェックしています。検査では高い一致率が確認されており、「ラベルの魚は本当にその魚か」という信頼を科学的にも支えています。

認知度は上がりつつあるが、まだ課題も

仕組みが整っても、消費者に知られていなければラベルは選ばれません。MSCと調査会社による2024年の国際調査(世界23カ国・27,000人以上が対象)では、日本での「海のエコラベル」の認知度は22%で、前回調査より7ポイント上昇しました。着実に伸びてはいるものの、世界平均の50%と比べるとまだ低く、認知拡大が今後の課題です。

農林水産省の消費者意識調査でも、持続可能性に配慮した食品への関心は高まる一方、実際の購入行動に結びついていない層が一定数いることが示されています。「知っているけれど、売り場で意識して選ぶまでには至っていない」という段階です。だからこそ、この記事を読んだあなたが売り場でマークを一度探してみることが、統計を一歩前に進める小さな実践になります。

企業の側から見た取り組みは、大手水産会社の調達方針にも表れています。たとえば持続可能な原料調達を進める水産大手の取り組みのように、認証原料の割合を高めていく動きが業界全体に広がっています。次章では、こうした仕組みのもとで実際に日本のどんな漁業が認証を受けているのかを見ていきましょう。

こうしたCoC認証の広がりは、飲食店やホテルにも及んでいます。メニューに認証水産物を採用する店が増え、調達から提供までの記録を整えることで、お客さまに「この魚は持続可能です」と自信をもって伝えられるようになりました。裏方の地道な仕組みづくりが、私たちが安心して魚を選べる環境を静かに支えているのです。

日本で認証を受けたマグロ・カツオ・タラの漁業事例

MSC認証は海外の話だと思われがちですが、日本の漁業も次々と認証を取得しています。2024年時点で、国内でMSC漁業認証を受けた漁業は20件以上にのぼります。ここでは、私たちの食卓になじみ深いマグロ・カツオ・タラを中心に、代表的な事例を紹介します。

カツオ・キハダマグロ──日本船籍のまき網で初認証

2024年、共和水産と明豊漁業のグループが手がける カツオ・キハダマグロのまき網漁業 がMSC漁業認証を取得しました。これは日本船籍のまき網漁船としては初のMSC認証で、大きな話題になりました。カツオは日本人にとってかつお節やたたきでおなじみの魚。その太平洋での漁業が国際基準をクリアしたことは、日本の漁業の転換点として注目されています。

このほか日本近海・遠洋のマグロ類では、ビンナガマグロ(びんちょうまぐろ)のはえ縄漁業などがMSC認証を取得しており、スーパーの刺身売り場でMSCラベル付きの「びんちょうまぐろ」を見かけることも増えてきました。ツナ缶にもMSC認証原料を使ったものが登場しています。カツオやマグロはまき網・はえ縄・一本釣りといった漁法で獲られますが、なかでも一本釣りは狙った魚だけを一尾ずつ釣り上げるため混獲が少なく、資源にやさしい漁法として評価されることが多い方法です。

タラ・白身魚──フライやフィッシュバーガーの定番

白身魚のフライやフィッシュバーガー、練り物の原料として身近な タラ類(スケトウダラなど) も、MSC認証と関わりの深い魚です。とくに北太平洋のスケトウダラ漁業は世界最大級の白身魚漁業のひとつで、MSC認証を受けた原料が世界中のフィッシュバーガーや白身フライ、カニカマ(すり身)などに使われています。ふだん何気なく食べているファストフードの魚が、実は認証原料だったというケースも少なくありません。

魚種の例主な漁法身近な商品の例
カツオ・キハダマグロまき網たたき、ツナ缶、かつお加工品
ビンナガマグロはえ縄刺身、寿司ネタ、ツナ
タラ類(スケトウダラ等)トロール等白身フライ、フィッシュバーガー、すり身・カニカマ
ホタテガイ垂下式・桁網ボイルほたて、冷凍貝柱
カキ垂下式むき身、加工品
MSC認証と関わりの深い魚種と身近な商品の例(複数の公表事例をもとに整理)
マグロ・カツオ・タラ・ホタテなど認証と関わる魚介を並べた図解イメージ
マグロ・カツオ・タラ・ホタテ・カキなど、認証は身近な魚介にも広がっている。

