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コーラルトライアングルは世界の海の約1.6%に、サンゴ約600種(世界の76%)とサンゴ礁魚類約2,500種を抱える海洋生物多様性の中心です。多様性が生まれた理由、サンゴ礁の85%以上に及ぶ脅威、6か国によるCTI-CFFの保全の枠組みを一次情報で解説します。

76%
世界のサンゴ種に占める割合(約600種)
約2,500種
サンゴ礁魚類(世界の37%)
85%超
地域的な脅威にさらされるサンゴ礁

コーラルトライアングルは、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、ソロモン諸島、東ティモールにまたがる海域で、世界の海洋生物多様性の中心とされています。国連の資料によれば、面積は世界の海洋の約1.6%にすぎません。

その狭い海に、世界のサンゴ種の76%、サンゴ礁魚類の37%が暮らしています。この記事では、なぜこの場所に生き物が集まるのか、どんな脅威があるのか、国際的にどう守られているのかを、公的機関や学術研究の情報に基づいて整理します。

沿岸に暮らす1億人以上の生活や、世界の食卓とも関わる海です。日本から遠い海に思えても、私たちの暮らしとつながっています。

この記事で学べること

  • コーラルトライアングルの範囲と6か国
  • サンゴ約600種・魚約2,500種という種数の規模
  • 多様性が生まれた3つの仮説(起源・重複・蓄積)
  • サンゴ礁の85%以上に及ぶ脅威とその原因
  • CTI-CFFと地域行動計画の5つの目標
  • 私たちにできる行動

コーラルトライアングルとは何か:世界の海洋生物多様性の中心

「サンゴの三角地帯」の範囲と成り立ち

コーラルトライアングル(Coral Triangle)は、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、ソロモン諸島、東ティモールの6か国にまたがる熱帯の海域です。地図上で線を結ぶとおおよそ三角形になることからこの名前が付きました。「海のアマゾン」や「海の生命のゆりかご」と呼ばれることもあります。国連の持続可能な開発パートナーシップの資料によれば、この海域が占める面積は世界の海洋のわずか1.6%にすぎません。

この狭い海域に、地球上のほかのどの場所よりも多くの海洋生物が集中しています。サンゴ礁の生き物の多様性を測る物差しとして、研究者はしばしば「種数」を使います。その種数が、コーラルトライアングルでは群を抜いて高いのです。同じ熱帯でも、カリブ海やインド洋西部、ハワイ周辺と比べると、サンゴや魚の種類は何倍にもなります。

国際的な保全の枠組みである「サンゴ礁、水産資源、食料安全保障のためのコーラルトライアングル・イニシアティブ(CTI-CFF)」の公式FAQは、この海域の広さを陸と海を合わせて約6億4,700万ヘクタールと説明しています。単位を平方キロメートルに直すと、およそ647万平方キロメートルです。日本の国土面積の約17倍に相当する、非常に大きな領域です。

数字で見る生物多様性

CTI-CFFの公式FAQは、この海域に造礁サンゴ約600種、世界で知られているサンゴ種の76%が生息すると紹介しています。サンゴ礁の魚類についても、約2,500種、世界のサンゴ礁魚類の37%がここに暮らすとされています。資料によっては魚類を3,000種以上とするものもあり、数え方や対象範囲によって数値に幅がある点には注意が必要です。

項目コーラルトライアングル出典・備考
対象国6か国(インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、ソロモン諸島、東ティモール)CTI-CFF
サンゴ種数約600種(世界の既知種の76%)CTI-CFF公式FAQ
サンゴ礁魚類約2,500種(世界の37%)。資料により3,000種以上とする例もあるCTI-CFF公式FAQ ほか
面積約6億4,700万ヘクタール(陸と海の合計)CTI-CFF公式FAQ
海洋面積に占める割合約1.6%国連SDGsパートナーシップ
沿岸で資源に依存する人口約1億2,000万〜1億3,000万人CTI-CFF公式FAQ(資料内で表記に幅あり)
コーラルトライアングルの基本データ
コーラルトライアングル6か国の位置と、色とりどりのサンゴ礁・魚が集まる海のイメージ
6か国にまたがる「サンゴの三角地帯」のイメージ図

