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2024年能登半島地震で最大5.2m隆起した能登の海。海女漁と藻場は今どうなっているのか。海の地図プロジェクトや漁港復旧など、里海再生に向けた取り組みを一次情報から整理します。
2024年1月1日の能登半島地震は、陸だけでなく海そのものの形を変えました。海岸は隆起し、港は干上がり、海女が潜ってきた磯の姿も一変しました。
能登は、人が海と関わりながら豊かさを保ってきた「里海」の土地です。輪島の海女漁は国の重要無形民俗文化財にも指定されており、海の恵みと暮らしの結びつきを象徴しています。
この記事では、公開されている調査や報道をもとに、地震と豪雨が海に与えた影響、そして藻場と海女漁の回復に向けた取り組みを整理します。現状は進行中であり、数値は出典の時点のものです。
この記事で学べること
- 2024年の地震で能登の海岸と海底に何が起きたか
- 輪島の海女漁と藻場が受けた打撃の中身
- 海の地図プロジェクトが復興にどう役立つか
- 隆起した漁港の復旧と「創造的復興」の考え方
- 里海を再生するために私たちができること
能登の里海とは何か
人の暮らしと海が結びついた土地
里海とは、人手が加わることで生物多様性と生産性が高まった沿岸海域を指す考え方です。里山の海版といえます。能登では、海女漁、定置網、海藻の採取、塩づくりなど、海との多様な関わりが長く続いてきました。
里海の概念については 里海とは何か で詳しく解説しています。能登は、その考え方が日常の暮らしに根づいている地域の一つです。
輪島の海女漁という文化
「輪島の海女漁の技術」は国の重要無形民俗文化財です。海女は素潜りでサザエやアワビ、海藻などを採りますが、その漁場は藻場や岩礁の健康さに直結しています。海の状態がそのまま漁の成否になるため、海女は海の変化に最も敏感な観察者でもあります。
- 素潜りで資源を傷つけにくい漁法である
- 漁期や漁場のルールを地域で守ってきた
- 技術は世代を超えた口承と実践で受け継がれる

地震が海に起こした変化
海底が最大約5.2m隆起した
2024年1月1日の能登半島地震は、陸と海にまたがる断層が破壊した「海陸境界地震」でした。日本水路協会による解析では、猿山岬付近で海底が最大約5.2m隆起したとされます。陸上で報告された最大値の4.1mを上回る規模です。
輪島港付近では約1.5〜2m、輪島市の鴨ヶ浦では2m以上の隆起が報じられ、景観が一変しました。金沢大学などの研究では海岸510地点で隆起量が測られ、場所により0.1〜5.2mと大きな幅があることも示されています。
| 場所 | 確認された変化 |
|---|---|
| 猿山岬付近 | 海底が最大約5.2m隆起 |
| 輪島市門前町五十洲漁港 | 約4.1m隆起(2024年1月4日撮影) |
| 輪島港付近 | 約1.5〜2m隆起 |
| 輪島市門前町黒島町 | 海岸線が約200m沖合へ移動 |
水平方向にも海底が動いた
隆起だけでなく横方向のずれも確認されました。珠洲市清水町〜長橋町付近では西北西〜北西方向に平均約2.5m、最大4.3m、猿山岬付近〜鹿磯漁港周辺では平均約2.2m、最大3.0m動いたと報告されています。
砂地に新しい岩場が現れた
一方で、黒島町では砂地だった場所に新たな岩場が出現しました。こうした場所は、これから海藻が着生して藻場になる可能性を持ち、従来は認識されていなかった藻場の候補地を探す手がかりになりえます。

豪雨が重ねた二重の被害
2024年9月の豪雨と土砂流入
地震から8か月後の2024年9月、能登は豪雨にも見舞われました。川から流れ込んだ土砂は海へ入り、輪島市の大沢港では港内が埋まり、その先の海底谷も土砂で埋まったことが調査で確認されています。
日本水路協会は、地震と豪雨により能登北部の沿岸浅海域の生態系が壊滅的な被害を受けたと整理しています。隆起で干上がった磯に、さらに土砂がかぶさる形となりました。
なぜ土砂は藻場に厳しいのか
海藻は岩の表面に胞子が付いて育ちます。土砂が岩を覆うと、胞子が付く場所が失われ、光も遮られます。藻場の回復には岩の表面がきれいに保たれることが欠かせません。
- 土砂で岩の表面が覆われ海藻が着生できない
- 濁りで光が届かず光合成が妨げられる
- 底生の貝類やウニの生息場所が失われる
磯焼けとの違い
藻場が減る現象としては、ウニの食害や水温上昇による「磯焼け」が知られています。能登の場合は地形そのものの変化と土砂という物理的な要因が大きい点が特徴です。磯焼けの仕組みは 磯焼けとウニ砂漠 を参照してください。
海女漁と漁業の現在
漁が止まった時間
隆起で輪島港の海底が浅くなり、漁船が出せなくなりました。海女漁も長く行えない状態が続き、長期化すれば引退につながりかねないという危機感が地元で語られました。
モズク漁の再開
その後、海女によるモズク漁が解禁されたと報じられています。ただし、土砂の流入や海底の隆起で海藻や貝は大きく減っており、関係者は前年より良くなったものの震災前にはまだ遠いという認識を示しています。
数値で見えにくい回復
藻場の面積など、回復を定量的に示す公開データはまだ限られています。報道や関係者の声は現場の実感を伝えますが、今後の継続調査による裏づけが必要です。