ホタテ・カキ・地域の漁業へ

貝類でも、ホタテガイの垂下式・桁網漁業や、カキの垂下式漁業がMSC認証を取得しています。さらに、北海道のマイワシまき網漁業や、苫前町のミズダコ樽流し漁業など、地域に根ざした漁業が認証取得を目指すプロジェクトも各地で進行中です。こうした動きは、地域の漁業を「持続可能」という付加価値で国内外にアピールする手段にもなっています。

認証取得は、漁業者にとって決して楽な道のりではありません。数年にわたるデータ収集や審査費用の負担、操業方法の見直しなど、多くの手間と覚悟が求められます。それでも取り組む背景には、「持続可能な魚」であることが取引や輸出で有利になり、若い担い手に誇りを持って引き継げる漁業をつくりたいという思いがあります。私たちが売り場でその魚を選ぶことは、こうした漁業者の努力に直接こたえる行動でもあるのです。

海外の代表例──アラスカのスケトウダラ

海外に目を向けると、アメリカ・アラスカ州のスケトウダラ漁業は、世界でもっとも早い時期にMSC認証を受けた漁業のひとつとして知られます。徹底した漁獲枠の管理と科学的な資源調査で運営され、その白身は世界中のフィッシュバーガーや白身フライ、日本のカニカマ(すり身)にも広く使われています。私たちの食卓は、世界の持続可能な漁業とつながっているのです。

認証事例のポイント

  • カツオ・キハダマグロまき網が日本船籍で初のMSC認証(2024年)
  • ビンナガマグロのはえ縄など、刺身やツナでも認証が拡大
  • スケトウダラなどタラ類は白身フライ・カニカマの主力原料
  • ホタテ・カキ・マイワシなど地域漁業にも広がっている

認証を受けた漁業がどう資源を管理しているのか、さらに詳しい背景はカツオ・マグロ類漁業を扱った専門機関の解説も参考になります。次は、こうして認証された魚を、私たちがスーパーでどう見分ければよいかという実践編です。

スーパーでMSC商品を見分ける実践ポイント

ここからは、いよいよ買い物での実践です。むずかしく考える必要はありません。ポイントはただ一つ、パッケージの青い魚マークを探すこと。慣れれば数秒で見分けられるようになります。売り場ごとのコツを整理しておきましょう。

見分け方の3ステップ

  1. パッケージやラベルに 青い楕円の魚マーク(海のエコラベル)が付いているか探す。
  2. 鮮魚だけでなく、缶詰・冷凍食品・お惣菜・練り物のコーナーも見てみる。
  3. マークの近くにある認証番号や「MSC-C-」で始まる番号があれば、正規の認証製品である目安になる。

MSCラベルは、切り身やお刺身などの鮮魚だけでなく、ツナ缶、サバ缶、白身魚フライ、鮭フレーク、たらこ・明太子、カニカマ、そしてお寿司やおにぎりの具材にまで広がっています。「魚コーナーにしかない」と思い込まず、加工食品の棚まで見渡すのが見つけるコツです。実際、2017年には世界初となる「MSC認証具材のおにぎり」が日本のコンビニ・スーパー向けに登場し、話題になりました。缶詰や冷凍食品、常温のお惣菜など、意外な場所に青いマークがひそんでいます。

外食やテイクアウトでも認証は広がっています。回転寿司チェーンや社員食堂、給食などで認証水産物を使う動きが進み、メニュー表やのぼりに青いマークが掲げられることもあります。学校給食にMSC認証の魚が採用された自治体もあり、子どもたちが「持続可能な海」を身近に学ぶきっかけにもなっています。

見つけやすいお店──イオン・コープ・セブン&アイなど

日本では、大手小売企業がプライベートブランド(自社ブランド商品)を含めてMSC・ASC認証製品の取り扱いを積極的に進めています。とくにイオンは自社ブランド「トップバリュ」でサステナブルシーフードを推進し、コープ(生協)やセブン&アイ・ホールディングスなども取り扱いを広げています。詳しくはイオン・トップバリュのMSC/ASCの取り組みもあわせてご覧ください。