なぜここに生き物が集まるのか:多様性を生み出す3つの仮説

地理と海流がつくる舞台

コーラルトライアングルはインド洋と太平洋が出会う場所にあります。この一帯はインド・オーストラリア群島とも呼ばれ、数千の島々、浅い大陸棚、深い海溝、湾や入り江が入り組んだ複雑な地形をしています。さまざまな水深・水温・塩分・波当たりの環境が狭い範囲に並ぶため、それぞれに適応した生き物が棲み分けられます。

さらに、氷期と間氷期を繰り返す中で海面が上下し、浅い海が陸地になったり、再び海に戻ったりしました。その過程で海が分断され、生き物の集団が隔離されて別の種に分かれる機会が繰り返し生まれたと考えられています。こうした地史的な背景が、現在の豊かな多様性の土台になっています。

起源・重複・蓄積:3つの有力仮説

「なぜ種数がここで最大になるのか」は、海洋生物学の古典的な問いです。研究者の間では、主に次の3つの仮説が議論されてきました。ジェームズクック大学のベルウッドとマイヤーらは、これらを「起源の中心」「重複の中心」「蓄積の中心」という言葉で整理しています。

仮説内容ポイント
起源の中心この海域で新種が盛んに誕生し、周辺へ広がった固有種の多さが根拠になりうるが、固有種の定義が難しい
重複の中心インド洋と太平洋の生物相が重なり合うため種数が多い両海洋の種が同じ場所に出会う地理に由来する
蓄積の中心別の場所で生まれた種が、ここへ流れ着き生き残って蓄積する安定した環境が「生き残りの場」として働く
コーラルトライアングルの多様性をめぐる3つの仮説

ベルウッドとマイヤーの論文は、固有種の分布は「起源の中心」を強く支持するものではなく、むしろ蓄積の考え方によく合うと論じ、この海域は起源がどこであれ種が生き延びる「生存の中心」として機能していると述べています。一方で、彼ら自身も、手元のデータだけでは起源説を完全には否定できないと認めています。

45種のサンゴ礁生物のDNAを用いた集団遺伝学的研究では、最も古い集団がコーラルトライアングルの中心に近い位置で見つかる傾向が示され、この海域がサンゴ礁生物の多様性の「正味の供給源」として働いているという結論が導かれました。起源、重複、蓄積のどれか一つではなく、複数のプロセスが同時に働いているという見方が現在は有力です。

ここがポイント

  • 多様性の原因は一つに決まっておらず、現在も研究が続いています。
  • 「生き残りの場」としての役割は、気候が変動しても種を守る保全上の価値につながります。

サンゴ礁だけではない:マングローブ・海草藻場・深い海

三つの生態系が連携する「ゆりかご」

コーラルトライアングルの豊かさは、サンゴ礁だけで支えられているわけではありません。沿岸にはマングローブ林があり、その沖には海草藻場、さらに沖合にサンゴ礁が連なります。この三つは水や栄養、そして生き物を介してつながっています。たとえば多くのサンゴ礁魚類は、稚魚の時期をマングローブや海草藻場で過ごし、成長すると礁へ移ります。

マングローブの役割は、海岸侵食を和らげ、陸から流れ込む泥や汚染物質をろ過し、稚魚の隠れ家になることです。詳しい仕組みはマングローブ林の役割の記事で解説しています。海草藻場も、ジュゴンやウミガメの餌場であると同時に、炭素を溜め込む場所として注目されています。

多様なサンゴ礁の姿

サンゴ礁は、造礁サンゴが石灰質の骨格を何世代にもわたって積み重ねてできた地形です。造礁サンゴの体内には褐虫藻という微細な藻類が共生し、光合成で得た栄養をサンゴに渡しています。この共生関係は水温の上昇で崩れやすく、サンゴの白化につながります。詳細はサンゴの白化のメカニズムで扱っています。

魚類の多様性については、サンゴ礁の魚の多様性の記事も参考になります。ブダイ、チョウチョウウオ、ハタ、ベラなど、体色も食性も異なる魚がそれぞれの役割を担い、サンゴ礁の健康を保っています。ブダイのように藻類を食べる魚は、サンゴが藻に覆われてしまうのを防ぐ「掃除屋」として働きます。

マングローブ、海草藻場、サンゴ礁が連なる断面図と、稚魚が移動する様子
マングローブ・海草藻場・サンゴ礁の連携
  • マングローブ:稚魚の隠れ家、海岸の保護、陸からの汚染のろ過
  • 海草藻場:ジュゴンやウミガメの餌場、炭素の貯蔵
  • サンゴ礁:多様な生物の住処、天然の防波堤
  • 沖合の海:マグロ類など回遊魚の通り道と産卵場