担い手の問題とつながる
漁業全体で担い手不足が進むなか、被災はその流れを加速させる恐れがあります。背景は 漁業の担い手不足 で整理しています。
海の地図プロジェクトが示す手がかり
地震前後の海底を測った
日本財団の支援のもと日本水路協会が進める「海の地図」プロジェクトは、航空レーザー測深機を用いて水深20mまでの浅海域の海底地形を50cmグリッドで測ります。全国の海岸線約3万5000kmのうち約9割を10年で整備する計画で、2022年に始まりました。
能登北部の外浦(志賀町〜珠洲市三崎町、総延長約225km)は、地震前の2022年9〜10月と地震後の2024年4〜5月に測られました。大きな地殻変動を伴う地震の前後で沿岸浅海域の海底変動量を解析できたのは世界初と紹介されています。
漁業者への提供が始まった
2025年9月には先行して、輪島崎地区と南志見地区(名舟港)を対象にスマートフォン版と紙版の地図が提供されました。9月4日には石川県漁業協同組合輪島支所で約40人が参加する説明会も開かれています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 測量方式 | 航空レーザー測深(水深約20mまで) |
| 能登北部の測量時期 | 2022年秋・2024年4〜5月 |
| 先行提供地区 | 輪島崎地区・南志見地区 |
| 提供形態 | スマートフォン版・紙版 |
航行の安全と新しい漁場
隆起により漁船は浅瀬を避けて大きく迂回する必要があり、海底地図は航行の安全性を高めます。さらに新しく現れた岩場は、新たな漁場や藻場の候補にもなりえます。漁業者からは、未開発の漁場が見つかるかもしれないという期待が聞かれます。

漁港の復旧と創造的復興
隆起した漁港をどう直すか
水産庁の資料では、津波や地盤隆起で漁港施設が損壊し、水面が失われた岸壁が使えなくなったと説明されています。輪島市から珠洲市の外浦海域の漁港では海底が露出した例もあります。水産庁は隆起量を大・中・小の被災パターンに分け、仮復旧と本復旧の典型的な選択肢を示しました。
石川県の2026年3月末時点の資料では、各港で本復旧工事が進んでいる状況が示されています。
「元に戻す」だけではない
石川県は、単に元へ戻すのではなく「水産業の維持・発展」と「漁村の維持・発展」を目指す創造的復興の方針を示しています。海が変わった以上、漁港の機能も漁場の使い方も見直す必要があるからです。
- 隆起量に応じた段階的な仮復旧と本復旧
- 漁業者自身による漁場環境調査への支援
- 新しい海底地形に合わせた航路と係留の再設計
東日本大震災の経験は参考になります。東日本大震災からの漁業復興 と、能登の漁港被害を扱った 能登半島地震で漁港が隆起した もあわせてお読みください。
藻場を取り戻すために
自然の回復を待つ部分と手を貸す部分
新しい岩場には、時間をかけて海藻が着生する可能性があります。一方で、土砂が堆積した場所や食害が重なる場所では、人の手による見守りや環境調整が必要になる場合があります。まず現状を測り、どこから回復が始まっているかを知ることが出発点です。
藻場づくりの基本
- 海底地形と基質(岩か砂か)の把握
- 海藻の着生状況と食害生物のモニタリング
- 条件の良い場所での母藻の設置や基質の整備
- 漁業者と研究者による継続的な記録
藻場再生の一般的な手法は 藻場の再生 で紹介しています。藻場は魚の産卵・育成の場であるだけでなく、炭素を貯めるブルーカーボンの場でもあります(ブルーカーボンとは)。

専門家と地元の連携
輪島では、10年以上にわたり海藻を調べてきた専門家が地元の漁業者と連携しています。震災前の長期記録があることは、回復度合いを比べる上で大きな財産です。
私たちにできること
知る・訪れる・買う
復興は地元だけでは完結しません。現状を正しく知り、能登の海産物を選び、状況が整った地域を訪れることは、漁業者の収入と海の保全意欲を支えます。
- 能登の水産物や海藻製品を購入して漁業を支える
- 復興の状況を公的機関の情報で確認する
- 海の地図など測量データの公開と活用に関心を持つ
- 海岸や川のごみを減らし、海への負荷を抑える
今日からできること
- 能登の海の現状を一つ調べて周囲に伝える
- 地域の産品を選ぶ
- 近くの海や川の清掃活動に参加する
長期の視点を持つ
藻場や生態系の回復は、数年から十年単位の時間軸で進みます。短期の報道だけで判断せず、継続的な調査結果に注目することが大切です。
まとめ
- 地震で海底は最大約5.2m隆起し、豪雨の土砂が被害を重ねた
- 一方で新しい岩場など回復の足がかりも生まれている
- 海の地図が新たな漁場・藻場の候補探しに活用され始めた
- 漁港の復旧と担い手の継承を一体で進めることが里海再生の鍵
参考文献・出典
- nippon.com「能登半島地震と海の地図」 – 隆起量、海の地図の提供状況
- Ocean Newsletter 第593号(笹川平和財団海洋政策研究所) – 日本水路協会による海底変動の解析
- 東京大学 Focus「能登半島地震と隆起」 – 隆起量と海成段丘
- 石川県 水産課 能登半島地震関連 – 漁港の復旧状況
- 水産庁 漁港漁場整備 – 能登半島地震による漁港被害と復旧方針
- 水産庁 – 水産行政の総合情報
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