スーパーのパッケージ商品に付いた青いエコラベルを手に取って確認する様子
青い魚マークを探すだけ。缶詰や冷凍食品の棚もチェックすると見つかりやすい。

「少し高い」のはなぜか──価格の背景を知る

MSC商品は、同じ魚でも通常品よりわずかに高いことがあります。これは、資源を守るための漁獲量の管理、審査や認証維持にかかるコスト、流通を分別する手間などが上乗せされるためです。言いかえれば、この差額は「未来も魚を食べ続けられる海」への投資でもあります。毎回すべてを認証品にする必要はなく、買えるときに一品だけでも選ぶという気軽な関わり方で十分です。

今日からできる小さな一歩

  • ツナ缶や白身フライを買うとき、青いマーク付きを一度探してみる
  • 同じ値段帯なら、ラベルのある商品を優先して選ぶ
  • 家族に「この青いマーク、海にやさしい魚の印だよ」と話してみる
  • 見つからなければ、店員さんや問い合わせで“取り扱いの声”を届ける

一人の選択は小さくても、こうした需要の積み重ねがお店や漁業者の背中を押します。消費者が「持続可能な魚を選ぶ」と示すことは、良い漁業を続ける力になるのです。

とはいえ、完璧を目指して疲れてしまっては続きません。「今日は認証品が置いていなかった」「予算が合わなかった」という日があってもかまいません。エシカルな消費は、100点満点のテストではなく、できるときに一歩を選ぶ習慣の積み重ねです。まずは自分がよく買う魚介──ツナ缶や白身フライ、たらこなど──のうち一品を“青いマーク付き”に置きかえてみる。そこから始めれば十分です。買い物という毎日の小さな行為が、海の未来を選ぶ投票になります。

MSC・ASC・MELのちがい──どのマークを選べばいい?

魚売り場をよく見ると、青いMSCラベルのほかにも似たようなマークが並んでいることがあります。代表的なのが ASCMEL です。それぞれ役割がちがうので、いちど整理しておくと迷わなくなります。

MSCは「天然」、ASCは「養殖」

そもそも、なぜ複数のマークがあると混乱しやすいのでしょうか。それは、それぞれのラベルが「守ろうとしている対象」が少しずつ違うからです。天然の海を守るもの、養殖環境を守るもの、日本の実情に合わせたもの──役割が分かれているぶん、消費者は「どれを信じればいいの?」と迷いがちです。しかし裏を返せば、どのマークも第三者による審査を経た信頼できる印であり、細かな違いを完璧に覚える必要はありません。まずは大きな役割分担だけ押さえておきましょう。

最大のちがいは、天然の魚か、養殖の魚かです。MSC認証は海や川で獲られた 天然 の水産物が対象。これに対してASC(Aquaculture Stewardship Council=水産養殖管理協議会)認証は、いけすや養殖池で育てられた 養殖 の水産物が対象です。ASCは、周りの環境への負荷や水質、地域社会・働く人への配慮などを審査します。エビ、サーモン、カキ、ブリなどの養殖でよく見られるマークです。

MSCとASCは「どちらが上」というものではなく、天然と養殖、それぞれの持続可能性を支える“車の両輪”だと考えるとしっくりきます。私たちの食卓は天然魚と養殖魚の両方で支えられているからです。

MELは日本発の水産エコラベル

MEL(マリン・エコラベル・ジャパン)は、日本の団体が運営する 日本発の水産エコラベル です。漁業認証と養殖認証の両方があり、資源管理や環境保全への取り組みを審査します。国際的な水産エコラベルの評価組織(GSSI)にも承認されており、日本の漁業・養殖業の実情に合わせた制度として広がりつつあります。国産の魚でMELマークを見かけることも増えています。

なぜ日本発のMELが必要とされたのでしょうか。日本の沿岸漁業は、小規模な漁業者が多く、魚種も操業形態も多様です。国際基準であるMSCは審査の手間や費用の負担が大きく、小さな漁業には取得のハードルが高い面がありました。MELは、日本の漁業の実情や既存の資源管理制度に合わせて設計されており、国内の漁業者が持続可能性を証明しやすい選択肢として役割を分担しています。消費者としては、どのラベルでも「持続可能な水産物を選ぶ入り口」であることに変わりはありません。