人々の暮らしと経済:1億人以上が海に依存

食料・仕事・文化を支える海

コーラルトライアングルの6か国の総人口は約3億6,500万人にのぼり、そのうち沿岸で暮らし、漁業や観光など海の資源に生計を頼る人は約1億2,000万〜1億3,000万人とされています。魚はたんぱく質の主な供給源であり、とくに島しょ部では日常の食事に欠かせません。

CTI-CFFの公式FAQは、この海域の資源がもたらす経済的価値を年間約23億米ドルと紹介しています。この数字には、漁業、観光、海岸保護などの価値が含まれています。サンゴ礁が天然の防波堤として高波を和らげる働きについては、サンゴ礁の海岸保護機能の記事で解説しています。

マグロ漁業と世界の食卓

この海域は、世界のマグロ類の重要な産卵場・回遊ルートでもあります。回遊する魚の生態についてはクロマグロの回遊の記事も参考にしてください。缶詰や刺身として世界の食卓に届くマグロの一部は、この海域を経由しています。つまり、コーラルトライアングルの海の状態は、遠く離れた私たちの食生活とも無関係ではありません。

日本とのつながり

  • 日本は水産物の大きな消費国で、東南アジアや太平洋の国々とも漁業・貿易で深く結びついています。
  • 日本の海の多様性については日本の海洋生物多様性の記事もあわせてどうぞ。
この記事の要点となる3つの数字をまとめた図版
数字で見る:本文で扱う3つの指標

深刻な脅威:サンゴ礁の8割以上が危機に

WRIの報告書が示した現実

世界資源研究所(WRI)は2012年7月、オーストラリアのケアンズで開かれた第12回国際サンゴ礁シンポジウムで、「コーラルトライアングルのサンゴ礁リスク再訪(Reefs at Risk Revisited in the Coral Triangle)」を発表しました。それによると、コーラルトライアングルのサンゴ礁の85%以上が、乱獲、陸域からの汚染、沿岸開発といった地域的なストレスで脅かされています。世界平均は60%ですから、はるかに高い水準です。約45%は「高い」または「非常に高い」脅威レベルにあります。

さらに、最近の高水温ストレスとサンゴの白化の影響を加えると、脅威にさらされているサンゴ礁の割合は90%を超えます。世界平均の75%と比べても突出して高い値です。CTI-CFFも、この海域の資源の約90%が、乱獲、持続不可能な漁業、陸からの汚染、気候変動によって脅かされていると述べています。

指標コーラルトライアングル世界平均
地域的な脅威にさらされるサンゴ礁85%以上60%
高水温ストレスなども加えた場合90%超75%
脅威レベルが「高い」「非常に高い」約45%—
WRI『Reefs at Risk Revisited in the Coral Triangle』(2012年)の要点

主な脅威を整理する

  • 乱獲:多くのサンゴ礁で、魚の取りすぎが生態系のバランスを崩している。詳しくは乱獲と資源崩壊の記事へ
  • 破壊的漁法:ダイナマイト漁やシアン化合物を使う漁は、サンゴ礁そのものを壊す
  • 陸域汚染:流域の森林伐採や農地・生活排水から、泥や栄養塩がサンゴ礁に流れ込む
  • 沿岸開発:埋め立てや港湾建設、養殖池の造成でマングローブや藻場が失われる
  • 気候変動:海水温の上昇による白化と、海洋酸性化によるサンゴの骨格形成の阻害

AFPなどの報道によれば、WWFは温室効果ガスの大幅な削減が行われなければ、水温・海面・酸性度の上昇によって今世紀末までにこの海域の生態系が壊滅的な打撃を受けるおそれがあると警告しています。海洋酸性化の影響については海洋酸性化とサンゴ礁の記事で解説しています。

白化したサンゴと、健全なサンゴ礁を対比した海中の図解
白化したサンゴと健全なサンゴ礁の対比

国際的な保全の枠組み:CTI-CFFとは

6か国が結んだ政府間パートナーシップ

コーラルトライアングル・イニシアティブ(CTI-CFF)は、インドネシアのユドヨノ大統領(当時)の呼びかけで始まった多国間の枠組みです。資料によって2007年から構想が始まったとされる一方、2009年に6か国(CT6)の首脳が地域行動計画(RPOA)を採択して正式に発足したと説明されます。公式FAQも2009年の設立としています。