マーク運営対象覚え方
MSC海洋管理協議会(国際)天然の水産物青い魚マーク=天然
ASC水産養殖管理協議会(国際)養殖の水産物養殖(Aquaculture)
MELマリン・エコラベル・ジャパン(日本)天然・養殖の両方日本発のラベル
代表的な3つの水産エコラベルの比較(各運営団体の公表情報をもとに整理)
MSC・ASC・MELの3つの水産エコラベルの役割の違いを示した図解
天然はMSC、養殖はASC、日本発はMEL。役割を知れば選ぶときに迷わない。

3つのマークの覚え方

  • MSC=天然の魚(青い魚マーク)
  • ASC=養殖の魚(Aquaculture=養殖)
  • MEL=日本発、天然・養殖の両方に対応
  • どれも“持続可能な水産物”を選ぶための信頼できる目印

つまり、天然魚を選ぶならMSC、養殖魚を選ぶならASC、国産で見かけたらMEL──と覚えておけば、どのマークが目に入っても「これは持続可能な水産物のしるしだ」と安心して選べます。

なお、天然と養殖はどちらが「良い・悪い」という関係ではありません。天然魚は自然の資源を分けてもらう営みであり、養殖は限りある天然資源への漁獲圧を和らげる役割を持ちます。世界の水産物供給では、いまや養殖が漁獲を上回るまでに成長しました。大切なのは、天然なら獲りすぎていないか、養殖なら環境に負荷をかけていないか──その“獲り方・育て方”に目を向けることです。エコラベルは、その判断を専門家に代わって示してくれる便利な道しるべなのです。

まとめ──青い魚マークが、海と食卓の未来をつなぐ

MSC「海のエコラベル」は、持続可能な漁業で獲られた天然の水産物に付く、青い魚マークの国際認証です。世界の魚の3分の1以上が獲りすぎ状態にあるいま、良い漁業を「見える化」して応援するこの仕組みは、未来にも魚を残すための現実的な手段のひとつです。

審査では「資源の持続可能性」「生態系への影響」「管理システム」という三原則が確認され、漁業認証とCoC認証の二段構えで、海から食卓までの信頼がつながれています。日本でもカツオ・マグロ・タラ・ホタテなど身近な魚の認証が広がり、スーパーで買える商品は約660品目に達しました。

私たちにできることは、とてもシンプルです。買い物のとき、パッケージの青いマークを探すこと。その小さな選択の積み重ねが、良い漁業を続ける力になり、豊かな海を次の世代へ手渡していきます。

青い海と食卓がつながり、次の世代へ手渡されていく希望のイメージ
青い魚マークを選ぶ小さな一歩が、豊かな海を未来へつなぐ。

この記事のまとめ

  • MSC「海のエコラベル」は持続可能な漁業で獲られた天然魚の国際認証
  • 世界の水産資源の約37.7%が獲りすぎ状態(FAO・2021年)
  • 審査は資源・生態系・管理の三原則、80点以上が合格の目安
  • 漁業認証+CoC認証の二段構えで海から食卓まで追跡
  • 日本では約660品目に拡大、イオン・コープなどで見つけやすい
  • 天然はMSC・養殖はASC・日本発はMEL──青いマークを探すのが第一歩

参考文献・出典

  1. Marine Stewardship Council(MSCジャパン) – MSC認証の概要(漁業認証・CoC認証・三原則)
  2. 環境省 – 環境ラベル等データベース MSC「海のエコラベル」
  3. FAO(国連食糧農業機関) – 世界漁業・養殖業白書 The State of World Fisheries and Aquaculture 2024
  4. 水産庁・水産研究・教育機構 – 国際漁業資源の現況 世界の漁業の現状と資源状況について
  5. 笹川平和財団 海洋政策研究所 – Ocean Newsletter「MSC認証とカツオ・マグロ類漁業」
  6. WWFジャパン – 海を守るマーク(1)天然水産物の認証制度 MSCについて
  7. 一般社団法人MSCジャパン – MSC CoC認証取得事業者が国内で400を突破 世界3位(プレスリリース)
  8. 農林水産省 – 持続可能性に配慮した食品に関する消費者意識調査(令和6年)
  9. 一般社団法人 日本サステナブル・ラベル協会 – MSC「海のエコラベル」の解説

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