地域行動計画は2009年5月付の文書で、法的拘束力のない「生きた文書」と位置づけられています。5つの包括的な目標が掲げられており、それぞれが海の保全の柱になっています。

目標内容
1優先的なシースケープ(海域景観)の指定と効果的な管理
2漁業への生態系アプローチなど、水産資源の持続的な管理
3海洋保護区(MPA)の整備と運営の強化
4気候変動への適応策の推進
5絶滅のおそれがある種の状況改善
地域行動計画(RPOA)の5つの目標

海洋保護区と30by30

海洋保護区は、漁業や開発を制限して生態系を守る区域です。仕組みと効果については海洋保護区の解説で詳しく説明しています。世界では2030年までに陸と海の少なくとも30%を保全する「30by30」の目標が掲げられており、コーラルトライアングル6か国も、この流れの中でMPAの拡充に取り組んでいます。日本の動きは30by30とOECMの記事を参照してください。

国際協力の意味

  • 一つの国だけでは、国境をまたいで移動する魚やウミガメ、広がる海流は守れません。
  • 6か国が共通の計画を持つこと自体が、保全の大きな前進です。

課題と展望:保全はうまくいっているのか

現場で直面する難しさ

計画があっても、実行には資金、人材、地域住民の理解が必要です。漁業で暮らす人々にとって、保護区の設定は「漁場を失う」ことを意味する場合もあります。保全が持続するには、代替の生計手段の提供や、地域主導で資源を管理する仕組みが欠かせません。

一方で、海の変化は国境を問いません。水温上昇や酸性化は、保護区の内外を問わず影響します。そのため、地域の保全だけでなく、世界全体で温室効果ガスを減らす取り組みが不可欠です。

私たちにできること

  • 海の生き物に配慮した水産物(持続可能な漁業で獲られたもの)を選ぶ
  • プラスチックごみや生活排水を減らし、海への負荷を下げる
  • サンゴ礁を訪れるときは、日焼け止めの選択やサンゴに触れない行動を心がける
  • 省エネや再生可能エネルギーの利用で、気候変動の抑制に貢献する
  • 海の保全に取り組む団体や研究を知り、情報を広める

日本は、サンゴ礁の北限域を含む豊かな海を持つ国です。沖縄などのサンゴ礁の保全についてはサンゴ礁の再生の記事も参考になります。コーラルトライアングルを知ることは、私たち自身の海を考える手がかりにもなります。

この記事のまとめ

  • コーラルトライアングルは、世界の海の約1.6%に、サンゴの約76%、サンゴ礁魚類の約37%が集中する生物多様性の中心です。
  • サンゴ礁の85%以上が地域的な脅威にさらされ、気候変動が追い打ちをかけています。
  • CTI-CFFを通じて6か国が協力し、海洋保護区や持続的漁業を進めています。
この記事のポイントを箇条書きでまとめた図版
この記事のポイント。詳しくは各章で解説している

参考文献・出典

  1. Coral Triangle Initiative(CTI-CFF)公式サイト 概要 – CTI-CFFの目的と加盟6か国
  2. CTI-CFF よくある質問 – サンゴ600種・魚2,500種・面積・人口などの基礎データ
  3. CTI-CFF「85 Percent of Reefs in the Coral Triangle Are Threatened」 – WRI報告書の発表に関するプレスリリース
  4. WRI Reefs at Risk Revisited in the Coral Triangle – 2012年の報告書。サンゴ礁の脅威を評価
  5. 国連 SDGs パートナーシップ:Coral Triangle Initiative – 面積の割合などの概要
  6. Coral Triangle Regional Plan of Action(2009年5月) – 地域行動計画の全文
  7. Bellwood & Meyer「Endemism and evolution in the Coral Triangle: a call for clarity」 – 起源・重複・蓄積の仮説を整理した論文
  8. Patterns of species range evolution in Indo-Pacific reef assemblages reveal the Coral Triangle as a net source of transoceanic diversity – 45種のDNA解析による研究
  9. AFPBB 豊かな海洋生態系を誇る「コーラル・トライアングル」、温暖化で今世紀末に死滅も WWF報告 – WWF報告書に関する報道

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